『危険な関係』 座談会
【 第9回 (99.12.9放映分) 】
「はい、えー皆様お元気でしたでしょうか木村智子です。街はすっかりクリスマス気分に彩られまして、ジングルベルの音色に心も踊るこの季節、残りわずかとなりましたこの座談会をですね、ラストの直線にかかったつもりで頑張っていきたいと思うんですけれども、はい。」
「…僕っていつもそういう口調でしゃべってるんですか。」
「そだよ。さすがはお姉ちゃん子だけあってコトバは優しいよね、アンタもご本体も。」
「そうですか? ありがとうございます。って改まってお礼言うことでもなかったですね。…えー、皆様こんにちは八重垣悟です。今回はご挨拶の順番が智子さんと入れ違ってしまったんですけれども、新児の苦悩もストーリーもクライマックスになりつつある第9回をですね、楽しく論じてみたいと思います。」
「しかし今回もアレだね、さくさく進んだというか、いいペースで来てるよね。」
「そうですね。何となく手際がいい感じしますね。最終回に向けて、決着のつくとこはつけとけ、みたいな。」
「そうそうそんな感じする。前回のおさらいもほとんどなかったしねー。」
「今週の演出は木村達昭さんでしたから、光の扱いはやっぱり綺麗でしたよね。」
「演出家はさ、都合3人なのかな。中江さんに木村さんに水田さん。」
「残りの第10回・11回は中江さんがやるんじゃないですか多分。」
「多分そうだろうね。重厚にして象徴的な中江演出は、実に最終回にふさわしい。そっちにも期待しようぜい。」
「ストーリー自体の面白さと、表現の妙の両方に期待するってことですね。」
「そうそう。料理でいえばこの2つは、味つけと盛りつけにあたるのさっ!」
■公園・有季子・川原・野々村〜路上・新児■
「ののさんの胸ポケットで鳴り続ける携帯。一種不気味で、雰囲気ありましたね。」
「死体の胸で鳴る携帯かぁ。サスペンスだよねー。あのさ、聞いた話なんだけど、電車の遺失物預かり所ってあるじゃない。そこにも昨今携帯の忘れ物が山ほど届くようになって、倉庫の棚に置かれたバッグの中で、各種携帯が鳴り続けてるんだってさー。想像するとブキミだよね。」
「怖いですね。そんなところに夜1人でいたくないな。」
「いたくないいたくない。マジ冗談じゃないよ。」
「それにしてもののさんは、今さらですけど本当に死んじゃったんですねぇ。」
「ねー。足のとこに落ちてるガムが悲しみを誘うなぁ。」
「誘いますね。で、その直後の新児のシーン。あたりを窺うようにしてこっちをじっと見る。あの表情は相変わらずいいですね。」
「このシーンは靴音が効いてるね。新児はネクタイをこう緩めて、ポケットに両手を入れて歩いてる。影のある男の歩き方だよねー。」
「歩き方ひとつ取ってもそのキャラになりきる。役者はこうでなきゃいけないんですね。」
■編集部・鷹男■
「ここでウケたのはこの女の子…ゆりちゃん? 彼女がさ、誰かを『ひろちゃん!』て呼んでんの。一瞬『ここは腰越人材派遣センターか!』って思った(笑)」
「複雑にトリップしてますね。」
「番外編の方の『Gift』だからねー。んでもこのシーンに再登場する、あの時のちひろの笑顔はつくづく綺麗だね。意味ありげで、思いつめた様子で。」
「結局送ってきたのは写真だけなんですかね。この茶色い封筒で。」
「スケジュール帳はどうしたんだスケジュール帳は! 北鴻巣のアナの中か?」
「気になりますよね。どうでもいいことなんですけど。」
「写真を見た鷹男の視線が、決心というか決意というか…ってコレはおんなじか。要はすごく強い視線になるのが印象的だったなー。」
「表情の芝居。豊川さんにますます影響受けてますねイナガキは。」
「いいことだねうん。表現がすごく丁寧になってると思うよ。」
■路上、新児と藤城■
「このシーンの画(え)って、ベースカラーが赤ですよね。赤っていうかダークレッド。そこに夜の色が合わさって、すごいシックな感じになってますよ。」
「ポスターにしたいくらいだよね。藤城さんのオフホワイトのセーターも合ってるし。…でもセーターの上に何か着ないと寒いぞぉ? 毛糸って保温効果は高いけど、簡単に風を通しちゃうんだから。」
「自転車乗りの意見ですよそれ(笑)」
「かも知んない(笑)」
「あとここのポイントは落葉を踏む音ですか? 晩秋の東京、って感じの音ですね。」
「そうだね。藤城さんは一生懸命話しかけてんのに、一言も応えてやらない新児。これは冷酷なる優しさ、または愛ある拒絶というべきかな。20代のオトコにはね、これが出来ねんだよねー!」
「うーん…確かに新児のように、ここまできっぱりとはできないですね。女の子の悲しそうな顔って、どうしても男は弱いんですよ。」
「…」(←悲しそうな顔をしている)
「でも『この前のところ』っていうのは、新児が最初に彼女を車に乗せたあの通りなんですかね。けっこう都屋に近い…そうか、だから新児は歩いて行けたんですね。―――何をヘンな顔してるんですか。次いきますよ。」
■公園〜病院■
「ののさんに携帯も通じなくて、有季子はひとり寒い中を待ち続けてるんですね。するとそこに携帯が鳴って、出たら相手は鷹男だった。ここで『もしもし、ののさん!?』って言う時、バックでピーッとクラクションが響くんです。これがけっこういいと思いましたね。」
「ふーん。まぁ今回もシーンチェンジには工夫がされてんね。公園から病院の前、さらに病室内。こういう流れるような場面転換は映像ならではのモンだね。小説とかの文章にはできないことなんだよな。」
「ああそうか、きっちり言わなきゃいけないんですね文章だと。」
「うん。で、『確かに似てるわね』と写真と雄一郎を見比べる2人。それにしてもよく入って来られたねこんな時間に。病院てセキュリティ甘いん?」
「んー…比較的甘いんじゃないですか? それにこの病院は緊急治療もやるんですから、夜間出入口があるんですよきっと。」
「なるほど。銀行みたく警備員さんはいないわな。でもって仁美に見つかって、懐中電燈で顔照らされてる鷹男ちゃんたらナイスやん。」
「これ、普通ならもっと怒られるんですよ。でも相手が有季子でしたからね。この間の人違い発言で、仁美はあまり有季子と話したくないでしょう。」
「それで早々におん出される訳だね。しかしこんな時間に廊下で若い男女がコソコソしてたら、通りかかった看護婦さんも声くらいかけろつーに(笑)」
「完全看護でも、付き添いを許すところがあるじゃないですか。双葉会病院もきっとそうなんですよ。」
「そうなの? 何せアタシ入院とかしたことないから判んなくてさ。」
「心臓に毛が生えてますもんね。」
「てやぁっ!」
「痛っ! 何ですか前回自分でそう言ったんじゃないですか!」
「あれそうだっけ?」
「そうですよ。いってぇなぁ…。野蛮人ですよ暴力振るうのは。」
「るせーるせー、体罰も時には必要。そしてここでも鷹男は、やっぱちひろを心配してる。いやーな予感がするのは正解なんだけども、人間てよほどのことがない限り、いきなり『殺された』とは思わないんだね。」
「普通はそうですよ。ごく平凡なOLなんですからちひろは。」
「『とんでもないことに巻き込まれたんじゃないか』っていう鷹男の言葉で有季子は、ののさんのセリフを思い出し再び携帯を鳴らす。いわば『とんでもない繋がり』だね。」
「そこで携帯に出た大沢に、何があったか知らされる、ここでの有季子の呆然自失は、なかなかうまいですね紀香さん。」
「携帯持ってた手を、だらん、と下ろすのがいいね。そのあとのアップもきいてるよ。」
■路上、新児と藤城■
「こういうのを『問わず語り』っていうんでしょうね。新児は何も言ってないのに、『これが最後なんだよね』と言う藤城さんは。」
「うん。こういうとこさ、井上さん巧いなーと思うね。藤城さんはもう、これで終わりだって判っていて、せめて最後に優しい嘘をついてほしいんだけど、新児は決してそれをしない。『またいつか』の『いつか』は、女にしてみりゃ1000年先でもいいんだけどね。」
「ああ、そういう意味でもあるんですねこれは。」
「いや、藤城さんがそう考えたかどうかは知らないけど、最後なんだから嘘をついてくれっていうのは、女独特の発想かも知れないって思ってさ。…あのさー、ヘンな話するけどさ。私ねぇ、昔これで行きずりのオトコにモンク言ったことあるもん。」
「行きずりって、何を不健全な交際してるんですか。」
「昔のことよ昔の。殺人事件ですら時効になるほど昔。でもってソイツ、別れぎわにさぁ。ヒトが『じゃあまた、いつかどこかでね。』ってシャレたこと言ってやってんのに、『そんなつもりじゃないよ。』って言いやがってさ。これに私、ムカッときて。『そんなのコッチだって同じ! あんたに2度と会う気はないけど、こういう時は“またいつかね”って言ってればいいの! よく覚えときなさいバカ!』って怒鳴っちった。」
「バカ、まで言っちゃいましたか(笑)」
「言っちゃったよ。だってさ、せっかくのオトナなストーリーがさ、ラストがそんなじゃ、風情も余韻もブチこわしじゃん。」
「『バカ!』の方がぶち壊しだと思いますけど。」
「アレはとどめの一撃。ヒビが入ったものならね、叩き割った方がすっきりすらァ、てやんでェ。」
「そこで巻き舌にならないで下さいよ。」
「いんや巻き舌けっこう! 赤巻紙黄巻紙青巻紙っ! えーとね、あとこのシーンには、さすがに木村達昭さんだっていうナイスな演出があんだよね。『ここでいい』って言ってひとりで横断歩道を渡っていく藤城を見送る新児の目。彼の背景を流れる車のライトが、白いイルミネーションになってるのが綺麗だったなー。」
「まさにイルミネーションの達人、の名に恥じませんね。」
■川原、事件現場■
「ここは紀香さん熱演だね。まぁ、泣きじゃくるっていうのは演技的には簡単な部類なんだけど、それにしてもぺたんと座りこんで子供みたいに号泣する有季子はよかった。」
「ええ。ここは紀香さんもヒロインの座の奪回に成功してますね。細かな演出もいいと思いますよ。赤いパイロットランプ、小さなビニール袋に入っているガム…。」
「あのガムね。あれ見た時はグッときたね私も。『ほどけるさ』と笑ったののさんの面影が、どうにも優しくてねぇ。」
「死に顔も、けっこういいですよねののさん。」
「あ、いえたかも。あと1つ気になるのが、座りこんじゃった有季子を見る大沢管理官の表情ね。何かこう、一瞬傷ましそうに見えるのは…あれは良心の呵責なのかな。」
「確かに有季子と大沢の関係からすれば、嘲笑いはしないまでも、『これだから女は困ったもんだ』くらいの顔はしそうですよね。」
「仮に『野々村を殺せ』と命令したのが大沢だとすれば、この場面にはチクッときて当然だよね。人間誰しも良心はあるんだから。」
「ロープの外にいる鷹男の表情もけっこうよかったんじゃないですか? くるくる回ってる赤いパイロットランプの光が効いてます。」
「ここでタイトルが入るんだけど、ここまでが11分26秒。タイトル曲が毎週変わってるよね。先週は『OVER THE RAINBOW』だったのに。」
「次は何になるんでしょうね。」
「そういえば『OVER THE RAINBOW』はサントラにも入ってて、聞くところによるとかなりいいらしいよ。」
■警視庁会議室■
「これって査問委員会みたいなモンなのかな。2課の人間である有季子と大沢の前に、いよいよ捜査1課がのりだしてきた、と。」
「ここで室井管理官が座ってたら笑っちゃいますけどね。でも小木さんて『踊る大捜査線』に出てますでしょう。本庁の刑事役で。」
「そうなのそうなの! やってくれるねフジテレビ!って感じ? まぁあたくしゃそれより『おお! スガーリ!』ってなる方が強かったけど。」
「えーとすみません、ここで皆様に1つ補足させて頂きますと、スガーリっていうのは当サイトの『6番楽屋』で連載中の『五重奏曲〜クインテット〜』の登場人物で、ビジュアルは小木さんということになっています。『クインテット』とそれに登場するキャラクターの人間関係は…まぁ話せば長いことになりますから割愛して、ご興味をお持ち下さった方は是非ともですね、この座談会のあと『6番楽屋』の方も、覗いて頂けると幸いです。」
「『クインテット』って一応さ、毎日少しずつ、後ろに書き足す形で更新してるんだよね。でもまぁ純粋にウチだけの企画とは言い切れない点もあるんで、What‘s Newには載せてないんだけども。」
「でも読んで下さってる方、案外多いみたいですよ。」
「ねぇ。そうなんですよぉ。ありがたいことでございます。はっ。」
「で…話を戻しますけど、ここでの有季子はすごく『女刑事!』って感じがしてよかったですね。カッコよかったですよ。捜査1課の強面(こわもて)を相手に、懸命に事件を説明してる。画面を右から左へパンしていくカメラワークも効果的だと思います。」
「うんうん。それと窓の外の明るい光ね。真剣に聞いてるスガーリ…じゃないよ、梅田刑事だっけ? 彼らの雰囲気もすごくいいしね。」
「ここで辞表出すのは相手が違うんじゃないかって指摘もありましたけど、まぁ言われてみれば確かにそうですね。」
「うん。言われて私も気がついた。でもさ、梅田刑事は有季子からあの写真を受け取ってくれて、にっくき大沢を部屋から追い出してくれたじゃん。『この人たちなら信頼しても大丈夫だ』って、この時有季子は思ったんだよ。」
「大沢に席をはずさせたってことは、『この女は捜査に私情をはさんでいる』という大沢の主張じゃなくて、『大沢は都屋とつるんでいる』という有季子の意見の方を汲んだことになりますからね。」
「大沢ってさ、きっと警察内部でもよくない噂の1つや2つあるんじゃない? 組織って案外騙せないんだ。人間、隠したいことから嗅ぎつけられるからね不思議と。」
■都屋の前〜社長室■
「ここでまたまた空を見上げてる鷹男。彼はまだちひろを探してるのかなぁ。」
「探してるっていうか…彼女の行きそうなところを順番に歩いてるんじゃないですか。そうせずにはいられない、みたいな気分なんですよ。」
「うーむいよいよハチ公だねぇ。一方捜査1課のバリバリさんたちは、とっとと新児に会いにいっちゃう。これには新児も身構えるよね。なんつったって相手はプロ中のプロ。いくら最近不祥事続きとはいえ、世界に名だたる日本警察の、しかも本庁捜査1課のお出ましとあってはな。」
「多分あれですよ、梅田刑事…でいいんですか? 彼は新児の顔を見た瞬間、こいつには何かあるなとピンときたんじゃないですか。もちろんあらかじめ有季子から、19年ぶりの帰国は嘘だとか、野々村はこの男に関する『とんでもないこと』をつきとめて殺されたとかいう話は聞いてる訳ですけど。」
「ここのさ、いつも真面目に勤めて『くれていた』っていう語尾に梅田刑事が反応するとこ。これって古畑にもあったよね。陣内さんが二本松っていう数学者の役で出たスペシャル。古畑を部屋に呼んで雑談しながら『あいつは負けず嫌いだったから』ってペラッと言っちゃってシッポつかまれるの…。」
「よくそんなの覚えてますね。」
「ねー。自分でもそう思うよ。普段会社ではさ、電話かけてきた相手の名前なんてすぐに忘れちゃうのにね。…あっそーだ、全然関係ない話、思い出したからしちゃうけど。会社でさー、プログラム作っててさ、画面にカタカタとVB打ち込んでる時に電話が鳴ってね。」
「VB…ビジュアル・ベーシックですね。はい。」
「たまたま手あいてる人がいなくて私が出てさ。相手は会社名と名前を言うじゃんよ。」
「ええ。」
「そんとき手元にメモ用紙がなくてね。しょうがないんで目の前のキーボードでタイプしたのよ。後で書き写したら消せばいいやん。んで、伝言とかも全部ちゃちゃーっとタイプして、『判りました、では○○が席に戻りましたら折り返しお電話するよう伝えます。』つって電話切って、で、メモ用紙を出して書き写そうと思ったら、なんとキーボードがローマ字モードになってて! それをあたしゃカナモードだと信じて打ってたもんだから、何が何だか判んないんさぁ!」
「(笑)」
「『しまった!』とか思ったけど幸いなことに、相手の電話番号はテンキーで打ってたんだ。だからそこだけすごくよく判った(笑)」
「よかったじゃないですか。相手の電話番号さえ聞き漏らしてなきゃ何とかなりますよ。」
「ほんとほんと。『念のために』つって相手の番号聞くのは、つくづく重要なことだと痛感したよ。」
「なるほど。それは笑えますね。」
「…んで、話戻すよ。」
「ええ、そうして下さい。」
「このシーンのポイントはさ、新児の手の動揺だね。顔や声は落ち着いてるんだけども、手の動きがいつもと違う。それをまたこの刑事がチラッチラッと見るもんだから。」
「たまらないでしょうね新児は。目が動揺しないだけでも大したもんだと思いますけど。」
「普通は汗くらいかくよね。さすがキモが座ってるつーか。で、梅田は『写真のことを知ってるか』とカマかけといて、すぐに部屋を出ていっちゃう。残された新児は逆光の中に立って、嫌な予感をかみしめる…。この逆光はシンボリックだよね。迫り来る運命の急転直下の暗示。」
「イルミネーションだけじゃなく、光の扱い全体がうまいですよね木村達昭さんは。」
■病室■
「フラッシュをまぶしそうにする雄一郎。ずいぶんと回復したんだね。」
「仁美の看護のおかげですよ。彼女に笑いかける雄一郎の顔は子供みたいじゃないですか。」
「ほんと。これじゃ面倒見てやろうって気にもなるよね。でもってここでさ、仁美は雄一郎のベッドの角度をそっと元に戻してやるけど、ゆっくりと横たわる雄一郎はまるで、光の中に沈んでいくみたいに見えるんだよね。」
「拡大解釈かも知れませんけど、これとさっきの逆光の中に立っていた新児って、何だか運命の対比がされてるみたいで興味深いですね。」
「うん。光という表現を使った、2人の運命の対比ね。そうだとしたら面白いね。」
■河原、有季子と鷹男■
「ここで何が気になったって、このちっちゃな羽虫(笑)河原だからしょうがないけど、撮影には邪魔だったろうね。」
「ああ、飛んでましたね。そんなに早い時期の撮影でもないんだろうけど、この日はたまたまあったかかったのかな。」
「虫のことまで気にするこの座談会(笑)んで、でもってここでの2人…有季子と鷹男はさ、男と女の関係から完全に1歩遠ざかったって感じするね。」
「そうですね。『別れる』とかとは全然違いますけど。」
「とりあえずパートナー解消、って感じ? でも鷹男の、『一緒にめくろうぜ』って左手の動作は好きだな。そういや吾郎は左ききだっけ。」
「強くなりましたね有季子は。いや強くなった、とは違うのかな。鷹男にうなずき返して歩き出しながら、ガムを口に入れて泣きそうになってますから。」
「うーん…強くなったっていうか、覚悟決まったってとこじゃないかな。まぁ、要は強くなったのか。強くなるっていうのはイコール泣かないこと、とばかりも言えないからね。泣けない人間の方が本当は弱いのかも知れない。そのいい例がスカーレット・オハラよ。」
「ずいぶん飛躍しましたね。スカーレットですか、『風とともに去りぬ』の。」
「彼女よりメラニーのが絶対強いよ。スカーレットは弱いからこそ、あんなに肩肘張ってるんだもん。だからここで涙を流せる有季子は、むしろ前より強くなってるのかもね。」
「…女性の心理は複雑ですねぇ。」
■地下駐車場、大沢と松宮■
「この2人は言ってみればキツネとタヌキの密談、て感じですね。」
「いいこと言うなー八重垣。見た目もそんな雰囲気だよね。野々村を殺したのは誰なんだ、って松宮が聞いたあと、ボッ、とともるライターの火ね。これが実に意味深だと思うよー。やっぱ下手人は大沢に命じられた的場だべ。」
「捜査1課のメンバーが『犯人はプロだ』って言ってますからね。少なくとも秘書の結城じゃあない。」
「やっぱののさん殺しも、新児のせいにされていくのかぁ。経理部長の自殺については松宮も不審に思ってたんだね。」
「前回ここで、ひょっとして新児は雄一郎の罪も全てかぶって破滅するんじゃ、って予想しましたよね。でも予告によれば雄一郎は意識も記憶もすっかり取り戻して、新児を糾弾しようとするみたいですから、となるとこの予想はハズレですよね。」
「そういうことだね。でもそうすると今度は雄一郎が、経理部長殺しの犯人てことになるよ。…じゃあさ八重垣、こんなラストはどうよ。この2人はともに殺人犯として刑務所へ送られ、そこで『魚ちゃん雄ちゃん』のブルース・ブラザースを結成する。」
「またいきなりコメディにしてどうするんですか(笑)」
「ダメかなぁ。面白いと思うんだけど。」
■ホテルのロビー・有季子■
「ここのシーンチェンジにもひと工夫されてるね。地下駐車場での松宮のセリフが終わらないうち、映像だけ先に切り替わってる。」
「で、有季子が調べているのは経理部長が泊まっていたホテル。この場面転換はうまいですね。」
「有季子はさ、『殺されたミヤベさん』とかって言ってなかった? ミヤベさんってマネージャー軍団の一員やん。ミッチーの配下でチーフ・フクシマの同僚。彼から取ってたら笑えるね。」
「いや、それは違うんじゃないですか?」
「まぁ違うと思うけどさ。ここでチラッと映ってた部長の遺書、手書きじゃなくてタイプ文字だったでしょ。これはクサいわな〜。普通遺書までワープロで打つか?」
「若い人ならいざしらず、部長さんですからねぇ…。」
「これも古畑ネタだけど、草刈正男さんが犯人役やった回にやっぱそんなのがあったよね。被害者役が藤村俊二さんで、遺書のサインだけ手書きだったって奴。『赤か、青か』の1週前のオンエアだよ確か。」
「ええ、ありましたありました。サインした時に停電しちゃうんですよね。」
「そうそう。まぁあの被害者は作家だから特殊だけども、タイプ打ちの遺書なんてアテにならんでしょお。」
「有季子が見せた雄一郎の写真を見て、フロントマンは『この男だ』って言ったんでしょうかね。」
「どうだろうねー。言ったんじゃないかなぁ多分。」
■社長室、新児と鷹男■
「直接対決パート3。と同時に、今回の名場面がここだね。崩れおちる新児、悪魔の自嘲。」
「迫力ありましたね豊川さん。舞台劇に匹敵するんじゃないですか。」
「吾郎ももちろんよかったけどね。はずしたサングラスの扱いがさ、きっちり芝居してるって感じした。豊川さんと立派にタイマン張ってたよね。」
「そうですね。最初の対決の時よりも、鷹男はずっと迫力増してましたよ。」
「あとここでよかったのはさ、鷹男の言葉の切れ目切れ目でアップになる新児の表情ね。『おとといの夜9時』って聞いた時。『それが郵送されてきて彼女はいなくなった』って聞いた時。『その人、名前がないんですよ』、『身元不明です』、『そのうち名前も判ると思いますが』、…で、最後に『双葉会病院に入院してる』と聞いて、頭がコツンと後ろのガラスに当たる。この一連のかすかな表情の変化がさ、新児の衝撃を表してたよねー。空調らしき無機質なうなり音がずっと聞こえてるのもよかった。」
「でも1つひっかかるのは、鷹男はここでも、また有季子にも、『写真を見せてもらうために9時にちひろと約束した』って言ってますけど、これって正確には違いますよね。あの喫茶店でちひろは、鷹男に写真は見せている。もちろんすぐに『もういいでしょ』って取り上げちゃってますけど。」
「そうそう。9時の約束は写真を見せることじゃなくて、その写真に写ってる男が誰なのかを教えてくれることなんだけどね。それに絡んでもう1つ『?』なのは、なんでもうすでに1回見せた写真を、ちひろはわざわざ鷹男に郵送してきたのかってこと。まだ見せてなかったなら送ってくるのも判るんだけど。」
「うん…。ここはちょっと『あれ?』ですよね。」
「まぁ小さいことだから別にいいけど、忘れても。」
「ええ。それより鷹男が帰ったあとの新児の姿。こっちが重要ですからね今回は。」
「鷹男にあの写真を見せられて、しかも表情を凝視されてるのに、新児は平静を保つじゃない。だけどあれがもうギリギリの、コントロールの限界だったんだろうね。まさに崖っぷち。指でつついたら崩れる、ってとこまでいってた。それが一気に崩れたのが、あの床にうずくまった姿ね。」
「窓から光がさしこんでるじゃないですか。白い、神々しいといってもいい光が。その中で頭を抱えて床に伏せる新児の、哄笑が嗚咽に変わりますよね。何ていうか…天使の前の悪魔というか、神の光に打たれた堕天使みたいに見えました。」
「伏しまろんだみじめな姿、だよねぇ。颯爽たるスーツがかえって痛々しい。この『痛々しさ』を感じさせるのが豊川さんのすごさだと思うよ。下手すりゃ大仰で、滑稽な芝居になっちゃうもん。」
「そうですね。鬼気迫るって感じから、ちっぽけな人間の愚かさと悲しさにまで行き着くんですよね、新児を見てると。」
「はー。『千年旅人』いつ行こうかなー。多分年内は無理だなー。年明けの中旬くらいに。」
「2000年になって初めて見る映画が豊川さん主演ってことになって、いいじゃないですか。」
「そうだね。するってェと何よ、1900年代に見た最後の映画が…『メッセンジャー』か? はっはっはっ、それってすげーかも!」
■町なか、有季子と的場■
「有季子に詰め寄られて迷惑そうな的場は、これもやっぱ大沢と同じく良心の呵責なのかな。」
「そうなんじゃないですか? 的場も上に命令されて仕方なく、かつて世話になったののさんを殺したんでしょうから、良心はヒリヒリしてると思いますよ。」
「組織の命令かぁ。何なんだろうね組織って。1人では生きられない人間てものの弱さなのかな。それに対して組織を飛び出した有季子は、もう恥も外聞もなく突き進んでいくんだね。」
「『お願いします!』が真に迫ってますよね。周りの人間が思わず注目するくらいに。」
「ここまでやれば住宅も売れるぞ有季子(笑)ウチの会社で営業やってくんないかしらん(笑)」
■社長室〜都屋の前■
「そして新児は、とうとう都屋を去るんですね。捜査1課の刑事と、生きていた雄一郎。さすがにヤバいと思ったんでしょう。」
「でもさ、これで本物の雄一郎が怒鳴りこんでくる日までこの席に座って、『やあ、お帰り都築。このゲームは俺の勝ちだったな。』とか言ってほしかったってのもあるけど。」
「確かにゲームとしては新児の圧勝ですからね。誰ひとり偽物だなんて思わなかったんですから。見破った綾子も即座に黙らされちゃった訳ですし。」
「でも150万円もらって刑務所じゃ割に会わないね。ちひろ殺しは…どうなんだろ。死刑になるのかなぁ。」
「どうでしょうね。最近の刑法では、死刑は滅多に適用になりませんからね。でも無期は間違いないでしょう。殺人と死体遺棄ですから」
「多分模範囚だよね新児って。国府の上を行くと思うな。」
「そういえば国府は今頃どうしてるんでしょうね。」
「そうねぇ…。輝一郎を刺したのはただの傷害だし、アナに埋めかけた直季のケガはとっくに治ってるし、今度はすぐに出所して春絵と仲良く暮らしてるよきっと。いや国府はどうでもいい、新児だよ新児。回転ドアから姿を現した彼のもとに走り寄ってくる車。このお抱え運転手さんは、もうもう社長に心酔しきってるんだねー。」
「初めて乗せた時に『運転手さんも僕も同じ人間じゃないですか』って言われてますからね。」
「昔気質の律義なおじさん、て感じだよね。まさに『殿にお仕えする従者』みたいな。」
「藤城さんと同じ、新児のいい面を知っている生き証人てことでしょうか。」
「だろうね。あとさあとさ、社長室の机に名刺と携帯と社員証を置いて部屋を出ていく新児の姿が、磨きたてられた机の表面に映るやん。この演出はベリグだと思うよー。」
「直接映さないのがよかったですね。部屋の中をしずかに見回す、新児の表情もよかったです。」
■車の中・有季子と的場〜路上・新児〜宝陵高校図書室・有季子■
「的場はここで『車の窓越しだったからハッキリ聞き取れなかった』とか言ってますけど、ということはののさんがファイル調べてる時、車のすぐ近くにいたってことですか。」
「そうじゃないの? 調べてるののさんの邪魔にならないように車を下りてたんだよきっと。だからつまり殺すチャンスは十分あったってことで。」
「同級生、か。キーワードだと思って飛んでいっちゃうんですね有季子は。ののさんが気づいたのは同級生どころか同一人物だってことなのに。」
「次のシーンのさ、車運転してる新児ね。ウィンカーレバーを指でちょいって上げるのが、これまったかっけーよなー! ハンドルの回し方からして美しい。ホントにもー陶酔しちゃうね全く。」
「手フェチでしたっけ智子さんて。」
「うん。でも多いよ手フェチって。イケてるところでは中居さんの手がさ、カオのわりにゴツくてでけーんだ。拓哉も吾郎もつよぽんも、みんな手は綺麗っていうか、男っぽくて素敵だよね。」
「あれ? あと1人は?」
「……この部屋って図書室だよね、宝陵高校の。有季子はもう警察手帳は持ってないはずだけど、名簿って最近管理うるさいんだよ? あっちこっちの業者がセールスに使うから。」
「確かに最近はそうですね。でもコピーは取らない、ここで見るだけだって言えば、それでも駄目とは言わないんじゃないですか?」
「持ち出しは禁止なんだろうね。でも目指す相手が『ウオズミ・シンジ』でよかったよ。あ行だから最初の方にあんじゃん。」
「石川栄治の次でしたね。」
「これがさ、フカザワとかミヤモトとか、中途半端に後ろの方だと探すのが面倒臭いんだ! いっそワタナベとかワタヌキとかならね、後ろから見りゃすぐなんだけど。」
「確かに言えてますね。でもここで最後に見せる有季子の決心の表情は、キリッとしてて綺麗でしたね。」
■都屋スーパーの前、新児■
「このシーンはひなつ様も言ってたけど、悲しいよねぇ。新児ってレッキとした殺人犯なんだけど、ここでの彼はただ悲しい。夢破れたって雰囲気で。」
「何だかんだ言って新児は、男としてつかのまの夢を見ていたでしょうからね。企業のトップとして部下を従え、地域の人たちに喜んでもらえる素晴らしい店を作っていく…。」
「経営ってさ、ある意味ゲームだもんね。生身の人間と本物の金を使ったゲーム。あたしさ、ちょっと思ったんだけど、最近の学生とか若いサラリーマンが、かつてのような出世競争とか、『オレは社長になってやる!』みたいな情熱を持たないのはさ、そのあたりをバーチャルで満たせる世の中だからじゃないのかな。経営とは人生最高のスリリングなゲーム。ゆえにこそ家族も放って夢中になれるんだけど、今は同じような気分をさ、TVやプレステを通して、居ながらに味わえちゃうんだよねー。その分現実の方が色あせたっていう面、ひょっとしたらあるんじゃないかしらん。」
「うん…。ありえますね。面白い考察かも知れませんよそれ。」
「バーチャルのよさは『手軽さ』だもんね。現実の経営ゲームでは決して無視できない、失敗及び転落、失業というリスクもないし、うざったい人間関係の枷もない。…でも新児は、現実世界の中でゲームに手を染め、成功の夢を見た。都屋というスーパーはいい店だと彼自身が思っていたから、自分の手で大きくしてやろうと思った。そことももう別れなきゃならない…。これは純粋に寂しいと思うよ。」
「駅前の再開発も、夢のまた夢になっちゃいましたしね。」
「そういうのをひっくるめて、本当にこのシーンは『哀れ』に尽きるね。シートベルト締めてアクセルを踏んで、新児はこれからどこに行くんだろ。」
■編集部■
「この建物が香港だっていうの、八重垣くんすぐに判った?」
「すぐに、っていうか…。この写真を画面で見た一番最初から、『ああこれは香港で撮った、本物の都築雄一郎の写真だな』って僕らには判っちゃったじゃないですか。だからこの写真自体が、もうタネは明かされてる気分なんで、全然注意して見てなかったですね。」
「ああそっか。だから気になんなかったんだね。いやさ、ひなつ様がさ、こんな有名な観光スポット、見るなり香港だって判りそうなもんだとおっしゃるんだけどもね。1度でも香港に行ったことのある人間ならすぐに判るって。つまり日本でいえば東京タワーみたいなもんなのかしらん。」
「でも、鷹男は香港なんて行ったことないんじゃないですか? フリーライターにそんなお金はないでしょう。」
「やっぱそうか。実は私も海外って行ったことないもん。そもそも本州を出たのが、九州と四国と江の島しかないしな。」
「だから江の島は陸続きですって。本州の一部ですよ。」
「江の島エスカーってまだあんの?」
「さぁ…。あっち方面は僕あんまり行かないんですよ。海水浴だったら沖縄とか、セイシェルとか行っちゃいますからね。」
「くわー! 金持ちはいいねーっ! ひなつと仲良くしてなさいよアンタ。どぉせあたしはプアーな民衆。せいぜい熱海がいいとこだ!」
■病室、雄一郎■
「雄一郎のこの回復の早さは、こないだ耳にした有季子と仁美の会話が原因なのかね。『ワイン』の次の言葉は『魚住』。頭の中には新児のイメージもフラッシュバックしてるみたいじゃん。」
「記憶って、何かのきっかけでドミノ倒しみたいに思い出しますからね。」
「うんうん、連鎖反応なんだよね。1つ思い出すとばーっと関連事項が甦ってくる。」
「やっぱりネットワーク型なんですよ、人間の脳って。」
「そうなんだろうね。こういう時は理屈抜きで納得できるよ。」
■ホテル、新児と有季子■
「新児がしゃがみこんでるの、どこだコレとか思ったらエレベータの中だったのね。豪華なスイートルームから、紙袋ひとつ下げて出ていく新児。サインする前にちょっと考えたのは、どんなサインだったか思い出してるんだろうね。」
「まさに『凋落』って言葉がふさわしいですね。」
「凋落、かぁ。悲しい響きだね。その新児とちょうど入れ違いに、このタイミングのよさは『君の名は』か!って感じでやってくる有季子。チェックアウトした人間がどこに行ったかなんて、フロントに聞いても判らんと思うけど。」
「まぁそうですよね。ホテルは家じゃありませんから。でも『追いかけ続けて下さい』と言っていた新児を思い出して、有季子は彼を追っていく。このあとはもしかして全ての人間が、新児を追うことになるんでしょうか。」
「警察も、都屋も、そして有季子もね。追いつめた最後に何が待っているのか…。マジでいよいよクライマックスか。」
■病院の前〜編集部■
「『お疲れ様』と仁美が出てきたところで新児は車を下りるじゃない。戻る場所を失った新児は、まさか復縁を迫るんじゃ!と思ったらトンでもなかったね。そんなプライドのない男じゃないか、新児は。」
「仁美を待っていたんじゃなくて、彼女がいなくなるのを確かめて、中に入っていく訳ですよね。」
「女性の作る男性キャラってさ、わりとプライド高いタイプが多いんだよね。私はそう思うな。ここで仁美に未練たらしくしないのが、新児の主役たる所以だと思う。ズルズルとヒモみたいな真似は絶対にできない、潔い男。」
「そういえば『潔い』って言葉は、英語に直訳できないんですってね。日本人に特有の感覚だって何かで読んだ気がしますけど。」
「うんうん知ってる知ってる。勇敢とも違うし爽やかとも違う。もうちょっと思いつめた、腹をくくったような悲愴感のある言葉だよね。多分アレだよ、散りゆく桜の美しさに通じるものがあるのかも知れない。」
「ああ、つまりそこが日本的なんですねきっと。」
「日本的といえば次のシーン、海外旅行のガイドブックを調べてる鷹男とゆりちゃん。さも大陸っぽいこの建物は…何なの、『レパルス・ベイ』つぅの? ベイつうからには湾だよね。そんなに有名なん? 行ったことある? 八重垣。」
「ええ、まぁ、一応。」
「香港かぁ。そんなに遠くないんだけどねー。でもあたしは香港より知床に行きたい。カムイワッカの滝が見たいぞ。」
「それはもう何度も聞きましたってば。いつか行けるといいですね。」
「おお。ひなつ様がどこぞに嫁いでしまう前にな。まぁソレは当分ないとして、ここでの鷹男の目の動きはなかなかいいぞ。『待てよ、香港って…』とつぶやいて、最後にキッと横を見るの。言葉がなくても『もしかして!』って気持ちが判る。この写真に写ってる男が本物の都築雄一郎だとすると、全ての辻褄が合うんだよね。」
「見事、鷹男が最初に気づきましたね。」
■病院・新児■
「これさ、実際にもこういう身元不明の人が入院してる時って、病室のネームプレートは空白なのかな。」
「さぁ…どうなんでしょうね。滅多にあることじゃないでしょうから。」
「警察病院とかならね、あるのかも知れないけどね。でも名札が空白じゃあ、空室と区別がつかなくない? 実は双葉会病院も、昨今の不景気で個室の入院患者は減ってて、だから新児はさ、雄一郎のいる部屋にたどり着く前に、もぉあっちのドアあけて空室、こっちのドアあけて空室…。それでへとへとになっちゃってたら笑えるね。」
「笑えますけど…。駄目ですってばコメディにしちゃあ。」
「いやねぇ、豊川さんがコメディやったらどんなになるかなーと思ってさ。欽ちゃんと組んだ前川清さんの、あのイメージの落差に世間がびっくりしたみたいにさ、突如豊川さんがスマスマでPちゃんのパパの友達、とかやったら日本列島が裏返しになるんじゃないかと。」
「豊川さんがPちゃんにゲスト出演! すごいですよそれって。」
「だってスマスマにはさ、今までに意外なゲストが何人も登場してるんだから。残る大物はこの2人。豊川さんか、それとも正和様か!」
「ビストロに田村さん来店とかって…もう少し頑張ればありそうな気もしますけどね。」
「松本幸四郎さんだって出てくれたんだからねー。第一エッグポーカーには、演劇界の大物がズラリだよ。」
「仲代達矢さんに北大路欣也さん、西田敏行さんに中村橋之助さんも来ましたもんね。」
「あとねー、トリビュートにユーミンが来たらすごい。TVに出ない最後の大物ミュージシャンつったら彼女なんだもん。」
「すごいでしょうね。ビストロに田村さん、エッグポーカーに豊川さん、トリビュートにユーミンが出演なんて。」
「ちゃうつーに、豊川さんはPちゃんだつーに。あ、じゃなきゃさ、『ジ・アクター・コロシアム』はどう!」
「いやそれは駄目でしょう、切れちゃいますよ豊川さん。」
「言えたぁ。つよぽんがトチるたんびにさ、どんどん寡黙になっていく豊川さん(笑)ほいでしまいに中居さんあたりが『おめ、いい加減にしないと豊川さん帰っちゃうぞ!?』とか怒っといて、んで次に、たった1行しかないセリフで中居さんが間違える(笑)」
「いつものパターンですねそれ(笑)でも実現したらすごいだろうな。」
「ねー。吾郎に頑張って勧誘してもらわないと。…えーとそれで、何だっけ、今回のラストシーン。」
「ここのポイントはやっぱり、新児の手のアップなんじゃないですか。生きていた雄一郎の穏やかな寝顔を見おろして、ゆっくりと握りしめられる手。できればもう1度絞め殺してやりたいと思ったかどうか…。」
「予告を見た限りじゃさ、意識を取り戻すや否や雄一郎ったら、ずいぶんとヤな奴やん(笑)仁美に向けてた子供みたいな顔はどこに行ったんだって感じで。」
「でも雄一郎にしても、この先すんなりと都屋の社長におさまるとは思えませんけど。ストーリー上もう1つ、何かひねりがあるような気がします。」
「言えたね。ドンデン返しとまでは行かなくても、何かもう1発欲しいよね。」
「ここまでの出来から考えて、期待していいんじゃないですか?」
「そうだね。『あら?』と空振り、ってことはないだろうと思ってる。だけどこの物語が終わったら、ほしたら今年も終わりかぁ…。3か月なんて短い短い。」
「同感ですね。―――はい、という訳で『危険な関係・座談会』第9回、そろそろまとめたいと思います。年末年始の特番前の次回第10回は、おそらくストーリー的に最大の山場だと思いますので、しっかりチェックするつもりです、はい。」
「という訳で来週までご機嫌よー! パーソナリティーは私、木村智子と、」
「え、最後の順番まで逆にするんですか? えーと…2000年対応の最後の詰めでフーフー言ってる八重垣悟でした。ピース。」
「ラストが平凡〜。もうちょっと気のきいたこと言えないのかねキミは。」
「すいません(笑)次回は頑張ります。」
座談会第10回に続く
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