鬼ごっこ


 どだどだ……、と、大げさなまでの足音が、数名分聞こえてくる。この屋敷は防音完備
なはずじゃなかったのかな、と屋敷の若き主は密かに首を傾げた。それとも、足音の主─
─とりわけ大きい足音の、だ──の怒りがそれほどまでに大きいということか。お待ちく
ださい、とかなりませんとか言う制止の声も聞こえてくる。じゃかあしぃ!と怒鳴ったそ
の声に、主の横に座っていた少年がぴくりと反応した。
「どうやらお迎えが来たようだね」
 ばった〜んっ! 盛大な音を立てて重厚な扉が開け放たれる。
「マコーッッ!」
「チャーリーさん!」
 嬉しそうな声を上げて、少年が顔を輝かせた。
「マコ! てめぇ俺のランディ様に何しくさんじゃあ!」
「言葉が悪いな、チャールズ・ウォン。ランディ様が驚いているよ」
 はっとして闖入者の目が囚われた少年に向けられる。空色の瞳は驚きに丸くなっていた
が、すぐに常と同じ輝きを取り戻した。
「チャーリーさん、来てくれたんですね」
 信頼感丸出しの言葉にチャーリーが思わず感激しそうになる。が、キッと男前二割増の
鋭い眼差しで、少年の隣に悠長に腰を下ろしている幼馴染みを睨みつけた。
「マコやん……、ランディ様を人質にとってこの俺に言うこと聞かそうとはええ根性しと
るやないか……」
「私もこんな手荒な真似はできれば避けたかったのだがね。だけどチャーリー、君が素直
に私の頼みを聞いてくれないのがいけないんだよ」
「あんな頼みが聞けるかボケッ!」
「……ひどいな」
 わざとらしく悲しげに眉を寄せるマックニコルの横で、人質であるはずのランディはお
ろおろと心配そうに視線を動かしている。
「あの、チャーリーさん、あんまりマックニコルさんをいじめないであげてくれませんか?」
 あんまりといえばあんまりな言葉に、チャーリーはいたくショックを受けた。
「ラ、ランディ様……? 何を言うてますのや、いじめとるんは俺やのうてこいつ」
「だってマックニコルさんは、チャーリーさんに会いたい一心で……。それに、俺、最初
捕まったときはびっくりしましたけど、別に痛いこととかひどいことされたわけでもない
し、」
「あああ……、ランディ様甘すぎるで……。──て、それがランディ様のええトコなんや
けどな」
 がっくり脱力しながらも、のろけることは忘れない。ランディが困ったように頬を染め
ながら髪を掴み、隣でマックニコルは呆れたようにため息をついた。
「──さて、チャールズ・ウォン、結局君は僕の頼みを聞く気があるのかい?」
「ない! さっぱりあっさりこれっぽっちもかけらもない!」
「チャーリーさん……」
「そうか、それなら残念だが仕方がない……。人質を返すわけにはいかないな」
 言うなりマックニコルは手元のリモコンをピッと押した。と、二人とチャーリーの間に
仕切りが現れ、同時に二人の座る椅子が床の下に消えていく。
「わわっ!?」
「な……っ!? ランディ様!?」
 慌てて駆け寄ろうとしたチャーリーを、後ろからSPたちが取り押さえる。
「ランディ様はまたしばらく預からせてもらうよ。──今度はいい返事を期待しているよ」
「待たんか〜いっ! マコっ! 俺のランディ様返せぇ〜っっ!!」


「──良いんですか? マックニコルさん」
 かすかに眉を寄せて、ランディが尋ねた。首を傾げるその仕草は、彼を年齢以上に幼く
見せる。
「あなたこそ、良いんですか? 私についてきて。チャーリーのことがなくても、あなた
の身体はあなたひとりのものではないというのに」
「宇宙のことなら、少しくらいは平気です。どうせ今はみんな休暇やオークションで外に
出てるわけだし。──それより、俺はあなたとチャーリーさんが仲直りできるかどうかの
方が気がかりです」
 大まじめに答えるランディに、マックニコルはかすかに口元に笑みを浮かべた。
「仲直り……ねぇ。──別にケンカをしているわけではありませんよ」
 向こうはどうだか知らないけど。
「そうなんですか? う〜ん…………ジュリアス様とクラヴィス様みたいな関係なのかな」
「ジュリアス様とクラヴィス様?」
「ええ、お二人ともとても素晴らしい方なんですけど、どうしてかお互いにだけは態度が
違うんですよね。俺の目から見たらケンカしているようにしか見えないんだけど……リュ
ミエール様はあれがお二人のコミュニケーションだっておっしゃってて……」
「──あなたは、とても恵まれた環境で育ってきたようですね」
「え?」
「いろんな方に愛されて育ったのですね、と、言ったのですよ」
「あ……。俺、もしかして、あなたを傷つけるようなこと言いました? あの、俺、時々
自分でも気づかないうちにそういうことがあるみたいで、傷つけるって言うか、ゼフェル
が言うには自分の物差しだけで物事を考えるなって……」
 良いながら自分でも混乱してきたらしく、ランディは手を挙げて栗色のくせ毛をくしゃ
りと掴んだ。
「ふっ……、かわいい人ですね。チャーリーが惹かれるのもわかる気がするな」
「え? ──ええ、ちょ、マックニコルさん??」
 顔を上げ、思いのほか近くにあった顔に驚き、ランディは思わず身を仰け反らせた。く
すっと笑って頬に伸ばしかけた手を離すと、マックニコルはくるりと背を向け立ち上がっ
た。
「冗談ですよ。あなたに手を出したら、それこそ本当に絶交されてしまいますからね」
「チャーリーさんもムキになってると思いますけど……、マックニコルさんも、ちょっと
意地が悪いですよ……」
 拗ねたように告げるランディを笑ってかわし、マックニコルはふと窓の外に目を向けた。
「ああ、そろそろ着くようですよ。次の遊び場に」



                                    fin.
   



こめんと(byひろな)     2001.8.13

遊王子に突然送りつけたランディ&チャーリー&マックニコルさん(笑)。──これは、なに?ランチャー?チャーラン?(笑) 書いた本人にもわかりません(爆)。王子が言うにはチャーランだそうですが。……まあ、確かにこのランディはちょっと受けクサい(苦笑)。
これを王子に送るに至るには、ちょいと理由があったりしたのですが、まあそれはともかく、王子がなんだか最近チャーリー&マコやんにモエモエならしく、私も色塗りさせていただいたこともあり、……つまりはちょっとマコちゃんを書いてみたくなってしまったのですよ(笑)。でもね〜、書いてみてわかった。やばいよこの人、一歩間違うとセイランと同じ運命を辿ります、私の中で。っていうかもうすでにその片鱗が。絶対アレでしょ、好きな子いじめて気を引くタイプでしょ!(断言・笑) かわいそうなチャーリー。──っつーかマジチャーリー哀れですよ、ランディ様(笑)。チャーさんあなたを助けに来てくれたのに(笑)
しかし次の遊び場ってなんでしょね、鬼ごっこの次はかくれんぼか?(爆)



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