【眠森談義 座談会編 第3回】
「今回いいペースですね。いい感じで来てるじゃないですか。」
「おぅ。この調子でぃ! なんとか本放映と並行してね、UPしたいモンですからさ。…かーなり寝不足だけど。」
「とにかく頑張っていきましょう。ねっ! みなさま今回もよろしくおつきあい下さい。―――八重垣悟と、」
「木村智子がお送りする!」
「「眠森談議座談会編・第3回〜!」」
「いま綺麗にハモりましたね。」
「なんか、気が合ってきたねぇ! はっはっはっ!」
■部屋に帰って来た実那子■
「ここの直季はオロナミンCだよね。手を望遠鏡にしてるのがおかしい。」
「ほんと人くった男ですよね。でも実那子も気丈な女性だな。独りで解決しようだなんて。」
「どうだかねぇ。自分でも判んない後ろめたさが…ちょっとはあるような気がするな。」
「後ろめたさ。輝一郎に対してですか?」
「そうそう。…ま、これについてはアトで触れるとして、次のシーン行こう。」
■九条物産・部長室■
「ここのメモ聞き取るのに苦労したー! 早口なんだもん武藤さん。」
「この記事とFaxは、武藤にとって渡りに船の好都合だった訳ですね。真偽の程はともかくとして、輝一郎を左遷させるための。」
「そうそう。自分の娘をいいオモチャにされたからって、それだけで輝一郎を個人攻撃したんじゃ、部長だって回りに情けない男だと思われるよ。でも会社の信用に傷がつくとあらばねー。これは大手を振って攻撃できる。…信用かぁ。便利な言葉。」
「あそこで言い返しちゃ、いけなかった訳ですね輝一郎は。」
「うん。お嬢さんの“お”の字も、言っちゃいかんかったと思うよ。『会社に言われてやってることです』って、それ1本で押しゃいいのに。若い若い!」
「しかし九条物産て何やってる会社なんでしょうね。全世界に支店持って、担保物件として絵も押さえてるんでしょう? 物産ていうからには金融関係じゃないだろうし。」
「得体の知れない会社だよね。多分さぁ、文化事業局なんてのは、バブル期に新規事業として始めた道楽部門なんじゃないの? 今ではリストラ対象部門になりかけててさ。そいで、当時の設立の言い出しっぺって実は武藤なのかも知んない。」
「読みますね智子さん。」
「輝一郎の活躍はさ、武藤にとって『痛し痒し』ってトコ? 新規事業はヤケドのもとよ。飛びついちゃあいけませんなぁ。」
「不況になると新規事業から潰れていきますからね。」
「そうそう。たいていそういうもん。」
■マンションで、実那子と輝一郎■
「このシーン、脚本すごくよく出来てると思うなー。実那子は自分に身寄りがないせいで、輝一郎の上司とかに、この結婚は似つかわしくないと苦笑されてると思ってる訳だし、輝一郎は、自分の過去の女性問題が真の理由だって知ってる。この2人のさ、互いを思いやりながらもどっかズレてる考えってのが、すごくよく出てるね。さすがさすが。こういうのは小説よりもシナリオの方が味が出る。」
「輝一郎は、こういう実那子っていじらしくてたまんないと思いますよ。ほんとは自分が悪いのに、彼女はあたしのせいだと思ってる。何を捨てても守ってやろうって気になるでしょうね。」
「だろうねー。しかもさ、そんな実那子に、あたしも負けない、1歩1歩あなたと進んでくって言い切られちゃあ、そりゃたまんないよ。絶対に失いたくない女だよね、実那子は。」
「うん。なんか輝一郎には感情移入できちゃいますね僕。直季って男は、いまいち掴みどころがないじゃないですか、まだ。」
「それは言える。彼をフォーカスにドラマに入る訳にはいかないよ。ジェットコースターみたいに振り回されて、酔っちゃうだろ。」
「それでも視聴者の心を、直季に引きつけておかなきゃならないんだから…これ、直季って一番難しい役どころなんじゃありません?」
「そうだよねー。頑張れ拓哉―! 全てはキミにかかっているぞ!」
■直季の部屋■
「ランニングでおでん食うなー!…って、何人が思ったかねこのシーン。」
「眠森の木村拓哉って、日常生活のシーンが多いじゃないですか。不思議と素に近い感じ、持っちゃいますよね。」
「髪の毛のせいだと思うな、あたし。瀬名くんにしても哲平にしても、髪切ると外見の印象が全然変わっちゃうからさ、拓哉は。」
「ああ、髪の毛のせいなのか。素の彼のイメージはロン毛なんですね。なるほど。」
「実那子もさぁ。どうもいま1歩、直季を攻撃しきれないの。怒鳴りこみにいった部屋で相手が自分の好物…しかも呑気にこんにゃくなんぞ食ってた日にゃあ、出鼻くじかれもするわいな。不思議と憎めないんだよな直季って。」
「このへんのキャラクター設定が、後半からクライマックスにかけて活かされていくんでしょうね。」
「うん。直季の真実が明かされる時、ストーリーの全貌も判る。多分そういう設定だと思うなこの物語は。」
■敬太の訪問■
「キーマン・敬太の暮らしぶりの一端を、我々はここでかいま見る訳だね。ギャンブルに狂ってて借金取りに追いかけ回されてて、なんかけっこう異常系なことをする…。」
「実那子の部屋に発火装置投げ込んだのは敬太だったんですねぇ。まあ指示したのは直季だとしても、具体的に何をどうしろとは言わなかった訳でしょう? とするとビラ撒きも蘭のカラ注文も、みんな敬太が考えたことなのかな。」
「うーん…。そうハッキリは言ってないけど、そう思っていいんじゃない? だから実那子が職場に怒鳴りこみに来た時、直季はやぐらの上で『なんとなんとなに?』って聞き返したんでしょ。」
「そういうことでしょうね。しかも金に困ってたら、いずれ直季を売る下地も十分、か。」
「金で動く男だってことの伏線でしょうね。そういや彼、直季に言ってるもんね。『これ以上やるのは高いよ?』って。友達から金取るなよせっこいなー。」
「直季って面倒見よくありません? ギャンブルもほどほどにしろとか、生き急いだってしょうがないとか。」
「お兄ちゃん、て感じでね。敬太も直季みたいな友達がいて心強いかもね。…まぁでも好きな女持ってかれて、揚げ句にポイと捨てられちゃなぁ。」
「そこへ行きますかやっぱり。敬太の恨みは。」
「恨みっていうか、心穏やかじゃあ…ないよね。ぜってー。」
■国府と春絵のアパート■
「中華料理店の店員てのはさ、薄幸の象徴なのかね。ガラスの仮面の北島マヤんちもそうだし。」
「裕福な感じはしませんからね。でもそこそこ明るさはありませんか。これが日本そば屋だったら…ねぇ。何だかなぁ、でしょう。」
「うわ、くれー! 日本そばじゃ駄目だ!」
「このシーンでは、銀色の折鶴がこう、ぱたっ、てなるのがいいですね。国府はどんな気持ちで枕の上にあれ置いたのかな。」
「お詫びの気持ち…あるんじゃないの? 春絵に対して。あ、思い出したけど、この部屋って必ず鳥の声がしてるよね。何かの暗喩なんじゃないかな。森の記憶の共有、みたいな。」
「鳥…ですか。」
「そ。第1幕の森のシーンでさ、鳥の声がすごい綺麗だったじゃない。―――これねー、今ココで言っちゃいますけど、第4幕の、横浜の実家での輝一郎と父親の会話。あのシーンにもやたらと鳥の声がすんだわ。あれ?って思った。」
「へぇ。さすがは鳥好きですね。」
「そ! 鳥さん大好き人間! 手の中に鳥さん乗っけて、たいてい寝かしちゃえるもんねー。チッチッチッ、て鳴きまねしながら。」
「不思議な特技ですね。あと他にも何か得意技隠してません? いろいろ持ってそうだからなこの人。」
「…挿し木とか、得意かも。」
「変わってますねぇ…。」
「八重垣くんには言われたくないけどねぇ。」
■モーニング・ミルク■
「このシーンって、今まで眠森全然見てなくて、たまたまチャンネル合わせたって人が見たら、絶対恋人同士だと思いますよね。」
「ああ、そう思うだろうねー。最初から見ててもふとそんな気がするもん。実那子の口調がね、なんか甘えてるみたいでさ。『だったら早く行きなさいよ』なーんて。顔も見たくないほど嫌ってたら牛乳屋の前、行き過ぎるでしょー!」
「そうですよねぇ。絶対そうですよ。」
「このへんがアレかな。『カムフラージュ』の歌詞で言わんとしてることなのかな。」
「何度も会ってた記憶が云々ですか?」
「そうそう。『実那子』って、前にも彼に呼ばれたことがあるような気、したりしてね。」
「…今思ったんですけど、これって全国のミナコさん、絶対壊れてますよね。」
「あ、壊れてる壊れてる! 『みなこ!』って言われるたんびグニャグニャしてると思う。」
「あれ? そういえば智子さんて、直樹って人とつきあってたとか言ってませんでした?」
「どき。」
「なんか思うものあります? 実際『なおきぃ』とか呼んだんでしょ?」
「まぁ…そうなんだけど。外見が似ても似つかないからねー。考えていたほど、そんなには壊れなかった。」
「そんなもんですか。」
「そんなもんです。呼ばれる方が壊れる。よく判りました。」
■公園で・敬太と由理■
「なんか由理のキャラ変わってません? いきなり。」
「そうなの。何笑い取ってんだよって感じ。まぁ敬太のことは何とも思ってないって、それがよく判ったけどね。」
「ピエロですよね、敬太はまるで。」
「うん。締め上げられて結局、直季の住所バラしちゃった訳だ。」
「直季だったら言わないんでしょうね多分。」
「ああねぇ。そうだろねぇ。外見とか何とかよりも、それが直季と敬太の差かぁ。」
■オーキッド・スクエア■
「中村園長ったら気弱だわ。ミルトニアの後遺症が尾を引いてるねぇ。」
「苦労したんじゃないですか? 50鉢さばくの。引き取り手が全部見つかったとは思えないし。」
「きっとバーゲンとかやったんだよ。売れてたじゃん、第2幕の終わり近くで。」
「ああ、あれはミルトニアだったんですか!」
「そうなんじゃないの? 園長ホクホクしてたし。」
■先生の家■
「綺麗だねー白いカトレア。リップのとこだけ黄色い…。これってタイトルバックで直季が持ってるのと同じじゃない? 多分…。白いカトレアっていうと、クレアシアーナとかジョンストン、スキネリィあたりが綺麗なんだよね。それにプリマドンナとか。ああ、けどプリマはリップが黄色じゃなくてピンクか。そだそだ。」
「…智子さんてなんでそんなこと詳しいんです?」
「暗い女なのよ、あたしはどうせ。」
「いや誰もそんなこと言ってませんよ。」
「このシーンで私は思わずつぶやいたね。先生が群馬を絶賛するじゃん。森が綺麗で水が美味しくて、時間がそこだけ止まったような…。『嘘だ!』ってTVの前で言いました。群馬かみなりカラッ風。そんな優しい土地柄じゃない!」
「まぁまぁいいじゃないですか褒めてるんだから。でも群馬の高校で、直季と敬太は陸上部だったんですかね。」
「ああ…ということになるのかなやっぱ。けど、それでなんで大学入って演劇部になったかね。」
「もしかしてクラスの担任だったのかな、この先生が。」
「うん、その方がしっくり来るね。体育の先生が担任になったっておかしくないもんね。高校出て…どこの大学入ったのかなこの2人は。高崎経済大学じゃああんめぇ。」
「東京じゃないんですか? 群馬の高校出て上京したんですよきっと。」
「ああそうか。同じとこ受けてうかって、しかも同じクラブに入った。…なにをつるんでんだよ男2人で。ここまで仲いいとなんか気持ちわりぃな。」
「よっぽど気が合うんですって。」
「あとさぁ、おでんのシーンでも言ったけど、やっぱミルトニアのカラ注文は敬太の考えかも知んないね。請求書持ってくればすぐに振り込むっていうの、すごく直季っぽいと思わない? 半分とは言わないけど出せとか…けっこう細かくて几帳面だし。同じ嫌がらせするにしてもやりかたが敬太とは違うと思うな。」
「直季の方が知能犯ていうか、思い切ったことはするけど、せこくないって感じになるのかな…。でも半分とは言わないから出せっていうのも、考えれば十分せこくありません?」
「せこい同士だねこの2人。…まぁこのシーンはさ、呑気な始まり方したにしちゃあ、最後は重要な場面になったよね。実那子の記憶がいかにして作り変えられたか。」
「そうですね。敬太は何が何だか判らないって感じだったし。」
「実那子が戻ってきたと知って、やば!って立ち上がる直季がね。よかった。しかし敬太はよく黙っててくれたよ。『俺…君のことなんか知らないよ?』って言われたら大騒ぎだべ。あとになって実那子もすぐ気づいたけどさ。」
「先生んちの玄関先で修羅場になっても困りますからね。」
「玄関の戸閉める時実那子が、変だな…ってちょっと首かしげるの、あれはなかなかいいね。美穂さん上手いよ、さすが。」
「気の強さと女らしさをうまくミックスして表現してますよね。きつすぎず甘すぎず…。こういうドラマって、ヒロインがしっかり視聴者の視線集めないと物語がボケるっていうか、どこを頼りに進めばいいのか判んなくなりますからね。」
「そうそう。ロンバケが素晴らしかったのは、山口さんがその”要”になってたからだもん。彼女の目を通して、しっかりストーリーに入れたのよね。ぴくりともブレなかった。」
「今回の美穂さんはどうです。謎が多いだけに葉山南より少し難しいと思いますけど。」
「うん。なかなかいいんじゃない? 堂々の主役って感じ。…なーんちゃって、何かすっごく座談会っぽーい!」
「たまにはこういうこと、言いましょう。」
■マンションで文集を読む実那子■
「これさ、表紙に書いてあるうさぎ。寝てんだよね。ストーリー上特に重要な意味はないのかも知れないけど、表紙作り変えた時に書いたんだとしたら、その人センスいいよね。実那子の記憶がここに眠ってるって。」
「そこまで読みますか。…推理グセついてません?」
「ついてます。眠森終わった時、ヤーなババアになってそう、私。」
「表紙つけかえたのはやっぱりおじさんなんですかね。」
「じゃないの? 多分直季のお父さんと知り合いなんだよ。こういうふうにしろって全部指示されてさ、その通りにしたんじゃないの。」
「ははあ…。父親とおじさんが知り合いだったら、直季が昔の実那子を知ってても不思議はないんですね。」
「そういうこと。でもってここで文集探してる実那子の手前の箱の中に、ちらっとうさぎの縫いぐるみが見えるの気がついた? あれって第1幕であの段ボールから最初に出したうさぎだよね。直季の手紙が入ってたあの箱。」
「細かいですねー!」
「集中して5回も見ればアナタ、これくらいは。」
「ははぁ…」
「あと、このシーンではね、電話問い合わせで『中の森小学校なんかない』って言われて、どうして廃校になったと思わないのかねーって意見あったけども、そこまでは説明できないよ小説と違って。」
「あれ? なんか智子さんにしては甘くありません? あれだけナレーションがうるさいって文句言った人が。」
「あらやだ。基本的に甘いですわよあたくしは。おほ。」
■モーニング・ミルク2■
「これはあっちこっちで話題になってましたねー。置いていかれた子犬の目。」
「そうそう。ほんと、こういう表情はなー! 芸能界広しといえども拓哉の右に出るモノはいないでしょう! 抱きしめてくしゃくしゃにしたくなるよなぁ。ワイルドでセクシーで時にニヒルで、なのに一転こういう、純真無垢って顔をする。ちきしょー! なにもんだぁこの男わぁ!」
「まぁまぁ押さえて押さえて。どうどうどう。」
「ぜーぜーぜー、水!」
「しかしここまでモロ手を上げて称賛されるといっそ気持ちいいですね。呆れる気も失せますよ。」
「おお、それでいいのだっ!」
「実那子連れて走り去ってく輝一郎の横顔を追うカメラ、直季の視線になってるじゃないですか。じーっと見てたんでしょうね。」
「うん。あの目でね。それにさぁ、ここでの実那子の心理もなかなか味わい深いよ。『あの男よっ!』て輝一郎に言ってもよさそうなもんなのに。第一直季がいるって気づいた時の顔。まずい、っていうあの感情はさ、輝一郎に対してはもちろん、直季に対してもあったような気がするな。」
「車の中でブルーになってますしね。」
「女心だなぁ。こういうの、判る判る。でもってさ、実那子はさすが27歳大人の女だと思うのが、マリッジブルー?って聞かれて否定しないとこだね。『ううんそんなことない』とかさ、小娘だったら言うんだよな。」
「お互い様、っていう輝一郎もなかなかじゃありません?」
「大人のカップルだねぇ。直季の嫉妬も当然だ。」
■濱崎正輝個展ギャラリィ■
「亀山さんがおみえになった、ってのは笑える。じつにフジらしいね。」
「亀山千広さん、ですよね。」
「映ってたのも本人かなぁ。まさかそれはないか。」
「ここでのポイントは十字架でしょうね。ストーリー展開にどう関わってくるのか。あるいは象徴的な小道具か…。クリスチャンが他ならぬクリスマスに失踪するっていうのは、相当深い意味があるかも知れませんね。」
「ま、仏教徒よりは確かにね。ウチは日蓮宗だけども。」
「それはもう聞きました。」
■戸籍を見る実那子■
「あのさー、ちょっと重箱の隅、つっついていいかなぁ。」
「何を今さら断ってるんですか。」
「これ…なんで事務所なんだろね。役所に頼んで謄本郵送してもらったんだべ? 普通、自宅に届かねーか? なんで事務所で見てんの。わざわざウチから持ってくるはずはなし。」
「やだな、違いますよ。花の配達のついでか何かに直接取りに行ったんですよ。だっておじさんと東京に引っ越してきて本籍地を変更してる、って言ってるじゃないですか。群馬のままだったら郵送だろうけど、都内なら行っちゃった方が早いでしょう。」
「あー! なるほど! 疑問氷解! すごいぞ八重垣!」
「智子さん本籍地どこでしたっけ。」
「あたし? なぜか神奈川県川崎市。出身は茨城なのにね。」
「で、現住所は群馬ですか。…ああ、だからだな。戸籍っていえば郵送してもらうもんだと思いこんでるでしょう。」
「人間の意識の不思議さかぁ。思い込みほど怖いものはない。」
「それ、眠森にも通じるかも知れませんね。頭からこうと決めてかかってることに意外な盲点があるのかも。」
「うーん、洞察力深いねぇ。見直したわ八重垣っ!」
■直季の部屋を再訪する実那子■
「第3幕のクライマックスシーンだね! 手に汗握るかけあいだった。セリフ拾い上げるのが大変だったけど。」
「あんたは俺の一部、の意味がここでわかりましたね。子供の頃の直季の記憶をそっくり移植したのが実那子ってことか。」
「まぁそんなことが可能なのかどうか…第5幕で説明されると思うけど。」
「医学的にどうこう、は5割程度守ってればいいと思いますよ僕は。ドラマなんですから。医学論文じゃなくて。」
「うん。それはあたしも賛成だな。丸っきりのウソは困るけど、応用っていうか解釈っていうか、理論を味つけして料理しちゃう、くらいはしてもいいと思う。」
「論理的に正しくたって、ドラマとしてつまんなかったら本末転倒ですもんね。」
「そうそう。しかし実那子はなかなか鋭いね。直季が考えてるより先を歩いてる気がする。女は強いなっていうか。」
「そうですね。こういう時は案外、女性の方が根性座るんじゃないかな。男だったらそれこそオロオロするかも知れない。」
「なんか医者に言わせるとね、小さな怪我では女の方がピーピー泣くけど、大きな怪我・痛みとなると黙って耐えるのは女だってさ。」
「やっぱり出産というメカニズムをね、生まれながらに持ってる訳ですからね。」
「そうだね。産む産まないは別問題としても、産める体…つまりそれだけの痛みに耐え得る体は、持ってるってことか。まぁ個人差はもちろんあるだろうけど。」
「子供の頃の直季。可愛いですよね。」
「Jr.なんだって? この子。雰囲気あるよね。美少年だし。」
「演出も凝ってますねこのシーンは。特にこの、意味もなくマウス転がして、パースをぐるぐる回すとこ。直季の心の中をそのまま映してるみたいで。」
「そうそうそう! あれはよかった。直季はあれ使って照明プランとか考えてんだろうね。」
「あのパソコン、機種は何でした? 僕も注意して見たんですけど…いまひとつ決め手がなくて。」
「八重垣くんも? あたしもチェックしたんだけどね、そんな長いこと映ってないしさぁ…けど美術協力にNECの文字あったような気がするんで、98NXじゃないかな。」
「アプティバじゃないですよね。」
「どうだかねぇ。撮影の待ち時間にインターネットくらいやれよぉ拓哉ぁ。」
「マウス転がしながら、おもれー!とか言ってるかも知れませんよ。」
「あとあとあとぉ、このシーンの凝った演出でぇ、実那子に問い詰められておたおたする直季の転位行動の数々! よかったねーリアルでさ。」
「壁のメモ破いたり、…さっきのマウス転がしも一種の転位行動ですもんね。」
「そうそう。部屋の中ウロウロして、しまいに逃げ出してね。で…反撃に出るっていうか、実那子の考えをこれ以上先に進めないために? いきなり悪役に変じるじゃない。あそこで…床が、ぎりっ、て鳴るの。なんかゾクッとしたなぁ私。」
「安普請なんですかねあのアパート。」
「それもあるか知んないけど。直季の心の軋みを聞くような気がすんのとさ…何よりも生身の拓哉の体重感じんだよねー。」
「体重?」
「そう。今は亡き女流作家の森瑶子さんが書いてるんだ。どんなに華奢でも男の骨は重いって。…これ、すっごく実感のあるコトバよ。のしかかられた時の感じが、”重たい”もんなやっぱ。旅館とか泊まって女同士ふざけてさ、布団の上でキャーキャーゴロゴロすることあるけど、そういう時とは重さが違うよ。皮下脂肪の緩衝がないせいかね。―――ってそんなのを思い出しながら見ると、ぞくっ、とするわ。この男の体はやっぱ固くて重いんだろうな…ああーっ鼻血モンだぁー!!」
「…女性の目ですねぇ…。男の発想には絶対にない視点だ…。」
「あってどうするよ。加えてあの上腕部の筋肉と肌の感触が――――って、ちょいまちちょいまち。これはまた別の話よ。放っといたらどこまで行くか判んない。…てな訳でまぁ、とにかくこのシーンは盛り上がったね。」
「何で盛り上がったんですか全く…。」
「実那子の記憶の謎は何となく判ったし、直季の執着の理由も納得できて、そすとあと問題は2つだね。実那子を待ち受けている『残酷な未来』とは何か。国府がどうかかわってくるのか。そもそも15年前の殺人事件の真犯人は誰なのか。それが1つでしょ。」
「で、もう1つは?」
「もう1つは直季絡みだね。なぜ直季は実那子に、あえて憎まれるようなふるまいをするのか…あるいはしなければならないのか。気が弱い繊細な青年だから、って訳にゃいかんでしょう。何か重大な理由があると見なくちゃ。」
「なるほど、その2点ですね。」
「まぁ小さなところでは? 直季のお父さんの診療所にあった蘭の花が、なんか意味深だよなー。蘭、てものに何か象徴的な意味があるんじゃないかとか。敬太はどう動くとかね。まだまだ謎だらけだな。」
「楽しみは尽きませんね。」
■アパートを出てくる実那子、目撃する輝一郎■
「このラストはよかったですね。次はどうなる!って、嫌でも期待が高まりますね。」
「直季がブラインドの陰に立ってるっていうの、いいよなぁ。薄く開いてるのをさ、しかも下から見上げてるから、けっこうよく見えるんだよねー。『あいつか…?』って感じの輝一郎の表情。くうっ、スリリング〜!」
「直季はどう見ても自分より若いし、あの風貌はインパクトあるでしょうしね。特にあの長髪。ああいうアタマしてる男は、まず、堅い仕事じゃないですからね。」
「しかも実那子が彼のアパートから出て来たっていうのが、彼には引っかかるだろうね。油断ならねぇぞって感じで、メラメラと。」
「メラメラとね。」
「いやぁゾクゾクするよねー。やっぱ、これがドラマの醍醐味だからなっ。もっともっとゾクゾク、ドキドキさせて欲しいもんだわ。」
「はい、という訳で形よくまとまりましたので、眠森談議座談会編・第3回、そろそろお開きにしたいと思います。これであとビデオ・リワインダーの第4幕と座談会の第4回をクリアすれば、本放映と足並みが揃いますので、何とか頑張ってみたいと思います。…ね、智子さん。」
「いぇ〜い! 頑張りま〜すっ!」
「それでは次回までごきげんよう。パーソナリティーは私、八重垣悟と、」
「ジュリエット木村でしたー!」
「…全然面白くないですね、それは。」
「駄目? はずした? もしかして私やっちゃった? さっぶー?」
「さっぶー…」
第4回めへ
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