恋をこえたい


 森の中、木漏れ日に手をかざして、マルセルは目を細めた。
「まぶし……」
 ランディみたいだ。きらきらして、まぶしくて、きれいで……。
 朝、鏡で見た自分の姿を思い浮かべる。
 最近、よく、大人っぽくなったと言われる。きれいになったとも。
 あまり、うれしくない。こういうのは、大人っぽくなったのではなく、子供でなくなっ
たと言うのだ。
 けれど、そんな自分にランディがどきどきしていることがあるのを知っている。それが
きっかけで、ランディが自分をそういう目で見てくれるようになればいい。そう思うから、
その時だけはうれしくて……、後で倍の自己嫌悪だ。
 ランディへの恋心を自覚した頃から、急に背が伸び始めた。顔つきも、ずいぶん変わっ
たように思う。追いつこうとしているのだ、4才の差を埋めるために、身体が文字通り背
伸びをしている。
「ランディ」
 それは、守護聖になってまだ日の浅い、半人前のマルセルが、誰よりも強くなれる魔法
の言葉。
「すき」
 その言葉は、ランディに対して使うときだけ特別だ。ケーキが好き、花が好き、陛下が
好き、それらはマルセルの心をあたたかい幸せで満たす。けれど、ランディが好き、は、
あたたかくもあるけれど、それより少し熱くて、少し痛い。
「ほんとうは、良くないことだって、わかってるんだ……」
 ランディはきっと、マルセルが好きだと、ためらいなく言えるだろう。聖地に来たばか
りで心細かったマルセルを慰め励ましてくれた、あの時と同じように。ランディにとって、
自分はきっと、故郷に置いてきた妹と同じようなものなのだ。
 瞼を閉じて、ゆっくりと息を吸い、マルセルは細く長くため息をついた。


「マルセル! 息抜きに散歩に行こうと思うんだけど、マルセルも一緒に行かないか?」
「ほんとっ!? うん、行くっ!」
 子供の無邪気さで応える言葉の裏には、子供では終われない秘密の思いがある。
「──今日さ、朝からすっごい良い天気だったろ? 俺もう、ずっと出かけたくてうずう
ずしててさ」
 栗色のくせ毛を風に遊ばせて、開放感に満ちた横顔が告げる。
「うん、ランディ、外好きだもんね」
「ああ! やっぱ外は気持ちいいよ! ──執務室、外に作れないかな?」
「書類とか、風で飛んでっちゃうよ。それに雨の日はどうするのさ」
「雨の日は、しょうがないから部屋の中だな。あ、ガラス張りの屋根でもいいな」
「ふふっ、ランディったら……」
 声を立てて笑うその顔の、もっといろいろな表情を見たいと思う。──自分にだけ見せ
る表情があればいいと、思う。
「──ランディ? 寝ちゃったの?」
 草原に寝っ転がって話すうち、いつの間にか静かになった隣に、マルセルは身を起こし
た。
「……ランディ?」
 返事はない。覗き込んだ寝顔は、いつもより少し幼く見えて。
 マルセルは、しばらくためらった後、そっとランディに唇を寄せた。
「ランディ、──いつかぼくが、君を守るよ。ぼくが、君の笑顔を守るから、ぼく、強く
なるから……」
 そっと囁くマルセルの髪が、やわらかな風に吹かれて肩を滑り落ちた。
                                         おしまい

こめんと・ばい・ひろな  2001.1.29
うわははは。
マルセル×ランディ、です。っつーかマル→ラン。
またの名を、『トロワでマルちゃん急成長の真相(仮説その2)』(笑)←2、なのか!?
ふっと浮かんでしまった。
でもランディはあくまでもランディで。
ちょっと男の子な感じのマルを書いてみたかったのですよ。




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