『危険な関係』 座談会

 
【 第10回 (99.12.16放映分) 】
 
「はい、えー皆様お元気でしたでしょうか八重垣悟です。本日23日は天皇誕生日、そしていよいよ『危険な関係』の最終回オンエアの日なんですけれども、この座談会はきっかり1週間の間をおいていますので、今回が第10回。最終回については29日以降のUPということになります。はい。」
「いやーとうとう最終回の日になっちゃったねぇ。今クールのドラマは実に佳作ぞろいで、中でも我らが豊川さんは『ザ・テレビジョン』の『ドラマアカデミー賞』で、読者票、審査員票、TV記者票のそれぞれで1位を獲得して、堂々の最優秀主演男優賞に選ばれたというめでたいことになってまして。」
「納得の受賞ですよね。最優秀作品賞も『危険な関係』が取ってますし、何だか光栄な気分になっちゃいますよね。」
「うちらが光栄がったってしょうがないんだけどね。何にしても目出てぇ目出てぇ。そうやってハズミのついたところで、第10回の座談会を早速始めようじゃありゃんせんか。」
「そうですね。例によって前回のおさらいは省略して―――」
「おっと、ちょっと待った。省略できないシーンが1つある。自殺したフクシマ…じゃないよミヤベさんだよ(笑)その息子役ってあれジュニアの子なんだって? 前回はなかったよねあのシーン。」
「ありませんでしたね。ジュニアなんですかあの子。どうりでなかなかの美少年だと思いました。」
「今さ、J系以外の美少年キャラったら、藤原竜也くんと加藤晴彦くん? せいぜいがそんなところでしょお。」
「つまり日本中の美少年が集まってるんですねあの事務所には。」
「考えてみるとすごいことだよねー。」
 
■病室〜廊下〜ナースステーション〜廊下〜病院の前■
「これさ、思うんだけどさぁ。枕元に明かりのついたこんなベッドで寝られるのかね。まぶしくない? あたしゃダメなんだよなぁ。ちょっとでも明るいと寝つけない。どっか旅行行く時はアイマスク離せないし。」
「ああ、明日香に行った時も持ってきてましたね智子さん。」
「スマスマのエンディングトークで吾郎は、寝るとき部屋にスモールライトつけてるって言ってたけど、その点アンタはどうなの。」
「僕はどっちでも平気です。暗くても、薄明るくても。」
「ふーん。便利だね。…でもって新児はここで、丸椅子を引き寄せてベッドの脇に座り、『魚住新児は俺が殺した』と独白。そこへやってきた看護婦が、新児を見て驚いて出ていっちゃう。最初はなんでこんなに驚いたんだろうと思ったけど、枕元の明かりだけで部屋の中は暗かったんだろうね。巡回中に話し声がしたんでドアをあけて、懐中電燈を向けて初めて、誰か男がいると判った…。」
「それで驚いたんですね。で、彼女が出ていったあと新児は溜息をついて顔を両手で覆う。ここにも絶望感がよく現れてますよね。」
「廊下に出た新児の前に、今度は別の人影が立ちはだかる。…それにしてもつくづく出入り自由な病院だねぇ。まぁ病院に泥棒が入ったって話はあんまり聞かないけど。」
「聞きませんね。銀行や宝石店と違って、金目のものがある訳じゃありませんからね。X線やレーザーの装置は億単位する機械ですけど、そんなの…ねぇ。盗んだってさばけませんよ。第一重くて運べない。」
「言えたね。で、やってきた有季子は『こんな時間にここで何してるんだ』って新児を問い詰める訳だけど、テーマ曲がさ、歌詞入りでこんなに大きく流れたのって初めてじゃない?」
「初めてです。今まではエンドロールでしか、ちゃんと流れなかった曲ですから。」
「病院の外へ出て車のドアをあけて『どうぞ』って言う新児。この姿はサマになってるねぇ。さすがはプロのドライバーだ。」
「このあたりの雰囲気で、有季子は思い出しそうなもんですけどね。あの『出口がないなぁ…』の時のこと。」
「うんうんあたしもそう思った。こりゃ有季子はいよいよ思い出すのかなって。」
「有季子が後部座席に着いたところで新児はドアを閉めますね。で、その顔がガラスに映りますでしょう。一方、車の中には新児を見上げている有季子がいて、2人の顔がガラスの上で重なる…。このあたりは実に中江さんらしい凝った映像表現ですね。」
「そっか、今回の演出はやっぱ中江さんなんだっけ。いよいよメインのご登場か。今回と最終回がどんな盛りつけになるのか楽しみだね。」
 
■編集部■
「あたしゃーてっきり先週のうちに、この写真の男=本物の都築雄一郎だ、って鷹男は気づいたと思ってたけど、違ったみたいだね。はっきり気づいたのは今回だったか。」
「でも前回のあの目の表情は、確かに『判った』感じでしたよ。」
「だよねー。やっぱそうだよねぇ。まぁ演出家が変わってるからな。多少はカブる点が出ちゃうのかも知れない。」
「あんまりいいことじゃありませんけどね。」
「ま、こういう座談会でもやってなけりゃ、そんな細かいとこまでは気づかないと思うけどね。」
 
■車の中・新児と有季子〜編集部・鷹男■
「ここのさぁ、車の中の2人ね。座ってる位置関係がまさにあん時と同じなんだよね。」
「『出口がないなぁ』の時と?」
「そうそう。だからもうこりゃ間違いなく有季子は思い出すなと思ったら、どうもそうじゃないらしいね。」
「エンジンのアイドリング音が効果的ですね。こんな風に気になる相手と車の中にいる時って、案外耳につく音なんですよね。」
「なるなるなる。低くて単調な連続音ね。何かを仕掛けられてるような、奇妙な気分になるんだコレが。そうだそうだ、ここではひなつ様から1点問題提起されててね、2人が乗ってるこのクルマは青ナンバーでしょ。でもさ、『青ナンバーっていうのはタクシーとか営業車のイメージだけど?』つうんだがね。」
「品川33あ98ー47ですよね。」
「よく見てるねあんたも。」
「多分、会社所有の営業車ってことで登録してあるんじゃないですか? このあたりの手配はスタッフもまさか手落ちはないでしょうから。」
「だろうけどね。車を持たない人間としては全然頓着しないで見てた。んで、彼らの車が走り去ったあと、間一髪って感じでパトカーが病院にかけつける。」
「この”間一髪”ってあたりは、さもドラマドラマしてますね。」
「緊迫感を高めなきゃなんないからねー。で、有季子に電話した鷹男は、彼女の『今そのカードを手にしてる』の一言にピンときて部屋を走り出ていく…。ここのさ、エレベータのボタン押すとこと乗りこむとこ、リアルで好き好き。こうやって2基並んでるヤツってさ、次にどっちが来るか判んなくてホールをウロウロしちゃうんだよね。」
「ボタンを1箇所押せば全部に通じる奴と、1つずつ押さないと駄目なタイプとありますからね。待ってても来ないんでそこを離れて、隣のボタンを押したとたんにあっちがチン…とか(笑)で、慌てて行ったらそれが満員で、そんなことしてるうちにあっちも行っちゃって、結局1本乗り遅れる(笑)」
「あはっ、あるある! でさ、乗ってる方も、あの横向き三角形のボタンがさ、慌てるとどっちが”開”だったか判んなくなって、んで、明らかに乗りたがってる奴に対して”開”を押してやったつもりが、間違えて目の前で意地悪く閉じちゃったりもするんだ(笑)」
「無事に乗れてよかったですね鷹男は。」
 
■ナースステーション〜病室〜廊下■
「この若い看護婦はさぁ、いつかチラッと見た新児が仁美の前のダンナだって気づいてなかったのかぁ。なーんだぁ。婦長がリコンしたことは知ってる訳だから、何となく判りそうなモンだがな。」
「そこまでカンのいい子じゃないんじゃないですか?」
「でも『患者さんやその家族じゃないと思う』とは言ってるんだからさ。それともアレかな。仁美の元のダンナさんていうのがあんなにカッコいいとは思ってなかったのかも。だとしたら怒っていいぞ仁美(笑)」
「意外なカップル、っていますからね。『なんでこんな奴にこんな可愛い奥さんが…』って思ったこと、僕も何度かありますよ。まぁ新児と仁美はね、すごくお似合いだと思いますけど。」
「ここで的場は何か考える目つきになって、雄一郎の病室に行ってみるじゃない。これはやっぱ、ののさんを殺したことで的場は雄一郎の動向が人一倍気になるのかな。何せののさんが調べてたのは、この男のことなんだから。」
「かも知れませんね。そうしたら案の定ベッドはもぬけのからで、雄一郎は手すりにすがりながら裸足で廊下を歩いている。」
「撮り方によるんだと思うけど、雄一郎の足首がすっかりやつれちゃってるのがいいね。痛々しいわ。」
 
■車の中、新児と有季子■
「このトンネルってまさかあの、『出口がないなぁ』のトンネルなんでしょうか。」
「うーん…双葉会病院ってどこにあるんだろうね。でもまぁ視聴者に対してはこれ、第1回のあのトンネルを思い出させる効果を狙ってると思うよ。」
「そうですよね。いよいよあの時の伏線が生きてきますよ、って感じか。」
「タイヤのアップとかセンターラインとか、制限速度の50って数字とか、そういうのがすごく効いてる。BGMが高まってメインテーマとタイトル…ここまでで10分39秒。」
「イントロが長いのがこのドラマの特徴でしょうね。」
「そうだね。『氷の世界』は何があってもまずイントロだったけど。」
 
■川原■
「このシーンにさぁ、こんなに時間割く必要があったのかなぁってちょっと疑問。だってさ、有季子が何を力説したって全部的外れなのを視聴者はとっくに知ってんじゃん。ハイハイ判りましたよって感じでさぁ。私なんか有季子の話を聞く代わりに、豊川さんの、シニカルな無表情の中にうっすらと微苦笑の気配を漂わせてる表現に感心するばかりだったね。」
「はっきりとは笑ってないんですけどね新児は。でも笑いの”気配”が伝わってくるんですよ。演技でここまで出来るなんて、もう感心を通り越して驚異に近いです。…でもですね、僕はこのシーンには重要な意味があるんじゃないかと思うんですけど。」
「え? そう? 例えばどんな?」
「つまりここで有季子に聞かされる話のほとんどは、新児にとっては初耳ですよね。ミヤベさんの自殺も、野々村刑事の殺害事件も。新児はここで2つのことを知らされるんですよ。本物の都築雄一郎はもしかしたら殺人犯かも知れないこと。もう1つは、刑事を殺して自分に罪を着せようとしている人間がいるらしいこと…。これは今後の新児の行動に、大きな影響を与えるんじゃないですか?」
「あー、なるほどねー。そう言われてみりゃそうだなー。特に雄一郎が殺人犯かも知れないっていうのは大きい。雄一郎にとってみれば圧倒的な弱みだもんね。」
「もしかしたら新児はそれを、この先雄一郎との駆け引きに使うつもりかも知れませんよ。」
「アタマのいい男だからねぇ。となると有季子は結果的に、新児に有利な情報を流してやったことになるのか。」
「そう。このシーンにはそういう意味があるんですよ。それでなきゃ視聴者にとって判りきった話を、こんなに長々とやらないでしょう。紀香さん長ゼリフで大変でしたよきっと。」
「それで思い出したんだけどさ、紀香さんて申し訳ないけどちょっとカツゼツ悪いよね。ところどころ『アレ?』ってロレツになっちゃってる。」
「言えてますね。NGの1つ2つ、あったのかも知れませんねこのシーン。」
「そんな感じするね。とか言って実際は、1発テイクでOKだとしたらとんでもなく失礼な話だけど。」
「豊川さんも田村さんと同じで、NG少ないでしょうからねぇ。」
「さぁどうだかね。案外しれっとした顔で、バンバン間違えてたりしてな。」
 
■病院の前〜ナースステーョン〜路上■
「鷹男がかけつけたのは病院だったんだね。でもさ、なんでこんなにパトカーが集まってんの。身元不明の入院患者のところに男が1人いたくらいで。」
「そりゃあ、ののさんが死んだことで警察は俄然、都築雄一郎に注目し始めたってことでしょう。」
「あ、そっか。…何だよ、今回やたら鋭いやん八重垣。どしたの?」
「いえいつものことです。で、呼び出された仁美は、何ていうか…まずい立場になっていきますね。新児のことをそういつまでも隠しおおせるもんじゃないでしょう。品川署の呑気な2人だけじゃなく、捜査1課が動いてますから。」
「捜査1課っていえばさ、このスガーリの役名は梅田刑事じゃなかったね。確か梅沢…いや梅本だったっけかなぁ。どっちだっけ…。」
「何ですか、結局判んないんですか正解は(笑)」
「うー…いかんせんエンドロールにかかったところで録画停止ボタン押しちゃうんだよねー。そのあとも見てはいるけど、文字のスクロールがやけに速いんだわ。」
「サッとメモすればいいじゃないですか。どうしてその手間を惜しむかなぁ。」
「んなアンタだって忘れてるクセにぃ(笑)何が『鋭いのはいつものこと』だよ。」
「まぁまぁ(笑)次回ちゃんとチェックしますから。」
「でも1か月間も寝たきりだと、人間の手足ってマジ動かなくなるんだってね。」
「ああ、そう言いますね。」
「例えば海で遭難とかして、ボートに乗ったまま何日も漂流すんじゃん。そうすると人間、まず手足の筋肉が無残なほど落ちていって、次に内臓に来て…確か腎機能あたりが真っ先に停止するんだっけ?」
「ええ。だと思いました。確か1度麻痺すると戻らないんですよね腎機能は。だから助かったとしても、以後は人工透析の生活になっちゃうそうで。」
「んで次に停止するのが消化器で、最後の最後が心臓と脳? 生命維持の根本より遠いところから、バシッと切り捨てられていくんだね。ほんとによくできてるね人間の体は。」
「でも最後まで脳が動いてるってことは、意識があるってことで、だったら迫り来る死の恐怖はずっと感じていなきゃならない訳でしょう? ある意味それも残酷だな。」
「けどさ、漂流しても生き残れる人間って、まずはその恐怖に勝てる強い精神力の持ち主なんじゃないの。『オレはもう駄目だ』って諦めたら、体力があろうとなかろうと、神経がそういう風に作用しちゃいそうな気がする。」
「『病は気から』の拡張バージョンですね。」
「ところで鷹男はちゃっかり廊下に入ってきてるけど…やっぱ相当出入りが自由なんだね。」
「ていうか鷹男が入ってこられたことより、雄一郎が1人で出ていけた方が意外だと思いますけど。」
「あー、言えたねー。フェンスにすがって歩いていく雄一郎、下手したら凍死するよこれ。そしたら病院の責任問題じゃん。再発防止のため今後は、通用口に警備員1名常駐! それくらいせなイカンよ院長。」
 
■河原■
「このシーンでさぁ、私、思い出さなくてもいいこと思い出したぞ(笑)『アレレ?』の第6回の、有季子の言動について…。」
「うわ、思い出しちゃったんですか(笑)忘れてればいいのに。」
「やっぱさー、『悲しく決定的な嘘』ってのは結局、雄一郎の一時帰国をさしていたとしか思えないよね。それを知った有季子はあの時、階段もまともに下りられないほどオイオイ泣いて『それ以上進めなくなっていた』訳でしょ? なのに今、どうしてこんな大上段の正義感をふりかざして新児に詰めよるのよ。ののさんが死んだからって訳じゃないよね。会議室で2人してKJ法に熱くなってたんだし。」
「いえ、ですからね? もうそのへんは見のがしてあげましょうよ。『危険な関係』全12回のうちの唯一の失敗が第6回ってことで。」
「まぁね、そうしようって決めてたんだけどね。ここでの有季子のあまりにもガキっぽい正義感に、ちょっと意地悪くなってしまった。」
「駄目ですよ今から意地悪婆さんになっちゃ。で…ここでの演出は、鉄橋の上を通っていく電車の音がきいてますね。さっきの、2人が車の中にいたシーンでも、ウィンドウをよぎっていく白いライトが随所で使われていましたし。」
「夜の明け方も唐突じゃなかったよね。気がついたら朝だった、っていうのが素直に納得できた。早朝のガランとした道を1台だけ走っていく車も映画みたいでいいや。陽炎でも立ち昇りそうな白い道、ゆっくりと坂を登って、また下りてさ。」
「車の中で黙りこくってる2人の顔が見えるような気がしますよね。」
「うん。でもねー、こうやって一晩明かしちゃうと女のカオはヒサンなんだよね。どんなメイクもぜってー化粧崩れしてるし、まさか車内で直す訳にいかず。有季子さんもさぞや落ち着かなかったと思う。」
 
■路上、雄一郎■
「どうやら雄一郎、凍死はしなかったらしいね(笑)でもこんなとこに寝てたら風邪くらいは引くんじゃないか?」
「どうでしょうねぇ…。治療を続けてると体力が落ちる代わりに、奇妙な抵抗力がつくこともありますから。」
「ああ、歯の治療してる時は花粉症にならないとか、あるみたいだね。」
「いやそれは初耳ですけど。それより運転手の白手袋を見て、恐怖にかられる雄一郎には納得できますね。」
「あの時の新児の白手袋は、雄一郎の記憶回路にしっかりと刻みこまれたんだろうね。」
「でもこの親切な運転手さんはこのあとどうしたんでしょう。いくら突きとばされたものの、どう見ても放っておける相手じゃあ…。」
「公衆電話に駆けつけて110番通報したんじゃないの? でもって通報してるうちに雄一郎はいなくなっちゃったんだよ。」
「そんな、電話Boxなんか探すよりも前に、無線で営業所に連絡すればいいじゃないですか。」
「あ、そうか。何だよ今回ホントに冴えてんな八重垣…。」
「いえ、もう僕専用のメルアドも出来ましたからね。」
「そのせいかい(笑)」
 
■都屋本社■
「雄一郎くんてばこの恰好で、よくここまで来られたねー。同時に思うのがさ、道行く人は誰も彼を止めなかったのか?と。」
「いや、この姿で道を歩いてたら、ちょっと声はかけないでしょう。むしろ不思議なのは、双葉会病院から都屋までの道を、雄一郎がよく覚えてたってことかな。」
「しっかりした意識もないのにね。んでも人間、道順とかそういうことは覚えてるもんなんじゃない? 記憶喪失の人間をプールに突き落としても、昔泳げた奴はちゃんと泳げるっていうしね。」
「あてにならないのは大脳の方なんですね。それはともかくここでの鷹男の『いつ出てこられるか、判りませんかねぇ』の言い方は好きですよ僕。」
「ああ、よかったねあれね。わざとヘラヘラッとして敵の警戒心を解かせる鷹男の得意技。」
「まぁ都屋の受付嬢には、通じない手だと思いますけどね。」
「この手の子には佐竹城モードの方が効くよね。取りつく島もなくあしらわれて、どうしようか迷っていると、そこへ奇妙な足音がする。振り向くと回転ドアから入ってきたのは『あの写真の男』だったんだね。」
「みんなただならぬ顔で見てますよね。そりゃ驚くだろうな、あの風体で入って来られちゃ。」
「一方社長室では松宮が驚いている。秘書に続いて社長が消えた…『駆け落ちでもしたのか』って言う松宮さんはいい人だよねー。この場合すごくマトモだぞこの発想は。」
「実に人間的で、いいですよね。ホッとしますよ何だか。」
「でも今の世の中、別に駆け落ちなんかしなくたって立派に結婚できるんじゃないの? 『どうしてもちひろがいい』って社長が言えば、断固反対する人なんていないと思うけどな。」
「ですから、そこが昔の人なんですよ松宮さんは。」
「ああそうか。もしかしたら年ごろの娘か息子がいるのかも知んないね。松宮さんの嫌いなものはルーズソックスと茶パツだよきっと。」
「でもここにいる3人の中で秘書の結城だけは、『コトはそんなに単純じゃない』と気がついてる訳ですよね。だからこそ秘書嬢の知らせを聞いて、彼は顔色を変える。」
「これってさぁ…一連の流れの中で、一番の被害者は都屋だよなー。前社長がヘンな遺言残したばっかりに、いいように引っかき回されてさぁ。」
「それは間違いありませんね。気の毒な会社ですよ。」
「でさ、ここで完全に異常者扱いされてる雄一郎を見て、鷹男は助け舟出すじゃない。助け舟っていうか、早く警察に届けろと。この『警察』って言葉を聞いた時、雄一郎の表情が変わったのに気づいた? やっぱこれ雄一郎はミヤベさんを殺してるのかもね。だから無意識に警察を嫌ってるんだよ。」
「ええ、一瞬ぴくっとしますもんね。深層心理に『まずい!』と思ったんでしょうね。」
「井上由美子さんてさー、伏線の張り方がすっげ上手いよね。さりげなくて、でももったいぶってなくてさ、よく考えさえすれば視聴者にもちゃんと判るような張り方をする。この点は見習ってほしいなーN先生にも。」
「智子さんて、あの人とは相性悪いんですよきっと。」
「言えたなー。もう1人のN…野島さんのことは、『美しい人』ですっかり見直したんだけどねぇ。」
 
■新児のアパート■
「今回の目玉はこのシーンだよね。ここでもまたまた豊川さんにうならされちゃったな。」
「そうですね。この部屋に入って床に座った時から、もう全身が魚住新児になってる。セリフや表情よりも、醸し出す雰囲気が変わるんですよ。」
「うん。カーテンをあけてベッドに凭れてあぐらをかいて、もうこの段階で魚住新児が、この部屋に『帰ってきてる』もんね。ごくごく自然にこの部屋に存在してる。この部屋の空気に溶け込んでる。だから有季子も直感したと思うな。魚住新児はこの人だって。」
「そうでしょうね。直感した上で『魚住新児のことが知りたい』と聞いてるんですね。」
「今回ここの『じき戻ってきますよ』ってセリフについて、ひなつクエスチョンが出されてるんだ。雄一郎の病室で新児は『魚住新児は自分が殺した』と言い、またこの部屋でも有季子に『きっぱりと別れた』と言っている。それなのにどうして『じき戻ってくる』などと言ったのか。」
「うーん…。表面的に考えれば『勝手に入っていいの?』という有季子の質問に対するとりあえずの応え、なんでしょうけどね。もうちょっと深く解釈すれば、自分が殺した『はず』の、きっぱりと別れた『つもり』の、その魚住新児に自分はもうじき戻っていくだろうって気持ちが言わせた言葉なんじゃないでしょうか。魚住新児に戻らないためにずいぶんと抵抗したのに。その抵抗の最たるものがちひろを殺したことなのに。それら全てが無駄になって、自分はやはり元の木阿弥、ただの平凡でつまらない男に、やはり戻らなきゃならないだろうと―――」
「うんうん。で、それを受けて有季子の『あなたは誰かと取り替えがきくような人間なんかじゃない』ってセリフにつながるんだろうね。『この部屋を見て判った』っていうのもどうかと思うけど、でもこの部屋って何となくさ、平凡は平凡かも知れないけど、地に足をつけて真面目に生きてる人間の部屋って感じがするよね。無駄なものは何1つなくて、質素なんだけど清潔な感じがする…。」
「ええ。いいですよねこの部屋の雰囲気。きれいに片づいてて居心地がよさそうっていうか。」
「包み隠さない自分の本音を有季子に語りながら、新児は自分をあざ笑う。ここでさ、豊川さんはあぐらをかいた足を、意味もなく手で撫でてるんだよね。これがすごく『新児らしい』雰囲気を出してると思うなー。」
「何でもない動作なんですけどね。そういう動きが雰囲気を生むんでしょう。」
「彼は言う。金がなかったばっかりに子供を死なせてしまったと。魚住新児はただただ無力な男だったと。でも心の底では喉から手が出るほど、地位も権力も称賛もほしかった…。ここでのセリフのさぁ、『子供をね、亡くしてしまったんですよ。』の『ね』がいいなー。有季子に語り聞かせてる感じで。」
「そのあと新児は言いますよね、『力のない者はどこかに逃げ込むしかない世の中だ』って。人間、だいたい最後は世の中のせいにして落ち着くんだよなぁ…。この『落ち着く』ことが、若さの喪失なのかも知れませんね。現実に安住しちゃう。スズメとかの鳥でも、若鳥ほど遠くの町に飛んでいくっていうでしょう。現状の環境に満足しないで。」
「『そういう世の中』を変えようとするエネルギー。これすなわち進化の原動力か。『こんなもんだ』と思ったとたんに人間は守りに入るのかも知れないね。かくして、制度や決まりを守らせようとする説教爺ぃが誕生する(笑)」
「でもここで有季子は、そんな新児の自嘲を否定して、『誰でもないあなた本人が大切なんだ』と言い切る。これこそ新児の欲しかった言葉なんですね。『都築雄一郎だろうが魚住新児だろうが関係ない』。ちひろはこれを言ってくれなかった。彼女が浴びせたのは『私が好きになったのは都築雄一郎であるあなたなの』って言葉でしたからね。」
「有季子を見つめる新児の顔が、画面全体に大アップになるじゃん。これがいいよねー。表情にも言葉にも出さないけど、新児の魂は今揺さぶられている…。」
「でもですね、別に疑問とかって訳じゃないんですけど、1つ思ったのは、仁美の存在って新児にとって何なんでしょう。有季子は確かに新児が一番言ってほしかった言葉―――意訳すれば『あなたの本質を私は愛している』っていう言葉を言ってはくれましたけど、あの社長室で仁美が言った言葉にも、新児は涙を流してますよね。そして仁美の愛情は、有季子に勝るとも劣らない訳ですし。」
「うーん…。これまた難しいとこだよねぇ…。あえて言うなら新児と仁美って、ヒビが入った花瓶みたいなもんなんだよ。アロンアルファで無理にくっつければ水は漏れなくなるのかも知れないけどね、一度入ったヒビは消せない。2人の目には見えてしまう…。これが男と女の悲しさだと思うよ。取り戻せない何かを、この2人はもう失ってしまったんだと思う。子供とか具体的なものじゃなくて、心の中の何か。」
「心の中の何か…。確かに。」
「これ、もしもね、新児と仁美がつい最近知り合ったんだとしたら、仁美は有季子以上の存在になれたんだと思うよ。でも運命は、2人をそんな風には出会わせなかった。ちょうどアレだよ、『ソムリエ』のカロン・セギュールの話と同じ。時期を過ぎてしまったワインは、もう飲み頃には戻れないという。」
「そうか、仁美はここで、まさしく片桐冴子なんですね。」
「うん。でもさ、そういうワインにも、それにしかない深みとコクがある。その馨(かぐわ)しさがあの社長室で、新児に涙を流させたんだろうね。」
「…何だか、いい話ですね。大人にしか判らない苦い恋っていうか。」
「いろんなものを無くしてるからね大人は。でもってあと1つさ、ドラマがいいたいこととは全然離れた部分で、考えたコトがあるんだ。ちょっと脇に逸れるけど手短かにいくから話してもいい?」
「ええ、手短かにして頂けると幸いですね(笑)」
「あのさー、前にチラッと書いた気がするんだけど、友達にカンパ集めてもらって子供の手術した人の話。」
「ああ、はいはい聞きました。確か心臓かどこかが悪いって…。」
「うん。実際に私自身もカンパしたからすごく身近な話なんだけどね。それを思い出すとさぁ、新児の、移植手術の費用が集められなくて子供を亡くしたという『底無しの無力感』には、いまいち同情できないんだよなー。もちドラマとは無関係な感想だから、脚本がどうの豊川さんがどうのって話じゃないんだよ。」
「ええ、それは判ります。」
「これさ、新児はさ、人づきあい悪すぎよ。それが新児の悲劇だと思うね。子供の頃の環境とかもあるから、彼だけの責任とは言い切れないけど、でもさやかちゃんが病気になったのって、新児が21〜2のあんちゃんだった頃じゃないよね。もう30になろうかっていう大の男でしょ? だったらさぁ、底無しの無力感だなんてニヒルに自己憐憫してんじゃねっつの。もっと自分から心を開いて友達たくさん作っとけばさ、ホレあのオブチ君みたいに自分の方から力になってやろうって言ってくれる人、世の中にはぜってーいるんだから。
頼んで回るのがカッコ悪いとかそんな見栄や外聞はうっちゃって、子供が病気だから助けてくれって、金じゃなくて知恵をさ、友達に借りればいいのよ。その私の知り合いの場合もさ、別にただのそのへんの平社員がやったことだよ? 政治家でもPTA会長でもない、平凡な会社員の話。でも彼の友達はみんな必死になってくれたんだよ。1人で出せば1千万は大金だけど、千人に頼めば1万円、2千人に頼めば5千円だぞ? それくらい出してくれるって今の日本人は。これなら新児にも出来ないことじゃないと思う。
ただ彼は、今まで自分から友達を作ろうとはしてこなかったんだと思う。別にそれ自体は間違っちゃいないさ。他人にわずらわされることなく静かに生きたいならそうすればいい。そんなの個人の勝手でハタがどうこう言うことじゃないよね。でも、そうやって孤独を選んだ人間は、何かに困った時も孤独なんだよ。子供が病気になったって助けてくれる人はいないのさ。自分が交わりを絶ってるんだもん。だから人生の不幸なんてもんは、結局自分自身が作っちゃうもんなんだと思うよ。」
「うん…。それは確かですね。自分が望んだ孤独に、新児は子供を奪われてしまった訳か。」
「そういうことでしょ。人間、集団になるっていうのはすごいパワーなんだと思うよ。それによって太古の昔から並みいる肉食獣を倒してきたんだ。ただそのパワーが間違った方に向いちゃうとね、戦争とか地域差別とか、そういう副作用も産むんだと思うけど。」
「なるほどね…。って全然ドラマとは違うテーマで納得しちゃいましたね(笑)」
「いや、こういうのがね、大事なんだと思うよ。ドラマの1シーンに触発されて、あれやこれや自分で考えてみる。それこそがアンタ、このドラマに出会った幸せってもんでしょお。『考える葦』である人間のさ、それが最大の能力なんだから。」
「出会いの哲学って奴ですか。」
「そうそう。現実の人間関係も、ドラマも映画もゲーノー人もね、大切なのは出会いだよ出会い。ボケッとしてるともったいないよ、うん。」
「―――という訳で話を戻しますけど、やがて窓の外で急ブレーキの音がして、気づいた有季子は『警察よ』と新児に告げる。ここで新児が意外そうな顔をするのは、有季子が刑事だからですよね。」
「そっか、まだ辞めたとは知らないんだもんね。この女は自分をつかまえる立場なのになぜ、ってとこか。…あれ? 待てよ? じゃあ新児はひょっとして、有季子につかまるつもりでいたのかな。」
「それはどうでしょうね。なるようになれ、って感じじゃないかと思いますけど。」
「あ、あと1つあと1つ特記事項! 部屋に入ってすぐ新児はカーテンあけるけど、何とカーテンレールよか背が高いんだね豊川さん…。なんかカンドーしちゃった。うん。」
 
■病院■
「ここは何かさ、おかしいといえばおかしかったね。突然正気に戻る…というか意識を回復する雄一郎。こんなに一変しちゃうのってロボットみたいやん。人間の脳ってこんな風に突然回復するもんなのかね。」
「さぁ…。いろんなケースがあるんだと思いますけど、外を歩き回ったことなんかが刺激になって、いつかドクターの言った『劇的な回復』を呼んだんじゃないでしょうか。」
「これは仁美にすればショック大きいよね。心をこめて世話してきた患者を、こんな目に会わせたのは他ならぬ新児だと判って。」
「ええ。驚愕というか、絶望に近いと思いますよ。」
「表情を全部なくしちゃったような仁美。やっぱうまいよな床嶋さん。」
「呼ばれもしないのに出てきた大沢管理官は、ここでまた見苦しく焦ってますね。」
「心配なんだろね、自分のボロが出やしないかと。それにしても梅本刑事(仮称)は凛々しいわ。『彼女の辞表はまだそちらに渡していない』ってきっぱり言うのがかっけーやん。」
「もっと早くにこんな上司に出会っていれば、有季子も楽だったし、ののさんも死なずに済んだんでしょうね。」
「そうだよねぇ…。やっぱ出会いは大切だよなぁ。」
 
■路上・鷹男と仁美■
「さっきのさ、新児のアパートでの有季子との会話がこの回の目玉なのは判るけど…でも、ある意味こっちのシーンの方がリアリティがあったっていうか、判りやすく引き込まれた感はなきにしもあらず…なんだよなー。」
「回りくどいですね。はっきり言いましょうよ。よかったと思いますよこのシーン。あんまり褒めたくはないんだけど、イナガキがすごくいい芝居してました。」
「ねー! そうなんだよねぇ。あの『死んじゃうよあんた!』って怒るとこも、バッグの中身を戻してやりながらカードケースに気づくとこも、それをひったくって泣きだす仁美を見つめるとこも…なんかすごくよかったと思う。」
「今までずっと呆然自失の体(てい)だった仁美が、カードケースを抱きしめて泣き崩れるのがよかったですね。新児と有季子のシーンが多分に観念的っていうか、まぁ、語弊はありますけど平たく言えば理屈っぽいのに比べて、仁美の嘆きはストレートに理解できますからね。」
「そう。突き詰めればあっちの2人は、何だか身勝手に思えてきちゃう。仁美ってキャラはさ、有季子よりずっと統一がとれてるんじゃないかな。『彼女は本当は今でも新児を愛している』っていうのが、第1回めの、怪我した新児が手当てしてもらいに来るあのシーンから、視聴者にはちゃんと伝わってたんだよ。」
「そうかも知れませんね。その仁美の嘆きを受けて、言葉もなく座りこむ鷹男と、遠くで2人を見ている野次馬たち。このロングの映像がまたよかったですね。野次馬を入れたことでさらにリアリティが高まったんじゃないですか。」
「もしかして、わざと対比さしてんのかなコレ。観念的・精神的なエゴイズムの愛=新児と有季子、現実的・感情的な残される者の想い=鷹男と仁美。考えてみればこのシーンはさ、2人とも『置いていかれる方』なんだよね。今、言ってて気がついた、私。」
「ああそうか…。うんうんそうですよ。置いていく者と置いていかれる者との対比。言葉では説明してませんけど、ここはそういう意味なんですよきっと。」
「仁美が泣くのを見て鷹男はさ、ぎりっ、と奥歯を噛みしめんのね。そのせいで表情がぎゅっと固くなる。このへん吾郎もしっかり演じてるね。」
「役者の演技と演出が綺麗にかみあってる訳ですね。」
 
■海岸、新児と有季子■
「さあっ、そして八重垣くん! こここそが第10回最大の争点! いったいこの2人はここで何をしでかしたのか!」
「そんな急にハキハキしないで下さいよ。嬉しそうですねぇ…。こういう話題になると目が輝きますよね。」
「いやぁこれについてはあっちこっちで諸説紛々。キスだけ派からいくとこいった派までてんでばらばらよ。中でも笑ったのがね、『あんなに激しいキスをしといて、キスだけだったら逆に残酷』(笑)」
「正直ですね(笑)現実だったらこんな場所では絶対できないと思いますけど、ドラマですからね。事実の再構築が行われてる訳ですから。」
「うん。現実には無理だよ。こんな明るい砂浜でアンタ、誰が見てるか判らんつーに。今どきのサーファーは波があるとなりゃあ、冬だろうと台風だろうと板抱えて海に入るんだから。」
「それと問題はこの風ですよね。撮影自体大変だったんじゃないですか? 有季子の髪、あれ絶対目に入ってますよ。」
「音声さんが苦労しただろうなぁ…。風だの砂だのをマイクが拾っちゃうだろ。へたしたらアテレコしたいとこじゃないの?」
「かも知れませんね。気温も低そうだし、演じる方も大変だったでしょう。」
「エンドロールに出てくるあの風車が、いい演出になってるけどもね。2人の会話の中にさ、風車が風を切る音がリズミカルに入ってて、抱きあう2人とオーバーラップして、さらには翼が”光を切る”映像? これがすごく綺麗だった。」
「有季子は、新児がちひろを殺してることを知らないから、『魚住新児をきっと取り戻せる』って言いますけど、そこで新児はスッと顔をそむけますよね。『それはもう無理なんだ』って、彼は思ってるんですね。」
「うん。だから新児にとってこの抱擁は、かなり刹那的なもんなんじゃないかな。まぁ、刹那の恋ほど燃えるんだけどさ。」
「このドラマって、最初の頃の触れ込みでは、有季子と鷹男のベッドシーンで幕をあけて、いずれ新児と有季子のかなり濃いベッドシーンがあって云々、みたいなこと言ってたじゃないですか。その”濃い”シーンがこれなんですかね。」
「おや? なによ、ヤエガキ君としては物足りないと?」
「いやそういう意味じゃないです。僕はあんまりベッドシーンて好きじゃないんで。」
「へ――――――。」
「へーって、ほんとですよ。人のを見たって別にどうってことないし、ドラマのシーンなんてワンパターンだし。」
「んじゃあナニかい。八重垣くんはいわゆるAVとかはあんまり見ないと。」
「ええ。自分からは見ないですね。」
「ほー。てことは実践あるのみだ。」
「ええ。」
「…………」
「じゃあ次のシーンいきましょうか。いつかの林の中ですね。」
 
■林の中〜公園〜海岸■
「ここを走ってくお巡りさんは、何だかさも『駐在さん』て感じでほほえましいね。」
「狩猟をしに犬を連れてきた人が、ちひろの死体を発見したんでしょうね。やっぱり人を埋めるには浅かったんだなあの穴は。もっと、倍以上深く掘らないと。」
「ああいうさ、掘り返した土って柔らかくなってるから、雨がちょっと降ると固まって沈みこむみたいになって、んで埋めたものが浮き上がってきちゃうんだよね。」
「匂いを感じた犬があの場所に行って、少し掘ったりしたんじゃないですか? そしてバッグを引っぱり出した。」
「新児がちひろの上にポンと置いてやったバッグだよね。でもさ、土の中からちょっとのぞいてたのが、あれって靴の爪先っぽくなかった? ちひろの靴は脱げ落ちてるよね。新宿の歩道でさ。」
「そうですよね。シャベルを買いにいくついでに拾ってきてたら笑えますけど。」
「コメディにすんなっつの。でもって次の公園のシーン。ベンチに座ってる仁美の目から、ぽたり、ぽたりとしたたる涙がいいね。鷹男はこの公園に彼女を連れてきて、落ち着くまで一緒にいてやるつもりなのかな。」
「優しいじゃないですか。確か智子さん前に、仁美は鷹男と再婚して…みたいな冗談言ってましたよね。」
「うん。何かさ、本当にそうなりそうな雰囲気になってきたぞ(笑)まぁそれはあくまでジョークとしても、遊んでる子供とか幸せそうなカップルの姿が、仁美と対照的で切ないよね。」
「でもここでの虹は、これはちょっとやりすぎって気がしますけど。」
「言えた。こんな青空に、雨もなくいきなり虹は出ないつーの。これはちとくどいよね。美味しいって褒めたら同じ料理を毎晩出されるようなもんだ。」
「中居家のカレーですね。」
「そうそう。でもって思ったのがさ。この公園て、『チーム』で丹波が撃たれたとこと、『氷の世界』で七海が刺し殺されたとこと同じなんじゃない? 考えればこの3本って全部フジだし、ひょっとしてロケ場所同じだったらすごいね。」
「ロケハンの経費削減ですか? でも都内の公園なんて大体似たような造りですよ。」
「まぁね、それはそうなんだけどね。」
「一方、海岸では……うーん……これは本当に謎ですね。いったい何があったのか。」
「私なりに解釈しちゃえばさ、2人はやっぱ、やることやってるとは思うのよ。真っ昼間の海岸、というのはドラマの虚構性ってことでいいとして、有季子がしっかり服着てるのはなぜだとか、服を着てから気を失ったのか、とかのいろんな疑問はさぁ、これはもぉこないだ言った『官能小説におけるコンドーム装着シーン』と同じ! 細かな枝葉は切り取ったとみていいっしょお。『実際はこうじゃない』のは当然だよ。だってこれドラマだもん。フィクションなんだもん。」
「『これはドラマだから』の一言って、ちょっとズルいオールマイティーのカードなんですけどね。まぁこの場合はいいでしょう。」
「要するにこのシーンが言いたいことは、『新児と有季子の2人は、ここで刹那の抱擁に身を打たせたのでした。』ってことでしょう。でも私としてはさ、風に舞い上がる砂嵐の中を独り去っていく新児の背中。そっちをクローズアップしたいと思うなー。ベストと上着はどうしたんだ、ってヒゾクな疑問はもうコッチに置いといて。」
「と、するとですよ。ベッドシーンはもうないんでしょうか。」
「何だよ、結局期待してんじゃん八重垣。」
「いやそうじゃなくて(笑)当初の予定がなくなったとすれば、どうしてなのかなと思って。」
「そぉねぇ…。本当にそのシーンが必要なのかどうか、スタッフがケンケンガクガクやったんじゃないの? まぁ、とか何とか言って案外、最終回にはあるのかも知んないよ。まだまだ希望は捨てちゃいかん。」
「希望って…別に僕は希望してませんて。」
「あたしがしてんだよ(笑)AVみたいなソレ目的のどぎつい奴じゃなくってね、映像として美しければ、それはもう一種の芸術なんだからさ。」
「そうですか。―――はい、という訳で、AVネタでへんな盛り上がりを見せる前に、大人の節度を持ってですね、第10回座談会をこのへんでまとめたいと思います。泣いても笑っても残すところあと1回。最終回は時間拡大のスペシャルですからね、ぐっと気をひきしめて、新児が、有季子が、鷹男がどうなっていくのかを最後まで見届けたいと思います。」
「あーあ、なんか寂しいねぇ。『TEAM』も『美しい人』も終わっちゃったし。」
「それは仕方ないですよ。現実と違って、物語はいつか必ず終わるんです。」
「おおっいいこと言うなぁ八重垣! その調子で最終回、頑張ろうぜぃ!」
「では今回は、これで失礼いたします。また来週までご機嫌よう。パーソナリティーは私、専用メルアドが出来てドキドキしている八重垣悟と、」
「2000年のカウントダウンを会社で迎えることが決定し、紅白さえも予約録画しなくちゃならない木村智子でしたぁー! ばーろぉー!」
 

座談会第11回に続く
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