「さて、こちらはスタジオの隣の小部屋です。辛口モードはこちらからお送りするということで、…これ、なんなら今後もこの形にしませんか。」
「そうだね。私も今そう思った。いいかも知んないすごく。」
「自己陶酔の、知ったかぶりの辛口はハナにつきますからね。自分ではいいと思ってても、誰かが眉しかめてるかも知れないし。」
「そうそう。でもさ、『それでも言いたいこと』ってのもあるからね。そういう場合は場所を変える…うーん、大人の思慮分別だぜぃ。」
「じゃあお聞きします。何がそんなにハマれない理由なんですか。」
「うん。―――実那子と由理、物語におけるヒロインとサブ・ヒロインがね、両方ともあまりに無神経なんだわ。もち『私にしてみれば』だよ。違う見方する人もいるだろうとは思う。」
「それは判ってます。いいですよここで言うのは『智子さんの』意見で。」
「実那子にしても由理にしてもさ、なんでこういうこと言うのってセリフを平気で吐くのよね。それが物語上必要なら仕方ないけど、どうもそのへんがね…。私は何かこう、歯にひっかかったサカナのホネがなかなか取れないみたいな苛立ちになっちゃうのよ。」
「たとえばどんなセリフですか。」
「ちょっと前後するけど由理の、『直季は実那子さんのことを諦めたんですね』…アキラメタんですねってさ、何かすごく偉そうじゃない? 諦めた彼の痛みを、毛ほども心にかけないでさ。
んで、そのセリフを由理に言わせるに至った実那子の反応ね。セリフの形では表現されてないけど、『最後にどんな話をした』って聞かれたあと、御倉の森での直季の言葉を思い出すじゃない。そのシーンがここで紹介されるってことは、あの時直季が言ったのとほぼ近いことを、実那子は由理に聞かせた訳でしょ。そうじゃないと考える理由はどこにもないよね。」
「まぁそうですね。ほとんど同じことを言ったと考える方が素直だと思います。」
「これが私としては許せない。あの森で、実那子に別れを告げた直季の言葉はさ、魂の底からふりしぼった、血の滴る真実の言葉であり想いな訳でしょ? その価値とか重さが、この女には判ってねぇのよ。
由理にしてもそう。今回じゃあないけど、直季の部屋訪ねた時に言うよね、『直季の実那子さんへの気持ちは義務なんだって。』って。…いくら男に振り向いてほしいからって、言っていいことと悪いことがあるよ。
この2人の女、揃いも揃って、直季の真実の想いをまるで挨拶か何かみたいに平気で口にしやがるんだわ。傷口を手でいじくり回す感じ。
『さよなら実那子。幸せになれよ。』―――この言葉を彼は、どんな想いで言った? しかも輝一郎っていうライバルの前で。その気持ちを思いやることさえ、できないんだこの2人は。深い海の底で真珠のように光る直季の真実の気持ちを、そう簡単に別の女に告げるんじゃねぇバカ実那子!!」
「ちょっ…まぁまぁ、机に当たってどうするんです。」
「―――これさ、もし私だったらこのシーンはこう書く、っていうの…やっちゃっていいかなぁ。これって、しちゃいけないことかしらん。プロだろうとシロートだろうと、作者に対する冒涜かな。侮辱かな。」
「いや、それ…はどうでしょう。考え方によると思いますけど。」
「んじゃさ、せめてもう1個、奥の部屋でやろう。『この実那子と由理の会話をこういう風には出来へんのか!!!』という木村智子バージョンね。」
「何だかこのコーナー、だんだん迷路みたいになってきますね。マイクの前に戻れなくなったらどうするんです。」
「なぁにラジオ局っていうのはもとから迷路のように複雑に作られていると『古畑任三郎』にもあった。暴動が起きたとき真っ先に占拠されるのは放送機関だからって。」
「ああ、確かにありました。『さよなら、DJ』の回ですね。桃井さんの。」
「そうそう。…でも、ならいっそ忍者屋敷みたいにすりゃいいじゃんね。『レイダース』に出てきたみたいな洞窟の通路とかも作って。」
「あっちこっちに仕掛けがあって、毒矢とか飛んでくる奴でしょ?」
「そうそう。お台場行くのも命懸け(笑)」
「…ということで、申し訳ございませんみなさん。このシーンを木村智子が書くとこうなる、という我儘を聞いてやってもいいなと思われる方はこちらをクリックして下さい。」
「すいませんねぇ八重垣くん面倒かけて。」
「いえいえもう慣れました。」
「ま、もう1つ不満なのはこの、由理なんだけどね? この前も言ったけど、実那子を病院に連れてったあのシーンで、殺人がどうの犯人がどうのって話、聞いてる訳じゃない。それを知ってて、その上で直季が行方不明になったら、ちったあ別の意味で心配にならんもんかね。自分のところに戻って来るとか来ないとか言ってる場合じゃねぇって。直季、北鴻巣の穴の中だし(笑)」
「ああそれはそうなんですよね。…それと僕がもったいないなと思ったのは、直季の車、あの地下駐車場にあるはずでしょ? しかも側には鍵が落ちてるはずなんですよ。ライトセーバーの連中とか、もしくはあのホールの警備員とか…気づいて騒ぎになるんじゃないかな普通は。」
「うん。そっちの方がミステリーとして面白いかもね。」
「ま、そこまで好みは押しつけられないですけどね。じゃあ自分で書けよってことになるだろうし。」
「そうだね。―――んじゃ、隣戻るか。」
「戻りますか。」
「では、ワープっ!」
「またそんな古いネタを…(笑)」
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