「んっ……ふ、ぅっ……く、……」
 自分の身体を中心にして、部屋の温度が上がっていく。頭の片隅でそんなことを思いな
がら、ゼフェルは声が洩れるのを必死に抑えていた。
 うすく目を開けると、視界の隅を時折青紫の髪が横切る。セイランの、髪だ。思うと同
時に受けた愛撫に身体がまた熱を増す。
 セイランは、ゼフェルの胸ばかりを執拗に攻めた。指先で、爪で、唇で舌で歯で。時折
すっと肩や脇腹を撫でられ背を反らせると、その背を捉えてまた唇が胸の頂に触れる。痛
いくらいに尖って充血した胸の飾りを、舐め尽くして溶かしてしまうつもりではないかと
思うほど、セイランは上半身ばかりにこだわった。人の手の温もりを求めてゼフェルが腰
をひねっても、そちらを見ようともしない。
「くっ、そ……っ、んっ……は・ぁ……っ」
「──何か、言いたそうだね」
 硬質な声が、ふいに問いを投げかける。熱を持って潤んだ瞳で睨むと、セイランは薄い
唇を笑みの形に歪めた。
「そんな顔をしてもだめだよ。何かして欲しいことがあるなら、ちゃんと口で言ってくれ
ないと。この憎たらしい、かわいらしい口で」
 そろえた人差し指と中指とで、唇の合わせを辿る。押し込まれた指を、絡め取ろうとす
る舌から逃げるような動きで口の中を掻き回す。息苦しさに首を振りもがいてやっと抜か
れた指先からは、蜘蛛の糸のように、銀色の雫が光を放った。
 膝に触れた手に、足先が正直な反応を返す。片足を立たされたゼフェルの淡い期待をた
しなめるように、膝の内側にセイランは歯を立てた。
「ッつ……、何、すんだよっ……」
「綺麗な脚だね。食いちぎってやりたいくらいだ」
 舌先が、脚の内側のやわらかな肉を辿る。付け根にほど近いところで、セイランはまた
ゼフェルの脚を噛んだ。
「っあ……ッ!」
「ふぅん、こんなことされても感じるんだ? よほど敏感なのか、そういう素質があるの
か、…………ティムカにしつけられたのかな」
「な、っに……」
 ティムカの名を出されて反応を返したゼフェルを無視して、セイランは自らの指を唾液
で濡らした。察して息を吸ったゼフェルの足の付け根に、指先を潜り込ませる。
「いっ、つッ……」
 受け入れ慣れてるとは言え、何の愛撫もない上に唾液で軽く濡らしただけではやはり挿
入は無理ならしい。諦めて指を抜くと、セイランはその指をゼフェルの熱の先へと這わせ
た。
「っは……っ」
 突然の刺激に、日に灼けた細身の身体が反り返る。一通り弄んで滲んだ雫を指に絡め、
再び侵入を試みる。
「イッ……! つ、ぁ……セイラン、痛ぇっ……」
 悲鳴に構わず、セイランは二本の指をすべて押し込んだ。
「痛い? ……嘘つき。あなたの中は、こんなに僕の指を歓迎してくれているのに」
 強く内壁を掻き回され、ゼフェルが哭いた。
「──ほら、」
 セイランの言葉の通り、熱い収縮はセイランの指をより奥深くへ取り込もうと動くもの
で、拒んでいるようには思えない。
「いやらしい身体だ……。ティムカはどういう風にあなたを抱いたの」
「ティムカは……っ、カンケーねーだろっ」
「あるよ」
 鋭い否定を即座に返して、冷たい湖の色をした瞳が光を増した。
「ティムカは、あなたの“初めての人”だからね」
「な……っ」
「ねぇゼフェル様、ティムカはどんな風にこの身体に触れたのかな。礼儀正しいあの子の
ことだから、国王陛下らしく、優しく丁寧に礼節を保って? それとも案外と嗜虐趣味が
あったりするのかな。あなたは彼の愛撫に素直に応えてた? もっと、って泣いて強請っ
たの? それとも口では嫌だと言いながら悦んで銜えこむの──今僕に犯されているみた
いに」
「っ……いいかげんにしろよてめェ!!」
 次々と譫言のように繰り出される言葉に、ゼフェルがついに切れた。怒鳴った拍子にセ
イランの指を銜えさせられた部分が引き攣れて痛んだが、そんなことに構っている場合で
はない。
「セイラン、てめーふざけんなよ」
 首を掴んで引き寄せる。
「ティムカはカンケーねーだろ。過去にオレがどこで誰と何をしてよーがカンケーねーだ
ろ。何で今オレがここにいんだよ、それがわかりゃそんだけでいいだろ」
 セイランが投げつける氷のナイフ。それで傷つくのは、ゼフェルでもティムカでもない、
セイラン自身だ。
「オレはおまえと向き合うって決めたんだ、だからここにだって来たんだよ。なのになん
でおめーが逃げんだよ。──あの時なんで声かけたんだよ。オレを引き留めたのもここに
誘ったのもおまえだろ、一度しかないチャンスだってわかってたんだろ。おまえがオレと
向き合う気ないなら、ホントにオレは帰るぜ」
 逃げたければ逃げればいい。そう傲岸に告げながら、紅い瞳は溶岩のような強さで訴え
かけてくる。逃げることなど許さないと。──セイランが逃げられないことを、逃げたい
と思ってなどいないことを、知っているのだ。
「あなたは…………」
 セイランは、言葉を失い眉を寄せた。強く目を閉じて腕を伸ばし、背中を抱きしめる。
ゼフェルの中にあった指は抜かれ、同じ強さで腰を抱いた。きつく締め付け、額を押しつ
ける。
「このまま……、あなたを握りつぶしてやりたい……」
 セイランの慟哭を、ゼフェルは黙って受け止めた。先刻から何度となくセイランの口に
のぼった、ゼフェルを傷つけ破壊したいという言葉。セイランの言いたいことは……、何
となくわかる。
「──そばにいるって、言ってんだろ」
 頭をゆるく抱いて、ぽつりと呟くように告げた。はっとしたセイランの腕がゆるみ、圧
迫された肺に新鮮な空気が入り込んでくる。
「ゼフェル様……」
 憑き物が落ちたかのような表情は、過去に何度か見た、彼が自分の価値観を破られ新鮮
な驚きと感動を味わっているときのものに、よく似ていた。
 小さくため息をついて、髪を掻き上げる。その口元に浮かぶ笑みは皮肉と優しさに満ち
て、久しぶりに見るその微笑みに、ゼフェルは言い知れぬ安堵を覚えた。
「そうだったね……。僕を新しい場所へと導いてくれるのはいつだって……、ゼフェル様、
あなただったんだ」
 湖水のようにきらめく瞳がゼフェルを見つめる。
「ゼフェル様、あなたを独り占めしたいよ。僕だけのものにしたい」
「──してんだろ」
「!? ──へぇ……、そうなんだ?」
 軽く目を瞠った、瞳をきらめかせてゼフェルを覗き込む。さすがに恥ずかしくなって顔
を背けると、くすり、セイランの笑う気配がした。
「ああ、なんだかとても晴れやかな気分だ。今死ねたら間違いなく天国に行けるだろうね」
「おめーの行き先は地獄だろ」
「ふふっ、そうしたらゼフェル様、そのときはあなたも一緒だよ。そばにいてくれるんで
しょう?」
「────勝手に連れてけ」
 投げやりな返事にまたセイランが笑った。突然鎖骨に口づけられて、ゼフェルが目を瞠
る。
「一緒に地獄に行く前に、今から天国に達かせてあげる。もちろん僕も一緒にね」
 甘い微笑みとともに、初めての優しいキスがゼフェルを包んだ。



                                    fin.
  



こめんと(byひろな)     2001.7.16

ふひー。疲れた。←第一声がそれかい。
皆さんお疲れさまでした。……読むの疲れたでしょ? 書く方はもっと疲れましたよ(爆)。
これは我が愛しき相棒・蒼月リヒトくんのお誕生日のために書かされた(笑)お話です。コトの発端は約半年前、ひろなのお誕生日祝いにリヒトが描いてくれた花束ランディのイラストを見て激モエして「も〜っ、リヒトのお誕生日には何でも好きなの書いてあげるっvv」とか言ってしまったこと……。そしてリヒトから来たリクは、「セイゼ&ティムゼ。スタートはどうでもいいけど結局ラストでゼフェルはセイランとくっつく。んで、両方とも赤星(Hアリ)」
────そ、それって……(^^;)
と、言うことで、できたのがこのお話。「ティムカかわいそう、セイランやなヤツ!」と言いながら書いてました(笑)。トロワティムカ、ついついブラックな言動思いついてしまうんですが、攻めセイがどうあがいてもやなヤツになるんで(笑)その対比を考えて、今回ティムカちんはいい人です。てゆーかいい人過ぎてかわいそうだぞ、と。セイランもいつにもましてヤなヤツになってます(笑)。てかおまえわがまますぎ、大人げなさすぎ。
Hシーンも対比を考え、ティムゼではかなりあからさまな誘い受けになりました。不安に駆られて……ってのが、ちょっと切なっぽくてドキドキ(ばか)。そんでセイゼはセイラン言葉攻め……ってか、鬼畜攻め?(爆)セイゼフェらぶらぶエッチは、あなたの心の中で好きなだけ、思う存分に展開させてくださいませ。おれにはもう書く気力はねっす。てゆうかもうすでに食傷気味(^^;)。
個人的に気に入っているのは、実はティムゼの別れのシーンだったり。絵的にね、ドラマティックな感じにできたかな、と、思うのですが。
まあ、何はともあれ、今度はティムカが幸せな話を書くぞ、と。そんでしばらくセイランは書かないぞ、──と思ったけど人様に書く約束してる話で一つセイラン主役なヤツがあったや(^^;)


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