シアワセ アリカ
     幸福の在処


 鋼の守護聖ゼフェル。
 野良猫のような瞳をした少年に、セイランは一目で惹かれた。けれど、檻に入れられ餌
を与えられ、彼は狩りの仕方を忘れてしまったようだった。
 他の者から見れば、彼はまだ聖地に馴染みきらない、いつまでも野良猫のままのように
見えるのだろう。けれどセイランにはわかった。本当の彼は、もっと鋭い目をしているは
ずだと。
 彼の方でも、何か自分と近いものを、セイランに感じたようだった。けれど、それ以上
は近寄ってこない。まるで、また捨てられるのを恐れるかのように。
 一線を引いて周囲に接する二人が、二人だけで話をすることはほとんどなかった。より
正確に言うならば、ゼフェルはセイランと、いや誰かと二人きりになるのを避けているよ
うだった。
 それなりに長い時を聖地で過ごせば、周りの噂は嫌でも耳に入る。鋼の守護聖の交代劇
も、工業惑星の、スラムの生活も。
 二人きりになるのを恐れる。必要以上に触れられるのを嫌がる。
 セイランには、その理由が、もうほとんどわかっていた。


 試験終了を間近に控えたある日、セイランはゼフェルを自室に招いた。
 警戒を示す彼に、あなたにぜひ見せたいものがあるんだ、とだけ告げて。
 セイランの真意を探るように目をじっと見つめ、しばらくして、ゼフェルはぽつりと承
諾の返事をした。
「へえ……、ここがおめーの部屋か……。結構広いんだな……」
 生活感のない部屋を見回して、ゼフェルは感心したように呟いた。
「見せたかったのはこの部屋だよ。どうぞ」
「すっ、げ……」
 開かれた扉の奥の部屋を覗き込んで、ゼフェルが目を瞠る。
 セイランのアトリエ。彼の心が溢れる部屋。彼の、想いが、形を成す部屋。
「驚いた?」
「ああ……。──へへっ、すげーじゃん。イイなこの部屋、気に入ったぜ」
 鼻をこすって笑うゼフェルは、無邪気さの中に、野性を取り戻し始めていた。


 床に直に座り込み、長くも短くも思える懐かしい日々に思いを馳せる。
「ねえゼフェル様」
 会話がふと途切れた一瞬の隙間に、セイランの言葉が落ちた。
「ん?」
 何とはなしに隣を向いて、ゼフェルがはっと目を瞠る。そのままセイランから目を離せ
ずにいると、紅い唇がかすかに動いて言葉を紡いだ。
「僕はあの時からずっと、ずっと……」
 一瞬言葉を切り、紅い宝石のような瞳を見つめて。
 初めてあなたを目にした時から。ずっと。
「あなたが好きだったんだ」
 そして唇が重ねられる。唇を割って入り込んできた舌に、ゼフェルは自然に応えていた。
「ん……っあ……」
 絡め合った舌が離れ、銀色の糸が名残を惜しむように二人をつなぐ。
「セイラン……ッ!」
 ゼフェルの眉間がクッとつまり、紅い瞳がきらめく。と同時にセイランの肩は捉えられ、
床に押し倒されていた。驚くセイランの悲鳴を飲み込むように、ゼフェルの唇が押しあて
られる。
「んん……っ」
 息苦しさに、手を握り返す指先に力がこもる。ようやくセイランを解放し、荒い息をつ
いて、どこか陶然とした表情のセイランに気づいてゼフェルははっと身体を離した。
「あっ……、悪ぃ、オレ……」
「ゼフェル様……?」
 顔を背けたゼフェルの腕を、セイランは咄嗟に掴んでいた。
「続けてよゼフェル様! お願い、続けて……。──僕のこと、少しは受け入れてくれる
つもりだったんでしょう?」
 セイランの言葉にはっと目を瞠り、しかしゼフェルは再び眉を寄せ顔を背ける。
「ダメだ、セイラン。──オレは、オレじゃおまえを幸せにできない……ッ」
「どうして……」
 頑なに顔を背けるゼフェルに、セイランはキッと眉をつり上げた。
「わからないよ! あなたが守護聖だから? 男だから!? そんなことのために、あな
たは人を愛することから逃げるの!? あなたはそんな人じゃあないでしょうっ!? 宇
宙のため、人々のためって、こんなところに押し込められて、人を愛することもできない
なんて、──そんなの悲しすぎるよ!!」
 叫んで服を脱ぎ捨てる。
「抱いてよ」
 挑むように、セイランは告げた。激した感情を持て余して潤んだ瞳で。
「僕の愛に応えて。──自分の意志で!」
 自分の、意志……。
 無理矢理奪われ、無理矢理与えられることに、いつの間に慣れてしまったのか。
 いつの間に、封じ込めてしまったのだろう。欲しいものを欲しいと言う、欲しいと望む、
その欲望を。
 ゼフェルの手がすっと動き、セイランに触れた。そして力強く、裸の肩を引き寄せる。
「本当に、……いいんだな?」
 低く押し殺した、威嚇するような声で。セイランを抱きしめたその腕もかすかに震えて
いるようで、セイランは幼い子をあやすように、ゼフェルの背中に手を回していた。


「ん……っ、あ……はぁっ」
 濡れた音と熱い息遣いが部屋に響く。忙しなく手を動かし、息を荒げ、互いの肌を汗を、
確かめるように手で舌で辿る。
「……っ、セイ、ラ……ッ、イッて……っ」
 身体の線を辿るように、セイランの手が舌が、ゆっくりと下に降りていく。痛みを訴え
るゼフェルに、セイランは怪訝そうに顔を上げた。汗の滲む額の下、宝石のような赤い瞳
    スガ
がぐっと眇められている。
「痛いって……、──ここ!?」
 ふと思い至り目を下に向けると、ゼフェルの情熱は、今にもはちきれんばかりに膨れ上
がり、熱い雫をこぼして引き攣るように震えていた。そっと手を触れると逃げるようにび
くりと震え、さらに蜜を滴らせる。
「嬉しい……」
 紅潮したセイランの頬に、笑みが浮かんだ。顔を近づけると、かすかにかかる息さえつ
らいのか、ゼフェルの喉から押し殺した声が漏れる。
「こんな……はちきれそうなほど、感じてくれてるんだ」
 汗ばんだ手が、床の上でぴくりと揺れた。
「すぐ楽にしてあげる」
 囁きざま、セイランは目の前の情熱を口の中に迎え入れた。突然の刺激に跳ね上がるよ
うに揺れる熱の塊を、あやすように口の中に取り込み舌を絡ませる。
「ん……っ」
 舌を動かすたびにくちゃりと濡れた音が響く。ゼフェルの脚がびくりと震え、炎の吐息
が吐き出される。
「くっ……、セ、ラン……。──おまえっ、不思議な、ヤツだ……。オレ、が……あっ…
…こんなん、なっちま……っ」
 なんで、こんなに。こんな風に。
 コイツも……男なのに。
「不思議でも何でもないよ。愛があれば、当たり前のことさ」
 囁きに応えるように揺れる熱に、愛しさが募る。先端のくびれを舌先で撫で、深く銜え
込み口全体で扱く。口の中の熱を受けて、セイランの身体もまた高まっていく。
「くっ、セイラン……ッ、もっ……」
 切羽詰まった声に、セイランは口の中の情熱を引き抜いた。濡れて光る先端を見つめ、
ゼフェルの顔を見つめ、汗の伝う頬に手を伸ばす。
「ごめん、ゼフェル様。もう少しだけ我慢して」
 顔を寄せ、唇が触れ合うくらい近くで。
        ダ
「──僕の中で射精して」
 ゼフェルの腰を跨ぐように脚を開き、熱く濡れた情熱を手で掴む。自らの秘腔に先端を
あてがうと、セイランはそのまま腰を沈めた。
「あ……っ」
 熱い内壁の感触に、思わずゼフェルが呻く。セイランもきつく目を閉じ、最初の衝撃を
やり過ごした。
「はぁ……っ」
 吐息を漏らし、つながった部分を確かめるように、セイランがゆっくりと動き始める。
「セ……ラン……」
「もっと、呼んで……っ、ゼフェ……アッ!」
 ぐっと腰を掴まれ、セイランが悲鳴を上げた。反射的に逃げを打つ身体を押さえ、褐色
の腕がセイランを揺さぶる。腰の動きに合わせてセイランの情熱がゼフェルの腹部に擦れ、
先端から溢れた雫が下腹を濡らした。
「セイ、ラン……セイラン……ッッ!」
「ぅあッ! やっ……あ・はっ……んっ、ふぁっ……」
「くっ……」
 力の入らない腕を必死に伸ばし、褐色の、滑らかな背にすがりつく。
「あっ、ゼ・フェ……ッ。──んっ・あっ……ぁんっ、やぅっ……ひあっ!」
 揺さぶられ、突き上げられて、セイランはがくがくと身体を震わせた。唇を閉じる間も
なくひっきりなしに甘い嬌声があがり、薄く開いた目の端には官能の涙が溜まっている。
「ん……っふ・う、んぁっ……あ、ゼ、……ぃやっあ……っ! ゃあっ、あっ」
「く……ッ、セイラン……ッ!」
「ゃあっ! もっ……ッ!!」
 髪を振り乱し、セイランが叫んだ。仰け反って硬直した身体が、ゼフェルをさらに締め
付ける。下腹にセイランの欲望が吐き出されるのを感じると同時に、ゼフェルも自らの欲
望をセイランの中へと吐き出していた。
「はぁ……」
 二人の溜め息が空気に溶ける。ぐったりともたれてきたセイランを受け止めて、汗の浮
いた背中をそっと撫でた。
「ぅん……」
 鼻にかかった声をあげて、セイランがかすかに身じろぎをした。汗ばんだ白い背中を抱
いたまま床に背を倒すと、ゆっくりとセイランの中からゼフェルの情熱が抜き出される。
その感覚にセイランは再び身を震わせた。
 二人、身体を重ねて。無言で時を過ごし、鼓動が鎮まりゆくのを感じる。わずかな倦怠
感と、溢れそうな満足感とが、二人を、部屋を包み込んでいた。
「ゼフェル様……」
 やがて、あたたかな微睡みの気配を感じながら、セイランが口を開いた。
「ぅん……?」
 目を閉じたまま、ゼフェルが答える。
「あなたが僕を幸せにできないなんて、やっぱりウソだよ」
 顔をわずかに動かし、肩に唇を寄せて。
「あなたじゃないと、僕は幸せになれない」
 たとえ、また離れる運命だろうと。
 今あなたがそばにいれば。
 僕はちっともさみしくなんかないから──。
「へっ、ばーか、それはオレのセリフだ……」
 夢うつつの微睡みの中、ゼフェルの声が、聞こえた気がした。


                                    fin.

   



こめんと(byひろな)     2001.5.19

緋色れーいちさんの漫画『Punch drunk babies』ネタの、蒼月リッヒ〜(笑)にあげたゼフェセイバージョン(ランセイバージョンはランディBLコーナーにあります)。
──こっちの方が、エッチシーンはモトに忠実です(笑)。
ほんとはもうちょっと、ランセイと表現を少しずつ変えたかったんですが、途中でめんどくさくなって(爆)。しかしこれを書いたことにより、私の中でのランセイとゼフェセイの差が明確になりました。てか、改めて再確認。
やっぱりうちのランディは自分からエッチを持ちかけるタイプではないようです。言うなれば、“誘われ攻め”?(笑)。なのでセイちゃん主導になりますが、このゼフェセイでは、仕掛けたのはセイランだけど、結局ゼフェルがセイランを翻弄(笑)。
ゼフェセイの、この二人は、比較的対等な関係、という感じですね。あ、セイゼフェでもそうかな?
ところでこれ、もしCDドラマになったら(ならないって(^^;))、岩永てっちゃんはちゃんとフィニッシュまで喘いでくださるでしょうか?(爆)──石田さんならきっとやってくれると思うケドさ(^^;)


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