Power of Smile

──written by 紫月@LightLabyrinth






 そんな笑顔は知らなかった。
 ただ、心からの笑顔。純粋で、暖かくて。そして照れ臭くて。

 いつも自分の周りにあったのは、自分に取り入ろうという媚びを含んだ笑い。気難しい芸術家に気に入られようという、追従の笑み。内心良く思っていないくせに、まわりが評価するから仕方なく形作られた、目は笑っていない顔。

 見るたび、うんざりとした。そんな顔を平気で向けてくる人間が、不快だった。そして、それは悪循環を生んだ。ご機嫌斜めの気まぐれな芸術家にどうにかしてよく思われようと、人々は更に気味悪く微笑んだ。まるで、型抜きで作った仮面をつけたように。それらは一律で、見るべき価値もなくて、唾棄すべきものだった。

 彼の笑顔は、それらとは全く違った。何の下心もなく、ひたすら真っ直ぐで。柔らかな光を湛えた青い瞳が、妙に心地よかった。そのくせひどく気恥ずかしく思えて、手ひどい言葉を投げつけて、視線を反らせた。

 それなのに。

 翌日、彼はまた自分に笑いかけた。前日と全く変わらぬ、純粋さで。きっと昨日のは何かの間違いだったのだ。気のせいか、それか見間違いか。そう思っていた。けれど、そのどちらでもなかった。だから、戸惑った。

 そして、自分はその笑顔を受け取る方法を知らなかった。何とか笑い返した顔は、ひきつっていたに違いない。けれど彼はそれが嬉しかったのか、更に眩い笑顔を見せた。それが、目の奥で熱かった。


 毎日、毎日。彼は、その笑顔で自分に接してきた。いつのまにか、それを楽しみにしている自分がいることに気がついた。そして、その笑顔が自分だけに向けられていることにも――。

 ある日。何故、そんな風に微笑みかけるのか。そう問うと、彼は少し頬を赤らめながら、けれど真っ直ぐな眼差しでこう答えた。

 「俺、あなたが好きだから……」

 その言葉に自分は驚かなかった。多分、どこかで彼の想いに気づいていたから。だから、自然と受け入れていた。その時の彼の鮮やかな笑顔は、まだ胸に焼き付いている。





 「セイランさん!!」
 遠くから、呼ぶ声がした。その、子供のような声に苦笑しながら顔をあげる。風の守護聖ランディは、手をぶんぶんと振りながら走ってくる。その笑顔に、見蕩れた。

 「……何を嬉しそうに見てたんですか?」
 その、見られていた当の相手が、そう聞いた。セイランは、目を細めて喉の奥で小さく笑った。

 「ランディ様、あなたの笑顔を。……恐ろしい力がある笑顔を」
 「お、お、俺の笑顔に恐ろしい力があるんですか!?」

 ぎょっとして目を丸くしたまま絶句しているランディを見て、セイランは声を出してクツクツと笑った。視界の端で、鮮やかに青い髪がゆらゆらと揺れた。どうやら彼は、気づいてもいなかったらしい。ひねくれていた心を真っ直ぐにし、笑顔を受け取る術を思い出させ、自分の気持ちに素直になることを教えてくれたというのに。

 「そう、僕を夢中にさせて虜にする、恐ろしい力がね。おかげで、もうあなたのことしか考えられない」
 「え!?」

 少しして、ようやくランディは言葉の意味を理解したようだった。強張っていた顔が、ぱっと変化する。

 セイランに向けられた笑顔は、まるで真昼の太陽のように眩しかった。




<END>

さんくすめっせーじ(by ひろな)

うっ……わあ〜///
や〜んらんでぃさま〜〜vv──というのが、最初の感想(笑)。もう、最初の2行でノックアウトのくらくらです。
ランディ様の鮮やかな笑顔…………うっとり……。
あ、これは【LightLabyrinth〜光迷宮〜】の紫月さんが、「ジュリ様が絡まないのでうちに置けないんです〜。もらってください」と言ってくださったので、もうもう、渡りに船でも馬でもエアバイクでも!(爆)って感じで一も二もなくもらってしまったのでした。えへへ♪
しかもちょうど、なぜかふと閃いたランセイ(セイラン様お誕生日創作……いつの話だよ・笑)を書いていたときだったので、すごすぎるタイミング。しかもしかもッ!やっぱりセイランさんがランディに惹かれるポイントの一つは笑顔よね〜ってなトコが、もう。あうあう(笑)。 ランセイは、読むのはけっこう好きだけど、書くのは苦手ですね。セイラン……(まだ言ってる・笑)
紫月さん、ホントにどうもありがとうございました♪


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