【眠森談義 座談会編 第8回】
「いえーいっ、木ぃ村智子でぇっす! 早いもので、もう師走がやって参りました! 皆様お風邪などお召しになってはいませんでしょうかー! ひいたかなと思ったら早めのパブロン。不景気なんか気合でふっとばしましょぉ〜!」
「こんにちは、八重垣悟です。…どうしたんですか、なんか今日はやけにハイテンションですね。何かいいことでもあったんですか?」
「いやなに、某・秘密の場所で開催してるバレーボールマッチのせいさね。なんかもぉ、ノリノリで!」
「今度はバレーですか。仕事も忙しい時期なのに、手広いですよねぇ…。」
「おお! 調子のいい時は書けるだけ書く! どうせスランプは巡ってくるのだ!」
「じゃあまぁ、早速いきましょうか。眠森談議・座談会編の第8回です。」
■車の中■
「先週やらなかったと思ったら、今回はまたもおさらい編から入りましたね。穴掘りの場面から。」
「そうそう。『ありゃ、またかい』と思った。んでも『そういうことだったのか…』って言って目を閉じる直季は、別角度からの映像だったね。テイク幾つ、で何度か撮るのかなぁ。」
「演出は今回、澤田さんですね。」
「そうだね。随所に特徴が見えるよ。」
■ショウルーム■
「ライトセーバーっていろいろやってんだね。車のショウルームのライティングなんかもやるんだ。」
「こういうのって本職がやってたんですねぇ…。知りませんでした僕。」
「あたしも知らんかった。住宅展示場はインテリア・コーディネィターが全部やるからね。」
「この敬太の『回ってるよ』は笑いました。敬太ってやっぱ好きです。」
「うんうん。笑い取るキャラとしては『Gift』の野長瀬よりいいと思うなー。あ、『扱い』がだよ。野長瀬はちょっと濃すぎた。」
「確かに野長瀬と奈緒美のギャグシーンは邪魔でしたね。桃井さんの時の、病院の廊下とか…。」
「うん。あれはちょっとね。サスペンス・コメディっぽくしたかったんだろうけども、テーマと演出がズレてたって感じだねー。…ってGiftの話してどうするよ。」
「敬太はまた傷作ってますけど、利息払えなかったってことなんですかね。そのために輝一郎のスパイやってるのにどうしたんだろ…。」
「いいスポンサーつかんだからって、まァたギャンブルにあてこんでスッちゃったんじゃないかぁ?」
「これで逆に輝一郎をゆすりにかかるとか、ありえますよね。」
「うん。敬太ってさ、第1幕からの伏線のキャラなのに、主だった動きはまだないから、このあとに期待できるんじゃないの。」
「大いに期待しましょう。」
■コンビニの前〜公園■
「しかしどーもあたしゃあ…この実那子ってキャラは嫌いだなぁ…。」
「いきなり否定しないで下さいよ(笑)」
「まぁ何度も何度も言ってるように、最終回の後にまとめて述べるけどね。もともと人物描写はあんまりしないサスペンスにおいて、主人公に感情移入できないとツラいもんがあんだよなぁ…。」
「だからそういう話はこっち置いときましょうってば。」
「はいはい置いときましょう。んで…このジャングルジムっていうかすべり台っていうか、これ、教会みたいに見えるなーって思った。特に左側の方。実那子のいる方。」
「こういうところ、スタッフが探してくるんでしょうね。まさかセットじゃないでしょう。」
「NG集でさー、そういうスタッフ裏話みたいなのも聞きたいね。」
■オーキッド・スクエア■
「蘭は手袋して水ゴケに植える。このへんはサスガ、ちゃんと押さえとるな。うむうむ。」
「智子さんて園芸部にもいたんでしたっけ。」
「いたよん。蘭はやったことないけど。でも思ってるほど難しくないってね。カトレアなんかはそれなり育ってくれるらしい。」
「へぇ…。温室とかいるんじゃないんですか。」
「そりゃま、コンテストに出すとか本格的にやろうと思えばねー。普通に自宅で楽しむなら、そこまではいらないよ。」
「あと、このロケットをくるくる回してるとこ、いいと思いません? 国府って手が器用ですよね。」
「『ショーシャンクの空に』にあったけど、囚人はヒマをつぶすためなら何でもやるってさ。―――それで思い出したけど、『パタリロ!』に昔載ってたけどね、ひまのつぶし方にこんなのがあるんだって。…ティッシュペーパーを箱から全部出して1枚ずつ元に戻していく。」
「…はぁ。」
「ヒマだなーって思ったコト…そういや私、最近、ちーともないねぇ。」
「忙しいですもんね。原稿に追いまくられて。」
「そーなんだよねぇ。まぁ好きでやってんだから楽しいけどもさ。」
■直季の部屋■
「ここは、演出にモノ申すぜぃ! 最終回のアトに送るほどのことじゃないからねっ!」
「何ですか?」
「この、味噌汁っ! 本物かどうか知らないが、冷めてんべ! 水だべ! ちょぉっと手抜きだろぉ! 山田洋次カントクに笑われんぞ!」
「ああ、味噌汁ですか。」
「そもそも由理が、台所で鍋からよそうとこね? あのチョボチョボ〜って音は、水! あったかい液体はもっと重たい音がするっ! 垂れるにしてもドボドボ、って音だい!」
「いえ僕が思うのはですね、…この食卓、ずいぶん地味だなって思いません? 恋人とヨリを戻したい女が部屋に来て作るにしちゃ、あんまりだなとか思って。」
「(笑)言えたっ! 実那子のおかゆの方がゴージャス!」
「そう、それそれ。そこなんですよ僕が思ったの。このシーンは、由理と実那子の『女性的なもの』の差? それを見せたいんじゃないかって。―――ただし! ただしですよ。先に言っときますけど、あくまでも男性の目から見た女性的なものだとは、思いますよ。」
「なるほど。あらかじめ私のツッコミを予想してネットぎわで止めたね?」
「ええ(笑)」
「うん、言わんとすることは判るよ。直季が何よりも欲しい、家庭的なもの・暖かいもの・優しさとか安らぎとか…そういう『女性』ってキーワードから連想されるイマジネーションは、由理ではなくて実那子なんだと。それを言いたいための演出だってことだよね。」
「そうです、その通り。…だから敢て、ほかほかの湯気とかはこのシーンに、あっちゃいけないんじゃないのかな。僕はそう思ったんですけど。」
「ふっふーん…。なーるほどねぇ…。鋭いかも知んないわそれは。」
「まぁ多少は? リアリティ出す意味からすれば、湯気くらいあってもいいかも知れませんけどね。」
「山田洋次監督ってさ。『とらや』のちゃぶ台に乗ってる煮物にね、本番直前に熱湯かけて、それで撮影したっていうからねー。おかげで役者さんはえらくまずいモンを、美味しそうに食べなきゃならなかったと。」
「映画のすごさですよね、それ。」
「…美味しそうに、でまた思い出したけどもさ、このシーンで思うのが、拓哉ってお箸の使い方キレイかも知んない。お椀の持ち方とか、イタについてる。」
「お父さんが厳しかったって、前にどこかで言ってませんでした?」
「言ってた言ってた。膝崩してなんか食べらんなかったって。…いいことだよねぇ。」
「人間、育ちは食べ方に出ますよね。いつかビストロに細川元首相が出た時。僕、感心しましたもん。さすが『殿』だなって。」
「ほんとほんと! …あのね、欽ちゃん―――萩本欽一さんが何かの雑誌で言ってたけど、若い芸人さんが事務所とかに来るじゃん。そうすると欽ちゃんはね、まず食事させてお箸の使い方を見るんだって。それが綺麗な子っていうのはね、親の教えを素直に身につけてる、まっすぐな性分なんだってさ。変に斜めに構えたクセのある奴っていうのは、芸能界に入っても多分、ちょっと売れるとすぐテングになって、はいそれまでよ、なんじゃないの?」
「たかが箸ひとつ取っても、奥が深いんですね。」
「私さー! ナニが許せないってあの、ピチャピチャ音たてて食う奴ね! あれだけは駄目。同じテーブルにそういうのがいたら、席立つね、マジ。」
「ああ、いますいます。いちいち口あいて噛む奴でしょ。」
「そ! なんやねんアレ。きっと家族全員そうなんだろね。そういうトコにゃ、ぜってー嫁に行けないな。一家皆殺しにしそうだ私。」
「森田家じゃないんですから…(笑)」
■路上〜実那子のマンション■
「直季ってばずいぶん態度変わっちゃったやん。駅まで送ってくなんてさ。」
「前回の由理の、あの手作り電灯の話。あれが効いたんだと思いますね。さっきも出ましたけど直季が何よりほしいのは、あったかい家庭ってやつだろうし。」
「これで直季陥としたら、間違いなく結婚までひきずっていけるからね。由理も『ファイト!』だよな。」
「対する実那子は…ここはちょっと可哀相な気がしません?」
「ちょっとね。由理みたいに図々しく1人の男に向かってはいけない、つーか。」
「図々しくですか(笑)」
「そっさぁ。まぁ直季みたいに過去に問題アリの男は、かえって由理みたいなのとクッツキ易いかもね、現実においても。」
「じゃあ実那子と敬太の取り合わせなんかはどうです?」
「―――いいかも知んない(笑) 敬太は必死に自分を笑わせようとしてくれてるんだ、とか、実那子なら気づけると思うよ。由理よりも敏感にね。」
■直季の部屋・朝■
「…だぁかぁらぁ、そんなカッコで寝てるから風邪引くんだっつーに…。」
「ちょっとこれはいい加減、寒そうですよね。あの格好で平気なくらい部屋に暖房入れてるのかな…。」
「逆にチョー寒がりやんそれじゃ。まぁここはアレだね、半分寝惚けまなこでドアをあけた時の、あの表情がナイスだった。」
■車の中■
「男の助手席にいる直季って…なんかヘン(笑)」
「そうですか?」
「うん。どーも妙だよ。似合わないつーか…。コイツやっぱアンドロギュノスか?とか思う。」
「はあ(笑)」
■御倉市にて■
「森田邸の前―! 効果音でけっこう強めの風が吹いてるのにっ、実那子の髪がちっともなびかないのはヘンだよー!」
「今回、けっこう演出にモンクつけますね。」
「うちわであおぐくらいしろよスタッフぅ! じゃなきゃマジカルで使ってたものすげー扇風機回してぇ!」
「いえ、効果音をもっと小さくすればいいんですよ。」
「そっか。簡単なコトだ。」
「商店街で聞きまくるシーン。これはどうですかね。」
「んー…。もし私が男だったら、こういう女は置いていくかも知んない(笑)」
「薄情ですねずいぶん。」
「このシーンはなぁ…。私だったらなー。この、商店街で半分ヒステリーになってるこの場へね、直季と輝一郎が駆けつける設定にするけどなぁ…。べつにそれでいいじゃん。うちの前から男2人ノコノコくっついて来なくたって。その方が、『ああ、実那子は必死なんだ、何としても過去をあきらかにしたいんだ』って、もっとキョーレツに伝わってくると思うけどね。…なーんかシナリオが実那子甘やかしてるつぅかさぁ。」
「あ、そこから先は最終回以降にしましょう。ね。」
「ああ、うん、そうね。」
「この同級生の女の人、今回も登場ですが…やっぱり上手いですね。」
「上手い。ただ第8幕のこのあたりって、なんか7幕のおさらいみたいで…何だかなーって感じ。」
「うーん…。それは言えてますね。」
「この女の人が上手いから、救われてんだと思うよ。実那子に対する懐かしさとか同情とか、ほんっと出てるもんね。どういう気分で実那子の前にいるのか…そういう感情のウラまで芝居に出てる。申し訳ないけど実那子、この人の前では影薄い。」
「記憶がない訳ですから、他人行儀になるのは仕方ないですけどね。」
「だからさ、要はそのあたりの気分? 『この人はこんなに懐かしそうにしてくれてるのに、私は覚えてない…。だけど、これだけはどうしても聞かなくちゃ…』って、それくらいの”深み”は、美穂さんに出してほしいね。表情の演技ばっかじゃなく、全体で。雰囲気で。空気で、さ。」
「この女の人が実那子役なら、出せるでしょうからね(笑)」
「言っちゃったよ言っちゃったよヤエガキー!」
■橋の上〜市役所の庭■
「眠森の中で一番素晴らしいもの! それはこの『映像の美しさ』だねー。いやぁ綺麗だよねぇこの森と川!」
「綺麗ですね。第1幕のあの、森の入口のシーン。あれも綺麗でしたからね。」
「ちょっとセピアがかったこの回想シーンもいいよ。…あ、これさ、川に落ちた将人くん、普通悲鳴くらい上げないか?」
「落ちる瞬間ですよね。」
「ドボン! だけじゃアンタ…助かるモンも助からへんがな。」
「まぁ相手は子供なんですから。」
「しかしこの市役所も立派なもんだよね。田舎のクセに(笑)」
「いや、田舎こそ立派ですって、お役所は。」
「そーかあ?」
「そうですよ。都会ほど価値観が多様化してませんから、市議会議員なんていうとみんなアタマ下げちゃうんですよ。」
「ああ…そうかもねぇ。『政治家なんて何がエライんだ』って発想は、これ、田舎より都会のもんかも知んないね。」
「でもここ笑っちゃいません? 4人して縦1列に並んで歩かなくても…。」
「あ、そうそうそうなの! ゾロゾロって感じで微笑ましい。」
「『僕たちは付き添いです』って雰囲気じゃないですか。絵的になんか間が抜けてて、逆に面白いですね。」
■学生寮の庭〜墓参り■
「『小さな恋のメロディ』の話しながら歩いてくるシーンが、これもまた綺麗ですね。」
「ほんとだね。ここだけ切り取ってパネルにしたいようなシーン。」
「風景が、登場人物の単なる背景に終わってないんだよなぁ…。すごいと思います。」
「庭で踊ってる大学生。まぁ福島に原宿はナイか。こういうとこで踊るのも笑えんね。古い木造の学生寮の庭でさ。」
「でも今、地方の大学ってけっこういい寮建ててるんじゃないですか?」
「バブル時期にあっちこっち、建て直してたからねぇ。当時のままの木造の建物…。福島学院大ってビンボー大学なのかな。」
「国公立ですよね多分。」
「輝一郎がわざわざ地方に行くからにはそうだよね。福島学院大って、実際は東北大学クラスを想像した方がいいんじゃないかなぁ。ネーミングとしては青学のイメージ重ねてんのかな。」
「眠森の新たなる推理、ですね。福島学院大のモデルはどこか!」
「…なぁんてバカな話してるけど、これにも理由があってさー。つっくづく実那子ってキャラは嫌いだなぁ私…。美穂さんが、じゃないのよ。『大庭実那子』ってキャラの性格が嫌い。」
「まぁまぁそこでストップして下さい。…続いての墓参りのシーンは?」
「先週の繰り返しって気がしなくもないねぇ。やっぱさ、致命的だよなー、ヒロインに感情移入できないっていうのは…。」
「はい、はい判りました。それじゃ次行きましょう。」
■森の中■
「ここももう、映像の美しさに尽きる。緑が主体だった中の森に比べて、褐色のね、寂しそうなくすんだトーンがじつにお見事。なんかの賞あげていいよってくらい綺麗だね。」
「ロケに使う森は3か所くらいあるって書いてありましたけど…こだわり、みたいなの感じますよね。」
「感じる感じる。木漏れ日まで計算に入ってて、感動モンだね。」
「『さよなら実那子』の木村拓哉の瞳が、あちこちで絶賛されてますけど…?」
「切なげな表情は、まぁ、確かによかったけどねぇ…。」
「あれ?(笑) なんかノッてきませんね。」
「ほらぁ…実那子が魅力的に思えないとねぇ…。せっかくの眼差しもさぁ。くっそぉ、もったいない!」
「そんなに気に食わないんですか?」
「うー……。ガリガリガリ…。」
「はいはい擬音効果入れながらテーブルひっかかない。はい、お茶でもどうぞ。」
「そういや昔、平家物語の書き出しを『擬音効果の鐘の音』って覚えてた奴がいたな。」
「『重いコンダラ』みたいな間違いですね。」
「はっはっはっはっ!」
「そんな大口あけてウケないで下さいよ、こんな真面目なシーン論じながら。」
「それはもう年末年末! 私はむしろこのシーンではね、輝一郎に対する直季の礼儀正しさね。こっちの方が心惹かれる。」
「きちっと頭下げて、ケジメ通して帰りましたからね。」
「電車でね(笑)これさ、急いで出てきたせいでサイフ忘れてて、輝一郎に3000円借りて帰ったら笑える。」
「ダメですよコメディにしちゃあ…。」
■森の中をさまよう直季■
「夕暮れをあらわすためでしょうけど、ブルーのフィルターかけてるかも知れませんね。」
「うん。全体に青っぽいもんね。…で、ここも実は1つ突っ込みたいんだよなー。箱とメダルが放り出されてるのはいいとして、紙とビニールまでその場にあるかしらん。どっか飛んでっちゃうと思うんだけど。…これ、直季が森の中歩いてたらゴミが飛んできて、その紙に見覚えがあってさ、『まさかこれは!』みたいな方がいいよなー。」
「またまた演出にモンクありですか。」
「でもさ、このシーンのラストはなかなかよかったよ。夜道を走る輝一郎の車のシーンとさ、何かを決意したような直季の顔のオーバーラップ。澤田さんぽい感じの。」
「ああ、かぶさりますね最後に。」
「実那子にさよならして、心を落ち着けようとしていた矢先、まァたそうもいかなくなっちゃったんだよねぇ…。決着つけるべきことがもう1つ持ち上がった訳だ。それは国府との、いわば対決。コソッと調べて国府の真意を確かめるだけじゃ、やっぱ済まないぞと。」
「そのあたりをうまく表現した演出、といえますね。」
■車の中■
「伊藤直季というキャラの足跡をたどる、という感じのシーンですが…智子さんには文句があると見ました。」
「あるある(笑)さすがよくお判りで。」
「判りますよ。こうやって座談会やってきて、もう8回めなんですから。」
「やぁっぱ私、輝一郎好きだなー。判らない面もあるし怪しいことやってるし…でも地に足がついてるっていうか、納得できるんだよなこの人。」
「トオルさん、女の子生まれたそうですね。」
「ああ、載ってた載ってた。役者さんの実人生の重みって、芝居にも出るもんだよねー。10年後…36歳の拓哉がどんな風に熟していくか、ずっと見守る所存だぜ。」
「その頃、智子さんって幾つですか?」
「…うっるさいなー…。勝手に10足せばええがな!」
■地下駐車場■
「リワインダーでこのシーン書いてて、楽しかったでしょ(笑)」
「あ、(笑)バレバレ?」
「はい。舌なめずりしてる感じありましたよ。」
「そっかあ。いやー…プロフィットが熱なんか帯びちゃってねぇ。」
「あのガムテープはがすの大変だったんじゃないかな。そのせいで髪束ねたような気がしますけど。」
「いや、あれはね、私の意見としてはGift意識してると思うんだわ。」
「最終話ですか? 由紀夫…っていうか武弘がボコボコにされるシーン。」
「そうそう。好きなんだあのシーン! なぜあそこにあるんだというあのテーブルの上にね、おりゃ!って仰向けにされる武弘。ナイフ落とした時の表情。あそこで思ったもんね。あのナイフは武弘の弱さの象徴なんだなって。リンゴジュースじゃないけど、あんなちっぽけなナイフ、奪われたらもうおしまいでさぁ、あとはやられるだけ。あのナイフを持ち歩かざるをえなかっただけ、武弘は弱くてカッコ悪いんだよ。BGMがまたいいんだ。アヴェマリアだべ? …ンとにそんなコトも判らないでカッコだけ真似する馬鹿がいっからよぉ!」
「バタフライナイフ事件。…嫌なネーミングですね。」
「これさ、いつかの飛行機事故の時の『ダッチロール』と同じでさ。言葉自体にもインパクトあったんだと思うな。だからサーッと広まっちゃったのね。」
「なるほど。言えてるかも知れませんね。」
「特命リサーチでやってたけどね? 人間の脳って、ある程度の恐怖感は必要なんだってね。生物はみんな本能的に、危険を予知する力を持ってるんだけど、こうも発達した人間社会には、命の危険なんてそうはない訳じゃない。少なくとも草原に住む野生動物よりはさ。だからこの危険予知能力はどうしても衰えるんだって。で、衰えることへの危機感も、ちゃんと人間にはプログラミングされてるのね。だからこそ格闘技の試合だのバイオレンスシーンだのを、人間は求めるんだって。てゆーか求めないと、生きるための大切な本能である危険予知の力を失っちゃうんだそうな。」
「へぇー…。」
「だからさ、私がね? 『いいぞもっとやれ派・最右翼』だっていうのは、これはこれで生命として正しいポジションなのだよ。うむうむ。」
「それは穿ちすぎでしょう。」
「まぁ何でもいいけど、この殴られるシーンは実にリアル。直季って案外全身の…ロングでの芝居は少ないんだけどもね。通路歩いてくるところから始まって、オールでよかったよかった。」
「蹴とばされたはずみで車の下にもぐりこむような位置になって、そのまま逃げこもうとしたところを国府がひきずり出しますよね。殴るために何の邪魔もない場所に。あれがすごいな。マナ板の上って感じですよ。」
「そ。まさにマナ板。国府ってさ、今まで何となく、無実の罪で服役した可哀相な奴って印象だったと思うんだけど、おいおいやっぱこぇぇ奴なんじゃないかよ!ってこれで判ったよね。」
「トランクに直季放り込んで、車が走り出したあとのBGM…あれはカーステレオから流れてきたシンフォニーって設定なんですね。僕、リワインダー読んで気がつきました。」
「私も最初見た時は判んなかった。えれぇ大袈裟な選曲だなぁと思って、でも国府はキー回す時にカーステのスイッチ入れてんだよね。あれで曲がかかったんだよ。」
「曲名は判りますか?」
「判んねっす。おお合唱付きだ、ってことくらいしか。」
「国府は免許も何も、ドヤ街で誰かから買ったんでしょうか?」
「案外無免許じゃないの? 車も盗難車か何かで。」
「ありえますね。…まぁ国府の真意もまだ理解できませんし、年末に話すことがやたら多くなりそうですけど、残り4回、ここまで来たらつきあうしかないでしょう。しっかり追いかけましょうね。」
「うん。それに異存はないです。ほいでもって私め、とか何とか言いながらちょいと考えたんだけどもさ。」
「何か?」
「これさ、直季はやっぱ直巳の実の子じゃないと思うのよ。何かの理由で心を閉ざした男の子。でね? 直巳は直季に、自分の実の娘である実那子を守る役をさせるために、記憶の操作をしてたら面白いかなーって思って。んで、ラストで直季はそのことに気づく、と。」
「―――何か智子さんの好きそうな展開ですね。」
「やっぱそう思う?」
「思いますよ。好みは出て当然ですからいいですけど。」
「ま、あと4回あるから。このまますんなりとカタストロフ(終焉)には行かないんじゃないの。まだ何かあるよきっと。」
「楽しみですね。―――えー、といった訳で座談会第8回め、ハイなんだかローなんだかよく判らないモードでお届けいたしましたけれども、…」
「ま、作品の真の評価は、『時間』という審判が下すのさ。なーんちゃって気障すぎー! ともあれこの座談会もあと4回+1回、最後までおつきあい頂ければ嬉しいです!」
「では今回はこのへんで。パーソナリティーは私、八重垣悟と、」
「『しんごのいたずら』を探して群馬県内をさまよう木村智子でしたー!」
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