やどり木


 しん、と凍る気配に肌を撫でられ、ランディは目を覚ました。起きあがり、窓の外を見
やって、一人歓声を上げ窓に駆け寄る。
「うっ……わあっ、すごいな!」
 外の景色は一面の銀世界、とまではいかないが、あちこちに雪が降り積もっていた。
 聖地はもともと一定の気候が保たれている。けれど新しい女王はイベント好きで、
「だってもうすぐクリスマスなのよ? クリスマスっていったら、やっぱり寒い中友達や
好きな人と手をつないで礼拝堂に行って、帰り道の夜空を楽しむものでしょうっ?」
 と、周囲を丸め込んで(?)この数日間だけ冬にしてしまったのだ。女王候補の頃から
何かと面白いことを思いつく子だとは思っていたが、女王になってからもそれは相変わら
ず──というより、実際にそれを行える力を身につけてしまったせいか、その破天荒な言
動に磨きがかかっているような気さえする。
「ジュリアス様やロザリアは大変そうだけど……」
 呟いて、ランディは木の枝にやってきた小鳥に微笑みかけた。
「やっぱり、俺も雪は好きだもんな!」
 服を着替え、いつもと同じように外へと飛び出していった。


「──雪、溶けちゃったね」
 残念そうに呟いて、マルセルは窓の外を見やった。
「べっつにいーじゃねーか。しかしよー、きっとこの寒さで風邪ひいたヤツいっぱいいる
ぜ。ここのヤツらは皆平和ボケしてっからよ」
「そうかな、そんなに寒いとは思わないけどな。俺のいたとこはもう少し寒かったよ。─
─同じ主星でも、スモルニィのある街よりも北に位置していたからね」
 高い位置から、ランディの声が降ってくる。はしごの上、ランディは座り込んで本棚の
最上段に手を伸ばしていた。
 ゼフェル、次これな。埃のついた本を3冊、胸の中に落とされゼフェルはげほごほと咳
き込んだ。
「てめ……っ、ホコリが立つだろ、もーちっとそっと置けよ! ──ったく、なんでオレ
らが書庫の整理なんかしねーとなんねーんだよ……」
「ゼーフェール、文句ばっかり言わないの! 元はといえばゼフェルが言い出したことで
しょう? これが終わったら、ルヴァ様がおいしいお茶を入れてくださるって。ね、だか
らがんばろう?」
「一日やそこらじゃぜってー終わんねーって……」
「だからってさぼってたらもっと終わらないだろう? ルヴァ様のためだと思ってがんば
ればいいじゃないか。なっ!?」
「てっめっ……! フザケたコト言ってンじゃねーぞ!」
 顔を赤くしてぎゃんぎゃんわめき立てるゼフェルにさわやかな笑い声を返して、ランディ
は次の本を取ろうと本棚の中を見た。
 ──パタン
 1冊だけ、ランディに見つけられるのを待っていたかのようなタイミングで倒れた本が
ある。ひかれるままに手に取り、パラパラとページをめくって、あるページでランディの
手が止まった。
「おい、ランディ! てめーこそ読めねー本読んでる場合じゃねーだろ、早くしろよ」
「あ、──うん、ごめん。──はい」
 いつもなら口喧嘩に発展するだろうセリフを聞き咎めることもせず、ランディは本を閉
じてゼフェルに手渡した。


「ただいま。お花さんたち、元気にしてた?」
 邸に帰り、マルセルは温室の花たちに話しかけた。
「今朝はね、外は雪が降ったんだよ。とってもキレイだったけど、君たちは暖かいところ
じゃないと咲けないからね」
 ひとつひとつ、声をかけつつ丁寧に手入れをして、自室に戻る。
 名残惜しげに窓の外を見たすみれ色の瞳が、丸く見開かれた。
「なに……? これ、カード?」
 窓の隙間に、カードが挟まっている。誰かが外から差し込んだのだろうか。
「ランディかなぁ……?」
 呟きながら、けれど彼がそんなことをする理由が思いつかずに首をひねる。カードを開
いて現れた文字は手書きではなく、余計に差出人がわからない。
   ── 今夜 樫の木の下で ──
「樫の木って……、湖のある森の、あの樫の木……?」
 マルセルは再び首を傾げた。

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