Blown like the wind


「俺、オリヴィエ様が好きです」
 それは、唐突な告白。
「……好きって」
「好きなんです。俺の恋人になってはもらえませんか?」
 まっすぐに、私を見つめる瞳。
 私はそれに、ため息をつく。
「……ごめん」
「オリヴィエ様!」
 抗議の声を片手を上げて制して、私は言葉を選びながら話す。
「ランディ、あんたの気持ちは嬉しいんだ。でもね、私はあんたとはつきあえないよ」
 諭すように、ゆっくりと告げる。
「どうしてですか? 俺が、男だからですか? それとも、子供だからですか?」
 ストレートな問いかけ。
「…その、どっちでもないよ」
「じゃあ、何でなんですか?」
 ひどく一生懸命なランディに、私は思わず少し微笑んでしまう。
「あんたと私がつき合ってもね、うまくいかない。だからさ」
「そんなの、つき合ってみなくちゃ解らないじゃないですか!」
 少し怒ったような、あんたの態度はたぶん、正しいんだと思うよ。
 でも、私にとっては、その正しさは意味がない。
「解るんだよ」
「いいえ、そんなことありません!」
 まっすぐな瞳が、傷つけない為の配慮、なんて半端な物を拒絶してる。
「…わかったよ、じゃあ、はっきり言うけど…」
「はい」
「好みじゃないんだ」
 まっすぐ私を見つめる瞳が、一瞬揺れる。
「私はね、落ち着いてて、一緒にいて楽な人が好きなんだよ。あんたとは一緒にいると楽しいけど、やっぱり少し、疲れちゃうんだ。だからどうしても、恋人にはなれない。……これってね、どうしようもないんだよ。あんたのせいじゃないんだから」
 はじめて、視線が逸らされる。
 傷ついたように伏せられる瞳。
 そんな顔はしないでほしいのに、私にはどうすることも出来ない。
「…ごめんね」
 もう一度謝る。
 謝る以外、私には何も出来ないから。
 ランディが顔を上げる。
 その目は、そらされる前よりもっと、まっすぐ。
「わかりました。変なこといって、済みませんでした」
 言って、深々と頭を下げる。
 礼儀正しいのって、時には罪だって、解ってないね?
「ううん… 」
 嬉しかったよ、ぐらいは言ってあげてもいいのかもしれないけど、私は何も言えない。
「…あの、オリヴィエ様」
 ランディが、私をしっかりと見つめて、言う。
「俺、オリヴィエ様のこと、好きでいてもいいですよね?」
 一瞬、絶句する。
 本当はここで、私なんか早く忘れなきゃだめだ、っていうべきなんだろうけど。
 でも、この子はそんなことを聞き入れやしない。
 私にもそのぐらいは解る。
「…それは、あんたの自由だよ。気持ちは、あんた一人の物だからね」
 だから、こう言う。
 こんな私はずるいんだろうけど。
「はい。ありがとうございます、オリヴィエ様!」
 まぶしいような笑顔。
 …それって、たった今振られた相手に見せる顔じゃないよ?
「それじゃ、失礼します」
 くるりと背を向けて部屋を出ていく。
 その後ろ姿に、少しだけ胸がキリリと痛む。  

 振っておいて虫がいいけど、自分を好きだと言ってくれた人には幸せになってほしい。
 自分の罪悪感を軽くするためだろうと何だろうと、幸せになって欲しいと思うのは本当。
 そんな風に思いながら、少し意識してランディを見る。
 あの後も、何も変わらずにまっすぐな目で私を見つめて、笑いかけてくる。
 そんな顔が出来るランディは、私が思っていたよりも大人なのかもしれない。
 あんまり今までとかわらなくて、時々あれは夢だったんじゃないかとさえ思う。
 でも、時々、真剣な瞳に見つめられているのを感じるから、夢じゃなかったんだとわかる。
 その視線は、私には苦しい。
 まるで、浸食されていく様な気分になるから。
 どこか、深いところまで。
 それも気づかない振りで、全部やりすごすのだけど。
 だって、他に何が出来る?
 彼を、好きなわけでもない私に。

 …好きになれたら良いのかもしれない。
 お互いに、私もランディも、幸せになれるかもしれない。
 でも、そんなのは考えてどうなるものじゃない。

 日の曜日に珍しく朝早く目が覚めたから、散歩に出かける。
 なんとなしに足が向けたオスカーの屋敷の庭から、剣戟が聞こえる。
 誰がいるのかは知ってる。
 でも、知ってて来たのだろう自分に、知らないふりをする。
 近づいて行くとすぐに、戦う二人の姿が視界に入る。
 夢中で、剣を打ち込むランディと、それを真剣な表情で受け流すオスカー。
 ずいぶんと、ランディも上達したんだな、とどこかでぼんやりと思う。
 ほんのこの間までは、もっとオスカーはもっと余裕たっぷりに相手をしていた気がする。
 鋭く打ち込むランディを見て、本当に風のようだと思う。
 まっすぐに鋭く吹く、風。
 私は二人の様子を少し眺めてから、その場を後にする。
 それ以上、そこにいる気にもなれなくて。

 あの日から、風が吹いてる。
 私に向かって、鋭く、強く。
 それを感じて、私は不安で、落ち着かない気持ちになる。
 風に揺れる木の葉のように、と言ったら言い過ぎかもしれないけど。
 私のどこかが揺れているのがわかる。
 別に、嘘をついて断ったわけじゃない。
 私は特に間違った事をしたわけじゃない。
 なのに、何でこんなに不安なんだろうね?
 こんなのは、どこか狂ってる。  

 やがて、私は一人でつぶやく。
「負けちゃったのかな?」
 心の中を風が吹き抜ける。
 私はそれを防げなくて。
 いつの間にか、しっかりと刻み込まれてしまっている。
 何かを。
「好みじゃなかったはずなんだけどな〜」
 それを本当に越えられるほど、強いのかどうかはまだわからないけど。
「ま、いってみますか」
 これ以上何時までも、不安なままではいたくない。
「…これも、逃げなのかな?」
 わからないけど。
 はじめてみなければ解らない、と最初に言ったのは彼の方だから。
 許してくれるだろう、きっと。
 何があっても。
 私は少し微笑んで、歩き出す。


後書き
 一応風夢、なのですが……。 やっぱり、逃げてます!?
 ランディ、難しいんですよ〜。私と相性ワーストの彼は、自分が何を考えているのか、なかなか私に教えてくださいません。あまり会話したことないからなぁ…。
 でも今度はもっとランディの登場頻度の高い、風夢が書きたいです。(^^;




さんくすめっせーじ(by ひろな)     2001.10.29

素敵な風夢馴れ初め話v 真っ直ぐなランディの告白シーンがすごく好きです。上↑で、更紗さん、ランディは難しいと書かれていますが、いやいや、もう、立派に(?)ランディですよ〜v
オリヴィエ様、「タイプじゃない」とはっきり断ってますね(苦笑)。でもコレ、実は結構わかる気がします。というのも、私、風夢イチオシvとか言いながら、でもこの二人、基本的には合わないよな、と思っていたり(笑)。なんて言うんだろう、オリヴィエにとって、ランディみたいな人、ある程度の距離を置いていれば元気な若造(大笑)で良いかも知れないけど、もっと近いところにいたら、彼の良くない面が目に付く……というかイヤだなあと思うんじゃないかと。だって仲悪いときに“他人のこと”で互いのこと聞くと、結構きっついコト言ってますよ二人とも(苦笑)。だけどそれを越える何かがあって、大切な人になっていく……というのはイイですねv
オリヴィエ様、ランディくんのことを、ココロにカラダに、もっともっと刻みつけてくださいませv(笑)

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