【 Le bol de sableインデックスはこちら 】
【 ビデオの整理棚に戻る 】

【 第7回 】

「はい、えー皆様お元気でしたでしょうか八重垣悟です。えーアテネオリンピックもですね、日本勢大活躍のうちに無事幕を閉じまして、寝不足がちだった中居ファンの皆様も、まぁとりあえずはホッとしたんじゃないかと思うんですれけども…。はい。」
「やーやーそれなのに相変わらずこの座談会は終わってませーん!の木村智子です。できれば先月もう1回くらい更新したかったんですがねー、意のままにならぬのが世の常ということで、地道に頑張りたいと思います。」
「地道ね。やっぱりそれが一番ですね。じゃあ今回はあまり前置きが長くならないうちに、地道にスタートしますよ。」
「そうしよう。今回なんかちょっとイロイロ言いたいことがあるんで(笑) いやいやもちろん建設的なことです。」


【 取調室 〜 捜査本部 】
「イントロは前回のおさらいシーンから。取調室での関川と今西のやりとりがあって、次に和賀の略歴を調べる今西と吉村の会話が入るのか。前回のラストでは取調室からいきなり地下駐車場に飛んでたけど、こういう場面が間にあったんだね。」
「前回は時間の関係と、次の回へつなげるインパクトを考慮して、ああいう編集になったんでしょうね。」
「しかし和賀ちゃん芸大出かぁ〜! すげーすげー。泣く子も黙る東京藝術大学ピアノ科だってよ。すげーなー!」
「高見澤も黙ります。すんげー。」
「なんだびっくりしたたかみ〜! 前回はいなかったけどどこ行ってたの?」
「いや、野辺山の方へちょっと。でも芸大ピアノ科は確かにすごいですよ。受験準備の段階で専門の先生についてレッスンしなかったら、あの狭き門はくぐれませんね。またそのレッスン料だけで普通は目玉の飛び出るような費用がかかりますから、これはやはり和賀にはパトロンがいたと考えざるを得ませんね。もしくは高名な先生が和賀にすっかり心酔して、料金はいらないから是非とも君に教えたい!とか何とか…。たとえいかな天才であろうとも、独学で芸大に入るのは難しいと思います。」
「ふーん。で、たかみ〜はその門をかいくぐったの?」
「いえいえワタシはすぐ近くまで行って、裏の塀をよっこいしょとこう乗り越えて。」
「裏から入ったんかい!!」
「いえ塀の上に股がって中の様子をよく眺めて、降りてきました。藝大なんて出てたら今頃はこんなことしてません。」
「そらそーだよねー。アタシだってあの時明治大学の文学部演劇学科にうかってたら、今頃は大河ドラマの脚本を書いていたかも知れん。したっけテーマ曲は健さんみたく、たかみ〜に歌ってもらったんだがなぁ。惜しいことしたね。」
「いとしき〜♪ 友はいずこ……」
「ストップ。著作権の問題がありますから歌詞は勘弁して下さい。引用の範囲でおさまらなくなります。」
「おおそうだそうだ。そのへんは注意しなくてはいかん。んでこの捜査本部に今西たちが入ってくるところなんだけど、机に並んでるパソコンたちが、ちゃんと最近の機種になってるのはナマイキだね。ミニタワーの筐体に液晶ディスプレイ。今はこれが主流でしょ。『白い影SP』の時にも5インチフロッピーの機種揃えてたし、優秀な美術さんだよねー。」
「そうですね。最近では水冷式というのもありますけれども…。」
「水冷式は重てーよ。ファンの回転音がない分メチャ静かだそうだけどさ。てか私が思うに、CPUのそばに『熱さまシート』貼るってのも有効な気がするけどね。まぁそんな話はどうでもよくて、和賀ちゃんの出身地についてだけど、今西が手にしたコピーみたいなのによれば長崎県長崎市なんだね。第1回で三木が取り上げた免許証にもそう書いてあったな。さらに両親は82年の長崎集中豪雨で死亡か。原爆で戸籍の原簿が燃えたという原作の設定を、ドラマではこういうふうにアレンジした訳ですな。」
「82年の集中豪雨って…長崎市内の眼鏡橋が流されちゃったやつですよね。」
「そうそう。さだのまっさんが復旧のためのチャリティー・コンサートやったやつだよ。確か『長崎小夜曲』ってその頃の曲じゃないかなぁ…。けっこう記憶に新しいよね。ナガサキ♪ シティ・セレネィ〜♪」
「だから歌詞はやめて下さい。著作権協会に怒られますよ?」
「ここはいっちょ『高崎小夜曲』とか誰か作ってくんないかなぁ。『野田小夜曲』とか『相模原小夜曲』とか、『苫小牧小夜曲』とかいいよね。」
「いいかぁぁ?」
「そういやトマコマイ・シティーって人口17万人なんだってさ。甲子園がらみで初めて知った。んで総長に教わって苫小牧市のHPに行ってみたんだけど、んまぁ興味深かったねー! だってお知らせのページにごく普通に『最近のクマ情報』とかあるんだよー? 行ってみたいわートマコマイ! 特産物はホッキ貝なんだってよ。だいぶ肉厚らしいね。函館いかすみキャラメルより まりも羊羮より、そっちがいいよねぇ八重垣!」
「色々と面白いものがあるんですね(笑) まぁトマコマイ話で盛り上がるのはまた今度にして…」
「いやそんなに度々盛り上がらんでいい。」
「じゃあなおさら本題に戻りましょう。このシーンで刑事が持ってきた携帯の通話記録なんですけれども、和賀と玲子が電話をかなりかけあっている、というのはどうなんでしょうか。ストーリーを追ってきた限りでは、そんな『かなり』というほどの頻度ではないような気がするんですけれども。」
「あ、吉村がそんなこと言ってたね。確かにあの2人の電話って、そんなに度々ってほどのことはなかったよね。『かなり』はちょっと大袈裟じゃないかな。まぁ言葉のアヤの範疇かも知んないけどね。」


【 地下駐車場 】
「ここにも前回はなかったカットがありますね。ソアラが地下に入ってきた直後の、物陰で待っている刑事2人というカットはありませんでしたし、和賀が歩きだしたあと今西が吉村に声をかけて後をつけるカットもありませんでした。」
「車内の和賀の横顔アップはあったけどね。んで前回はさ、ソアラを下りた和賀が、画面向かって右方向へ曲がっていくカットがあったじゃん。その別アングルが今回流れた、後をつける刑事たちの歩き出すカットだったんだね。」
「前回と今回とで、このシーンは別編集という感じですね。」
「んでBGMはバイオリンの2本の弦を同時に弾くやつ…重音奏法っていうの? 『ツィゴイネルワイゼン』みたいな、スリリングな感じのメロディー。そして今西に呼ばれて振り向く『鬼』の顔は、これは前回と同じだったね。うたばんによく出るあのカット。んで振り向く前に和賀はさ、腹をくくるみたくふぅ…とひと息吐いてから振り向いてるんだけど、そういう細かい芝居をちゃんとやってるよね中居さん。すごく自然だからことさらに気づかないくらい。」
「腹をくくる、というのは確かですね。扇原玲子さんのことでと今西に言われてすぐ、『亡くなったっていうのは本当なんでしょうか』と和賀は聞き返すじゃないですか。関川がホテルの部屋でさんざんとぼけたのとは違って、知り合いであることをあっさり認めてしまう訳ですよね。」
「そうそう。彼女のことで2つ3つ話を聞きたいって、1つ2つじゃなく2つ3つあるところがミソだと思うけど、今西にそう言われた時も和賀は、僕の部屋でどうぞとあっさり招じ入れるんだよ。この時の落ち着いた表情がこれまた綺麗でなぁ…。吉村の方をチラッと見て、君もどうぞみたく促すのも悠然としてて実にいい。ばってん彼らにクルッと背中を向けて、カメラの方を向いた時には再び鬼の顔になっているというねー。短いカットで和賀の表面と内面をちゃんと表現し分けてるよ中居さん。」
「表情が変わるのは今西も同じですから、この2人は歩きながらもう、無言の闘いを始めているんですね。」
「んで歩いてくる和賀のアップをフェイドアウトさせて、そこに海岸の風景とタイトルが重なる。このへんはいつも通りの手法だね。」


【 エレベータ 〜 和賀の部屋 】
「おそらく6〜7人乗りと思われるこのエレベータにはさ、どう頑張ってもスタインウェイのセミコンは入んないなー。和賀ちゃんはどうやって運びこんだんだろうあのピアノを。」
「うーん…ちょっと入らないでしょうねぇ。他の家具と違ってグランドピアノですから、立てて運ぶという訳にもいきませんし、窓から吊るのもこんな高層マンションでは無理でしょうし、となると第1回の座談会でチラッと出た通り、いったん分解して運びこんでから、スタインウェイ社の技術者が和賀の部屋に来て組み立てたんでしょう。」
「そうなるよねぇ。スタインウェイ呼びつけたぁ豪勢なこった。んでその狭いエレベータのシーンでは、カメラのフォーカスは最初今西に合っていて、こいつは手ごわそうだなみたいな視線を、今西は和賀の背中に投げている。この時の和賀の、ゆっくりしたまばたきがいいんさねぇ。んで続いてフォーカスは和賀へ移り、仮面のような無表情をグッとアップにすると。まーそれにしても実に美しい仮面だよなー。このまんま石膏像にして部屋の真ん中に飾っておきたいくらいだ。うっとし…。」
「いや、いざ飾ってみるとけっこう邪魔だと思いますよ。それこそ和賀の部屋くらい広ければ平気でしょうけれども。」
「うん、現実にはそうかも知んない。んでその和賀のゴージャスな部屋には、今西たちもさすがに驚いているみたいだね。」
「そりゃあ驚くでしょう、こんな小ホールみたいな部屋に入ったら。僕だってもし知り合いか友達に呼ばれて部屋に入って、ドアの向こうにこんな光景が広がっていたらびっくりしますよ。」
「するよねー。どっこい類は友を呼んじゃうもんでアタシの友達は基本的にみんなビンボーでなぁ。こんな部屋に住んでるヤツとはついぞお知り合いにならなんだ。もし知り合っていたとしたら、ぜってーもっと親しくなろうと努力したと思うけどね。」
「努力しますね。まぁもっとも相手が同性の方が難しい気はしますけれども、僕なんかの場合。」
「あんたなんかの場合? …ふーん、なるほどねぇ。異性の方がたやすくタラシこめるって訳だねぇ。んじゃどうせならこの際、ドー国の牧場主の娘でもタラシこんでみたら? 枯山水と門前キタキツネ付きの豪邸が手に入るかもよ。もっとも枯山水、凍ってるかも知んないけど。」
「いや遠慮しておきます。部屋なんて普通12畳あれば十分ですから。」
「いえてるね。こんな広い部屋じゃ逆に落ち着かないよね。」
「つくづく庶民の発想だ…。」
「んでそういう落ち着かない部屋にやってきた吉村は、余裕のない様子でいきなり本題の質問を切り出して、和賀に『何かお飲みになりませんか』と躱される。しかも『お水ぐらいしかないんですが』って…お水ってお水ってお水って、和賀ちゃあん〜! ソダチがいいんだか悪いんだかボキャブラリィが豊富なんだか貧困なんだか、全然判んないけど和賀ちゃんったら、いいわぁぁ〜…。そう出られちゃ今西も、できましたらお水よりお茶の方がとは言えないわなー。」
「まさかそんな図々しい刑事はいないでしょう。コントじゃないんですから。」
「かくして余裕しゃくしゃくに見える和賀ちゃんも、冷蔵庫をあけてしゃがんだところで見せる、鋭い視線は野獣みたいだね。まさに追いつめられた獣の目だよ。」
「ソファーの方では刑事2人が、何となく座り心地の悪い面持ちをしていますけれども、もしかしたらこの部屋で話をするのは和賀の作戦かも知れませんね。この部屋に心の準備もなく来た人間は、たいてい迫力負けするでしょう。ということは闘いの場としては、少なくとも和賀に有利なはずです。」
「これが6畳一間だったら入ってくるなりナメられるけどね。しかし和賀ちゃんてば冷蔵庫からボトルごと持ってきてさぁ、それを吉村から先に出しちゃダメだよぉ。明らかに今西の方が上役なんだから、お水はそっちから出さなぁ。さらに言わせてもらうなら、グラスくらい出しなさいってばよ。ボトルをドンってのはいささか客人に失礼だべー?」
「まぁ和賀はサラリーマン経験がないんですから、そのあたりは仕方ないですよ。それより僕がふと思ったのはですね、このボトルは『模倣犯』のパロディーというか、アンチテーゼかなということですね。まぁ智子さん風の深読みなんですけれども。」
「ああ、そういやあったねぇ。人工の水を飲みながら事を進める犯人たちの映像。人工のっつっても別に水素2つと酸素1つを混ぜて作った訳じゃなく、製品として売ってるって意味ね。そういう水を飲みながら、犯行を進めていくんだピースと浩美は。」
「一方このシーンの和賀はですね、そういう水を飲みながら自分自身を落ち着かせ、刑事の追及を芸術的に躱していく訳ですよ。まぁ『模倣犯』云々は単に僕の拡大解釈なんですけれども。」
「いやいやこの座談会に拡大解釈は大いにアリ。色々な見方をして色々考えてみましょうというのがコンセプトなんだから。でもって刑事たちはここでさぁ、本来なら吉村が質問役で、今西は和賀の反応を毛ほども見逃さずに観察するっていう分担になるんだろうけど、若い吉村にいまいち余裕がないもんで、今西が和賀への質問役になるんだね。これが実は失敗だったんだな。」
「失敗ですか?」
「うん、失敗だったと思うよ。まぁそのへん順番に見ていくけど、まず今西は和賀にさ、玲子は流産による出血性ショック死だったと告げてから、おなかに赤ん坊がいたことは知っていたか、また最近連絡をとっていたかと続けざまに聞いてくるじゃない。和賀はしばらく黙りこくっていて、いかがですかと今西に促されてもまだ考え続けている。慎重を期さなきゃいけないから当然だよね。この答えいかんによっては即破滅なんだから。そんな和賀を今西も視聴者も、この美しい唇からどんな答えが出るんだろうと、息を殺して見守っている…。」
「美しい唇云々はいいわぁ星人だけの感慨でしょう。」
「いいじゃねーかよウルセーな(笑) んでここのたっぷりな“間”は、視聴者に対する焦らしでもあるよね。そして結局和賀は拍子抜けするほどあっさり、最近まで連絡を取り合っていたと認めるんだよ。」
「関川とは見事なまでに正反対の反応でしたね。和賀の方が一枚上手といいますか。」
「ここでのポイントはさ、和賀が認めた瞬間『何だよ…』みたく気落ちする吉村の表情だよね。んで次に『それはどういう話ですか』と今西が和賀に聞いた時、カメラは吉村なめで和賀を映してるんだけど、そこで和賀はキラッと鋭い目を吉村に向けている。吉村の失望の顔を、和賀は見逃さなかったんだよ。これでもし質問役が吉村だったらさぁ、質問するという行為によって、気落ちした表情を隠せたかも知れないけど、聞き役だったが故に吉村はその顔を和賀に見せちゃった。これで和賀は完全に、2人の刑事のシナリオを先読みできたんだろうね。」
「なるほどね。刑事たちの役割分担の失敗というのはそれでしたか。吉村の表情から和賀は、ハハンこいつら玲子のことについては俺がとぼけるだろうと思ってたな、と読んでしまったんですね。」
「そういうことそういうこと。こいつらは俺と玲子が連絡をとっていたことはもう承知の上で、俺がそれを否定したならば、これ幸いとばかり食らいついてくる気でいたんだな…と判っちゃったと思うよ。」
「そこまで先読みできたがゆえに、和賀はあたかも先手を打つように、玲子と以前つきあっていたことまでスラスラ認めてしまう訳ですね。」
「しかも和賀は自分の立場をさぁ、いい方にいい方に持ってってるんだよ。玲子とは確かにつきあっていたけどそれはもう過去の話だし、赤ん坊の父親は関川であって、自分は玲子の幸せを願っていた矢先の出来事だったときたもんだ。警察にすすんで情報提供しながら、自分の周りにはスーッと防衛線を張ってく感じだよね。頭のいい男だぜホント。」
「でもさすがに今西は吉村ほど甘くはなく、玲子のマンションから五線譜が出てきたと次のジャブを繰り出してきますね。これには和賀もギクリとしています。『それは和賀さんのものではないっていうことですか?』と言われて、で…和賀の次の反応がとんでもなく上手いんですよね。」
「そうなのそうなの。この和賀の返し方はホントに完璧だったね。その五線譜が自分のものかどうかは断言せず、仮に自分の五線譜で“あれば”、ネーム入りの特注品だからすぐ判ると言うにとどめる。この時点でもし、『いえそれは僕のじゃないですよ。だって無地だったでしょ? 僕のはネーム入りの特注品ですから』とかって余計なことを言っちゃうと、なぜ玲子さんの部屋にあった五線譜にネームが入っていないと判るんですか?と突っ込まれる恐れがある。しかも和賀はさらに、『彼女まだ持っていましたか、僕の五線譜…』っつって、渡したとしたら過去の話だっていうふうに二重の防衛線を築いていく。没作品をゴミと一緒には捨てられないから燃やしてもらっていた、っていうのも作曲家なら十分納得のいく話だしね。」
「そうなんですよね。本当に頭のいい男ですよ。今西もいったんは下がらざるを得ませんね。」
「たださ、ここで問題の特注五線譜を今西が持ち帰るのは、確認のためって今西は言ってるけど、和賀の指紋を採取する上でも意味のあることだったんだね。もっとも指紋が云々って話はこの先出てこないんだけどさ。捜査を進める上では当然の行動だったかな。」
「なるほど指紋をね…。そうですね、疑わしい人間の指紋を取っておいて、悪いことはありませんからね。」
「でもまぁこれで和賀バーサス今西の第1回戦は、完全に和賀ちゃんの勝ちだな。ほぼ決着がついたのを見越したから、和賀はここで水を飲んだんだろうね。しかし最後に今西がしてきた質問は、1月4日から5日にかけての和賀のアリバイについて。聞かれた時に『ん?』みたく目をくるんとするのが素敵だったなー。この質問は多分されるだろうと予想してたかも知んないね。」
「それにしては危ない答えじゃないですか? 成瀬あさみと一緒にいただなんて、本当ならともかくれっきとした嘘ですからね。しかもあさみは今や、和賀が真犯人だと気づいてしまったんですからなおさら危ないですよ。」
「それはあるんだよねー。セーターの処分といい今回のことといい、和賀ちゃんは自分が女を見る目によほど自信があるのかしらん。」
「でも結局それで全部足がついちゃってるんですよ(笑) セーターだって自分で少しずつ燃やせばいいものを玲子に頼むからこういうことになったんですし、成瀬あさみなんて警察側のリストには全く上がっていなかった名前なのに、和賀の方からわざわざ手がかりを増やしてやったようなもんじゃないですか。」
「確かにねー。4日の晩自分はこの部屋に独りでいたので証人はいない、って答えられた方が捜査は難航したと思うね。嘘のアリバイを崩すより、アリバイが無いっていうもんはなんとも崩しがたい訳だから。なのになんで和賀は、あさみの存在を自分から警察に教えるような真似をしたかっていうと、理由は2つ考えられるんじゃないかな。まずは今西たちを油断させるため。『これは公になったりするんですかね…』ってすすんで弱みを見せることで、こんなにあけすけした犯人がいるはずはないと錯覚させるつもりだったかも知れない。」
「なるほどね。『立場上いろいろと…』っていうのは、男同士そのへんは判ってくれというニュアンスを含んでいますね。」
「んであと1つはさ、ドラマの内部というより外部の理由なんだけども、あさみを捜査線上に乗せるには、こうするしかなかったんじゃないかっていうのもある。だってこうして和賀の口から出ることでもないと、警察はいつまでたってもあさみにたどりつかないよ。最初の予定では今西の奥さんあたりをあさみと仲良くさせて、そこから展開するつもりだったかも知れないけど、どうしてだかその設定が使えなくなったんで、和賀に直接語らせたのかなーと深読みしてみました。」
「ああねぇ…。それはあるかも知れませんね。でもあさみを捜査線上に浮かび上がらせる役だったら、和賀より関川の方がふさわしいんじゃないですか。例えば今西が関川に、和賀英良に会ったが彼は関係なさそうだとか言ったら、関川のことですから多分、だったら和賀の周りの女を調べて下さい成瀬あさみって女優が何か知っているかも知れません、とか言いだしそうな気がしません?」
「お、それいいかも知んない。関川はまだ勾留されるほどの容疑でもないんだろうけど、真犯人が現れるまでは警察にしつこくつきまとわれて当然だもんね。それに関川はあさみの名前を、唐木に聞いて知ってる訳だしね。」
「で…そのあさみは『フォルテ』から劇団の衣装部に戻ってきていますけれども、あさみはあの晩の和賀の顔だけでなく、コートのことも思い出したんですね。」
「まぁ普通に考えればさぁ、夜道でぶつかった相手が着てたコートのデザインなんて覚えてないだろうけどさ、そこはカリスマ麻生にもセンスを認められたあさみだ。人よりは衣装の記憶力がよかったってことなんじゃないの。んでその頃和賀の部屋では刑事たちが一通りの尋問を終え、和賀はひとくち水を飲んでから彼らを戸口まで送っていって、ドアを閉めたところで急変するという流れだね。」
「このシーンはいいわぁ星人の皆さん的に、第7回のポイントとして大きいんじゃないですか? こういう和賀の姿はインパクト強いでしょう。」
「確かにそうなんだけどもね。ばってんこの右手の動きはちょっと大袈裟すぎたかなー。『嘘だ…』とうめきつつロックしていって、『僕が、僕がやりました…。僕が…』とつぶやきながら、歯がガチガチ鳴ってるのももちろん熱演なんだけどね。そうやって慚愧と後悔と脅えを表現しようっていうのは判るけど、ちぃとデフォルメの度合いが強すぎた気がする。これじゃ野戦病院モードの吉村と同じで、あまりにも劇画っぽいよ。」
「へぇぇぇぇ〜。珍しく中居にダメ出しですか。」
「つーかダメ出しとまではいかないけど、芝居としてはこういうエキセントリックな方が簡単だってことだけは言っときたい。それよりむしろ地下駐車場での微妙な表情の演じ分けとかね、ああいう方が難しいんだよなー。まぁでもそれはそれとして置いといて、ここでの和賀は自分自身の葛藤にいわば蹂躙されてる訳で、その姿はあえかに愛しくて素晴らしいねぇ。多分和賀の中にはさ、三木を殺したことだけじゃなくて、自分を偽り続けて生きるのはもう嫌だという思いもあったんだと思うよ。今ここで今西たちのあとを追って、全てを告白してしまえば俺は『自分』に戻れるんだ…。深層心理に封印されたその思いが一瞬吹き上げてきて、和賀の右手はいったんロックした鍵に向かい、さらにもう一方では、駄目だやめろ引きずられるな、ここで負けたら今まで必死に築き上げてきたものを全て失うんだぞそれでもいいのか!と抑制する左手がある。かくしてもうひとりの自分に羽交い絞めにされた和賀の、放心にも似た表情が痛々しいなぁ…。」
「なるほど、本当の自分に戻りたい気持ちですか。確かにそれは和賀の中にあったんでしょうね。周囲を欺き婚約者まで欺き、常に敵の存在を意識しながら生きる人生なんて、楽しいはずがありませんから。」
「そうだよね。そこまでの犠牲を払っていったい何を得られるというのか…それこそ虚しき“砂の器”だよなぁ。」
「お、話をいいところへ持っていきましたね(笑)」
「持ってきたねー。我ながらウマイとか思っちったぁ。」


【 エレベータの中 〜 和賀の部屋 〜 『響』の衣装部 】
「しかしいつものことながら今回も、シーンを細切れにしてインとアウトを重ねる手法が多いね。演出としては大いにアリだと思うけど、座談会的には語りにくくてしょうがない。」
「別にここで語る順番を無理にシーケンシャルにしなくてもいいんじゃないですか? 映像と文章では特性が違うんですから、語りやすいように並べ変えれば。」
「そだね。んじゃまず和賀の部屋から帰っていく今西たちのエレベーターのシーンからいこう。今の時点では吉村はもう、和賀は犯人じゃないという気持ちに傾きかけてるみたいだね。今西の方は憮然というか、何かひっかかるものがあるって顔してるけど。」
「多分今西は、和賀の超然とした隙のなさに虚構の匂いを嗅いだんでしょうね。関川の場合はキャンキャン吠えて尻は丸見えという感じでしたけれども、和賀には隙がなさすぎて逆に不自然といいますか。」
「確かにそれはあるね。何事も完璧すぎると作為を感じるもんな。んで次にあさみはというと、例のコートの袖口に血痕を見つけて、貸し出しノートからあの晩宮田が持ち出したことをつきとめ、さらに宮田本人の口から、和賀に貸したと聞いて愕然とするんだね。」
「『モスグリーン綿コート』という記載ですね。ただひっかかるのは、普通は個人的に借りたなら管理ノートには記入しないんじゃないかということなんですけれども…。」
「うんうん言えてる言えてる。これもちょっと不自然な個所かな。コッソリ借りたなら借りたこと自体ノートに書かないだろうし、逆に書くんなら持ち出し場所はテキトーにでっち上げとくよね。でももっと不自然なのは、やっぱりこれだけベッタリ残ってる血のシミを、クリーニング屋を初めとして誰も気づかなかったってことだよなー。」
「そうですね。あの蒲田の薄暗い路地では、和賀も気づかなくて当然かも知れませんけれども、このシーンで見た感じでは、蛍光灯の下ならまず目につくシミですからね。」
「やっぱモグリのクリーニング屋に出しちゃったんだな和賀ちゃんは。んでその和賀ちゃんはというと、クロゼットの中から古いピアニカを取り出して、遠いぬくもりを思い出すようにそれを抱きしめている…。まぁ切なさを出したいのは判るけども、ここも私テキには微妙に『狙いすぎ』の感があると思うな。こんな風にさも芝居っぽく抱きしめるより、消えかけた文字を指先で撫でるだけで十分だったと思うけどね。」
「このピアニカは和賀にとって、父の形代(かたしろ)なんでしょうね。刑事の尋問は何とか乗り切ったようなものの、破滅の可能性は決して消えた訳ではありませんから、和賀はこの時、独りでは耐えられないほどの恐怖にとらわれていたということでしょう。」
「恐怖は人間を集団にするからな。心理学の実験でもさ、これからやるテストは非常に簡単なものだと聞いた時と、かなりの苦痛をともなうから承知してくれと言われた時では、待合室での過ごし方が変わるっていうもんね。やっぱ後者のケースの方が、他の被験者と一緒に過ごしたがるんだって。あと思い出すのは『サタ☆スマ』の初代カトリぃぬ? 好きだったメスにフラれちゃったあと、それまではそばにも寄りたがらなかった慎吾ルチェに、カトリぃぬったらぴったりくっついてきたもんね。動物ってのはそういうもんなんだろうな。寂しい時や怖い時に誰かを求める。」
「『サタ☆スマ』ですか。懐かしいですねぇ。あれは面白い番組でした。」
「でもさ、考えてみるとだよ? 『白い影』で中居ファンになったって人も世間には多い訳で、もちろんそれ以降の人も大勢いる訳じゃんか。そういう人々ってさ、下手すると『おつかいマーくん』知らないんじゃないの? そう思うとなんかちょっとヘンな感じだよね。いやもちろんファン歴の長い短いでどうのこうの区分けするのはナンセンスなんだけども、例えばスマスマの第1回を見てない中居ファンって、全国にどれくらいいるんだろう…。その点ちょっと興味あるね。」
「まぁ興味はありますけれども、新しいファンがどんどん増えていくのは、芸能人にとっては喜ばしいことですし、健全な姿だと思いますよ。」
「そりゃもちろんだよ。古いファンしかいないんじゃ一部の演歌歌手だぁね。この『砂の器』で初めて中居さんにハマッたって人もいて当然だし、いてくれるべきだよ。別におつかいマーくんにこだわる気はない。それに『子門くん』でタイヤキ焼いてたテキ屋のあんちゃんにもね。」
「ああ、いましたねーそんなキャラも。電車のナッくんて覚えてます?」
「うわーそれって禁断のコントじゃん! なつかしいねー! …っていやいやこの座談会はスマスマ今昔物語ではない。話をドラマに戻そう。目元アップから振り向いた和賀の視線の先には、クロゼットの中の三木のカバンがあった訳だけど、しかしこれも犯罪者としてはあまりに迂闊だぁな和賀ちゃん! まずいだろぉ誰が考えたって、そんなもんそこに隠しといちゃあ。セーターを処分するのと同じタイミングで、真っ先に消すべき証拠品やんか。ほんとならあのセーターもこのカバンの中に入れて、一緒に海に沈めりゃよかったのに。」
「いえあのセーターとこのカバンとでは位置づけが違いますよ。犯行の晩、和賀が必死でセーターを洗ったことの意味です。三木の血という罪の象徴を、和賀は何とか洗い流したかった。それが無理だと判ったあとは、たとえ一瞬でもあのセーターを自分のそばに置いておきたくなかったんでしょう。」
「だけど現実にそんなこと言ってる場合かぁ? 殺人犯にしてはお間抜けすぎるよ和賀ちゃあん。まぁ もともと和賀は冷酷無比な頭脳犯って設定ではないけども、それにしても隙だらけで、ある面無防備すぎると思うね。」
「そうですね。和賀は弱い人間なんだと思いますよ。弱くて哀しい人間です。ピアノの上に置いたピアニカに、まるで『行ってくる…』というような目を向けるのも、せめてもの支えを求めようとする、寂しい男の姿ですよ。」
「確かに痛々しいくらいだけどね。でもってバッグに入れる重しの石をどっから拾ってんのかと思ったら、何と部屋の中に池があったんだねー! いやはや恐れ入った、すごいマンションだ。」
「でも部屋の中に池なんてあったら、ボウフラわかないのかなー。」
「わくかいっ! 循環式の浄化システムくらい備えてるよ多分。」
「じゃあ高見澤ならキンギョを飼います♪ ホテイアオイとかぷかぷか浮かべて♪」
「てか和賀って、生き物は身の回りに置かなそうだよねー。観葉植物とかも嫌いそう。まぁ湿気はピアノによくないんだろうけどね。」


【 埠頭 】
「ここでもまたまた隙だらけの和賀ちゃん。三木のバッグを海に投げ捨てるなんて、誰かに見られたらどうするんだよ〜! と思わず画面に突っ込んじゃったね。」
「明らかな不法投棄ですからね。しかも今回は変装もしていないし愛車で来ていますし、誰かにナンバーを覚えられたらアウトですよ。ただこれでまた宮田にコートを借りたり、運搬用にバイクを手配したりと、そんな時間はとてもなかったんでしょうけれども。」
「とにかく急いで捨てるのが第一優先だったろうからね。んで石を詰めた甲斐あってたちどころに沈んでいくカバンを見つめ、赤くきらめく水面を背景に立つ和賀は、一切を抜きにしてやっぱり綺麗だねぇ…。こうやって必死で証拠隠滅を図っても、この人の足元の砂はズルズルと崩れ始めるんだろうな、と思わせる映像が秀逸だった。」
「そのシーンに、ほんのワンカットですけれども紙袋を持って走るあさみの姿も挿入されて、続いて提供のナレーションが来る訳ですね。」
「そういえばこの回の構成ってさ、冒頭からいきなり本題に入ったに近いんだね。主題歌がラストに来る形式だから、こんな編集にできるんだね。」


【 あさみのアパート近くの路上 】
「和賀とあさみの以心伝心ともいうべきこのシーンだけど、何だかオンエア直前まで変更が多かったらしいね。今西に4日の夜の行動を尋ねられたあさみが、『家にいましたけど…』と答える映像があったとかなかったとか。でも私そんなのどっこでも見てないんだよねー。いったいどこで流れたんだろう。」
「予告にもありませんでしたよね。じゃあスポット番宣か何かじゃないですか?」
「かも知んないね。んでこのシーンで語られたのは要するに、和賀とあさみの考えていることは、全く同じだったっていうことだね。2人の証言は打ち合わせもしないのにぴったり一致したんだから。」
「今西に質問された時、バッグにかけたあさみの指が紙をこすって鳴る音がよかったですね。でも彼女は女優ですから、演技に関しては得意というより本職です。今西の目をくらませるくらい、エチュードより簡単だったかも知れませんね。『大っぴらにされると困るんですけど。相手もいることなんで…』と渋ってみせるあたりは、明らかに“演技”ですよ。表情が違います。」
「もしかしたらこれがさ、女優・成瀬あさみ一世一代の名演技だったかも知れないね。女優を目指したのはこの日のためだった、みたいな。それはそれで有意義だけども、ただ…『和賀英良さんのマンションに』って言い方はどうかな。今西たちが聞きたいのは誰のことなのか判って言っているような感じではあったね。不審に思わなかったのかな今西も。」
「つまり和賀はそれだけ有名人なんじゃないですか? そりゃあまぁSMAPほどではないでしょうけれども…。」
「いやいやそのSMAPであってもだ。メンバー全員のフルネームとなると、知らない地球人は世代によっては少なくないよ。だから例えばアタシがあさみみたく職質されてさ、『その晩は中居正広さんのマンションにいました♪ これってナイショね♪ にゃははっ♪』って答えても、言われた方はそれが誰だか咄嗟には判らないんじゃないかねぇ。」
「うーん…。誰だか判らないというよりは、誰だか判っても誰も信じないでしょうね。」
「うんあたしだって信じない。」
「なんでよー。人間いつどこでどんな幸せが舞い込むか判んないじゃないかよー!」
「ま、希望を捨てないのはいいことですね。見習うべきかも知れません。僕は遠慮しておきますけれども。はい。えーとそれでこのシーンでもう1つ重要なのは、今西の奥さんのエピソードを何とか完結させたことなんじゃないでしょうか。」
「ああ、ゴミ捨て場での出会いねー。そうだね、かなり無理矢理だけども、あの今西夫人とあさみの会話が何はともあれここに繋がったことで、無責任な放り出しにはならなかった。それは言えるかも知んないね。」
「苦肉の策だったような気はしますね。龍居さんお疲れ様でした。」
「しかしゴミ捨て場で会う奥さんのダンナだったからといって、あさみが今西に親近感を感じたって訳でもないのがちょっとツラいな。それとも第9回で行われる彼女の証言は、相手が今西だからこそ叶ったことなのか…。うーむ…今の時点ではやっぱ微妙…。」


【 和賀の部屋 〜 捜査本部 〜 和賀の部屋 】
「カバンを始末して帰ってきた和賀を、正面低めのアングルから捉えたカット。さも何かあるぞって感じのカメラだったけど、これで綾香がニコニコしてたら笑うよな〜とちょっと思った。わりとこの部屋に神出鬼没だもんね綾香って。」
「でもカメラが映したのはお水のボトルでしたね。今西たちは口どころか手もつけずに帰ったのに、和賀は中身をシンクに捨てています。これはなかなかうまい演出でした。」
「和賀にしてみればおぞましい相手だもんね。あのセーターを洗ったのと同様、2人の刑事がこの部屋に来たこと自体を、和賀は自分の中から消してしまいたいんだろうな。」
「パソコンのリセットのようなものですね。現実には決してかなわないことです。」
「んで和賀はピアニカで『宿命』のメインテーマを吹くんだけど、コートを着たままっていうのがちょい不自然だよね。ビジュアル重視の演出なんだろうけどさ。でもピアニカを枕にするみたく頬を寄せ、手で撫でるシーンはサービスカットだ。」
「和賀の、父への思慕があらわれたシーンなんでしょうね。孤独に鎧われた和賀の心の底には、父親への想いがあるんですよ。」
「うん、演出としてはそうだと思うよ。でもサービスカットの側面もあるよなぜってー。んでそれに重ねて捜査本部での刑事たちの推理シーン。三木との接点が見つからないって話をしている中で、そういえば田所綾香は関川と交流があるって吉村が言い出すじゃない。でもその理由が週刊誌で判ったっていうのは、やっぱ頂けないよなぁ…。また出たよ素人探偵の凸凹コンビが。警察が週刊誌の記事で情報収集すんなっつーの情けない。」
「まぁまぁそこはもうしょうがないですから、いちいちほじくり出すのはやめましょう(笑)」


【 ホテルのロビー 】
「今西たちが綾香と接触したことは予想外の効果を生み、今西は田所の顔を見て伊勢二見の映画館にあった写真を思い出すというシーンなんですけれども…」
「うーん…。これもさぁ、ちょっと考えるとヘンな設定だよぉ? ついさっき捜査本部で関係者の整理をしてる時、綾香の父親が田所代議士であり、和賀にとっては舅に当たるって件は当然出てるはずだよねぇ? なのに今西はこのロビーで田所の顔を見るまで、伊勢二見の映画館に田所の写真が飾ってあったことをすっかり忘れてたってかぁ? 田所綾香の名前が関係者リストに上がった時点で、田所?田所ってそういえばどこかで聞いたな…みたく気づきそうなもんじゃんか。」
「確かに、今西が田所の顔も名前も忘れていたというのは不自然かも知れませんけれども、伊勢で斎藤さんに…じゃないです、斎藤さんは役者さん(笑) 映画館の職員に田舎特有の感覚で政治家賛美をされたのが、今西としてはうんざりだったんですよ。だから田所のことは印象に残っていなかった。でも本人の顔を見た瞬間、かすかな記憶が一気に蘇ってきたということでしょう。」
「それは判るけどねー。やっぱ甘いよ警察の設定が。しかも無意味に熱いしさぁ。田所の顔を見るや否や今西は、たった今までキレイさっぱり忘れていた伊勢の映画館へ走り出す訳だけど、このまま伊勢まで走ってったんじゃないかって意見もあるくらいの勢いは、吉村の野戦病院と同じで正直 引くなー。なにも車乗りゃいいじゃんかよ今西も。『太陽にほえろ』じゃあるまいしそんな必死の形相で走られたって、ニンともカンとも空回りだよ。こういう劇画っぽいデフォルメで何を強調したいんだろう。ドアにすがってガチガチ震える和賀といい、今回はなんか全体的に大袈裟でさぁ、首ひねっちゃうね。」
「この回の演出は福澤さんですよね。比較的重厚な雰囲気が好きな人なんじゃないかなとは思いますけれども、そればかりって訳でもないでしょう。」
「じゃあお口直しに和賀のコートの話ね。今西を追ってホテルの外へ出た吉村の前に、黒のロングコートを来た和賀がやって来るんだけど、このコートは地下駐車場のシーンで着てた、衿がレザーみたくなってるやつとはまた違うんだね。もぉ和賀ちゃんたら衣装持ちっ♪ おされさんっ♪ ちなみにロケ地はエンドロールによれば横浜プリンスホテルみたいだね。ふっ、中堅どころだな。」
「はぁ。…どうやら帝国ホテルに行ったのがよほどの大冒険だったんですねぇ。」
「らしいね。庶民必死のセノビーだから放っとこう。」


【 レストラン 】
「ここのシーンは今回リピートするまで全然印象になくてね、見返してうわーっとなったお得シーンだったねぇ。何たって和賀ちゃんのお食事シーンだよぉ? えっこんなシーンあったっけ!?みたくリモコン握りしめちゃった。小さくちぎったパンを指でキュッと口に押し込むところなんて、もぉもぉそれと一緒にあたしゃ何回空気を食ったか判らん! しかもゴブレットでお水飲んでるしー! ワインじゃないのがまたいいんだこれがぁ! いいわぁ星人はもぉぐねぐね。食事シーンって微妙にエロティックだよねー!」
「確か稲垣もエッセイか何かでそんなことを言っていましたね。馬耳東風でしたっけか。」
「食事シーンで思い出すのはさ、やっぱピースかなぁ。ほら氷川高原の別荘で『ヤマメ』がBGMになって、『ピースが何々した』って次々出てくるシーンよ。あそこでピースがステーキの肉を、切りやすいようにナイフとフォークでくるっと向きを変えるとこ。あれが忘れられなくてねー。んであのシーンはピースと浩美が女たちを犯している場面の象徴なんだ、と判った時の衝撃もすごかった。ッとに何てことしやがる森田(笑) 早すぎる天才だよアイツ。」
「まぁ食欲と性欲は、人間の最も基本的な欲求ですからね。」
「やーねっ、八重垣くんたら、えっち♪ つんつんつんっ♪」
「あいた(笑) 何ですか突然、高見澤さん(笑)」
「んでもまさか和賀ちゃんはずっと食べ続けてる訳じゃなく、田所との会話もなかなか興味深かったね。スキャンダルには気をつけろと解く田所は、仮に和賀が腹を割って三木の件を打ち明けたとしたら、たちまち敵に回って切り捨てにかかるんだろうなというのが判る。間違っても味方になって事件をもみ消したり、庇ったりはしないだろう…。これも和賀をとりまく孤独の1つの形だね。」
「田所が許すのは、せいぜい女の問題まででしょうからね。むろん殺人は論外でしょう。と言いますか殺人犯であっても本気で無償で庇ってくれるのは、やっぱり血の繋がった親子きょうだいだけなんじゃないですか?」
「だよね。他人には超えられない絆って絶対あると思うしね。綾香も田所も、いずれは和賀の家族になるはずの人間だけど、でも断じて血族ではない。和賀の父親は千代吉だけなんだよね。このあたりすごく象徴的だと思うよ。でもって和賀はここで、『大丈夫です、ご心配なく。しょせんどちらも同じ人間ですから。スキを見せるようなことはしません。』と余裕の発言をするやんか。さっきホテルの前では吉村に会釈されたりランニング今西の背中を目にしたりで、和賀も不審に思ったかも知れないけど、どうやら刑事たちは関川の情報を取りにきたらしい。関川を犯人扱いしてくれるなら幸いだ…という気持ちによって生まれた、余裕のなせるワザなんだろうねこれは。」
「そうですね。『しょせんどちらも同じ人間ですから』という意味深な言葉には、田所も綾香もふっと真顔になりますけれども、『スキを見せるようなことはしません』と聞いて、田所は頼もしげに笑っていますね。」
「田所は和賀の、こういう一種ふてぶてしいほどの自信家なところが好きなんだろうな。秀吉じゃないけど田所は、こういう実の息子が欲しかったんだろうね。」


【 伊勢二見の映画館 〜 式場 〜 映画館 〜 路上 〜 駅 】
「さて今西が走っていった三重県伊勢市といえば、こりゃまた旬の話題で野口みずき選手の出身地じゃんか!と思ったアタシもミーハーだね。」
「そういえば野口選手はレースの時、伊勢神宮のお守りをここに縫いつけて走っていましたけれども、あれは僕、見ていて邪魔じゃないのかなとハラハラしましたよ。走る時に手に当たりそうなんですよね。こすれてポロッと取れでもしたら縁起悪いじゃないですか。」
「ほんとほんと。やっぱそれ心配した人多いんだねー。しかし今西もこうやって42.195キロどころじゃない距離をタッタカタッタカ走ってこなくったってさぁ、本庁から所轄経由でこの映画館に連絡して、写真のFax送ってもらやぁ済む事だったんじゃないの? その方が早いし、経費節減にもなって効率的だよ。なんかやることがみんな熱血というより時代遅れで、感情移入できないんだよなー。頑なにソロバンだけ使って、パソコン目の敵にしてる爺さんみたい。しかもソロバンは五つ玉じゃなきゃ使わねぇぜみたいな。」
「そういえば亀嵩はソロバンの産地でしたっけね。いやこの場合は関係ない話ですけれども。」
「ああ、そういえばそうだっけね。偶然の一致だ(笑) でもって今西がようやく気づいたのは、三木はこの写真に映った和賀の姿を見て、急遽東京へ行ったんじゃないかってこと。さらに三木と犯人は『ゆうこ』で亀嵩の話をしていたんだから、和賀と亀嵩の接点を探せば、2人の関係を突き止められるってことに今西は気づいたんだね。」
「そこで出た台詞が吉村への、『和賀英良を徹底的にマークしろ!』というやつですね。」
「そうそう、予告で聞いた時が一番スリリングだった台詞(笑) このあたりってホント、予告編が一番面白かったかも知れない。」
「何だか発言がアンチっぽくなってきてますよ智子さん(笑)」
「おやそれは心外な。愛ある建設的辛口とお呼び。」
「はいはい(笑)」


【 路上 〜 『フォルテ』店内 〜 亀嵩 〜 路上 】
「さて今西が亀嵩へ向かっているちょうどその頃、和賀はタワーの見える夜道を歩いて『フォルテ』に入っていく。休業中だからもちろん看板の明かりも消えている店へ、和賀はあたりを窺うようにしてから階段を下りていって、入れ違いに吉村が画面に姿を現すという流れか。」
「この1つ前のシーンで、和賀は歩きながら電話を受けてたじゃないですか。あれがあさみからのコールだったんですね。」
「そういうことだよね。唐突だった上に短いシーンだったからさ、和賀が電話してたのなんて印象に残ってなくて、これまた以心伝心かぁなんて的外れなこと思っちゃったよ。」
「あさみは和賀に、今西が来たことと4日夜の行動を聞かれたことを、報告…というか耳打ちしてやる感じですよね。つまりあさみは完全に和賀の共犯者になってくれた訳です。」
「この時の和賀の横顔のアップがまたまた素敵でねー、うっわこんな素晴らしいアップあったっけ?って改めて感動しちゃった。目を閉じて軽くうつむいて、すぐにゆっくり瞼を開く…。んで煙草を口元にもっていく動きが、完全ないいわぁ星人殺しだぜ。みんなコロッコロいっちゃったと思うなー。もうね、この回に限らず、座談会のためのリピートで気づいた極上ショットがすごく多いドラマだから、その点はこの座談会の大いなるメリットだったと思うね。」
「なるほどね。欠点や問題点に気づいてしまうばかりでは決してないという訳ですね。」
「でさー、あさみが『あなたは誰? いったい何をしようとしてるの』って聞いたあとの和賀の答え、『僕は曲を完成させたいだけなんだ』っていうのは、案外真実かも知れないよね。つまりこの時点では和賀はもう、覚悟…というか予感してると思うんだ。この事件の結末というか、おそらくあの刑事からは逃げ切れないだろうってことをね。だから和賀の戦いは今や、警察じゃなくて時間が相手になってる気がする。『宿命』が仕上がるのが先か、今西が全てを解き明かすのが先か…。和賀は自分の過去と未来の全てを賭けて、『宿命』の完成に突き進んでいくんだと思うよ。」
「一方の今西は小雪舞う奥出雲にいますね。運転しているあの警官が何も話しかけられないほど真剣な顔で、和賀の五線紙を見ています。多分ここで今西は、マンションの一室でのあまりにも冷静な和賀の態度を、ありありと思い出しているのかも知れません。」
「んで追う者と追われる者の映像はここでも交互に織りなされて、和賀は『フォルテ』を出ていきながら、完成した『宿命』を君にも聞いてもらいたいってあさみに言うんだけど、これって『君にも』じゃなく『君に』でいいんじゃないのかなぁ。まさか和賀の中で綾香とあさみが同格ってこたぁないだろぉ。」
「いやこれは単にですね、『宿命』の完成披露コンサートに君も来てくれという意味なんじゃないですか?」
「だったら和賀ちゃんもチケットの1枚くらい渡さなぁ。劇団の衣装部なんていう安月給じゃキツいから、あさみはここでバイトしてるんだろうに、クラシックコンサートのチケットってのはだいたい高いんだぜぇ? S席なら最低でも1万2千円はするっしょお。」
「またそういう現実的な突っ込みをするんですね。チケットなんてまだ印刷できていないでしょう。」
「あんたの言うこともかなり現実的やんか。まぁそれはいいとして、和賀が店から出てきたこの場面ねこの場面! これぞ夏のいいわぁ星人ツアーで行った、増上寺の大門やねー! もぉさぁ、あんときゃちょうどこのへんを歩いてる時に光化学スモッグ注意報なんて出ちゃってさぁ。暑かったなぁあの日は! マジで目まいのしそうなヒートアイランドだったね。」
「まぁ思い出話はそのへんにして頂いて、ここで和賀はいともたやすく、吉村刑事に尾行されていることに気づくんですね。道の反対側のガラスの壁に吉村の姿がバッチリ映っていて、振り向かなくてもそれが見えた訳です。」
「衝撃だったろうね和賀にすれば。警察はてっきり関川をマークしているもんだと思ってちょっと安心してたら、どっこいターゲットは自分だったって話だもん。しかしこの場面でも吉村は情けないよねー。現職の刑事がこんな簡単に尾行を気づかれてどうするっつーん。それに普通ならこういう時はさ、吉村じゃない違う刑事が来るはずだよね。なんぼ今西に電話で指示されたっつっても、和賀に顔を覚えられてる奴が尾行したんじゃまずいだろ。そんなの捜査の基本じゃないの? 特別捜査本部ってのはそんなに人手不足なんかい。おかしいよなーマジ。」
「確かにおっしゃる通りなんですけれども、そういう欠点を探していると本当にキリがないですよ。いい加減でホコを収めるとしましょう。」
「キリがない、ねー。ほんとにキリがないよねー。ブツブツブツブツ。キリも積もれば桐箪笥ってとこか。ヨイヨイ♪」
「投げやりにならないで下さいね(笑)」


【 桐原邸 〜 和賀の部屋 】
「さて、第7回のラストとなるこのシーンではね、ちょっと腰を据えて語りたいことがあるんだけどいいですかな。」
「腰を据えてですか? ということは少なくとも賞賛の方面ではないですよね。」
「うん。賞賛じゃない。むしろその逆。まぁもっとも何度も言ってるけどさ、最終回の逆転ホームランが既に事実として判っているからこそ、何でも安心してズバズバ言えるというのが土台にあってのことなんだけどね。少々のキツい突っ込みをしても、そこまで言っちゃあシャレにならんぜよ、てなオチにはならない訳だからさ。」
「まぁそれがあるんでほんとに気が楽ですよね。このままズルズル崩れないことだけは確証がありますから。」
「そうそう。それを頼りにバッサリ言っちゃうけども、ここまで見てきて思ったのは、やっぱこのドラマは究極、宿命というものの位置づけというか描き方が中途半端だったというのが最大の欠点なんじゃないかなぁ。
多分ね、制作側も最初は判ってたと思うんだ。原作にあるような強烈で絶対的な宿命を、現代に求めるのは無理だってことを。原作の宿命はさ、いわゆる“業病”じゃん。あの病気は当時、生きながら体が腐っていく接触性の伝染病だと、とんでもない誤解をされていた訳でしょう? 現代のエイズほどの詳しい情報もなく誤謬がはびこっていて、感染したが最後、日常から引き離されて孤島か深山(しんざん)へ一生涯隔離される。そういう絶望的な病気だよね。だから原作の和賀は、三木を殺したことより何より、自分がその患者の息子であることを世間に隠さなきゃならなかった。婚約破棄どころか社会の根本から完全に抹殺されかねない…。殺人者と呼ばれるよりはるかに恐ろしい烙印だよ。そこまで重大かつ抵抗不可能な宿命って、21世紀の日本には実際のハナシとして『無い』よねぇ。この亀嵩のシーンで今西が言う、『あの本浦千代吉ですか!?』ってセリフも、せいぜい某宗教団体の代表者の名前くらいの衝撃でしょう。

某宗教団体の起こした事件も、確かに現実離れして恐ろしかったよ。解体後、関係者は迫害されたかも知れない。地域を追い出されたかも知れない。移転先で住民票は受理されず、子供の小学校入学も拒否されたかも知れない。でもさ、その一方で、いや子供に罪はないという世論も立派に存在したじゃんか。現に某宗教団体の代表者の子供は、入学は認められたんだよね確かね。そりゃあ周囲の目は暖かくはないかも知れないけど、でも、それでもね? 親と子供は別なんだ、親の罪によって子供の将来まで狭めてはいけないって意識が、社会的に存在することは否定できないよ。法の目が光っている分、元は某団体の関係者だった子供たちも、逆に暴力的なイジメには合わないんじゃないだろか。罪ある親を憎んでも子供は憎まず。それくらいの社会的良識は、今の日本の通念としてちゃんとあると思うよ。少なくとも原作の本浦千代吉には、決して向けられなかった良識だと思う。

そういう現代における”宿命”の限界を、制作側も意識はしてたと思うんだ。だから和賀の殺人もね、計画的に殺したのでなく最初は事故だった。ただ、そこで魔が差すように殺意が芽生えたのである…っていうふうに表現されていた。クローズアップしたかったのは宿命そのものではなく、罪の意識にさいなまれる和賀の姿。思いがけず人を殺してしまった彼の人間的苦悩を主旋律に、彼を取り巻く数々の人間関係を織りなして、宿命自体の存在感はどちらかというと薄める方向で設定されてたんじゃないかと思うんだ。
なのにどうしたことか途中で妙な方向転換があって、原作や映画の持つ重厚な悲劇性を強調するドラマになってしまった。視聴者を繋ぎとめ興味を煽るために、さぁさぁ和賀の持つ宿命とは一体何なのでしょうか!みたいな判りやすい色付けに走ったんじゃないのかな。最初から判っていたはずの宿命の限界を半ば強引に無視して、サスペンスドラマの性格を強めざるを得なくなった結果、どっちつかずのぬるさと迷いが生じて物語全体のリズムを狂わせてしまい、オーケストラでいえば“タテがズレている”状態になっちゃったんだと思うよ。

21世紀の現代には、原作の時代にはなかったものがある。それは価値観の多様化と個人の自主性の尊重。アメリカ式教育の一番いいところだよねこれ。メジャーリーグにしたってさ、野茂に始まりイチローも松井もリトル松井も、野球が上手ければ拍手を浴びるんだ。民族がどうの過去の戦争がどうのはこの際関係なく、野球選手としてのその人自身の素晴らしいプレイに拍手を贈る。これはアメリカ式思想の最高の美点だと思うよ。どっこいこれが日本では、自主性を尊重しようとするあまり義務と責任を置き去りにしちゃう困った風潮が蔓延してるきらいがあるけど、とにもかくにも今の時代にどんな”宿命”を持ってこられたところで、価値観の相違と自主性の壁に阻まれて、高気圧にぶち当たった台風みたく勢力を弱めることになるんだよ。

その点ねぇ、悔しいけど『模倣犯』の森田っちはやっぱすごかったよ。今の時代で怖いのは、宿命がどーたらという他者との係わりの中で生まれる葛藤じゃなくて、個人の思想の中で凝り固まった、自分の世界の中だけで確立し完結する観念論だもん。これに宗教が変な具合に絡んだ日にゃあアンタ、某宗教団体どころの騒ぎじゃないイッパツで戦争だぁね。そう考えるとあのヤマメのフライの後ろで戦争の音がしていたのは、ゾッとするほど示唆に富んだ演出だったってことだよ。うんうんうん。やっぱ森田は天才だ。いっそ抱かれてもいいよなー。」
「…あのぅ…何だか急に話が飛んだので僕なりにまとめてみますけれども、要はこのドラマは、宿命というものに頼らず和賀とその周囲の人間模様を描こうとした視線と、宿命なるものの悲劇性とインパクトを大いに利用して煽ろうとした視線がぶつかりあってしまい、また現代的な価値観の相違に阻まれたことによって、感動を生むには至らず説得力も持たなかった。つまりはそういうことですね?」
「そうですそういうことです。でもって何でこの回のこのシーンでそんなことを語りたくなったかというと、ここでの桐原の態度にはアタシ反感しか感じなくってね。しまいにゃ段々ムカついてきた自分に、何がそんなに腹立たしいのか聞いてみたら、こういう結論になったって訳よ。
このシーンで今西が桐原にさ、浮浪者の親子のことが三木の記録に残っていないのはおかしいって話を切り出すと、『そのことはご勘弁願いたい』って爺さんキッパリ言うやんか。んで人間には語るべき過去と語ってはならない過去があるとか何とか。でもねぇ? 浮浪者の親子のことを今西に話したのは桐原だろ? 多分その時には、三木がいかにいい人だったかを物語るエピソードとしてチラッとしゃべったに過ぎなかったんだろうけど、三木が墓の下まで持っていこうとした秘密をテメェが不用意にしゃべっちゃったくせに、今更こんな偉そうに、語ってはならない過去だとか言われてもねぇ。これってちょうど自分が年金払ってなかったのに議会で偉そうに熱弁ふるって、結局辞職に追い込まれたみっともない誰かさんみたいやん。だから今西にも、桐原さんには全てを話す責任があるって言われてグッと言葉に詰まってるんだよね。

んで庭でアタマ冷やして戻ってきた時には、今度は一転して悲劇の傍観者みたいな口ぶりになってさ、あの子がそんなことをするとは思えないだとぉ? 何言ってんだ自分たちが秀夫をいじめて追い出したんだろ。たとえ桐原自身が手出しした訳じゃなくても、村のもんがどうのこうのって代表するような言い方するんなら、見て見ぬふりも立派な罪だよ。村の長老気取るんだったら、『あの子がそんなことをするとは信じられませんが、もし、もしそれが真実なのだとしたら、あの子をそんな不幸な子にしてしまったのは私たちかも知れません…』くらい言ってみろっつの。それが言えないんだったら、あの子はそんな子じゃないの何だのって無責任なこと口にすんなよ。ただの冷や水ジジィじゃねぇかコイツ。

―――いや、それならそれでいいんだよ。ドラマの登場人物として、そういう情けないジジィにすればいい。威厳に満ちた顔でご立派な意見を言っているように見えて、実は桐原がしているのはただの責任転嫁であり、こういうジジィが秀夫をいじめて悲劇の種をうえつけたんですよって展開にするのかと思えば、何なのこの視聴者を同調させようとする仰々しい演出は。和賀の背負う『とってもとっても悲しい宿命』を納得させようとゴリ押ししてくるご大層なBGMは。本浦千代吉の名前をチラつかせながら見え見えの焦らしに入る脚本は。いかに寄ってたかって目くらましをしようとしても、そもそも土台の屋台骨がユルいんだよ!
…と私はTVの前で腕組みして鼻息荒くしちまいました。思い出せばこの回あたりが、オンエアを見終わったあとで一番悲しかったかも知れない。TV消したあとでしみじみ思ったもんね。ああ、大事なのは視聴率なんかじゃない。人の意見との比較じゃない。自分がドラマに感情移入できないのが悲しい。毎回毎回苦心して、愚痴りたい気持ちを無理矢理抑えて、よかったシーンを1つか2つ探し出してはホッとしてる。こんなの、なんかミジメじゃないか…。そう思うと涙が出そうだったね。」
「ははぁ…(苦笑) いや、僕テキにはははぁとしか言えない空気なんですけれども、まぁ、総括すれば560パーセントくらい、あの最終回があってくれてよかったですねぇ…。これでラストまでスッポ抜けだったらと思うと、ちょっと考えたくない気がしますね。」
「ホントだよホント。今思っても寒気がする。最終回のラスト10分に、全てが救われたドラマだったよね。」
「それには高見澤も全く同感です。はい。」
「えー…それではですね、最後の方がかなり辛口になったんですけれども、第7回の座談会はこのへんでそろそろ締めくくりたいと思うんですけれども…あと何かありますか言い忘れたことは。」
「いんや今回はかなりスッキリした。ずーっと思っていたことを自分自身で整理できた感じがする。」
「そうですか。それは非常によかったですね。いつもいつも絶賛ばかりだと座談会としても単調になりますし、時には反対の見方をしてみるのもね、有意義なんじゃないかと思うんですけれども…。
はい、それでは以上をもちまして、第7回は終了いたしたいと思います。次回第8回につきましては、智子さんもけっこう好きだとか言ってませんでした?」

「そうだね第8回は比較的よかったかも知んないね。バースデーケーキを前にしての、『わーがーくん♪』のシーンがここだもん。要するに1・2・8・11回が面白かったんだよこのドラマは。」
「成程(笑) じゃあそれを楽しみに、残り4回、語っていきましょう。はい。それでは次回までご機嫌よう。パーソナリティーは私、八重垣悟と、」
「次回UPは今月の23日頃を予定していますー!の木村智子と、」
「『BOAO』に字が汚い女性は嫌だという中居さんのインタビューがあったんで、ペン習字を習おうかどうしようか一瞬ホンキで悩んだ高見澤でした。でも智子さんにホメられた生きざまを今さら変えるというのもあれだし、それに、いいわぁ御殿でのあたくしのおツトメは雅楽寮長官。字は書かないからいいんですぅ♪ 凶子まだ〜♪18だかンらぁ〜♪」
「そうそう。字のキレイな高見澤なんてバク転のできる八重垣のようなもの。あってはならない、ありえない!」
「え? できますよ僕、バク転くらい。イナガキと一緒にしないでくれます?」
「「ええっ!」」
「や、八重垣がバク転を!? 膝の曲がった側転ならともかく、バク転を! 聞いたかひなつ! ひーなーつー!」
「うっそーうっそー信じらんないー! やめてぇっあたしの中の八重垣クンのイメージが壊れるゥー!」
「どうして壊れるんですか失敬だなぁ。ま、そのうち機会があればご披露に及ぶとしましょう。はい尺こぼれです尺こぼれ。撤収撤収。」



【 第8回に続く 】




Le bol de sableインデックスに戻る