「僕がいなくなったら、世界は変わるだろうか」

     そう思ったら、途端に自分が憎らしくなった。

     近くにあったカッターナイフが目に止まる。

     ふと気がつくと、それを手に取っている自分がいた。

     ……鋭い切っ先が、鈍色の光を放っていて。

     そっと腕を上げて、肌に触れる。

     鮮やかな赤い珠が現れて、やがてそれは一筋の線になった。

     後悔の痛みと、背徳の快感が胸を占めた。

     オマエ
     「僕なんか、消えてしまえ!!」

     強い憎しみを、自身にぶつけて。……消えてなくなってしまえばいい。

     でも。その痛みを感じているときだけは、

          「僕が生きている」

     ことを感じられて。僕がここにいることがわかって。

          ……やめられない……。


         セツナ  ユメ
          刹那の狂気に、溺れたい ──




     「キレイだ、お前の血……」     

     そう言って、あいつは俺の腕から滴る液体に舌を這わせた。

                   ユメ
       ──── 狂気の快楽に 溺れたい ────



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