calling


「っあーーー!!!」
 突然の叫びに、三人は目を丸くして声の主を見やった。声の主──すなわち悟空は、手
から箸を取り落とし、ついでに口の端からご飯粒が落下したのにも気づいていない様子で
ある。
「メシくらい静かに食え!」
 バシン、と小気味良い音を立てて、三蔵のハリセンが炸裂した。
「──悟空、どうかしましたか?」
 頭を抱えて痛がる悟空に、宥めるように声をかけたのは八戒だった。甘やかすな、と三
蔵が視線で訴える。──と言うよりはっきり言って睨みつけているのだが、八戒にはまっ
たく堪えていない様子である。
 もう一人、悟浄はと言えば、二人のやりとりを面白そうに眺めつつ、手を伸ばして缶ビー
ルを煽っている。
「どうしたんだよ?」
 促すように尋ねてやると、悟空は一大事!とでも言うようにガタンと音を立てて立ちあ
がった。
「たんじょーびっ! もう過ぎてんじゃん! 三蔵のっ!!!」
 思いっきり単語の順番が逆なのだが、この場合は強調を狙った倒置法なんかでは絶対に
ないことを、三人は熟知している。ああなんだそんなことか、と悟浄が興味をなくした様
子で椅子の背に凭れ、八戒は、ああ、とひとつ頷いた。つい数日前に誕生日を迎えた三蔵
本人は、そんなことはどうでもいいとでも言いたげないつもの仏頂面だ。濃い紫の瞳がひ
そかに逸らされたことに気づいたのは、八戒とその肩に止まる白竜ジープしかいなかった。
「ああ、そう言えばそうですね……。──ここ数日、千客万来でしたからねぇ」
 おっとりした調子で八戒が返す。実際、ここ2・3日、休む間もなく雑魚どもが現れ、
三蔵一行の行く手を阻んでは肉塊になって散らばる、ということが繰り返し行われていた。
「くっそ〜、あの前まではぜってー覚えてたのに……っあいつら〜〜っっ」
 悟空の怒りは、すでにせっかくの三蔵の誕生日を祝う隙も思い出す隙すら与えてくれな
かった雑魚どもと、その黒幕達に向けられている。八景と悟浄はちらりと視線を見交わし、
ほぼ同時に先ほどから一言も発していない本来の主役──三蔵に視線を向けた。
 と、節ばった手が机上の煙草を掴み、立ちあがる。
「あっ三蔵!!」
 無言で部屋を去ろうとする三蔵の背中を、悟空が慌てて追いかけた。
「──まさか、誕生日忘れ去られて拗ねてるってワケでもないだろ? 三蔵サマがよ?」
「──ええ、おそらく三蔵自身もすっかり忘れていたのだと思いますが……」
 すでに閉じられた扉を見やって、二人は再び顔を見合わせた。


「なあっ、三蔵! 三蔵ってば!!」
「なんだ」
「なんだじゃなくて! たんじょーび!!」
 喚く悟空には目もくれず、三蔵は歩くペースを落とそうとはしない。けれど、ついてく
る悟空を振り切るほどの速さでもなく、結果として三蔵は同じ距離を保ったまま悟空を今
晩の宿──久しぶりに取った個室だ──まで連れてくることになった。
「別に祝うほどの年でもないだろう」
 祝うほどのことでもない、と言うのはさすがに躊躇われ、代わりに出てきた台詞がそれ
だった。三蔵は自分で口にした台詞に自分で呆れた。
「っそうじゃなくて! ──俺も入れてよっ!」
 地団駄を踏んで、悟空はまるで癇癪を起こした子供のような強引さで、扉を閉めようと
した三蔵の手をぐっと掴んだ。
 顔を顰めて悟空を見やった三蔵が、ふと動きを止める。隙をついて扉を開けた悟空が、
その勢いのまま突っ込んできて、二人はもつれるようにして床に倒れ込んだ。
「なんで! なんで祝わせてもくんないんだよ! だって三蔵の生まれた日じゃん!」
 金鈷の制御を離れたときの眼差しとは少し違う、けれど同じくらい物騒な射抜くような
金の光が三蔵を捉える。
 その人が生まれてきたことに感謝をするのだと、誕生日を祝う理由を悟空に教えたのは
三蔵だった。岩牢につながれていた悟空に自由を与え、誕生日を与えたのもまた、三蔵だっ
た。
「──どけ、重い」
「三蔵!」
 苛立ちを抑えようともせず叫ぶ悟空にため息をついて、三蔵は全身の力を抜いた。上に
完全に乗り上げていた悟空が、それで我に返ったように、手をついて三蔵にかかる体重を
減らす。
「──俺にどうしろって言うんだ」
「祝わせてよ」
 即答。口を開く気にもなれず、三蔵は目だけで先を促す。
「祝わせてよ。三蔵の、生まれた日。三蔵が生まれてきたことに。生まれてきた三蔵に、
三蔵が俺に出会ったことに」
「……好きにしろ」
 呟くと、いいの?と責めるような強さで聞き返された。
「いいの? そういうこと言うと、俺、ほんとに三蔵のこと好きにするよ? 何やっても
知らないよ?」
「好きにしろ、と言っただろう」
「言っとくけど! 俺っ、いつまでもガキじゃないからな!」
 そういうことを宣言するあたりがガキだ、とは、口にするつもりはなかったが、せめて
ため息をつこうと開いた唇は、悟空のそれによって塞がれていた。


「なあ三蔵。なんで、俺のこと拾ったの?」
「言っただろう。──おまえが俺を呼んだからだ」
 気怠げに紫煙を吐き出して、天井を見上げたまま三蔵が呟く。
「俺が呼んでなかったら、三蔵、俺んとこ来なかった?」
「さあな」
 気のない返事に、むっ、と声に出して悟空が唇を尖らせた。
「……どうせ、どこにいたって、──おまえは俺を呼ぶだろう?」
 上体を起こし、抗議の口を開こうとした悟空を封じるタイミングで。
 それが当然のことのように、三蔵は言う。
「そしたら? そしたら三蔵来る?」
「──放っとくといつまでもうるせぇからな」
 高貴なる紫の瞳を覗き込んで、悟空は満足げな笑みを浮かべた。


                                             fin.



こめんと(byひろな)    2001.12.3

なにやってんでしょう私(笑)。でもやっぱり書きたい〜!となって、書いてしまいました三蔵サマお誕生日。っていうかヤツの誕生日は11月29日なんですが。ちなみにオーラバ(ハイスクールオーラバスターby若木未生/集英社コバルト文庫)の和泉希沙良くんも11月29日なんですが。──ごめんきーさん、君を私が文章で書けるとは思えないよ(苦笑)。
んで。これ、誰が信じようが信じまいが悟空×三蔵です。93なのです。んでもってひそかに58(笑)。
三蔵サマ、自分の想いも小猿の想いも持て余し気味? でもトーゼンの顔してトーゼンなこと言っちゃあたりはさすがというかなんというか。ああ、しかし、ちょっとわかりにくいカンジ?(^^;) 「ほんとに三蔵のこと好きにするよ?」とか言っちゃう悟空が自分で書いておきながら自分で萌えvだったり(笑)。
ちなみに。いっちばん最初の予定では、コメディちっくにわいわいがやがやな話になるはずだったんですが。三蔵サマ、根が真面目ですからねぇ(そういう問題なのか?)。いやはや、なんとも自己満足なお話でした。
あっ!そうだ、恒例(?)タイトル解説。っていうか英語だしメジャーな単語ですが。『call』って、「呼ぶ」って意味ですが、「欲する」「求める」とか「命令する」とかいう意味もあります。あとね、これ大事、「神の思し召し」。っきゃーv運命ってヤツよ!! で「calling」はcallアイエヌジー名詞でもあり、また「強い欲望」、call(名詞)と同じく「神の思し召し」という意味があります。もう、これは、全部ひっくるめて39または93のためにあるのよ!!ってカンジ?(笑)で、ソッコ決まり。余談ですがこのネタ(誕生日忘れられる三蔵)がコメディ予定だったときの仮タイトルは、『はぴはぴ』でした。──ばかじゃん!?(^^;)



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