【X年八月二十五日】
京都の椎葉さんから電話をもらった。来る十月、京都市内に、博物館の別館が落成する。その第一回めの催しとして、『今古華錦(こきんはなにしき)』と題した展示会を開くのだが、「日本の伝統美を最新の手法で表現する」をコンセプトに、エントランスホール中央にひとつ、大作を出してくれないかとの嬉しい依頼であった。さらに椎葉さんは、もしよければ先日の『彼』にも小品を出してもらいたい、枠を取ってあるからと言った。ひとまずありがたくお受けして、講義のあと帰ろうとしていた君をつかまえて話してみると、例によって思慮深く『自分でいいのか』と尋ねてのち、君はありがとうございますと微笑した。
さあ私は嬉しくなった。秋なかば神無月の頃。忘れられがちなこの国の伝統の素晴らしさを、君に教え伝えられる幸せな機会を持てる。
暑苦しかった夏はもうじき終わる。美しい季節がやってくる。
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