【眠森談義 座談会編  第1回】

 
「いやあ始まりましたねー『眠森談義』! これからの長丁場、ヒトツよろしくお願いします八重垣さん!」
「あ、いえいえこちらこそ。」
「では早速本題入りましょうか。けっこう“押して”ますんでねー。早いとこ追いつかないと。」
「ちょっ…ちょっと待って下さいよ。それよりやることあるでしょう。」
「何が?」
「自己紹介しなきゃだめでしょう。誰だか判んないですよ聞いてる人…」
「ほー、そこまで凝りますかさすがは八重垣! …えー皆様初めまして木村智子でございます。これから12月までの第3クール、骨の髄まで眠森を楽しもうというこのコーナー、なぜかTKキャラの八重垣悟さんにおつきあい頂きまして、ラジオ仕立てでお送りする予定です。はい。」
「どうも。初めまして八重垣です。僕は今までSalon de Paonの方で『コンピュータ夜話』のパーソナリティーやってたんですけどね、なんでだかこっちもやれって言われて、TKの“撮り”も終わったことだし、お手伝いさせて頂きます。」
「いや実はですね八重垣さん。TK読んで下さってる方々の中にですね、八重垣さんのモデルが稲垣さんだっていうのに気づかなかった方がおられたぜ! もぉモロバレだと思ってたもんで意外でしたねー。」
「え、そうなんですか? 確かに意外だなぁ。イナガキにヤエガキ、吾郎に悟…完全繋がってるじゃないですか。」
「そうそう。まぁいちおうね、TKってSMAPキャラ総出演なんですけどねぇ。陽介は中居さんだしバイトの香川は慎吾くんで泉はつよぽんで。」
「久さんて誰なんですあれは。」
「あれはですね、銀座の―――って、ちょっとこれじゃTK裏話になっちゃいますよ。だからそれはこっちへ置いといてぇ。」
「ちょっ、僕のお茶持ってかないで下さいよ。」
「おお悪い悪い。…ま、こんな感じで今後、お送りしていきたいと思います。」
「ワケわかんないですね。」
「では早速参りましょう。えー放送の方はですね、第3回まで進んじゃってるんですけど、いっぺんに3つやると膨大な量なんで、まずは1回めについてをトークしようと思います。でもまぁ3回めまで見ちゃってますから? 若干ダブリはあるかも知れませんが。」
「そうですね。じゃ、今度こそ早速いきましょうか。」
「はいっ、第1回、眠森談義座談会―! まずはしょっぱなの事件映像とモノローグからっ!」
 
■プロローグ■
「なかなかショッキングな出だしですよね。土砂降りのクリスマスイブっていうのがいいなぁ。」
「あ、八重垣さんもそう思いました? 冬の雨って雪より冷たいですからねー。中島みゆきさんの『ひとり上手』のフレーズにもありますけど。」
「映像、凝ってますもんね。このマリア像がいいな。泣いてるっていうか、笑ってるようにも見えません?」
「ああ確かに。でも私ここで気づいたんですけどね、この聖歌隊の男の子ね、遺体を見て手合わすでしょ? こん時、仏教オガミしてないですか?」
「仏教オガミって…何ですそれ。」
「手の組み方ですよぉ。キリスト教ってこうでしょ? でもあの子こうやって指そろえて掌合わせてる。」
「そういう宗派なんじゃありません?」
「天台宗とか真言宗とか? どっちが空海でどっちが最澄でしたかね。」
「高校受験じゃないんだから…。カトリックとかプロテスタントとかですよ。」
「うーん…。キリスト教にはとんと縁のない木村智子…。ウチは鎌倉新仏教なんでねぇ。日蓮宗。いやそんなこたどーでもいいんです。仏教オガミするキリスト教の流派があるのか、ご存知の方いらっしゃいましたら、このページのいっちゃん下に書いてありますアドレスまでメール下さい。」
「僕はもう1回ビデオチェックしてみます。」
「あ、そうして下さい。チラッとしか映らないんで私もちょっと不安でして。…それとこのシーンについてはですね、この眠森コーナーのドライメモを作ってくれてる新宿区にお住まいのH・Kさんのご意見なんですが、字幕が出るじゃないですか、白い字で。あの中にちょっとひっかかるモノがあるそうなんですよ。」
「ひっかかるモノが。」
「ええ。『この雨で、大量の返り血を浴びたと思われる犯人の痕跡は消されてしまった。』ってやつ。なんであんなことわざわざ断るんだろう、だって犯人は国府な訳で、犯人がつかまった以上返り血がどーしたなんて関係ないじゃないねって。」
「ははあ…なるほどね。」
「これってまるで、真犯人は他にいるのに、それが判らなくなったのは雨のせいなんですよって言わんばかりだと。そういったご指摘ですね。」
「うまいとこ突いてきますね。うん。これってチェックポイントかも知れないな。」
「あと、このプロローグ部分の白眉っていったら何たって2人の会話でしょお! バックの森がねぇ、また綺麗でねぇ!」
「アレですよね、直季の、『いいよ』にとろけちゃった人が山ほどいるそうで。」
「そうそう。ありゃー、とろけるでしょう! 睦言だもんね丸っきり。服着て言うセリフじゃあ、ないですね。」
「なんかいきなり大胆ですね。」
「拓哉の肩、ねぇ。最近の。あれって枕にしたらサイコーによさげですからねぇ。」
「智子さん、目、目。血走ってますって。やめて下さいよ怖いから…。」
「ま、あの2人の会話はですね、私としてはメビウスの輪ののりづけ部分じゃないかと思うんですよ。」
「メビウスの輪って…あれですよね、リボンとかを1回くるっとねじって輪にすると、裏も表もなくなっちゃう。」
「そうそうあれあれ。あの会話がね? そんなふうに過去と未来とを、一筆書きのように繋ぐんじゃないか…すなわち、あれは2人の過去であり未来でもあると…」
「え、ちょっと待って下さい? 未来でもあるということは、ラストで2人は結ばれる?」
「いや、世の中そう甘くはないでしょう。全く別のシチュエーションであのセリフが使われるんじゃないかと思いましてね私は。それが何かは、まだちょっと断言できませんが。」
 
■実那子と輝一郎の朝■
「仲村トオルさんてゆーとねぇ。あたくし的にはどうしても『まぬけなどーぶつ』なんですよねぇ。」
「間抜けな動物? …ビーバップじゃなくてですか?」
「あ、あれは見てないんですよ。そうじゃなくて“あぶ刑事”の町田トオル君ですねぇ。女紹介するって言われちゃあ、2人の先輩にいいように奴隷化されてる。」
「でもトオルさんて背高いし、カッコいいと思いますよ? 僕は。」
「確かに背は高いですね。拓哉と並ばれっと、ありゃま、ってカンジしますから。」
「しますか、カンジ。」
「しますねぇ、悔しいけどねぇ。」
「でも8時半に起きて間に合う会社っていったら近いですよね、突然ハナシ変えちゃいましたけど。」
「…あれ、走る時にさ、美穂さんの胸、弾んでますよね。」
「どこ見てんですか智子さん…」
 
■オーキッド・スクエア■
「―――なんで蘭なんですかね。これアタシ不思議なんですよ。別の花じゃなくて、蘭。ただのイメージなのかなぁ。なんか、意味あるような気がすんですよねー。」
「そうですか? 豪華さとか妖しさとか、そういうのの象徴だと思いますよ僕は。」
「そうかなぁ…。まぁ、そうかも知れませんけど…。女の象徴、すなわち“母”の象徴かなぁとか、思ったんですけどねー。」
「あ、いちおう押さえときましょうか、そのセン。しかしマセてますよねこの中学生。」
「いや、今どきこれくらい普通っしょー! 実那子のその部位にチラッと目を走らすのがなかなか。」
「あれって演出家の指示なんでしょうね。」
「あの子の自主演技だったらそれはそれですごいですけど…」
 
■居酒屋で飲む実那子と輝一郎■
「ここではですね、『8秒のうちに飲まないと今が終わっちゃう。』っていうの、トオルさんのアドリブじゃないかと私は思うんですよ。」
「アドリブ?」
「そ。『ドラマ』に掲載されたシナリオには載ってないですもん。それにあの後の美穂さんの笑い方、素じゃないかって気がする。」
「なるほどねー。大ウケしてますもんね。NG集でもこのシーンやってたでしょう。」
「ああ、まずNGは出るでしょうね。脳の仕組みが何ちゃらかんちゃら。複雑なトコだ。」
「こういうの好きなんじゃないですか? 智子さん。」
「好きですねー。あっちこっちで言ってますけど、以前、『NHKスペシャル』でやった『驚異の小宇宙・人体2 脳と心』で大泣きしたんですから私は。NHKスペシャルで声上げて泣いたのはアトにも先にもコレと『生命・40億年はるかな旅』だけですね。も、サイコーでしたから。」
「はいはいその話はまた後でお聞きします。話し出すと止まらないでしょう。」
「止まりません。」
「でもこの、現在という時間は計算すると約8秒だっていうのは初耳ですね。」
「ああ、それは私も思いました。スマスマの8秒の壁って、どっから8秒になったんだと思ってたけど案外奥の深いコーナーだったんですね。」
「Pちゃんピピピピみピピピピ。」
「はい、やらないやらない。」
 
■夜景の見えるバー■
「ここってカメラワークがめっちゃ素敵。2人の背後をずーっとこうパンしていくのがよかったですわ。テーブルに間接照明が丸く落ちてて、ムーディーで。」
「あの窓ぎわに並んでた酒瓶も綺麗でしたね。ビルの灯りがクロスして。」
「うんうん。」
「輝一郎の『さっきから何やってるんだろ』ってセリフもリアルだと思いません? よくありますからねそういうことって。」
「ありますねー。」
「店の中にいきなり強烈なライトがぱあっと射し込む。この演出、僕、好きですよ。ドラマチックだけど何だか実際にありそうで。」
「そうですね。…美穂さんコンタクト入れてません?」
「…そこまでは見なかった…。」
 
■ビルの屋上■
「キャーッ! たくやーっ!…て、心で叫びました私。はい。自己申告します。」
「叫んじゃいましたかやっぱり。確かにカッコいいですもんねー。この白いコート、流行りそうだなぁ、また。」
「てゆーかこの衿からフード出すスタイルね。帽子と。渋谷あたりはまたそんなヤロウで一杯になるんでしょうなぁ。影響力大ですよホント。」
「ライティング・デザイナーなんて、初めて聞きましたよ僕。」
「あたくしもです。まぁ学生時代にほんのちょっとだけ? 照明のマネゴトしたことはありますが。」
「演劇部でですか?」
「そうそう。貧乏県立の弱小部ですけん、何もかんも自作でね。『ジュリエットがベランダに立つこのシーンでは、シーリングスポットを何色にしてホリゾントは何色、ボーダーは何色』…って、それくらいのプランニングはしましたよ。ホリゾントをオレンジにして、そこにボーダーで濃い青当てると、すごく奥行きのある夕焼け空になるんですよ。」
「へーっ! なんか…ほんと芸の多いヒトですよね智子さんて。何仕込まれてんです他に。」
「あたしゃ猿かぃ!」
「いやいや。…ここでの『1番3番アウトします』とかってセリフ。学生とか若い男の子が聞いても『かっこいー』って思うんじゃないですかね。」
「ああ、そうかも知れませんねぇ。専門用語ってカッコいいんだ。コンピュータ屋の醍醐味ってトコありません? 八重垣さんも。」
「…ありますね正直言って。大したことじゃないのに、尊敬のまなざしされたりしてね。」
「判る判る。」
 
■直季のマンション■
「僕はユースケさん、いいですね。なんていうか、重たい話の中でそこだけ肩の力抜いてくれるっていうか。この人もブレイク寸前とか言われてるけど、彼にとっても勝負ドコでしょうね眠森は。」
「ああ、そうかも知れない。『踊る大捜査線』で顔売れましたからね。私も好きですよこの雰囲気。ただ…ストーリー的に敬太って、最後は案外悪役っぽいトコ行きそうな気がしますけど。まぁここでは触れませんが第3幕あたりでねぇ。みなさんハッとしたんじゃないかなぁ。」
「うん。彼、ベランダで言いますもんね直季に。お前を殺したいって意味のこと。彼が敵に回ったら直季もかなりヤバイだろうな。だって直季のしてきた…いや頼んだことを全部、彼は知ってる訳ですからね。」
「チェックポイントですねこれは。今後の敬太の動向。」
「ところでこの2人、群馬出身なんですね。」
「あー! そう! そぉなのっ! 群馬の男! あたしぃ、あたしぃ、正直、チョーやだ!」
「なんでですか。自分が住んでるところなのに。」
「なんかさぁ。サエねーもん群馬のオトコって。間違ってもカッコよくはない。」
「群馬の有名人て誰います?」
「えーとねぇ、中曽根元首相とか。中山のひでさんとか、萩原朔太郎とか。」
「いや朔太郎出されても…」
 
■横浜のアパート■
「これねぇ。アタシ、思うんですけど…横山めぐみさん。」
「はいはい、めぐちゃん。」
「彼女にとってさ、スマスマって、ある意味損なのかなって思いましたねー。彼女が出てくるとどうもコントみたいな気がすんですよ。」
「…うん…。それ、言えてますよね。彼女が悪い訳じゃないけど。」
「当たり役ひとつ取っちゃった女優さんの悲哀に近いんじゃないかなぁ。そのイメージに拘束されて、視聴者が別の役を受け入れてくれなくなっちゃう…。寅さんまでいけばねぇ。これはもう、ただもんじゃないけど。」
「そりゃそうですよ。だって国民栄誉賞ですよ?」
「そうですよねぇ。難しいとこだと思いますめぐちゃんは。彼女見てるとどうも、アパートには国府じゃなくチンピラくずれのゴローちゃんがいそうな気がして…。」
「(笑)」
「タッくんがリンダ連れて出てきても全く違和感ないという…。スマスマの功罪ですねぇ。」
 
■引っ越し前のマンション■
「本文に『コンベックス』って書いちゃいましたけど、八重垣さん何のことか判りました?」
「いいえ。」
「実那子が持ってた、青い、小型メジャーみたいな奴です。薄い金物でできててね? はしっこを机のカドとかに引っかけて長さ測るんですよ。契約するとたいてい業者がよこします。社名入りのヤツを。」
 
■九条物産会議室■
「輝一郎の過去を暗示、ってシーンですね。伏線かなぁ。」
「そうでしょうね。彼もイロイロやってきたんだ。」
「しかし社内プレゼンにこんな凝ったスライド使いますか? 普通。」
「使いません。これはTVドラマならではの“ソレッポイ演出”でしょう。」
 
■荷物整理をする実那子■
「ここのツボは何たって『花とゆめ』ですよ! しかもたった2冊! 何が目的だったんでしょうねぇ! フジっぽい小技ぁ!」
「15年前っていうと、どんなの連載してました?」
「えーとね、私がまだ小学生の頃だからぁ…」
「はぁぁぁぁぁ?」
「………」
「このグローブ、ちょっと綺麗すぎません? 実際にキャッチボールとかしたらもっと汚れるよな…。やっぱ作られた記憶なのかな。…ってこれまだ言うの早すぎます?」
「………」
「…ますよ、ね。はい。―――あ、そうだそうだ、智子さんおっしゃってませんでした? この、直季の手紙の中に重要な手かがりを見つけたって。それ教えて下さいよ。」
「そうね。話し合いは後にしましょうか。座談会中だしね。ふっ。」
「…次回からこの担当僕じゃなくなってたりして…。」
「ここでですねー。何度もビデオ見返してるうち、『あれっ?』って思ったんですよ。実那子が文章を読み上げてるのに、これまたカメラが文面を写すんですわ。子供の字だってことを強調したいのかなと思ってたら、『雨がひどく』『僕は長靴をはいて』って文字が…正確じゃないかも知れないけどね? なんかそんな文章が見えたの。雨?長靴?…そう思ってハッとしちゃって。―――直季はもしかしたら、あの殺人事件の現場にいたんじゃないの? 土砂降りの中、長靴をはいて、さ。とするとあのラストシーンの白いカサの下。あれって子供の頃の直季じゃないか?」
「あー、………」
「ここねぇ、手紙を写すカメラの早さが微妙なんだわ。文章までは追いきれないんだけど字づらは見える。そんな感じで。こりゃあひょっとして…と、今でも思ってますわ。」
「でも現場にいたってことは、直季が殺人事件の犯人だって可能性もありえる訳ですか?」
「いやー…そりゃあ…ないと思いますよぉ…。直季が犯人じゃなあ…。なんか…意外性は文句ないけど、ストーリーの深みがなくなりません? 彼はやっぱ王子様じゃなくちゃあ。うん。」
「どうでしょうかねぇ。」
「ちょっと先進みましょう。これに関してはまだあるから。」
 
■マンションで荷造りをする直季■
「ここはサービスカットと言ってもいいくらいなもんでしょう。さっすがプロデューサーが女性だなぁ。女性視聴者の見たい映像、ちゃんと押さえてますわ。」
「木村拓哉の肩ですか?」
「それと胸板。うーん…キリッと束ねた髪がたまりませんなぁ。下ろした方が好きって人、断然多いみたいですけど…私、こーやって束ねてる拓哉が好きなんですよねぇ。マスクに似合わず首とかガッチリしててさ。でも長いんだなこれが。」
「彼に酔ってます? ひょっとして。」
「酔いますよそりゃあ。チッキショー!って感じ?」
「サービスカットねぇ。物語上でも意味のあるシーンだと思いますけど?」
「あ、それはそう。由理の想いがやがて憎悪に変わる予感、ね。こういう別れは残酷ですよぉ。なんかさぁ、花壇に植わってた花の茎を、バチッ、って切り落とすみたいなね。切られた方はパニックでしょお。効果音が効いてますねー! 電車だのヘリだの。いい演出だなー。それと拓哉の演技ねー。細かいとこちゃんと押さえてんなー。意味もなくガムテープちぎったり、由理が出ていったあとの辛そうな顔とか。直季って、絶対そんな悪い奴じゃない。拓哉は要所要所でそういう表現してるもん。少なくとも私にはそう見える。血も涙もない男じゃないんですよ。ミゾグチタケヒロとは訳が違う。」
「いきなりその名前を出しますか。」
「好きなんだもん『Gift』! 映画で続編やってくれー!」
 
■上野駅〜列車の中■
「このへんからさ…ナレーションをうるさいなと感じるようになりません? あたしは、イライラする。」
「ああ、そういう意見多いみたいですね。よく知らないけど。」
「映像の演出が凝ってるなぁと思うだけに、コトバが饒舌なんだよなー。小説書くヒトのシナリオだなっていうか。…八重垣さん、レーゼドラマって知ってる?」
「いいえ?」
「読むためのシナリオのことをそういうの。シナリオっていうのは、あくまでも役者が舞台とかで実際に演じることを前提として書かれてるでしょ? けどレーゼドラマってそうじゃないの。もっと文学性に重きをおいた、シナリオの形式を持つ小説…とでもいうかな。眠森ってなんかそれに近い気がちょっとした。今後もこの調子だと、このナレーションがうっとおしいって指摘、多くなると思うなー。もっとさぁ、映像と演技を信用すればいいのに。」
「映像を信頼ですか。」
「うん。例えばさっきのヘリの音じゃないけど、あの音があるだけで、ああ、今はおだやかに晴れた昼下がりなんだなって思いません? だからこそ由理にとっては残酷な別れなんですよ。もっとムードのある、バアとかね、じゃなきゃベッドの中とかね? そういう場面で別れを切り出されたら案外聞けたのかも知れない。いい演出ですよホント。心憎いよ。」
「なるほど…。そういうことですか。」
「なのにさぁ。『故郷に帰るにはちょっと勢いが必要で、昼間からビールを飲んでしまった。』…見りゃ判るつーの。シートからビーバーみたくヒョイと顔出して、向かい合わせのシート回したりして…ああいう演技だけで十分、実那子のウキウキは伝わってくるじゃない。ああもう、なんでこのナレーション、カットしないかねぇ、うざってぇ。」
「ちょっとちょっと、けなしすぎですよ。」
「だってさー。このホームが上野駅だってことは、『17番線から…』ってアナウンスだけで判るやん。そんな数の多いホームは上野か東京駅にしかないしぃ? しかもあの、ちょっと薄暗いザワザワっとした光景。ありゃあ上野だ間違いない。…そこまで表現できる映像の前ではさぁ、よけいなナレーションは不要でしょお!」
「…次行っていいですか? エンドレスしそうだから。」
「はぁいどんどん行きましょうっ!」
 
■故郷での実那子・心の準備■
「…このシーンでもさぁ。ナレーションがうるさい。」
「まだ引っ張ってます? それ。」
「だって! 『いつも赤い鉢巻きのおじさん』って言う必要あるか? 赤い鉢巻きしたおじさんが画面で笑ってるじゃねーの! それだけでいいのよぉ。くどいっ!」
「はい。はいもう判りました。眠森に対する智子さんの批判は、脚本がもっと映像を信頼していいと、そういうことなんですねっ?」
「そうです!」
「じゃあそれはわかった! 他のこといきましょう!」
「この本屋のおじさん、いい味出してますよね。」
「…また突然進みますね…」
「あとは何つったって、あの、外から見た森の映像。いやー、綺麗だねえ! トトロかタクヤがいそうだよねぇ!」
「うん、綺麗ですね。この第1回めの全シーンの中で、これ、一番綺麗じゃないですか? 微妙に濃さの違う緑と、実那子の服のワインレッドがよく合ってて。」
「そうそう! スカートの色もいいし、靴もバッグもカッコいい!」
 
■森の中にて■
「これまた映像が素晴らしい。見上げたカメラがね、『天から注ぐ光』っていうか…瀬名くんのピアノってこんな感じの音を出すんだろうなとか思いましたよ。」
「うわ、それすごいや。眠森のサウンド・トラックの演奏者が瀬名秀俊だったら…」
「くぅぅーっ、夢のようですねぇ!」
「このシーン、ロケ大変だったでしょうね。カメラだライトだ、周りにある訳ですから。」
「うん。第1幕の中心となるシーンだもんね。まさかノンストップで回しちゃいないとは思うけども…アップとロングの使い分けも絶妙だし。直季の表情、悪魔になったり天使になったり。そう、ここねぇ。実那子が『あの…』って声かけて、直季は帽子をずらすじゃない。で、ちら、っと彼女の顔を見た直後にね、カット切り変わってるんだよね! いや『カット切り変わってる』って言い方がいいのかどうか知らないけど、直季がどんな表情を浮かべたかは、はっきりと写してないの。これも演出なんだろうなぁ…。」
「そうでしたっけ。」
「そうです。このシーンは絵コンテ描けって言われたら描けるほど見た。直季の表情がどう変わるか…それを追っかけただけでも、『ああ、この人は決して悪人でもストーカーでもないんだな』って思えたね私は。『残酷なことが待ち受けてんだよ!』と言ったあとの切なげな目ったら…。直季にはきっと、何か『悪役を演じなきゃいけない理由』があるんだろーな。それがこの物語の大きな鍵でしょうね。わざと不気味がられようとしてる感じ、するもん。」
「あれですか? 後ずさって木の幹に突き当たった実那子に、こうやって、怖くないよってなだめるみたいな?」
「そうそうそれもだし。『実那子は今、生まれたんだ。簡単なことだって・・・。』って言ったあとでさ、言葉にはしないけど、子供に言って聞かして『判った?』って言う時みたいに、『ん?』って表情するんだわ直季は。…なんか、せつない。」
「制作者の思うツボなんじゃありません? それって。」
「だとしたら嬉しいねー。思う存分ツボツボしてほしいもんだ。」
 
■森を出て、実那子〜雨に打たれる直季■
「ここで、さ。またあたくしすごいコトに気づいちゃったの。」
「今度は何ですか。」
「…なんで、さ。ハンモックなんだと思う?」
「さあ…。流行りそうな気はしますけど。」
「うん、するね。―――あのね、これも5回くらいビデオ見て『あれ?』って思ったんだけど。このさ、ハンモックに乗っかって雨に打たれてる直季ね? …これはあの夜の実那子と、自分を同じ状況に置いてるんじゃない?」
「…え?」
「ハンモックって…担架に似てません? でさ、直季、とろんと目をあけてるんだよね。でさ、しょっぱなの事件のシーンでも、運び出されてくる『次女』…多分、実那子。ショックの極みって感じで目あけてるの。これ、気づいてない人多いと思うんだけど。」
「…ビデオ見てみます。」
「うんうん、是非。殺されちゃった『遺体』は品物みたくビニールに完全に包まれてるんだけど、長女と次女は担架なんだよね。まぁ、あの目を開いてたのは長女じゃないかって言われれば確信はないけどさ。でも…この、ハンモックのシーンがある以上、あれって実那子だと思うんだよねー。とするとですよ? さっき言った『長靴』…直季の手紙に書いてあった文章。あれとも通じるんじゃないかしら。直季は見ていたんだよ。雨の中、運び出されてくる実那子をさ。」
「うーん…。ありえますねそれはね…。」
「『ドラマ』に載ってたシナリオ読んで、一番ドキッとしたのはこのシーンの直季の描写だったねー。ここに書き写すと多分著作権がどーたらでヤバイと思うから、お手元にある方はどうか参照してみて下さい。34ページの上段から中段にちょうどかかるあたりです。ごく短い。」
 
■輝一郎のマンション■
「ここも演出にカブト脱ぐねー。まずはシーン最初の時計の音。これで『ああ、深夜も深夜、真夜中なのね』って判る。時計の針があんなに大きく聞こえるのは0時前じゃないぞ。上野駅で聞いた携帯にもあったじゃない。残業で遅くなるって。実名子は輝一郎が帰ってくるのを待ちかねて、自分から抱いてくれってせがんだんだろーね。床に落ちてる洋服と、ソファーの上に横になってる、ってのが象徴的だわさ。現実だったら実名子は裸だと思うよ。シャワーとかそんなのも省略して、けっこう激しく、アレだったんだろうね。うむ。」
「…さすがですね。」
「どーゆー意味やねん。」
「いや、官能小説、得意なだけあるなって。」
「不安を、さ。鎮める特効薬ってセックスだからね。このさい行きずりでも何でもいいから。」
「ちょっとちょっと智子さん…。」
「男のヒトはどうか知んない。でも女はそうだよ。セックスってさ。男が自分を、強烈に欲しがってくれるコトじゃん。もちこっちも欲しいんだけどね? それでこう…理屈抜きで安心できるのね。自分はこの世に1人じゃないんだって。」
「そういうもんなんですか?」
「うん…。まぁ、狭っちょろい人生経験と重ね合わせれば、そう。」
「えーこの点につきましてもご意見のある方は、このページの最後にありますアドレスへメールを送って下さい。」
「仕切るねー八重垣くん。」
 
■翌日・実名子の職場■
「この園長…中村さん。Giftで奈緒美にディスク渡したあと殺されちゃった人。田山さんか? 気が弱いけど人使い荒くて、でもやっぱいい人。そんな感じするよね。」
「複雑ですねキャラ設定が。」
「脇役ってさ。重要だと思うもん。実名子の仕事が、ものすごい充実感ってとこまではいかなくても、そこそこ楽しいんだなって判るじゃない。こういう園長さんなら。こういうトコしっかりしてないと、ドラマってほころびていきますよ。」
「ああ、それは言える。」
「新しい蘭が入荷した、っていうの、これは続くシーンの伏線だったのね。温度とか湿度に気を使わなきゃならなくて、だからこの晩の実名子の残業には、けっこう責任あったんでしょ。電源なんか落とされちゃあ、たまったもんじゃなかった。」
「そういうことですか。細かいですね。」
「直季って、なんせライト屋じゃん。明かり消すのは得意中の得意だろうと思うよ。」
「プロですからね。配線見ただけでだいたいのことは判るのかな。」
「判るんじゃない? 少なくとも設定として不自然じゃあ、ない。」
「でもバンダのうんちくたれてる直季。あれって『拓』っぽかったですよね。」
「おおっさすがは八重垣くん! 言ってほしかったコトバだ、あたしは嬉しい!」
 
■ラスト・再び事件の夜■
「…って見出しつけましたけど、これ、ちょっと不思議なんですよね。」
「今度は何がです。」
「これさ、誰が見ても、一番最初の事件当夜ですよね?」
「そうじゃないですか? やっぱり。」
「うん。でも、間違い探しじゃないけど、ひとつだけ違うとこあんですよ。」
「ひとつだけ?」
「いや2つ3つ4つ5つあるかも知んないですけど。」
「数え歌ですか?」
「…イブの夜に、雷、鳴らねーべ? 日本の場合。」
「鳴ってましたか? このシーン。」
「鳴ってました。12月に雷は鳴らないでしょう普通。福島県でフェーン現象でもあればともかく。私も画面見てる時は全然不思議に思わなかったんですよ。文章に起こしててあれっと思ったの。冬に雷、鳴らないぞ?って。…これ、不思議なのはさ。なんで画面見てる時はおかしいと思わなかったのかなぁ。納得して見てたもんね。」
「納得してですか。」
「そう。これはねー、森の中で直季が雨に打たれてた、あのシーンの印象が頭にこびりついてたからだと思うの。雨・ハンモック・雷鳴・白いコート。対して、雨・担架・雷鳴・白い傘。―――この2つのシーンはさ、やっぱ意図をもって重ねられてんじゃないの? クリスマスイブの晩に雷が鳴るなんて、日本じゃまずありえない設定によってさ。『あれ、おかしいな』と思ったとたん、すぐとなりに伏せられてるペアのカードが判るというか。ハートのクイーンとスペードのキングが並んでる…。白って直季のシンボルカラーなのかも知れないね。」
「うーん…。」
「この推理は、八重垣さんとしては、どうよ。深読みしすぎかね。」
「いや僕としては、ここまで熱く語って、全部まとはずれだったら引っこみつくのかなって、それを心配してんですけどね。」
「だあいじょうぶ大丈夫! そしたら『やられたー!』って拍手するだけですよ。そんなこと気にしてないっ!」
「そうですか? ならいいけど。…はい、第1回めもだいぶ長くなりました。このへんで眠森談義座談会編の第1回めを終了しようと思います。ご意見ご感想、仏教オガミの宗派について、女性はセックスに何を求めるか等々、ございましたら何でも結構です、下記アドレスまでお気軽にご送付下さい。場合によっては当コーナーでご紹介させて頂くこともございますが、その場合は事前にメールいたしますのでご安心下さい。それでは次回まで、ごきげんよう。パーソナリティーは私、八重垣悟と、」
「フクシマ・ゴウでしたっ!」
「ちょっと――――っ!」
「木村智子でしたーっ! ぶいっ!」
 

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