わーるど・ちゃんぴおん



ランディは悩んでいた。

というのも、付き合って数ヶ月の恋人であるところのオリヴィエが、なかな か彼をAクラスに昇進させてくれないからである。
何のクラスか、といえばベッドでの話なので、
「別にいいじゃないBクラスだって立派なもんだよ」
とオリヴィエなどはそのことを別に気にもしていないのだが(だからとい ってAも出さない)、ランディの方は気にしていた。
彼は向上心に溢れる若者なのであるからして、恋人に少しでも不満などと いう物は出来るだけ感じさせない己になろう、と志しているからある。 (健気ですね)

さて、そういう訳でランディは、自分の執務室で執務時間中に深く悩んでい た。
仕事しろよ。
自分でもそう思わないではないのだが、何しろまっすぐで一直線な気質の彼 は、気づけば同じ問いにはまってしまっていた。
「どうすればいいんだろう…」
一人ごちるが、解決策は見えてこない。
けれど、ぐるぐるともう何度目かも解らない同一の思考をくり返していたラ ンディは、
「………そうだ!」
と不意に何かを思いついて声を上げた。
同じ道でも何度も歩いていれば、道ばたにさっきは気づかなかった花が咲い ていることもある。
ということで、なにやら方策をひねり出したランディは、何を目的としてか 、そのまま執務室から駆け足で出ていったのであった。


「……あっ…ん…」
ベッドルームに、オリヴィエの甘い声音が響く。
その日の夜、ランディとオリヴィエはいつものごとく、進級試験の真っ最中 だった。
「…くっ…」
ただ、いつもと少々違うのは、時折漏れるオリヴィエの声に、あまり余裕が 感じられないという事である。
そのオリヴィエは、肌を滑るランディの指先に、今までとどこか違う物を感 じて内心で首を傾げていた。
取り立てて何処が違う、という訳でもないのに、何だか妙にあおられるので ある。
(どーしたんだろ……)
などと思っているところに、ランディの愛撫が核心的なものになり始めて、 オリヴィエは少し慌てた。
「あっ!」
思わず声を上げて、オリヴィエはいよいよ、芽生えていた疑問を強くした。
そこで、
「……ねぇ、ランディ?」
ため息の様な甘い声で、オリヴィエはランディに問いかけた。
「何ですか、オリヴィエ様?」
「…なんかさ、今日、いつもと違わない?」
オリヴィエが潤んだ目でランディを見上げて訊く。
それに、ランディはにっこりと破顔して、
「あ、やっぱり違いますか?」
と答えた。
それから少し心配そうに、
「…えっと、どんな風に違いますか?」
と逆にオリヴィエに問い返した。
「どんな風って……。まあ、悪くはないけど…」
オリヴィエが慎重にそういうと、ランディはますます笑顔になって、
「そっか、良かった。やっぱり、レクチャーを受けただけのかいがありまし た!」
と明るく言った。
オリヴィエの頭の中に、「?」マークが点る。
(…レクチャー?)
「それじゃ俺、もっと頑張りますから!」
オリヴィエの内心の「?」には気づかずに、ランディはさっさと動きを再開 した。
けれどオリヴィエの頭の中では、まだ様々な疑問符が渦を巻いている。
(…?…レクチャーって、レクチャーよねぇ? ってことはつまり、ランデ ィが誰かにベッドテクを教わりに行ったって事?! しかし、そんなこといくらラン ディでも……いや、この子ならありえるかも。……うーん、それってやっぱり、ちょ っと嫌だねえ…。相手誰なんだろ。一体、人のおもちゃに何してくれちゃったんたん だろーねー。ったく…)
等々。
ちょっと気分的には不愉快な物を感じ始めたオリヴィエである。
けれど裏腹に、身体的にはなかなかどうして心地よくなっていた。
「……っ…」
息を詰めながら、オリヴィエがまた思う。
(…でもまあ、元はと言えば、点数厳しくてランディ悩ませてたのは私だし 。……何かもう、済んだことだし。………気持ちもいいことだし。………まあいっか )
オリヴィエはごくあっさりと、問題を放棄した。
ようするに、面倒になったのである。
「あぁ……」
そうして、その後はいつもよりもよけいに、楽しい夜が更けていった。

「あの、どうでしたか?」
隣でボンヤリしながら身体を投げ出しているオリヴィエに、ランディが本日 の採点を依頼する。
オリヴィエはそれにはっと意識を取り戻して、ランディを見返った。
「採点の前に、一つ訊いときたいんだけど」
「はい?」
「レクチャーって、誰に教わったの?」
やっぱり終わって冷静になってみると、多少は気になってくるオリヴィエで ある。
素直に尋ねておくことにした。
それに、ランディはあっさりと答えた。
「クラヴィス様です」
「!?」
オリヴィエが予想外の回答に思わず目を見張った。
「…クラヴィス?」
「はい」
邪気無く頷くランディの顔の隣に浮かぶ、クラヴィスの顔。
一瞬、本当に一瞬だが、非常に恐ろしい想像をしてしまったオリヴィエは、 慌てて首を横に振って、それを追い払った。
そのまま、オリヴィエが次にどう質問しようか迷っていると、ランディが訊 かれるより先に、説明を始めた。
「今日の昼間、クラヴィス様にお願いして占ってもらったんです」
「…占う?」
「そうですよ。オリヴィエ様がなかなか喜んでくれないんで困ってたんです けど、クラヴィス様ならオリヴィエ様の弱点を占って下さるんじゃないかな、って思 って」
オリヴィエは黙して、ベッドに沈んだ。
「最初、お願いしたらクラヴィス様、ちょっと驚いていらっしゃったような んですけど、一生懸命お願いしたら、占ってくれたんです」
オリヴィエは沈み込んだまま、深々とため息をついた。
呆れた顔をしながらも内心では面白がっているのであろう表情のクラヴィス が、頭の中に浮かぶ。
(次に会ったら何言われるんだろうね…)
オリヴィエは少々目眩を感じてげんなりとしたが、それはそれとして自分の 弱点とはどんなものなのか気になって来たので、
「……で、一体クラヴィスは、なにを教えてくれたわけ?」
とランディに聞いた。
ランディはそれに、爽やかな笑顔を浮かべた。
「それは、秘密です!」
「えー、何で!?」
オリヴィエが顔を上げてランディをにらむ。
「だって、俺が知ってれば、それでいいじゃないですか」
「…そりゃそうだけど」
「それに、どうしても知りたかったら、オリヴィエ様もクラヴィス様に占っ てもらえばいいんですよ」
オリヴィエは内心で、
(…んなこと訊けるか!)
と叫んでいたが、これ以上話をややこしくするのも鬱陶しかったので、言わ ずにおいた。
「で、オリヴィエ様、ランキングをお願いします」
ランディが話を元に戻す。
オリヴィエはため息をつきながら起きあがると、少し考えるようにしてから 言った。
「A'(ダッシュ)」
ランディは「A」という音を聞いて一瞬喜んだが「ダッシュ」まできて眉を 寄せた。
「…どうしてダッシュなんですか?」
オリヴィエがしかつめらしく、
「人に教わってきた、ってところがどうもね。まだ自分の物にないって感じ ?」
と解説を述べる。
一理はあるのでランディが、うーんとうなる。
そんなランディにオリヴィエは、
「ま、でも後は回数こなせば文句なしのAになると思うけど?」
と付け加えた。
ランディの表情がぱっと明るくなる。
「頑張ります!」
「はいはい」
オリヴィエは軽くポンッとランディの頭を叩くと、もう一度ベッドに倒れ込 んだ。
「私、ちょっと寝るね」
「あ、はい。お休みなさい」
「おやすみ〜」
目を閉じながら、
(……今日のはちょっと、こっちの嫉妬が混じってたからなあ。文句なしの Aって訳にはいかないんだよね〜。ま、ルーキーだもんね。そうそう簡単に、ワール ドチャンピオンになっちゃったんじゃ、つまんないもんね……)
と思う、オリヴィエだった。

                   終わり


後書き
 一応「るーきー・おぶ・ざ・いやー」の続編でございます。はい。
 「ランディの逆襲」を目指したのですが、やはりまだまだ、彼が立派なダースベー ダーになれる日は遠そうですね。(そんな日は永遠来なくて良いのか…)
 しかし、クラヴィスは一体何を占い出したのでしょうねぇ。(^^;




さんくすめっせーじ(by ひろな)     2001.10.29

なんと! 「再録だけでは申し訳ない」と、更紗様がわざわざ書き下ろしてくださった新作風夢です! きゃーもう、申し訳なくなんかないですよー! こっちが超図々しくおねだりしたのに。でも嬉しい♪(笑) しかも『るーきー・おぶ・ざ・いやー』の続編とな! ひろなサン、狂喜乱舞(笑)。 執務中にまで悩んでしまうあたりが、なんともランディちっくで二重丸です(笑)。面白すぎ。
そして、ランディくんが指南を受けに行ったのは、何と、クラヴィス様!!? 更紗さんちのクラ様ってば無敵なんですもの、オリヴィエ様が思わず恐い想像をしてしまったのもうなずけます(笑)。キモチイイしめんどくさいし、で考えるのやめてしまうあたりも、享楽主義的でグッド(笑)。つーかなんか他人とは思えません(爆)。しかし、そんなことを占わされてしまったクラ様とそんなことを占われてしまったヴィエ様とどっちが哀れなんでしょうか?(^^;)
ランディは、たとえワールドチャンピオンになっていたとしても、言われなければ気づかないから(笑)、オリヴィエ様にはぜひ一生ナイショにしといてもらって、いつまでもランディに頑張らせておいてもらいたいですね☆

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