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【 第8回 】

「はい、えー季節はすっかり秋めいてきましたけれども、皆様お元気でしたでしょうか、八重垣悟です。」
「高見澤です。」
「オイこらちょっと待てたかみ〜。なんでアタシより先に名乗るんさゲストのくせに…つーかそもそもアンタは、なに。なんでちょこちょこ出現すんの。」
「なにって改めて聞かれても困るんですけど…。まぁ要は、音楽監督? 監修? 音大出の知識と経験を生かして、専門的見地からこのドラマの音楽性を論じるつもりは全くありません。」
「ないんかい!」
「ですから言ってみればいわゆる、アジ系というやつなんでしょうね。見た目もほら、八重垣くんには華があるけど智子さんだと地味だし。」
「かーっ! アンタとひなつにだけは言われたくねー!」
「凶子まだ〜♪ 18だかンらン〜♪ ハッスルハッスル!」
「あ、そういえばひなつさんといえばですね、何やらこんなものが届いているんですけれども…。おみやげだという話なんですけれども、何でしょうかこれは。」
「おお何やら細長い箱が。包み紙をあけてみると…?」
「へぇ、ワイングラスだ。綺麗ですねぇ。」
「ちゃうちゃうちゃうちゃうちゃうちゃう八重垣! ひなっつぅのみやげといえば耳かき! それ以外は絶対ありえない! ほっほぅガラス製の耳かきかぁよく出来てるもんだ。」
「いやどう見たってワイングラスでしょうこれは。こんな大きな耳かきはありえないですよ。」
「いやいや多分ドー国サイズはこんなもんなんだってば。だってあんた、これが最高級の五稜郭耳かきとなると、ブラブラした飾りの先っちょに本物の五稜郭がくっついてるっていうからね。」
「どういう耳かきですか!」
「まぁまぁせっかくだから使い心地を試してみようじゃないの。ねぇ八重垣。」
「えっ?」
「では担当はこの高見澤がやって進ぜる。はぁい八重垣くん、凶子のおひざで膝枕。トントン♪」
「あ、いや、よして下さいそんな、人のものをどうにかする気は僕には…」
「だいじょぶだいじょぶ♪ 凶子の得意はピアノより耳かきよ♪ Heyカモンカモン♪」
「聞いてないですよそんなこと! いけませんそんな、そんな巨大な耳かきで僕の耳をレイプしないで下さいっ! ひなつさーん! どうして肉厚のホッキ貝を送ってきてくれなかったんですかー!」
「いいじゃないよぉ減るもんじゃなしー! 凶子ハッスルハッスル♪」
「―――はい、では背後で何やら楽しく盛り上がっているうちに、さっさとまいりましょう。えー今回はけっこうストーリーが動きますのでね、それに備えてということなのか、おさらいシーンが長かったですね。地下駐車場での 『和賀さんですか』 に始まり、主要なポイントを拾いあげたあとで本編に入っていきました。」
「そうですね。前回までの長い復習がありましたね。」
「おや八重垣くんお早いお戻りで。耳かきプレイは終わったの?」
「いや終わったもなにも、必殺のひとことで動きを封じてきました。」
「ひとことって?」
「 『更年期!』 です。…はい、それでは前フリのコントはこのへんにしまして、第8回に入りましょう。VTR、スタート。」
「そういや総長もそろそろだって言ってたなぁ…。」 (← 「言ってへんがな! ただの風邪やねん!」)


【 和賀の部屋 〜 捜査本部 〜 山中温泉 〜 和賀の部屋 】
「さて今回もまた場面転換にオーバーラップが多用されていますね。演出としてはもう、このドラマのほとんど定番になっていますけれども、座談会としては確かに語りづらいですね。」
「そうなんだよねー。しかも前にも言ったけども、目先がクルクル変わるから飽きないかと思いきや、全体的に見るとやたら似たような場面ばかりが繰り返される印象になるんだよね。このシーンでもさ、外を動き回ってる今西は背景込みで変わるからまだいいんだけど、限られた室内で心理的に追いつめられていく和賀の場合は、どうしたって単調になりやすいよなー。難しかったと思うよここ。さらにはセリフもない訳だしさ、演技的には今回あたりが一番難しい個所かも知れない。」
「大変でしたね中居もね。おさらいシーン明けの本編最初の映像は、ピアノの屋根越しに朝日が差し込む部屋の様子で、和賀はピアノの脚にもたれて眠りこんでいます。このように彼がベッドで寝ないのは、つまり和賀はすでに安眠を許されてはいないのだと、それを言いたいがための演出かも知れませんね。」
「うん。和賀はこの回一度もベッドで寝てないもんね。罪の意識と不安と恐怖が、和賀を安らかに眠らせてくれない。そのことを映像で表現するとこうなるんだろうね。んで和賀を追いつめる側の今西は、その頃バスに乗ってる訳なんだけども、いったん時間を巻き戻す感じで、捜査本部へ連絡する今西の言葉が入ってくるんだ。」
「浮浪者親子の父親の方は本浦千代吉だったという報告ですね。それを聞いた管理官がすかさず大畑事件の名前を上げているからには、逮捕後も語り草になるような、有名な事件だったんでしょうね。」
「現実でいえば 『あさま山荘事件』 とか 『地下鉄サリン事件』 みたいなもんかな。しかしここで画面にわざわざ 『前夜』 とテロップを出すのはどうかねぇ。バスの中で今西は今電話してる訳じゃないんだし、ちょっと気をつけて見てりゃあ、これが前夜のシーンだってことくらい判りそうなもんだと思うけど…。なんかさぁ、和賀のナレーションといいこのテロップといい、こういう凝った映像表現に対して判りにくい判りにくいっつってきかないお偉いさんでもいるんかぁ?って思いたくなる。妙にコンセプトをはずれた幼稚くさい補足が、唐突に出現するドラマだよねぇ全く。マウンテンバイクに補助輪つけてみました、みたいな。」
「そうですね(笑) この 『前夜』 のテロップはかなり唐突でしたね。僕は一瞬、またどこかで地震でもあったかと思いました。」
「なんかモロ取ってつけたみたいな出現だったよなー。いやホントに取ってつけたんだろうけどさ。それに対して今西が電話で、浮浪者親子の子供の名前は秀夫で、その秀夫というのがもしかすると…って言ったところで画面は和賀のアップになるの。こういう編集は象徴的で巧いよね。」
「ええ。おそらく現場はかなり時間がなくて、スタッフ同士の連携もギリギリだったのかも知れませんけれども、演出の手は最大限、抜いていないという感じですね。」
「『砂』班と『器』班だけじゃなく、しまいには『の』班まで加わって撮影したっていってたもんね。プロとはいえご苦労さまなことだ。んで今西が向かっているのは山中温泉。ダム湖の前を走るバスがロング映像で捉えられてるけど、どうせなら今西にはバスなんて乗らずにランニングしてほしかったなー。腕を大きく振ってタッタッタッタッとさ。ちょいと古いけどペプシマンみたいに。」
「駄目ですよそうやってコントにしちゃ(笑)」
「んでもここでまたさぁ、矛盾だらけなことやってるよね警察は。今西もさー、本浦親子の放浪の理由が判れば事件の本質を掴めるとかって、放浪の理由なんざとっくに判ってんじゃんか。村人を30人も殺したから逃げたんだろ? つまり判んないのは『放浪』の理由じゃなくて『殺害』の理由だろうよ。しかも千代吉は今も逃げてる訳じゃない、とっくの昔に捕まったんだから、その逮捕時の記録があるはずだよねぇ。千代吉が死刑に決まるまでの裁判記録とかさ。まずはそっちを徹底的に調べて、石川くんだりに行くのはそのあとでいいんじゃないか? 捜査の順番が違うよねぇ…。三木の場合もそうだったけどこの警察のやり方って、わざわざ核心から遠い周囲をつっつき回しては謎だ謎だ言ってんだよね。出雲弁なんか調べる前に三木の泊まった伊勢の旅館へ行けよ。元住人に聞き込みして回る前に千代吉の自供を読めよ。普通そうだべー? ストーリーを膨らませるためにリアリティを捨てなきゃならんのはあるとしても、恋愛ものならともかくサスペンスでは、それが致命的欠陥になると思うんだけどねぇ。ぐいぐい引きずり込まれるような説得力が皆無なんだよチッチッチッ。」
「なるほど(笑) 今回も警察の描き方には不満続出のようですね。」
「いやいや、こんな愚痴みたいな突っ込みはもういい加減にしようとは思ってるんだけどね。毎回ホコロビが多すぎて、どうしてもヒトコト文句言いたくなる。」
「まぁねぇ、その気持ちは多少判らないでもないですけれども…。」
「じゃあ気を取り直して和賀ちゃんの目覚めについてね。ピピピ…と携帯の音に起こされて、パネルを見ると3月4日の表示になっている。それをじっと見つめたあとしばし虚空を眺める、このアップは綺麗だったねぇ。光を透かして睫毛が光ってるんだよぉ? んですぐにまた目を閉じてしまった和賀にかぶせて、タイトルバックの映像になる。このアップからのフェイドアウトも、すごく叙情的でよかったね。」
「雲間から差し込む光の筋のことを、天使のきざはしと呼んだりしますよね。構図的にも非常に整ったタイトルバックだと思います。もちろん毎回のことなんですけれども。」
「天使のきざはしねー。和賀の上にも救いの天使が降りてきてくれればと思うよ。」


【 マンション前 〜 路上 〜 ダム湖の前 】
「ソアラが地上に出てくるこのシーンは、最初どこかのホールの前かと思たら、何のこたぁない和賀ちゃんのマンションだったのね。ンだよこんな時こそテロップ出しゃいいのにぃ、とかイジワルなこと思っちった(笑)」
「本当にイジワルですね。でも吉村の乗った覆面車も、ここまでバレバレの尾行で問題ないんでしょうか。」
「おやあんたも多少イジワルになってきたか? まぁ尾行を見せつけて和賀を挑発し、ボロを出させるのが狙いだっていう解釈も成り立つけど、今西からはそんな指示も出ていないだろうからね。となると警察の尾行も下手クソながら、要するに和賀ちゃんがカンがいいってことなんじゃないの。」
「なるほど。真犯人ゆえ神経過敏になっている、というのもあるかも知れませんね。」
「でもってさー、この覆面車のナンバーが1113なのって、一瞬アラッて思わなかった? 拓哉ファンがパスワードにしそうなナンバーじゃんか。」
「ああ、11月13日って木村拓哉の誕生日ですか! そうか、それは気づかなかったな…。パスワードもそうですし、メールのアドレスにもなりそうですよね。」
「そうなのそうなの。青組チームには0818が多くて困るもん。0818がついたアドレスの人、私の知り合いだけで5人いるからね(笑) あいつとあいつとあいつと、あいつ。」
「あれ1人足りませんよ?」
「んな細かくしっかり数えてんなよぉ(笑) あと1人はあいつだよあいつ! んで和賀は尾行車をバックミラーでチェックして、苛々しながらハンドルをドン!て叩くやん。この時は完全に犯人の顔になってるよね。脅えながら舌打ちするような、余裕のない荒っぽい姿。追ってくるのが若い吉村だっていうのが、さらに苛立ちを加速させるんだろうね。チッあのガキが…みたいな感情。何てことないシーンなんだけど、こういうのがいいんだよなぁ今回の中居さん。芝居芝居してないのに、ちょっとした仕種がちゃんと和賀してる。」
「一方今西はダム湖の前の展望台に来ていますけれども、この様子からすると付近一帯は観光地になっているんですね。大畑事件のあとすぐ工事に入って、それはもう20年以上前のことだという訳ですか。」
「20年かあ。なんか 『いつもここから』 のネタになりそうな時間だよな。つまりこんな感じよ。
『悲しいとき〜。20年以上前といわれて、もう立派な大人だったと気づいたとき〜。』」
「(大爆笑)」
「コラー! ちと笑いすぎやろ八重垣! ッたくあんたまで笑ってんじゃないよ高見澤! あたしよか年上でしょおー!?」
「だってホントだなーと思ったから。智子さんもそろそろ更年期のハシリが来たって不思議はないんじゃないの?」
「知るかい(笑) どうせあたしらの世代、子供の頃の写真は白黒だよ。カラーじゃなくてすいませんでしたね。ってそんな悲しい話にわざわざ触れるのはよしにして、今西にかつての住民のことを聞かれたおじさんが、何か答える前にカットして次のシーンに行くのは巧いね。」
「ホントだよねー。最近はさぁ、お宮参りが動画で残ってる時代だもんねー。」
「だからその話題はもうやめようって。次行こう次。」


【 ホールの中 】
「和賀ちゃんが会場の下見に来るこのシーン、個人的にけっこう好き好き。ドアを閉めて、靴音を響かせながら通路を降りてくるのがね、どうしてだか不思議なんだけどさぁ、すごく身近な存在に錯覚できちゃうの。ロングで捉えた客席の椅子がウロコみたいでさ、画(え)的にも面白いよね。でもこの程度のホールなんて、SMAPから見りゃあミニミニサイズなんだろうね。」
「そりゃああのグループにしてみればそうでしょう。でもクラシックのホールというのは大きくできませんからね。N響のホームグラウンドであるNHKホールは、クラシック用には大きすぎるとも言われていますし。」
「ああ、そうなんだっていうね。あのホールに見合う大きな音を出そうとして、一時期N響は下手になったって意見もどっかで読んだことある。それにしてもこのホール、演出なのかも知れないけど足音が響きすぎないか? 演奏中の着座と退席はタブーとはいえ、やんごとなき理由で致し方ない時に迷惑だぜぇ? その点有楽町のマリオンて、通路も足元もぴっちり絨毯敷きなのがすごいよね。」
「ああ、あそこは映画館としては文句なしに日本一ですからね。」
「ほんとそうだよねー。完全入れ替えで途中入退場なしっていうのは、今となってはシネコンとかで珍しくないけど、昔はマリオンくらいしかなかったもんな。他の映画館はたいてい、クライマックスの一番いいところになると空席待ちがゾロゾロ入ってきてさ、すいませんそこ次いいですかだの何だの、興を削がれること甚だしかった。それをやられたくないがために、わざわざマリオンまで行ったもんだよあたしゃ。まぁそんな昔話はいいとして、和賀ちゃんは縦からも横からもホールのほぼ中央という席に座って、コートをとなりの席に置き、ぐるっとあたりを見回すんだね。」
「プロの音楽家として、専門的な音の『返り』なんかを気にしているんでしょうね。」
「それにしても綺麗だわぁ和賀ちゃん…。ことさらなシーンじゃないのに、やっぱすごく好きだここ。左人さし指で額のあたりをポリポリしてるのも身近な感じで、このまま近づいて隣に座りたい気分だよねー。なんかねぇなんかねぇ、コソッと言っちゃうけどねぇ、このシーンの和賀ちゃんにはちょっと、『自分の男』 であるかのような錯覚を楽しませてもらえるんだよね! きゃっ言っちゃったっ♪ きゃぴっきゃぴっ♪」
「そうなんですか。それは御目出度いじゃないですか。それは多分、ステージという場所にいるべきビジュアルが、客席という正反対の場所にいることによって起こる違和感ですよ。その落差が脳細胞を刺激して生まれる、とんでもない誤解でしょうね。確かにインパクトはあると思いますよ。」
「へっ。冷静に分析すんじゃないよ。和賀ちゃんが自分のもんだったら、命がいくつあっても足りないやい。んで和賀ちゃんはちょっとの間、プロらしく空間チェックなんかをしてたんだけども、すぐに内なる苦悩に絡めとられて深々とうなだれちゃうんだよね。追われる不安もそうだけど、時間ばかりが迫ってくるって感じかな? BGMの単音のピアノも、秒針みたいな雰囲気を出してるよね。この頃の和賀ちゃんは超スランプでさ、曲は完成どころか全く進まない状態になっちゃっていた。それなのにスタッフは無神経というか有難迷惑というか、派手なクラッカーを鳴らして和賀の誕生祝いをしてくれるんだ。」
「冒頭の携帯のパネルは、このシーンの前フリでもあったんですね。嬉しくも何ともない花束と拍手を、和賀はそれでも笑顔になって受け取りにいく。自業自得とはいえ痛々しいです。」
「和賀のこの笑顔は完全に仮面なんだよね。そもそもこの日だって和賀英良の誕生日なのであって、秀夫のじゃない訳だし。」
「つまり彼は毎年この日が来るたびに、自分が自分でないことを、否応なく思い出していたのかも知れませんね。いや、もしかしたら自らすすんでなのかな。年に一度、本当の和賀英良への、せめてもの秀夫の償い…。」
「あーそれはあるかもねー。よくよく考えてみればさ、本当の和賀英良が死んだことを知っているのは秀夫だけなんだから、和賀くんを弔う者は誰一人いないんだよ。慰霊祭みたいなものが仮にあったとしても、そこでは逆に秀夫への祈りが捧げられてるんだからね。皮肉なもんだ。」
「そうなりますよね。和賀の誕生日は秀夫にとっての、祈りの日だということですか。」


【 山中温泉 】
「さてシーンは変わって、情報収集中の今西が歩いているこの細道が、エンドロールに地名のあった勢多郡東村(せたぐんあずまむら)なのかな。だとしたらロケ地は群馬だよ。ちなみに東村ってのは県内に2か所あるんさぁ。勢多郡と、あとは佐波郡(さわぐん)と。待てよ吾妻郡にもあるから都合3か所だ。人口密度が低いとはいえだぶったもんだね。」
「へぇぇ。JRの小岩と京成小岩みたいなものですか。」
「しかし京成ってのも変わった電車でさ、小岩みたくJRにも駅名があるなら判るけど、なんで1こしかない高砂にわざわざ 『京成高砂』 ってつけるかなぁ。どうも自己顕示欲が旺盛だよね。一方で群馬ってとこはけっこうロケに使われててさ、『サタ☆スマ』 でも慎吾がバンジージャンプしてたよなぁ。便利なのかも知んないね、都内から比較的近いのに十分田舎だから。なのに長野に比べるとあまりにも高級感がないという、このサベツはなんでなんだろ。別荘地にしたって浅間山のこっち半分の北軽井沢となると、ブランド性がガクンと落ちて値段も下がるんさぁ。」
「ま、群馬の話はどうでもいいですよ。ゆうまちゃんは可愛いんだからそれでいいじゃないですか。ここで肝心なのは元大畑村の住民たちの態度です。今西は一軒の古い民家を訪ねて、出てきたお婆さんに話を聞こうとするんですけれども、生まれてから70年ここに住んでいるというのは、ちょっと矛盾していませんか。大畑事件をよく知っている住民たちは、20年前に村を出たんじゃないですか?」
「うんうんそうそう。ここは私もアレッと思った。でももしかしたらさ、この古い民家もダムの底も、同じ大畑村なんじゃないかな。中居神社のある岐阜県の白鳥(しろとり)だって、ありゃすげー広さだったからね。もぉ山越え川越えどこまで行っても、地名表示が白鳥なんだもん。道に迷ってるんだか迷ってないんだか判らなくて、緋色っちと一緒に大いに困ったもんだよ。」
「なるほどね、大畑村もそれくらい広いのかも知れませんね。でも最初は愛想のよかったこのお婆さんは、本浦千代吉の名前を聞いたとたん態度を豹変させ、他の住民たちもみんな同じように、今西と目があっただけでそそくさと姿を隠してしまう。これは明らかに何かありますね。」
「うん。すごく素直で判りやすい反応だよ。亀嵩の冷や水ジジィよりよっぽど人間らしくて許せる。だってここの住民たちは、千代吉事件については自分たちにも十分罪があると認識していればこそ、反動でこういう攻撃的な拒絶をしちゃう訳じゃんか。亀嵩のお屋敷ジジィみたく、テメェがいじめを傍観してたくせに、あの子がそんなことをするなんて信じられないとか何とか、第三者気取りの発言するよりはるかにいいよ。」
「よっぽど桐原さんが嫌いなんですね智子さんは(笑)」
「嫌い(笑) 自分の罪を振り返りもしないで被害者ヅラする奴が、あたしゃいっちゃん嫌いだ。例えば華氏ナントカって映画でアメリカ批判してる監督とかね。あの国のやってることが全て正しいとは言わなくても、立場上アメリカにしか出来ないことはあるし、アメリカのお陰で何とかおさまってることも確かにある訳じゃんか。その恩恵を少しでも受けているのなら、思い上がった中学生のガキが親や教師に反抗するみたく、偉そうに政権批判するのは卑怯だよ。小泉首相をヒステリックに批判する奴も、同じ理由でみっともないと思う。」
「えーとですね、それなり気合の入った意見ではあるかも知れませんけれども、話は大いにズレていますので次に行きましょう。」


【 ミーティングルーム 〜 地下駐車場 】
「このシーンでドキッとしたのはね、ミーティングの席で和賀がスタッフに、打楽器の位置を確認しとけって指示を出すところ。すぅっと横にパンしてるカメラの方にスタッフの頭ナメで一瞬だけ、パッと鋭い視線が飛んでくるの。いやー射抜かれたねー。あんな目で見られたら会議中でもハナヂもんだな。中居さんていうのはサラリーマンになっても大成する相だって人相学の先生がどっかに書いてたけど、それって本当だろうなぁ…。こんな風に会議の席でさ、辣腕のプロジェクトリーダーを務める中居さん。いいねぇいいねぇ。一緒に仕事してみたいねぇ!」
「でも中居はともかくですね、和賀はやはり自我が全ての芸術家ですから、スタッフのお世辞を聞き流すことができずに、こんな冷たい口調になってしまうんですね。」
「『宿命』ワールドツアーに、ウィーンフィルとの共演かぁ。今の和賀には虚しく響くんだろうね。未来を夢見る気分じゃないってことと、和賀にとってこの曲は、人生の深淵みたいなものと向き合う意味を持つからだろうね。まぁこの俗物なスタッフも追従だけで言ったんじゃないだろうけど、和賀の冷たい一瞥は彼をうろたえさせるに十分だったって訳だ。」
「それとこの部屋を出ていく時に和賀は、花束もプレゼントもみんな置いていっちゃうじゃないですか。これがすごく和賀らしくてよかったですね。仮面の笑顔で受け取りはしても、全く喜んでいない証拠ですね。」
「多分ああいうプレゼントのたぐいは、マネージャーが事務所に持って帰るだけなんだろうね。それが通例みたいな気がする。んで和賀は 『ソニックシティ』 の自動ドアを革手袋をしながら出てきて、左右に油断なく視線を配りつつ地下駐車場へと足を踏み入れる。するとそこにはやはり1113の車が停まってるんだけど、このナンバーにしたのは大正解だったねぇ。ものすごく記憶に残るナンバーだから、おっいるぜいるぜ!っていうのが視聴者にもよ〜く判る。」
「いや、そう思うのは多分中居ファン…というかSMAPファンだけだと思いますけれども、車種より印象に残るナンバーだというんなら、それはそれで確かに正解でしたね。」
「和賀ちゃんのキーにピッピッとライトで応えるソアラもさ、愛馬みたいで可愛いよね。あっご主人様だ♪みたいな。んで運転席でシートベルトする和賀ちゃんの姿が、これまた素敵なんさぁ…。眼鏡の度がけっこう強いのも、よぉく判るアングルだよね。斜めから撮ると眼鏡のところで輪郭の線が変わるからな。そういや古田選手がかけてる眼鏡がバカ売れなんだって? いい人たちだよなジャパニーズ。」


【 村の碁会所 】
「これもまた時代がかった場所だなぁ。今どきの爺ちゃんたちが興じるのは、碁っちゅうよりもゲートボールじゃないか?」
「いやまさかゲートボール場で 『千代吉は鬼や!』 じゃ間抜けすぎますよ。冬の北陸は関東よりはるかに寒いでしょうし、外でスポーツは無理なんじゃないですか。それにこのシーンでは碁石の音がいい効果音になっていました。」
「ああ、碁石の音は確かにそうだったね。胸に秘めた傷を誰にも語らない老人が、独りでパチンパチンやってる背中は絵になるからな。んでまさにそんな感じの老人が、ここでぽつりと言うんだ。『みんなが鬼やった。人はおとろしいほど簡単に醜い鬼になる…』」
「この台詞は重要ですね。物語の核心といってもいいかも知れません。人間は誰しも鬼になり得るんです。ですから宿命というのも、ハンセン氏病だとか住民の差別だとか、何か特定・特別の事柄ではなくて、生きることそのものに根本的に宿る苦悩であり、登場人物ばかりか視聴者の全員が持っているものである…。そういう主張に繋がっていく訳ですね。」
「そうだね。すごく正しい方向性をもったテーマだよね。原作とも映画とも違う、2004年版のドラマらしさがここへ来てようやく出てきたよ。今西はかつて大畑村で何があったかの具体的なことではなく、今も住民の心に残る深い傷を理解したんだ。ダム湖を見おろして屈む今西の頭上を、流れていく雲の速さが印象的だったね。」


【 芝 〜 あさみの部屋 】
「このタワー前の歩道橋ってさ、帝國ホテルツアーの2日めに大門行った時、地下鉄から地上に出て一瞬迷ったところじゃないか? おーいS原さんF見さん、どう思いますぅ?」
「何ですか芝で迷ったんですか? 迷わないで下さいよ。都内であんなに判りやすい地形も、そうはないじゃないですか。なのにあそこで迷うなんて、さすがは赤坂でTBSとNTTを間違えた人ですね。」
「だってさー、地下から地上に出た瞬間って、方向感覚失ってない〜? むしろずっと地下を歩いてて、地下道だけっていうんならそんなに迷わないけどぉ。やっぱ『ぴあMAP』は必需品だな。芝に持っていかなかったのが失敗だった。チッチッチッ。」
「でも持ち歩くなら小型の方にして下さいね。A4サイズを1冊丸ごとじゃあ、田舎者の証明になっちゃいますから。えーとそれでこのシーンなんですけれども、ここでは視聴者への説明が主な目的でしょうね。警察の捜査はじりじりとあさみの周囲にも迫っているという。」
「そうだね。キーワードの『蒲田』も唐木の口から出てるしね。でもあさみがコートの袋をベッドの下に押し込むのって、なんか他愛ないというか素人っぽいというか、ああこの人は和賀と違って罪人(つみびと)じゃないんだなって思ったよ。付着してる血の量は確かに桁違いだけど、和賀がセーターを切り刻んだのに比べたらあさみのやってることは甘々やんか。子供騙しのレベルだよね。」
「罪人である和賀と、そうではないあさみ…。人間の真の姿は、こうやって追いつめられた時に顕れるんでしょうね。」


【 田所の事務所 〜 路上 〜 駅 】
「このシーンで何となく判っちゃったこと〜。交響曲と協奏曲の違いについて、やっぱスタッフは熟知してなかったんじゃないかな。田所は相変わらず交響曲っつってるのに、小道具である新聞の見出しにはしっかり『協奏曲』と入ってる。もちろんこれだけならね、第4回の座談会にも出たように、田所は和賀の音楽について何ら理解していない人間なのだって解釈も成り立つけども…。第6回でこんな話したやん。芸術オンチの政治家ならいざ知らず、カリスマ演劇人の麻生がハッキリ交響曲と言っているからには、和賀が最初に作ろうとしたのは交響曲なのであって、それを本番ギリギリ前に協奏曲に作り替えたのである。そう解釈しようじゃないかって話を、第6回の座談会でやったよねぇ。なのにこのシーンの新聞に『協奏曲』と出されちゃったんじゃ、その解釈も不可能。やっぱスタッフはみんな、『宿命』を交響曲だと考えてたんだろうね。」
「う〜ん…。やはりそう考えざるを得ませんか…。ピアニストを主人公としたドラマを作ろうという人間たちが、それではあまりに情けない気がして嫌なんですけれども…。まぁ確かにサブタイトルにも『ラストシンフォニー』と入っていますからねぇ…。交響曲とは通常4楽章からなる管弦楽曲であり、協奏曲とは管弦楽の伴奏付きの器楽曲なんですけれども…。」
「やっぱ多分さぁ、あくまでも想像なんだけど、脚本をはじめとするスタッフは交響曲のつもりでいたのを、作曲を依頼された千住さんだけが、正しく『ピアノ協奏曲』を作ったってことじゃないかしらん。案外このシーンを撮影しながらも、まだ気づいてなかったりしてな(笑)」
「でもそんなことがあり得るんでしょうか。ドラマ作りのプロ集団が。」
「残念ながらあると思うよ。TVドラマってさ、映画の制作過程に比べたら徹底的に時間がないと思うもん。現に過去のドラマに大ボケがあった。どこの局だっけかなぁ、岩下志麻さん主演の『額田女王(ぬかたのおおきみ)』でさ、大海人皇子(おおあまのみこ)…のちの天武天皇の歌が登場したんだ。万葉集の超有名歌で、少しでも上代文学をかじった者なら知らないはずはない一首。『紫のにほへる妹を憎くあらば人妻故に我恋ひめやも』ってやつ。最後の部分は『われ こいめやも』って読むのに、これをドラマ内で 『わが恋(こい) 秘(ひ)めやも』 って言われた時にゃあ、あたしゃコントじゃないけどフスマにアタマ突っ込んでブッ倒れるかと思った。『恋ひ』は『恋ふ』の活用形じゃボケェ〜! 原文の万葉仮名で確認してもこの部分は『吾戀目八方』となってて、秘めるの『ひ』音なんてどこにも入ってないんさ。恋秘めやもじゃない、恋いめやもだって、演出家もプロデューサーも編集ディレクターも、誰もこの間違いに気づかなかったのかと思ったら悲しくなってきたよ。名もない捨て歌じゃない、『茜さす紫野行き標野行き』 と合わせて 『紫の唱和』 と呼ばれる、万葉集中1、2を争う有名歌だよ。バレリーナにとっての『白鳥の湖』、ピアノ教室の『トルコ行進曲』くらいなもん。でも知らない人は知らないんだよね。恐ろしいもんだと思った記憶があるよ。だから交響曲と協奏曲を混同するくらい、あっても不思議はないんじゃないかな。」
「なるほどねぇ…。まぁそう考えると、このドラマに和賀の音楽家らしいシーンがなかったのも、色眼鏡かも知れませんけれども、関係ありそうな気がしてきますよねぇ…。」
「そうなのそうなの悲しいけど。専門的な台詞っつったらあんた、例のゲーペーだけだからね(笑) なんぼ時間がなかったっつっても、せめてもうちょっと何とかならんかったかねー。専門家のアドバイスをもっと受けるとかさぁ。」
「こうしてみると音楽もののドラマって、案外難しいのかも知れませんね。」
「だよなぁ。現にいいわぁ星人だって、文学部出身はけっこう見かけるのに、音大出ははなはだ少ないからね。いたと思ったらこんなのだしよ(笑)」
「ちょっとちょっとこんなのとは何だねこんなのとは。あぁ? そんなこと言うと『宿命』講座、協力してやんないぞー!」
「あっいやいやそれは困る。そのへんは是非ともよろしゅうに。これ八重垣、お肩をもんでさしあげて!」
「僕がですか?」
「僕がだよ。なんでアタシがたかみ〜の肩なんて揉まなきゃなんないの。指が疲れそうだよこの肩は。ピアニストだけじゃなくSEにとっても指は商売道具なんだかんね。」
「だったら僕だってそうですよ。ですからここはですね、…はい、孫の手付きの肩たたき。これで自分でたんとんして下さい。」
「たんとんたんとん♪ たんとんとん♪ ああいい気持ちだ〜♪ ボリボリボリ。」
「はい、そうやって大人しくやってて下さいね。これで平和です。で話は戻りまして、『宿命』をサミットのオープニングセレモニーでやってもらうということですが…。」
「これってなんか妙にリアリティのあるエピソードだったよね。一国の宰相といえど小泉っちだって人間。ハンサムさんが好きっぽいからな〜。和賀ちゃんとの握手には力もこもるであろう。しかし田所パパが差し出したのはスポーツ新聞って、これもどうなのかねぇ。毎朝新聞とかじゃダメだったんか? そんな、スポーツ新聞にしか載らないようじゃ和賀も三流ピアニストだぜぇ? どうせなら田所パパが出すのはさ、『さっきFaxで届いたゲラだ。明日の朝刊に載る。』 みたいな感じだったらリアルなのにね。」
「まぁでもこのシーンのメインは、ここまでのカットというよりこの次でしょう。和賀の…」
「うんうんそうそう和賀の表情がメインだよね! このシーンは最高級の名演だったよ中居さん! 『私の家族になることはありえない』 なんて自慢タラタラのパパに対して、内心では 『ただの田舎もんのくせに』 くらい思っていそうな視線と、むしろ哀れむような表情。これは上手かったと思うなぁ。んで和賀が 『僕にはピアノしかありませんから』 って言うと田所パパは、『これからピアノ以外のことも身につけんとな。世界に向かっていかにゃあならんのだから!』 とプッシュする。この時の和賀の、まるで別世界の生物を見るような目もよかったし、誘い出し笑いに応えての、片方の口元だけをクッと上げた笑い方も最高だったよ。全編中、屈指といってもいい名優っぷりだったと思う。うんうんうんうん。」
「…はぁ。いやその、僕が言いたかったのはですね、まぁ中居の演技もよかったですけれども、メインというのはそっちじゃなくて、ここで和賀の過去をポインティングしていく田所の台詞の方です。伏線というより前フリになっている田所の台詞が、このシーンのメインなんだろうなと思うんですよ。だって物語はこのあと、和賀の過去をずっと辿りながらクライマックスを迎える訳じゃないですか。そこへのイントロが、ここでの田所のセリフなんです。」
「なるほどね。それはそうかも知んないね。『どこの誰だか判らない男を私に認めさせた』 に始まって、『長崎の実家。亡くなったご両親。施設で育った君…』 と並べて、ピアノの才能1つでここまで来たことを誇りに思えと。これが田所パパの最高の賛辞なんだろうね。でも、芸術っていうのはそういうことじゃない。和賀の精神が目指すのは、そういうものじゃないんだよ。そのことが田所パパには、どうしても理解できないというよりか、精神構造そのものが違うんだろうね。高尚とか卑俗とかいうんじゃなく、そもそも種類が違うんだよ。そういや昔、文学概論の教授が言ってたねぇ。文学は勝者の側からは生まれないって。田所パパは典型的な、勝者の側を佳しとする人間だもんね。だから和賀に対しても、セレモニー用アレンジが必要だってことをしごく当然に告げることができる。作曲家の繊細な神経に対して、あまりにも無理解なんだよな。」
「そういう和賀の心根を、当然ながら吉村刑事も全く理解していないんですね。朝からずっと尾行してきた吉村の中では、和賀イコール悪人のイメージが固まりかけている気がします。昼間は外で精力的に仕事をこなして、夜はパトロンのご機嫌伺いも忘れない。吉村は和賀をそういう嫌な男だと捉えているんでしょうけれども、今西は違う。今西はこの先、和賀の心や人間性を深く理解していくんでしょうね。」
「そうだね。このドラマにおける和賀の理解者の位置づけって、最初はあさみにするつもりだったのが、やがて今西刑事に変わったのかも知れないね。その狙いは判るけど、そのことが結果的には、このドラマを映画の呪縛から抜けきれなくしちゃったんだろうな。でも今西もこの段階では和賀の理解者になるまでには至らず、和賀と成瀬あさみから目を離すな!なんて完全に悪人扱いしてるんだね。どっこいこれが来週になると、予告編にあったように 『和賀は逃げません』 と発言する理解者になっていくんだ。」
「その理解の過程を描いていく前半が、つまりは今週だったんじゃないですか。そして今西が和賀の過去を知っていくに伴って、視聴者も彼のことをようやく知り得る訳です。」
「しかしさー、話は違うけど『宿命』って曲は、どうアレンジしようともサミットのオープニングには全然似つかわしくないんじゃないか? 田所パパも小泉っちも、ドボ先生の『新世界から』みたいなのを漠然と想像してるんだろうね。じゃなきゃベンちゃんの『運命』だよ。運命も宿命も同じようなもんだろう、みたいな。」
「ベンちゃんて、ベートーベンですか?(笑) そう呼ぶと世紀の大作曲家も、お笑いコンビの片割れみたいですね。」


【 和賀の部屋 〜 マンション前 〜 和賀の部屋 】
「さぁさぁこのシーンが今回の、第8回の白眉でしょうな。偽物の和賀が本物の和賀の誕生祝いをするところ。『わーがーくん…』ていう、子供が友だちを迎えに行く時みたいな呼びかけが、何とも哀しいよね。和賀は…というかこの場合は秀夫といった方がいいか。秀夫は毎年こうやって、ひとりで和賀に語りかけていたんだろうと思うと、描かれていないシーンなのにちゃんと想像できるよね。子供の頃の2人が本当に仲よかっただろうこととか、和賀くんちのお誕生日会に招いてもらったのが、秀夫にとって初めての『楽しい友だちづきあい』だったかも知れないこととかね。でもそうやって和賀くんと仲よくなればなるほど、自分にないものを全て持っている彼への嫉妬が、秀夫の胸の中にどうしようもなく育っていった…。こんなふうに次々と想像を膨らませいてけるのが、名場面の持つ力だと思うよ。」
「そうですね。確かに深みのあるいいシーンでした。和賀の中にある罪の意識や、祈りの想いを感じとることもできましたね。」
「なのにそこへ闖入してくる綾香は、これはもぉタイミングが最悪だよ。もともと綾香ってのはこの部屋の神出鬼没キャラだったけど、なんか損な役回りになっちゃったよね。いや京野さんがどうしたこうしたじゃなく、綾香っていうのはあさみの対比キャラだった訳じゃんか。なのにあさみ自体がそんなに描かれなくなっちゃった分、綾香もただの邪魔者というか、アウトオブ和賀の世界の象徴にすぎなくなったよね。あーあ、もったいない。」
「あさみと綾香は、和賀を中心に180度反対の位置に立つ女性キャラですからね。生い立ちも環境も全てが違う。でも肝心のヒロイン・あさみがストーリー上影をひそめると、綾香の存在価値も相殺されてしまうんですね。」
「でさ、今ふと思ったんだけどね。秀夫が毎年こうやって和賀のシークレットバースディを祝っていたんだとしたら、今年は作曲の追い込みを口実に綾香を追っぱらえたものの、果たして去年はどうしたんだろ。普通だったら誕生日の夜って婚約者と過ごさない訳にいかないよね。それとも去年はまだ、綾香に出会ってなかったとか? とすると知りあってたったの1年で婚約にこぎつけたの? やるぅ〜和賀ちゃん! いいウデしてるねぇ!」
「さぁどうなんでしょうね。秀夫も偽物の和賀英良として、パーティーとかには参加していたんじゃないですか。現にスタッフたちも花束をくれたくらいですから。そうやって表むきのバースディが終わったあと、深夜独りになってから、秀夫は和賀くんに語りかけたんですよ。」
「そっか、綾香お嬢様には結婚前のお泊まりなんてありえないのか。くわーっお嬢様ってつまんねぇー! こういうイベント・ナイトにこそ彼氏彼女の『等級』って出るのにね。誕生日とかクリスマスのベッドって、ある意味特等席やんかぁ。そういう特別な夜に彼あるいは彼女のベッドを占領できるのが、ナンバー1の証明だよね。」
「ああそれはありますね。まさに真実です。」
「うんうんあるねーあるねー。それって絶対そうだよねー。」
「おお、たかみ〜も即答か。さすがは37進法の現役だけあるね。」
「イエスアイアム。凶子はまだまだバリバリです。ガンガンいきます。イェイイェイ。準備体操も怠りなく。いくぜ相模原RANBUっ!」
「でも無理すると腰痛になるよ。我を忘れないようにしないとね。…ってそれで思い出したけど、このシーンで和賀ちゃんが綾香に 『そんなことはどうでもいい!』 って怒鳴るのは、一瞬だけふだんの仮面をつけ忘れて、本性が出ちゃったという感じかも知れないね。どっこいそこですぐ謝るのが巧者だと思うけどさ、それに対してすねたり怒ったりしない綾香には、私もちょっとだけ同情したね。なんぼお嬢様だっつっても綾香はもう27歳。和賀に心から甘えきれない不安を、女として感じていたと思うね。和賀に確実に愛されているという自信が、綾香にはどうしても持てない。こればかりはパパにもママにも言えないよ。女として自分一人で、耐えるか打破するかするしかないんだ。」
「つらいでしょうねそういうのって。可哀相だと思います。で和賀に追い出されるように外に出た綾香は、足どりも寂しげに歩いていきますけれども、そんな彼女の目の前を横切った人影は、例の1113の車に乗り込んでいきます。その運転席にチラリと見えた吉村の顔から、綾香は彼らが刑事たちで、和賀を張り込んでいるのかも知れないと思い至るんですね。綾香にまでこんなに簡単に尾行を気づかれるようでは、これは刑事失格と言われても仕方ないかも知れません。」
「なー? やっぱそう思うべー? 物語の進行上仕方ないだろうと思いつつ、情けねー警察だよねマジ。んで綾香の抱いた不安がこの先ひと騒動起こすだろうことは想像がつくけど、そうとも知らない和賀はひとり、本物の和賀くんのシークレット・バースディを祝っている。これで綾香のケーキをバクバク食ってたら大笑いだけどさ、箱を撫でるだけなら許せるよね。」
「追い返しておいてケーキはもらう、ではねぇ…(笑) それこそコントじゃないんですから。」


【 長崎市役所 〜 和賀の部屋 〜 光緑園 〜 和賀の部屋 〜 喫茶店 〜 和賀の部屋 】
「ここはかなり細かくシーンが転換されていきますけれども、意味的には一続きなんでいっぺんに行きますよ。和賀の過去を追う今西と、精神的に追いつめられていく和賀の二重写しです。」
「今西が長崎に来てるってことを示すために、画面には平和公園やらグラバー園やら眼鏡橋やらの有名観光地がダーッと映るじゃんか。だからここの『長崎市』ってテロップはいらなかったと思うけどねー。冒頭の捜査本部に入った『前夜』と同じで。」
「そうですね。そのあとの『長崎市役所』だけでよかった気がしますね。」
「でもこの建物って、エンドロールによれば上尾市役所みたいだよ。大畑村のロケに東村使うんだったらさ、ついでにこのシーンも村役場で撮れば世話なかったのにね。あ、それともあれかな? 東村の役場じゃちょっとこじんまりしすぎてて、九州の大都市・長崎の市役所にはとても見えなかったのかな?」
「いいじゃないですかそんなことはどうだって(笑) それより僕が上手いと思ったのはですね、和賀の誕生日が3月4日だと知った今西の、昨日が誕生日だったのかというつぶやきですね。これが時間の流れの説明にもなっています。つまりこの日はシークレット・バースディの翌日なんだなという。」
「うんうん。わざわざ『翌日』ってテロップ出すよりずっとスマートな演出だね。んでここで今西が見ているのは和賀英良の戸籍。エイスケとヨシコの息子だから英良っつうのか。判りやすい長男だね。」
「ワガエイリョウって、なんとも高尚な響きのある名前ですよね。」
「しかし集中豪雨の土砂崩れで住民全員が被害にあったっつってもさ、赤ん坊ならともかく既に学校に行っている10歳の子供が、他人と完全に入れ替わるのは非現実的だよね。だってクラスメートと学校関係者の全員が死亡しなかったら、あらあんた和賀くんじゃないじゃない?って誰かしかが気づくでしょう。」
「まぁ確かに広島の原爆くらいの混乱がないと、現実的には難しいんだろうと思いますけれども、その点はドラマなんですから。今ここでそれをあげつらっても始まりませんよ。で、ここで新たに判った名前がハットリタケシ。和賀と同い年で施設にいた男の子の存在ですね。」
「ハットリくんかぁ。この苗字って、秀夫を保護した『光縁園』の現園長がつけたんだってことがすぐ判る流れになってるけど、案外マンガかアニメの『忍者ハットリくん』から来てるのかも知んないよねマジで。」
「可能性はありますね。藤子さんのマンガはともかく、服部半蔵といえば冒険活劇ドラマのヒーローですから、この園長さんの世代なら、カッコよさの代名詞でしょうからね。」
「眠狂四郎にされなくてよかったな。んで今西はその園長さんから色々と重要な手がかりを得る訳だけど、なんで今の和賀の写真を見せなかったんだろうね。この男にタケシくんの面影があるかどうか聞けば、話はもっと手っとり早かったのに。」
「いやそれはまずいでしょう。和賀が有名人なだけに、名誉棄損でかみつかれる恐れがありますよ。」
「あ、そっかそっか。そうだねそれはあるよねー。それに人間ってさ、いわゆるオーラの正体がそれなんだろうけど、注目されるかされないかで顔つき自体が変わるもんね。中居さんだって多分この世界に入らずに、藤沢でトラックの運転手さんにでもなってたら、まずは今みたいなお顔じゃないだろうからね。しかしそうなると、三木がどうして映画館の写真だけで秀夫と判ったのかっちゅう問題が出てくるなぁ。でもまぁそのへんはドラマの虚構の範疇におさまるのかな。」
「うーん…。それもあるでしょうけれども、つまり三木は秀夫のことをそれほど気にかけていた、忘れられなかったという意味なんじゃないでしょうか。他の人なら気にも止めないような些細な共通点を、三木の目は見落とさなかったんですよ。」
「その1つがあの左手の傷かぁ。あの傷については園長も覚えてたね。この園長の証言によって物語は大きく動く訳で、和賀というのがタケシの仲良しの友だちの名前であることまで、ここで一気に繋がっちゃうんだ。」
「今西の衝撃の大きさを、ドーン…と低く響く効果音が強調していますね。今西は酩酊感に耐えるように、あ、あ、と短くつぶやく。このあたりの謙さんはさすがだったと思います。」
「そうだねー。ジグソーパズルのピースの肝心なところが、パチッと入った感覚だよね。水害でたった独り生き残った和賀。遺体の収容されていないハットリタケシ。同い年の2人はおそらく背格好も近く、かつ仲のいい友だちであった。そして2人のクロスを裏づける1つの大きな事実は、タケシにも和賀にも腕に傷があること。今西がそれを知った瞬間、バン…とピアノが叩きつけられて鳴り、画面は和賀にスイッチングされるんだね。」
「これまでにも幾度となく見慣れてきた演出ですけれども、ここではさらに効果的でしたね。」
「鍵盤を叩いただけじゃ飽き足らず、和賀はピアノの蓋を荒っぽく閉めるけど、あたしゃ思わず園長先生の口調をひきずって、あんたスタインウェイをそげな乱暴にあつこうたら!と画面に突っ込んじゃったよ。どんな女より親密なパートナーであったはずのピアノに八つ当たりするほど、和賀の苦悩はピークに達してるんだ。」
「一方の今西の方は順調ですよ。本浦秀夫の足どりが1本の線につながろうとしています。すなわち、秀夫は6歳で父とともに大畑村を逃亡。7歳で亀嵩に現れ、10歳で長崎にたどりつき服部武史となったが、集中豪雨によって死亡した…のではなく、そこで和賀英良になりかわり、長じて今に至ると。10歳でそれはありえないと否定しつつ、そう考えると全ての辻褄が合うことを、今西も認めない訳にいかなくなってきます。『宿命』という曲名にこめられた、身を震わせて歯ぎしりするような秀夫の思いにも、今西は感応していくんですね。」
「しかしこの曲名を今西はどこで知ったんだろうと思ったら、横浜のホテルのロビーだね。あそこで綾香が吉村に言ったんだ、『宿命』は和賀が今作っている曲だって。たったそれだけの情報しかないのに、今西には和賀が自らの曲を『宿命』と名付けた理由がおぼろげに判った。和賀の身近にいる人間は誰も、そこまでの思いを汲み取れないのにだよ。ワールドツアーの材料だのサミットのお飾りだの、その程度にしか捉えてくれていないのに、今西だけが真意を悟った。追う者と追われる者、敵と味方であるはずの2人に、人間同士の魂の理解が成り立った瞬間じゃないのかな。ある意味『戦場のピアニスト』にも通じるテーマかも知れないね。」
「なるほど、なかなかいい感じに深まってきましたね。次のシーンで和賀は床に座りこみ、ピアノにも背を向けて自分を痛めつけにかかりますけりれども、追いつめられて追いつめられてついに逃げ場を失った時に、人の心にはふと狂気がしのび寄るという、大きな意味をもったシーンだったと思います。」
「この時の和賀の姿勢と表情はさ、三木を殺したあの晩に通じるもんね。アップになった目元に一瞬浮かんだ狂気の薄笑いには、マジで寒気を覚えたよ。あの夜も和賀はこんな風に追いつめられていたんだ。三木の顔を殴り潰した時、和賀は狂ってたんだよ。恐怖と孤独が限界に達した人間が、逃げ込む先は狂気しかないんだろうな。ピアノ線が切れるようなもんだよね。」


【 和賀の部屋 〜 三恵苑 〜 和賀の部屋 】
「一夜明けて朝日差し込む部屋の中、和賀はソファの前の床に寝そべっている。例によってベッドでの安眠が許されていないことを示す演出だね。」
「横たわる和賀の姿がテーブルの裏に映りこむという、画的にもなかなか面白いアングルになっていましたね。」
「夕べさんざ床を殴った右手が、赤く腫れてかなり痛そうだよね。大切な商売道具に何てことするんだ和賀ちゃん。スタッフが見たら悲鳴あげるぜよ。テーブルの上にはデキャンタもあるから、二日酔いで朦朧としてるのかも知れない。サミットのオープニング曲云々の新聞紙面も、何だか人ごとみたいなぼんやりした目で見てるよね。それもそのはずだよ、和賀英良というのはほんとは自分じゃないんだから。でもそんな目が次の瞬間ハッと生気を帯びたのは、紙面に『大畑事件』の文字を見つけたから。死刑囚・本浦千代吉の肝硬変が悪化したと、それを知って和賀はうろたえるんだね。」
「新聞記事で事件の進展を知るというパターンが、このドラマには本当に多いですね。まぁ現実においても実際はそうなんであって、だからこそ誘拐事件の報道は、被害者が保護されるまで控えられたりするんですけれども。」
「でもさー、和賀は一応有名ピアニストなんだからさぁ、マスコミに知り合いの1人や2人いてもおかしくないだろぉ?とイジワルな突っ込みもしたくなるよね。まぁそれはこっちに置いといて、今西が父親のいる老人ホームを訪ねてくるこのシーンには、今西の宿命と和賀の宿命を重ねるという、大きな意味があるんだね。」
「そうですね。今西が和賀を理解していく上での大きなステップですねここは。今西の宿命とは、父から受け継いだ刑事の宿命でもある訳です。」
「和賀も今西も、程度の差はあれ父親のせいで危険や不幸に見舞われた人間だからね。でも父親は本当は、息子をそんな目に会わせたことを心から悔いていた。父と同じ道を歩んできた今西は、どんなにあけたくないパンドラの箱でも心を鬼にしてあけなくてはならないのが刑事だという、父と同じ苦悩に突き当たった…。そのことで今西は改めて父の想いを知り、すでに反応のない耳に語りかけ、枯れた手をさすってやるんだね。」
「いいシーンですよね。これまではバラバラでまとまりのなかったエピソードが、宿命とは生きる上で誰もが持っているものだという確たる主張に向かって、きちんとした方向性を持ってきたんだと思います。続く和賀の回想も、ラストシーンへの明らかな布石ですしね。」
「その通りだね。父ちゃんのことはいつでも捨てていい、という千代吉の言葉を思い出した和賀は、父が自分に語りたかったのは生への執着だってことに気づいたんだと思うよ。父親と秀夫は生きるために逃げ、生きるために放浪したんだ。心なんて冷たくていい、情けを捨ててがむしゃらに生きろ、そのために父ちゃんを捨てていい…。その言葉通りに生きてきた秀夫にとって、今やピアノこそが人生の証になっている。だから彼はここでピアノに向かったんだ。父との約束を果たすかのように。」
「それにしてもこのシーンでは、中居に表情の演技をさせておいて、そこに原田芳雄さんの声の演技を重ねるという、演出家のウルトラCが駆使されているんですね。」
「おお、まさにその通りだ(笑) 結果としてすごく感動的なシーンになったよね。罪の意識も逮捕の恐怖も超越したところで、父への想いを通して和賀は、生きること…すなわちピアノへの情熱を思い出した。『宿命』という曲に彼は全身全霊を注ぎ込み、真の人生を紡ぐかのように創りあげていく訳だよね。」


【 捜査本部 〜 和賀の部屋 〜 『響』前 〜 和賀の部屋 〜 駅前 】
「かくして和賀の作曲に加速度がつくのとあいまって、警察の包囲網もさらに強まっていくというこのシーン。宮田が羽後亀田に行っていたことをつきとめた今西たちは、建物から出てきた彼の前に逆光の黒い影となって立ちはだかってる。この圧迫感には宮田もビビッたろうね。唐木に対する今西のセリフなんて、ほとんど脅しに近いやんか。こりゃ喋っちゃうよ普通。黙秘なんてできるはずないよ。宮田や唐木なんぞの歯が立つ相手じゃない。」
「こういう時の今西は、面構えからして迫力があって怖いですよね。鬼瓦というか、炎をしょった不動明王みたいですよ。」
「これを正面から睨みかえしてくるのは和賀くらいなのかな。地下駐車場でのあの鬼の顔になってさ。」


【 あさみの部屋 〜 和賀の部屋 】
「刑事たちの尾行に脅えるあさみは、部屋に帰ってきてもずいぶんとビクついてるね。サミットに和賀英良の曲が云々の記事を目にして思うのは、今があの人の大事な時なんだから私が守ってあげなくてはというところなんだろうけど、なんつぅか弱いキャラになっちゃったもんだよね。母親の遺影の前で義理の父親ぶっ飛ばした女とは到底思えない。」
「ああ、そういえば最初の頃はそうでしたね。今になって振り返ると、ずいぶん違和感がありますね。」
「ほんとほんと。もっともそれを一番感じてるのはスタッフかも知れないけどね。んで脅えるあさみに比較して和賀の方は、なんか1つ乗り越えちゃったというか、楽譜を押さえてる左手の指と、心なしか背筋まで伸びてる感じがするね。そこへ2部屋同時にピンポーンと呼び鈴が鳴り、あさみは画面の右を、和賀は左をビクリと振り返るんだね。」
「この対称の動きによって、2人の位置というか立場が、この時点では非常に近いことが判りますね。ともに追われる者であり、一種の共犯者といいますか。そしてあさみのところへは刑事が、和賀のところには田所が来るんです。」
「娘追い返したらパパが来ちったか(笑) 大変だよな和賀ちゃんも。ちょっと話があると言って訪ねて来られちゃ、このマンションを買ってくれた人だけに嫌とは言えないよな。強引に上がり込んでくる田所の背中を、ドア口で見やる和賀の微妙な表情がいいよ。」
「2人を中心とした包囲網がいよいよ絞られて、あさみにつきつけられたのは蒲田というキーワード。和賀には警察という言葉なんですね。」
「『どういうことだね和賀くん』 と問いかけられた和賀が、はい?と聞き返すカット。斜めから当たるライトの加減がものすごく綺麗だね。んで 『君はいったい何を嗅ぎまわられてるんだ、警察に。』 と突っ込まれて、カメラは正面・左下・再度正面もう少しアップと3段階で和賀を捉え、画面は一瞬の暗転ののちエンドロールに移行する…。ラストを暗転でカットアウトするこの手法って、ほんとに効果的だよね。夢から覚める瞬間みたいな緊張感があってさ、毎回思わずハッとさせられる。」
「この回の演出は金子文紀さんですか。よかったですよね。和賀という人物の輪郭がはっきりしてきましたし、ストーリーにも手応えがありました。」
「うんうん、この回は確かによかったよ。見終わったあとTVの前で、よっしゃ!ってハッスルポーズしちゃったね。なのに次の第9回では、またズドーンといっちゃったんだけど。」
「あ、いっちゃったんですか(笑) また(笑)」
「でもまぁ次の第9回はねー、捨て回だったんじゃないかと思ってるんだ個人的に。だって裏がサッカーとK−1だったでしょ? 仮に私がプロデューサーだったとしても、この回は捨てるよ。捨てるって言い方に語弊があれば、あまりストーリーを進めないでおくね。せいぜい周辺の人物を描く程度にとどめる。うん。」
「なるほどね。じゃあそのへんも次回語ることにして、今回はこれくらいにしましょうか。はい。
えー、といった訳で第8回をまとめまして、当座談会も残すところあと3回。いよいよ大詰めに入ってくるんですけれども。」

「ねー。何とかここまでこぎつけたよねー。次回UPは今月中はちょっと無理なんで、来月アタマになると思います。来月も3連休があるんで、ま、何とか行けるかなと。」
「そうですね。予定通りにいけばいいんですけれども…。このペースがキープできることを祈ります。はい。
それでは皆様、次回座談会までご機嫌よう。パーソナリティーは私、八重垣悟と、」

「ダンシング・クィーンの高見澤凶子でした。オ・ルヴワール♪」
「こらー! あたしを抜かすな更年期ー!」
「なんだね更年期予備軍。」
「うっ(笑)」
「まぁまぁそういう哀しい漫才はやめましょう。何も自らすすんで傷つくことはないじゃないですか。」
「てやんでぇ開き直ってネタにしたるわ。悲しいときー!」
「悲しいときー!」
「ただ風邪をひいただけなのに、更年期なんじゃな〜い?とメールで振られて思わずノッてしまう自分がいたときー!」
「更年期ネタに思わずノッてしまう自分を知ったときー!」
「誰のこととは言わないけども、30代末期でも安心はできないんだぞ兵庫県民―! だいいちもうカウントダウンじゃないかー! 同い年のひなつを見ろー!」
「そうだそうだー! 字が綺麗だからってずるいぞー!」
「…えービジターのみなさんには、こういうすさんだ老後にならないよう、充実した人生を送って頂きたいと思います。」



【 第9回に続く 】




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