【(Xー1)年十二月十九日】

 今年最後の授業が終わって、私は君を講師室に呼んだ。来年二月、スクールの作品発表会を開催する。テーマに基づいて生徒全員に出展してもらう。ついては君に、助手として力を貸して欲しい。そう言うと君は、
「え、僕が…ですか。」
 少し目を見張り、自分の胸元を指差して言った。正月休みが明けたらすぐに準備を始めなければならないから、そのつもりでいてくれと続けると、君はしきりに首をかしげ、
「いや、でも、僕なんかが…。」
 喜んで飛びついてくるとは思っていなかったけれども、なかなか判ったと言ってくれない君に、私は不安になってきた。『僕なんか』ではない。大胆で繊細な君の構成力をこそ、私は貸して欲しいのだ。私はさらに具体的に、会場はホテルオークラの『蘇枋の間』であることや、テーマは三つ用意し、『彗星』『春の夜の夢』『走る雲』の中から、各自に一つだけ選択させることなどを、次々君に語ってしまった。
「引き受けてくれないか。」
 もう一度私は聞いた。判決を待つ気分だった。君は困ったような、もしくは何か考えこんでいるような表情で、
「引き受けるって…いったい何をすれば。」
 私の胸は踊った。NOではない。少なくとも嫌とは言っていないのだ。君の両手を握りしめたい気持ちを殺して、年明け早々にともに会場へ行ってほしいこと、出展作品の配置も含んだ会場のトータルデザインについて助言してほしいこと、会場で生徒たちが生けこみをしたあとの最終チェックに立ち会ってほしいこと…などを述べた。材料手配や招待状の作成、受付の段取りなどはスタッフの仕事だから、君の手を庶務でわずらわせることはないと、それもつけ加えて説明した。
「あんまり、自信ないですけど。」
 君は言い、小さく頭を下げた。私は雀躍りしそうだった。新たなる年は君のために明ける。往く年を惜しみ、来る年を抱擁しよう。まぶしいほどの君の感性がやがて、蘇枋の間に光り輝くだろう。
 

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