【 TK本編あとがき その3 】
 
今回は建設業のお話をヒトツ。
この業界を一言で言い表すとするならばこれ。とにかく、「古い」!(笑)
暦なんか気にして業務計画立てる業界は他にはないでしょう。あるとしても結婚式場とか神社仏閣、葬儀場に火葬場くらい?
暦ばかりか天候にも左右されますからね。昔から言うじゃないですか、大工殺すにゃ刃物はいらぬ、雨の三日も降ればよい…。
建設業は「請負(うけおい)」ですから、お客様に幾らお金を頂こうとも、工事が終わるまでそれは『預り金』。経理上バランスシートの“負債”にカウントされるんですよ。工事が終わって初めて“売上計上”できるんです。
だから工事が遅れると経営的にも致命傷なんですよねー。特に2月3月の年度末に仕掛かってる工事は、当年度の売上金額を決定する重要な意味を持ちます。
仮にお客様が前払いで1億円払ってくれてたって、工事が終わらなきゃ『売上』じゃなくって『負債』なんだもん。
またその大事な時期にさぁ、日本て国は雪が降るんだなー。雪に泣くのは受験生ばかりではないんです(笑)。
そんな建設業界の裏話をご紹介する前に、お断りしなくてはならないコトが。
これはあくまでも「業界の」話でございまして、私めの在籍している会社の楽屋話って訳じゃないですからねー!
「あのメーカーはそんなに馬鹿なことやらかしてんのかぁ。へー。」なんて、思わないで下さいましよぉ!
(む、虚しい^^;)
 
裏話パート1・建替工事編。
今まで建っていた古い家を解体撤去してサラ地にし、そこに家を建てるという現場がありました。
現地案内図を手に車は現場へ向かいます。
「おっ、ここだここだ。」
到着した場所には、よくまあ今まで建ってたもんだと感心するようなボロ屋が。
「成程、これは建て直して正解だ。」
彼らは早速解体にかかりました。ショベルカーを動かして回りの塀を取り払い、建物の屋根にバリッとショベルを打ち込みます…その瞬間! 中から老婆が這い出して来ました。
「なっ、何するんだぁ〜!」
驚いたのは現場監督。施主はとっくにアパートに引っ越したと聞いていたのに…!
よくよく聞いてみると、解体するのは隣の家だったんです。余りに汚いボロ屋だったので、ここだと思い込んでしまったんですね。
笑い話じゃないですよねコレ。でもこういう『解体場所違い』って、最近はともかく昔は、そんなに珍しい話でもなかったみたいですよ。何て恐ろしい業界なんだ…。
 
裏話パート2・建替ストーリーもう1つ。
今まで建っていた家を解体撤去、までは今回は順調に行きました。
さてサラ地にする段階で大問題が発生。それは裏庭に「井戸があるじゃねぇかよ!」ということ。井戸って勝手に埋められないんですよ? だって神様いるんだもん。古臭い業界ですからそういうのすごく気にする。
で、何を手配するかというと神主(笑)。暦で日を見て、こりゃ来週だねということになり、その間工事はストップです。
「裏庭までちゃんと調べとけっ!」と怒られるのは営業マン。「だってそんなことお客さんは一言も…(;;)」
客は気にしなくてもコッチが気にするんですね。
 
裏話パート3・新築編。
お施主様は農家の方でした。息子さんが結婚するんで、畑をつぶして家を建てたいとのご希望。
営業マンはさっそく巻き尺を持ちまして、「原調(現地調査の略)」を致しました。土地の正確な形状を調べて、地盤強化の必要はないか、隣地境界基準をクリアできるか、色々とチェックします。
日本の建築基準法は世界1うるさいんで、家ヒトツ建てるにも、さまざまな法的規制をクリアしなければなりません。
さて大根の植わった畑をせっせと測って、見積りを提出しまして、お客様は契約して下さいました。種々の理由から着工は半年後と決まり、準備を整えて、いざ着工しようとしたら!
…なんせ大根を抜いたもんだから、土地の高さ(GL・グラウンドラインといいます)が変わっちゃった。
な、なんと原調からやり直しー! 大根、あの大根のせいでこんな…!
 
裏話パート4・集客編、または人の褌でスモウを取るの巻。
県が売り出す公共分譲地は値段が安いので、土地を持たないお客様には絶好のチャンス。住宅メーカー各社も当選したお客様にハゲタカのように群がります。
あるお客様が弊社で契約して下さいました。理由は“工事が早いから”。
そーですそーなんです! ウチの建物って、工場である程度組み立ててから現場に運びこみますゆえ、工期は短いんですよすごく。
そこがいい、と言って下さったお客様のために、弊社は頑張って、急いでおウチを建てました。
完成した物件ではお客様の許可を得て(もちろん謝礼は出します)、完成現場発表会をやらせて頂くことになっていました。これから建てようという計画をお持ちのお客様(管理客といいます)に、実際の物件を見て頂く発表会です。
展示場のモデルハウスよりも現実的な建物ですから、お客様にはとてもいいアピールになるんです。
営業マンはしこしこDMを出す。近所に投げ込みをする。広告宣伝費使って新聞にチラシを入れる。そうやって集客をはかります。
…でも世の中には頭のいいヤツがいて、自分たちはそういう集客の手間・コストをかけずに、弊社の管理客を奪おうとするんですな。
広〜い分譲地の一角に弊社の建物が建っている。ふと見るとそのそばに、わざと途中まで作ったS社の物件があったりします。
造りかけの物件に『工事工程をぜひご覧下さい!』てな垂れ幕を下げて紅白幕まで張りめぐらして、万国旗なんかも出しちゃって、賑やかにイベントを開催してる。
そしたら弊社の発表会に来たお客さんは、当然そっちも見ますわな!
ウチだって『あっちは見ちゃダメ!』とは言えませんがな!
キチンと完成した物件よりも、造りかけを見られるっていうのは面白いですがな。
しかもどうやらS社は、そのイベントに自分たちの管理客は呼んでない様子。モロ、弊社の客をカッサラッてやれという戦法です。ミエミエです。
「何だよっ、これじゃあウチはS社のために集客してやったようなもんじゃねぇかっ! きったねー!」
営業所長は歯ぎしりしたそうです。でもこりゃ、あっちが知能犯だよ。別に悪いことしてる訳じゃないし。
建設業っていうのはこんな感じ。泥臭くて微笑ましい世界です(^^)
 

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