『危険な関係』 座談会
【 第5回 (99.11.11放映分) 】
「「かんぱぁーい!」」
「……ぷはー! いやぁ〜よかったよかったホッとした。大きな山場を超えたというか、落馬せずに第1コーナー回れたというか、魔の5回で熱が下がるんじゃないかなんてさー、下らない心配してたもんだよ。」
「いえ僕も大丈夫大丈夫とは言いながら、もしかしてまた…って不安が、なかったって言えば嘘になりますからね。」
「ま、過ぎてしまえば笑い話さね。癌だと思いこんで病院行って、消化剤もらって帰ってきたようなモンよ。ほらほらほら、くーっとあけてよ八重垣。くーっと。」
「いえ、これ以上の『くーっ』は放送終わってからにしないと。……ってちょっとちょっと智子さん! もう始まってるじゃないですか!」
「え? あらまほんとだ。んなモルツなんか飲んでる場合じゃないぜ。これはこっちに下げとくか。終わってからね終わってから。」
「そうしましょう。えーと、はい、大変失礼いたしました。皆様お元気でしたでしょうか八重垣悟です。放送5回めを境にズルズルとハマれなくなってしまう症状、人呼んで『魔の5回』が今回もあるんじゃないかとね、心配してたんですけれども。それは全くの杞憂だったと。このまんまで最後まで行けるだろうと、そう結論しましたから、この座談会の方にもさらに気合いを入れてですね、頑張っていければと思います、はい。」
「どもー、こんにちは木村智子どぅえーす。4回めと6回めの間にある深ーい谷間とも思えた魔の第5回を、あっちっ側の岸にいた豊川さんにグイッと引っ張ってもらった感じで、見事にクリアしましたねー。もぉこれで何も心配しないぞ。ガンガン行きましょうガンガン!」
「そうですね。行きましょうか。それでは早速、その第5回です。VTR、スタート。」
■前回のおさらい〜車の中■
「乗っていたのが綾子と判って驚愕する新児を、先週とは違うアングルでとらえて今回につなげてますね。今週は中江功さんですか。演出のメインってこの人なんですよね。」
「多分そうだと思うよ。初めと終わりと要所要所の回を、中江さんが押さえるんじゃないの。」
「それにしてもこのタクシーのシーンは、余さんうまいですね。下品なんだけど凄みがあります。」
「この凄みはさー、志麻姐さんに通じるモンがあるかも知んないね。岩下志麻さん。まぁ姐さんには青光りする刃みたいな鋭さがあるんだけど、ここでの綾子は刃っていうより、ねっとりと絡みついてくる食虫植物みたい。」
「ああ、いい例えですね。ゆっくりとキリキリと、こう喉を絞めあげるみたいな。」
「『何なら警察に行ってもらってもいいのよ』って言われて走りだす時の、ガクガクッていうギヤチェンジがいいね。極度に緊迫しながらも無表情な新児のアップが、そのまま次のシーンにかぶる、と。」
■有季子の部屋■
「鷹男は写真を有季子に見せながら、ワイン疑惑の記事を、1発雑誌に載せてみる計画を話すんだね。『警察みたいに確かな証拠がなくても、俺たちの世界ではそれで十分なこともある』っていうの、なーんかリアルだと思わない?」
「ええ。言論と表現の自由の、イエローゾーンからレッドライン、ギリギリのところですよね。これで相手が芸能人だと、またラインはぐっと上がるんですよ多分。」
「だろうね。芸能人と週刊誌には、持ちつ持たれつって面あるだろうからね。」
「でも新児…っていうか都築雄一郎は一般人なんですから、あんまりやりすぎると名誉毀損で噛みつかれますよ。」
「しかし限りなく黒に近い相手ゆえ、噛みつかれはしないだろうっていうのが鷹男の”読み”でしょ。あっちこっちに火の粉が飛んで、面白いボヤ騒ぎが起きる、か…。フリーライターの鷹男は、自分の土俵に雄一郎を引っ張りこみたいのかな。自分の使える力、マスメディアの力を借りて。」
「でもここで鷹男が、新児が双葉会病院に行ったのをつきとめたのは大きいですよね。鷹男の言う通り、手繰れる糸ってやつですよ。」
「これさ、新児の回りにいる人間たちが彼の正体を知るのって案外早いんじゃないかな。」
「かも知れませんね。そのあとでまた意外な展開になるのかも。」
「だけどここでの鷹男のさ、有季子に対する『お前』って呼称がなんか印象的じゃない? 今までにも使ってはいたけどね。鷹男が有季子をどう思っていて、かつ心の中の何を押さえているのか、伝わってくる感じでよかったと思うよ。立っていく彼女の後ろ姿を目で追う、鷹男の表情もなかなか。」
「ところが有季子が思い出しているのは、あの雨の日の新児なんですね。てことはこのシーンはあれですか、新児に惹かれていく有季子、その有季子を愛している鷹男っていう3人の位置関係を、もう一度きちっと描く意味もあったのかな。」
「うんうん、言えてるかも知んない。危険な関係になっていく新児と有季子、じっと見つめている鷹男。この3点を再確認したんだねここで。」
「コーヒーカップを持ってる有季子が、何だか祈るようなポーズにも見えますね。口ではどうこう言っても、心では新児を忘れられなくなってる。それに気づいているのは鷹男と視聴者だけなのか。彼女自身もまだ明確に意識してはいないって訳ですね。」
■タクシーの中■
「ここのさぁ、『学歴だの職歴だのを掻き集めといて、顔写真取り寄せた人が1人もいない』っていうの、すっごくありがちで笑っちゃったよ。実際こういう信じらんないような盲点って、ほんっとちょくちょくあるからねー。」
「ありますね。コンピュータでもそうですよ。プリンタが動かないって言って、やれドライバがどうしたのウィンドウズ98との相性がどうだの大騒ぎして、よくよく見たら電源が入ってなかった。そんなのと同じような盲点ですよ。」
「いえた! よくあるんだよねそういうの! …あのさ、またまた思い出したんで恒例の昔話しちゃうけどさ、昔、NECと一緒に新宿のNSビルに通ってた頃の話よ。」
「NSって…都庁の、すぐこっち側のビルですよね。」
「そうそう。あそこってさ、中が全部吹き抜けの変なビルじゃない。四角い筒をポンと立てて、その上に屋根のっけたみたいな。」
「確かに(笑)」
「それで南と北に…違うや、西と東だ。西と東にエレベータがあってね、これを間違っちゃうとフロアに下りてから、廊下をぐるーっと回んなきゃなんないのよ。」
「何せ真ん中は空洞ですからね。横切る訳にいかない。」
「んで、ある日NECのSEでHさんて人がね、15階にあるユーザのオフィスへ行くためにエレベータに乗ったのよ。ところがこの人、西と東を間違えててねぇ。チーンて着いたところはいつもと反対側なんだけど、Hさんたら気づかずにスタスタと廊下を歩いてったんだな。
いつものように左に曲がって、左手に吹き抜けの空洞、右手にオフィスのドアを眺めて進んでって、最初の角が目指すユーザーのオフィスなのね。ドアは大概あけっぱなしになってるんで、ノックしないで『失礼しまーす!』って中に入ったんだな。
そしたらびっくり、いつもの場所にコンピュータがない。コンピュータったってパソコンじゃなく汎用機だからね、ご婚礼用の箪笥セットみたいなのがガラスのパーティーションに囲まれてうなってるはずだった。ここで普通の人ならたいてい、自分が場所間違えたって気づきそうなモンなのに、驚いたHさんはそこで叫んだとさ。
『ちょっと! ウチのコンピュータどこやったんですかっ!』(笑)」
「驚いたでしょうね言われた人たち。彼らにしてみれば『あんた誰?』でしょう?」
「ねー。驚いたと思うよぉ。そこにいた人たちは当然Hさんに注目して、それが全然知らない顔ばっかだったんで、ようやくHさんはアレ?って思ったんだって。キツネにつままれた気分であたりを見回し、違う会社だと気づいて『すいません、間違えました。』ってアタマ下げて出てきたんだって。その後伝説となった有名な笑い話よ。」
「信じらんない人ですね。部屋に入った時点で、違うって気づきそうなもんだよな。」
「ところがHさんは気づかなかったんだねー。ちなみに彼はユーザから密かに、妖怪一反木綿と呼ばれてた。」
「あ、だいたい想像つきました(笑)」
「でね、ずいぶん話が飛んだけど、えーとここのタクシーのシーンはさ、相変わらずガラの悪い綾子の詰問のしかたに注目かな。運転席の後ろの、何つーか、仕切り板? あれをドンドン叩くのがよかった。」
「完全に自分のペースだと、思えるからできることですよね。怖い女だよな綾子も。」
■編集部■
「あの、すいません。ここで僕思ったんですけど、この女編集長って、雰囲気が智子さんに似てません?」
「げげっ(笑)そうか?」
「いえよくも悪くも顔は似てませんよ。でも受ける感じが。それと喋り方かな。ポンポンものを言うとこなんか似てますよすごく。」
「何だその『よくも悪くも』ってのは。んでも…ああねぇ、似てるっちゃあ似てるかも知んないね。あの『よろしく!』って鷹男の背中叩くとこなんか特に。」
「でしょう? そうか、やっぱり本人も似てるって思うのかぁ。ふふっ。」
「だってこの女の人、編集長だけあって仕事できそうやん。『企業の横領なんかより、女刑事(デカ)暴走の方がよっぽど話題になる』っていうの、ほんとそうだろうと思うし。彼女の声1つで群がってくる若いゴーストライター、山ほどいるんだろうね。ほっほっほっ。かっけー!」
「…間違った変な自信持たないうちに次行きましょう。」
■ICU■
「前のシーンから鷹男のナレーションでつながってここへくる。今回も場面転換には工夫が見られるね。」
「ここで仁美は『バイタルはどう?』って言いながら入ってくるじゃないですか。バイタルって何のことか智子さん知ってます?」
「知らない。バイオのバイと同じだろうなとは思うけど。こんどバジル様にでも伺ってみるよ。」
「でも看護婦さんて大変な仕事ですよね。大の男を横向きにして手で支えて、床ずれしないようマッサージしてあげるんですから。」
「ほんとだね。医者なんかよりも実際は大変かも知れないね。…あのさ、こないだ話したじゃん。高校のクラスメートで看護婦さんになった重田って子の話。」
「ええ、聞きました。」
「そのあと何年かしてクラス会で会ってね。駆け出し看護婦の奮闘日記を聞かせてもらったんだけど、笑ったのはやっぱ手術前の剃毛ね。」
「やっぱり(笑)」
「あれは新人看護婦がやんのが一種の決まりなんだってねー。度胸つけみたいなモンで、慣れるまでは大変だって言ってた。で、その話聞いたクラスメートがさ、『じゃあ今は慣れたの?』『んー、まぁ、だいぶね。』『けっこう剃ったのぉ? 今じゃもうベテラン?』『うん、けっこうやらされたよ。今はもう全然平気。』『んでも重田のことだからさぁ、注射とか採血とかそういうのはからきし駄目なクセに、こと剃毛となると「あたしがやる!」とか言って同僚押しのけてカミソリ持って出てくんじゃないの?』って言って大笑い。やだよねー、剃毛専門の看護婦さんなんて。」
「まぁ、でもそれもお仕事ですからね(笑)」
「仕事、ってことで話は戻るけど、ここで仁美の胸にあるのはさ、仕事上の義務感だけじゃない気がするね。亡くなった娘さんの看病してた時のこと、思い出してんのかも知れない。さやかちゃんと雄一郎をさ、だぶらすというと違うけど、自分が守ってやらなきゃみたいな気持ち、雄一郎に対してうっすらと感じてると思うよ。」
「それはそうでしょうね。できる限り心をこめて、看病してあげようって思ってるんですね。」
「事件絡み、もしくは何か事情のある患者だから、家族も捜索願い出せないのかも知れない。そんなふうに考えて同情してるかもね仁美は。」
■タクシーの中〜タイトル■
「ここでの豊川さんの表情には、もうクラっクラ(笑)綾子に責められてそれでも黙ってる悲痛な顔が、もぉもぉもぉヨダレもんだね。こりゃあ綾子にしてみれば、いじめたくもなんだろなーと思った。」
「綾子は一旦下りて助手席に移ってくるじゃないですか。そこに置いてあったコーヒーの水筒を手に取ってもてあそぶの、あれは新児の心の象徴ですよね。そういう演出がうまいんだよなこのドラマって。ただ単に創る側の自己満足で凝ってるだけじゃない。」
「ほんとだねー。また役者さんがいいから演出も映えるんだと思うよ。新児と綾子の2人、表面は静かだけど火花散らしてんじゃん。これだけ攻撃されつつも新児は綾子の心の底を見抜いてるから、自分たちの利害は一致してるという最重要ポイントを逃さない。実に頭のいい男だね。」
「うん、それはすごいと思いました。綾子に好きなこと言われてる間に新児は、ちゃんと反撃の筋道を心の中に組み立てていたんですよね。」
「肝が太いっつーか、ハンパじゃないね。綾子にさ、『ニセモノがなめた口きくんじゃない』って言い返されて、『これからはずっと徹底的に、私の指示通り動くのよ』とかって言われんじゃん。そこでじろっと綾子を見る、あの強い視線ねー。思わず竦んだようになる綾子は、再び言葉で脅しをかけると。いやーすごい密度だなここ。スタッフも息をつめてたかもね。」
「それだけの力のある役者さん同士なんですよね。綾子を睨むのも一瞬で、すぐに視線をはずすのも新児らしい動きですよ。」
「効果音として聞こえてくる工事現場の音もきいてるね。ただならぬ状況を強調してる。ここで暗転してタイトルになるのもいいや。ここまでで8分49秒。先週よりはずっと短いね。」
■都屋社長室■
「引き続き綾子の新児くんイジメ。この憎々しげな様子が実にリアルでいいね。『19年間のエピソードを何か話せ』って言って、カメラマンに見えない角度でうっすら笑うじゃない。うわーヤな女ー!って感じぃ。
…あのね、とあるところで話題になったんだけどさ、香港にいたんだからインタビューにも英語で答えてみろって言われたら、果たして新児はどうするだろうって。」
「うわー(笑)仮定にしても嫌な仮定ですね。」
「まぁ新児は成績優秀だったから? 英語くらいペラペラでもおかしくはないけどね。中学高校と英会話クラブの部長をつとめてたとか、そういう設定にすればさ。」
「実際、中学で習う英語が一通り使いこなせれば、日常生活には事足りるって言いますもんね。」
「発音がネックなんだよな〜。あとはヒアリグがさ。中学高校だけで6年間英語やるんだもん、それで話せないんじゃ本当はイミないんだよね。受験のためだけに6年もさぁ、無駄なことしてるよなー全く。」
■病院〜編集部■
「これはもぉ有季子、チョー非常識よ。病院で携帯なんか使ったら、最悪命にかかわるんだぞぅ。」
「うっかり切り忘れたんでしょうけどね。鳴ったときはこっちもビクッとしました。廊下にいた看護婦さんも振り返ってましたね。」
「すぐに仁美に注意されて、素直に謝ったからまぁいいか。」
「でも電車の中ならともかく、さすがに病院で注意されてきかない人はいないでしょう。第一周りが許しませんよ。」
「それって大事だよね。電車の中だってさぁ、注意してきかなかったら乗客みんなでソイツ引きずりおろしてやりゃいいんさ。」
「車内で喋ってる人、相変わらず多いですよね。遠慮するように放送されてんのにな。僕はホームに着いたら切るようにしてますよ。着信履歴見てかけ直せばいいんですから。」
「そうだよね。そのための機能じゃんねぇあれ。えーと、そいでもって有季子にかけてきたのは鷹男で、場所は編集部から。ゴーストだろうと何だろうと、何はともあれマスコミ界に身をおく彼は、報道ってもんの恐ろしさをよく知っている。セクハラ刑事の記事なんか出たら、好奇と罵声の渦の中に有季子が突き落とされちゃうのが判ってるんだね。」
「でしょうねぇ。ほら、プロの武道家って、素人に2〜3発殴られても手は出さないっていうじゃないですか。それとちょっと似てますよね。」
「そうだね。プロの武道家が本気出したら素人なんて殺せるからね。それと同じことでマスコミは、誰かを社会的に抹殺するくらいの力は持ってるんだよな。」
「だからこそマスコミには誠実であってほしいですね。つくづくそう思います。」
■社長室■
「ドラマ内で異性にモテるのが主役の特権だそうだけども、老いから若きから揃いも揃って、女たちはとことん新児に群がるよねぇ。」
「言えてますね。ひょっとして全員じゃないですか? ちひろ、綾子、仁美に有季子…」
「あと信濃町の藤代さん…車椅子の女の子もそうだよ。唯一の例外はあの女編集長だな(笑)彼女は新児には惚れなかろう。」
「華やかなことになってますねぇ新児の周りは。羨ましいな。」
「ああそうだ。ここのシーンでさぁ。あたしゃあゼヒとも八重垣くんに、お伺いしたいことがあったんだけども。」
「え、何でしょう。そう改まられるとすごくブキミなんですけど。」
「いやいや大したことじゃないんだけどもね。女ってのはさぁ、つまりヤッちゃうと大人しくなるモンなの?」
「ちょっ…。何ですか、かなり”大したこと”じゃないですかそれ。」
「いやね? どんなドラマでもたいがいそうだけどね? 初めは思いっきり抵抗してた女がさ、いったんコトが済むと抜け殻っつーかボーゼンつーか、すっげ大人しくなっちゃうでしょお。コトが済むや否や男ブン殴った女ってのは、世の中に1人くらいいないのかね。いてもいいと思うんだけどね。そのへんどうよヤエガキ。」
「知りませんよそんなの。僕は経験ないですから。」
「おやそう? 無理矢理ヤッちゃったことってない?」
「ありません。やりたくもないです。まぁ…Yesの意味のNoにピンと来て、強引に押し切ったくらいはありますけど(笑)」
「おお、あるかそうか(笑)それはとてもいいことだよ。形ばかりの抵抗って奴な。強引にされた方が自分に言い訳がたつって面は、確かにある。女は。」
「ふうん…。そういうもんですか。」
「ちょっとちょっとあんたが感心してどうすんの。あたしが質問してんじゃんよ。どうなのよ、ヤッちゃうと女は大人しくなるの?」
「だから知りませんてば。本当に嫌がってる女の人に手なんか出しませんよ。普通の男はそうでしょう。新児だってこういう緊急時だからこそ、非常手段に出たのであって。」
「なるほど非常手段かこれは。確かにな。」
「女の人の気持ちなんて僕は判りませんけど、要は相手次第じゃないですか? この時の綾子も、新児のことが大嫌いだって訳じゃあないんですから。」
「そっか、それは言えてんね。新児に対する綾子の興味は、ちひろが見抜いてんもんね。利害の一致云々はちひろには判んないだろうけど、そういうのを差っ引いた男と女の微妙な感覚には、ちひろってすごく鋭そう。」
「それに最初に誘惑的なことを言ってきたのは綾子の方ですよ。『夜にでもパートナーとしての条件を2人きりで話し合いましょう』って、ぴったりくっついてきたじゃないですか。」
「そうだね。そこで新児はふっと笑って、部屋を出るかに見せかけてドアをロックする。こん時の振り返った表情は、もうまさに”悪魔”って感じ。綾子の上目使いも雌の獣って雰囲気だよね。いやぁ迫力あるなー。」
「新児は一度綾子の足をすくって床に突き倒すじゃないですか。これは彼が綾子に、愛情はもちろん素直な欲望も、全く感じてない証拠ですね。」
「へー。」
「へー、って…(笑)一般論としてそうですよ。少しでも相手を思いやってたら、転ばすなんてできるはずないじゃないですか。」
「床に倒しといて横抱きにすくい上げて、ほいでもって机の上だからねー。この姿勢で首押さえられちゃあ抵抗できんわな。さすがの綾子も一瞬は恐怖にかられたかな。」
「机の上、っていうのはねぇ…。これはなかなかですからね。」
「ん? なによなかなかって。もしかしてキミは机派かえ?」
「いや、だからそうやって何でも僕のパーソナルに当てはめないで下さいよ。」
「ちっちっちっ、嫌だ当てはめてやる(笑)ねーねー机って何がなかなかなのよぅ。ひょっとしてアレか、角度とか?」
「…露骨ですね。」
「露骨が怖くてトンコツが食えるか。そうねぇ女にしてみれば、机に押さえつけられるってのも、なんかこう生贄にされるっぽくて刺激的かも知んないね。背中はかなり痛いだろうけど。」
「生贄って、ひょっとして智子さんてMなんですか?」
「いや私のパーソナルはおいといて、女は大抵Mだと思うがねぇ。少なくともSオンリーって人は少ないと思うよ。その点殿方はどうですかね。八重垣くん的にご意見ありますか。」
「はいはいもうその話はあとにして、ちょっと先に進めましょう。」
■病院■
「SだのMだのの話のあとに、満を持してののさん登場(笑)メリハリが最高だわ。」
「緊迫のシーンのあとにふっと息抜きが入る。これは大事なリズムですよね。」
「緊縛のシーン?」
「違います。ちゃんと耳掃除して下さい。」
「まぁそれにしても例によって、この品川署の感じ悪い刑事が、ののさんには頭が上がらないっていう設定はステレオタイプだな。有季子には横柄だった刑事も、ののさんに会うなりコロッと態度変える…。ありがちだよなコレって。」
「確かに、どこかで見た気はしますよね。」
「まぁ何でもかんでも新鮮でなきゃいかんてことはないから別にいいんだけどさ、豊川さんの芝居が油絵的に重厚な分、その他のゆるい部分が目立つってのはあるかも知んないね。」
「うーん…確かにそれはあるでしょうねぇ…。ある意味豊川さんが使いにくいとされてたのは、そのあたりがいわば『両刃の刃』になりかねないから、でしょうね。」
■編集部■
「ここの吾郎はなかなかいいと思うよ。年上の、やり手の、ズケズケの女編集長へのこの物慣れた接し方(笑)チャラチャラと要領よくいい加減に見えてさ、実はけっこう誠実な鷹男ってキャラクターを、吾郎はうまく創ってると思う。その場その場の思いつきで演じてたら、豊川さんがいるだけにバレるよ。薄っぺらくて見劣りしちゃう。」
「ええ、褒めたくはないですけど、イナガキは見劣りしてないと思いますよ。ライトでコミカルな、いい味出してると思いますし。」
「『できてるっちゃあできてるし、できてないっちゃあできてない…』ってボヤきが真実味あるもんね。ほんとそんな感じなんだこの2人は。」
「でも、思うんですけどね。都屋の役員室とかと比べて、このシーンにはリアリティありますよね。井上さんに馴染みのある世界なのかな。よく知りませんけど。」
「ああそれはあるかもね。作者の経験はさ、恐ろしいほど作品に出るんだよ。
かの名作、『源氏物語』ってさ、イメージ的にはベタベタに甘ったるい恋愛小説みたいに思われがちなんだけど、光源氏という主人公の出生だとか、左大臣の長男である頭中将、右大臣の娘である朧月夜、それに朱雀院の扱いなんかが、後宮政治ってモンを実際に知らなきゃ構築できないたぐいのモンだってね。
紫式部って学者の娘やん。ほんっとに頭のいい、政治・経済・歴史に文学何でもござれの、今で言やぁ大学院出のバリバリの才女なんだろうね。
現代とは比べものになんないほど男女格差のあった平安時代において、紫式部には男なみの知識と実体験があった。それらをもとに彼女は、あそこまでリアルな舞台設定を自分の作品内に創りあげたと、そういうことなんだと思うよ。」
「つまり、知らない世界にリアリティは出せないって、智子さんはそう言いたいんですね。」
「うん。つまりはそういうこと。だからさ、このドラマに出てくるサラリーマン世界と出版業界、どっちがリアルだつーたら文句なしに後者っしょ。それは井上さんの実体験が影響してんじゃないのかなって、そんなことを思った訳さ。」
■社長室■
「コトが済んだアトだよねここはね。こういう時の状況ってさぁ、もっとトッ散らかってるっつうか見苦しいつーか、滑稽な感じになってるよね。特に綾子。」
「まぁ、確かに着衣は整いすぎてますね(笑)ネクタイ結んでる新児はいいとしても。」
「でもこういう場合は、必要最低限の露出しかしねーか。面倒臭い前ボタンなんかいちいち外してらんないわな。」
「いや、それもちょっとあまりにも、露骨…」
「コスモのエッセイで吾郎が言ってたけど、キスシーンもベッドシーンも普通は人に見せるモンじゃないからね、とっちらかろうと見苦しかろうと、どうでもいいコトなんだけど。」
「まぁそれはそうとして、こういう行為に出た新児のふるまいと、おそらくは行為そのものの激しさと狂おしさによって、綾子には判ったんでしょうね。ああ、この男は雄一郎を殺して、彼になりかわったんだなと。」
「そうそう。綾子って女は男の心を読むプロな訳だから、体を重ねるという最高位の…何だろう、コネクションというかログオンというか、言葉によるコミュニケーションの数十倍強い”交感”で、新児の本性を悟ったんだろうね。この男なら人殺しくらいやりかねないだろう、って。」
「だろうと思いますよ。直接言葉で告白されなくても。」
「男と女ってさ、1度でもSexしちゃったが最後2度と見えなくなるものもあるけど、逆に、抱きあわなきゃ判んない第7感てのも確かにあるんだよね。大脳じゃなく小脳で、相手の命のリズムを知るっていうか。」
「ああ、ありますね。確かにある。体でしか判りあえないもの。すごく大きいと思いますよ。」
「男と女と愛とSex。人類永遠の課題かも知れないね。」
「そうですね。人類っていうか、生命の課題かも知れないですよ。」
「キュッ、とネクタイを整える豊川さんは、無条件にカッコよかったけどもね。」
■非常階段■
「このシーンはけっこう好きだな。ぐるぐるぐるぐる回りながら登る階段ていうのがさ、解決の切り札のない都屋事件を表してるみたいにも思える。」
「雄一郎が河口べりで発見されたのが10月14日、このドラマの第1回オンエアの日か…。早いもんですね。」
「ほんとよねー。思えば『ソムリエ』からはもう1年たってるんだ。まさに光陰矢の如しだね。」
■秘書課〜社長室■
「このシーンはさ、いいところでCM入れたよね。来訪者を迎えてお辞儀したちひろがスッと顔を上げて、『あれ?』っていう表情したところでCM。そういえばちひろは、鷹男の顔を知ってんだもんね。」
「だから鷹男は、この場をさっさと通り過ぎたでしょうね。彼はちひろが都屋の秘書だって知ってるんですから。」
「サングラスで顔隠すだけじゃなく、前髪も上げちゃえばよかったのにね。そうすりゃちひろにもバレなかったかもよ。」
「前髪で全然感じ違いますからね。」
「しかしここの『新児vs鷹男』の一騎討ちは興味深かった。過大評価かも知んないけどね、私はここで吾郎に加点したもんね。」
「あ、過大評価ですよそれ。」
「おいおいおい(笑)何も聞かないうちから断定すんなよ。あのねぇ、どういうコトかと言うとね、河瀬鷹男って青年はさ、人ひとり殺してる新児…まぁ実際には雄一郎は生きてんだけどもね、そういう殺人犯と、それから自分の父親より年上だろう海千山千の親父どもを前にして、精一杯イキがってる青二才ってキャラでいい訳だよね。」
「そうですね。1人で乗り込んでいけたことを、むしろ感心してやってもいい若さだと思いますよ。」
「でもってこのシーンではさ、どう見たって鷹男は新児に貫禄負けしてるよね。でもね? 私が思ったのは、ここでの貫禄差を、イコール『稲垣吾郎の軽さ』と解釈しちゃいかんのだってことなのよ。現実にああいう場面があったにしても、20代のあんちゃんなら、どうイキがったってあの程度だろ。別に鷹男はヤクザじゃない。女編集長にガーガー言われてるペェペェのゴーストライターなんだから。鷹男に変な凄味があったら、それは逆におかしいんだよね。」
「うーん…。微妙な評価ですねそれ。貫禄負け、するべくしてしてるって解釈ですからね。1歩間違うとただの贔屓の引き倒しになっちゃいますし。」
「そうそう。だから過大評価かも知れないなんて、気弱なことを言っちゃう訳よ。あたし個人は全然そんなこと思ってないけど。逆に吾郎ってマジすげーじゃんとか思ってるんだけどね。」
「じゃあ思ってればいいじゃないですか。別に、誰に迷惑かける訳でもないし。」
「そうなんだけどさ。盲目愛ってキライなんだよ。」
「いろいろこだわる人ですねぇ…。そんなんじゃ疲れちゃいません?」
「うん、それでけっこう疲れがち(笑)まぁしかしそれも個性で、しょうがないっしょ。」
「でも僕も感じましたよ。ここでの新児と鷹男は、それぞれのまとってる空気が見事に異質なんですよね。新児には映画的なクローズな重量感があって、反面、鷹男にはTV的な軽やかさと間口の広さ、口当たりのよさがある。まぁ『イナガキにある』って言った方が適切なんでしょうけど、その両者がこう、コーヒーにクリームを入れた瞬間みたいな、混じりあわずに『絡みあってる』って感じで、なかなか面白かったですけどね。」
「おお、いい表現だねぇ。コーヒーにクリーム入れた瞬間か…。そういえばさ、このシーンて新児と鷹男は真正面で向かい合ってるから、フレーム内に2人の顔が同時におさまった画(え)ってないんだよね。カメラがさ、新児→鷹男→新児、って切り替わるたんびに、画面を覆う空気が変わる。吾郎のまとってる空気だって、ドラマ1本丸ごと包める”主役のオーラ”なんだからさ、押し消されちゃうんじゃなく、立派に自己主著してるよね。この2つの異なる空気を、ここで無理に混ぜなかったのは正解じゃないのかな。」
「ええ。演出もそのへんは狙ってたんじゃないですか。」
「かも知んないね。いわば不協和音の美ってやつか。」
「あ、それですよそれ。新児と鷹男の、ナイス不協和音。」
「でもってさ、煙草2本失敬していくっつう妙に賎しい鷹男の行動は、彼の人となりに合ってなくって、これも新児に『この男の目的は金じゃないな』と確信させる理由の1つになったんだと思うよ。」
「前回でしたっけ、智子さん言ってましたけど、新児っていうのは本当に頭のいい男ですよね。店頭からワインを引き上げるなんて決断、並みの経営者には下せませんよ。しかもほとんど即決で。」
「素人だからこそできる大胆さって奴だよね。売り上げへの影響だの在庫の無駄だの、そんな枝葉末節をズバッと切り捨てて、物事の根本だけを見据える。こういう男が社長になると会社は伸びるんだぞぉ。」
「魚住新児がもし戦国時代にいたら、ひょっとして天下取ったかも知れないですね(笑)」
■病院■
「いやぁ当たりましたね。こないだ智子さんの言ってたこと。」
「何が?」
「ほら、喫茶店でちひろの落とした写真を鷹男が見た時、『もしかしてこの先病院にいる雄一郎と鷹男は接触するんじゃないか』みたいなこと言ってたじゃないですか。」
「ああアレね。うんうんほんとほんと。陽一郎の顔立ちってけっこう濃いつーか、目鼻立ちがはっきりしてるじゃん。こういう顔って覚えやすいんだよね。」
「雄一郎の顔の腫れもそろそろ引いてくる頃でしょうからね。」
「『デジャヴーかも知んないし…』って言う鷹男が、何だか彼らしくてよかった。デジャ・ヴー、既視体験。日常生活でもタマーにあるよね。」
「ありますね。だいたいが古い記憶にすぎないっていいますけど。もしかしたらDNAに焼きついてる先祖の記憶かも知れないし。」
「人類共通の記憶なんて、いかにもありそうだよね。だってさ、人間がナチュラルウッドの家具とか壁とかに暖かいものを感じて、石や鉄に比べてずっと安らげるっていうのも、もともと人類は森に住んでいて、木に守られて進化したからだって学説があるもんね。『木=安全なもの』って知識を、全人類が記憶してるんだって。」
「昔、大きな動物に襲われると、慌てて木に登ってたんでしょうね我々の祖先は。」
「あとさあとさ、どっか高いところから落ちる夢を人間は案外見るんだけど、それも『木から落ちると危ないんだ』っていう、太古からの危険情報に起因するもんなんだってよ。」
「ふぅん。言われてみれば納得できる気もしますね。」
「あたしさぁ、ビルの屋上みたいな高いとこから飛び降りなきゃなんない夢、けっこう見るよ。こりゃぜってー足折るな、とか真剣に悩んで目が覚めたりね。」
「よく見る夢ってありますよね。僕は道に迷う夢かな。不思議と風景が同じなんですよ。」
「あるあるそういうのも。深層心理の分析とかしたら面白いか知んないね。」
「子供の頃の何か強烈な記憶が、多分ベースにあるんでしょうね。」
■社長室■
「さっき秘書室で鷹男を見たちひろは、やっぱ思い出してたんだね。あの時の『興信所みたいな人』だって。」
「とうとう興信所の人間にされちゃいましたね鷹男は。でもなんで新児は、ここでちひろの差し出した鷹男の名刺を受け取らなかったんでしょう。」
「そうねぇ、見たってしょうがないってことなんじゃないの? ワイン疑惑も何も、その疑惑ごとワイン事業をやめる決定しちゃったんだから。」
「ちひろは新児の役に立とうと一生懸命なんですよね。ほんとにもう、けなげだなぁ。可愛いですよね涼子ちゃん。」
「やっぱあんたってこの手が好きなんだ。ふーん。八重垣くんは篠原涼子タイプの秘書課レディがお好きと…。メモメモ。」
「そんなのメモとってどうするんですか(笑)」
「そんな可愛い秘書嬢が、新児はひょっとしていささかうっとおしくなってる? 最初のうちは都屋へのちょっとした橋渡しで使ってみたけど、あんまり個人的に自分に興味を持たれるのは困る、ってのが本心かもね。それに、社長という地位にある自分を十分に意識した、ただのミーハー娘だっていうのも判っちゃったのかも。」
「そうなんでしょうけどねぇ。こんな可愛い子からアプローチされたら、何をおいても応えてあげるのが男の義務ですよ。ねぇ智子さん。」
「あたしに同意求めんなよ(笑)しかしさ、ちひろが出ていったあと新児は、足元のゴミ箱から例の『あなたは誰?』の紙を拾い出して、くしゃくしゃになったのを手で伸ばすじゃん。これって何の伏線なのかな。」
「伏線ていうか…自分はもう本当に都築雄一郎にならなくちゃいけない、って決意じゃないかと思いますけどね。今までも、いずれそうしなきゃとは思ってたんでしょうけど、いよいよ現実に、本当に、魚住新児は捨てないと、って。」
「ああね、そうかもね。『あなたは誰?』だなんて、言われてる場合じゃないや、もう。」
「ワイン事業撤退の件は、都屋の社長として新児が初めて下した自分の命令ですよね。それによって人が、モノが、マスコミだって動き始める。二足のワラジはもう危険ですよ。彼はそれを悟ったんでしょう。」
■記者会見〜都屋店内■
「新社長の命令を受けて役員たちも頑張ったようだな(笑)事業の1つを切り捨てるというとんでもない犠牲と引き換えに、『消費者からの称賛』という巨大なメリットを、何としても得なきゃなんないからね。」
「でもその狙いはほぼ成功なんじゃないですか。汚職だの不祥事だのがここまで取り沙太される現在だからこそ、『都屋は正義のスーパー』みたいなイメージを、きっと消費者は抱いてくれますよ。」
「資本主義社会にとって、そのイメージって大きいんだよね〜。主権が民衆にある以上、消費者は王様なんだから。」
「でもこれで一番痛手を負うのは都屋と取引してるワインメーカーですよね。」
「だよねぇ。年間取引高が何十億だろうからね。それが1発でポシャっちゃうんだから、さぞや新児は恨まれるよ。」
「逆に、短絡的に見て一番喜んだのは売場の従業員じゃないですか? ワインは全て廃棄っていったって、そこらに流して捨てるんじゃなく、店員たちにタダで配ったでしょうからね。」
「そうだよね。捨てるなら社員にあげるよ。あたしが店長でもそうするよ。」
「売り場にあった1本何万円もするワインが、今日になったらタダですよ。これは従業員も喜んで持って帰りますよねぇ。すぐに飲みきれなくても、半年や1年は置いとけばいいんだし。」
「そうだねぇ。くっそー、いいなー。あたくし来月の8日はさ、ちょっと高級なワインでも抜いて1人でパーティーやろうかと思って。どっかレストランに出かけるのを思えば、それなりのワイン買えるでしょ。」
「ああ、確かにいいですねそれ。ひょっとして一番の贅沢かも知れない。」
「普通家庭で飲むワインならさ、1本1万て高い方だもんね。」
「そりゃ高いですよ(笑)1万も出すつもりなんですか?」
「いや例えばの話よ。値段と味は決してイコールではないと、スマスマで田崎さんも言っていた。」
「イタリアワインなら手頃な値段でおいしいのがありますよ。」
「そうだね。近所におっきな酒屋さんあるから、そこで探してみる予定。」
■駐車場の車の中■
「さてさてこちらは悪の密談現場(笑)思いきって先手を打った新児を、『相当な人物』と評する大沢課長はさすがかも。」
「悪いことする人間なんて、だいたい頭だけはいいですからね。」
「ワイロか何かもらったんだろう大沢さんも、都屋の犬みたくクサいもんを嗅ぎ回らされんのは嫌だろうし、この2人にはこの2人なりの、駆け引きがあるってことか。大人は大変だねぇ。」
「思惑が二重三重に絡みあってますよね。最終回に向かって、このへんも影響してきたら面白いな。」
「うんうん。最後は大沢がもう1度、都屋に捜査の手をいれるとかね。」
■編集部〜病院のロビー■
「記者会見の記事は新聞にも載っちゃって、これはもう『新児の勝ち〜!』って感じだよね。編集長の『やられたわね。』が実に正しい。」
「証拠がない以上、もうここで引き下がらざるを得ませんよね。第一、世論を味方につけちゃったら都屋の勝ちなんですよ。」
「『相手も相当なもんだから敵に回したらヤバいわよ』って、この編集長ちゃんと判ってるよね。でも女刑事のセクハラ捜査ネタは捨て難いか…。そりゃそうだよな、インパクトあるもん。」
「鷹男としては大きく目算が狂った訳ですね。有季子には傷をつけずに、都築雄一郎だけ引っぱり出そうとしてたんだけど、そうはいかなくなっちゃった。しかも抜け目のない女編集長は、鷹男に投げられた美味しいエサをくわえて放さない。今になって『そんな記事は書きたくない』と抵抗しても、悲しいかなゴーストライターの身では…。」
「自分の方がチョン切られておしまいなんだよね。『カッコいいことに真実なんてない』という冷たい冷たい現実を、かくして鷹男くんはさらに強く思い知るのでありました、ってとこか。」
「新児vs鷹男の第1ラウンドは、新児の方が1枚も2枚もうわてだったって訳ですよね。ののさんまで怒らせちゃいましたよ鷹男は(笑)」
「ほんっと。警察から見れば今度こそ、トカゲに尻尾を切られちゃったことになるよね。最初の尻尾は都築勇三。次の尻尾がこのワイン事業。でもさすがはののさんだ。全く違うルートから、新たな情報を得てたんだね。」
「ああ、『事件現場にタクシーが停まってた』ってことですか。」
「そうそう。実はそっちの方が核心に近いと、これまた視聴者だけが知ってるのか。」
■みどりタクシー■
「この女の子、藤代さん。最後までストーリーに絡んでくるみたいね。」
「そうですね。客として魚住新児を知っている生き証人てとこでしょうか。」
「ひょっとしてラスト近くに意外な役割があるかも知れないね。今後のこの子の位置づけについては、私もちょっと予想できない。」
「タクシーの乗車記録って、あんな風になってるんですね。乗務員がお金ごまかしたり、サボッたりできないようになってるんだろうな。」
「まぁね、いろんな会社を渡り歩いてる、流れモンみたいな運転手もいるだろうからね。」
「新児みたいに真面目な社員は、もしかしたら少ないのかも知れませんね。それじゃあ引き止めもあって当然か。惜しい人材なんでしょう。」
■橋の上・鷹男■
「ここってばPVなみのサービスカット大放出やん。口にくわえた煙草だけが、鷹男の戦利品なんだわね。どうせなら2本じゃなく3本取ってくればよかったのに(笑)」
「それなら4本の方がいいですよ。いえどうせだったら箱ごと(笑)」
「高く澄んだ空っていうのは鷹男のテーマ映像だけど、ここでの虹はちょっと余計だね。雨なんかいつ降ったんだよ。さも“取ってつけた”みたいで不自然じゃん。」
「画(え)としては綺麗ですけどね。高層ビルがそびえてて。」
「鷹男を撮るカメラの角度も計算されてるよ。この横顔のアップは、マジ美しいもんな。」
「普通こういう映像って女優さんに限るもんですけど、さすがはイナガキ、撮らせますねぇ。」
「見たいって人、多いんだと思うよ。『キャーッ!』て言える吾郎ビジュアルを。」
■事件現場の河原■
「深まる秋にススキの穂が揺れて、ここもなかなか絵になるシーンですね。」
「うん。ののさんもキレイに映ってるし(笑)」
「『これで上がりだ』とか言ってますけど、ののさん事件の真相言い当ててるじゃないですか。ねぇ。もったいないですよね。」
「『タクシーの運転手が犯人、なんてな。』って、これはもしかしてワクさん口調のパロディかね。」
「そうなんじゃないですか? 判りにくいけど。」
「人間、応にしてさぁ、考えに考えぬいた推理より、何気なく言い捨てた一言にこそ真実があったりするもんなんだ。」
「『お前、ほんとに飛ぶぞ』っていうののさんの一言は、有季子にとっては最後通告ですよね。望みの糸が断ち切られたっていうか。」
「追うこともできずにののさんの背中を見送る有季子、半ベソかいちゃってるもんね。溜息ついて川面(かわも)を見て、新たな決意をする訳か。」
■アパートの前〜証明写真〜オープンカフェ■
「ここがもー! もーもーもー! 牛じゃなくて今回の白眉。目玉。魔の第5回をどっかにぶっとばしてくれた名シーン。泣いたよあたしゃ。豊川さんに泣かされましたよ。」
「うん、確かにここはよかったですね。しかも回想シーン以外、セリフは一言もないんですよ。」
「そうなの。あとになってそれに気づいてまた感動した。新児の気持ちがさぁ、動きと表情を通して伝わってくんだもん。」
「新児の気持ちって、矛盾してるんですよね。自分で雄一郎を殺して彼になりかわっておいて、今さら魚住新児の生活に未練を感じてどうするんですか。でも、それはそうなんだけれども、生身の人間て実際、そういう矛盾だらけの生き物でしょう。コンピュータじゃないんですから、時に正反対の考えを同時に持ってたりもしますからね。」
「そうなのよ。セリフもなくてそれを納得させてくれるっていうのが、そこがすごいと思うんだ豊川さんは。
雄一郎を素手で殴り殺して、裸にして川に捨てるような残酷な新児。自分を脅してきた綾子を、半強姦で黙らせてしまうけだものみたいな新児。鷹男の持ち札の強さを知るや否や、思いもかけない先手を打った頭脳明晰な新児。そしてもう1人、ここにいるのはまた別な新児なんだよね。街ごとの風の匂いや人の流れを、車の窓から眺めつづけてきた感性豊かな人間。
タクシー運転手という仕事が、新児は決して嫌いじゃなかった。お客さんとの触れ合いも、会社にいる人のいい事務員さんも、みんな自分を支えてくれてたって判ってる。朝夕自分を運んでくれた自転車も、古くて汚いアパートも、今になってものすごく大切なものに思える…。
これってさあ八重垣…。新児っていい男だよ。自転車なんてさ、引っ越すのに邪魔だからって平気でそこらに捨ててっちゃう人もいるじゃん。庭先に雨ざらしで置いといて、ちょっとサビついたからって新しいのに変えたり。それに比べて新児ってさ、ものの価値がどこにあんのか、ちゃんと判ってる人間なんだなぁ…。だからこそ雄一郎の、『人間はラベルなんだ論』には激しい反感を感じたんだろうね。」
「使い方次第で、ものにも命が宿りますよね。人形の髪の毛くらい、伸びたって不思議はないですよ。」
「そうよそうよ。アパートの前を自転車でぐるぐる回ってさぁ、最後にキーを抜かずに去っていくとこ。あたしここで洟かんじゃったもん。『さよなら…』っていう新児の声が、ありありと聞こえた気がしたんだよね。」
「鍵をかけちゃったらあの自転車は、もう2度と走れませんからね。でもかけずにおけばひょっとして、誰かに貰ってもらえるかも知れない。そしてまた“自転車”として生きていけるかも知れない。そんな感じじゃないのかな。」
「うんうん。証明写真を撮る次のシーンもいいよね。魚住新児がしていたことの1つ1つに、彼は別れを告げていくんだなぁ…。」
「PRESSボタンを押して、でも、新児はそこで外に出るじゃないですか。その後ろ姿を、誰も映すことのないフラッシュが照らす…。名場面といっていいですよねここは。」
「うん。手放すもの・失ったもの・忘れなきゃいけないものたちの中を、新児は無言で歩いていくんだよね。そして行きついたのがあの喫茶店。あの時のテーブルを見て新児は、『あなたが大きな会社の偉い人だなんて思えない』という有季子の言葉を思い出す。
―――なんかさ、新児にとって有季子は、こりゃもう運命の人だよなー。魚住新児の持っていた全ての中で、唯一捨てることのできないもの。それが“有季子”という女のイメージなんじゃないのかな。」
「ああ、そうかも知れませんね。」
■新児のアパート・仁美■
「これまた切ないシーンだね。新児はもうここへは戻ってこない。それが仁美には判っただろうからね。」
「きちんと片づけてある部屋が、新児の決意を物語ってますよね。いずれ業者か何かに処分させる気なんでしょう。」
「だと思う。立つ鳥あとをにごさず、か。元木さんの部屋より綺麗なんだろうな。」
「(笑)…いきなり吹き出させないで下さいよ。楽屋ネタは反則ですって。」
「まぁタマにはいいじゃん。息抜き息抜き。」
■カフェにて、新児と有季子■
「このシーンのポイントは、大きくまとめると3つあるね。」
「あれ、あらかじめまとめてくれたんですか? ありがとうございます。いつもそうしてくれると僕は助かるんだけどな。」
「ベツにアンタを助けるためにまとめたんじゃないつーに。大事なシーンだからね。えーとまずはポイント1。新児の立体感。」
「『豊川さんがうまい』はもういいですよ(笑)僕も十分そう思いますから。」
「ちゃうちゃう。新児のキャラクター。何ていうかさぁ、新児ってキャラは、最初から1本、きちーんとスジが通ってんなぁと思って。
第1回の座談会でも言ったけど、新児は雄一郎を殺してどうこうしようっていう、明確な目的も計画もあった訳ではない。衝動殺人に近いことをやらかして、本当は新児が一番驚いてるんだろうと思う。雄一郎になりかわることになったのも多分になりゆきまかせな点があって、ずるずるずるとここまできちゃったって感じだよね。」
「そうですね。部分部分ではちゃんと自分の意志でふるまってますけど、そのもととなるレールは新児が進んで引いた訳じゃない。指紋を拭き取りにいったあのホテルにちひろが来なかったら、新児はあのまま逃げてたかも知れませんよ。」
「そうなのよ。そんないくつかの偶然が重なって、彼は今、都屋の代表取締役社長なんていう嘘みたいな地位に就いちゃった。けど、それだって砂上の楼閣っぽい。綾子には正体バレてるしね。
だけど新児は不幸にも頭がいいもんだから、襲ってきた波は切りぬけちゃうし、次にくる波も読めちゃうんだと思う。だから彼は、こんな芝居がいつまでも続くはずはない、破滅の日は必ず来るだろうと、判ってるんだと思う。いや、心のどこかではそれを待ってるのかも知れない。裁きとひきかえに、嘘をつかなくてもよくなる日。自業自得の嘘とはいえ、つき続けるのはしんどいと思うよ。」
「じゃあ、その『裁きと救い』を、このシーンで新児は有季子に委ねたってことですか。」
「そうそうそうそう! 追いかけつづけてくれ、そしていつか見抜いてくれって言って、一瞬祈るように目を閉じる新児ね。これで思った。ああ、この人は有季子に自分の命も運命も、全てあなたに委ねるって言ってるんだなぁ。そういうことなんだろうなあって。」
「いずれは有季子もそれを悟るんでしょうね。新児の…じゃないか、都築雄一郎の正体を知った時に。」
「うん、そうだと思うよ。でもってね、ここで新児が、『なんでここに来たの』って有季子に聞かれて、『逃げ出したくなった』って答えるじゃない。これって実は新児の、ほんとのほんとの本音なんだろうね。何もかも放り投げてどこかへ行ってしまいたい、みたいな。都築雄一郎だけじゃなく、過去の魚住新児からも。自分を取りまくあらゆるうざったいものを、バーッと振り切って捨て去りたい…。
有季子の手にちょっとだけ指を触れさせて『一緒に逃げませんか』って言ったのは、できるはずがないと判っていても、その“ほんとの本音”の具体化だよね。現実ってもののエネルギーがこう、わーっと流れてて、その流れの中からポロッとこぼれ落ちる非常に個人的な本音ね。理屈の網目から1個だけ転がり落ちたビー玉みたいな…って、なんかいつかのスマスマの『メッセンジャー』思い出しちゃったよぉ(笑)」
「あのオレンジのピンポン玉ですか? なんでそんなもの思い出すんですか、せっかく自分でいい話してたのに。」
「ホントよね。でもまぁどんどん行きましょう。ポイントその2。若い女の生き方。」
「え? それはまたずいぶん毛色が違うじゃないですか。」
「いや、有季子のさ、何かを求めて追いかけて、走り続けてないと不安なんだっていうのは、現代女性が大なり小なり感じてることじゃないのかなって思って。
ひと昔前の女がみんなそうしてた、『結婚して子供を持って夫の影で平穏無事に』っていう生き方がさ、否定はされないまでも、ただの選択肢の1つになって久しいじゃない。つまりさ、『これが幸せなんだからこういう風に生きなさい』っていう安全模範解答を、もはや世間は示してくんないんだよ。
現代って何事もそうでしょう。戦後教育の中心だった『個人の尊重』って奴がさ、それはそれですごく正しい思想なんだけども、かつて日本にあった『みんなのおてほん』を真っ二つに破り捨てちゃった。親は正しい・先生は偉い・貧乏人は慎ましくしてろ・女は内助の功こそ美徳。そういう『とりあえずこうしてなさい』って規範がどこにもなくなっちゃったのは、実はずいぶんと不安なことなんだよね。
学校でのイジメなんてもんは、実はこのへんに根っこがあるんだと私は思うよ。ぎゅっとつかまってれば安心できる共通の価値観がない。自分を映す鏡がないの。」
「うーん…。話としては面白いんですけどね、座談会とはテーマがずれてます。」
「おっと、そうだね失敬。んだから有季子の不安もね、どう生きるべきかを自分で探して確立しなきゃいけない現代人の、共通の不安を反映してるんだと思うよ。
これは20代の鷹男には判らんだろうなぁ…。有季子が何を不安がってこんなに突っ張ってんのか。自分ていう男がそばにいるのに。イザとなれば守ってやれるのに。でも有季子はそういう『男に頼って生きること』自体が、正しい…とゆーか、真の意味での幸せなのかどうか、判んないから怖いんだよね。」
「でもそれを男に判れというのは難しいと思いますよ。頭では理解できてもね、やっぱり、頼ってほしい生き物ですから男は。」
「だよねー。あたしゃソレでしくじったからな。ところがどっこい有季子もね、あと10年もしたんさい。誰に言われなくても自分で判るもんなんだ。突っ張って生きてたって虚しいってことが。
この世界はそんなに荒々しくもなければ、緊張の連続で成り立ってもいない。人生には波があり、男と女には相性がある。太陽の動きに合わせてゆったりと、自然に生きるのが一番なんだってね。そのことに気づいて初めて、有季子は鷹男の優しさがしみじみと判るだろうと思うけどね。このストーリーの感じだと、そこへ行きつくまでに彼女には、何か破滅に近いものがあるんだろうけどさ。」
「何だか、人生いかに生きるべきかのシンポジウムみたくなってきましたね(笑)」
「そだね(笑)ほいじゃまたちょっと話を戻して、ちゃっちゃっといこうか。ポイントその3、紀香さんについて。」
「おっと。いきなり話がUターンしますね。」
「あのねぇ、彼女ってねぇ。決して下手でも、豊川さんに合わないなんてこともないと思うけど、1つだけ。このシーンでの『どうしてここに来たの』と『私なんかが相手でいいの』の部分は、もうちょっと意味を掘り下げてほしいなーと思った。まぁ豊川さんが相手役でなければ? そんなとこまで求められなくて済むのかも知んないけど。」
「確かにその2つのセリフは、他とは意味合いが違いますからね。さっきのピンポン玉じゃないですけど、べき論や正論や、足元の現実とはかけ離れてポロリとこぼれた本音なんですから。」
「そうなのそれなのよ。『私なんかが相手でいいの?』って言ったのは、事件を追ってる速水警部補でも、どう生きるべきか判らなくて溜息ついてる女・有季子でもない、何つーかな…有季子“自身”? 高村光太郎の言った原(ウル)・智恵子みたいなもん? それなんだと思うんだよね。」
「まぁTVドラマですからね、本当はこれで十分なんでしょうけど、相手役にあそこまで演じられちゃうと…ですよね。」
「そうなのよぉ。『あなただけは違うと思いたい』って言った時の新児、暗い表情の中にほんのわずか甘さが漂ってさ、雄一郎とは完全に違う雰囲気になってる。アレを見ちゃうとねぇ、どうしてもねぇ…って最後に結局豊川さんを褒めちゃったよ。」
「でもこのシーンのラストで、自分の手に触れた新児の指の感触を思い出す有季子のアップは綺麗でしたね。」
「ああ、あれは綺麗だったね。文句なしに美人だもん紀香さんは。でもって卑近な話なんだけどさ、ここで新児は店を出る時、ちゃんとお会計してったね。『俺、下りるわ』などと言って金も払わず出ていった鷹男とは、こういうとこからして違うんだな(笑)」
■屋上・有季子と鷹男■
「ねーねーねー、このビルから見える景色ねぇ、何だか『夜空ノムコウ』っぽいと思わない? スマスマでやったショートドラマ、あれ思い出しちゃった。」
「ああ、そういえばイメージありますね。」
「確かめたいんだけどさ、ビデオがどれだか判んなくて…。」
「あれ? 昔のスマスマビデオは、チェックが済んだんじゃなかったでしたっけ。」
「誰が済んだなどと言った。『ほとんど終わった』って言っただけよ。」
「ほとんど、ね。便利な副詞ですよね。」
「まぁ東京の夜景ってのも、ワリとどこも似てるんだけどね。イッパツで判るのは銀座くらいかな。」
「銀座は判りますよ。銀座通りと碁盤の目ですから。」
「でもってその屋上で有季子はさ、『追いかけ続けて、いつか追いつけ』と言った新児の言葉に煽られるように、セクハラ記事で揺さぶりをかける決意をするんだね。ワイン疑惑なんかよりこっちの方が新児にとってもイタイはずよ。何せ顔写真が出ちゃうっしょ。有季子の昔の男どころか、新児の知り合いたちがびっくりすんべ。」
「まずは誰よりも仁美が驚くでしょうね。」
「それとあの若い看護婦さんでしょ。車椅子の女の子でしょ。登場してはいないけど新児のアパートの大家さんも驚くだろうし、えーとそれから…。」
「みどりタクシーの事務員さんもでしょう。予告にもチラッとありましたよ。」
「そうそうあのオブチ君だ。新児が車を停めっきりで、何かやってたのも知ってるしね。」
「そのへんからストーリーも、また新たな動きを見せるんでしょうね。」
■橋の上■
「今回、ここがトドメだったね。新児の後ろ姿に、まぁた涙出ちったよ。あの背中がさ、どんなセリフよりも雄弁に彼の心を物語ってて。不安、孤独、後悔、虚無感…。しかも手袋だけ捨て方が違うんだ。流れていく『かつての誇り』を、新児はどんな思いで見つめてたのかなぁ…。」
「ポケットの中に入ってた写真は、雄一郎を殺した翌日に撮ったやつですよね。」
「そうそう。あの証明写真の機械でね。そこにそれ捨てんのはヤバくねーか?と思ったけど、ひらひらひらーって回りながら落ちていくのに新児の横顔がオーバーラップして、ピシャッと水に落ちた瞬間、カットオフしてエンドロールへ。うわーいいなーと思ったよ。中江さんやっぱサスガかな。
『こうして彼は魚住新児としての過去を、全て捨てたのでした。続く。』って感じで第5回は終了か。いやー…魔の5回どころの騒ぎじゃない。逆にダメ押しされた感じだよ。」
「でも数字的には上がりませんね。いえそんなに気にするつもりはないんですけども。」
「そうだね。今クールのドラマは質的には粒揃いと評価されながらも、どうもいまいち数字に結びつかないみたい。けど『踊る大捜査線』だって最初は15%くらいだったんだよ。それに、そもそもこのドラマで、どかーんと一般受け狙おうとは制作側も思ってないんじゃないの。30%近くいくような、ハデな作りはしてないと思うよ。15%前後取れてりゃ、それでいいんじゃないかしらん。」
「視聴者のドラマ離れが進んでるって背景も、確かにあるかも知れませんよね。」
「飽和状態だったからね。でもその代わりさ、これ見てんのはほんとのドラマ好きだろうから、鋭い批評とか建設的な意見、きっとあると思うよ。」
「それはあるでしょうね。見巧者(みごうしゃ)っていうんですか? 多分そんな人たちがTVの前で、こうやって腕組んで見てるんだろうな。」
「だから、ってコトはないけど、あたしたちも頑張んなきゃね。」
「そうですね。…えーと、という訳で今回は綺麗にまとまったみたいです。『危険な関係』座談会第5回、このへんで締めたいと思います。今回は17日水曜日のUPが目標だったんですが、やっぱり木曜日になっちゃいまして…。智子さんもかなり頑張ってくれたんですけれども。ねぇ。」
「ええ、頑張ったんですけどね。いかんせん間にバリウムナイトがあったモンで(笑)」
「ああそうか。じゃあしょうがないですね。で、来週は…とりあえず24日更新目標ですか?」
「そうだねー。なるべく24日には上げたいけどね。」
「判りました、頑張って下さい。それでは皆様、来週までご機嫌よう。パーソナリティは私、八重垣悟と、」
「豊川さんの映画『千年旅人』が27日に封切りになったら、千葉まで見にで行こうと思ってる木村智子でございましたぁー!
…さぁーて、無事に終わった終わった。さっきのモルツはと…おっと、ぬるくなっちゃってるよ。まぁしょうがないよね、これはこれで飲んじゃおう。」
「ああどうもすいません。いいですよ少しくらいぬるくたって。」
「そうそう。バリウムに比べりゃ何でもうまいさっ!」
座談会第6回に続く
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