恋はみな 我が上に落ちぬ


 むかしむかし、あるところに、一匹の狐が住んでおりました。
 この狐は金の身体に紅い耳、深い青い瞳という大変派手な…、もとい大変美しい狐でございました。
  名前はオリヴィエと申します。
  このオリヴィエ、実は妖狐で、美しい人間に化けるのを得意としておりました。
  そして美男美女に化けては男をたぶらかし、精気を吸い取るのを本分としておりました。

  狐は元来、陰の気の動物で、陽の気を持つ男性の精を得る事で力を増すことが出来ます。
  そのため狐は多くの場合、雄雌に関わらず、女ではなく男をたぶらかすのでございます。
  そして、狐と交わった男は精気を吸い取られて、大概の場合は病に陥りますし、悪くすれば死んでしまうということになります。
 たぶらかされる男にしてみればたまったものではございませんね。

 それでこのオリヴィエも、生きの良い男を見つけては誘い込み、精気を頂いて「はい、さようなら」というはた迷惑な暮らしをしているのでございました。
  最も、オリヴィエは見かけによらず優しい性質でしたので、相手の男がしばらく寝込むだけで済むように加減してはおりました。
  うっかり死なれて大事になって、狩られでもしたら面倒…、ということもなきにしもあるんですが。

 さて、そんなある日のオリヴィエ。
  屋敷で狐の姿で寝ていた彼は、太陽が沈んだのを感じて、寝床の中から起き出しました。
  オリヴィエの住処は一見、人の住まなくなって久しい荒れ放題の屋敷。
  なのですが、中に入ると実はきんきらりん。
  おとぎ話に良くあるめくらましの術の掛かった実は豪華なお屋敷なのです。
  そのお屋敷の豪華な寝室でオリヴィエは目覚めるなり、
「さーてと、今日もいい男を探しに行かなくっちゃね!」
 と楽しげに申しまして、人間に化ける仕度を始めたのでございました。

  日が完全に落ちて、空に星が輝きだしたのを見計らって、オリヴィエは鏡台の中からふろしき包みを取り出しました。
  そしてその包みをはらり、と開いて中から現れた人間のしゃれこうべを手に取りました。
 それからそれを持って庭へ降りると、北斗七星の方を向き、しゃれこうべを頭に乗せ、北斗七星に向かって七度、礼をいたしました。
  そうしますとあら不思議。
  金色の狐だったはずのオリヴィエは、あっという間に一人の美しい人間の姿にとなるのでございました。
  長い金の髪に白い肌、青い瞳に泣きぼくろ。
  オリヴィエの気に入りの男の姿でございます。
  着物も朱色の地に金糸を織りまぜた、夜目にも人目を引く美しい物です。
  オリヴィエはいそいそいと鏡台の前まで戻りますと、
「うーん、今日の私も美人だね」
 と、しばしうっとりと致しました。
「って、そろそろ出かけなくちゃ」
 そして、ひとしきり自分の美しさを堪能したオリヴィエは、いい男が売れてしまっては大変と、そそくさと屋敷を後にしたのでございました。

 屋敷を出たオリヴィエは、人間にはちょっと真似できないすばやさで街へと到着致しました。
  酒屋や小店などが立ち並ぶ街中を、男や女が足繁く行き交っております。
  オリヴィエはぶらぶらと歩き出しました。
(うーん、ぱっと見、大したのはいないねぇ)
 派手で美しい姿に、往来中の人目を集めつつ、オリヴィエは物色を続けました。
(この辺も、めぼしいのは大体やっちゃったからなぁ…)
 つい先日も、オリヴィエはこの界隈で評判の赤毛の美丈夫と楽しんだばかりです。
(結構いい男だったし精気もあったから、ちょっと多めに相手させちゃったんだよね。今頃はまだ寝込んでるんだろうな)
 などと考えつつ、オリヴィエは通りがかった一軒の酒屋へ足を向けました。
  酒でも飲んでのんびり相手を探す事にしたのでした。  

 店に入るとすぐ、オリヴィエの目に一人の男の姿が飛び込んで参りました。
  長い黒髪で藍色の着流しのその男は、横顔だけでもかなりの美しさで、オリヴィエは目を奪われました。
  そして、
(わーい、いるじゃない、いい男!!)
 と、喜びに心を弾ませました。
  それを抑えて、オリヴィエはその男の側にすっと近づき、隣の椅子へと腰を下ろしました。
 それに、男が振りかえります。
  正面から見ても、見つめられてオリヴィエが思わずどきりとするほどの、いい男でした。
「こんばんは。お兄さん、一人?」
 オリヴィエは婉然と微笑みかけました。
  この時の印象が肝心です。
「…ああ」
 男の答えはそっけないもので、すぐにまた、飲みかけていた酒の方へと顔を戻してしまいました。
(こいつ、この美貌を前にして、やるじゃない)
 オリヴィエは俄然、やる気を発揮して、目の前の男を攻略に掛かりました。
「そ、じゃ、私もここで飲んでいい?」
「…好きにしろ」
(あっさりした奴だね)
 と思うオリヴィエでしたが、攻撃を続けます。
「私、オリヴィエ。よろしくね」
「ああ」
「お兄さん、名前は?」
「……訊いてどうする?」
「知りたいだけだよ」
「(ため息)…クラヴィスだ」
「クラヴィス、ね…」
(とっかかりの悪い男…。こりゃ、ストレートに攻めなきゃ時間が掛かりすぎちゃうわ)
 ということで、やや短気なオリヴィエはすぐ勝負に出ました。
 (短気なのはこれを書いている作者だというお話もございますが、そこは皆様ご了承くださいましね)
「ねえ、クラヴィス。今日これから、暇?」
「忙しかったら、こんな所で飲んでいると思うか?」
「それは思わないけどさ。待ち合わせとかは、あるかもしれないじゃない」
「…特にない」
「そ、良かった」
 と、ここでまた綺麗ににっこりとしてみるオリヴィエ。
(こいつ、こっち見なさいよ!)
 でもそっぽを向いたままのクラヴィスなのでございました。
「こほんっ、ねえ!」
「何だ」
「ちょっとこっち見てよ」
 クラヴィスは漸く、物憂げにオリヴィエの方を向きました。
「何だ?」
 オリヴィエはもう一度、今まで何人もの男を落としてきた微笑みを浮かべて申しました。
「暇なんだったら、今晩私と一緒に…、どーお?」
 にっこり。にっこり。にっこり。
 たっぷり三回分のにっこりが経過した後で、漸くクラヴィスが口を開きました。
「…良かろう」
(やった!)
 心の中で快哉をあげたオリヴィエでございます。
(まーったく、反応ないから駄目かと思ったよ。抱く気があるなら、もったいつけないでよね。あー、やりにくかった)
 と内心考えつつオリヴィエは、
「じゃ、早速いきましょ」
 気が変わらないうちにと、クラヴィスを外へと誘いだしたのでした。

「何処に行く?」
 オリヴィエがクラヴィスを見上げて尋ねます。
  人の姿のオリヴィエも背はかなり高い方でしたが、クラヴィスはそれよりさらに高く、オリヴィエは見上げて歩くことになりました。
「何処でも構わぬが…。私の宅へ来るか?」
 クラヴィスがさらりと答えます。
  この台詞にオリヴィエは少し驚きました。
  一夜の情事のお相手で自宅へ誘われるというのはかなり、めずらしかったので。
  大抵は適当な旅篭へでも入るのが常でした。
「いいの? あんたの家なんて…」
「構わぬ。別に知られて困る程の物でもない」
 女とかがいないんなら、そりゃそういうもんかもね。
  とオリヴィエも納得し、黙ってクラヴィスに付いて行くことにしたのでした。  

 街を抜けて雑木林の方へと少し行ったところに、クラヴィスの屋敷はありました。
  木々に囲まれ人気はありませんでしたが、かなり立派で広いお屋敷の様でございます。
(こいつ、何者なんだろ…)
 そんな疑問がオリヴィエの心に浮かびますが、どうせ一夜のお相手。
  しかも明日には、自分のせいで病気になっているだろう男の事です。
 オリヴィエはあまり、 気にしないことにしました。
「いい家だね」
 オリヴィエが素直に感想を述べます。
 確かに、 この屋敷には何とも不思議な落ち着きがありました。
  内装や調度品も、華美ではないけれども、質が良さそうですし、辺りを流れる空気もひんやりと涼しく、心地よさを誘います。
 オリヴィエがそんな事等を思いつつ辺りを見回していると、他に人の気配のない屋敷の中の、寝室へとそのまま通されました。
  寝室は庭に面していて、開いたふすまから庭が見渡せます。月の光の差し込んだ庭はなかなかの美しさでございました。
「何か飲むか?」
 クラヴィスがオリヴィエに問いかけます。
  部屋で二人きりで向かい合って見るクラヴィスは、月の光に照らされて妙に艶やかで、オリヴィエは彼らしくもなく息苦しくなりました。
  ですので、
「…いいよ、それより、早くしよう」
 そういうと、そのままクラヴィスへしなだれ掛かっていったのでした。

「……あっ、ん、…やっ」
 部屋の中に、オリヴィエの喘ぎが漏れます。
(うそ…、なんでっ、こんなに……)
 普段は肌を重ねても、殆ど乱れるという事のないオリヴィエです。
 けれど、今日は勝手が違っおりました。
  クラヴィスにほんの少し触れられただけで、全身の血が熱く騒ぎます。
  すぐに身体の弱点を見つけられ、愛撫されて、気がつくと喘ぎ声が止まらなくなっていました。
  早く最後まで抱いてほしくて、涙さえ溢れ出します。
「…お願い、……早くっ…!!」
 オリヴィエはもう待てない、と身をよじってクラヴィスに訴えました。
  そんなオリヴィエにクラヴィスは一度口づけると、己を与えていきました…。

 そうして、二人は夜が明けるまで身体を重ね合い、オリヴィエは生まれて始めて、抱かれながら意識を失ったのでございました。

 翌朝、オリヴィエが目を覚ますと、クラヴィスの腕の中におりました。
  まだ熟睡しているクラヴィスの顔を見つめると、自然に昨夜の事が思い出されます。
  己を全く制御出来ないなど、初めてのことでした。
  今まで味わったことも無いような愉悦の波に、何も出来ずに感じていただけの自分を考えると、頬が紅く染まります。
(あーあ。どうしよ。こんなんじゃ、狐失格だね…)
 クラヴィスの顔を見ているだけで、また身体が疼きはじめています。
  もう一度抱いて欲しい、と思わずにいられません。
(やだ、何考えてんだろ、私…)
 また欲しくなりだしかけた身体を慌てて叱責して、オリヴィエはクラヴィスを起こさないように注意しながら、その腕の中を抜け出しました。
  クラヴィスが起きる前に早く身支度をして帰らなければ、と思うのですが、オリヴィエはなかなかそこから離れる気になれません。
  昨日は、全く加減が出来なかったので、クラヴィスの精気を大分吸い取ってしまったはずです。
  今の様子を見ると死ぬことはないでしょうが、病は避けられないでしょう。
(せめて看病、してこうかな…。やだ、また。何馬鹿なこと考えてるんだよ私は。らしくもない)
 精気を吸い取った相手の看病をするなんて、全く馬鹿げております。
  一度寝ただけの相手にこんなに執心するなんて、己らしくもありません。
(しっかりしよ)
 オリヴィエは自分にそう言い聞かせると、着物を身につけ身支度を整えました。
  そして最後にクラヴィスの寝顔をもう一度のぞき込むと悲しげな顔で、
「ごめんね、クラヴィス…」
 とかすかな声で謝り、そっとクラヴィスの頬に口付けて、そのまま屋敷を後にしたのでした。

 クラヴィスと枕を交わしてから三日、オリヴィエはひたすら思い悩んでおりました。
  クラヴィスの事が気に掛かってならず、日がな一日、畳の上でごろごろと思い暮らしているのでした。
  身体の具合はどうなのか。
  自分のことをなんと思っただろうか。
  もう一度訪ねていったらどんな顔をするだろうか。
  などなど、らしくもないことばかりが頭の中を回り続けております。
  そして、オリヴィエはまだ、人の姿のままでございました。
  クラヴィスに触れられた姿だと思うと、術を解く気になれないのです。
  ここまでくれば、自分がどうしてしまったのか、嫌でもオリヴィエも理解致しました。
  つまり、自分がクラヴィスに惚れてしまったことを、認めたのでございます。
(馬っ鹿じゃないの! 私!!!)
 そして、自己嫌悪ですっかり落ち込んでしまいました。
  仕掛けた相手に惚れるなど間抜けも良いところです。
(ああ、情けない…)
 でも、惚れてしまったものは、致し方がありません。
  いまさら、忘れることもできません。
  何しろ、身体も、そしてどうやら心も、しっかりとクラヴィスを覚え込んでしまった様でしたから。
 そして、悩みに悩んだオリヴィエは、
(一度、様子を見に行ってみようかな)
 と、どうにか決心致しました。
  それでどうなるというものでもないのですが、姿だけでも見れば少しは心が安まるだろうと結論づけたのでした。
  それならば最初からそうすれば良さそうなものなのですが、三日目になって漸く、オリヴィエはクラヴィスの屋敷をと目指したのでございました。

 そうして、クラヴィスの屋敷に着いたオリヴィエは、とりあえず、庭に忍び込んで、様子をうかがうことに致しました。
  先日の寝室から見えた辺りを目指します。
  気づかれぬよう、気配を消して木々の陰を歩いていたその時、
「何をしている?」
 不意に声がかけられました。
「わっ!」
 急な事に驚いたオリヴィエが声を上げて辺りを見回すと、そこにはクラヴィスが立っておりました。
  まだてっきり、弱って寝ていると思っていた相手が普通に目の前に立っておりますもので、オリヴィエはすっかり動揺してしまいました。
「ク、クラヴィス!? あんた、身体は? 大丈夫なの?」
 心配で慌てて尋ねます。
  するとクラヴィスは首をかしげ、
「身体? 何のことだ?」
 と、まるで意味の分からぬ様子でございます。
「どこも、悪くないの?」
「ああ、特に、おかしいところはないが」
 クラヴィスの答えに、気が付くとオリヴィエは地面に座り込んでしまっておりました。
  どうやら、自分で思っていた以上に、オリヴィエはクラヴィスのことを心配していた様でございました。
  無事と知って思わず力が抜けてしまうほどに。
「良かった…」
 そんなオリヴィエを見つめていたクラヴィスは、ふっと柔らかく微笑みました。
  脱力しているオリヴィエはそんな事には気づきません。
  ですのでクラヴィスは、素知らぬ顔をして話しだしました。
「それよりも、お前の方こそどうしたのだ? 朝起きたらいなかったので、心配したが…」
 オリヴィエが驚いて顔をあげます。
「…心配してくれたの?」
「それは、するだろう。朝起きて、いきなりいなくなられていては、な」
 クラヴィスの穏やかな表情に、オリヴィエはいたたまれない気持ちになりました。
  狐だということも知らずに、こんなことを言ってくれるのが申し訳なくなりました。
「…ごめん」
 かといって、実は狐なんだと言う事もできずに、オリヴィエはただ謝るのでございました。
「まあ、良いが…。戻って来たのだからな。とにかく、中に入れ」
 クラヴィスはそう言うと、まだ座り込んだままだったオリヴィエを立たせようとしました。
  所が、オリヴィエは立ち上がりません。
  クラヴィスを座ったまま見上げて、問いかけました。
「何で? 何でそんな、優しいの? 一晩だけの遊びだったはずでしょ? 私もあんたも…」
 クラヴィスは相変わらず穏やかな表情でそれに答えました。
「初めはそうだった。だが、お前を抱いて、気が変わった。出来るなら、一夜限りで終わらせたくはないという気になった。朝起きたらそう告げるつもりだったのだが、その前に逃げられてしまったのでな。諦めかけていた所だった」
 その告白を聞き終わったオリヴィエは、ゆっくりと立ち上がって微笑みました。
「ありがと。凄く、嬉しいよ。私もホントはもっと、あんたと一緒にいたかったんだ。今も、そう思ってる。……でもね、駄目なんだ。私は…」
 そこまでオリヴィエが言いかけたところで、クラヴィスが口を開きました。
「狐だからか?」
「……え?」
 オリヴィエは呆然として聞き返しました。
(この人今、何て言った?)
 唖然としたオリヴィエを見てクラヴィスは微苦笑を浮かべました。
「まさか、本当に気づいていなかったとはな。お前も、案外と鈍いな」
(…何?)
「私は、お前と同じ、狐だ。抱き合ったときに、解らなかったか?」
(…何、だって!?)
 オリヴィエの目の前でクラヴィスがくつくつと笑っております。
  オリヴィエは混乱した頭で、どうにか状況を理解しようと試みました。
(クラヴィスが、狐? 私と同じで…)
「狐なの?」
 オリヴィエがきょとんとした声を出しました。
「だから、そう言っているだろう。私は狐だ。最もお前よりも霊力が強い分、多少神仙のたぐいに近づいてはいるが、狐は狐だ」
 漸く事の次第が飲み込めたオリヴィエは、思わず叫びました。
「嘘、だってそんな、聞いてないよ!?」
「お前とて、言わなかっただろうが」
 クラヴィスがまた笑い出します。
「え、じゃあ、あんたは何時から知ってわけ? 私が狐だって」
「…最初に店に入ってきた時だな」
「……信じらんない。何で言わないのさ! 人がどれだけ心配したと思ってるのよ!!」
 少々自分のことは棚に上げている感もございますが、オリヴィエはすっ かり頭に来て怒り始めてしまいました。
  オリヴィエの剣幕に、クラヴィスも面白がってばかりもいられず、なだめに入ります。
「そう、怒るな。ちょっとからかおうと思っただけだ。まさか、そんなに本気で心配してくれているとは思わなかったのでな。許せ」
 まだ興奮しているオリヴィエでしたが、自分にもかなり問題はあるので、それ以上怒るのもためらわれ、どうにか大人しくなりました。
  それでも、
「…ひどいよ」 
 まだ文句は止まりません。
「済まなかった」
 クラヴィスもあまり済まなそうではありませんでしたが、一応謝ります。
「…まあ、もう良いけどさ」
 しばらくぶつぶつ言った後、どうにかオリヴィエも収まりがついたようでした。
「あんた、狐なんでしょ。でも、抱かれた後、確かに陽気が増えた様な気がしたんだけど、どうやったの?」
 ひとまず落ち着いて、屋敷の中に入った後、オリヴィエが疑問点を口にしました。
  他に狐と寝た経験が無いので良くは解りませんでしたが、陰気同士の自分たちで陽気は増えないのではないかと思ったのです。
「簡単な事だ。私は陽気も持っている」
 クラヴィスが解説致します。
「私はこれでも多少修行を積んでいるのでな。新たに陽気を仕入れる必要がない程度には陰陽のバランスが取れているし、お前に与える事なども造作ない。それに、抱き合う事で気を増す術も心得ている。普通 の人間などよりはよほど簡単に気はつくれるということだ」
 オリヴィエが感心した様にクラヴィスを見つめます。
「じゃあさ、あんたに抱いて貰えば、私の気もどんどん増えるっていうこと?」
「そういう事だな」
「じゃ、一石二鳥だね」
 嬉しそうにオリヴィエは言いました。
「どういうことだ?」
「だって、そしたら、わざわざ他の男探しに行かなくてもすむじゃない? 好きな相手に抱かれて食事も出来るんだから、一石二鳥でしょ」
 確かにな、とクラヴィスも微笑みました。
 クラヴィス自身の気を高めることも出来るのですし、とってもお得です。
 そして、すっかり機嫌の良くなったオリヴィエは、クラヴィスにすり寄って行きました。
「ねえ、じゃ、早速しようよ。ずーっとあんたの事ばっかり考えてて欲求不満なんだよ」
 クラヴィスはその答えに代えて、オリヴィエに口づけるのでございました。
  そして内心、
(当分、オリヴィエが朝出ていく時に起きていたことも、この三日の様子を見ていたことも、黙っていた方がよさそうだな…)
 と、思うのでした。
 どうもクラヴィスの方が数枚上手の様でございますね。


 それでは、皆様、お後がよろしい様で。
 このあたりで、このすっかり甘ったるくなってしまったお話を、締めさ せて頂きたいと思います。



                     おしまい



後書き
 …何とも気恥ずかしい話で恐縮でございます。
 この話、なんだか本当にとっても、恥ずかしいんですよね。(^^;
 ベタな展開で……。
 確か、語り口調が書いてみたくて考えた話です。
 あ、タイトルの和歌は、
「恋は皆 我が上に落ちぬ たまかぎる はろかに見えて 去にし子ゆえに」
 で、『日本霊異記』の「狐を妻となして子を生ましむる縁」より、です。




さんくすめっせーじ(by ひろな)     2001.10.29

更紗さんのイチオシカップリング・闇夢ですv
更紗さんの書かれるクラ様は、怠惰なんだけど(笑)、夢様を掌の上で遊ばせてあげてるような余裕があって、っていうかつまりオリヴィエ様より2枚も3枚も上手でかっこいいのです。すごいわv
このお話、オリヴィエ様が狐だったり男たぶらかしてたり(笑)クラ様が絶倫だったり(爆)とツボいトコだらけで、さらにパラレルというのが新鮮で、とっても大好きだったので、風夢と合わせてコレもおねだりしてしまったのでした♪
狐……というか妖怪(?)になって、より享楽的になった夢様と、手強さも格好良さも2割増!な闇様、どちらもお素敵ですv 個人的に、酒屋でのやりとりの中での“にっこり3回分”という表現が、もんのすごおお〜〜〜っく好きなのです(笑)。
ところで。密かにオリヴィエに精気を吸われてしまった“赤毛の男”サンのその後が気になりますね(苦笑)。

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