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【 第4回 】

「はい、えー皆様お元気でしたでしょうか、八重垣悟です。えー先月6月の座談会はですね、結局第3回だけしかUPできなかったんですけれども、そんなこんなしているうちにですね、あっという間に7月も半ばになってしまったんですけれども…。どうですか、今月はもうちょっとペースアップできるんですか智子さん。」
「どもどもどもども、忙し症候群の木村智子です。いやー何がつらいってねぇ八重垣。ここんとこパソコンの移動だの新事務所のフロア配線だの、あとは出張だのっつって体使う仕事がたてこんでるんさぁ。SEたるもの頭脳酷使は慣れてるから、頭の疲れなら家に帰ればスパッと切り替えが効くんさ。ばってん体の疲れとなると、いったん寝なきゃ治らなくてねぇ。帰ってきたあとTV番組見たり、パソコンの前に座ったりって気にならないのよ。」
「え? 肉体労働やってるんですか今。それはひどいな。いやひどいというより、できないんじゃないですか? その歳で…。」
「ちょっと待てコラ。心配してるんだかネタにしてるんだかはっきりせぇよ。」
「いやどっちなんだと聞かれれば後者がほとんどなんですけれども。」
「んな肉体労働っつったってね? 机かついだり床にドリルで穴あけてたりする訳じゃなく、要はデスクワークじゃないって意味なんだけどね。現場…って普通の事務フロアだけども、そこに行って電気屋さんにLANケーブルの配線指示をしたりだとか、このプリンタはここじゃなくて2階のどこそこに設置しろとか、パソコンはあっちだとかルーターは向こうだとか。まぁ時々は机の下にもぐってHUBの接続確かめたり、デスクトップの1台や2台は車から下ろしたりもするけどね。」
「本当に何でも屋ですね。システム企画からLAN配線まで一手引き受けですか。」
「あとは産廃業者の手配なんかもやってます。まぁそんなこんなで6月中はね、2日連続の休みが1回も取れなかったのがキツかった。この調子だと冗談ともかく、アテネの最中にもドラマ座談会やることになっちゃうね。つーかおそらくは秋からになるだろうライブシーズンにも、食い込むかも知んないや。」
「でもライブの方は、智子さんにはあまり関係ない話ですからね。ところで今日はたかみ〜はどうしました?」
「ああドー国旅行の時差ボケで寝てると思うよ。そういえばあんた知ってた? たかみ〜って心臓デカいんだって。言われてみればさもありなん、確かにそんな顔だちだとは思っていたんだ。うんうんうん。」
「心臓が大きい顔だちってどんな顔だちですか(笑)」
「だからああいう顔だちだって。あれでもしかしてさぁ、食道の下から膀胱の上までが全部心臓だったらすごいよねぇ。オマエはカブトガニか!みたいな。」
「それだけ大きければ心臓病になっても手術は楽でしょうね。」
「だろうね。切ってあけたら直江も大爆笑だ。ただそうなると問題は、心臓がデカすぎて他の内臓がどこにあるか探しづらいってことだろうな。胃くらいは何となくカンで判ってもさ、盲腸に至ってはいったいどこに埋まってるんだか判りゃしねえ。これはやっぱ専門書として 『たかみ〜ターヘル・アナトミア(解体新書)』 を出版しないといかんね。今なら 『ひなつ魚拓』 もついてますと。」
「何だかよく判らなくなってきましたから、とにかく第4回を開始しましょうか。前フリが長すぎますよ。」
「うん。長いだろうなとはアタシも思ってんだけどさぁ、いかんせんこの第4回から第6回って、メッチャクチャつまんなかったんだもん。」
「それはまたいきなり正直な意見を吐きますね(笑) 大丈夫ですか?」
「大丈夫って何が大丈夫なんだか知んないけど、マジつまんなかったよぉこのあたり。言いたかないけど予告編が一番面白かった。ラストのドリカムの歌を毎週毎週、かなりどんよりした気分で聞いてたなー。」
「ま、ズバリ言って確かに面白くはありませんでしたね。ファン以外はおそらく、このあたりでリタイヤしたでしょう。」
「言えてんなー。我慢してつきあう義理なんかないもんねー。特にこの第4回のあたりは例の最悪のナレーションもあるし、あたしゃもう暗澹たる気持ちで画面の前に座ってたよ。」
「まぁ気持ちは判りますけれども、そろそろ本題に入りましょうか。まずは前回のおさらいシーン、公園での和賀とあさみの会話からですけれども…。」
「あ、ここね。そういや前回言おうと思って忘れてたけど、あさみの台詞の 『私は私をあきらめたくないから』 ってやつ、ちょうど同じ時期に松雪さんのやってたマンションのCMの、『東京をあきらめない』 だっけ? そのフレーズと同じなんでちょっと笑った。」
「『東京フロントコート』 のCMですよね。あれは確か 『東京をガマンしない』 じゃなかったですか?」
「あれそうだっけ。まぁ何にしてもそんな感じのフレーズよ。」


【 夜道 】
「あさみを和賀がソアラで送っていってやるシーン。ここで何がびっくりしたって、別れぎわに和賀はてっきり手袋をプレゼントしてやるのかと思ったら、貸してやるだけだったってことだね。あれは多分あさみ自身も、一瞬くれるのかと思ったと思うよー。何だよ和賀ちゃんったら、ケチぃ。」
「相手に返してもらう品物があるということは、決して 『これっきり』 ではないですからね。完全な別れにはなりません。まぁストーリーの展開上、あとに続く何かを残しておかないと、この先の2人の再会が不自然になってしまいますから、そのための小道具だったんだろうとは思いますけれども…。」
「でも和賀ちゃんたらさー、あんなゴージャスリッチなマンションに住んでて、革手袋の10個や20個買えないはずはないよね。それともあのライターと同じで、何か思い入れのある品物だったと解釈すべきなのかしらん。」
「まぁ返してもらうにしても、自分ではなく一応マネージャーに取りに行かせると和賀は言っています。だからあさみと直接会うつもりはない訳ですよね。」
「そうだけどさ。ばってんマネージャーがいるくらいの売れっ子アーティストなら、なおさら買えるよ手袋くらい。やっぱケチなんだぜ和賀ちゃんったら。ケチケチケチぃ。」
「まぁケチはともかくとしても、俯瞰的に見てこのシーンの意味はですね、和賀とあさみが一緒にいるところを関川に目撃される、そのために作られた場面なんでしょうね。手袋をするあさみとそれを見ている和賀は、遠目にはすごくいい雰囲気に映ったんでしょう。実際は別れるところなのに、関川にはそこまで判らない。」
「別れっていえばさ、このシーンでのバイバイ・ワードはちょっとシャレてるよね。『あたしはあたしの世界で頑張るわ』 っていうあさみのセリフも、和賀の 『君とのちょっとした時間はなかなか興味深かった』 てセリフも、大人の会話って感じですごくいい。だからこれでキレイに別れときゃあお互いいい思い出になったろうに、このあと何回会ってるんだこいつら(笑) ドンブリ展開がくでーくでー(笑)」
「確かに、さも思わせぶりなルーティーンではありましたね。まぁそれも連続ドラマの定石であって、仕方ないことだという気もしますけれども…。」
「あとここでのいいわぁポイントはね、何つっても和賀ちゃんの『うん?』だね。もう一度生まれるという言葉の意味について、『違った?』ってあさみに聞かれた時の、『うん?』。何たって和賀ちゃんは聞き返させたら宇宙1だから。それとあとあさみが、『あなたは和賀英良で、私なんかと同じ訳がないわね』って言うのを聞いているところの無言の横顔。それからあさみと握手する時に、瞳にライトが映りこんで光ってるのが綺麗よねぇ…。はふー…。」
「なるほどね。色々と辛口批評はあっても、いいわぁポイントは無限なんですね。」
「そりゃそーさぁ。当然じゃんいいわぁ星人なんだからぁ。あたぼーよぉ。」
「はい、今さら野暮でした。…で僕が思ったのはですね、」
「なんだい野暮ガキ。」
「リピートしないで下さい。ここであさみは言葉に出して和賀に『さよなら』と言いますけれども、それに対して和賀の方は、『さよなら』とは言っていないんですね。もちろん彼本人にしてみれば、『君は君らしい生き方を』なんていう言葉をさんざん言ってしまった訳ですから、今さら改めて『さよなら』と言い直さなくてもよかったのかも知れませんけれども、このあとの展開と重ねあわせて考えると、ここで和賀があさみに『さよなら』と言っていないのは象徴的ですよね。」
「そうだね。さよならどころの騒ぎじゃないもんなこの先。バタバタバタバタ色々あることぉ。」
「まぁここで2人が二度と会わなかったら、ドラマが終わってしまいますからね。」


【 和賀の部屋 】
「そしてなぜかここで突然再登場するチャイコの1番。いまだ視聴者の記憶に新しい第1回の名場面。あの日の映像をリプレイしながら和賀は、『そして僕は戻るんだ、あの日の僕に…』って独白してるけどさ、普通なら『あの日』には戻りたくないんじゃないのぉ? あさみが云々より先に、人を殺した日じゃないか和賀にすれば。戻るんだどころかできることなら完全に、消去しちゃいたい日なんじゃない?」
「いえ、ですからそれらを全てひっくるめて…つまり三木が自分を訪ねて来たことから始まった全ての事柄を、和賀はリセットしようとしているんじゃないですか。少なくともこのチャイコの1番を弾いていた時の彼は、まだ殺人者ではなかった訳ですから。」
「でもそれはちょっと甘いよなー。人を殺す前の自分には、正直に罪を償わない以上絶対に戻れないだろぉ。ただまぁそれが判ってれば? トットと自首するだろうけどさ和賀も。」
「そうですよ。その単純な正解に辿り着けないからこそ、和賀の苦しみは続くんです。」
「じたばたじたばた悪あがきして、どんどんドツボにはまってく訳だね。そのあたりをもうちょっと掘り下げて、じっくり描いてほしいドラマだったよなー。だってこのシーンの最後の中居さんの表情、文句なしに素晴らしいじゃん。あの夜と同じようにチャイコの1番を狂おしく奏で、バン…と両手を止めたところで、彼女と出会う前の自分に和賀は戻った。その時の表情はまさに、第2回のあさみのセリフにあった『悲しい鬼の顔』だったよ。」
「ええ、ここでの表情はよかったですね。凄みの中に、どうしようもない哀しみのようなものが感じられました。」
「…で、その表情に冬の荒海がオーバーラップしてタイトルになると。ここんとこの構図もよかったなー。こんなふうに部分部分にはドキッとするいいカットがいっぱいあるのに、全体として見ると分散しちゃってる。もったいない回だったねこの回も。」


【 刑事たちの道中 〜 和賀の部屋 〜 宍道駅 】
「巡査時代の三木について情報収集すべく、今西と吉村が乗った列車は寝台特急『出雲』かぁ。でもこれって確か、いわゆるブルトレの中でも一番人気の列車じゃなかった? 指定券の発売開始後、たったの5分で売り切れるんだって。JRのドル箱どころか玉手箱だよ玉手箱。」
「いえ、申し訳ありませんがその情報は古いです。今は『サンライズ出雲』の方がメインで、寝台特急の『出雲』は、サンライズに乗れなかったか飛行機に乗れなかったか、どちらかの人のための列車という感がありますね。」
「あらそうなん? かつてはすごい人気列車だって聞いたけどね。ほらドー国行きの『カシオペア』とか『北斗星』みたいな。なぁんだ今は違うんだぁ。ふーん。」
「まぁでもどのみち、本庁の刑事がどうして飛行機か新幹線で行かないんだろうとは思いますよね。」
「うんうん私もつまりそれが言いたかった。ドラマ的に雰囲気優先だったんだろうけど、それにしても寝台特急ってのは現実的じゃないよね。最寄りの空港まで飛行機で行けば、そっからは地元の所轄がパトカー出してくれるんじゃないの? やっぱ前にも言ったけどこのドラマって、警察関係のシーンとエピソードがやたら古くさいよね。今や視聴者は『踊る大捜査線』の世界を知っちゃってるからさ、かつてのレトロな刑事ものは難しいと思うよ。SATだのプロファイリングだの、目新しいやつをしこたま見せられちゃったからなー。」
「でもあれはまた少々特殊な演出ですよ。どんな事件でも常にSATが出てくる訳ではないんですから。」
「ま、それはそうだけどね。そもそもこういう大筋から離れた批判ってのは、ストーリー自体が面白くて見てる者をグイグイ引っ張ってってくれれば、別にどうでもいいことなんだ。なのにどうしても細かいアラに目が行っちゃうのは、果たしてどうしてなんだろうって話だよね。詳しくは言わないけど。」
「ええ。そのへんはボカしておくのが大人の知恵です。」
「んでアラが目につきついでに横道にそれるけど、ここでの『宍道(しんじ)〜、宍道〜』ってアナウンスで思い出したのが、子供のころ従姉弟にシンジって子がいてさ、その子のお姉ちゃん…てのもつまりアタシの従姉妹なんだけど、道とか歩いてる時に2人してそーっとシンジの後ろに下がって、『シンジが前だから死んじまえー♪』 なんてからかってよく泣かしたもんだよ。いやー懐かしい。」
「いえ、からかって泣かしたんじゃなく、それはイジメて泣かせたっていうんですよ。嫌なお姉ちゃんたちですねぇ(笑)」
「あとね、『シンちゃん待ってー!』っつって立ち止まらせといて、『シンジが待ったから死んじまった〜♪』っつぅバージョンもあったな。聞いた親も怒ればいいのに、成程なかなか上手いことを言うもんだと感心してたからね。」
「シンジくんにしてみれば悲惨な子供時代でしたね。」
「だからさしずめこの駅に行ったらさ、駅名表示の隣にシンジを立たせといて、列車が着くたんびに『シンジー、シンジー』で大笑いしてたろうな。」
「とんでもない親戚ですね。一族郎党そろいもそろってネタ好きというか。」
「ま、そんな楽しい昔話は置いといてだ。ここでの注目は和賀の楽譜の書き方ね。スケール(音階)を2回繰り返したあと両手を交差させてのトリル(連打)になって、そういう音の設計図を楽譜に写しとるべく、鉛筆でスッスッと線を引いて音符を書き込んでいく動きが、超リアルだってたかみ〜が褒めてたよ。もちろん書いてるのは中居さんじゃないとは思うけどね。」
「なるほど。さすがたかみーは音大出ですね。学生時代に楽譜はもう嫌になるほど書いてきたんでしょう。」
「だろうねぇ。あたしゃホント楽譜だけは判んないわー。だけってもちろん他のことも判んないけども。」
「例えて言うなら智子さんが楽譜を見るのと、たかみーがVBのモジュールを見るのとで、ちょうど同じくらいの判らなさなんでしょうね。」
「だべさなー。『アプリケーション・ディスプレイアラーツ・イコール・ファルス』って何のことだか普通人は判んないよね。」
「判らないでしょうね。コンピュータの呪文に聞こえると思います。」
「まーかーはんにゃーはーらーみーたーみたいなもんか。知らないヒトにとっては大差あるまいのぅ。」


【 響 〜 路上 】
「さて続いては、ロッカーを片づけにきたあさみが後輩とやりあったり唐木と会話したりするシーンですけれども、これはあさみが精神的に傷つけられて追いこまれていく経緯を説明するのと、関川があさみの名前を知ることになるのと、2つの意味をもつ場面ですね。」
「そうだね。あさみは和賀を、自分がどうしても持ち得ない『強さ』を持つ男だと錯覚して惹かれていくんだけど、この回のラストで彼女に和賀にすがりつくという行動をとらせるためには、物語上あさみを徹底的に傷つけて苦しめて追いつめて、和賀の胸の中に崩れさせないと説得力がないもんね。そうしないとあさみもタダのいいわぁ星人になっちまう(笑)」
「そういうことですね(笑) かくしてあさみを追いつめるエピソードその1が、ここでのカヲルの攻撃的な言葉という訳ですけれども、やっぱり若いですねぇカヲルは。この喧嘩腰な物言いは、先輩の役を横取りする結果になった良心の痛みの裏返しでしょう。」
「ま、カヲルのキャラは多少類型的な気もするけどな。それにあさみの反応も、私テキにはちょっと大人しすぎる。母親の遺骨の前で義理の父親ブッ飛ばした女にしては、カヲルにあんなこと言われてただ悲しそうな顔して黙ってるより、『安心しなさいよ、あんたみたいな小娘恨むほどガキじゃないから』くらい言い返してやればいいのに。」
「それはまた怖いですね。もし智子さんが脚本を書いたら、女性キャラはみんな強いんでしょうね。」
「それについては否定しないでおこう(笑) んでこのシーンのもうひとつの意義は、関川が『成瀬あさみ』の名前を知ることだよね。」
「ええ。関川と唐木ってそういえば友達なんですよね。第1回の田所のパーティーで、和賀に唐木を紹介したのが関川ですから。」
「でもさ、この第4回の関川がらみのシーンって、ほとんどが偶然頼みなのがちょっと気になるね。夜の路上で和賀とあさみが2人でいるのを見かけたのも偶然なら、今ここへ訪ねてきてあさみの姿を見たのもたまたまじゃん。ストーリーの展開に対して必要だってのは判るけど、説得力となるといまいちだよねぇ。いやこれは関川に限った話じゃなく、『響』をあとにしたあさみが、ソアラが出てくるのを見かけたことで和賀の住まいを知るのも偶然なんだよ。なんかこのドラマってそんなんばっかり。」
「うーん…。確かにそのあたりがこのドラマの、欠点…というか弱点のような気がしますね。」
「弱点ね。それは言えてるね。欠点っつったらやっぱ伏線倒れが多いことじゃないの。ここでも宮田がさ、あさみと唐木の会話を聞いてる時の真剣さは、これは単にこのあとあさみの部屋に電話をかけてくるっていう、そんな簡単なエピソードのための伏線じゃない気がするんだよなー。例えば宮田はもうあさみの完全な味方になっちゃって、婚約者がいるのにあさみと関係した和賀を憎むか、あるいは和賀とあさみの仲を取り持とうとするかして、その結果和賀の過去と三木殺しを知ってしまい、原作通り和賀に殺される役どころだったかも知れないよ。」
「ええ、その可能性はありますね。このあたりではまだ、各キャラクターの設定も揺れていたということでしょう。」
「そろそろ中盤にかかるっちゅうのになぁ(笑) スピードアップしてペースを整えなきゃならない個所なのに、いつまでもフラフラしてやがるんだストーリーが。どっこいまたその一方では、これはいいなと思うセリフも随所にあるんだけどね。ここでも関川にあさみのことを『ここの女優?』って聞かれた唐木が、『そうだよ』って答えるセリフはいいよねぇ。実際のところあさみはもう『響』の女優じゃないのに、唐木はそれを否定しないんだよ。あさみはあくまでも女優なんだ、って言ってやる唐木の言葉には、彼女や麻生に対する彼独自の意識が窺えるよね。たった一言の『そうだよ』だけど、こういうのって脚本の醍醐味だと思う。」


【 奥出雲 】
「テロップに『奥出雲』と表示されるこの風景映像は、まさに『八雲立つ出雲八重垣』って感じがするよね。言わずと知れた八重垣の語源。あんたの名前はこの記紀歌謡からとったんだよ。もち、稲垣と八重垣でガキつながりなんだけど。」
「そうですね。名付け親ありがとうございます(笑) でも稲垣と八重垣ってどうも直結しにくいらしくって、いまだに僕は時々実在のキャラと勘違いされますよ。」
「ねー。たまに八重樫とか言う奴もいて笑っちゃうよねぇ。バッティングフォームの真似したくなっちゃうよ。」
「やめて下さいよ和明じゃないんですから。」
「おお『模倣犯』のワンシーンか。なんかすでにあの映画を懐かしく感じるのが、青組の贅沢さだよねぇ。えーとそいでもってこのシーンは、要するに今西と吉村の聞き込み捜査が全て空振りに終わったっちゅうことなんだけども、さっきの寝台特急に続いて時代設定のアレレレレ?がここにも大きく存在するよね。」
「ああ、蒸気機関車の給水塔ですね。」
「そうそう。20年前にはこのへんにも蒸気機関車が走ってたって聞いて、すかさず吉村が『子供の頃あったあった』なんて話合わせてるけど、嘘をつけ嘘を! 吉村って幾つだよおマエ。不肖ワタクシ昭和37年茨城生まれでありんすが、この私が子供のころの常磐線にだって、もう蒸気機関車なんて走ってなかったよ。ちなみに渡し舟はあったけど。」
「渡し舟ですか。そのあたりに日本の歴史を感じますね。」
「当時の利根川には確か、蛍がいたと記憶してんだけどなー…。それにメダカもオタマジャクシもうようよいたよ。夏は夕方になると長善寺の森でヒグラシがうるさいほど鳴いてね。そんなノドカな田舎町でさえ蒸気機関車はもうなかったのに、若い吉村が知ってるってのは不自然じゃないかねぇ。あたしゃ平成になって初めて、両毛線の線路をガッシュガッシュ走っていくD51を見て目がテンになったもんだよ。いやぁ蒸気機関車があんなに煙臭いものだとは思わなかった。石炭だか重油だかの焦げる匂いが、走ってったあともツーンとくるの。」
「匂いですか。こればかりは最先端オーディオ&ビジュアル機器でも伝えられない感覚ですからね。色や音と違って、嗅覚は記号化できないんです。人間にとって最初に目覚める太古の感覚だというのに、不思議なものですね。」
「ほんとだねー。蒸気機関車の匂いをナマで嗅いでみたいという方は、是非とも両毛線の踏切へおいで下さい。」


【 ラジオ局 】
「このドラマのオンエア期間中にねぇ、サムガに和賀ちゃんがゲスト出演したことがあってさ。『こんばんつぃんこ』と渋〜くご挨拶していたあれは、なるほどこの時の収録だったのかーと思ったね。このシーンにはそんな楽しみ方もある。」
「でも、TVじゃなくてラジオというのが、うーん…これもどうなんでしょうねぇ。寝台特急や蒸気機関車と同じ、レトロな演出の1つなんでしょうか。」
「あー、そっかそういう見方もあるか。関川のセリフに『売れっ子だねぇ』なんていうのがあって、んな今時ラジオに出るのが売れっ子かぁ?とか思ってたけど、レトロ演出の1つだとは気づかなかったな。つぃんこに喜んでる場合じゃないね。」
「で、このシーンの和賀は、初めて関川に対してグサリと言葉の矢を放ちますね。今までの和賀は常に柳に風というか、関川に何を言われてもクールに躱してばかりでしたけれども、ここで初めて嫌味なセリフで彼に応酬しています。」
「うん。思うに今回の和賀はかなり嫌なヤツとして描かれてるよね。このあとの田所とのシーンでも思ったけど、自分の野望のためには平然と人を陥れ、かつ利用してきた和賀英良の本性を垣間見る気がする。」
「最初に挑発するのはいつものように関川ですけれどね。成瀬あさみといい雰囲気だった、と言われた和賀はピクッと表情を変えますけれども、突かれたくないところを不意打ちされ、それで咄嗟に、攻撃という名の防御に出たというところでしょうか。」
「だろうね。人間てのは自分に余裕のない時こそ攻撃的になるからね。これって私、HPとかメールやるようになって気づいたことだよ。自分自身もそうだし、また他人もそう。誰かの言葉がいちいちカンに障るのは自分が現実にイライラしてる証拠だし、逆に誰かにヒステリーメールで喧嘩フッかけられた時なんかは、ああこの人は多分、いま精神的に余裕がないんだろうなーと思えるようになった。うん。」
「へぇぇ、大人じゃないですかずいぶん。えらいえらい。」
「インターネットっていうのはさ、バーチャルワールドの怖さと常に背中合わせではあるけども、その気になって賢く活用すれば人間的に学べることもけっこう多くて、いい精神修業の場だと思うけどね。ただ、あくまでも精神的に大人になってから入るべきだってのが前提よ。ホラこないだ九州の方で、同級生を殺しちゃった小学生の女の子いるじゃない。あの子についた弁護士だか何だかをTVで見た時、オイオイあんな枯れかけたじいさんで大丈夫かぁ?とあたしゃ思ったねー悪いけど。まぁ偏見かも知れないけど一般的に考えて、あの世代の人間がネットワールドの怖さと面白さを熟知しているとは思えないよ。ピースを誕生させピースを滅ぼしたバーチャルワールドの怖さってもんをね。
あんたは専門家だから感じてると思うけどさ八重垣、コンピュータの一番の怖さって、電源を切れば世界が消滅することだと思うもん。気持ちを切り替えれば即座にリセット可能な、自分が100%制御できる世界。これにハマる怖さだよね。どっこいこれが現実となると、そんな簡単にリセットなんてできない。何をするんでも誰かしかの存在が目の前にあって、価値観の相違に阻まれ世代のギャップに悩まされ、失敗すれば責任なんてもんまでとらなきゃなんない。そういう現実の重さと手ごたえを身をもって知っている大人でさえ、ネットワールドでは時々ヘンな錯覚を起こすもんだのに、世の中をロクに知らない子供がそこに入ってくなんて、小学生がウィスキー飲むのと一緒だよ。
だからさ、学校でお仕着せのネチケットなんて教える前に、これからは教師って教師が全員、バーチャル・コミュニケーションに関する心理学を修めた方がいいね。インターネットはある意味マスターベーションなんだ。自分ひとりで享受できる一方的な悦楽を覚えすぎると、生身の人間相手じゃイカなくなっちまう。それは違うぞ若者たちっ! ジブンでやるよかダレかとやったほーが、アレはぜってーキモチいいもんだ。うんうんうん。」
「まぁそのことに関しては僕も全く同感ですけれども(笑) バーチャル・インフルエンスの怖さについては、また場を改めて語りましょう。だいぶ話がそれてしまいましたよ。」
「おおホントだホントだ、いかんいかん。えーっとそれでは話をドラマに戻しまして、ここではつまり和賀の持つ鋭い牙が初めてギラッと覗くというのと、成瀬あさみの名は和賀に余裕を失わせる力を持っている、ってことがポイントだね。まぁ関川にすればあさみは和賀の浮気相手くらいにしか見えなくて当然だけど、和賀にとってのあさみはそんな惚れたはれたの対象じゃなく、自分が三木殺しの犯人だとバレるかどうかのカギを握る女な訳だからね。」
「そうですね。『ああ彼女ね…』とつとめて平静を装ってはいますけれども、和賀の心中は穏やかでなかったということでしょう。」
「そのあたりがさ、ADに呼ばれて立っていく時に灰皿でキュキュッと煙草を消す仕草に表れていたと思うね。ゆったりと灰皿に押しつけるんじゃなく、かなり強く左右にこすりつけてた。あと、煙草つながりで素敵だったのが、関川に煙草を1本いいかと言われた時の『どうぞー』って言い方だね。このあたりまではいつものクールな和賀なんだ。あさみの名前を出されるまでは。」
「『1本いい?』と言って近づいてくる関川のセリフにも、彼らしさが出ていますね。和賀のクールな仮面をひきはがしたくてたまらないという。」
「そうしたら思いがけず鋭い矢を射かけられて、関川も尋常でなく取り乱すって訳だね。それがやがて玲子をして、和賀と決別する行動をとらせると。物語はそういう風につながっていく訳だ。」


【 亀嵩 】
「一方こちらは現地で情報収集を続ける今西と吉村。例によってニュース番組の画面を思わせるテロップが、サスペンスタッチを強調してるよね。」
「このあたりの映像は本当に綺麗ですねぇ。今にして思うとこのドラマは、ストーリーというより映像美術へのこだわりの方が、強く印象に残っているかも知れません。不思議なドラマでした。」
「ねー。ここに出てくる上空からの映像も、なんかこのまんま『農村の四季』ってタイトルでカレンダーになりそうやん。入母屋(いりもや)の藁葺屋根。」
「桐原家のお屋敷もすごい造りですね。純日本建築といいますか。」
「すごいよねホント。法隆寺じゃないけど、木造建築の底力って感じがするね。コンクリートは100年しかもたないのに木材は千年もつっていう…。まぁあたしも一応ハウスメーカー勤務のOLだけどさ、有名な旅館に泊まったり文化財の建物見たりしたあとで住宅展示場の家を見ると、どれもこれも所詮は安モンだな〜と思うもんね。なんか陳腐な感じがする。」
「あの、現役の社員がそんなこと言っていいんですか?(笑)」
「いやだからウチの会社の製品だけじゃなくてさ。現代のハウスメーカーが造る家なんて全部ってことよ。展示場に建ってるどのメーカーの家も、この桐原邸に比べたらオモチャだぁね。気品と貫禄が違う。」
「まぁそれは言えますね…。もちろん価格面のメリットや性能の均一化といった長所もあるんでしょうけれども。」
「工業化住宅って、いってみればデジタルなんだよね。みんなが持てる80点。レートでいえば9.2(笑) 対する桐原邸は一部の人だけが持てる100点であり、高級テープに標準で録ったアナログビデオの映像なんだ。この2つを比べてみて一概にどっちがいいとは言えないけどもさ、仮にもし群馬銀行中居支店のアタシの口座に10億円あったらね? 1軒は自分の会社で建ててすぐ人に貸すか何かして(笑) 自分の住む家は宮大工さんに頼んで粋をこらした純和風建築にしたいね。センターキッチンだのセントラル給排水だのサーキュレイション・プランだのそんなのはどうでもいいから、長押(なげし)の木に1箇所も節目のぐるぐるがないような、天井板の木目が全て同じ紋様になってるような、台所の板間(いたのま)も磨けば磨くほど光ってくるような、そういうこだわりの家を造ってみたいよねぇ…。んで床の間には柿右衛門の焼物と中居さんの絵姿を飾るんさぁ。わっはっはっはっどうじゃー!」
「でも悲しいかなそれだけの木材が、今はまず手に入らないんじゃないですか。節目のない木も揃った木目も、大木を1本丸ごと使わないとできない技ですから。」
「だろうねぇ。まず全国から檜の名木を探し出してそれを1本買って…みたいなとこから始めなきゃ駄目なんだろうね。そういう貴重な材木を惜しげもなく使ってるのが、この桐原邸なんだろうな。今はもう造れない本当のお屋敷だよ。建物だけじゃなく雪の庭園も見事だし、それにつりあうべくスタッフが選んだと思われる、小道具の湯飲みもすごいの使ってるよね。チラッとしか映らないのにえらく存在感があった。」
「そうですね。美術さんか小道具さんか、気合入ってますよねぇ。」
「なぁんつって舞台装置の話ばかりじゃなく、シーン自体を見ていくとだね。よくよく考えれば桐原さんがここで、秀夫のことを全く語らないのはおかしな話だよね。三木が世話した『浮浪者の親子』の、その父親の方が殺人犯だと判ったからこそ、住民は村ぐるみで秀夫を苛めたはずなのにさ。それについては都合よく封印しちゃって忘れたつもりで語らないとすれば、ずいぶん勝手なジジィだよ桐原さんも、村人たちも。」
「その件は確かもっとストーリーが進んだあとで、出てくるんじゃないですか。今西がもう一度亀嵩に来て、桐原を問い詰めるシーンが記憶にあるんですけれども。」
「うん、あったかも知んない。確か第8回か9回あたりだよね。善人の見本みたいな三木を、恨む…とまではいかなくても、彼の元を“逃げだす”という否定的な行動をとったただひとりの人間が、浮浪者親子の息子の方だったはず。それをここで今西に教えてやれば、有力な情報になったはずなのにね。」
「でも、その子供が出ていった理由は村人たちの苛めなんですから、それを今西に知られることを、桐原さんは恐れたんでしょうね。」


【 船内 】
「さてこれはまた亀嵩の純和風シーンに対比させて、えらくヨーロピアンな世界になっとるな。東京湾クルーズの船内かしらん。はたまた隅田川の川下り?」
「隅田川の川下りはないでしょう。いくらレトロな演出に走っているといっても、利根川の渡し舟じゃないんですから。」
「うんにゃ東京湾クルーズには屋形船も出てるぞよ。竹芝桟橋だか日ノ出桟橋だか、あのへんから出るんだよね。季節は違うけど田町から浜松町にかけてのサラリーマンにとって、東京湾の船は納涼大会の定番じゃけん。」
「でもやっぱり和賀に屋形船は似合いませんよ。そんなことより僕がここで気になったのは、綾香の言う『交響曲』のひとことですね。『宿命』はピアノ協奏曲なはずです。シンフォニーではなくコンチェルトですよね。」
「そう、それについては大中居小中居めぐりの時にY田さんとも話したんだけど、よもやスタッフが交響曲と協奏曲の違いを知らなかったっつんならともかく、ドラマ的に解釈すればね、綾香とそれに田所は、この2つの区別がつかない人間である…つまりこいつらは和賀の真の理解者ではないってことを表現してるんじゃないかと。また同時に和賀の方も、いや協奏曲だよと訂正せずに綾香と会話を続けているからには、彼女に自分の世界を理解してほしいなんて、願っていないってことだよね。」
「ああなるほどね。田所親子は和賀にとって、自分の野望のために利用する相手にすぎない訳ですね。」
「うん。だからここでの和賀のセリフは全てが芝居なんだよ。もっともいつだったかビストロのゲストに野球選手が来たときに、奥さんが野球を全く知らないんで逆に楽だって話があったけど、もし和賀もそっち派なんだとしたら、『完成したら誰よりも先に聞いてもらうよ』なんて言わないでしょお。作曲家なんてのは自分の世界にこだわりがなかったらできない商売なんだから、交響曲と協奏曲の区別もつかない人間の、中途半端な賞賛なんて嬉しくないと思うよ。理解するなら本当に理解する。逆に、興味がないならきっぱり別世界にいてほしい。配偶者に求めるのはそのどっちかだと思うね。」
「なるほどね。じゃあ和賀がここで綾香に、完成したら云々と言うのは完全なリップサービスだということですか。」
「そうそう。芝居芝居。『宿命』は僕たちにとっての新しいスタートだっていうのもね、そもそも『宿命』ってのはそんな明るい曲じゃないだろう。人生の新たなスタートを飾る曲っていうんだったら、ドボ先生の『新世界から』みたいになるんじゃないの? あの第3楽章しょっぱなの派手な金管、あんな曲調なら判るけどねー。」
「まぁ過去との決別という部分を拡大解釈すれば、『宿命』を書き上げることが和賀にとっての再出発だという意味にはなると思いますけれども、ただ、理解者ではない女性との新しいスタートとなると、うーん…。やっぱりちょっと違う気がしますね。」
「そんな腹に一物二物な和賀に比べて、綾香は嬉しそうだねぇ。『息抜きは必要よね』ってセリフは関川のセリフと引っかけてあるんだろうけど、綾香にとって和賀は、『父を超越してくれる人』なのかも知れないと私は思ったね。これまでの綾香の世界では、父親が絶対権力者だったんだと思うよ。まぁ愛情といえば確かに愛情には違いないし、綾香はその頑丈な温室の中でぬくぬく育った世間知らずではあるにしても、父親が認めないものは頭っから許してもらえないという、お嬢様ならではの苦悩もなくはなかったと思うんさ。着るもの・習い事、ひょっとしたらつきあう友達まで、父親の意志によって決定されてきた綾香は、『結婚したら日本を出よう』と言ってくれる和賀が、すごく大きな男に見えたと思う。世界を目指す男にとって、日本の政治家なんて屁でもないやね。父親の周りでペコペコ頭下げてる輩とは、全く違う男に見えたんだよ和賀が。」
「でも、そういう綾香の思いはこれまた、和賀にすれば利用しやすいポイントでもあったんでしょうね。さっきのラジオ曲のシーンでも出ましたけれども、今回の和賀はすごく嫌な面が強調されているかも知れません。相手の感情をうまく利用してのし上がる、そのためには作品すら手段にしそうな男として。」
「そうなんだよね。魂をこめた作品なら、いかな理由にせよ目的のための手段にするのは耐え難いはずだよ。理解者だとは思っていない人間との会話の、話題に上らせるのさえ嫌悪感があるかも知れない。素人ながらあたしだって、もし『クインテット』をSMAPの後輩グループで映画化するから権利を売れなんて言われたら100億積まれたって断るもん。その代償として国をひとつやると言われても嫌だ。でもこの時の和賀なら、ひょっとしたらOKするかも知れない。つまり演奏においても作曲においても和賀はテクニックにばかり走っていて、創作者としての真の誇りを失っていたのかも知れない。どっこいそれをあさみによって…つまり彼女の演劇に対する真剣さによって、取り戻すなんていうエピソードがあったのかも知れないね。まぁこれについては田所のシーンと重複(ちょうふく)するんで、またそこで改めて語るよ。」
「じゃあこのシーンはこれくらいにして、先に進みますか。」
「あ、待って待ってあと1つ。綾香の信頼しきった微笑みを受けてグラスを傾ける和賀のね、右中指が不自然に浮き上がってるのが痛々しいなぁと思って。中居さんいまだに絆創膏巻いてるもんね。爪まで完全に元に戻るのは、やっぱ1年かかるのかぁ。」
「そういえば去年の9月だか10月でしたね、中居が右手をぐるぐるにして画面に登場したのは。」
「ええええ忘れもしないあれは9月29日の秋祭の夜! 伊香保温泉でヒトを半泣きにした包帯野郎っすよ。ッたくあの時は心配させやがって中居のバカー!」


【 麻生の部屋 】
「ここがまたナゾだらけの、麻生によるあさみイジメのシーン。毎回毎回なんでここまでひどいこと言うのかなぁと、首をかしげちゃうよね。」
「ええ。麻生はあさみに何がさせたいんだろうと思いますね。彼女の持つ衣装センスに惚れこんでいるとも思えませんし…。」
「ねー。しきりにこくびこくびしちゃうよね。『長い間お世話になりました』って礼にかなった挨拶してるあさみなのに、わざわざ呼び止めて『後ろ姿がみっともないぞ!』とかさー。肩の力は30過ぎた人間には邪魔なだけだとか、大きなお世話じゃんか。何なんだろうね麻生って。あさみが本当にどうでもいい相手ならさ、こんなに強く感情を交えないよなー。」
「マザーテレサの言う通り、愛情の反対は憎悪ではなく無関心ですからね。才能を見限ってクビにした女優なんて、とっととどこへでも行けっていう気分じゃないかと思いますけれどねぇ。」
「てことはやっぱあれかな。ここまで言われても女優をやめようとしないあさみと、目的のためなら作品を『売る』ことも厭わない和賀との対比を強調するって面が強いのかな。あとは前にも出た、あさみを和賀の胸に倒れこませるためのエピソード。後輩カヲルの態度に続き、麻生にも傷つけられて追いつめられるあさみ…。」
「でも、それにしても麻生の仕打ちには必然性がないんですよね。」
「つーか逆に麻生に存在感がありすぎるんじゃないの? 市村さんオーラ出し過ぎ、みたいな。これだけの役者さんを配してるんだから、麻生ってキャラには何かあるに違いないとこっちが無意識に期待しちゃうのかも知んないね。悪ズレした視聴者だなー(笑)」
「そういうのってキャスティング上は、成功なんでしょうか失敗なんでしょうか。」
「さーねー。どっちだろうねー。」


【 奥出雲 】
「情報収集も2日めになり、三木のことを誰ひとり悪く言わないなんて変だと吉村は苛立ちますけれども、実はこの吉村のカンは大いに当たっていた訳ですね。」
「そうなんだよね。三木がどんなにいい人でも仙人じゃないんだから、生身の人間が日常普通に生活していれば、何か1つくらいはネガティブな話があって当たり前なのにそれがない。そりゃあそうだよ村ぐるみで隠していることがあるんだからね。」
「秀夫のことは、誰かの口から出てくるはずですよね。三木が助けて世話をしていた浮浪者の父親は実は殺人犯で、その息子を三木が引き取ったんだけれども村じゅうの人間が苛めるだけ苛めて、とうとうその子は村を出ていってしまった。すごい大事件じゃないですか。」
「しかし私がふと思ったのはね? 三木が間に入るとみんな納得して揉めごともおさまったにしてはさ、そんなカリスマ三木さんが引き取った子なんだからと、みんなで秀夫を可愛がることはできなかったのかねぇ。三木も三木でさ、鉄砲水に飛び込んで人命救助するくらいのヒーローなら、秀夫を苛める奴の家を1軒ずつ回って、説得するくらいすりゃあいいじゃん。やっぱこのへんのラインが、三木さん善人伝説の限界だね。」
「いえ、といいますかですね、善人伝説はむしろそのあとで出来たと考える方が自然なんじゃないでしょうか。あれだけ苛めてはいたものの、いざ秀夫がいなくなってみると、残された村人たちにとっても後味の悪い事件だったんですよ。当然三木も悲しんだでしょうし、子供相手にお前らの仕打ちはひどぐねがったか?と村人に怒ったかも知れません。そんな後ろめたい気持ちが変化して、この異常なほどの三木賛美に変わったのかも知れませんよ。」
「なるほどねぇ…。それは深い解釈だね。つまり誰かを苛めるってことは、苛められた側だけじゃなく苛めた方の人間にとっても、それだけ深い傷を残すってことだ。」
「村人にとって秀夫の件は、天に吐いた唾みたいなものだったかも知れませんね。」
「ほんとにそうだよ。『和をもって尊しとなす』と言った聖徳太子は正しいねぇ。―――ところでこのシーンに出てくる神社を見て、『岐阜の中居神社もあんな感じですか?』ってメールくれたビジター様がいるんだけども、いやいや中居神社はもっと広ぅございます。何せ境内に釣りのできる川が普通に流れてるくらいでして。今西たちが神頼みした神社は小高い丘の上にあるけど、中居神社はモロに山の中の神社ですね。」
「でも読み方はチョウキョ神社なんですよね?」
「そうそう、中居神社はナカイ神社ではありません。公式HPのタイトルにも、しっかりフリガナがふってあるんで確認してみて下さいまし。『Yahoo!』で探せばすぐ見つかると思います。」


【 放浪シーン 〜 和賀の部屋 】
「ほんの一瞬といってもいいこの放浪シーンには、吹雪というか吹き荒れる風の音が入ってるけど、これってナウシカのオームの声に似てると思わない?」
「ああ、似ているかも知れませんね。あの何かがキュウキュウきしむような、うなるような音ですね。」
「その音がスパッと消えたところに、右斜めからの和賀の目の大アップ。これにはドキッとしたねー。野獣か猛禽みたいな鋭い目。おそらく和賀の心には、時折こんな風が吹く時があるんだろうね。遠い過去からの氷の風。忘れるな、気を許すな、みんな敵だ…と繰り返すような。」
「そしてそんな風の吹く時は、和賀の心をひときわ厚い氷が覆うのかも知れませんね。」
「だろうね。冷酷で攻撃的な、嫌な男になる時だ。三木を突き飛ばした時にも、この風が吹いていたのかな。んでここで玲子が和賀の携帯にかけてきて、関川に何を言ったんだと聞く訳だけど、それに対しても和賀はやっぱり嫌味な答え方してるもんね。」
「関川はよほど荒れていたんでしょう、玲子の部屋には彼が壊したとおぼしき調度のようなものも見えます。ラジオ局の控室で、関川にあさみの名前を出されたことによって和賀は攻撃に回り、その和賀の発言に今度は関川がグサリとやられた。この2人は一種相打ちになったようなものですね。」
「んでその結果、こうして玲子の前で荒れ狂っちゃった関川は、和賀に比べてずっと人間くさいよね。だって関川は玲子にだけは、素の自分になって八つ当たりできる訳だからさ。対して和賀はあくまでも孤独。心の鎧を脱ぐ相手はどこにもいなくて、『関川が君に愛されていることが判ってよかったよ…』なんてシニカルなことを言うんだね。」
「ですがそれを言われた方の玲子の心境が、僕は少し説明不足な気がするんですけれども…。電話を切ったあとの意味ありげなアップには、もしや玲子は和賀を裏切るんじゃないか?という、期待もたせの感も見受けられますよね。」
「それはあるよねー。映像美に凝ったり象徴表現に凝ったりと高尚なことをしながらこのドラマ、ある部分では変に視聴者の興味を『釣りにくる』ところがある気がする。多分それもさ、ドラマ全体を鳥観してみた場合のバラバラ感の1つだろうね。」


【 公園 】
「このシーンは智子さんの大嫌いなナレーションで始まりましたね。でも確かこれが最後のナレーションだと思いましたけれども。」
「そうそう。ほんっっとにこれで終わってくれてよかった。このシーン最初の和賀の横顔は溜息モンだし、足を軽くクロスさせた立ち姿も絶品なのに、ッたく余計なもん入れやがって。『氷のような心で自分を守ってきた』 だの 『僕自身がかすかに凍え、震え始めていた』だのって、そんなのはさっきの放浪シーンの風の音と、和賀の目の動きと表情で鮮やかに表現しきってるっつうのに、わざわざマヨケチャップ塗り直さなくていいんだよ。ほんに余計なお世話だったらありゃしない。ああもううぜぇのくでぇの何のって、蛇足蛇足蛇足!いーらーねーぇー!」
「まぁまぁまぁ、これが最後で本当によかったですね。」
「つーか、くどいのはナレーションだけじゃないけどねー。悩み顔で歩いてきたあさみがソアラを見つけて目をあげると、そこには和賀の姿が…っていう展開は正直またかと思った。何度ここで会えば気がすむん。あの夜あれだけカッコつけて別れたなら、たちどころの再会ちゅうのは気まずくないか? どっちかがしばらくの間は、この場所を避けそうなもんだがなぁ。それとも2人とも心の底では、無意識に会いたいと思っていたって? んな、ゲツクの主人公じゃねんだからよー。まぁあさみを見た和賀が微かに笑っていることから考えて、大人な和賀の中ではもう整理がついた話だったと解釈することもできるけど、こうもシチュエーションが同じだと、な〜んだかなー…。手袋という小道具があるとはいえ、オイオイまたここで会うんかい、って印象はぬぐえないと思うよ。」
「確かにこのあたりのエピソードにはもうひと工夫ほしいところでしたね。あさみは和賀になら自分の思いを素直に話せるんだということには、十分な説得力があるだけにもったいなかったです。」
「そうなんだよね。あれだけ心配してくれてる唐木に対しても、まだ強がりみたいなものがあるあさみなのに、和賀にはかなりヘビィな心境を淡々と語れる。やっぱこの2人は、過去の苦悩の度合いは違えど、修羅の匂いという点では通じるものがあるんだろうね。」
「修羅ですか。宿命の別名ですね。おそらく唐木は普通の家の普通の子供で、そこが和賀とは違うんでしょう。」
「このシーンの和賀にはさ、貫禄っちゅうとちょっと褒めすぎかも知れないんで落ち着きって言い方するけど、そんな落ち着きを感じさせられるね。『君の選んだ生き方は、そんな一言で崩れ落ちる程度のものだったのか』って言ったあとの、『うん?』の表情。これがたまりませんなぁ…。20代のあんちゃんには決してできない、31歳の男の表情だよね。」
「またここでの和賀は、関川や玲子にはあれだけシニカルに接し、綾香に対しては偽りの言葉を並べていたのに、あさみにだけはエールにも似た力のある言葉を向けますね。そういえばこのシーンの水面は凪いでいます。景色全体が穏やかな夕暮れ色に染まっているのも象徴的かも知れませんね。」
「和賀の心の風は、今は止んでいるってことか。その都会の夕暮れに重なって、場面は今西たちのいる出雲・亀嵩に移る訳だ。」


【 亀嵩駅 〜 今西の家 】
「結局何一つ有力な手がかりは見つからないまま帰京する今西と吉村。本部への電話で今西は、『ただ…』っつって言葉を切ってるけど、果たしてこの時何を言おうとしたのかね。『ただ、ここには何かあると思うんです』って感じかな。」
「さぁどうでしょうね。そのあたりはどうとでも解釈できる個所ですから…。」
「どのみちあんまりあとには繋がってないセリフだよね。それと、このホームでの吉村…つうか永井くんの芝居が、いやぁこっちが恥ずかしくなるくらいクサいねー! 正義漢で熱血漢。なんか10年前の中居さんを見るようだよ。」
「でもこの犯人への怒りが、吉村を執念の証拠発見にかりたてる訳ですからね。その意味では必要な熱血ぶりだと思いますよ。」
「それはそうなんだけどね。羽後亀田の時は吉村が必死になっていて、今西は途中から醒めていた。でもここでの今西は、何ともいえないひっかかりを捨てられないんだね。」
「今西の視線の先にある線路は、第9回でまた登場しますよね。全てはここから始まったという今西の直感は、見事に当たっていた訳です。」
「しかしさ。電話で今西は今夜中には戻れるって言ってるけど、行きに比べて帰りはずいぶん早くない? 確か12時間かかったとか言ってたべ? それって単に出雲三成に寄ったからなん?」
「いやおそらく帰りは飛行機だったんですよ。そもそも特急電車で行く方が不自然なんです。亀嵩駅から電車で向かったのは、最寄りの空港へのアクセスポイントまででしょう。」
「だよね。それが21世紀の警察捜査だよなぁ。んで次の今西宅のシーンでは、元刑事だった父親と今西との間にも、修羅が…またの名を宿命があったってことが判るのか。息子が誘拐されかけたことを気にも止めていないと思っていた父が、俺のせいだ刑事を辞めると繰り返すほどに後悔していたとはね。」
「介護が必要な身になって初めて、それを言葉にしたというのも男親の哀しさですね。善し悪しはまた別として。」
「うん。けっこういいシーンだとは思うんだけど、またまたストーリーとは全然関係のない個人的観点によって、あたしゃこのシーンが生理的に嫌いなのよ。小腹すいちゃった、って今西が言って空気を変えるのは長年連れ添った夫婦の知恵だから肯定するとして、お茶漬けを出す時に女房がさぁ、なんで食器をお盆にも乗せず箸置きすら出さないの。細かいことだけどすごく嫌だこういうの。今西は今西でさぁ、出雲くんだりから帰ってきてコートも脱がずに炬燵で茶漬けか? ちょっと待てよ手くらい洗いな。女房もそういう場合は絞ったフキンでも持ってきて、食う前に手ェ拭かせなさいって。そういうのはお金のあるなしに関係ない、生活の『正しさ』ってもんなんだよ。それをなくしたら人間はおしまい。精神的に貧乏になるな。人んちのクロゼット勝手にあける奴と同じくらい嫌だね。」
「ははぁ、成程(笑) そういう主張がある訳ですね。」


【 玲子の部屋 】
「今クロゼットの話が出ましたけれども、燃やしそこねた例のセーターを玲子はクロゼットの奥にしまっていたんですね。焼却炉が閉鎖されて燃やすに燃やせず、捨てるに捨てられずもてあましていたんでしょう。」
「でもって床に中身をぶちまけて調べてみると、どうも血痕としか思えないシミが確かにある…。ここで玲子が見せる表情は、和賀への携帯を切ったあとと同じ意味ありげなもので、もしや玲子はこれを持って警察に行くのか?と疑おうと思えば疑えるね。」
「ええ。ここも思わせぶりのリピートでしたね。少々くどかったと思います(笑)」


【 和賀の部屋 】
「ピアノの蓋をそっと閉める和賀ちゃん。今日のお仕事はおしまいってことだね。んでヤレヤレとソファーに移って煙草に火をつけたところで、手袋と一緒に入っていたあさみの手書きのメッセージカードを見、和賀の心に一瞬だけ暖かいものが流れた…っていうシーンなんだろうけど、それよりもこの場面の存在意義は、いいわぁ星人のためのサービスシーンという色合いが非常に強かったね。もぉもぉ和賀ちゃんがチョー素敵だったものぅ。」
「なるほど、そのへんはスタッフもぬかりはないですね。」
「ソファに座って煙草に火をつける手元といい、カードを手にする煙なめのアップといい、憂いに満ちたこの和賀の表情は、さっきの公園シーンの冒頭の横顔と双璧をなす、第4回のベストショットだね。なんか直江先生っていうのは『綺麗』って言葉がピタッとはまるキャラだったけど、和賀はもうちょっと精悍さのある、『いい男』って表現がふさわしいよね。てゆーか最近の中居さん自身、えらく男っぽいもんなー。体つきなんかも青年から”壮年”に移ってる感じがする。枝が幹になるとでもいうか、成熟した男の魅力ってヤツよね。きゃぴっ♪」
「はいはいちっとも可愛くないですよ。そんなパチパチまばたきすると眼精疲労になりますからよしましょう。」
「あーこめかみ凝ったぁ〜…。うっ偏頭痛がっ。」
「ほらご覧なさい。熱さまシート貼りますか?」
「いいいいいい、それ貼った顔は自分でもかなり笑える。」


【 ゴミ捨て場 〜 捜査本部 〜 玲子の部屋 】
「あさみと今西の奥さんがゴミ捨て場でハチ合わせするシーン。ここはもう全編随一といってもいい、明らかな伏線倒れの場面だね。見返したスタッフも早送りしたい個所だろうて。」
「もしかしたらこの2人は、このあと今西の家でお茶しててもおかしくない雰囲気ですよね。ですが今西の奥さんて、このあとも登場するんでしたっけ。」
「さー…。とんと記憶にないんだよなー…。これが最後だった気もするけどねー…。そもそも中盤のエピソードってさぁ、ふりかえってもほとんど印象に残ってないんだもん。」
「ええ、本当にそうなんですよね。全体的に印象が散漫なんです。」
「このへんのシーンもさ、今西が捜査本部でパンかじってたり玲子が元セーターを袋に詰めてたり、細かいシーンをぶつ切りで繋げることで何とかテンポをよくしようとした感があるけど、あんまり成功してるとは言い難いよね。」
「細かいシーンを次々つなげばテンポがよくなるって訳じゃないですからねぇ…。むしろ散らかっていますよ。全体のカラーに統一がとれていない。」
「なんかけっこうカラい見方してるねうちら(笑) 辛口座談会だな今回は(笑)」
「まぁたまにはこういうのもいいんじゃないですか? いつも基本的には褒めるコンセプトなんですから。」
「そうだね。でもけなすって行為は低気圧と同じみたいで、周囲からネガティブなもんが色々飛んでくるから気をつけないといかんのだわ。悪口言いたくてたまらない人からの、同志を見つけたといわんばかりのウズウズ・メールとかね。おーくわばらくわばらだ。」


【 田所の事務所 】
「さぁて! ここでは言いたいことが色々あるよぉー。まずはね、何度かリピートしてて判ったんだけど、あの隅田川ナイトクルーズで和賀が言った、結婚したら日本を出よう発言はだねぇ、…」
「やっぱり隅田川と決めるんですかあれ(笑)」
「えー隅田川じゃ駄目っすかぁ? んじゃ石狩川で。」
「遠すぎますよ(笑) ヘリで行ったんですかあの2人は。」
「判ってるって冗談冗談。あんな鮭の大群がどしどし遡って熊と戦ってるような川に、ヨーロピアンテイストの船は似合わないよ。…だから隅田川での和賀の一連の発言はね? 最終的に田所から、『君の大いなる野望に協力しよう』って言葉を引き出すための作戦だったんだなと思ってさ。渡航費用も向こうでの活動費用も、和賀は最初っから田所に出させるつもりだったんだべ。具体的な結婚時期の話と、結婚したら海外に行くという話を綾香から両親にさせれば、その幸せ一杯な娘の顔に田所が動かされて、協力してやると言うに違いない。協力するに当たってはまず婚約発表をしろという条件も、あえて田所の方から出させるのが和賀の腕だと思うね。田所にしてみれば和賀を思い通りに従えているつもりだろうだけど、和賀にすれば自分から動いたり頭下げて回ったりしなくても、お膳立ては全部田所がやってくれる訳じゃん。こんな楽な話はないよ。」
「『宿命』のことを尋ねられた時も、『自信があるから作るんです』と和賀はきっぱり言い切っていますよね。それを聞いた田所は実に嬉しそうに笑いますけれども、田所という男がこういう野心を好きであることも、和賀は先刻承知の上なんでしょうね。」
「だろうね。代議士だの政治家だのっていうのは、とにかくエネルギッシュじゃなきゃつとまんないだろうから、田所も自分と同じように、野望の達成に貪欲な男が好きなんだろうね。少なくともヘンに理屈つけて高尚ぶってる学者肌の男みたいなのよりは、同類意識を持てるんじゃないかな。」
「娘婿として肩入れするだけでなく、人間的にも田所は和賀が気に入っているんでしょうね。もちろん和賀が気に入られるようなふるまいをしているんでしょうけれども。」
「ここでのさぁ、綾香に向ける和賀の笑顔の嘘臭いことったらどうよ(笑) 芝居臭さプンプンじゃんか。隅田川の船で交響曲云々を訂正しなかった通り、和賀は綾香を真の理解者だとは思っていないし、また求めてもいない。だからこそ笑って芝居ができるんだよね。綾香のことも田所のことも、和賀は腹の底でなめきってるんだ。ッとに嫌な男だね。美しい悪魔だよモロ。」
「でもさっきも出ましたけれども、この回は2004年版『砂の器』の名にふさわしく、人間・和賀の性格描写に力を注ごうとしたのは間違いなさそうですね。ただそれが全体を通して見た結果、成功したかどうかはさて置いても、狙い自体は意欲的でよかったと思いますよ。」
「そうだね。利己的で冷酷な人間だった和賀が、過去をひきずったままでしかも純粋な夢を捨てない成瀬あさみという女性と接してどう変わっていくのか…。そのあたりをじっくり描いてほしかったのに、なんであんな中途半端なサスペンスにしちゃったんだろう。」
「うーん…。まぁこれは僕の邪推なんですけれども…少し今西をフューチャーしすぎた感が、ないとはいえないんじゃないですか。その、タイミング的にもアカデミーの件とか、ありましたからねぇ…。」
「そうそうそうなんだよね。それにはアタシも全く同感だよ。さらに邪推を逞しくすればこのあたりはさ、第1回で取れすぎた数字が、ズルズルズルッといった個所だと思うんだ。んでこれはイカンと慌てて立て直すための方法として、やはり第1回は映画のネームバリューで見た人が多いんじゃないか、だから映画と同じカラーを出せ、もっとサスペンスタッチにしろとかって意見が出ちゃったんじゃないかなぁ。同時にアカデミー絡みの話題性も、大いに活用しようとした。どっこい今西刑事をクローズアップするとなると、原作及び映画のアプローチとモロ同じになってしまう。そんなのは『砂の器2004』でも何でもなく、ただのオマージュになり下がるじゃないかという反対意見も、当然あったと思うんだ。そんなこんなで制作側の意見が大きく割れたせいで、ストーリーや設定が揺れるだけ揺れて一貫性がなくなってしまった。かくして選び取られた最終的な方向は、無理をしてオリジナル設定に走ってそれ見たことかにならないよう、あさみや麻生や今西の奥さんといったドラマならではの設定を大きく削り、冒険という名のリスクを捨てて既成イメージに近づけることだった。従って最初のコンセプトからは大きく変えざるを得なかった…。大概こんなところじゃないかと思うけどね。」
「まぁボランティア団体ではないTV局にとって、数字というのはやはり大きいでしょうからね。綺麗ごとを並べられるのは、お気楽な素人の特権です。またこのドラマはオンエア前から『白い影』の時よりはるかに注目されていましたし、それだけ内外の期待も大きかった。数字的失敗は許されなかったんでしょう。」
「とどのつまりはその被害が、バラバラな設定とちょん切れたエピソードによる不完全燃焼となって現れたんだろうね。なんかさぁ、あたし前から思うんだけどね八重垣。オンエア前も最中も制作側はやたらと映画『砂の器』を名作だ名作だって祀り上げてたけど、視聴者の中には映画を見てない人の方が多いんじゃないの? 映画ってのは100万人見ればとりあえず大ヒットと言われるけど、TVはその20倍の人間が見る訳だからね。数的にそもそも比較にならないんだよ。ごく一握りの映画ファンが褒めるものを、何もみんなしてありがたがる必要はないよねぇ日本国憲法でも古今和歌集でもないんだから。ッたくスタッフの信仰に視聴者つき合わすんじゃねーよ。そんなこと平気でやってるから、見てごらんなこのドラマの完成度の低さを。時代設定すら微妙に無理があるまま中途半端に引きずって、どうにも印象の散漫な雑然たるドラマになっちまった。」
「ははぁ(笑) 何ですか今回の座談会は、気持ちいいほどズバズバいきますね。」
「ま、ズバズバいける理由はただひとつ、とにかくあのラストシーンだけは素晴らしかったということさ。これを野球の試合に例えればだね、ワンナウト1・3塁のチャンスが何度も巡ってきて、ここでヒットが出るかここでヒットが出るかとメガホン握りしめて待ってるのに、再三再四チャンスをつぶして無得点。これはもう駄目かも知れないと、口には出さずとも皆が思っていた9回の裏。ツーアウト・ランナーなし・ボールカウントツースリーという場面でようやく、胸のすくような場外ホームランで勝利したと。そんな感じのドラマだったよね。でもって今うちらは、結果の判っているその試合のビデオを再生しながら、ここのゲッツーがよくなかった・ここのフォアボールはダメだったと、ブツブツ言ってるようなもんだから。」
「それはなかなか面白い例えですね。つまり実況中継ではないんですねこの座談会は。」
「そうそう。最後は勝つことが判っているから平気で批判できる。じゃなきゃこんなコワイこと平気で口にするかいな(笑)」
「ですよねぇ(笑)」
「まぁ、あとはこれも勝手な素人考えだけどさ、外野の声にさぞや苦労したに違いないスタッフも、ラストシーンに対する自信だけは絶大なものを持っていた気がするね。着地を確実にキメるウルトラEの隠し球はある。だから多少の方向転換なら耐えられるんだ、みたいな。」
「そうかも知れませんね。もちろん想像の域を出ない話ですけれども。とにかくこの第4回のあとは、ヒロインたるあさみの登場シーンがガクンと減ったんですよね。それに関川も、麻生も。」
「減ったよねーメチャクチャ減った。んでその分 今西系が増えたんさ。いや別に謙さんが嫌いなんじゃないのよ。鬼刑事なのにどこかチャーミングな今西は、謙さんならではの魅力的なキャラだったと思う。だからこれねぇ、そんなのは無理だと承知の上で空想の翼を広げればね、もう一度2時間ドラマの前後編、つまりトータル4時間という珍しいパターンでやってみればいいのにね。目標数字は15パー。それ以上は欲を出すな東京放送(笑) んで演出は福澤さん1人。独白ナレーション厳禁。映画についてはきっぱり忘れる。いっそのこと和賀はピアニストなんかじゃなく、タモリ目指してオンエアバトルに出演中のピン芸人って設定でいこうよ。綾香は吉本の社長の娘。麻生はエイベックスの社長で、あさみはデビュー待ちユニットのリーダー。んで関川はゴールデンタイムのバラエティを仕切る辣腕ディレクターって設定でやってみそ。でもってここが肝心なのは、和賀が背負う宿命に関してはシリアスに大マジメに描くの。いったん舞台に立てばピエロになりきって笑いをとり、裏では焼けつくような苦悩に歯ぎしりする和賀なんていいと思わない? 落差が大きいだけに悲劇性が強調されるよ。七色のライトきらめく大ステージで客を爆笑させている和賀の姿に、視聴者は涙を流すんさぁ。どうよ、素晴らしいと思わない?」
「となると今西の役どころは何ですか。刑事のままじゃ面白くないですよね。」
「今西は、…今西は、うーん…そうねぇ…。カナケイのパンチパーマの社長とかどうかな。」
「すごい、意外性は申し分ないですね(笑)」
「となると吉村は化学くんかね。いやいやふざけてる訳じゃなく、これくらい大胆に設定を変えて、はなっからやり直してみろと言いたくなるような不完全燃焼のドラマだったよ。一酸化炭素中毒になりそうだ。こほこほこほ。」
「はい水はそこにポカリスエットのボトルがありますよ。じゃあ、このシーンは語りつくしたようなので次に行きましょう。」


【 和賀の部屋 〜 あさみの部屋 〜 和賀の部屋 】
「部屋でピアノを弾く和賀ちゃんのシーンは何度も出てくるけど、1つ前のシーンとは衣装が違うんで日にちも変わってるのが判るね。モノトーンなんで判りにくいっちゃあ判りにくいけどさ。このシーンの衣装は何つってもこの、衿元のあき具合が最高だよね。いいわぁ…♪」
「その和賀のシーンと並行する形で、帰宅したあさみの疲れきった様子が映し出されますね。唐木からもらったらしい劇団のリストにはズラリとバツがついていて、あさみがどうしてこんなに落ち込んでいるのか、セリフがなくてもよく判ると思います。」
「うん。両手をこすりあわせて息を吹きかける仕種も、すごくいい表現だよね。」
「さらにこのシーンには、和賀の奏でるピアノの音がずっとBGMになっていますから、つまりこの時あさみの心の底には、和賀を想う気持ちがずっと響いていたのだと、そう解釈することもできますね。」
「そこへあさみの携帯が鳴って、かけてきたのは宮田。30歳のカベが厚いって話をあさみはここでするけどさ、今の世の中、女の年齢ってそんなにこだわるもんかねぇ。綾戸智恵さんなんて40になってデビューしたんじゃん。30の壁に云々してたのは、20世紀までじゃないのかぁ?」
「いや、やっぱり女優となりますと…それなりに厚いんじゃないでしょうか。少なくとも会社員よりは。」
「そんなもんかね。んでここで私がアレッと思ったのは、あさみは宮田に『まだ半分は残ってるから、可能性』って言ってるけど、今さっき『本日全滅した』って言ったばっかやん。宮田に心配させまいと嘘をついたにしちゃ、強がりがバレバレだよね。」
「いや、もしかしたらあさみは宮田からもリストをもらっていて、そっちは残っているという意味にも取れますけれども…。まぁそれもかなり強引で無理がありますか。×印だらけの紙が、画面にきっちり映りますからね。」
「そうなんだよね。あのバツ印のリストがあさみの嘘をバラしちゃってるからね。しかし最初は明るい声だったあさみもしまいに泣きだしちゃって、こんな声聞いたら宮田もたまらなくなって飛んでくるんじゃないか? じっとしてらんないんじゃないかなあ、なんぼ宮田が年下でも。」
「ええ。僕なら間違いなく飛んでいっちゃいますね。」
「だよねぇ。例えば夜あたしに電話してきてだよ?」
「誰がですか?」
「あんたがだっちゅーん。あんたがここでの宮田みたく、夜あたしに電話してきてだね? 話をしているうちにさぁ、いつも強がりな智子さんが段々と声を潤ませたら…」
「切りますね。」
「あれっおかしいな。もしもーし、もしもーし! ツーッツーッツーッツーッ…って自虐コントかいこれは!」
「いやいやまぁまぁ(笑) えーとそれでですねぇ、ここもまたシーンが細かく切り替わって、和賀がピアノの手を止めたところで、玲子がどこかへ出かけていくカットになりますけれども、ここでの玲子の足音は、何だかロコモーションのように聞こえませんか。」
「うん聞こえる聞こえる。このすぐあとに電車のシーンが来るからね、そこへのイントロなんだろうね。んでさっきはあさみだったけど今度は和賀の携帯が鳴って、誰からかを確かめた和賀は、えっ…て顔をしたあとで出る。かけてきたのはあさみだった。どこにいるかと思いきや『マンションの前です』じゃあ、そりゃあ和賀ちゃんもびっくりするわなー。一応あさみも来る前にかけてくるのはえらいけどさ。」
「いや、ある意味直接来られるよりドキッとする電話ですよ。このシチュエーションで自分がマンションの前に出ていけば、おそらく住人たちの好奇の視線にさらされますし、さりとて『帰れ』と冷たく言って騒がれても困ります。そうしたらもう上がって来いとしか言えないじゃないですか。一種の脅迫ですよ(笑)」
「おや何だかリアルなお言葉で。さては経験ありかなぁ〜?」
「あのですね、智子さんはいつもそうやって僕に話を振りますけれども、ずるいですよ智子さんこそ経験あるんじゃないですか?」
「ない。キッパリ。あたしはないよ。つーか考えてみればこういうシチュエーションって、携帯が普及してこそのカケヒキじゃないかと思うね。だって私がバリバリのブイブイだった頃はさ、んな都合よくマンションの真ん前に公衆電話なんてなかったし。『今どこにいる』 『駅の前です』じゃさー、これから行くから喫茶店で待ってろって展開にしかならないじゃない。」
「なるほどね。渡し舟といい、日本の文化史を感じる座談会ですね今回は。」


【 電車の中 〜 和賀の部屋 】
「さて第4回もいよいよラストシーンに近づいてる訳だけど、玲子の乗ってるこの電車、エンドロールによれば秩父鉄道なんだね。どうせなら八高線の方がいいのになー。」
「いや八高線の周りには田んぼしかないじゃないですか。画的に駄目ですよ。」
「そぉんなことない、桑畑もあるもーん。」
「どのみち玲子がセーターの布を撒くというこの美しいシーンには、あまり似つかわしくない風景だと思いますよ。BGMの『ラクリモーサ』は、第4回では初めての登場だと思いますけれども、こういうシーンにはぴったりの旋律ですね。玲子の手から飛び散っていく布片は、血の色が変色して薔薇色に見えて、すごく美しいと思います。」
「玲子はさ、この布を撒くという行為によって、和賀と完全に決別したんだろうね。それまではほんの少し未練…というか、またヨリが戻るんだったらそれはそれでかまわない程度の精神的近さがあったのを、これで完全に断ち切ったというか。だからもしこのあとまた和賀に楽譜の処分を頼まれるようなことがあっても、玲子は断ると思うよ。まぁもう焼却炉自体使えないんだから無理だけど、そういうことじゃなくて精神的にね。」
「玲子にそう決意させたのは、和賀とやりあって大荒れに荒れた関川の姿だったんでしょうね。あれで玲子は、自分が愛しているのは関川なんだとはっきり意識したのかも知れませんよ。」
「ああ、そうだろうね。んでそのケジメとして、処分しそこねたままずっと持っていた元セーターを、八高線じゃなかった秩父線の車窓から葬ったんだろうね。一種気持ち的には、指輪を捨てるに近い気分だったかも知れないよ玲子は。」
「で、一方の和賀のもとにはあさみがやって来る訳ですけれども、このドアをあけた瞬間の相手の表情というのは、これは実際大きいですよね。その後の行為に大いに影響すると思います(笑) このシーンのあさみみたいに、思い詰めた顔でうつむいていられたら男はフラッとすると思いますよ。」
「でも和賀は内心はともかく見た目あくまでもクールに、『何か話があるんだろう』とあさみを部屋に入れるんだけど、この衿元のあき具合がホントにいいんだよね〜。ガタイはよくないのに決して貧弱ではない中居さんの体つきって、やっぱこのカッチリした肩の感じなんだろうなー。セクシーつぅか実に男っぽい。いいわぁ星人大納得。」
「ハイハイ判りました判りました。毎度のことながらそれはちょっとこっちに置いておいて、ここであさみが言うセリフはまさに殺し文句ですよ。『自分でもよく判らないの』といったん切ってから、『ただ…会いたかった…』でしょう? これはキます男は完全に。ズバッと。」
「いや女もそうだよこれは。『会いたかった』ってセリフはむしろ、『愛してる』より響くよね。『会いたい』も効くかなぁ? 電話とかでもさ、どーたらこーたらグダグダ言われるより、『会いたい』ってストレートに言われたら、少々無理でもすっとんで行っちゃわない? そりゃあもちろん相手にもよるけども。」
「ええ、すっとんで行きます(笑) 嫌いじゃない相手にそんなストレートに言われたら、反射的に飛んでいっちゃいますね。」
「だよねー。つーかそういう時に行動に移るか移らないかで、自分自身の本気度合いみたいなのも判るよね。例えばもしも万が一だよ? 中居さんに『会いたい…』なんて言われたら、もぉもぉ夜中だろうと寝入りばなだろうと通勤中だろうと会議中だろうと一切合財ぼんなげて走ってくけど、アイツだったらここまでだな、アイツだったら翌日だなとかランクがあるんだよね(笑)」
「確かにそうですね。僕もセイラさんに呼ばれたらザクくらい運転しますよ。本気になれば多分、離陸くらいできると思います。…ってなんかまた話がそれていますよ。ラストシーンなんですからきっちり行きましょう。」
「とか言ってあんただってそらしてるやん。」
「ええ、ですから自戒も含めて。えーとそれで次のカットは、電車から飛び散る元セーターですけれども、ここで散っているのは布ではなく明らかに紙ですね。映像上その方が綺麗だからでしょう。」
「これで思い出すのは『古畑vsSMAP』の紙吹雪だね。果たして三角に切ってあったかどうか?」
「いやそこまでは見ていませんけれども、電車が通り過ぎたあとの桜の木が、ライトアップ効果で夜桜のように見えるところにこの紙吹雪を重ねることによって、あたかも桜吹雪のように演出されていました。このシーンは大成功だったと思います。」
「うん。こういう画的な綺麗さって点になったら、確かにこのドラマは特筆もんだったと思うよ。TVでここまで映像表現に凝りますか、みたいな。次のラストシーンでも、ゆっくりと振り返った和賀があさみの手を両手で包んでやるところで、『暖めてやる…』って和賀のセリフが言葉じゃなくちゃんと聞こえてきたもんね。映像が情景を雄弁に物語る。これはやっぱすごいと思うよ。んで和賀の掌の暖かさを感じたあさみが目を上げ、和賀も彼女を見つめ返すところでスパッと暗転、エンディングへ。この独特の終わり方も好きだなぁ。」
「確かこの前の第3回は、例の和賀のナレーションでフェイドアウトふうに終わりましたからね。」
「この回も演出は金子さんか…。まぁ演出家の責任ってもんでもないだろうけど、この第4回は何だかさ、別れてすぐまた公園で会うあさみと和賀だとか、元セーターに不審を感じる玲子だとか、どっかで見た場面のくり返しばっかりで、『第1回・第2回の主題による変奏曲』みたいな雰囲気だったよね。特にこれといって印象的なエピソードもなかったし。」
「うーん…。その通りなんですよねぇ…。物語が進んだといえるのは、亀嵩のシーンだけですから…。」
「あ、ほんとにそうだね。小刻みに切り替わるシーンによって目先の変化はあったけど、ストーリーが動いたのってそこだけなんだ。やっぱ何だかなー(笑)」
「まぁまぁ欠点ばかりあげつらってもしょうがありませんから、今回はこのあたりでまとめることにして、また次回につなげましょう。ね。
―――はい、といった訳で第4回を語ってみたんですけれども、今月はあと1回…第5回の更新をですね、何とか月内に…って言っちゃって大丈夫ですか智子さん。」

「大丈夫かってあたしに聞くなよ(笑)」
「あなた以外誰に聞くんですか(笑) 第5回の月内UPは、具体的に予定しているんですか?」
「えー、予定はしてます。予定は。あくまでも希望的予定ですが。何とかするつもりです。はっ。」
「そうですか。実現に向けて努力するといったところですね、判りました。
はい、ではそんな訳で次回予定は、7月の末頃ということですのでご期待下さい。炎暑の候、皆様にも体調など崩されませんようお気をつけて。パーソナリティーは私、八重垣悟と、」

「この状況ではいっそ潔く、27時間TVの録画も諦めようかと思っている木村智子―――」
「と、北海道旅行で寒い思いをしたけどピンピンしている高見澤でした。また次回。」
「何だよ高見澤、いつの間に帰ってきたん。ドーのおみやげは何か買ってきたの? 緑の丸に毛が生えた『まりも耳かき』だったらブッ飛ばすよ?」
「いえ平凡ですが皆でこれを食べようと思って担いできました。本場のトウモロコシです。」
「担いできたって… まさかトマコマイの牧場からまんま抜いてきたんかい!! 普通こっからポキッと折って収穫するやろポキッて!」
「ぎくっ。いやいやまさか。この方が野趣があるかなと根っこごと10本ばかりもらってきました。どうします、茹でます焼きます?」
「まぁ、何にせよまずは茎から取って皮をむこう。」
「手のかかるおみやげですねぇ…。」
「これもまた楽しからずや。」
「どーだかねぇ。ちょっとそのへんに軍手ない? 八重垣。」
「いやさすがに軍手はないですね。探してきます?」
「いらない。素手でいける。台地の人間はいつもこうして自然とともに生きてきたの。こうしてべりべりっと。べりべりっ。毛をぱっぱっ。」
「たかみ〜のもろこしむき…。似合うねぇ…。」


【 第5回に続く 】



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