そんなキスからはじめよう

──written by 蒼月リヒト@オレ様至上主義



「な、おめー、オリヴィエのこと好きなわけ?」
 唐突に訊ねられ、ランディはぽんっと赤くなる。にやにやと返事を待っているのはゼフェ
ルだ。
「い、いきなりなんてこと聞くんだよっ、ゼフェルッ!!そっ、そんな・・・・好き、だ
なんて・・・」
 これだけ動揺が全面に出ていれば誰が見てもわかるだろーが・・・とゼフェルは思った
が、それは口には出さない。ランディの口から言わせたいのだ。
「なぁ、あいつのどこがいいわけ?」
 ランディは栗色のクセのある前髪をくしゃりと掴む。これは困ったときや照れたときの
ランディの癖だ。
「ど、どこって・・・すごく気配りのできる人だし・・・・キレイで、カッコよくって・
・・・そんな、説明できないよ!」
 十分説明になっていることにランディは気づいていない。
「――――重症だな、おめー・・・。でよ、なんか行動したりとかって思わねーの?」
 思ってもみなかった言葉にランディはゼフェルの顔をじっと見つめかえした。
「だってヤリてーとか思うだろ?男としてはよ。」
 そんなことは、とランディはますます赤くなる。考えたことがないと言ったら嘘になる
が、それでもただ見つめていられればいいとそう思っていた。それに――――
「でも・・・・ッ!オリヴィエ様は男だぞ?!!」
「ヤロー同士だって、ヤれる方法あんだろ?」
 わかってんだろ、とゼフェルはニヤリと笑う。
「・・・・!!その・・・ゼフェルも・・・・セイランさんと・・・?」
 ランディは純粋に未知の世界を知りたくて訊ねたのだが、ゼフェルの痛いところをつい
たらしい。ゼフェルの頬がうすく染まる。
「なっ・・・!!オレのことはどーでもいいんだよ!てめーのことだけ考えてやがれっ!!」
「でも・・・」
 気になるのか、ひく様子のないランディにゼフェルは追いつめられてしまった。
「うっせーな!!オレ、もう行くぜっ!!」
 吐き捨てるように言うとゼフェルはその場から立ち去ろうとする。
「ゼフェル・・・!!」
「んだよ。まだ何か用かよ。」
 もともとはゼフェルから話しかけてきたのだが。
「そのっ・・・オリヴィエ様のことっ・・・誰にも言わないでくれよな。」
(・・・・言わなくたってばれてるっつーの・・・・)
「はいはい、わかったって。せいぜい頑張れよな。」
 もういいから、と言わんばかりに手をひらひらさせてゼフェルは庭園の方へと歩いていっ
た。


(くそっ・・・まさかランディ野郎が知ってやがるとはな・・・)
 セイランとのことを指摘され、不覚にも動揺してしまった自分をちょっと責める。
 何か面白い仕返しをしてやらないときがすまない。良い考えはないものかとフラリとゼ
フェルは庭園の中を歩いていった。
「―――――ゼフェル様?」
 少し鼻にかかったテノールのやわらかな声。群青色の髪を風に嬲らせて近づいてきたの
は当のセイランだった。
「セ、セイランッ!?どーしたんだよ、こんなところで。」
 必要以上に驚くゼフェルにセイランはその澄んだ淡いブルーの瞳をかるく見開く。
「僕の気まぐれはいつものことだと思うけど?ゼフェル様こそ、こんな所でどうしたのさ。
何だか顔も赤いしね。何か後ろめたいことでもあるのかな?」
 不意にのばされた手がゼフェルの頬を包んだ。
「おめーッ、こんなところで・・・っ!!」
「大丈夫だよ。さすがにキスしたりはしないからさ。」
 無意識のうちに身構えてしまったゼフェルは心の内を見透かされさらに赤くなる。
 そんなゼフェルの様子を見てセイランがくすりと笑った。
「そんなに過剰反応するってことは誰かに何か言われたのかな?」
「う・・・っ。」
「人がなんて言おうと関係ないでしょう。ま、それでいちいち動揺してしまうところがあ
なたのかわいいところだけどね。・・・で?」
 こうなるとセイランはひかない。猫とウサギでは肉食動物の猫に軍配が上がるのだ。
 仕方なくゼフェルは先ほどのランディとの会話を説明する。
「ふぅん・・・ランディ様、ね。なんだかんだいって仲がいいみたいだからね。」
 ちょっと拗ねた風にセイランが言う。
「何、おめーヤキモチ焼いてんの?」
「別に。」
 形勢逆転。もう少しからかってやろうかと思ったところに声がかかった。
 独特のイントネーションに張りのある声。日の曜日に露店を出している商人ことチャー
リーだ。
「いよっ、お二人サン。今日も仲がよろしいようでけっこうですなぁ。面白い品モンが入っ
たばかりなんですわ。ちょろっとだけ、見てきまへんか〜?」
 チャーリーが扱う品物には本当に変わったものが多い。出所不明の怪しいものもたまに
あるが、好奇心旺盛なゼフェルはよく世話になっていた。
「んだよ。おもしれーモンって。」
 くだらないことだったら承知しない、とばかりにぶっきらぼうに訊ねる。
「よくぞ聞いてくださいました!本日のオススメはなんといってもコレ!ですわ。限定品
でっせ?」
 そう言ってチャーリーが取り出したのは透明の小さなビンだった。中には黒っぽい液体
がなみなみと入っている。
「コーラ・・・?に見えるけど。僕には。」
 セイランがぼそり、と呟いた。
「ふっふっふ〜。そうですやろ?でも違うんですわ。」
 耳かしてんか〜、とちょいちょいと手招きして、チャーリーはセイランとゼフェルを側
にこさせる。
 そのままキョロキョロと辺りを見回すとぼそぼそっとチャーリーは2人に囁いた。
「あぁ?!!自白剤〜〜〜っ!?おめー、そんなもん売っていいのかよ!!」
「シ―――――ッ!!ゼフェル様、声が大きいですわ。けど、ただの自白剤じゃあらへん
で〜。普通は聞かれたことにほいほい答えてしまうもんやけど、これは自分がいっちばん
気にかかってることを白状してしまいますんや。し・か・も、行動まで起こしてまうおま
け付き♪もう買うしかおまへんやろ?こうてんか〜。」
 それは犯罪じゃないかとチャーリーをじ〜っと見つめていると、あわててチャーリーは
付け足す。
「いや、せやけど効果の持続時間はめっちゃ短いんですわ。せいぜい1〜2時間くらいで。」
 セイランはくだらない、といった表情で見ていたがゼフェルの反応は違った。
「よし、買ったぜ、チャーリー。代金はツケ、な。」
 そう言うと小瓶をひったくるようにチャーリーの手から奪う。
「そんな殺生な・・・と言いたいとこなんやけど、他ならぬゼフェル様のお願いや、断れ
ませんわ。」
「サンキュな。」
 ゼフェルはチャーリーから怪しげな小瓶を手に入れると庭園をあとにした。
「だけど・・・一体何に使うつもり?そんなもの。」
 ゼフェルの後をついてきたセイランは呆れたように訊ねる。
「おめー、このビン見てさっき何ていったけ?コーラ、だろ?」
 面白いことを見つけた、とゼフェルは不敵な笑みを浮かべた。
「・・・・ランディ様、かい?」
「ちょーっとおもしれーことになりそうな気がすんだよな。」
 セイランはふうとため息をつく。
「ちょっとくらいの悪戯なら僕も嫌いじゃないけどさ、これはちょっとやりすぎなんじゃ
ない?どうしてもやるなら僕は傍観者という立場をとらせてもらうよ。」
「何いってんだよ。もうこのこと知ってる時点で共犯者だって。」
「どうしてそうなるのさっ!」
「考えてみろって。そうだろ・・・?」
 一瞬の沈黙。やがてセイランはいらだつようにその頭をかきむしる。
「あぁっ!もう!!わかったよっ!!」
 はなはだ不本意ながら認めざるをえない。
 だが、陰からコソコソ覗き見するような気も起きず、セイランは学芸館へと帰ってしまっ
た。
 仕方なくゼフェルは一人でランディの執務室へと向かい、『こんな甘ったるいもん飲め
ねーから』とかなんとかいって、例の小瓶を押しつけてきた。
 ランディは人を疑うことを知らない。すぐに例の小瓶に口をつけたのだろう。そうそう
に執務室から出てくるのがわかった。
 一見したところ、遠目には普段と変わった様子はない。
 首を傾げながらも、ゼフェルはランディがオリヴィエの執務室に向かうのを確認してか
ら自分の執務室へと踵をかえした。
 さすがにそこまで見届けようとするほど『悪趣味』ではなかったらしい。


 オリヴィエの執務室には都合の良いことに他に人はおらずオリヴィエだけだった。人前
には出さないだけでオリヴィエはやることはしっかりやっている。今も、執務に真剣に取
り組んでいるところだった。
 ドアをノックする音が聞こえ、そのままガチャリとドアが開く音がする。
 手を止めて顔を上げると、そこに見えたのは日頃可愛がっている空色の瞳を持つ少年だっ
た。いつも真っ直ぐなこの少年が成長していく様を見るのがオリヴィエの楽しみにもなっ
ていた。
 オリヴィエは椅子から立ちあがるとぐるりと机をまわって執務机に寄りかかる。
「あら、少年。いったいどうしたっていうのさ?こんな時間に。」
「オリヴィエ・・・様・・・」
 ぱっと見になんだか様子がおかしいのにオリヴィエはすぐ気づいた。何というか、その
瞳にいつもと違う熱が感じられる。そして時々痛みをこらえるように顔をしかめたりして
いる。
「ラン・・・ディ・・・?」
 不審に思いオリヴィエはランディに近づくと顔をのぞき込んだ。
 その刹那、オリヴィエは腕を掴まれて壁にダンッと押さえつけられる。
 だてにオスカーと稽古を重ねているわけではないらしい。すごい力だ。オリヴィエは突
然のことに声も出ない。
 見上げてくるランディの瞳が魂を射抜く。強い男の貌をオリヴィエへと向けてくる。
「オリヴィエ様。・・・俺、あなたが好きです。ずっと―――――」
 オリヴィエをしっかり押さえたまま、ランディは口唇をオリヴィエのそれへと押しつけ
た。じきに口づけは深く激しいものへと変わっていく。
「・・・ぅんッ!!」
 絡まる舌からランディのストレートな思いが熱く伝わってくる。このまま理性すらも絡
めとられてしまいそうで。
 ランディの手がゆるく波うつパッションブロンドにさしいれられ、そのまま首筋、鎖骨
と指が辿る。
 ふれあう布越しにも、ランディの熱くなった高ぶりを感じる。
 非常にマズイ。そう思った次の瞬間―――――ランディにはとても悪いと思ったのだが
―――――オリヴィエはランディの鳩尾にひざ蹴りを食らわせていた。
「ぐ・・・っ!!」
 その場にランディが崩れ落ちる。
「まったく・・・この子ってば何てキスするのさっ!」
 オリヴィエは肩で荒く息をついた。別にオリヴィエはランディのことが嫌いなわけでは
ない。むしろ好きだから、こういうのは困ってしまう。この少年が、万が一にも恋愛に溺
れることのないように、そのくらいに成長するまでは待とうと、そう思っていたのに。こ
んなことをされては早く手に入れたくなってしまう。自分のものにしてしまいたくなる。
 オリヴィエは気を失っているランディを隣にある休憩室のベッドに運んだ。
 自分も椅子をひっぱってきてその傍らに陣取る。
「ごめんね・・・。でもさ、あのまんまじゃきっとあんたが後悔するからさ・・・」
 栗色の柔らかい髪を梳きながら、意識のないランディに向かって囁いた。
「ほんっとにそのまんまな性格だよね。この子。まいったな・・・」
 オリヴィエは軽くため息をつく。惹かれていたのは自分の方だ。ずっと前から。大人に
なりきらない、このしなやかな生き物に。
「穏やかな顔してくれちゃって、まぁ・・・」
 髪を梳いていた手でそのまま頬を包む。
「これはお返し、だからね・・・」
 自分に言い訳するように呟いて、オリヴィエは眠っているランディの口唇に口づけを落
とした。
「う・・・ん・・・・」
 その小さなキスを合図としたように、ランディがうっすらと目を開く。
「おはよ、少年☆ 気がついたかな?」
「あっ・・・オ、リヴィエ・・・様っ・・・?俺・・・何で・・・夢じゃ・・・」
 夢と現実が交錯する。どこまでが現実なのか、夢なのか、考えあぐねているようだ。
「あのっ!!」
 ガバッとランディが身を起こし顔を上げる。
「夢じゃなかったのなら・・・その・・・ごめんなさいっ!俺、オリヴィエ様に・・・ッ」
 その様子をずっと見ていたオリヴィエが口を開いた。
「ま〜〜〜ったく、たまったもんじゃないよね。あんな情熱的なキスされたらさ☆」
 苦笑しながらも向けられた優しい瞳にランディは躯が熱くなる。
「知ってたよ。」
「えっ?」
「あんたの気持ち。ずっと前から気づいていたのに、気がつかないふりしてた。まいっちゃ
うよね。あんたが大人になるまで我慢しよう、そう思ってたのにさ。」
 グレーがかった青紫色の真剣な眼差しがランディを捉えている。
「それって・・・え・・・?オリ、ヴィエ様・・・ッ?!」
 顔を真っ赤にしているランディのその肩をオリヴィエが引き寄せた。
「―――――好きだよ、ランディ。もうあんた以外のこと考えられないくらいに、さ。」
 息だけの囁きと共に、まるで初めてのキスのように2人の口唇は重ねられた。


――後日談――
「ゼ〜〜〜〜〜フェ〜〜〜〜〜〜ルぅ〜〜〜〜〜〜〜?!!!」
 一瞬ビクッとしてから、『やべぇっ!!』とゼフェルは脱兎のごとく逃げ出す。が、狭
い執務室でのことだ。すぐにつかまってしまった。
「どういうことかしらねぇ〜〜〜?」
 完全にオリヴィエの目はすわっている。

 あのあと。どうしてあんなことをしたのか、ランディからオリヴィエは話を聞きだして
みたのだが。
 ゼフェルしかあり得ないのだ。鍵となる人物は。もちろんとっくにセイランは行方をく
らませている。
 そういうわけでオリヴィエはゼフェルに事情を訊ねるべく、もとい吐かせるべくゼフェ
ルの執務室を訪れたのだ。

「うまくまとまったんならいいじゃねーかっ!!」
「よくな〜〜〜〜いっ!!!!!」
 ゼフェルはオリヴィエを敵に回したことをあとで心底後悔したのだった。


                                  (fin)



あとがき?コメント。 見事にセイゼフェちっくな風夢です。 しかも最初はゼフェランちっく??まぁいいや(爆)。 あなたはもうキリふまないでね・・・(笑)。 ランヴィエ、今度機会があったらもうちょっとまともな話を書いてみたいと思います。


さんくすめっせーじ(by ひろな)     2001.3.9

り〜っひぃ〜〜っっ!! も、ありがと〜う!
セイゼフェ&チャーリーがラン君を煽るとか言うから、どんなんかと思ってたら、こんなんだったのねぇ〜〜!? ウォン総帥、麻薬密売ルートとかも持ってるんすか!?って感じで(爆)
いやはや、楽しませていただきました。
ランディくんたら、“そんなキス”しちゃうのね〜んvv いいな、ヴィエ様。
も〜、この話、ゼヒゼヒマンガで読みたいっすよ! っつーか、読んでて浮かんだもの(笑)。ランディがヴィエ様を襲う(笑)シーンvv ひゃーん、ランディかっこい!!(妄想暴走中)
でも私はマンガが描けん……っつーかただの絵も描けん。
リヒトには「オレにゃムリだ」と“ど”きっぱり言われてしまったし。
──どなたか、描いてくださいませんか?(マジで)



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