還るところ    


「ああ、何か久しぶりに大騒ぎしたって感じだな」
 満天の星が瞬く夜空に両手を伸ばし、晴れ晴れとした表情でランディが呟いた。
 隣を歩くマルセルが、くすりと笑って首を傾げる。
「うん、そうだね。すっごい久しぶり。前は毎日こんなふうに騒いでたよね、それでジュ
リアス様に叱られたりして」
 ね、と後ろを振り向くと、二人の後ろに少し離れ、頭の後ろに手を組んで歩いていたゼ
フェルが、そうだなと相づちを打った。
「それが今ではあのランディ野郎が筆頭守護聖様でよ、昔の自分棚に上げてガキどもに注
意してんだから、笑っちまうよな」
「でも、それも今日までだよ」
 ランディの言葉が、静かな夜風のように通り過ぎた。
「……うん、」
「……ああ、そうだな」
 星々の下、黙ったまま歩みを進めながら、三人はそれぞれ今まで過ごしてきた日々に思
いを馳せていた。
「──なんか、まだ実感湧かないな」
 沈黙を破ったのは、ランディだった。
「以前ほどじゃないけど、まだ風のサクリアも、みんなのも感じられるし。──それが当
たり前だから、サクリアを感じられなくなるなんて、考えられないよ」
 マルセルが見上げたランディの横顔は、少し困ったような笑みを浮かべている。声をか
けようとして、しかし言葉を思いつかずマルセルはただその横顔を見守った。
「外ではどうだか知んねーけどよ、オレたち自身にとっては、ここで過ごした時間より、
ここに来る前、外でフツーに暮らした時間の方が長いはずなんだ。なのに、なんか最初っ
からずっとここにいたような気がする。それが、おめぇがいなくなって……、そんなん─
─やっぱ想像つかねーな……」
 言いたいことを表せる言葉が見つからず、ゼフェルは銀の光を返す髪を掻き回した。
「うん……。今まで何度も守護聖交代を見てきたよね。その人がいなくなって、さみしく
思うけどだんだん慣れて、それが日常になって……。でも僕、ランディがいないことに慣
れてる自分なんて、想像できないし、したくないよ……」
 ランディは特別だもの、マルセルの言葉にゼフェルが混ぜっ返した。久しぶりに見たふ
くれっ面に、ランディが笑い声を立てる。
「だって、やっぱり特別だよ。ランディとゼフェルがいたから、さみしさを感じずにいら
れたし、つらいことがあっても乗り越えられたんだ」
 かすかに眉を寄せて訴えるマルセルに、ランディが穏やかな笑みを浮かべる。
「うん。俺も、それまで半人前のみそっかすだったのが、ゼフェルが来てマルセルが来て
……、その頃からやっと、自分らしい守護聖らしさとか、日々の過ごし方とか、わかって
きた気がするな」
「…………まぁ、な。毎日ケンカしたりバカやったり、執務の合間に遊んでんだか遊びの
合間に執務してんだかって感じだったけど、あれはあれで楽しかったよな」
 守護聖である自覚はあっても宇宙を導く責任はまだなく、自分たちと同じ力を持つ先人
が注いだ恩恵の上に成り立つ緑の草原を走り回る時間がすべてだった。やがて立場が変わ
り、取っ組み合いをしたり己の未熟さに泣き喚くことがなくなっても、この高台の、聖地
を見渡せる丘で下草と一緒に風に吹かれていると、新しく前に進む力を得られる気がした。
「忘れないよ」
 強い言葉が、託宣のように夜を打つ。
「忘れないよ。この風の匂いも星々のきらめきも、太陽の眩しさも。色とりどりの花壇の
花や、機械油の匂いのする地下室や、滝の飛沫や岩肌の感触や、ここで出会ったものすべ
て、俺は絶対に忘れない」
 振り向いた迷いのない瞳が、マルセルを見、ゼフェルを見、天を仰いで微笑んだ。
「──ったりめぇだ。忘れたりしたら、ぶん殴ってでも思い出させてやる」
「じゃあ僕は泣いてみようかな。僕のこと忘れるなんてひどいよー、って」
「ええっ……!? どっちも遠慮したいな……」
 あり得ない話をして、三人は顔を見合わせて笑った。
「さあ、そろそろ帰ろう。明日三人揃って寝不足の顔してるわけにはいかないからな」
 いつの間にか止まってしまっていた歩みを促す。
 三人はまた黙ったまま歩き始めたが、それは先ほどとは違う、穏やかな静けさだった。
 黙ったまま歩みを続け、やがて、それぞれの家へと向かう岐路に辿り着く。
「じゃあ、おやすみ。また明日」
 また明日。
 三人でこの挨拶を交わすのはこれで最後だ。
 歩き始めた三人を撫でるように、やわらかな風が通り抜けた。



                                        fin.


こめんと(by ひろな)          2002.3.22

ラン誕企画第二弾、は、今年の目標(?)「オトナランディを書く!」ということで、──ナゼか突然、ランディ様退任のお話(^^;)。
ホントにどうして。
このお話、先月2月11日にあったアンジェオンリーイベント【権力ハニー】の後のオフ会という名のカラオケの室内で、例によって(?)書き始めたお話でした。ですが結局書き終わらず(書き始めるのが遅かったこともあり)、しばらくそのままになっていて、先日ようやく書き上がったのです。たぶんね、アンジェイベントに参加するのはこれで最後なんだな……という感慨が、こんなお話を書かせたのだろうと思います。
守護聖の退任を書いたのは、これが初めて。これまでにも、ジュリ様退任後の話や、ライ(前・鋼の守護聖。オフィシャル認定)の話も書いたけど、まさに退任を迎えんとする守護聖様の話は、初めてです。それがまさかランディ様になるとは……(^^;)。

私、お子様三人組ってホントに好きで、大好きで。ランゼやランマルやゼフェマルといったカップリングベースの三人組よりも、単純に友達の三人の方が、たぶん好きです。その方が自然な気がする、なんて、基本がBL書きな私が言えた台詞ではありませんが(^^;)。でもこの三人の絆って、かなりのものだと思うんですよね。なので、この三人には、誰かが退任しても(十中八九、ランディ様が最初)、ずっと仲間で、友達でいて欲しいと想うのです。
それは同時に、アンジェのオフラインを離れる私とも、これからも仲良くしてくださいね、という、私の願いでもあります。──もうすでにアンジェイベントが恋しくなってたりするんですが(苦笑)。どうしようかな、舞い戻っちゃおうかな、なんて。でもあんなに胃に穴開きそうなほど悩んで迷って出した結論なのにそれはどうだよ、と思うのも確か。ああ、誰か私と一緒にアンジェや遙かで活動してもイイと言ってくださる方がいるのなら話は別なのですが(優柔不断め……)。

ランディたちの還るところは、やわらかな風の吹く聖地の草原。私の還るところは、きっと彼等の笑顔が待つあの聖なる地。──そういえば、桃源郷、って、つまりは聖地のことなんだよな、と思った、ある春の日の出来事でした。


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