★ クインテット番外編 『ジョーヌのラブレター』 ★
『 | 私の天使へ | 』 |
元気にしていますかヨーゼフ。決められたお勉強はちゃんとやっていますか? | ||
心配しなくても私は大丈夫です。 こちらはとても過ごしやすい気候で、毎日、気持ちよく目覚めることができます。 | ||
あなたのお顔を見られないのは寂しいけれど、この病気は都にいては治らないのです。 いつかきっとあなたに会える日のために、私は寂しいのを我慢しています。 | ||
ですからあなたも泣いたりせずに、毎日を立派に過ごして下さい。 父上のお言いつけをよく守って、きちんと神様にお祈りして下さい。 | ||
私はいつも、どこにいても、愛するあなたのことだけを思い、あなたの幸せを祈っています。 | ||
母より |
『 | わたくしのジョーヌ様へ | 』 |
突然このようなおたよりを差し上げることをお許し下さい。 わたくしは農夫ベックの娘でエルリーケと申します。いつもいつも遠くからジョーヌ様のお姿をお慕い見ておりました。 どんなに貧しく見すぼらしい者にも、全く分け隔てなくおいしいパンを下さるジョーヌ様を、わたくしの父も町の人たちも、みな神様のように思っております。 | ||
もちろん、それはわたくしも変わりません。ジョーヌ様がおいで下さった日は天国のようで、お会いできなかった日は地獄のようです。 どんな雪雲も溶かしてしまうジョーヌ様の笑顔を、物陰から拝見できるだけで幸せなのでございます。 | ||
でも先日、わたくしはジョーヌ様にお言葉をかけて頂きました。 妹と弟を連れて並んでいたわたくしに、ご家来の方は怖いお顔で、子供の分まで3つもやれないとおっしゃいました。 ところがジョーヌ様は「そんなこと言うなよ」とご家来をお叱りになり、わたくしに「でも1個は小さいのでいいかな。ごめんね」とおっしゃって下さったのです。 | ||
いいえ、きっとジョーヌ様はそんなことは覚えていらっしゃらないと思います。でもわたくしはそれ以来、どうしてもジョーヌ様にお礼を申したくて、それから、お慕いしている気持ちをひとことだけでもお伝えしたくて、思い余ってこのような手紙を書きしたためてしまいました。 | ||
心から、お慕い申し上げております。多くは望みません、これからもどうか、素晴らしい笑顔をわたくしに下さいませ。それだけでわたくしは幸せでございます。 | ||
エルリーケ |
『 | いつもいつもお優しそうな若様ですが、わたくしは時々、それだけが若様のお姿ではないような気がいたします。 | 』 |
悲しいことやつらいことがあっても、もしかしたら若様は、それらを我慢して笑っていらっしゃるのではないかと、そんなことを思ったりもいたします。 | ||
若様の横顔が溜息に曇る時、わたくしには何もして差し上げることがない。 それがとても切なく、寂しゅうございます。 |
< 完 >