【(Xー1)年四月十六日】

 久しぶりに教室に出て驚いた。
 入学希望者には随時、授業見学を許しているが、今日の一年生のクラスには、あの大澤辰郎が来ていた。授業が終わって声をかけると、今日入学手続きを済ませたという。さらに私が驚愕したのは、彼と私が話しているところへ、「よお」と親しげに手を上げて、君がやってきたことだった。大澤君の言っていた「紹介者」とは、君のことであったのか。
 これから六本木へ踊りに行くと言って、二人は連れ立って出ていった。私はしばし呆然とした。いつの間に知り合いになったのだろう。彼のダンスにいたく感動していた君が、何らかの方法で働きかけたことは想像がつく。大澤君は確か今年三十一歳だ。彼も長い髪を後ろで一つに束ねていて、君たちの後ろ姿はまるで、仲のいい兄弟のようであった。
 君はまた、彼からも何かを学ぶのだ。貪欲な君のエネルギーは、私の教えを唯一無二のものとして視野狭く満足したりせず、異種のもの、別なるものへ、次々触手を延ばしていく。君は彼に学び、彼を真似て体を動かすのであろうね。君と彼が笑いあう光景を思い浮かべては、嫉妬の炎に焼かれる私を知りもせず。
 

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