『危険な関係』 座談会
【 第2回 (99.10.21放映分) 】
「はい、えー中2日おいて3日めの再会ですが、皆様いかがお過ごしでしたでしょうか、八重垣悟です。オンエアから1週飛んでたのを何とか追いつこうと努力した甲斐がありまして、もう1週分遅れずにね、済んだんですけれども。はい。」
「なーにエラそーに言ってんのよぉ、あんたは別に努力してないでしょうよ八重垣。睡眠時間削ったのはアタシだかんねっ!の木村智子ですこんにちは。」
「なんだ、挨拶の前フリだったんですか今のは。」
「おおそうさ。何せ今クールは見なきゃなんないドラマが多くてねぇ。って別に誰にも強制はされてないけど。さぁさぁ例によって、さくさくっと行きましょうさくさく!」
「じゃあ冒頭の、前回のおさらいシーンは飛ばしますよ。」
「うん。おさらいの最後のドアの前のシーン、鷹男の『今の奴が都築雄一郎だったりして』ってセリフは、前回にはなかったけどね。」
■レストラン■
「なんかいまいち店内のセンス悪いような気がすんだけどね。どうよ八重垣。」
「うーん…。まぁ僕はもうちょっと、シックな方が好きですね。アイボリーとかグレイとか、じゃなきゃいっそ黒一色とか。」
「妙にケバい気がしなくもないよなー。けどここで流れてるピアノのBGMがさぁ。何て曲だっけかねぇこれ、八重垣くん。」
「俺に言わすなよ(笑)『月の光』ですよドビュッシーの。」
「おおそうだ、そうだっけね〜。ふふんっ。」
「だからここでその話はやめましょうってば(笑)」
「それもそうだ。じゃあまぁ話戻すけどもさ、今どきフランス語のメニューしかない店ってあんの? マキシムならいざ知らず、銀座の超一流だって日本語の添え書きくらいあるだろぉ。」
「嫌味な店なんですよ。ウェイターも失敬な態度ですしね。1つずつ説明しましょうかだなんて、もしこれで説明させたら、1時間でも2時間でもしゃべってるんじゃないですか?」
「ねー。こういう時にこそ千石さんがいてくれればねぇ。」
「ああ『王様のレストラン』ですか。面白かったですねあれね。」
「今でもツウの間では、『ドラマ界の奇跡』と呼ばれてるんだってね。フランス大使を叱りとばすシーンなんか、胸がスカッとしたもんな。」
「ここで新児がアペリティフにワインって言うじゃないですか。これって、相手が佐竹城か千石武ならともかく、こういうウェイターにはナメられるでしょうからね。『何も知らない客だな』って。女性同伴の客に予算聞くなんて、本当にこのウェイター最低ですよ。」
「だよねー。でもここまでやられたら普通、新児もオドオドしてお里が知れそうなモンだけど、どっこい表面は比較的堂々としてる。これってやっぱ36歳って年齢の余裕なのかな。20代じゃ無理だよね。」
「ああ言えてますね。そうか36歳か。智子さんより年下……」(←鈍い音)
「見かねて助け舟出したちひろ、さすがは秘書課だね。彼女から見りゃ新児…じゃない雄一郎は、何もかんも承知しててむしろウェイターを試してるように映るんだろうけど。」
「…………」(←何かこする音)
「都屋の次期社長と知ったとたんに手の裏返すウェイター。やだねーこういう根性! んでもサービス業の98%がこのタイプなんだろうなぁ。ねぇ八重垣。」
「…そう、ですね…。けど、何も、よりによって向こうずねをまともにヒールで蹴らなくたって…」
「上司に内緒で食事なんかして怒られる、って言うちひろにさ、『秘密にしてればいい』なんて、憎いコト言ってくれるよねっ新児もっ! 地味な生活送ってきたワリには、女にゃあご堪能なのかしらん。ヒューヒュー!」
「だからそんなとこばっかり見てないで下さいよ。このシーンにはけっこう重要な意図があるじゃないですか。」
「おや立ち直ったね。うんうん確かに重要。『居酒屋で焼酎飲んでる男であっても、僕を素晴らしい人だと言えるのか』…。ちひろはYesと答えるけど、この問いはさぁ、実は本物の都築が新児に残していった命題なのかも知んないね。中身の本質と、表面のラベルと。人間はいったいどっちを重要視するのか。綺麗ごとじゃなく現実において、大切なのはどっちなのか。」
「そういえばここって気づきました? 新児とちひろがテーブル挟んで、こう向かい合ってるじゃないですか。で、それぞれが長めのセリフを言う。その時にね、カメラは喋ってる方じゃなく、聞いてる方を正面に映してるんですよね。いい演出だなぁと思いました。」
「凝ってるよね〜。んで、『都屋の後継ぎ』ってラベルをつけた雄一郎の前に、さっきの無礼なウェイターと支配人があらわれる。平身低頭する2人に、新児は返事もしないのね。ラベルでしか人間を見ない、最低の奴だと思うからだね。」
■有季子の部屋■
「八重垣くん曰く”ノンキな2人”のシーンか。でもここの鷹男の『こだわりますねぇ』って口調、好きだな。部屋に呼んでもらってさ、『おっとコイツはもしかしてセカンドチャンス!』とか思ってんのに、彼女ときたら雄一郎の話しかしないモンだから、ちょっと拗ねてるってカンジ? 冷蔵庫から缶ビール出した後で、キョロキョロと何を探してるんだかね。ひなつ様もそれは気になったって言ってたよ。」
「多分おつまみじゃないんですか? ビーフジャーキーとかイカクンとか。」
「くわー、イロケのねぇツマミー!」
「でも台所で他のものも探さないでしょう。缶ビールにグラス、ってタイプでもないし。」
「しっかし紀香さんにメガネって似合わないねぇ。普段はコンタクトって設定なのかしらん。」
「さあそこまでは(笑)」
「『俺だったら有季子にいっぱいセクハラされたい』ってのはさ、紀香ファンの男性全員の本音だろうね。『そんなつもりで呼んだんじゃない』って突き放されて、耳なんぞぐりぐりしてる鷹男がなかなか。」
「ナレーションにもありましたけど、有季子はかなり焦ってるんでしょうね。左遷がかかってるし、あとは何だろう、一種の意地かな。」
「うんうん意地だね。むしろそっちのが強いんじゃない?」
「でもこういう大事な時にこそ、焦りは禁物なんですけどねぇ。」
「焦ったがゆえに有季子は雄一郎に急接近して、そのまま破滅へまっしぐら、ってことなのかな。『退屈な平和か情熱的な転落』…なかなかパンチの効いた対比だねこれ。」
■レストラン■
「お会計72000円て安くない? サービス料も消費税も全部入ってこれでしょお?」
「コース料理だからじゃないですか? 支配人がワビ入れにきたからって、新児がオーダー変えたとは思えないし。」
「ああそっか。1人2万円くらいのコースに、ワインは2種類くらいでね。」
「ええ。いいワインなら1本で軽くその値段しますけど、新児はあえてビンテージワインなんか頼まなかったんですよ。」
「そっか。成程。そうかもね。」
「それにしてもすごいカードですね。財布の中身が全部ドル札っていうのも、さも帰国したばかりって感じでリアルですし、こんなお財布拾ったら嫌でも警察に届けざるを得ないよな…。」
「言えたぁ! んでも新児もヌカリないよね。ウェイターに渡したのとは別のカードをチラッと見て、雄一郎のサインのクセ覚えとくとは。」
「ローマ字のスペルの方がごまかしがききますよね。これ漢字だったら難しいでしょう。こんな短い時間で真似られませんよ。」
「そだねー。都築雄一郎、なんてクセの出そうな字面だもん。」
■タクシーの中■
「うーんっ、官能的なキスシーンっ!! 『これで秘密になった』ってのがサイコーよぉ! さっすが女性の手によるシナリオだなぁ。女にとってどんなセリフがドキッとくるか、同じ女性なら判んないはずないもんねぇ。」
「うん、それはあるでしょうね。少なくとも男性が書くよりは自然に書けるでしょう。」
「『ベルサイユのばら』ってあるじゃん? 言わずと知れた池田理代子先生の名作だけども、あれが宝塚で舞台化された時にね? 演じるのは女でも脚本は男性だからさ。何つーかこう、余計なセリフが入ってくんのよねぇ…。『アンドレ、私を抱け。』とかさぁ、原作にはソンなAVみてぇなセリフはねぇちゅーの。『今夜一晩をお前と一緒に。アンドレ・グランディエの妻に…』だってばよぉ! ああもう全く腹の立つ! き―――っ!」
「判りました判りました。それはよく判りましたから。じゃあ今回井上由美子さんの脚本には、期待していいってことですね?」
「うん。いいと思うよ。でもってここはBGMもいいよねぇ。ギターのさ、哀愁があって情熱的なメロディー。」
「キスしてる2人を運転手がバックミラーでチラッと見るじゃないですか。こういうのって、どうなんでしょうかね。プロだから気にしないのかな。」
「いや〜、全く気にならないってこたぁねっしょお。正直『けっ!』てトコじゃないのぉ? こういうドラマならともかくさ、生で見せられる他人のラブシーンてムカつくよぉ?」
「え、見たことあるんですか? 智子さん。」
「まぁ…偶然の目撃? けどドキドキなんか全然しなかった。邪魔だろがボケェ!って感じだったな。」
「実際はそんなもんかも知れませんね…。」
■川原■
「前回も言ったけど、生きてたんだよね雄一郎は。これにはびっくりだったなー。」
「1度は車で轢かれてる訳ですけど、よく考えればバックでしたからねあれ。そんな、70キロも80キロもスピード出せないし、当然よけようとはしただろうし。呼吸も心臓も一瞬止まったはものの、生き返っちゃったんですね。」
「川岸にさ、打ち寄せられたっていうよりも、必死にすがりついたって姿勢にも見えたよね。口もとのビニールが雄一郎の息に合わせて動いてる。うわー、どうなるんだろう新児は!って思うよねぇ。」
「しばらくは意識か記憶か、どっちかを失ってるんでしょうけどね雄一郎は。それとも第2の犯罪っていうのは、何か彼に関係するんでしょうかね。」
「かも知んないねー。チャプ、チャプ、って水音が大きくなって、でもってそのままタイトルへ。この流れもけっこう好き。」
■新児のアパート■
「相変わらず朝のメニューは同じなんだね。トーストにサニーレタス挟んで切って、コーヒー落として…。」
「いや独り暮らしの朝食って、そもそもあんまり代わりばえしませんよ。」
「そう言う八重垣くんはどうしてる?」
「僕ですか? 僕も朝はほとんど同じですね。コーンフレークに牛乳かけて、あとはサラダかな。コーヒーは会社に着いてから飲みます。」
「へー! コーンフレーク! ほっほー、カラダにはいいねぇ。」
「智子さんは朝はどうなんですか?」
「あたしゃ普段は食べないよ。その代わり牛乳300ccくらい飲む。カルシウム強化タイプの牛乳ね。」
「え、牛乳だけなんですか?」
「うん。旅行とか出張とかでは食べるけどね。まぁそれはいいとして、ここでの新児の左腕にはしっかりガーゼがとめられてんのね。」
「ノックの音がして、ドアを開けるじゃないですか。僕、ここでてっきり、来たのは有季子かと思いましたよ。」
「あ、あたしもあたしも。なんか今回はそんなふうな、妙なシーン転換が多かったね。それがさっき言った『あれれ?って点』なんだけど。」
「演出に凝るのもいいですけど、やりすぎると混乱をきたしますからね。ほどほどにってとこですか?」
「そうそう。何事も、過ぎたるは及ばざるが如しってね。」
■捜査二課■
「で…その有季子のシーンですけど、『法的措置には訴えない』って聞いてホッとするの、何だか素直でいいですよね。」
「ねー。強がって『ぜんぜんヘーキ』みたいな顔してても、内心ビクビクしてたんだろうね有季子は。でも避けられたのは最悪の事態だけであって、準・最悪、みたいな結果はまぬがれなかったって訳だ。」
「『家に帰って寝てろ』って…キッツいな〜。こんなこと言われたらへこみますよねぇ。」
「そうだね。ここの紀香さんの悔しそうな顔はさ、なかなかいいと思うよ。」
「ねじ曲がったガムをそっと置いてくれる『野々さん』。けっこういい人じゃないですか。」
「多分有季子のさ、唯一の理解者なんだよ彼は。でも他の奴らは違うんだねー。」
「でも女の人に対してここまで言いますかね。『女使って捜査してんじゃねぇバーカ!』ですよ? 最後の『バーカ!』は…ちょっとなぁ。言ってる方の人格疑いますね。」
「おお、さすがはフェミニスト八重垣。でもまぁサラリーマンならともかく刑事だからねぇ。特殊なんだよ多分。怒って男に殴りかかるOLもそうはいるまいて(笑)あ、刑事っていえばさ、気がついた? タナの上に置いてあったでしょう縫いぐるみが。『踊る大捜査線』の例のマスコット。あるかなーと思ってよく見たらホントにあったんで、もう笑っちゃったよ。」
「え、そんなのありました?」
「あったあった。ピントははっきりしてないけどアレは間違いない。こんどチェックしてみ。」
「してみます。そういうとこフジのドラマって、おタクの要素ありますよねぇ。」
「でもってさ、ヘンなコトに気づいたんだけど、『踊る大捜査線』でさぁ、ユースケさん扮する真下くんのおかげで係長のイスを追われた元係長いるじゃない。奥さんがフィンランド人の。あの元係長って、魚住二郎っていうんだっけね(笑)」
■新児の部屋■
「尋ねてきたのは仁美だったんだね。いくら出勤前に寄っただけつっても、わざわざ来てくれるなんて嬉しいじゃん。」
「ええ。こういうのが僕は、本当の『女の人らしさ』だと思いますよ。感激しちゃいますよ男は。」
「だろうねぇ。さすがは元の奥さんだけあって、面倒の見方に無理がないよね。脱ぎっぱなしのスーツをハンガーにかけて、『Tsuzuki』のネームに気づいてさ。貰ったんだっていう彼に『こんなのくれる友達いたの?』って…。何気なく言ってるんだろうけど、新児にしてみりゃ鋭いなって思うだろうね。友達づきあいの派手な新児じゃないってこと、知ってるんだろうね。」
「『夢、見ない人だったのに』っていうのも意味シンじゃないですか? 一緒に暮らしてなきゃ判んないでしょう。」
「そうだよね。昨日見た夢の話をした後さ、『いい夢じゃないの』って言われて、答えずに立っていく新児も印象的。」
■都屋の前■
「これさこれさ、鷹男は絶対にさ、ちひろのこと最初は『お、可愛いじゃん』とか思って見たんだろうね。」
「でしょうねぇ。ダークスーツに混じってピンク系のスーツが目立ちますし、向かい風だからナニゲにボディライン見えますし。」
「おっとぉ、八重垣チェックも鋭いやん。でも鷹男はただのスケベ小僧ではなかった。すぐに『こないだホテルで会った女だ』って気づいて接近をはかる。きゅっと下唇噛んだ表情が、ふふん、なかなかキュートじゃねぇかよっ!」
「でも要は盗み聞きですよ? あんまり褒められた話じゃないよな。」
「いいじゃないよぉ別にぃ。彼氏らしき男との話だって、別に聞かれて困る内容でもないっしょ。」
■警視庁の屋上(?)〜鷹男からの電話■
「ここはさぁ。有季子の鼻声がなかなかリアルなのにさ、目薬くらいささせてやれよって思ったなー。顔見たとたん泣いてないんだもん。」
「いえ、屋上ですから風が強くて、すぐ乾いちゃったんですよきっと。」
「…滅茶苦茶強引な解釈やなそれって。」
「鷹男からの連絡受けてすぐ、パッと明るくなっちゃう有季子もいいですね。けっこう影響力持ってんじゃないですか鷹男って。」
「だよね。チューインガムで敬礼する有季子も、ニヤッと笑って軽く手を上げて歩いてく野々さんもナイスだな。」
■新児のタクシー〜病院に運ばれる雄一郎■
「この新聞に何が書いてあったのか、気になると思いません?」
「なるなる、すごくなる! 新児の表情がさ、微妙なんだよねー。彼が期待つーか予想してる記事は『身元不明の全裸死体』だろー? でも生きてた以上は当然『死体』とは書かれないよね。と同時にさ、生きてた方が記事としての扱いは小さいんじゃないの? 下手すりゃ新聞になんか載んないよ。」
「そうですよね。でも新児は雄一郎は死んだと思いこんでる。もしも見つかったのが死体じゃなくて意識不明の男だって判ったら…」
「なんぼ彼でもここまで冷静じゃあいらんないよね。だからやっぱり記事としては、まだ何も載ってなかったんじゃないの?」
「でしょうね。だとすると新児は、死体はまだ発見されていないと考える…。安心なような不安なような、複雑な心境でしょうね。」
「だけども視聴者は彼より先に、ハッキリと知る訳だよな。雄一郎は死んでない。重体で病院にかつぎこまれたんだってね。」
■都屋役員室■
「ここでの重要ポイントは、今後のキーパーソンの1人になりそうな、都築綾子って人物ね。」
「亡くなった社長の後妻なんですよねこの人。」
「うん。雄一郎はホテルで新児に、『会社の奴らは誰も俺の今の“顔を”知らない』って言ったじゃない。それは全く正しい日本語だった。雄一郎は何と、この綾子とは電話で話したことがあった訳だよね。そりゃま、電話じゃ顔は判らんわなぁ。」
「衝撃の新事実って奴ですよね。」
「綾子ってさ、元々はどっかのおミズさんじゃないの? じゃなきゃ役員たちにアンタ呼ばわりはされないでしょお。亡くなった社長との間に子供でもいれば立場は安泰だったんだろうけど、今のままじゃあ下手すっと男どもに放り出されかねないんだよ。」
「つまり彼女にとって雄一郎は、最大の味方になるか最高の敵になるか、どっちかの男だってことですね。」
「間違っても敵には回せないよなー。何とか味方につけないと。だから早めにちひろから雄一郎の情報を知りたいのに、いまいちこの小娘は要領を得ない(笑)」
「でもここでちひろは緊張しまくってたんじゃないですか? 会社の最高幹部たちですよ。この中の誰かの一言で、彼女の職なんかなくなっちゃうんですから。第一いきなり『雄一郎とはどんな人間だ』って聞かれても、答えようがないと思いますけど…。」
「うん。私このシーンでさ、『踊る大捜査線』のTV版最終回のトリオロス・アミーゴ思い出しちゃった。ほら、青島刑事と室井管理官が捜査本部を無視して勝手な行動とっちゃって、アミーゴが本庁の刑事にあれこれ聞かれるところよ。『青島刑事っていうのはどんな人間だ』って聞かれて、『えー歳は29歳、身長180センチくらい、髪が長くて、切れ切れって言ってるんですが』とか話し出しちゃう…。」
「ああ、あれには笑いました。3人とも辞表出したのに署長のだけしまわれちゃって、そのスキにあとの2人はサッサとふところに引っこめるんですよね。」
「そうそう! あのドラマってさ、トリオロス・アミーゴがいなかったらここまでヒットしたかどうか疑問だと思うよ。もち織田くんの魅力は論ずるまでもないけどね。ユースケさんだってこれでブレイクしたんだし―――って、メチャクチャ話それてんべよヤエガキ。」
「僕に言わないで下さいよ。自己修正して下さい。」
「いかんいかん戻そう戻そう。えーとそれじゃ、次のシーン。」
■新児のタクシー・車椅子の女の子■
「さぁこのオンナは何者だ! ただの通行人キャラじゃなさそうだよね。」
「見たところそんな感じですよね。『どこにあたしの時間なんてあるのよ』って、意味ありげなセリフだし。どこか影があって、突っ張った口調にもわずかながらムリがあるような気がしますけど。」
「『車椅子の女の子に親切にして、いい気になってんでしょ』って言ってからこの子、窓の外みて黙っちゃうじゃない。んで、ちょうどそこが都屋本社の前なのよね。」
「関係者なんですかねやっぱり。」
「だとすると新児ヤバいぜ。タクシー運転手だってバレるよ。」
「でも、そもそも昼間は運転手だなんてかなり危険なことですよ? 偶然なんてどこに転がってるか判んないんですから。」
「だよねぇ…。都内中を走ってる訳だからね。だからっつーか何つーか、『急がないなら外苑東通りにする』って言う新児、都内のあらゆる道路情報のプロなんだよね。」
「タクシー運転手の持ってる情報量ってすごいって言いますでしょう。初めての観光地で美味しいもの食べたかったら、タクシーにいい店教わるのが一番いいって。」
「彼らが集まるラーメン屋さんにハズレはないとも言うね。おそるべきネットワークだ。」
■パチンコ屋の前・鷹男■
「このシーンがさぁ。今回の『あれれ?』の筆頭だね。パチンコ屋から出てきた鷹男が、小銭チャラッてやって、『あーあ、すっちゃった』て顔するじゃん。んで、目の前が都屋スーパーなのよね。素直に見れば次の場面で店に入ってきたのは当然鷹男なはずなのに、いきなり新児なんだもん。意味もない演出だったらこれはちょっとなー。いらぬ混乱をまねくよね。」
「いや、もしかして意味はあるんじゃないですか?」
「え、そう思う? だとしたらどんな?」
「いや、深読みだとは思いますけどね、鷹男は鷹男で店の中にいたかも知れないと思いません? いわばニアミスしてるんですよ新児と鷹男は。でもこの2人が出会うのはもっと先のことだと、それを言いたいんじゃないですか?」
「うっわ、小説っぽい解釈。当たってたらすごいね八重垣。」
「う〜んどうですかね…、って自分で言っといて何ですけども。あんまり好意的に深読みするのも、リバウンドが恐いですからね。」
「それも言えた。同じ過ちは繰り返しちゃイカンよね。」
■スーパー店内■
「いい店じゃないですかここ。店員さんみんな丁寧だし感じいいし、ミニチュアの機関車なんか走らせてるし。」
「ねー。外人客に商品の説明してる女店員、あれって英語だろうからね。もしかして全員英語ペラペラだったりして。こぇー(笑)」
「たかが、って言い方はアレかも知れないですけど、缶コーヒー1個買っただけなのに、見て下さいよこの丁寧さ。こういうのが本当の一流なんですよ。」
「けどさぁ、すぐ飲むって言ってんのにフクロに入れんのは過剰包装じゃないか? ゴミ増やすとダイオキシンが増えるよ。」
「おっと(笑)また始まりましたね、妙に社会派っぽい意見。まぁそれがウチらしさなのかも知れませんけど。」
「でもこれだけ丁寧で、しかも嫌味のないレジ係なら許すな。ローマは1日にして成らずじゃないけどさ、ここまで社員教育すんのは並大抵のことじゃないんだぞぉ。ひょっとしたら雄一郎のお父さんて、かなり偉かったんじゃないか? 経営理念がしっかりしてたのよきっと。会社は究極トップで決まる。どんな会社も、その社長の器以上の大きさにはならないんだって。」
「でも役員はあんなですよ?」
「うん。きっと役員の下に位置する本部長クラスが偉いんだよ。きっちりやってんだ多分。特に人事部研修課あたりがね。」
■ガード下■
「ドリップしてきたコーヒーがあるはずなのに缶コーヒー買ったってことは、やっぱり新児は都屋の偵察のために店に行ったんですかね。これも考えれば危ないよな…。自分の運転手姿を社員に目撃させてるんだから。」
「言えてるねー。まぁレジ係が本社の社長に直接会って話する機会もないだろうけどさ。雄一郎になりかわるってことは、莫大な財産と権力の他に巨岩のような経営責任も負うんだってことを、果たしてこのドラマは新児に気づかせるのかな…。」
「いや、そういうドラマじゃないでしょう。大企業・都屋はあくまでも背景の設定なんであって、物語の舞台じゃあないんですから。」
「けどさ。忘れてたよ私。会社の役員てねぇ、就任時に戸籍チェックされんだ確か。法人代表としての印鑑登録も必要だし…。現実においては赤の他人と入れ替わるなんてムリな話だよな。」
「ですからそれはそれでこっちに置いといて、ドラマはドラマとして楽しみましょうよ。」
「ま、それが正解だよね。物語というのはフィクションであるからして、専門的に100%正しくある必要はないと、森村誠一さんも言っている。」
「うん、大賛成ですね。って言っても程度問題でしょうけど。要は前回智子さんも言ってた通り、物語として面白いか面白くないかが全てですよ。」
「おお、そうだともそうだとも!」
■ホテルのロビー〜スイートルームのちひろ、部屋の前の有季子■
「紀香さんくらいガタイがいいとさぁ、ロビー歩いててもサマになるよねぇ。刑事だから目立っちゃ駄目なんだけども。」
「本物の刑事さんて、目立たないにかけてはさすがですよね。いったいコイツらどこにいたんだ、ってところからヒョイッと出てくる。白バイ警官なんて時々、忍者じゃないかって思いますよ。」
「尾行術とか、ちゃんと教わるらしいしねー。ここでちひろが持ってる花、紫カイウかな。」
「豪華ですよねなかなか。」
「部屋に入ってからのちひろの態度、リアルで好きだな。新児に呼ばれてこの部屋に来たかのように、自分を想像して楽しんでるんだね。」
「何かそういうのって可愛いですよね。ちひろはもう新児のことを好きになっちゃってるんでしょうか。」
「好きっていうか…その半歩手前でドキドキしてる最中だと思うよ。プールに飛び込む寸前の、足の先をチョイと水につけて、『あっ冷た! きゃ〜ん!』とかやってる感じ。これって男の人に判るかなぁ。」
「うーん…どうでしょう。でもそういう時の女の人って、男から見るとつまり『可愛い』としか言い表せないですよ。」
「ああねぇ。んでドアの外には有季子がいて、彼女は彼女でどうやって雄一郎に近づくか考えてる。ドア1枚隔てて2人の女が―――やがて新児に翻弄されていくであろう女たちが、向かい合ってるんだね、ここで。」
■部屋の中・ちひろ■
「寝室のベッドで、いけない回想に浸ってるちひろ。いいねぇ判りやすくて。ベッドカバーをこう、感触を確かめるかのように手で撫でる…。やーねー、えっち(笑)」
「あれ? じゃあちひろってもしかして、今夜のデートをキャンセルしたのは、新児とのことを、期待して…?」
「いやそれはどうかな。『今夜、ここで』とはまだ思ってないかも知んない。そうなったらいいなとは思ってるだろうけど。でも今はこうやって新児が寝たはずのベッドに寝そべって、幸せ〜な妄想してるだけ。でもそうすっと別な男との約束なんて、うざったくなってくんだよね。だからちひろは、胸の中からトシキ君を追い出したって訳さ。ああ可哀相なトシキ君。…だけどね、覚えときな八重垣。女ってのはね、同時に並行して2人以上の男を、『心では』決して愛せないよ。カラダは別ねカラダは。心の入ってないフィーリングだけの相手とだったら、2時間あとに別の人と抱きあうことも平気だけどね、心が入るとぜってー出来ない。」
「なるほど。ためになりますね今回の座談会は(笑)」
「んで、ちひろは隣のベッドに置きっぱなしのバッグを片づけようとして、中身をぶちまけちまうんだな。ドジめ。」
■戻ってくる新児〜エレベータの中■
「あっちこっちで語り尽くされたコトだけども、ただの白いYシャツがこんなにもセクシーだなんて、豊川っつーのはナニもんだぁチキショー! って感じだよね。」
「いやチキショーはともかく、セクシーは確かですね。着こなしも何もある格好じゃないから、豊川さん本人の雰囲気が出るんですよ。」
「フロントの前を横切る時、新児はわざと足音大きくしてるよね。結構挑戦的な気分になってるのかも。いや挑戦ていうか、挑発かな。新児のやることって全部さ、『気づくか? お前は気づくのか? 俺が都築雄一郎じゃないってことに』って問いかけてるような気がする。本物の雄一郎が残していったゲームかつ命題が、これからの新児の全てになっちゃうのかなぁ。大切なのはラベルか中身か…。」
「中身だ、っていうのが新児の意見というか、答えな訳ですよね。」
「そうそう。こんなラフな、むしろ貧相と言ったっていいような格好でホテルのロビーを横切るのも、ラベルの全てを拒絶したいから…。で、有季子はそんな彼の姿を見つけて、予感的中って感じにニッと笑う、と。」
「次のエレベータのシーンは緊張しましたね。一緒に乗り合わせたのが、シャトーマルゴー持ってきたあの従業員だとは。」
「初めは新児も気づかずにさ、目をそらそうとしてそこで、思い出してギクッとなるの。ほんの僅かな表情の変化だけで、よく心理表現できるよねぇ…。」
「さりげなく背中を向けるゆっくりした動きがいいですね。」
「エレベータってぇばさ。『美しい人』のエンドロールがなかなかいいぜ。正和さまの岬先生、もう文句なしにカッコいい。エレガントでダンディでしかもどこかチャーミングでさ。常盤さんも迫力美人だしね。2人の乗ってるエレベータに大沢さん演じる村雨刑事が加わって3人になる。ラブロマンスに危険な要素がプラスされてさ、フランス語の歌がこれまた合ってんだ! 無言でたたずむ3人を乗せ、エレベータはゆっくりと下っていく…。いいよねぇホント。陶酔しちゃうよ。」
「田村正和さんは確かに素敵ですよね。あの雰囲気を持ってる日本人俳優は珍しいっていうし、永遠の、本物のスターなんでしょうね。」
「40すぎたら吾郎にもあんな雰囲気出せるかなぁ。そう思うと何か楽しみよ。」
「それにしてもちひろも好奇心旺盛ですね。システム手帳に興味なんか示して。」
「人のもの盗み見るなんてやっちゃいけないと思いつつ、思えば思うほどドキドキして我慢できない。実にカルい女だ(笑)うんうん。」
「『押すな』って書いてあると無性に押したくなるって奴でしょうね。」
「まぁこのシステム手帳がねぇ。さも重要だと言わんばかりに、黄色い付箋なんかつけてあるから。」
「落ちてきたあの写真て、雄一郎とお母さんなんでしょうか。」
「そうなんじゃないの? 俗物の金メッキ男とか言ったけど、この写真を雄一郎はいつも持ち歩いてたんだねぇ。けなげなトコあんじゃん。見直したな少し。」
「でも最近こういう、連続したシーン同士を交互に差し込み印刷するみたいな手法って、多いですよね。」
「ああ、小刻みにシーンが変わるんだよねぇ。部屋の中にいるちひろとエレベータの中の新児と…。視聴者を飽きさせないため、ってのが狙いなんじゃない? チャンネルを変えさせないワザ。」
「それが映画にはない、TVドラマ独自の裏ワザなんでしょうね。」
「でもってまたこのエレベータの内壁がさぁ、うまい具合に目の高さに金のプレートが貼ってあるんだ! これがちょうど鏡みたくなって、相手の顔が映るんだよねぇ。」
「『お客様』って呼ばれた時、新児はキュッと奥歯噛みしめましたよね。顎のとこにこう、クッと筋が立って…。まさに緊迫の一瞬て感じでした。」
■部屋の中■
「手帳から落ちてきた写真見て、これって誰だろうと思ってるとこにドアがあいて、ちひろはびっくりしたろうねぇ。秘書が部屋にいたって別におかしくないんだから普通は隠れる必要なんかないのに、やっぱ寝室でゴソゴソやってたからな。」
「良心の呵責って奴ですか。」
「部屋に入ってきた新児がこれまたいいよね。靴下脱ぐ姿まで決まってると、ファンはもぉ絶賛の嵐。…あ、そだそだ。それで思い出したけどさ八重垣。ファンのかたからあんたにクレームきてるぜ。『えっちゃんは美形よっ!』って。」
「え? クレームって、僕にですか?」
「そうだよ。あんたが言ったんじゃないよ前回。豊川さんは『美形!!』って訳じゃないとか何とか…。」
「いえだって、だってそう思いません? 美形、っていうのは中居正広みたいなのを言うんですよ。豊川さんはいい男っていうか魅力にあふれてるっていうか、顔なんか二の次なんじゃないですか?」
「…おっと。ほんじゃアンタはなにかい、中居さんはカオが第1の男だって言うんかい。」
「ちっちっちっ違いますよ! そんなこと僕はひとことも言ってません!」
「だってそういう風に取れるじゃないですか。ってどっかで聞いたセリフだと思ったら古畑vsSMAPの前田女史だ。そかそか。ふーん。へー。ほー。八重垣クンったら知〜らねんだぁ。中居ファンを敵に回したぁ。」
「やめて下さいっ! 頼むからそんな怖いこと言わないで下さいよ。智子さんだっていつも言ってるじゃないですか、SMAPの美貌bPは中居だって…。」
「へっ。『中居と違って顔は二の次』なんて、そんな例えには使ってないもーん。」
「だから違いますってばっ! 僕は、僕はあくまでもですね、中居正広は美形であると…ってなんでこんなに必死になって男のカオについて弁解しなきゃいけないんですか。智子さん今回、ずいぶんと僕に冷たくありません?」
「そんなんあんたが吾郎に対して、カラい点つけるせいでしょうが!」
「…なんかワケ判んなくなってきましたね。」
「ああもういいから先に進めよう。やっぱここは何つったってさ、新児がトランク切り裂くとこが白眉だよね。すぐそばにちひろが隠れてることをこっちゃ知ってるモンだから、おいおい見られたらバレるべよ!って、すっげ緊張しちゃった。手に汗かいたもんマジ。」
「ザリザリ、ザリザリっていう音が、何だか死体でも刻んでるみたいで鬼気迫ってましたね。『何の音?』って感じでちひろは耳を澄ましますけど、聞いただけじゃ判らないでしょう。」
「判んない判んない。何だろうって思うだけだよ。」
「で、何とか中身を出せるようになったところへ、いいタイミングで電話が鳴るんですね。かけてきた綾子の指にあるの、これまた物凄いダイヤですよね。こうも大きいと縁日で売ってるおもちゃにしか見えないよな…。」
「女子社員にペディキュアさせてるってのもさぁ、正直マンガちっくつーか、権力の描き方がつくづくステレオタイプだよね。まぁそれはもういいとして、居間で電話がリンリン鳴ってんのに雄一郎はさっぱり出ようとしない。ちひろは不思議に思うだろうね。」
「ええ。出ない理由がないですからね。」
「なのに無視して新児は出ていく…。ここでさぁ、素足に靴履いちゃうのって、間違うとすげぇビンボー臭いけど、豊川さんがやると決まるんだよねぇ。」
「振り向きもせず出ていきましたね。入れ替わりに居間に顔出すちひろって、今までどこに隠れてたんでしょうか。」
「さしずめウォークイン・クロゼットの中じゃないの?」
■廊下〜プール■
「『出口はむこうだ』って忠告されたのに、新児にチョッカイ出す有季子。怖いもの知らずと言すか大胆と言うかねぇ。」
「しかしそれにしても…って、あのぉすいません(笑)ちょっと言っていいですか。」
「はいはいどうぞどうぞ。どーせノリカさんのダイナマイトバディについてなんでしょ?」
「あれっ、よく判りましたね。」
「そりゃ判るよ。まぁここではソレに触れなきゃねぇ、ここのシーンは語れないっしょ。」
「じゃあ遠慮なくいきますけど…アレは何ていうか、その、僕なんかからするとすでに鑑賞用ですね。いえいえ決して嫌いじゃないですけど。もうちょっとその…贅沢を言わせてもらえば…。」
「抱きしめたら折れそうな、たおやかさが欲しいとか? 判る判る。日本の男ならそうだと思う。」
「いや、そこまで断言はしません。もしもあのスタイルでスッと隣に来られたら、ムシするのは無理ですからね男として。」
「はっはぁやっぱそうなんだ(笑)実に正直だなキミは(笑)それにしても『日本人離れしたプロポーション』て評価には大きくうなずくね。いろっぺー、つったら飯島直子さんの方だとアタシは思うけどさ。」
「言えてます。」
「おや即答かぃ(笑)」
「まぁ、じゃあこの話題はこのへんにしてですね(笑)」
「とか言ってアンタも笑ってんじゃないよ(笑)」
「いやこのシーンは、重要っていうかシャレてるっていうか、そんなセリフが多いじゃないですか。それについて少し…。」
「ああそうね、いっぱいポイントがあるね。吾郎曰く『脚本にハマッてる』って、さもありなんって気がするな。学会にやってきた悪徳医師だの、裁判にやってきた悪徳弁護士だの…。必ず悪徳がつくのがいいね。有季子はさ、自慢の肉体美と芝居じみたセリフで、新児…つうか都築雄一郎を自分のペースに巻き込もうとしてる。ところがこの男は、そうそう簡単にノッちゃあこないんだな。」
「扱いにくい男でしょうね。でも『自殺するような人はもっとささやかな夢を見る』っていうのには、なるほどと思いましたよ僕。思い出の街を歩くとか、故郷の川を見に行くとか、やるとしたらそういうことでしょうね。」
「ああ、だろうね。自殺前にスイートルームに泊まって好き勝手はしないかも。そいで『悪いことをしてお金儲けた人』っていうのはさ、有季子にしてみれば50億横領の件を匂わせてる訳だし、新児にしてみれば雄一郎を殺して財産を手にいれることだし。全く違う二者二様の思惑がからんでるね。」
「で、そのノッてこない男は、逆に有季子の嘘を見破る…。ちょっと今の段階では、有季子には太刀打ちできない相手って感じですよね。最初は有季子ばかり喋ってたのに、あとになると黙りがちだし。」
「うん。ここでの新児のセリフは、1つ1つが重たいよ。『自分の物語を守ろうとするからのびのびできない。バッサリ切り捨てられたら自由に思い通りにふるまえる。世の中に絶対できないことなんて本当はない』―――って、またまた思い出しちゃったよぉ高校時代の話ぃ!」
「何ですか。どっから思い出したんですか?」
「いや『絶対できないことなんてない』ってセリフよ。…あのね、ウチの高校はね、けっこうヘンサチは高いクセにいわば『反進学校』でね。進路指導なんてなかったに等しい。真の意味で自発性重視の学校だったのよ。つっても私立じゃないよ。千葉県立の普通高校だけど。
でも中にはよくものの判ってない生徒もいてさ、『先生、僕はどこの大学に行けばいいんでしょうか。』って担任に相談に行ったんだって。そしたら担任曰く、『お前、そんなことオレに聞かれたって判るかよ。どこどこに行きたいんだがそれには何が必要なのか教えてくれ、っていうなら調べてもやるけど、お前がどこ行けばいいかなんて、そんなもん俺が知るか。どうしても判んなかったら一番近いとこ行きゃいいだろう。』…近いトコって隣の女子大なんだけどね(笑)
まぁそれでさ、クラスに重田(しげた)って女の子がいてね、ちょっと内田有紀ちゃんに似た可愛い子で。彼女、看護婦さん目指してて、看護婦になるためにはここが一番、て大学…名前忘れたけどさ、そこを第1志望にしてたのね。んで、入試も終わって続々と結果発表になる頃、ある日担任がクラスに来て開口一番言ったのが、
『いやーお前ら、ひょっとすると全員第1志望うかるかも知れんな。』それ聞いてみんな『えっ!?』とか驚いたら、先生曰く、
『世の中ってモンには、出来ないことはないのかも知れんな。俺はこの歳になってつくづく思ったよ。』
『何ですか先生。なんかあったんですか?』
『いやな、実はな。重田が…うかった。』
その担任はね、本人が受けるって言うものを反対はしなかっただけで、内心ではまず9割方、無理だと思ってたんだって。でも重田が頑張ってるから、落ちたらどう言って慰めようか、それを思うと憂鬱だったんだって。
で、彼女が『高村先生!』って職員室に来た時、『ああ、慰める時がきたか。こういう時教師は辛いな』と思ったら『うかりましたー!』『嘘だろ?』って思ったんだって。
んで、クラスでその担任が言った言葉がさ。
『お前らはひょっとして、俺が思ってるよりずっとすごい奴らかも知れんな。』
これには、なんか感動したよ。教師にそう言われんのって、すっげ嬉しいよね。まぁ私はものの見事に第1志望の明治大学文学部演劇学科スベッたけどよ。ふん。」
「ふうん…。いい話ですねぇ。いい高校だったんですね。」
「うん。言ったっけか前に。人生にはその都度、幾つもの重要な選択があるけども、私の人生における選択で最大の成功は、この千葉県立国府台(こうのだい)高等学校を選んだことだって。これはね、今でも思ってる。
『たとえ世界中がYesと言い、お前の背中に銃口がつきつけられていようとも、違うと思ったら自分の言葉でNoと言える人間になれ』つーのが国府台の思想だったね。なんか明治の旧制高校みたいでしょ。」
「ふうん…。正に熱き青春じゃないですか。―――って、ちょっとちょっと智子さん。話が落ち着いちゃいましたよ。『木村智子波乱万丈の一代記』はいずれ特集か何かやって頂くことにして、話を戻しましょう。…えーとどこまで行ったんでしたっけ。ほぉら判んなくなっちゃったじゃないですか。」
「いや、『世の中に絶対出来ないことなんて本当はない』って話よ。」
「ああそうでしたね。思い出した。」
「でもってさ、そう語る新児を見つめる有季子の顔は、刑事じゃなく女になってたね。髪からうなじに垂れる雫が、これは女から見てもいろっぺかった。うん。」
「…よくそうやってすぐに話題切り替えられますね。」
「いーや、あんたの切り替えが遅いんじゃないのぉ?」
「あいた。って鷹男の真似しちゃいましたよ(笑)そういえばこのシーンで、新児と有季子が並んで座ってる手前、プールの中の柱の影でいちゃついてるカップルいませんでした?」
「ああ、いたいた。昼下がりのホテルのプールってのが、いかに妖しい誘惑に満ちた世界かってことを言いたいんだろうね多分。それこそシトワイヤンやシトワイエンヌにはまたげない敷居よ。んで、その逢引きめいた退廃的世界も、新児を呼びに来たちひろによって断ち切られる。ここでの有季子の座ったポーズがさぁ! まるっきしグラビアクイーンだね。造形的に、もぉ完璧よ。」
「そうですね。ポスターにして飾りたいですよね。」
「『じゃあまた』って立っていく新児が意味シンだねー! グラサン越しに一部始終を見ていた鷹男も、なかなか寂しくてよろしい(笑)」
■車寄せ〜再びプールサイド■
「タクシー頼んだら、来たのは自分がいる会社『みどりタクシー』だった訳ね。これはヤバいわ。呼んでもらったりキャンセルしたり、忙しいじゃんちひろってば。」
「いえ秘書課なら配車は得意なはずですよ。まかせておいて大丈夫です。」
「…やっぱ秘書嬢に詳しいよコイツ。ぜってーいるな、コレはな。」
「何か言いました?」
「いやいや何でも。あのさ、ここの、プールサイドでの鷹男。『結局女使ってるんだもんな』って拗ねてみせるのがナイスだね。でもってこのシーンにはまたまた、『”危険な関係”ネタ拾いサポーター・beyondザ津軽海峡』、略して『危険なサポーター』ひなつ様から疑問点が提示されましたの。」
「はぁ(笑)」
「つまりね? 有季子はさ、独断で行った捜査にセクハラ疑惑をかけられるという苦い経験をしたばかりなのに、それが喉元も過ぎないうちからまたまたこうして、同じ手口と思われかねない方法で都屋の人間に接触してる。これはあまりにも学習能力に欠ける行動ではないかと、要はそういうコトなんですがね。」
「なるほど。面白いとこ突いてきますよねひなつさんて。」
「そうなんだよね。じゃあ今回もひなつクエスチョンに対しては、八重垣くんの考察いこうか。」
「え、今回も僕ですか?」
「僕ですかって、なに、僕じゃヤなの?」
「いえヤじゃありませんけど…。えーとですね、これはねぇ…その件については有季子って、あんまり反省してないと思うんですよね。横領事件の捜査から無理矢理手を引かせるためにハメられた、って意識が強くて、反省よりも悔しさが勝(まさ)っちゃってると思うんですよ。冷静に考えればね、『自分がもっとこういうやり方をしていれば』って思えるんでしょうけど、今はまだそこまで至ってないんじゃないかな。むしろ自分はスケープゴートにされたっていう、被害者っぽい意識があるかも知れないですね。」
「ほぉ、さすが鋭いね八重垣。私も全く同感。都屋の側にしてみれば、うるさい犬どもは何とか早く追っ払いたい訳で、それには相手…つまり警察側の失策を誘い、それにつけこんで手を引かざるをえない状況に持ってくのがイチバンじゃん。その『失策』をさせるターゲットになっちまったってのは、これは有季子の立派な落ち度なんだがね。相手につけ入らせるスキがあったってことなんだから。どしてそういう風に考えらんないかね。…思うに女ってさ、男よりずっと仕事できる奴は今どきけっこういるんだけど、こういう点になると呆れるほど幼いんだよね。どーにも自分が出ちゃうっていうか…。」
「それとあと1つ、僕が思うのは、経営学の方であるじゃないですか、『人間は応にして自分の最も得意とする作戦で致命傷を負う』っていうの。」
「ああ、あるある。アレでしょ例えば、先行投資の成功で大きな成果を上げて、社内で評価され地位も収入も上がって、これについてはあいつが第一人者、みたいなレッテル貼られた人間が、二度と立てないような致命的な失敗をするのは、かつて成功した先行投資においてだっていうの。」
「そう、それです。成功したという実績は確かに大きな自信につながりますが、それはもうその瞬間過去になってる訳ですから、そんなの二度と通用しないと思った方がいいんだそうですね。その点織田信長が偉大だったのは、今川義元を桶狭間で破った、あんな無謀な奇襲作戦を彼はその後二度とやってないんですよね。あんな奇跡の大逆転は、人生にせいぜい1度しかないと判ってたんでしょう信長は。これが凡人だと、もう1回くらいは出来るんじゃないかと思って、で、だいたい大失敗するんだ。」
「そういうモンだよねぇ。つまりそれをこのドラマに当てはめるに、有季子は女としての自分に、少々自信を持ちすぎていた、と…?」
「まぁこれだけのダイナマイトバディを惜し気もなくさらされたら、たいていの男はクィンクィン尻尾振って飛んでいくと思いますけど。…僕だって自信ないですよ(笑)」
「確かにそれが真実だわな。あのね、森瑶子さんがいいこと書いてんだよな。女が仕事を続ける上で大切なのは、『女を忘れてはならない。でも女を利用してはならない』だっけか。これは仕事を持ってる全女性が、肝に命じるべき言葉だよな。」
「でも有季子もさすがは刑事ですよ。あの男は何かある、ってピンときたんですから。」
■都屋本社■
「ここはもう豊川vs余の演技対決ってカンジ? 入ってきた新児を見たとたん、綾子の顔色変わったもんね。亡きダンナから雄一郎の写真くらいは、見せてもらったことあんじゃない?」
「きっとそうでしょう。直接は電話の声しか知らないはずですよね。」
「そうそう。新児がハイヤー下りるなり、余りに場違いなその服装に行き合う社員たちが驚いたのとは、綾子の驚きは意味が違うよね。一目見て『別人だわ!』って判ったとしか思えない。」
■捜査二課■
「しかしすごい勢いで資料かっさらってくね有季子も。野々さん苦笑いじゃん。」
「あのガムは彼の小道具なんですね。うっすら笑って何も言わずに、口に入れるのがいいや。」
「もしかしたら禁煙してんのかも知れないね。でもガムも噛みすぎると胃によくないぞぅ。」
■仁美の病院■
「ここではっきり、彼女と新児が元夫婦で、娘なくして離婚したんだって判るね。前回うちらが言った通りだ。」
「ちゃんと想像つくっていうのは、井上さんの脚本がいいんでしょうね。」
「そして意識の戻らないまま、雄一郎はこの病院に運ばれてくんのかぁ。ドラマならではの展開だけども、どうなるのかねぇ。ドキドキだね。」
■再度、都屋■
「ここではさ、新児が座った椅子の真後ろに亡き前社長の…何だろ、写真かな、肖像画じゃないよね。それが掛かってんのが構図としていいね。バックに偉大なる前社長がついてる以上、誰も何も言えない会社なんだろうな。」
「綾子もやりますよね。違うって判ってるくせに『初めまして、お会いしたかったわ』なんて。ここで新児が『僕もです』って答えた瞬間、綾子は確信したんでしょう。この男、雄一郎じゃないって。」
「そうそう。電話で話してんだから『初めまして』じゃないもんね。本物の雄一郎ならさ、『先日は電話でどうも』くらい言うだろうし。」
「もしここで綾子が、『この人は偽物よ!』って言えば全て終わるのに、綾子はそれをしなかった。なぜなら次期社長の椅子が、自分を蔑視している役員たちに回っちゃうと、自分の立場が危ういから…って訳ですよね。」
「そうそうそうなのよ。だからこの先綾子はさ、騙されてるフリしてどっかのタイミングで、新児を強請(ゆす)るとか脅すとか、そんな手段に出るかも知れないね。」
■有季子と鷹男■
「空にかかる虹。これは鷹男の象徴なのかな。」
「でもこの書類、ほんとに全部拾ったんですかね。見た感じけっこうバラバラ飛んじゃってますけど、まずいですよ個人情報が山ほど入ってるんだろうし。」
「うん。万が一誰かが拾って悪用でもしたら、有季子それだけでトバされるぜ(笑)」
「でも今回のラストの2人は、自分たちを待っている運命をまだ知らずに笑いあってるって感じですよね。それはそれで切ないな。」
「そうだね。有季子がこれからどうなって、鷹男はいったい何を見たのか…。いや〜続きがいよいよ楽しみですねぇ!って珍しくあたしがまとめちゃったよ(笑)」
「お疲れ様です(笑)はい。えーと、ということでですね。『危険な関係・座談会第2回』は、以上ということにいたしたいと思います。実は皆様からですね、座談会やるのはいいが仕事や体調は大丈夫なのかってメールを、結構頂いたんですよね。それでまぁ少し恐縮してるんですけれども、まぁとりあえずはですね、そんなにギチギチに無理しなくてもいけるみたいなんで、どうか今後とも、我々におつきあい頂けたら嬉しいです。はい、それでは次回までごきげんよう。パーソナリティーは私、八重垣悟と、」
「忙しい〜♪ 忙しい〜♪ ハンパじゃなくって忙しい〜♪ んでもいいのよその方が〜♪ 毎日毎日ハイテンション〜♪の木村智子でございましたぁ!」
「まぁでも確かに仕事って、少々忙しめの方がハリがあっていいですけどね。」
「そうだよね。リストラの恐怖におののかずに済む分、幸せだと思わなきゃいけないのかも…。」
「あれ。ずいぶん穏やかじゃないですか。」
「へへ。あたしって平和主義者だもんっ! 争いゴトは嫌いよん。」
「……」(←疑いの目)
座談会第3回に続く
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