【眠森談義 座談会編 第6回】

 
「―――はいっ本番いきまーす。3、2、1、Q。」
「えー皆様こんにちは。お元気でしたでしょうか、八重垣悟です。すっかり恒例となりました眠森談議・座談会編、その第6回めをお届けします。」
「どもども木村智子です。うちら2人のコンビがなかなか面白いとご好評を賜っておりまして、リワインダー編よりぜってーウケてるよなと思いつつ、今回は『新たなる推理』なんかもご用意いたしまして、展開して参りたいと思います。」
「『新たなる推理』なんてものがあるんですか?」
「うん。12月以降に回そうかなと思ったけど、これは今回言っとこうと思ってね。」
「12月以降、っていったらあれじゃないですか、いちゃもんコーナー。」
「いちゃもんつーか…今言ったら気分よくないかも知れないハードな突っ込み、ね。まぁそれはあとあと。さっそくスタートいたしましょ!」
 
■車の中・直季■
「今までずっとさ、ビデオ対応つーか、前回のおさらいから入ってたのが変わったね。」
「ええ、いきなりでしたね。チュンチュンとスズメの鳴き声がする朝の景色。」
「これさ。あの飲み屋に行った”翌朝”なワケ? それとも何日かたってんのかな。」
「うーん…。どっちとも取れますよね。」
「バックミラーに映ってる、徹夜しました、って顔の直季。よいですな。うふ。」
 
■喫茶店、敬太と輝一郎■
「小悪党の似合う男・敬太。なんかさ、スパイス効いた役どころだね。」
「輝一郎って、こういうビジネスバッグが似合いますね。」
「これも山田かばんかな。」
「さぁ…。」
 
■克彦に聞き出す直季■
「この”かつひこ”の字が判んなくてねぇ。端役だから載ってねーんだもん。それとも私の探し下手かな。」
「TV誌とか丹念に見ればあるんじゃないですか? って言って僕も見てないな。」
「『かつひこ、ヘンカン』で真っ先に出てきた字を当てた。おみくじみたいなNECAIカナ。」
「線香の1本もあげたくて弁護士に聞くなんて、いい人ですよね。」
「子供の頃は吉春と仲よかったんだぜきっと。『あいつ、本当はいい奴なのにな』とか思ってるのかも知れないね。」
 
■事務所で考える実那子■
「このシーンは多分、視聴者の皆さんに前回のおさらいをしてもらう意味があるんでしょうね。」
「そだね。犯行現場の再検証。でも実那子ってば、あんなもん職場に持ってきてさ、そんなに気になんのかな。」
「いっときも頭を去らない、って感じなんじゃないですか。」
「かもね。」
「このシーンの白眉は何といってもあれですよ。国府と重なる蜘蛛の巣。」
「はいはいいえてます! じっと網を張って獲物を待つ蜘蛛。これだけそばにいながら、まだ実那子に会わない国府。象徴的だねぇ。」
「ここでオープニングが入るのもいいですね。」
「流れとしてすごくいいね。」
 
■春絵の店にて■
「”春絵の店”なんて書くとバーかクラブみたいだけど、実際はラーメン屋(笑) でもこの兄ちゃんカッコえー! 渋くて素敵素敵。」
「前科者のコック、って感じ出てますよね。煙草をこう、人差し指と親指で持って吸うのが、すごくそれっぽいと思いません?」
「国府もそうなんだよね。陰があって、感じ出てる。」
「春絵って実刑になったことあるんですね。そうは見えないけど…何したのかな。」
「ヤーさん系じゃないの。男関係だよきっと。」
「直季&敬太っていう、すごみなんか全然ない男に問いつめられて吐いちゃってますからねぇ。」
「このへん、国府は読んでたんじゃない? 春絵は聞かれたら隠せないだろうって。だから何も言わなかったのよ。彼女にどんなに泣かれようと。」
「ああ、そうでしょうね。」
 
■埠頭で、直季と敬太■
「このシーンで何よりいいのは、走ってく直季の髪の揺れ具合だね。」
「こないだちょっと美容師さんに聞いてみたんですけどね?僕。リンスもしてないとか言って、あれは絶対、かなり手を入れてケアしてるだろうって言ってましたよ。髪質自体がいいのは確かだけどって。」
「まぁそりゃそうだよね。長くすりゃその分、傷むんだから。」
「ええ。撮影のライトってほんと強烈だから、傷むはずだって言ってました。」
「あたしも白髪が増えちゃってさー…。あと2〜3年したらブローネかなぁ…」
「やめましょう、そういう虚しい話は。」
 
■直季の部屋■
「由理ってけっこうキャラクター動きません? 第4幕まではおとなしかったのに。」
「うん確かに。でも彼女の扱いってリアリティあると思うな。前回直季の部屋に来た時は、彼、病気だったじゃない? あぁゆぅ時の女は、むしろ母性本能がはたらいちゃうからね。看病されると男は弱いだろうけど、病気の男にも女は弱いかもよ。」
「それが今回は、なかなか強気で押してきましたね。」
「やっぱさ、直季は第4幕で彼女を部屋に上げちゃいけなかったね。帰れ、の1点張りで押し通さないとね。別れたい女には、それがむしろ優しさかな。この前の直季の態度が柔らかかったから、由理の想いはつのっちゃった訳で。」
「押さえがきかなくなったんですね。」
「そうそう。考えてみれば直季が悪い。」
「でもリワインダーの方のこのシーン、智子さんなんか…リキ入ってまよすね。」
「おやそうかい?」
「そんな、満面の笑み浮かべないで下さいよ。」
「いやー、ついねー。押さえようとしても、ついプロフィットが喜んじゃって。」
「まぁ、あそこまで挑発されて乗らなかったら、直季も男じゃないですよ。」
「嘲笑が一転して涙になる。このあたりの由理はなかなか表現が深いよ。そいでもってそいでもって! 『抱かれに来たんだろ?』の『ろ?』の音の上がり具合。これをだね、1回ね、目を閉じて耳だけで聞いてみそ、と私は皆さんに言いたい。目つぶっちゃうのもったいないかも知んないけど、この『ろ?』がね…なんかこう、絶妙の上がり方してるから。」
「へぇ…としか、僕は言えませんけどね(笑)」
「由理もさぁ、ここまでやるならいっそのことさぁ。毛皮のコートの下は全裸とか、それぐらいの演出してほしかったねぇ。」
「いや、早く脱げよって言っていきなりオールヌードだったら笑っちゃいますよ、男としても。」
「そう、そこなの。そこが難しい。 …あのねぇ…思い出したから言っちゃうけどねぇ…。」
「なんですか。」
「言っていいかなぁ…。あまりにもアレかなぁ…。」
「いいですよ言って下さい、って僕に言わせたい顔してますよ智子さん。」
「判る?」
「判りますよ、これだけ回を重ねれば。」
「んじゃあ、しょうがない。言っちゃうけどさ。」
「はいはい(笑)」
「昔…初めてラブホテルなるものに行った時の話よ。」
「ええ。」
「部屋に入るやん? ほいで、シャワー浴びるやん? 別におじさまと不倫とかいうんじゃなかったから、なんかお互いぎこちなくてね。」
「今からは想像もつかない訳ですね。」
「………」
「あ、すいません。つい言ってしまった(笑)」
「…まぁ、それでさ。」
「ええ(笑)」
「クロゼットの中にナイトウエアは入ってるやん。それ持ってバスルーム入るやん。で、それを洗面台とかに置いて、手早くシャワー浴びるやん。」
「手早くね(笑)」
「浴び終わった後で。…洗面台の前で、木村智子は悩んだのだよ。」
「何をですか。」
「コレ…下着はどこまで着てればいいんだろう、と(笑)」
「(笑)」
「ブラはしてた方がいいのかなぁ…。キャミソールはどうなんだろう…。『どっちがいい?』なんてまさか相手に聞けないからねぇ。一生のうちであれほど悩んだことは、そんなにないような気がするな。」
「で、結局はどうしたんです。」
「まぁまぁ昔のことだから(笑)」
「で? まさかその相手が直樹くんだったんですか。」
「ちゃうちゃう。なおきくんじゃなくて、たつやくん。(見てねぇだろな^^;)」
「うわ、惜しい。1文字違いですね。」
「…どっから話がこうなったんだっけ。」
「ことの始まりは『早く脱げよ』ですよ。」
「ああそうか。…拓哉って着痩せするよね。ウェスト細いせいなんだろぉなぁ。」
「肩がほんとガッチリしてるんですよね。ちょっと意外なほど。」
「男のひとの肩ってさ。20代より30代、30代より40代の方がセクシーだよね。ハラは出ちまうもんだけど、首から肩にかけては、歳とった方がイケてる。50過ぎるとさすがにちょっとな。」
「キャリア感じる発言ですね…。」
「ここのさ、窓を見上げた時の実那子の表情。これは美穂さん上手い!って感じ。部屋に入ってからの実那子も、なんだかんだ言ってアンタ直季のこと気になるんじゃん!って思うよね。」
「女心の不思議さですか。」
「まぁ実那子はおいといて、この時の由理。『抱いて』って言葉の直訳は、Sexじゃなくてhugなんだろうね。抱きしめてほしかったんだと思うよ。嘘でいいから、さ。」
「でも男って、こういう時は嘘つけませんよ。ある意味プライドっていうか。」
「だろうね。そこんとこが男と女の永遠の食い違いなんだろうね。そういや前に聞いたことあるな。男が相手の女を愛してるか愛していないかの差は、えっちの後でその女を、抱きしめてるかそうじゃないかだって。これは真実かも知れないね。」
「…ああねぇ。…うん、なんか、判りますね。」
「えっちはさ。やっぱ、しとくべきよ。人に迷惑かけない程度に、数多く。」
「そんなこときっぱり言いきらないで下さい。」
 
■九条物産にて・夜■
「オフィスって確かに不気味ですよね。夜、1人で残業してると、上の階の床が鳴るんですよ。何やってんだこんな時間に、と思ってハッとするんです。『この上って大会議室だぞ…。こんな夜遅く、誰もいるはずない…。』」
「うんうん、あるある! 人が歩いてるような足音したりね。ゾッとする瞬間は確かにある。」
「気温差で鉄筋がきしむ音なんでしょうけどね。」
「マジ不気味だよねあれ。…で、このシーンのバニラエッセンスの香りは、やっぱシャリーベビーを連想させるつもりなのかな。」
「手に持ってるのは違う花でしたけどね。」
「これさあ。輝一郎と母親の近親相姦? 予想してる声もあるみたいだけど…どうかなあ…。スジとしてはアリかも知んないけど、あたくしはパスだな。」
「世の中これ以上のタブーはないですからね。」
「そうそう。同性愛なんかメじゃないって。」
「でもこのお母さん、ほんとに会社に来たんですかね…。ハイヒールの音がするから幽霊じゃないと思うけど。」
「さぁなー。ああいうビルはセキュリティが厳しいから、実際には入って来られないよ。それをたやすくやってしまうところが、亡霊というか幻影というか。」
「さすがリアリストの智子さんですね。」
「ハイヒールの音は、輝一郎の中にある母のイメージの1つかも知んないしさ。犯人だ犯人だと思わせといて、実は死んでましたっていうのもうまい手じゃないかな。」
「智子さんてやっぱり、輝一郎怪しい説ですか?」
「今んとこまだそうだねー。」
 
■埠頭での思い出話■
「お疲れ様の長ゼリフ! 拍手するスタッフの姿が見えるね。」
「こういうシーン、木村拓哉っていいですよね。モノローグがすごく栄(は)えますよ。」
「この直季の話を、敬太は輝一郎に話すのかなぁ…。親友の心の底を覗いた訳でしょ? それまで金に変えるほど、腐ってはいないような気がする。」
「話さなかったことで敬太が殺されたりしたら、ドラマチックだと思いません?」
「それで直季の怒りが爆発…。何か違う話になっちゃうよ。」
「直季と輝一郎の全面対決ですか。」
「しかも輝一郎の勝ちって?」
「わけがわかんないドラマですね。」
「それで視聴率30取れたら、世の中信じるものはもうないやね。―――まぁバカなこと言ってないで。私、このシーンで『おっ』と思ったのがね、由理を大事にしてやれって言われたあとの直季ね。こうやってなんとなく脚をこするの。あれって…決まりの悪さによる動きなのかな。」
「ああ、そういえばやりますよね、こうやって。」
「感触でも思い出したんかなーって、あたしそう思った。」
「それは…うーん…。どうですかねぇ…。」
「直季って、いつ実那子に金魚すくいなんか教えたんだろ。」
「単に、お父さんがやった記憶のコピーのこと言ってるんじゃないですか?」
「いやぁ記憶は移せてもワザまでコピーできねーべ。あれは大脳じゃなく小脳が司るモンだからね。」
「またNスペの受け売りを…。」
「直季は記憶を失う前の実那子を知っている説…まだ捨てる訳にはいかないかな。福島県&金魚すくい。これは十分に意味のある取り合わせだからね。」
「そうなんですか?」
「福島県郡山市ってったらあーた、日本1の金魚の産地だべ! 知らなかった?」
「いえ知りませんでした。本当ですか?」
「ほんとだってば。やだなー、『TK』で、郡山出身の陽介が言うっしょ? 金魚池に落っこったって。あっちこっちで養殖してるんだよ。」
「そこまで考えてたんですか、『TK』。」
「気づかなかったんですか、八重垣。ウチのひいおじいちゃんは郡山の人だからね。金魚のことは聞いて知ってた。」
「智子さんて眠森には何かと縁ありません?」
「あるある。―――それで思い出した、カナペ・バリエにも書いた高崎線の話。これさ…敬太って、あの車椅子の先生にも一緒に花贈ってたくらいだから、直季とは同じ高校行ってたんだよねぇ?」
「そういうことですよね。」
「その敬太も知らないうちに、直季はそんなにしょっちゅう東京行ってたんかい。電車賃バカになんないぞぉ? 高崎から山手線圏内までが片道1980円。すでに自販機じゃあ買えない。」
「うわ、さすが地元。見るとこ細かいですね。」
「それとさ、酔いつぶれた友達の名前をユウコにすんな!ってのも思った。」
「ああ、判ります(笑)」
「判ってくれた?(笑) でさ、でさ。酔いつぶれた友達の面倒見る子って偉いよねー。あたしゃあそんな優しいコトはついぞやったことない。酔った奴は捨てていく。」
「ただのイヤな人ですよそれ。」
「第一ねぇ。合コンで酔いつぶれる馬鹿があるかっての。目的とり違えてるってば。」
「短大生じゃしょうがないですよ。4大よりは飲む期間も少ない訳だし。」
「まぁね。んでもさ、実那子ほどの美人が友達送ってくって言ったら、普通、男は『あ、俺も行くよ、君1人じゃ大変だろ。』とか親切こいてついてきて、んで、ちゃっかり触手のばすもんだけどもね。」
「ああ、それはありますね。」
「そういやSMAPくんたちは誰も、学生時代の合コンなんて経験なしかぁ。もったいないねぇ。考えてみればゲーノー人って、そゆとこつまんないかもね。」
 
■輝一郎の独身寮■
「ここはいくらでも深読みができるね。輝一郎の言ってることは果たして嘘かほんとか。」
「学位証をこうやってひったくるじゃないですか、いつも優しい輝一郎が。あれはなんか、彼の正体なのかなって思いましたね。」
「うん、確かにそうかも。でさ、実那子が彼の出身大学を知らないのは不自然だって意見あるけどさ、それは説明できると思うんだよな。」
「…そういうとこ、智子さんて変に甘いですよね。」
「実那子は、過去を詮索するのもされるのも、今まで嫌いだったと思うよ。普通のお嬢さんなら、何の遠慮もなく輝一郎の世界に上がりこんじゃうだろうけども、実那子はそういうのが嫌いなのよ多分。輝一郎とつきあい出した頃は、実那子は自分の過去なんて何も持ってなかった訳じゃん。それをそのまま、何も聞かずに包みこんでくれた輝一郎にさ、惚れちゃったんだよねきっとね。」
「これ、もし輝一郎が犯人…とまではいかなくても、何らかの関係者であるとすれば、実那子の口説き方、判ってたと思っていいんですかね。」
「そうそう。少なくとも、むやみに過去を聞いたりすると嫌がるな、ってのは知ってたはずだよね。」
「ずるいな(笑)」
「それとここでの演出ポイント! ソファーのところで話してる2人を、壁にかかった輝一郎ママの絵がじっと見てるのね。そういうカメラ位置になってる。お、意味シ〜ン、とか思った。」
「あの絵をずっと掛けてる輝一郎も…へんな奴ですよね。」
「ねー。自分が描けなかった母親のヌードなんて、見るのも嫌だと思うけどなー。それとさぁ。ちょっとヘンじゃねーか?と思った台詞が。」
「こんどは台詞ですか。」
「実那子の通信簿。『級長の男の子』ってアンタ、旧憲法下の教育勅語じゃないンだから、級長なんて言うかぁ? それに女の子が委員長をやるなんて、あたしらの世代ではもう当たり前のことだったよ。『級長の男の子』を立てろなんて、言うかね先生が。な〜んかひっかかる、この言葉。」
「まぁ、謎とは関係ないと思いますけどね。」
「うん、謎…とかじゃないけども。」
 
■モーニング・ミルク3■
「ここ、リワインダーで智子さん意味深な書き方してますけど、何か狙いありですか。」
「あ、直季が見落としてるもの? …判んないかなぁ!」
「いや判んないです。偶然にもホドがあるとか、そういうことじゃないんでしょ?」
「じゃないじゃない。…あのねー…これ、実那子が変に他人行儀なのはさ。」
「だって他人じゃないですか。」
「だから、何かの隔てをおいてるのはさ。由理の存在が影響してると思うのよねー。直季は自分をずっと想っててくれた男じゃん? ほいでもって美青年であることはダレも否定できまい? 気分いいはずだよ女としては。それがさ、ちゃっかり、『なによ、女いるんじゃないのよ。』っていう鼻白んだ気分とゆーか、ほんのちょっとだけまんざらでもなかった自分がさ、ピエロに見えたりなんかすんのよね。『やぁね、あたしったら何考えてんだろ。あの男のことなんてどうでもいいのよ。輝一郎がいるんだし。』…ってとこですかねぇ実那子の心境は。」
「目線でやってくれてありがとうございます。判りやすいです。」
「こういうふうに態度を変えてきた女はさ、自分に気があるのにねぇ。直季には判らんかぁ。若いのぅ…。」
 
■直季の部屋に来る輝一郎■
「そろそろそのカッコは寒くねーか?」
「このドラマの時間って、まだ10月中旬なんじゃないですか? 全体的に薄着ですよねみんな。」
「季節はまだ変わっていない、それを示すための衣装か…。」
「ここで輝一郎は、『実は自分も実那子をずっと見守ってきたんだ』って直季に言いますよね。これ…牽制なんじゃありません?」
「あ、八重垣くんもそう? あたしも同感。言ってることにリアリティないもんね。直季のお父さんに治療されたことなんて、こないだ群馬行って知ったのかも知れないし、コンサート会場でも『出会うべくして出会った』なんて、今どき高校生口説くのがせいぜいだろ、そんな運命論は。」
「取って付けたような感じしますよね。前の直季の長ゼリフ、あそこにあった現実感とは比べ物になりませんよ。」
「また直季がさぁ、相手の婚約者つかまえて、実那子・実那子と呼び捨てる呼び捨てる。一般的には『実那子さん』て呼ぶべきだもんね。輝一郎に対する礼儀でさ。」
「お前の女だって認めちゃいない、っていう一種の意思表示ですね。」
「それとさ、輝一郎さ、ずっと実那子を見守ってきたなんつって、アンタ確かマレーシア行ってたんとちゃうん。その間はどうしてたのよ。えり子とはすっぱり切れたんかい。」
「ああ、そんな名前もありましたね…。」
「ただここでドキッとしたのは、他人じゃない発言? えっ、もしかしてこいつら兄弟とか?って思うよね。」
「ありえますよね。ちょっと2時間ドラマっぽい設定だけど…。10歳違いでしょ? この2人。」
「向かい合うと輝一郎、落ち着いてんもんなー。歳相応の貫禄っていうか。まぁ着てるモンのせいもあると思うけどね。」
「スーツにランニングですからねぇ…。」
「ここのさ。直季がキュッて閉めたブラインド。輝一郎がまた開けて、帰ってから直季がもう一度閉める。何か意味があんのかな。」
「暗いとこでCRT見ると眼に悪いですよ?」
「おおさすがはSE八重垣。突っ込むね。」
「智子さんだってSEじゃないですか。」
「ここの輝一郎の台詞で気になるのは、『その場に来た人間なんて誰もいないよ』だぁね。やけにきっぱり断定するよね。まるで居合わせたみたいにさ。」
「うん…。やっぱり輝一郎怪しいですよね。」
「そう思う。国府についてはキャラクターたち自身、ああじゃねーかこうじゃねーか言い合ってるけど、何とも不思議な最大の疑問は、どうして裁判で無実を主張しなかったのか、だと思うのね? これはさ、公判資料に載ってる動かしようのない事実でしょ。実那子が真犯人ていうの、この点で弱いと思うんだよなぁ…。実那子のために身代わりになる義理はないだろうし、仮にあっても、それなら出所したあとだってそっとしといてやるハズじゃん。」
「そうなんですよね。3人も殺して情状酌量になったくらいなんだから、検察側の証拠も弱かった。無実だと必死で訴えれば、弁護側ももっと頑張ってくれたんでしょう?」
「そうよそうなのよ。なんで国府は罪をかぶったの。輝一郎が犯人だとすると、ここは説明つくと思わない? つまり国府は親友をかばったのよ。輝一郎ママが犯人だとしたら、国府が隠す理由はないんじゃないかなぁ…。それに輝一郎ママが犯人だとね、ルール違反なんだよねーミステリーとしては。」
「ルール違反?」
「犯人は話の最初から登場していなくてはならない、とノックスの『探偵小説十戒』にある。第1幕に出てこなかった人間が犯人ていうのは…ないと思うけどねぇ。」
「何ですか? ノックスのその何とかっていうのは。」
「昔の、一種のHow to本よ。」
「あと、犯人は2人いる説もありますよね。両親殺したのと、貴美子殺したのは別人。大人2人をバサッとやった犯人が、小娘の貴美子にはとどめをさせないっていうのも確かに不自然です。」
「何ていう小説だったかなぁ…。昔読んだヤツにね、犯人が3人いる話があったよ。ある男を、Aが殺しに行って、凶器で殴って逃走するの。でもその男は死んだんじゃなくて気絶しただけで、息をふきかえした後にまた、別のBが殺しに行くのよ。だからAもBも自分が犯人なんだって思ってるんだけども、実は両者の犯行をかげで全部見てたCが、最後に息の根を止めてたって話。このAとBはお互いを知っててね、何とか相手を犯人に仕立てたい訳。だからそのへんの心理劇が面白かったなー。」
「…いいですねそれ。『こいつまさか知ってるんじゃ…』って、お互いに追いつめられていくわけですね? 面白いですよきっと。智子さん書いて下さいよ。」
「駄目だよぉ。タイトル忘れたけど元ネタありなんだから、言ってみりゃ盗作やん。」
「アレンジすればいいんですよ。キャストはそうだな、Aを香取慎吾、Bを木村拓哉、Cを草なぎ剛、殺される男が中居正広で、狂言回しの刑事役を作って稲垣吾郎にやらせたら面白いんじゃないですか。」
「うーん…。キャスティングに異論ありだな。」
「じゃあこれが終わったら企画の打ち合わせしましょう。」
「そうすっか。…って、書く気かいあたしゃ!」
 
■オーキッド・スクエア■
「いつまで雷鳴るんだ東京! 時期はずれもたいがいにせんかぁ!」
「いやありますよたまに。局地的な低気圧が急速に発達したりすると。」
「気象庁の回しモンかね君は。」
「これって、由理は実那子の勤め先、きっと敬太に聞いたんでしょうね。」
「ああ、そうだろね。どうもクチが軽いのぅあの男は。」
「由理の白い服。暗に輝一郎ママと繋げようとしてる感じですよね、演出が。」
「おお鋭いとこ突いてる。そうやって視聴者の目をひっかけようとしてるかも。」
「いえ…ひっかけと決まったもんじゃないでしょう。」
「だって私は、ママは死んでると思うもん。あのビルに夜中、ぜってー入って来らんないって。」
「OL的見地ですか。」
「このシーンで結構好きなのは、由理がカップ受け取らないもんだから、こっちに置くね、ってやるあの実那子の動きがいいな。あーいう『間』の芝居がね、このドラマってすごくいいと思う。」
 
■病院にて■
「両手でドア開けながら歩いてくる直季はサービスカットだなっ! 実によいわ。」
「ここで1つすごく不思議なのは、…誰が直季を呼んだんでしょうね。」
「―――言えたぁ。それ不思議ぃ。由理が呼んだにしちゃ直季が、顔見るなり、お前なにしに行ったって聞くの変だもんね。119番したあと、由理は一体誰に知らせたんだろ。輝一郎の連絡先なんて知らないだろうし…。」
「あ。判った。敬太ですよきっと。」
「敬太?」
「実那子がここに勤めてるって、由理は敬太に聞いたんでしょう? だったら倒れた後も敬太に聞きますよ。どこに連絡すればいいのか教えろって。で、敬太が、輝一郎と直季にかけた…。」
「実那子ちゃんが大変だよ、って? そっか。きっとそうだね。ナイス推理!」
「大筋にはあんまり関係ないですけどね。」
「でも大筋っていえばさ、ここに由理がいるの、けっこう意味のあることみたいな気がする。治療室の中まで入ってくるやん。だから殺人だの真犯人だのって話、聞いちゃう訳だよね。直季と輝一郎のやりとりとか、全部。」
「あの場にいればそうですね。119番してくれた恩人だから、直季も輝一郎も、無下に帰れとは言えなくて。」
「今後さぁ…なんか、動くと思わない? 由理。」
「また敬太にあれこれ聞き出して、ですね。うん。ありえる。」
「ここでさ、ニッ、て笑う実那子の顔。ちょっとだけ深津絵里さんに似てたね。」
「あ、確かに似てます。」
「そいでさ、直季が、調べてきてやるって言って、実那子の前に、同じ姿勢でしゃがむじゃん。あの動きって、拓哉のアイデアかもよ。」
「ベッドのとこに、こうやって屈むんですよね。」
「そうそう。何だっけな、アンアンかな。『自分が落ち込んでる時に、同じ目の高さに下りてきてくれる人がいい』みたいなこと、彼、言ってたからね。直季はあの時まさに、こんなに下がっちゃった実那子の心のラインにまで、視線合わせてたんだと思うよ。」
「…そういう関連を読む訳ですか。なるほどね。」
「リワインダー編でさ。このシーンのラスト、私、勝手に作って挿入しちゃったの気づいてくれた?」
「え、そうでしたっけ?」
「放映ではね、直季が出てってドアが閉まったあと、実那子の顔ではいカット!になってるんだけど、リワインダーでは雨の中に出ていく直季まで書いちゃった。あっていいシーンだと思って。」
「智子さんてそういうのが楽しくて、あんな面倒臭いことやってるんですね。」
「かも知んない。」
 
■マンションのポーチ■
「これいいですよね、このシーン。国府のくわえてるシケモクと、折鶴をフーッてやるところ。」
「上空をさ、ヘリコプターが飛んでくの。この効果音が効いてる。」
「喉の奥だけで、クックッて笑うじゃないですか。陣内さんさすが迫力あるよなー。」
「いいよねぇ。ほんとサスガだよね。」
「最初の方に出てきた、銀色の蜘蛛の巣。あれ思い出しません? 国府は今ここで、実那子を捕らえる蜘蛛になってるんですよ。」
「そうだよね。でも何のためにそうするのか、理由を知ってる人間は誰もいないって訳だから――――と、ここまで来て言ってしまいますよ、最初に言った、『新たなる推理』!」
「やりますか。」
「やります。12月以降に持ち込もうかと思ったけども、行っちゃう。そしてこの推理は是非とも、違ってたと言わせてほしい! やられた!って降参させてほしい。」
「で、何ですかその推理は。」
「それはね。…『伊藤直季の人物設定は、第5幕を境として変えられてしまった』ってこと。」
「…はぁぁ?」
「ストーリーに対する推理じゃないの。なんつーか…ドラマ自体に対する推理かな。」
「舞台裏の推理ってことですか?」
「うん。…だってさあ。第1幕で引かれた伏線が、ずいぶんと意味を失ってるもん。私が思うに直季ってね? 最初の予定では、最後の最後まで不気味な謎の悪役で、でもってラストに、『そうじゃない。彼は全てを知っていて、何もかも、実那子を守るためにやったことだったんだ』って知らせる作りだったんじゃないかなぁこのドラマ…。それがさ、まぁ、その…。これは私のホントに勝手な推理ですよと断った上で、まぁ、所謂視聴率? これを考慮した場合、その設定だと視聴者が離れてっちゃわないかと。いわばGiftの数字になっちゃうんじゃないかと。
―――で、急遽設定を変更して、直季は実那子を守るために必死で戦う正義の王子様になっちゃったと。…こういう推理。」
「それはまた…ずいぶん大胆な発想ですよね。」
「だってさぁ。冷静に考えてみ? 15年前の事件の真犯人は国府なのか否か、どうして国府が実那子をつけ狙うのか、何も知らない直季がだよ。国府が出所する前から敬太に頼んで、いろいろと調べさせたりするかぁ? 出所したら国府は必ず実那子の前に現れる。直季はそう思ってたはずでしょう。」
「そういえば第1幕で敬太は、『やっと判ったよ』とか言ってますよね。」
「そう。ポストに発火装置投げこんだのは敬太でも、アパート追い出せって彼に指示したのは直季じゃない。国府が実那子を探すって判ってたから、そこまでした訳だよね。…なのに第6幕になってみたらいきなり、『無実を証言しなかったから逆恨みして』なんて、オイオイどうした!みたいなこと敬太に聞いてるの。これはおかしいよ。設定の根本からして絶対に変だって。」
「えーと…ちょっと待って下さい? 整理しますから。…今の直季は、国府の真意も、真犯人が誰なのかも知らない。ただ、父親が実那子に何をしたのかは知っていて、罪の意識を感じていて、初恋の相手をただ一途に想い続けている…。そういうふうに描かれてますよね。」
「うん。多分そうだと思うんだ。でもさ、第1幕ではあの森で実那子に、すげー意味深なこと言ってんのよ。『残酷なことが待ちうけてんだよ!』って。『そのうち嫌でも判るんじゃないの』って、辛そうな顔になってさ。―――なのに第6幕の直季は、その”残酷なこと”が何なのか判らない訳じゃない? 輝一郎に自分の推理をぶつけたりしてさ。あの森でアンタはハッタリかましたんかぃ! 実那子には未来だけでいいとか、俺がまっさらな人間に変えてやるとか… あの重要な台詞たちはどこへ行っちゃったの。『国府が犯人じゃないとしたら、これ、どうなる』って、そんな、君、今さら…。どうしたんだよこのドラマはぁ!って思ったね私は。」
「―――第5幕って…直季の出番、そういえば異様に少なかったですよね。」
「そう。あれって脚本が変わったからじゃねぇのぉ? なーんてね。そんな邪念も抱きますよ。直季の果たすはずだった役割が、輝一郎に少しシフトした感じもするし。直季が今までしてきた行動の理由については、父親に解説させてハイおしまい…。」
「でも、最後まで、脚本…ていうかプロットは出来てる、っていうのが、眠森の宣伝だったんじゃないですか?」
「いやー…。『だから最後まで変えません』とは、どこにも約束してないしねぇ。変えてはいかんという法律もないしねぇ。視聴者の反応を見て設定変えるくらいは、プロだったらやるんじゃないかしらん。ジリジリッ、と数字が下がり出す前にさ。」
「ドラマっていうのは、視聴率を取ることが最大の任務になっちゃうんですかね…。なんか…もしもそうだとしたら、気の毒だなぁ彼。」
「ま、私らには? そんなもん跳ね返してくれ拓哉! って祈るくらいしか出来ないけどもね。―――Giftって、やっぱ名作かも知んない。記憶に残ってるもんな今でも。面白かったなあって、思い出すもんね。」
「あの妙なナイフ騒ぎがなければ、Giftこそ映画くらい作れたかも知れませんよね。残念です。」
「うん…。TV番組でも何でも、”情報”ってのはさぁ。受け手に責任と主導権があると思うんだなー私は。よく新聞とかに『こういうドラマは放映するな』とか『TV局の理念が云々』とか載ってるけど、ああいうの読むたびに、『よくない番組だと思ったら、こんな投稿する前にTV消せば?』って私は思うよ。見る・見ないの選択権はこっちにある訳でさ。嫌なら消しゃええねん。簡単なことじゃない。誰も見なくなりゃ、そんな番組は終わるんだから。」
「…なんだかすごいトコに話が及んでますね今回は。」
「おお、大変失礼しました。教育テレビみたいなノリになってしまった。…ほいでも今言っとかないとね、この先眠森をつまんなく感じちゃいそうで。嫌じゃん?そんなの。だから前半終わった折り返し地点の第6幕で、少しガス抜きしときました、はいっ。」
「考えてみればまだ半分なんですよ。結論出すのは早いです。」
「そうだね。それは言える。最後の最後に、『あんなこと言ってごめんなさい!』って、言わせてほしいと思う。これ、ほんとの気持ちです。」
「―――という訳で、ちょっと違うカラーになりました今回の座談会ですが、まぁたまにはこんなのもいいでしょう。来週からはまたいつもの、理屈っぽいくせにかなりえっちなノリでお送りしたいと思います。」
「いやー判らんぜ? もっと愚痴っぽくなってたらどーしよ!」
「とにかく、とことんハマるって決めたんですから、ハマればいいじゃないですか。」
「そうだね。文句言い言い、けっこう楽しんでるってのが事実なんだから。」
「えー、それではまた、来週までごきげんよう。パーソナリティーは私、八重垣悟と、」
「フクシマ君のスネ毛なんかいらないよぅ!の木村智子でしたー!」
 

第7回めへ
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