爪痕「はっ……っあ……」 わずかに照明を落とした部屋には、短い、切れ切れの息遣いだけが聞こえていた。 「うっ……」 息を吐く音と呻きに似た声に、時折、粘り気のある水音が交じる。 「気持ちいい……?」 問いかけに返るのは、荒い息と、かすかな背中の震え。 「ランディ、気持ちいい……?」 満足げに目を眇めて、オリヴィエは再び同じ問いを口にする。 「……ふっ……、ぅあッ! ……っん……」 くっと指先が曲げられ、しなやかな身体がびくりと揺れた。 白いシーツに肘と膝をついた形で、ランディは握りしめたシーツに顔を伏せている。汗ばんだ脚は軽く開かれ、滑らかな肌を滴り落ちる雫を遡ると、背後に座るオリヴィエに向けて差し出された形良い双丘に辿りつく。 つけ爪をはずした手が触れるその中心には、長い指が二本埋め込まれ、抜き差しを繰り返していた。 「ランディ……?」 指の動きは止めずに、オリヴィエが名前を呼ぶ。元より答えが返るとは思っていない。 「つっ……。んっく……っ」 つらそうに眉を引き歪ませて、ランディは懸命にその感覚を堪えている。自然と揺れ動く腰を、必死に押し留めようとしている。 オリヴィエの口端が、わずかに持ち上げられた。 「……んっ、──あ……?」 気づいてランディが疑問の声を上げる。 「え……、オリ、ヴィ……っアッ!」 呼びかけは途中で悲鳴に変わった。 永遠に続くかと思われた、緩やかな指の動きがふいに止まったのだ。そして、今度は内壁を押し広げるような、内部を探るような動きに変わる。 「あんたのイイトコ、探してあげる」 指先から逃げるように、オリヴィエを強請るように、腰が揺らめく。 「くっ、……ぁ、ちょ……っと、オリヴィエさま……っ」 「もっと気持ちよくしてあげるよ。だから、じっとしてて」 「そん……っ、──んっ……」 腰を支える手の力をわずかに強めて、オリヴィエの指が、ランディの内部を暴いてゆく。 「っは……ッ!!!?」 その場所を押された瞬間、ランディは身体を震わせ背を仰け反らせていた。同時に手足を突っ張らせたと思ったのが、逆に力が抜け、崩れ落ちるようにシーツに肩を着く。 「ここ……?」 オリヴィエの声と共に、再びその場所を指先で引っかかれる。反射的に逃げを打った身体は捉えられ、腰を抱え込まれて、確信に満ちた指先がそこを突いた。 「や……っ! あっ、やめ…っ、……ぅんっ……」 そこを指先が通るたびに、脚から力が抜けていく。背すじを電流の速さで駆け抜ける衝撃が快感であることを、何度目かの衝撃で、ランディは自覚した。力の入らない身体が、自分の意志とは切り離されたところで快感を受け止めて震える。逃げているのか、求めているのか、わからなくなる。 「んっ……、ぅあっ、やっ……! ぁ、ひっ…ぅ……」 「ランディ、そんな暴れないで」 そう言いつつも、オリヴィエの指は的確にそこを刺激し続け、徐々に強さを増していく。 「はっ、や……っああっ、そっ……」 耳まで赤く染めて、ランディが激しく頭を振った。 「いいよ、イッて」 オリヴィエの声にも、荒い息が交じる。 「……っぅ、あっ……──や、だ……っ」 「──何、もっと欲しいの?」 「っ、ちがっ…! アッ……!」 さらに引き寄せられた身体を強く疲れて背が仰け反り、上に向いた顔からは叫びが上がる。 咆吼を上げて地を駆ける獣を押さえ込んでいるようだ。オリヴィエの唇が苦笑にも似た形に歪んだ。 「もう、つらいでしょう。さっきから零れてるよ……」 オリヴィエの言葉通り、先走りの雫がランディの先端から滴りシーツを濡らしている。 「くっ、……あ…っ……」 「そんなに感じる? そんなに気持ちイイ? すごいイイ顔してる……」 震えた背中を汗が伝い落ち、シーツを握る手に力がこもる。 「ランディ……」 囁いて、汗を舐め取るように背を辿り、覆い被さる。自然、指の侵入が深くなり、密着した身体が震えたのがわかった。 熱を持った耳朶に口づける。 「ランディ、……好きだよ」 白い体液を迸らせて、獣は力を失った。 くずおれて荒く息をつく身体を、オリヴィエはそっと反転させた。 「ん……」 仰向けになって息がしやすくなったのだろう、呼吸が深く大きいものになる。それに合わせて動く胸を見ながら、放り出された二本の脚の間に身体を入れた。 「う……? ──んっ」 脚の内側に手のひらを滑らせる。びくりと揺れて逃げる脚を追うと、抗議の声が上がった。 「ちょ、っと……っ、なにっ……ッ!」 「ん〜、だってアンタの脚って気持ちいいんだもん」 「だって、って……っ」 言い募ろうとするランディを、オリヴィエの手が阻む。 「あんただって、ココ、触られるの気持ちいいでしょ?」 脚を撫でる手はそのままに、身体を重ねて顔を覗き込む。 「……ねぇ」 言葉では返らない答えを確認するように、胸の尖りを舌先でなぞる。先刻から勃ち上がったままのそこは、オリヴィエの舌に素直に応え、固さを増した。 「ほら……」 満足げに笑って唇を離し、今度は指先で、そこを弄ぶ。 「──素直でイイね」 カッと頬を染めて横を向いたランディに、オリヴィエはさらに楽しそうに口端を引き上げた。 「これで、口でも言ってくれるようになったらもっとイイのに」 「──っ、そんな、こと……っ」 「ふふっ、ウソ、冗談。──わかってるよ……」 ランディが素直に快感を口にすることなどありえないだろう。だがわざわざ口に出して伝えてくれなくても、これだけ正直な反応を見せてくれれば充分だ。 いつまでも、初めて抱かれる少女のように恥じらいと戸惑いを残しながら、それでもランディの身体は、肌を重ねる毎に、オリヴィエの前に開かれていく。 「うっ……」 手で舌での愛撫がゆっくりと下に降りていく。濃い栗色の眉が、軽く寄せられ、腰のあたりに投げ出された手が、シーツに爪を立てる。 ふとその手が目に留まり、オリヴィエは脇腹を辿っていた舌を外して筋の浮いた手の甲をぺろっと舐めた。 「っ!? なっ、に……?」 「シーツ、穴開きそうだよ」 冗談めかして言いながら、跳ね上がった手を捉え、音を立てて口づけて、身体を起こす。 片脚を立たせるように持ち上げると、一瞬内側に力がこもり、躊躇うように少しずつ、力が抜けていった。 ローションを絡め、二本の指先を潜り込ませる。 「ぅん……っ、──あ……っ?」 いつもなら怯えて拒絶の動きを見せるそこは、オリヴィエの指を進んで迎え入れ、さらに奥へと導くように蠢いた。ランディも、自分の身体が返す反応が違うとわかるのだろう、戸惑いの声が零れる。 二三度抜き差しをされただけで、もう、身体の奥が熱い。背骨が灼けて、溶けて流れるようなあの感覚が、じわじわとランディの中に広がっていく。 「ふふ、気持ち良さそうな顔……」 呟くオリヴィエの指先が、ランディの内部を突いた。跳ね上がった身体を抱きしめて、仰け反った喉から鎖骨にかけての稜線を舌で辿る。 「あっ……は、なん……」 「何で? ──さっき、ココでイったでしょ。だから敏感になってるんだよ……」 台詞と同時にそこを擦る指に、ランディが身を捩る。 軽く舌を絡めるキスをして、オリヴィエが上体を起こし、指を抜いた。立てた脚の膝裏に触れる手に、未だに慣れない、衝撃への怯えで脚が揺れる。 「大丈夫だよ……気持ち良くしてあげるから……」 微笑んで、オリヴィエは身体を進めた。 「ふっ……」 ランディは、ともすれば詰まりそうになる息を意識して吐いた。 入口を大きく押し開かれる感覚。そしてそのまま押し入ってくる、熱い脈動。 「ぅ、あっ……、──ぁあっ……!?」 身体を貫いた感覚に、ランディは目を見開いた。額に張りつく髪を払ってオリヴィエが微笑む。そんなかすかな感触にすら、身体が震えそうになる。 「ほら、ね」 いつもなら。挿入の瞬間の痛みは必ずあって。しばらくは快感よりも異物感が先に立つのに。 自分の呼吸に合わせてそこがかすかに動く。内部に埋め込まれたオリヴィエの熱がわかる。 少しでも、動いたら……。 ランディの瞳が揺れたのを見て、オリヴィエは脚を支えた手を動かした。 「っ、待っ……、──ッア!」 制止の声を聞かず、オリヴィエは脚を抱え直して腰を揺らした。肘で支えた上体が仰け反り、細身ながらに筋肉のついた腕が震えている。 「……ぅっ、……ん・く……っ」 歯を食いしばって声を殺すランディをたしなめるように、オリヴィエはわざとそこを狙って突き上げた。開かれた口から鋭い悲鳴が洩れる。 「ダメだよ、歯が弱くなっちゃう。噛みたいなら、ほら、私の腕でも肩でも噛んでイイから」 ランディの両腕を取って背に回させると、ランディは首を振ってそれを拒んだ。 「そん、なの……っ」 「……強情だねえ」 とりあえず諦めて、動きを再開する。シーツを何度も掴み直し、背中を震わせて、それでもランディは必死に声を抑えようとしている。 「くっ…うぅ……っ」 低く、獣の唸るような声が洩れ、しなやかな肢体を汗が伝い落ちる。 「イイね。キレイだ……素敵だよ……」 落ちてくる髪を、汗を拭うついでに掻き上げて、オリヴィエはもう一度脚を抱え直し、腰を引き寄せた。ぴくりと浮いた背とシーツの隙間に手を差し入れて、持ち上げながら前後に揺らす。 「くっ・あっ……! ──っは、あ・っぁ……っ」 ゆっくりと背中が反り、手足の指が、シーツを掴む。 オリヴィエを咥えた部分の痙攣が、ランディの限界が近いことをオリヴィエに伝える。オリヴィエ自身も、先ほどから時折苦しげに眉を寄せて、迫り来る感覚を堪えていた。 「ランディ……」 荒い息の合間に名前を呼び、もう一度、その腕を取って肩にかけさせる。拒もうとした瞬間の突き上げに、小さく叫んでランディがしがみついてきた。そのまま激しくなる律動に、ランディの腕は、オリヴィエの身体を突っぱねるような引き留めるような動きを見せる。 「あっ……んう……っ」 シーツと同じ感覚で爪を立てかけた指が、はっと気づいてそのまま止まった。 「イイよ。しがみついて。ひっかいても、噛みついても」 首を振ってランディが呻く。 「ホントに、強情だねえ。──そんなに良さそうな顔してるのに」 伸び上がるようにして耳元で囁くと、びくりと全身が揺れ、締め付けが増す。ふたり同時に息を詰め、短く吐息を吐き出した。 「でも……はぁ、──私も限界。あんたん中でイかせて」 「は……っ、アッ、……くあ……ッ」 オリヴィエの肩を掴んだ腕に額を押し付け、ランディが喘ぐ。律動に合わせて揺れる身体は汗に光り、腰を挟み込んでいた脚が、オリヴィエをもっと引き寄せるように絡みつく。 「ふっ……イイよ……」 耳を掠めた息にランディが叫びかけ、開いた口をそのままオリヴィエの肩──そこを掴む自分の手に押し付けて塞いだ。 「うう゛……っん……っ!!」 腰を撫でられ身を震わせた拍子に、オリヴィエの先端がそこを突いた。肩口から顔を離してランディが仰け反る。声なき叫びと同時に内部が痙攣し、触れられぬままに勃ち上がり蜜を零していたランディの情熱が弾けた。ほぼ時を同じくして、オリヴィエも想いを解き放つ。 シーツの海に沈み込んだランディと、そのまま動かないオリヴィエの熱い息遣いだけが、部屋に響いていた。 「────まったく、バカだねぇ……」 やがて少し息が落ち着くと、オリヴィエは力無く投げ出されたランディの手を取った。 小さく音を立てて口づけられたその甲には、くっきりはっきり、綺麗な歯形がついている。 「自分に噛みついて何が楽しいのさ。どうせなら、私の肩でも腕でも背中でも、噛みつくなりひっかくなりしてくれればいいのに」 「だって……っ。──それより! オリヴィエ様、もう離れてくださいよっ……」 このままでは、中のオリヴィエが気になってしまって、おちおち話もしていられない。 「あんたの中、気持ちいいのに……。まだ動いてる、すごくイイよ」 赤い顔で睨まれて、オリヴィエは苦笑しつつ身体を離した。 「はいはい。──で? 何がどう『だって』?」 「う゛……」 「ランディ」 伸びてきた腕に、髪を掻き上げる途中で頭を押さえられ、顔を背けることも出来なくなってしまう。──所詮、ランディのやりそうなことなど、たいていオリヴィエにはお見通しなのだ。 「──っそんな、あなたの綺麗な身体に、傷なんて付けられませんよ……」 降参したランディが、顔を真っ赤にして白状した。 本当は。なりふり構わずその背にしがみついて、髪を掴み爪を立ててしまいたいと思ったことなんて数え切れないくらいにある。けれど、美しい髪を肌を大切にしている彼にそんなことをするなんて、──たとえ本人が良いと言っても──出来るわけがない。 「そんなの……。──ふふっ、あんたが夢中になってしがみついたおかげで付いた傷なら大歓迎だよ☆」 大方予想はしていた答えに、しかしランディはさらに顔を赤くした。 「──っっっ、それにっ!」 キッと目に力を込めて。まだ熱の名残のある空色の瞳がオリヴィエを睨む。 「あんな肩の出てる服を毎日着てる人に、そんなこと出来るわけないでしょうっ!!」 一瞬、表情を無くしてオリヴィエが黙り込んだ。そして、ぷっと吹き出すなり大声で笑い出す。 「アッハハハ! ──やっだ、ランディ、あんたかわいすぎ……っ」 「──オリヴィエさまっ!!」 「なにランディ、あんた私の執務室から見えるトコに痕つけないようにって気ぃ遣ってくれてるの?」 「──っっ」 「肩くらいテキトーにショールかけちゃえばわかんないって」 「そーゆー問題じゃ、」 「それとも、そんな夢中にさせられてるって思われるのが恥ずかしいのかなぁ?」 「ちが……っ」 「気に入らないねぇ」 「──へ?」 がしっと肩を掴まれ、ランディは困惑した。 「ランディ、あんた、私としてるときにそんなこと考えられる余裕あるんだ」 「ぇ、え?」 そんな余裕があるわけない。だからこそ必死なのに。 突如として“絡みモード”発動してしまったオリヴィエには、通用しそうもない。寝起きのオリヴィエと、酔ったりしてこの“絡みモード”になっているときのオリヴィエには、滅多なことを言ったりやったりしない方が身のためだと、ランディは経験上知っている。──いずれにせよロクなことになりはしないのだ。 「ふ〜う〜〜ん……。──だったらそんなコト考えてるヒマ無くなるくらいにしてあげようじゃないの」 「え? ちょっ……ええっ!?」 オリヴィエの意図を(珍しく)悟り、身を捻って逃げだそうとしたランディの肩を、オリヴィエはさらに強く掴んだ。 「ねえランディ、もう一回しよっ♪」 「──っ、なっ……」 「んねっ?」 「ね、って、だってついさっき」 「さっきはさっき、今は今!」 「そんな……っ、んっ、──っちょ、ちょっと待ってくださいってば!」 オリヴィエの腕を振り解いて俯せに身を返したランディを、背中から羽交い締めにする。 「いーでしょ、あんただってまだ元気そーじゃない」 「そ……っおいう問題じゃ」 「いーの、そーゆー問題なの!」 ぐいと身体を起こし、胸の中に抱え込むと、観念したのかランディの抵抗が緩んだ。 「そんなぁ……」 「あんた体力あるからね、抱き甲斐があるよ」 満足げに微笑むオリヴィエの手が、ランディの身体を探り始める。 「ちょっ……と、オリヴィエ様、待っ……アッ!」 ふいに腰骨を掴まれて、ランディの脚がびくりと跳ねた。もう片方の手で顎を捉えて、唇の合わせに親指を差し入れ、耳の後ろに舌を這わせる。 「んっ……」 「もう待てないよ。今すぐあんたが欲しいんだ……」 腰と唇に触れた手はそのままに、わざと耳の中に吹き込むようにオリヴィエが囁く。首をすくめたランディの髪が、ぱさりとオリヴィエの頬を撫でた。 耳が弱いのを知っていて、さらにその声に弱いのを知っていてわざとそうするオリヴィエに、ランディが悔しそうに眉を寄せる。口内を優しく犯す指や、腰を緩やかに撫でる手のひらに、収まりかけていた熱を煽られる。思うつぼだ、思っても、止められない。 「はっ……、あ…」 「ランディ」 「っ、……オリヴィエ様、耳っ……」 ランディが首を振ると、ぱさぱさとやわらかな髪が頬を打つ。濃い青の瞳が眇められ、濡れた舌が唇を舐めた。 「耳? ────ああ、……ゾクゾクする…?」 「っッ……!!」 ことさら声を低くした囁きに、オリヴィエの腕の中でもがく身体がびくりと硬直した。 腰を抱いた手を前に回し、口の中を弄んでいた指は、喉を通って胸の尖りを摘む。 「ァッ……」 「あんたもその気になってきてるね……。ほら……」 手を止めようと動かした腕は逆に捉えられ、オリヴィエの言うとおり熱を形に変え始めているその場所に導かれてしまった。 「は……ぁっ、っん」 上から手を押さえられ、自らの熱を扱かされる。 背中に感じるオリヴィエの身体の熱さが、またランディの熱を増長していく。 やがて二人は、熱い吐息の支配する時へと、再びその身を沈めていった。 fin. |
こめんと・ばい・ひろな 2007.03.18 えー、大変お久しぶりの、隠しページ更新です。 ていうかアンジェ更新自体……むしろこのサイト自体の更新が久しぶりっぽく(^^;)。 そんなこんなでオリランです。夢風です。ランディくん、がっつりオリヴィエ様に喰われてマス(爆)。 実はこれ、数年前に書いたのをすっかり忘れてたってヤツなんですが(^^;)。 せっかく発掘して打ち込みしたので、今更ですが、UPしてみました。 ランディのお誕生日10日前プレゼント、ってかんじ? (こんなのがプレゼントになるか!とか思っても言ってはイケマセン……) |