「なぁ、おめー、キスってしたことあるか?」 唐突に訊ねたのはゼフェルだった。 土の曜日の夕方。ランディはゼフェルの私邸にいた。ランディはゼフェルが作業をしているのを見るのが好きで、今日も何となく訪ねていってゼフェルの手の動きを見ていたのだけれど。 いきなりそんな予想外の、しかも自分がどちらかといえばあまり得意としない類の話をふられ、ランディは顔を真っ赤にした。 「‥‥なッ!」 言葉を発することのできないランディを、ゼフェルがニヤリと笑う。 「へーえ。やっぱりなぁ。‥‥おめー、キスしたことねーんだろ?」 ランディは言い返せなかった。本当のことだったから。 そんなことを言いながら顔をのぞき込んでくる紅い瞳に、なぜだか心乱されてしまう。 「なぁ‥‥。教えてやろうか?」 一瞬何を言っているのかわからなくって。言われたと同時に柔らかなものが口唇を掠めていた。やや遅れてそれがゼフェルの口唇だったのだと気づく。 ランディは耳から首まで真っ赤になった。 「ゼ、ゼ、ゼフェル‥‥ッ!?」 動揺したランディは口元を覆う。心臓が今にも飛び出してしまいそうだった。ゼフェルはといえば、顔色一つ変えずに平然としている。 「なに?おめー、ホントにしたことなかったの‥‥?」 ゼフェルはきょとんとした表情(カオ)をした。 「だ、だって‥‥!こういうことは本当に好きな人とするものだろっ!?」 「ま、そーだな。」 あっさり返ってきた答えにランディはますます混乱する。 「じゃ、じゃあなんでっ、こんなこと‥‥ッ!」 深くは考えずに。混乱したままの頭で訊ねた質問だった。けれどゼフェルから返ってきた答えは思いがけないもので。 「‥‥おめーのことが好きだからに決まってんじゃん。」 ランディの頭の中にその言葉の意味が浸透するまでたっぷり数十秒を要す。 「‥‥す、好きって‥‥」 いったん赤みの引いた顔を再び赤く染めてランディは目を見開いた。 「そのまんまの意味だけど?おめーもオレのこと好きなのかと思ってたけど‥‥ちげーの?」 自分がゼフェルのことを好きかなんて。考えたこともなかった。だってゼフェルは自分と同じ『男』だから。ランディは必死に頭を回転させる。 ずっとこうやって一緒の時間を過ごしてきて。年齢も近かったから、ケンカも多かったけどいい友達だと思ってた。時折ゼフェルがふっと見せる寂しげな背中に、ゼフェルを抱きしめたい衝動に駆られたことはある。けれど、その想いは友人に対する広義の愛情だと、自分に言い聞かせてきた。 とまどいにランディの空色の瞳は宙を彷徨う。そんなランディを見てゼフェルがクッと短く笑った。 「‥‥じゃあさ。わかるようにしてやるよ。おめーがオレのこと好きだって。」 柔らかな栗色の髪を梳くように、ゼフェルの手のひらがランディの首にまわる。あっと思ったときにはもう再び口づけられていた。軽く触れたあとに、乾いたランディの口唇を濡らすようにゼフェルの舌が口唇の合わせ目をたどる。ぴくりと揺れたランディの、その腰に手を回すとゼフェルは深く舌を滑り込ませた。 「――っ!!?」 明らかにこういったキスを知らないランディをゼフェルは少しずつ導いていく。もともとランディは頭で考えるより身体で覚えていく方だ。しばしの躊躇のあと、少しずつゼフェルの動きに応え始める。躯の中心に小さな火がともり、やがてそれは身を焦がす疼きとなって全身を襲う。 「ん‥‥っ、は・ぁッ」 名残惜しげに口唇を離すと、ゼフェルは真正面からランディの瞳を覗き込んだ。 「‥‥結構うめーじゃん。意外だな。ランディ野郎のクセによ。」 低く囁くような声がランディの躯に生まれつつある疼きに火をつける。 「ゼフェ・ル‥‥」 万感の想いを込めて名を呼ぶランディは目の前にいるゼフェルを強く抱きしめた。思いもしなかった事態にゼフェルの血温が一気にあがる。 「オイッ、ランディ‥‥っ?!」 あわてて引きはがそうとするがランディはびくともしない。ゼフェルは内心舌打ちした。こんな予定ではなかったのに。 「‥‥俺‥‥おかしいかな。ゼフェルに触れたくてたまらないんだ‥‥。」 耳元で囁かれる熱い声に、ゼフェルは腰から崩れ落ちそうになる。そんな様子には欠片も気づかずにランディが首筋に口づけるものだから、ゼフェルはたまったものではない。 「ラン――、」 「ゼフェル‥‥俺、お前のことやっぱり好きみたいだ。‥‥いいかな?」 真剣な眼差しに射抜かれて。ゼフェルは首を小さく縦に振った。 「ぅ、ん‥‥っ、痛ッ‥!」 かすかに身じろぎをすると、全身を鈍い痛みが走る。 「‥‥あ、ゼフェル、気がついたかい?」 うっすらと頬を染めて、優しげな眼差しで自分を見つめるランディがそこにいた。一瞬にして眠りに落ちるまでのことをゼフェルは思い出す。 ちょっとからかってやろうと思ってランディにからんだ。もちろん、ランディのことは好きだったけれど。主導権を渡すつもりなんて、これっぽっちもなかったのに。気がついたら――――ランディの腕の中にいた。 無理な体勢を強いられたせいか体中が軋むように痛い。ゼフェルはその身を起こそうとして顔を顰めた。 「大‥丈夫‥‥?俺、その‥‥あんなこと初めてだったから‥‥ごめん。」 赤くなって詫びるランディに、ゼフェルはランディをいじめてやりたい衝動に駆られる。 「まったくだぜ。いてーし、はえーし‥‥」 顔も上げられないといった風なランディをゼフェルはちらりと盗み見るとそのまま続けた。 「‥‥なんかしてもらわねーと割にあわねーな。」 何を言われるのかと、不安げにランディはゼフェルを上目遣いに見つめる。 「オイ、目ぇつぶれ。」 乱暴な言葉にぎゅっとランディはその目を閉じた。 すると。 ぶっきらぼうな口調とは裏腹な、羽根のように柔らかなキスが降りた。 「ゼフェ‥‥ル‥‥っ!?」 ランディは口唇を手で押さえ真っ赤になる。 「ちっ。‥‥これで許してやるよ。だからッ!おめー、ずっとオレの傍にいろよ。」 ぷいっとそっぽを向いてぼそぼそっと言ったゼフェルの耳も真っ赤に染まっていて。ランディは思わずくすりと笑みをこぼした。 「あーあ、まだなんかだりーな。‥‥おめー、このまま泊まってくだろ?もう結構な時間だしな。オレ、このまま寝るから。」 当たり前のように言ってゼフェルが再び身を横たえたベッドには、ちゃんと一人分のスペースが空いている。ランディはゼフェルを起こさないように小さく笑うと、その空いているスペースに身体をすべりこませた。するとごろりとゼフェルが寝返りをうつ。ランディの胸元に寄り添うように眠るゼフェルにランディの心臓は飛び上がった。 「ゼ、ゼフェル‥‥?寝て、るんだよな?」 ゼフェルの変わらぬ寝息を確かめると、ランディはゼフェルの細い肩を抱き寄せる。 「‥‥好きだよ、ゼフェル‥‥」 そうつぶやいて、ランディもゆっくりと瞳を閉じた。 fin. さんくすめっせーじ(by ひろな) 2001.11.27 うふふふふ(妖笑)。ゼフェかわいーvランかわいーv(おや、ゼフェが先?) 何か理由をこじ付けて(笑・でもその理由は忘れた(^^;))リヒからもぎ取ったランゼvv 小悪魔ちっくなゼフェルくんです。「ゼフェランちっくなランゼ」とか言うから、もっとゼフェランなのかと思った(爆)。ちぇっ(こらこら)。 「おめーもオレのこと好きなのかと思ってたけど‥‥ちげーの?」とか、もう、誘い受けここに極まれり!って感じですか。きゃーv ああっもうそんな風に覗き込まれたら……っ!(落ちつけー) ランゼは報われない系が浮かぶとかひどいこと言ってるリヒですが(-゛-;)、こんならぶいのも書けるんじゃん! りひー、ありがちゅーv もっとかいてね〜!(笑) |