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【 第1回 】

「どもっ。皆様お元気でしたでしょうか木村智子どぅえーす! お約束通り本日23日より、『白い影』総合座談会…コーナー名は『L’ombre blanche』(ロンブル・ブランシュ)を始めさせて頂くこととあいなりました! えーっとちなみにombreはフランス語で『影』。blancheは『白い』で、頭のLは女性形の定冠詞Laの省略形ですね。」
「はいはいそんな話はあとにして下さい。相変わらず蘊蓄好きな人ですよね智子さんも。えー、皆様こんにちは。一応お久しぶり…になるんでしょうか、八重垣悟です。はい、今回ですね、またこういった形で…えー、皆様にお会いできるのはすごく嬉しいんですけれども、例のですねぇ、『世にも奇妙な物語』が途中になっちゃってますからねぇ。僕としてはどうも落ち着かないというか、あれなんですけれども…。はい。」

「そーねー。実はあたしも落ち着かなくってぇ。」
「智子さんがそれ言いますか? 落ち着かなくしてる張本人じゃないですか。」
「まーまーまーまーそれを言ってくれるなヤエガキ。あれにもいろいろといきさつがあるんだわ。決してうやむやにしてる訳じゃない、時間さえあれば必ずや仕上げて―――」
「時間がない時間がないって、時間は自分で作るものだっていうのが智子さんの持論なんじゃないですか?」
「持論ホカロンパブロンコロン。メロンウーロンイキタロン。無論。」
「何言ってるんですか(笑) 相変わらず訳判んない人ですね。」
「いや私も我ながらさ、よくこんなに出てきたなと思っちゃった(笑) なんかすごくない? アタシ。」
「はいはい、すごいですすごいです。じゃあ、とにかく『世にも〜』についてもいずれ必ず完結させますと、そうお約束していいんですね?」
「はいっ、お約束いたします! 私自身すごく気になっておりますっ! 元来中途半端はキライなタチですっ!」
「それにしちゃ最近……まぁいいや。はい判りました、そういうことですね。言質(げんち)取りましたからね。言ってませんはもう駄目ですよ。」
「あいよ、がってんでぃ。オンナに二言はねぇ。安心して先に進もう。」
「じゃあ早速始めますよ、ロンブル・ブランシュ。フランス語の蘊蓄はもういいですね?」
「蘊蓄蘊蓄蘊蓄蘊蓄。はい、いいです。」

「あんまり関係ないこと言って話を広げないで下さいね。…はい、えーとですね、こういう座談会形式というのは、ある意味では当サイトの名物になってきているんですけれども、今回、ロンブル・ブランシュの特徴としましては、全10回のオンエアが終わってからの開始ということで、それなり総合的な見方ができるんじゃないかと、そういうのが智子さんの予想なんですね。」
「うん。今まではさ、オンエアを追っかけるカタチで毎週毎週UPしてたけど、それだとどうしても時間との戦いになっちゃうのね。あと、自分の予想・希望が先走る分だけ、失望を自己生産してたみたいな気がするんだ。まぁだから今回は、とりあえずオンエアを全部見てしまおうと。そして全編を通しての鳥瞰図みたいなものを手にしてから、どっしり腰を据えて座談会っちゃおうと。そう考えた訳ですよ木村智子は。」

「なるほどね。まぁ確かにその方がいい面もあるかも知れませんね。よかろうと悪かろうとドラマはもう終わってますから、余計な不安を感じずに話を進められるかも知れません。」
「そうそう。腹ァくくれるっていうかね。『ああっ来週どうなるんだろうー!』って感じは、全くない状態で語れるから。もちろんそういったドキドキ感は、あった方がいいって面もあるんだろうけどさ。とりあえず今回はない状態で、やってみたいと思います。」
「そうですね。じゃあそろそろ本題に入りましょうか。ね。―――はい、それでは『ロンブル・ブランシュ』第1回。オープニングの川原シーンから、心のビデオを巻き戻してみましょう。全てはここから始まりました。どうぞ。」


■春まだ遠い川原■

「ひょっとしたら私さぁ、全10回の全シーン通して、ここが一番好きかも知れない。川べりの土手を歩いてくる子供たち、よそよそしいほど平和で長閑な昼下がりの風景。光る川、鳥の声、そこにきらきらとピアノ曲がかぶって、画面左側からinしてくるボート。水の色は底昏い深緑、まるで物語の果てを象徴するような色。ボートはゆらゆら水面(みなも)をたゆとう。さながら黄泉へと向かう小舟か、世にも美しい死体を乗せて…。」
「しょっぱなから謳ってますね(笑) 世にも美しい死体ってそれ、確か第1回めの直後のカナペにも書いてませんでした?」
「書いた書いた。実ぁ猫のん様のパクリなんだけどよ。ここでの直江はまさにそんな雰囲気なんだもの。この映像、この撮り方、こういう表現は被写体が美しくなかったら絶対できないからね。役者にとって美貌というのはある意味、演技を削いじゃう危険性もあるんだけど、これは逆に被写体の特性を最大限利用した例じゃない?
このドラマはこういうナカイマサヒロでいくんだぞと。美貌を殺すんじゃなく武器にさせてもらうぞと。心ゆくまで陶酔しなさいと。第1回めのファーストシーンにおいて、それを宣言するかのようなこの映像は嬉しかったね。He is beautifulを逆手じゃなく順手に取って、正攻法で見せてくれたスタッフにまずは感謝した。」
「なるほどね。その番組のコンセプトが一番出るのって、オープニングまたはタイトルバックでしょうからね。」
「そうそう。ベリグーなオープニングだった、ここは。」

■上野駅〜土手■

「おおこれは浅草口に近い新幹線地下ホームへの改札だ、って見た瞬間判った自分が嫌だった(笑)」
「なんでですか(笑) 嫌がらなくたっていいじゃないですか。」
「だってさー、さも上越新幹線の常連ですってカンジじゃん。しかも東京駅じゃなく上野っていうのがこれまた。ふるさとのなまりなつかしの世界…やっぱアレだいねー。避けたいっちゃあ、避けたいやねー。と群馬弁炸裂。しかし上野で下りてこの親子は何線に乗り換えたのかしらん。常磐線?」
「どうでしょうね。あの川って物語設定上、なに川を想定してるんですかね。僕も智子さんと同じで原作読んでないんですけど。荒川かな。それとも江戸川なのかな。」
「どこだろね。TV誌なんかのそういう情報、読まないようにしてたからなー。だからドラマの設定がどこになってるかは知らないけど、見るなり『ああこれは多摩川じゃあないな、これは間違いなく利根川水系の川の表情だな』とすぐに判った自分自身もヤだ(笑)」
「利根川水系ですか。じゃあ上流は群馬ですね。利根郡ってありますもんね。」

「いやそういう問題じゃなく。多摩川だったらその周辺にはさ、田園調布とか自由が丘とか、そういう町がひらけてる訳だけど…利根川水系となるとなー。なんかこう、ドジョウとかタニシとかフーテンの寅さんとか、そっちのイメージが強くって。」
「寅さんですか(笑) ああねぇ、でもそう言われれば確かにこの、倫子とお母さんがミカン持って歩いてるシーンに、向こうからこんな大きなカバン持った寅さんが来ても不思議はないですね。」
「だっしょ〜? 関東人のDNAにはどうも、土手といえば寅さん、というクリティカルパスが刻み込まれてるみたいだぜ八重垣。特にウチの高校はさぁ、放課後ボート部が江戸川で練習してたら、たまたま撮影に来てた山田洋二監督の目にとまってエキストラ頼まれて、寅さんのオープニングに登場したことあっかんね。『ど〜せおい〜らは♪』のタイトルバックのところよ。これちょっとすげーべ。有名高校。」
「いえその話は前に何度も聞きましたけど、駄目ですよ倫子とお母さんを寅さんの登場人物にしちゃ(笑)」

「でもさぁ、どうもウルセーよこの2人。仲がいいのは結構だけども。」
「なに否定的になってるんですか。ここは倫子の明るさとエネルギーを視聴者に印象づけるためのシーンでしょうから、元気一杯なところを前面に押し出した演出なんですよきっと。」
「ま、私テキには倫子のキャラってさ、ギリギリアウト村西じゃなくギリギリセーフ倫子だったんだけどね。共感したりシンクロしたりはできないんだけども、鼻につくほどじゃあなかったかな。もし仮に倫子タイプの後輩が職場にいたら、一応はうまくやってけるかな、みたいな。ヒカル嬢タイプは多分ダメだけどね。…八重垣は?」
「え? 僕ですか? 僕が智子さんの職場にいたら?」
「ちげーよ馬鹿(笑) 倫子タイプが職場にいたらだよ。」
「あ、倫子がですか。…ええ、まぁ、ひとまずは可愛いんじゃないですか? けっこう美人系だし。」
「ほー。じゃあnagaiっちとどっちだって言われたら、どっちが好きよ。」
「え!? ちょっとちょっと待って下さいよ、どうして急に現実の人を出すんですか。びっくりしましたよ僕。」
「びっくりすることないやんかぁ。あんたはあのタイプが好きだろうって、ずーっと思ってるんだ私は。」

「まぁ別にそう思って頂いても全然構いませんけど? それよりしょっぱなから話がズレまくってますよ。直江先生ですよ直江先生。」
「おっとそうだった先生先生。アタシが思うにね八重垣。このドラマは随所にけっこう”映像詩”とも言うべき象徴的な画(え)がちりばめられてんのよね。ここでのさ、上から転がってきて直江の右手にぶつかり、彼が手をどかすと同時に再び転がってボチャンと水に落ちちゃったミカン。あれが何だかすごく悲しげに見えた。見送ってる直江の横顔と溜息。きらきら光る波の間をよるべなく漂う、丸いオレンジ色…。ってまた謳っちゃったな。どうも謳いたくなるねこの川原のシーンはね。また直江の体勢がさぁ。いいカッコに決まるんだよなー。上半身起こした時の脚の形とか、土手の下っ側からちょっとアオリで撮ったショットとか、He is beautifulのつるべ打ち。も、どーしてくれようかってカンジ?」

「でも僕が思うに倫子は、病院よりも先にここで、直江とは出会ってるんですよね。彼女は最後までそのことに気づかなかったみたいですけど、あの黒いスーツとコート姿で大人が川原に寝てたら、ずいぶんと印象に残るんじゃありませんか?」
「そうなのそうなの。そんな風にこのドラマって、”象徴”のための映像が多いの。このシーンは音楽でいえば完全なプレリュードっていうか、『暗く冷たい冬の底で、ただ独り、限りある命の刻を聞いていた直江。そんな彼の前に春の光のように現れたのが、志村倫子その人なのです…』ってことを言いたいだけだろ。実に文学的というか小説的というか、この局が好きそうな演出だなって思った。」

「あとですね、僕がここでいいなと思ったのがですね、上空を飛び去る飛行機の爆音なんですよ。大の字にうつ伏せている直江を、カメラがこうぐるーっと回って捉えるじゃないですか。そこにあの爆音が重なると、映像に立体感が出るというか、魚眼レンズっぽい広がりを感じません?」
「言えた言えた! 空がこうね、ぎゅーんと歪んでね。青空というよりは成層圏? 宇宙? ひるがえってみれば生命? 輪廻? そんなものを感じさせるよね。てゆーか感じさせようとしてるのが判るよね。」
「この物語が描きたかったのは、つまりは”命”なんでしょうね。こうして振り返るとそう思えます。」
「だからってそこで『命!』とかやんないでよ(笑)」
「やりませんよ(笑) どうしてそういうこと言うんですか。僕がせっかくこのシーンを綺麗にまとめようとしてるのに(笑)」
「―――『命』!」
「だからそこで自分でやらないで下さい! ああもぅ曲げる足が逆ですよっ! それじゃウラ命じゃないですか!」

■鳩■

「こういう撮影に使う鳥って、ちゃんと訓練されたプロなんだってね。てゆーか要は手乗りなんだろうけど。普通人間につかまれたら、あんなにじっとはしてないよね。」
「手乗りでも掴まれるのは嫌がりますよ。足のところに指を出せば自分でとまりますけど。」
「鳩ってけっこう重たいよね。神社とかで豆やるじゃない。そうするとあいつら人慣れしてるもんだから、ヒョイと指に片足かけてさ、しまいにどっこいしょと乗っかってくるんだ。そうすると鳥にしちゃ体重あるの判る。でぶだからずしっとくるんだな。文鳥なんて軽いもんじゃん。」
「…鳥の話させると止まらなくなりますよね(笑)」



■倫子と母の家〜通勤路■

「清美・倫子の表札、確かに可愛いけどよー、越してきたばっかりでソレ下げるのはちっと危険だぜー? 『女所帯です』って宣伝するようなもんじゃん。危ねー危ねー。ここは新潟とは違う、生き馬の目を抜く東京だぜぃ?」
「うん、それはそうですね。いずれこの地域の担当交番からお巡りさんが来て、やめた方がいいって注意されますよ。」
「そっか(笑) じゃあ放っといても大丈夫ね。」
「倫子の通勤路を見ると、ここはどうも新興住宅街みたいな雰囲気じゃないですか。そういうところは犯罪も多いですからね、交番はパトロール強化してるんじゃないですか。」
「手のかかる親子だよね全くもう。」

■行田病院■

「噴水はいいけどこの建物、もう少し周辺に緑がほしいかなぁ。なんか無味乾燥な感じ。もっとも季節のせいで葉っぱが落ちちゃってるってのはあるかな。」
「群馬ほど広い敷地は取れないんじゃないですか?」
「そっか(笑) んでもここでの小橋先生はカッコいいわ。駐車場のバーが上がらなくてもたもたしてる倫子に、プップッて小さなクラクション鳴らしてあげるのが素敵。入り口は向こうだって教える手の形も綺麗。」
「綺麗っていうなら病院の内部、すごいですよこれ。ホテルみたいなエントランスじゃないですか。」
「そうだねー。高崎の日高病院がちょうどこんな感じかな。新型経営の病院でねぇ、会計したあと『ありがとうございました』って言われたのは生まれて初めてだった。以前、国鉄時代の京浜東北線の中で、『本日も京浜東北線をご利用頂きありがとうございます』って言われた時以来の驚きだったわ。うんうん。」

「これからは病院もサービス業になっていくんですかねぇ。偉そうに構えられるのも嫌だけど、あんまり商売商売されるのもどうかなぁと思いません?」
「そりゃさぁ、診察室で白衣着た医者にね? 今なら注射が2割引き、10本打ったら1本サービスですけどどうしますかって聞かれたら嫌だけど、会計のネーチャンにまで偉そうにされんのはハラ立つじゃんか。」
「それもそうですけどね。僕としてはやっぱり、医者っていうのは怖いくらいがいいかなぁ。」
「まぁね、手術中に冗談は言ってほしくないけどね。CD返しに行ったりとか。」
「新しい携帯買いに行ったりですね。」

■ナースセンター■

「あたしさぁ、ここで登場する看護婦の高木さん、好きー。なんか顔も安室ちゃんぽくて可愛いしさ、タテマエと本音を切り分けつつ、仕事もきっちり出来そうじゃん。」
「そうですね。彼女はいいですね。僕、正直、タイプですよ(笑)」
「だっしょだっしょ、やっぱそうだっしょ♪ だろうと思ったぜヤエガキっ! ぱしっ!」
「痛い(笑)」
「でも高木さんが好きなのは小橋先生なのねー。『さっきはどうも』とか倫子と言ってるのを邪魔するみたいに、頼まれたカルテ渡してるし。あ、それとさ、柴田さんに似た看護婦さんもいるね。」
「いましたいました。最初は本物かと思いました。」

■院長室〜廊下■

「タヌキおやじな行田院長。好きだわぁ。津川さんってこういうの適役だよね。威厳があり、かつ俗っぽい。お金と権力が大好きな、どーしよーもない親バカだっていうのもよく判るし。」
「一人娘の三樹子が、もぅ可愛くて可愛くて仕方ないんでしょうね。」
「だいたいこういうオヤジに育つと娘は悪くなるもんなんだがな。院長令嬢・三樹子様の、我儘で気が強い感じは、原沙知絵さんもよく出してくれてるよね。原さんってさぁ、回が進むにつれて三樹子らしくなってきたと思うなー。ただの我儘お嬢から、直江に対して女の本音をぶつけるようになるあたりからね。まぁそれは第1回の今じゃなく、また後で語ればいいことだけども。」
「そうですね。でもこのシーンの女性2人の衣装は、白衣の倫子に対して三樹子は真っ赤なセーターじゃないですか。これも象徴的ですよねぇ。」
「2人ってアンタ、相変わらず失敬な奴ねー。このシーンにはもう1人の女性が、婦長がいるでしょうよ婦長が。」
「…ああ(笑) そうでしたね。大変失礼しました。」

「駄目よ無視しちゃ。女は灰になるまで女なんだからね。とか言ってもこの婦長、ワリと意地悪な大局さんね。院長室を出たあとで倫子にさ、その問題を起こした友達っていうのは本当に大丈夫なのかと聞くところなんか嫌味ったらしいもんなー。こういうおばちゃんにならないようにアタシも気をつけよっと。何を言うんでもどこか憎めずユーモラスならさ、注意される方も素直に聞けるもんね。」
「ええそれは是非気をつけて下さい。何せ30代も残り少な………えっとその、何だ、ここで倫子はですね、松葉杖で歩いてるお爺ちゃんの患者さんに、すごく優しく話しかけてる小橋先生を見るじゃないですか。この小橋先生の笑顔で彼女は一瞬、ホッとしたんじゃないかと思うんですよね。たった今院長と婦長に、チクチクッとやられてる訳ですし。新しい職場には意地悪な人もいるかも知れないけど、小橋先生のような優しい人もいるんだって、そう自分を励ましたんじゃないのかなぁ。
そう考えるとこのドラマには、倫子と小橋の絡みというかエピソードを、もう少し入れる予定だったんじゃないですか? 倫子は小橋先生にも惹かれるし、小橋もどうやらまんざらじゃあない。でも、どうにも気になる存在なのがあの直江という男。冷酷で傲慢でどうしようもないのに、焼けつくようなあの魅力にだけは何としても逆らえない、みたいな。」

「ああね、そうかもね。優しくて真面目な男の最大の欠点は、スリリングさに欠けるってことだもんね。30代も残りわずかでしょう、くらいはサラッと言えるオトコの方が、人生スリルあって楽しいと思うよ。マジ。」
「(ハハハ…)」

■ナースセンター■

「このシーンも好きだなー私! なんかリアリティあるっていうか、コーヒー飲んでお菓子つまんで、上司が出張行っちゃってる総務課のOLみたい(笑)」
「確かにそんな感じしますね。急患も何もなければ、昼間ほど忙しくはないでしょうからね。」

「高木センパイはここで倫子から、小橋先生とは面会の家族に間違われただけと聞いてホッとするんだね。それにこのちょっとノーテンキな新入りは、憧れのドクター小橋をつかまえておっちょこちょいなんて言ってるし、ふむふむこれなら大丈夫かな、と思ったから高木は、小橋先生に関する情報を倫子に聞かせてやったんだろうね。これもまさに女のカケヒキ。」
「…へぇぇ。そういう裏があるんですか。怖いですね(笑)」
「多分さぁ、三樹子に対してはねー、看護婦全員が決していい気持ちはしてないんだと思うのよ。やっかみが半分以上だとしてもさ。なのに倫子は雑誌のページを見て、かっこいい!とか無邪気に喜んでる。変な奴ぅ、って顔する高木センパイ、いいわぁ。」
「なるほど…。そういえばこのドラマ、原作は男性でも脚本は女性ですよね。そのへんの細かい心理描写については、智子さんから見ても納得できますか?」
「できるできる。高木ってキャラにすごくリアリティあるのは、やっぱ女性脚本家ならではだと思うよ。小橋先生のことが大好きな高木センパイは、見た目が可愛い倫子に対し一瞬ちょっと警戒しちゃったんだけど、ははぁんコイツならアタシの敵にはならないなと見極めるや、噂話という最高の娯楽につきあわせるというね。もちろん倫子も聞いていてつまらないはずはなく、かくして夜のナースセンターには噂の花が咲き乱れるのであったと。まさに午後3時の湯沸し室状態だなこりゃ。」
「ああ、そういう影の情報網って、めちゃめちゃ早くて正確ですもんね。驚くようなこと知ってますよね事務員さんて。女性の口ほど強力なネットワークは、世界中探してもないんだろうな…。」

「そうそう。光ケーブルどころの騒ぎじゃないよ。でもってこのシーンでシャレてるなと思ったのはさ。三樹子さんには小橋先生よりお似合いな人がいると思うんだと言いつつ、高木センパイはホワイトボードに当直の名札を貼っていくじゃない。それを見た倫子が『直江先生!』って言った時、高木センパイったら『へぇ!?』みたいな反応すんのよねー。これけっこうツボだったな。『この子なんで知ってんの!』って意味の『へぇ!?』だよね。倫子はただ高木センパイの貼った名札を見て、直江先生って人にはにまだ挨拶してない!と思っただけなんだけども。」
「僕は倫子がホワイトボードに、まだ名札を作ってもらっていない自分の名前を、マーカーで書きこむところが可愛かったですね。アタシもいるんだから、って気分だったんでしょうね。」
「うんうん、私もこの倫子の行動は微笑ましいと思った。でもやっぱ高木センパイの仕事ぶりには惚れそうだねー。テキパキテキパキっ!と身軽な上に指示は簡潔。羽織ってたカーディガンを急いで脱ぐのも、逆に武装した感じでかっけーじゃん。」
「そうですね。いいですよね彼女。仕事のできる可愛い人って貴重ですから。」
「うんうんそうそう、アタシみたいのな。」
「…」
「なんかフォローしろよヤエガキ(笑) いたたまれなくなるじゃんかよぉ。」

■プランタン − ナースセンター■

「これまた『さも』って感じの店ですね。プランタン…『春』ですか。直江がつかのまの憩いを求める偽ものの春ってことですね。」
「売るほうの春だったらヤだけどな。だけど電話取ったこのおネーちゃん、受話器をテーブルに置いてから保留ボタン押すのは順番違うやろ。かけてきた人にゴトンッて音が聞こえちまうやろ。まずは保留して、それから放り出すなり何なりしろや。しゃーねーなぁ。一流二流はこういうところに出るんだのに。」
「いえそんなところまで見てる人も少ないでしょう多分。」
「何をゆうかヤエガキ悟。他の誰も指摘しなかったような細かいところにがしがし突っ込んでいくのが、当座談会の魅力っしょお。」
「魅力なんですか(笑) 成程。」

「ボールペンを手にこうやってイライラしてる倫子の耳に、その時受話器の向こうから、愛想のカケラもない低い声が届く。彼女だけじゃなく視聴者もここで初めて、直江の声をはっきりと聞く訳だね。しょっぱなの土手のシーンは、あれはセリフというより擬音だけだったから。」
「7分後に戻る、っていう中途半端さがいいですね。」
「でも女の殺し文句にさ、男が『1時間で行く』って言ったら、『30分で来て』っていうのがあるよね。いや数字はどうでもいいのよ。いかに男を急がせるかがポイントなんだから。そのあとは例えばこんな風にね。

『待てよ、30分じゃ無理だよ。』
『じゃ40分で来て。』
『…んー…せめて50分!』
『だめ。40分。』
『40じゃ無理だって…』
『嫌。40分で来て。それを過ぎたら、…お洋服着ちゃうもん。』

ってこんなコト言われたらオトコは飛んでくるべっ!? 焦りまくってタクシー捜してる滑稽な様子を想像しながらソファーにごろんと寝そべったりすんのが、女の勝利の実感だよね。もちろんダレが裸でなんぞいるもんか、馬鹿馬鹿しい。」
「……怖いですねぇ。」

■処置室〜救急入口■

「高木センパイったらホントに有能! この手馴れたテキパキぶりはどーよ! 直江のことについても婦長にはトボけとけだなんて、マジ素晴らしいわ。世間に揉まれたいい女っていうのはこういうのをいうのよね。おっとりと人のいい小橋先生は、高木さんみたいな女性と結婚すべきよ。うん。」
「いや、小橋に高木さんはもったいないですね。」
「さよか(笑) ここで救急車から降りてくる次郎の悪友たち、精一杯イキがってるけど何だか可愛いよね。特にこの金髪の丸まっこいの。救急車初体験だって喜んでるし。」
「でも僕はまだ救急車って乗ったことないんですよね。自分自身も、つきそいでも。」
「あたしもない。パトカーもないなー。救急車ってさ、日本国の全車両の中で、道を走る最優先権を持ってるんだってね。仮に犯人追跡中のパトカーであっても、サイレン鳴らした救急車と出あったら道を譲らなきゃいけないんだって。」
「ああ、それはそうでしょうね。命を救う車ですからね。」

■正面玄関〜医局■

「さぁいよいよ直江先生登場のシーン。ずいぶん視聴者に気を持たせたもんよね。たっぷりとお膳立てして最高にカッコいい設定を用意して、はいどうぞっ!て感じ? 中居さんのドラマでこういうのって、ホント初めてだよなぁ…。スポットライトを思わせる強烈な逆光の中、黒いロングコートの裾をなびかせて大股に建物に入ってくる直江。ディープ・ブルーな中居ファンはもう、このあたりから息できなかったと思うよ。」
「見せ場ですからね。演出も何も気合入れてますよね。」

「ここでさぁ、何が嬉しかったってさぁ。それだけのバーンとした演出に負けない貫禄が、直江というか中居さんにちゃんとあったってことだね。いくら口先でクールなセリフ言ってても、”場”に負けるっていうのあるじゃん。上っすべりした薄っぺらい感じになっちゃうの。それって演技とか芝居とかいう前に、役者本人に宿る空気だもんね。」
「なるほどね。確かにまぁここでの中居は、堂々の登場ぶりだったと思いますよ。」
「なー。いくらHe is beautifulでも、21,2の青二才じゃあこうはいかんもんなー。直前番宣で上川さんが言ってたっけねぇ。思っていたイメージとは全然違って、すごく落ち着いた人だって。どんな落ち着かない奴を想像してたんだろう(笑)」
「でもそれは今回のドラマで、いわゆる熱烈な中居ファン以外の人たちがみんな思ったコトなんじゃないですか? 世間一般のイメージとは、今回本当に違いましたからね。でもそれで視聴者が離れるどころか、称賛してくれたんだってことは数字がはっきり物語っているでしょう。」
「そうだね。あんまり数字数字っていうのも何だけど、でも視聴率っていうのは番組の通信簿じゃん。これはこれで大事なモノサシよね。受験にもテストと内申書があるように、数字だけで判断するのもこれまた違うけどさ。」
「ええ、それは同感です。今回のドラマで中居の熱演は世間に評価されたんだと、それは確信を持っていいと思いますよ。」
「だよね。大きなハードルを彼はまた1つ、越えたと思っていいだろね。」

「まぁ中居についてはそれでいいとして、僕はこのシーンちょっと引っかかったんですよね。直江がなかなか戻ってこないんで、倫子はもう一度プランタンに電話しようとするじゃないですか。でも看護婦さんて、制服姿で小銭持ち歩いてるんですか?」
「ああ、それは私も思った。自分の勤めてる病院なんだからさ、受付にでも入ってって外線電話かけりゃ済むじゃんって。まぁこういうのは”重箱の隅”だっちゃあそうなんだけど、それにしてもこのドラマ、細かいとこで『あれぇ?』ちゅうようなヘンなシーンがあるんだよねぇ。撮影スケジュールによっぽど余裕がなかったんだろうなって、思う理由の1つがそれなんだけど。」
「うん…。突っ込みどころは多かったですね。まぁそもそも某新聞の投書欄にあったように、当直の医者が酒飲みに行ってるなんて、普通は絶対ありえないんでしょうけど。」

「まぁね、そこはドラマなんだからね。医療現場のドキュメンタリーじゃあるまいし、ある程度の虚構はいいと思うのよ。細部の演出についてもさ、ストーリーの進行上しかたない部分があるのは判るんだけどね。小説と違ってドラマっていうのは、状況説明に言葉が使えないから難しい。ちなみにこれを見事なまでにセリフでやってんのが、橋田ドラマだと私は思うよ。」
「それはそうですね。映像で理屈を語ろうとしても無理でしょうね。ですからそういう、初めから語りきれずに目をつぶっている部分にまであんまり突っ込みを入れるのは、単なるあら探しに陥りますよね。文書と映像の特性は違うんですから。」

「そうそうそう。あれが矛盾これが矛盾ってつっつきまくるのも、ヒステリックで見苦しい行いだよね。だからまぁ倫子がここで公衆電話をかけようとしたくらいはさ、直江とドラマチックに出会わせるために必要な設定だったのだと納得しますよ。逆光の中に現れる直江を正面から見るためには、彼女にはロビーにいてもらわなきゃならなかったんだから。」
「ドラマチックな出会いですか。でも実際はミカン転がってるんですけどね(笑)」

「そうなんだけどねー。でもここで『ああ! あの時のミカン!』とは言ってほしくないダロ(笑) 場違いだとは判っていても初対面の挨拶ならびに自己紹介をしてる倫子の口説には耳も貸さず、これから治療に必要な患者の情報を、コンピュータみたいな冷静さと正確さで聞き取っていく直江。こういう時の専門用語ってさ、たまんねーカッコよさなんだよねー。うちらコンピュータ屋もそうでしょう。客先でトラブルあったりしてさ、電話もらって飛んでって、『DLLのバージョンは? パッチ当たってないんじゃない?』とか言ってると、事務の女の子なんて目にお星さま入っちゃうもんね。キモチいいよねアレね! SEの醍醐味醍醐味。」
「それは確かにありますね。理屈のコスプレでしょう一種の。」
「理屈のコスプレかぁ! いいこと言うね八重垣。確かになー。ここでの直江も、完全にソレをまとっちゃってるもんね。でもこの白衣を羽織ってボタン留める動作もさぁ、いいよなぁぁ。簡潔明瞭に状況を尋ねつつ、『酒臭いかな』って聞いた時だけ口調が違うんだよね。くるっと振り返って、『いや俺のこと。』って言うのもいいわぁ。」
「いいわぁ星人になってますよ智子さん(笑)」

■処置室〜廊下■

「次郎の額を押さえてたガーゼを、ピンセットでピリッとはがす。そのはがし方がやっぱいいよなぁ…。ポイッと下に捨てるのもさ、この時の直江が何を考えてるのか、すごくよく判るよね。今まで倫子に聞いた患者のデータに加えて、今自分が見た傷口の様子。そういうのを総合して分析した結果、『大したことはない』って判断したんだろうね。」
「それはそうでしょうね。でなきゃまさかトイレに閉じ込めろとは言わないでしょう。自分のその判断に自信があるから、救急隊員にも次郎の友達にも強気の態度で出られるんですよ。血はある程度出れば自然に止まるとか、指示に従えないなら出ていけとか。」

「倫子はカッとして直江を追っていくけど、根拠を聞けば彼の言うことも案外筋が通ってる。トイレだったら血で汚れても掃除がしやすいし、便器に傷口を押しつけろとは言っていないし、頭を冷やすにはいい場所だし、いいことづくめなんだわな。」
「直江の乗ったエレベータに倫子が乗り込まなかったのは、それ以上言い返せなかったからでしょうね。滅茶苦茶なようでいて理路整然としている、つくづく扱いにくい男ですね直江は。」

■トイレ前の廊下■

「モップやら何やらで押さえられたドアと、見張ってる警官が何だかおかしい(笑) 喧嘩の状況を聞かれてるのに警棒だ警棒だとか言って浮かれてる仲間も、お馬鹿ちゃんで可愛いやねー。小悪党だよな小悪党。」
「頃合いを見計らって直江がそこに来ますよね。小悪党どもは彼に、院長はこのことを知ってるのかとか、週刊誌に喋ったら面白いだろうとかの平凡な脅しをかけますけど、直江にしてみれば片腹痛いんでしょうね。おもむろに煙草を出して治療費の話を振る。相手の槍の先をポンと払うみたいで、あしらい方を知ってるって感じですね。頭のいい男なんだな。」
「医者ってさ、やっぱ独特の威圧感持ってるよね。前に知り合いの医者が言ってたけど、医者が殺意持ったら終わりだって。患者を殺すのなんて文字通り赤子の手をひねるようなもんだってさ。何たって命を左右できる商売だもんね。チンピラの2人や3人威圧できるよな。払えないなら治療はできない。そう言われちゃ二の句は継げないや。」
「それにしてもここ男子トイレですよね。その個室を上から覗くって、倫子も行動力ありますね(笑)」

■再び処置室■

「ようやく大人しくなった次郎の傷を、鮮やかな手つきで縫合する直江。助手としてそばに立って彼の手元を見ている倫子の、この人ってすごいんだ…みたいな顔はいいよね。」
「でもこうして見るとあれですね、外科医には手先の器用さは必須条件なんでしょうねぇ。」
「だと思うよ。国家試験に折り紙とかあったら笑うけど。5ミリ四方の紙でさ、2分以内に鶴を折りなさいとか。」
「うまいんじゃないですか直江は。」
「だろうねぇ。縫合を終えたあとの投薬指示をスラスラスラと記入して、やれやれ片づいたといわんばかりに白衣をポンと脱ぎ捨てていく直江。この素っ気なさも彼の性格をよく表現してるよね。多分ちょっとでも血が付いたら、即その白衣は取り替えるっていうね。この異常な潔癖さ、似つかわしいよなぁ直江ってキャラに。」
「演出としてはこの第1回が、一番丁寧なのかも知れませんね。」

■エレベータの中〜ナースセンター■

「ここは純粋な説明シーンですね。ドクター直江がこの病院でどういう立場なのかを、高木の口を通して倫子と視聴者に説明させる…。」
「そういうことだね。あとは二ノ関沙夜子――じゃないじゃないあっぶねー。辞書が学習しちゃってるよ。”沙”夜子じゃなくて小夜子。小夜子さんの紹介。」
「製薬会社の営業さんですか。ノルマとかきつそうですよね。」
「そういやこないだ中居町巡りしててさ、フロンティアって会社見つけちゃったのよ。おお!こんなところにあったのか!って盛り上がっちゃった。こんな遠くからあんな遅い時間に、よくぞおいでになったものだ小夜子さん。」
「会社は高崎だったんですか。すごいなそれ(笑)」
「小夜子さんに貰った差し入れのお菓子を、戦利品のように持ってく高木センパイ。いいよなこういうちゃっかりした人。好きだわぁ。」

■廊下〜階段〜正面玄関■

「1日2000円の4人部屋に、『戸田次郎』の名札を差し込む倫子。病院の名前が行田で次郎の苗字が戸田で、こりゃあ埼玉だねどうも。」
「そういえばそうですね(笑) だけどそのすぐあとに階段を下りてくる直江と小夜子の会話は、聞き取りにくいですけどけっこう重要な伏線ですよ。1人分のデータじゃどうだとか治検薬を大量にどうするとか、社内的根回しがああだとか。」
「へー、そんなこと言ってたっけかあの2人。いやなに建物の外でね、直江の煙草に火をつけてやってるシーンの方が印象強くてさ。」
「ああ、ライターは先生のために持ってるんだ、みたいなことを小夜子が耳元で言うシーンですね。」
「そうそう。行為のあとの女を外まで送ってやるなんて、何だよけっこう優しいじゃんか直江、とか思ったからね。」
「行為のあとって(笑) そうなんですか? やっぱり。」
「そうなんじゃないのー? ただ話をするためだけに、こんな夜中に来ないでしょう高崎くんだりから。」
「ああそうか、フロンティア製薬は高崎なんでしたね(笑)」
「しかも中居町(笑) 駅から遠い(笑) まぁそれは冗談としても、ここでちょっと思うこと。このドラマの演出ってさぁ、ちっとばっかお行儀の悪い面があるね。」

「え? お行儀ですか?」
「うん。まぁずっと先の話になるんだけども、ヒロインが勝手に人の部屋に上がったり勝手にキャビネット開けたり? 当然閉まってるはずのドアのカギが不用心にも開けっぱなしだったり? そういう”スキ”はずいぶん多いよね。要するに演出がお行儀悪い(笑)」
「ああ、そういう意味ですか。」
「うん。演出が行儀悪いってことは、当然倫子もお行儀悪いよな。階段を下りてくる直江たちの話を偶然聞いてしまうのはいいとしても、その後をつけて立ち聞きまでするっていうのはどうかなぁ…。いくら倫子が、ものにおじないポジティブなキャラだとしてもさ、ここまでやらせるとちょっと引くかもよ。一歩間違ったらただの恥知らず。図々しいジコチュー女になっちゃうと思うんだよなー。『家政婦は見た!』じゃないんだから。」
「うーん…。まぁ確かにこれは、れっきとした立ち聞きですね。しかも直江に気づかれたからには、要は立ち聞き失敗ですよね(笑)」
「元も子もねーじゃん(笑) まぁさっきも言ったけど私テキには、倫子ってキャラはギリギリ踏みとどまってくれてるんだけどな。こういうタイプとして表現したかったんだろう、とは理解できるけどね。ただしあんまり好きではない。それは確か。」

■翌朝、ナースセンター〜病室■

「またまた意地悪おばさん絶好調。上にこういう態度に出られると怖いよね。それにしても次郎ってのも世間知らずだよな。自分の態度如何では倫子に迷惑をかけるんだって、どうして理解できないかねぇ。」
「子供なんですよ要するに。今の若い子は。」
「なんだなんだ八重垣。老け込むなよまだ(笑) でもって次郎の病室にいる入院患者トリオ。このキャラについては残念ながら、最後まで活かせてなかったね。多分あわよくばトリオロス・アミーゴ的な存在にしたかったんだろうと推察するけど。」
「そういう小技は、あんまり巧い局じゃありませんよねここ。2本前の日曜劇場…僕とそっくりな男が主演したアレでも、時計屋のおじさんの使い方、失敗してたじゃないですか。」
「やっぱそういうオタクっぽいウケは、某局のお家芸かも知れないねー。トリオロス・アミーゴは1日にして成らず、か。」

■医局■

「回診から戻ってくる直江。話しかけられてもロクに返事もしないね。首にかけた聴診器のはずし方に、疲労が漂ってて色っぽいなぁ…。」
「そうですか?(笑)」
「そうなのよ。いいわぁ星人なんだから放っといて。」
「じゃあまあ中居賛美はいいわぁ星人にまかせるとして、ここで流れるストリングスのBGMは綺麗ですね。もしかして直江のテーマなのかな。」
「かも知れないね。実はサントラはまだ買ってないもんで、そのあたり不勉強ですんまそん。」

■倫子の家〜夜の川原■

「しかしすげー部屋の中だな(笑) これじゃあ行儀悪くもなろうもんだねー。全部片づけろとは言わないけど、もうちょっと何とかならんのかねぇ親子して。第一荷物多すぎない? 新潟じゃ川原にでも住んどったのか?」
「ちょっとちょっと智子さん(笑) なんかだんだん辛辣になってきてますよ?」
「うん。オンエア中はそんなでもなかったんだけどね。こうやって色々語ってたら、何となく嫌いになってきた、倫子が。」
「そんな、危ない傾向じゃないですか。オンエア中にやらなくて大正解でしたか? これ。」
「かも知んないねー。先見の明があったぜ木村智子。てゆーか自分をよく知ってたかな。」
「いや、今までに何度か座談会をやってきてるじゃないですか。だからもう勘で判るんですよきっと。全部見終わってかの方がいいなって。」
「つまり経験の勝利ってことか。いや勝ち負けとは関係ないんだけどさ。」
「ヒロインに反感抱いちゃったら、ドラマはつらいですからね。」
「つらい。それはもう嫌っちゅうほど経験した。だけどさ、ムカツキ解消のために川原で石投げてる倫子とか見ると、それなり可愛いよなとは思えるんだけどねー。対人的に行儀悪いのだけをやめてくれればな。」
「僕が笑っちゃったのはこのシーンでの月ですね。鉄橋の上に出てる月が、あれはちょっと大きすぎでしょう。バレバレCGじゃないですか。視聴者の目をそこに引きつけて、次のシーンに渡すためなんでしょうけどね。」

■直江のマンション■

「これがウワサの最高級オーディオ! インテリアとしても最高だとかで、どっかで宣伝してたよね。商魂たくましいのはいいことだ。うん。」
「多分いい音なんでしょうねぇ。でもここまでしっかりしたマンションじゃないと、隣近所に迷惑しますからね。」
「そうだね。音楽はもう完全に個人の好みの世界だからね。クラシック聞くとじんましんが出るって人もいるからな。でもこの曲は実に直江らしくて素晴らしいね。間違ってもここで新世界の第4楽章はかからんだろう。」
「かかりませんかかりません。あんなパワフルな曲かけられたら掃除したくなっちゃいます。」
「そーそーそーそー! 新世界の第4楽章ってさ、掃除のはかどる曲なんだよねー! 掃除機をこう持ってさ、ジャーンジャンジャン、ジャージャジャーン♪」
「そうそう(笑) 窓拭きとかもいいですよ。力入ります。こうやってダスター持って、シャッシャッシャッ!て。」
「しかし何つぅ話してんのかねあたしら。こんな静かなシーンを論じようというのに。」
「智子さんが第4楽章の話なんか持ち出すからですよ。」
「何だいアタシのせいかい。掃除したくなるって言ったのは八重垣だぜぇ?」

「まぁともかく話を進めましょう。月つながりで入ってきたこのシーン。ガラスに映るイルミネーションが、定番の演出とはいえ実に綺麗ですね。」
「綺麗よねぇ中居さん…。溜息出るよね。だけどもさ、今回このロンブル・ブランシュのために久しぶりに第1回のビデオ見返した訳だけど、改めてさぁ、『中居さん、上手くなってんじゃん…』って思ったね私は。最終回に近づくにつれて、すごく自然な雰囲気になってる。終わり近くに比べるとこのシーンなんかは、まだ何となく『直江を演じてます!』って力みが感じられるもん。」
「あ、それは言えるかも知れませんね。X線フィルム見てる表情とかに、若干作りすぎの感があります。」
「でも今になってそれが目立つってことは、終わり間近の中居さんは本当に直江になりきってたってことだよね。数字的な評価が得られたのも、当然の結果かも知れないねー。」

■次郎の病室■

「やっぱ憎めない奴らだよね、この小悪党ども。穏やかで落ち着いた風情の小橋先生に、さんざっぱら文句を言えて安心した感じ。」
「でもこれ小橋って難しい役どころだと思いますよ。普通に考えれば、直江よりも言ってることは正しいですからね。かと言って視聴者に完全に共感されてもいけないじゃないですか。」
「そうだよね。上川さんサスガかも知んない。押さえた演技ってのはこれだよなって思った。」

■ナースセンター〜石倉の病室■

「末期癌に冒された石倉さん。オンエアが全て終わった今、このドラマのキーパーソンはこの人だったってことがよく判るね。重要にして最大のキャラ。このドラマの功労者。」
「それは言えてますね。中盤というかクライマックスへの助走部分まで、感動のほとんどを引き受けていたのは石倉さんですよね。」
「だと思う。石倉の死がストーリーの大きな山場だったもの。」
「マーゲンカルチ、って胃癌のことですよね。初期発見さえできれば今はそんなに怖くないそうですけど、気づくのが遅ければもう打つ手はない。やっぱり癌は怖い病気です。」
「手術の件を院長に話してみる、と言ってる時の直江は微笑を浮かべてるんだけど、部屋を出る時にはすごく暗い、つらそうな表情になってるよね。」
「告知をしていない末期癌患者か…。接する方がつらいって面も、ありますよねぇおそらく…。」

「ここでの倫子の態度は五十丸なんだけどなー。この礼儀正しさを、どうしていつも保てないかねぇ。何だかで老人介護の記事を読んだけど、いくら寝たきりだからって赤ちゃん言葉で話しかけられたりするのは、お年寄りにとってはものすごい侮辱だっていうのがあったね。その点こうやってきちんと頭下げて挨拶できる倫子は、患者側にすれば嬉しいと思うよぉ。」
「そうですね。人生の大先輩相手に、赤ちゃん言葉はないですよね。」
「自分がそうされたらどうだろうかって考えてみれば、すぐに判ることなのにねー。想像力は思いやりの原動力だっていうけど、ホントだよなと思うよぉ。」

■廊下■

「このシーンは番宣でよく見せられたね。確かにここでの中居さんは完璧なまでのbeautiful度だもんな。医療は慈善事業じゃないっていう決めゼリフの前に、直江は一瞬軽く目を伏せてから、スッと視線を上げてるんだよね。これやられたら中居ファンはたまんない。殺し文句ならぬ殺し視線だね。」
「僕が言うことは何もありません(笑)」

■石倉の病室■

「あのさ、何度かビデオ見返しててようやく気がついたんだけど、このシーンの直前で小橋は、かたくなな態度をくずさずに歩み去っていく直江の背中を、どうしてコイツはこうなのかなぁ、みたいに溜息ついて見送ってたじゃない。…で、その直後のこのシーンで石倉は、直江のことを本当にいい先生だって言って褒めるんだよね。直江の二面性はこんなところでも、伏線として引かれてるのかなって思った。冷徹で酷薄に見えるけど、実際はそうじゃないんだって。苦労人の石倉だけは早くにそれを見抜いていたんだって。」
「ああ、それはその通りかも知れませんね。人間に対する洞察力だけは、知識では身につかないものでしょう。」
「そうなんだよねー。これっぱかしは経験でしか磨けない。学歴も育ちも全く関係ないね。他人という社会の間でどれだけ揉まれたか。それが全てなんだと思うよ。」

「ここでの倫子の表情は、僕はすごく好きですね。明るくふるまってはいても石倉を見る時には、すごくいたわしげな目になるじゃないですか。上手いんでしょうね竹内さんって。」
「うん、上手いと思うよ。求められるキャラになりきってたと思う。だって確か国営放送出身でしょ? 全体的に雰囲気もそれっぽいよね。国営放送局好みの女優さんだよ。」

■院長室■

「さぁそしてここが、全国手フェチ連盟を震撼させた名場面。意味のないオペをどうしてやるんだ、と院長に聞かれた時の直江の、開くだけで、っちゅうあの手の形! 動き! 風情! どわぁー!だったよなマジでな。寿命が3年けずられてもいいから触らせろー!みたいな。」
「何かだんだん危ない座談会になってきてますよ(笑)」
「いやいやこのへんで押さえるから大丈夫(笑) ここもまた直江というキャラを如実に表す、いいシーンですよぉぉ。
彼が部屋を出ていったあとで、院長が言うじゃない、油断ならん男だって。院長には判るんだよね。直江って奴がさ、どう話を持ってくれば自分がOKするかを知り尽くしていることが。明確な目的と、守秘の約束と、それから病院のメリットと。この3点をパーフェクトに押さえて、眉ひとつ動かさずに交渉を仕掛けてくる腕のたつ若僧。年長者にしてみれば要注意人物の筆頭だよね。味方につけておけば最高の右腕。ただいつ敵に回るか判らない。常に身辺に目を光らせて、反逆の気配があったらただちに息の根止めるべき相手。」

「それはまた物騒じゃないですか。時代劇じゃないんですから。」
「ものの例えものの例え。それにしてもこのシーンの中居さんは、全編屈指のbeautiful度だよねー。輪郭・部品・配置に仕上げ、どれを取っても完璧だもんなぁ。この睫毛の長さは犯罪に等しいよ。なんかもうね、ストーリーの結末とは切り離してさぁ、白く凍った湖の底に時間ごと封印したい美貌だよね。」
「…やっぱり危ないじゃないですか。」
「だからものの例えだっちゅーに。現実においてはせいぜい、八重垣くんを風呂桶に沈めるくらいしか出来んって。」
「えっ! 僕をフロに沈めるんですかっ!? 悟くん、まだムコ入り前のカラダなのにっ!」
「しかしこの院長ってさ、壺集めが趣味なのかね。直江と小橋が向かい合ってた廊下にも、でっかい壺がズラッと並んでたでしょう。」
「…何かフォローして下さいよ(笑) いたたまれなくなるじゃないですか。」

「へへっ、仕返し仕返し〜♪ 思い知ったかべらぼーめ。でもってもう1つ言いたいこと。なんぼ父親が院長でもさぁ、部屋に入る時はノックくらいしなさいよ三樹子。いきなりガチャッとか開けて入ってくるんじゃねぇっつの。…んね? だから言ったっしょ。倫子だけの話じゃなく、演出全体がお行儀悪いのよ。この際行田病院じゃなく行儀病院にして、1から考え直した方がいいっすね院長!」
「それも面白いですけど、三樹子のセリフの、嘘をつくことに自信があるんでしょう、っていうのはよかったですね。含みがあってスパイスも効いてて。」
「窓の外を見る三樹子の表情も綺麗だったね。」

■喫茶店■

「このシーンはさ、じっくり見てみるとなかなか気合の入った、舞台っぽい演技指導があったんだろうなって判るよ。地図を片手にやっとこさ店を探しあてた倫子は、最初はちょうどカウンターが空いてたんでそこに座ろうとするんだけど、ふと見たら直江の姿があったんでそっちに行くじゃない。」
「そうですね。医学雑誌めくりながらビールっていうのが、直江らしいといえば直江らしいですね。。」
「でさ、あのぅ…とか言ってるうちにウェイトレスが来ちゃって、オーダーしたからには座らないと変。何か?って直江が聞くのは、今さっきの倫子の『あのぅ…』に対する事務的な問い返しよね。
倫子は水のグラスを持ってシートの奥に腰を移す。てっきり直江も待ち合わせでここにいるんだと思えば、そういう訳じゃあないと判る。でもってここで倫子は一旦立とうとするじゃない。だけどタッチの差でカウンターが埋まっちゃうんだよね。ここでもしカウンターに2人連れの客が座らなかったら、倫子の運命は変わってたかも知れないよなーと思って。」
「そうか。そうですね。ここで席を離れていたら、倫子は直江に、今まで感じていた疑問を吐き出すことはなかったかも知れないし、となると直江もただの看護婦としてしか、彼女を見ずに終わったかも知れない…。」

「ねー。運命とは常に偶然によって成り立つ。席を変わろうにも変われず、立ち上がるのをやめて落ち着いてしまった倫子を見て、直江はグラスにビールをつぎたすんだ。まだ残ってるのに手酌でつぎたす意味はないんだから、冷静な顔して直江も十分、苛々させられてるってことだよね。でも肝心なのはそこのところで、無視できずに苛々するってことは、相手の存在を意識してる証拠じゃない。もちろん今はただうざったいだけでもよ。」
「ええ、判ります。好きだの嫌いだのじゃなく、存在を無視できない相手な訳ですよね倫子は。」
「そうそう。勘弁してくれよって気分がさ、直江のグラスの扱いによく出てると思うよ。
要は直江は、ここで倫子を持て余してるんだよね。ただ向かい合って座っているだけなのに、どうにも神経に触る。無視できない。今までの女たちのように、自分が完全に主導権を握って牛耳ることができない。初めて直江の目の前に現れた、乗りこなせないじゃじゃ馬なんだな倫子は。」

「でも倫子にはそんな直江の内心は判りませんから、表面上は冷静そのものの直江に、何とか話の接ぎ穂を求めようとする。彼女にすればこれがまた、どうしてもキャッチボールをしてくれない憎たらしい相手なんでしょうね。」
「仕事の話だったら聞いてくれるかなと思って石倉さんのことを持ち出せば、病院以外で仕事の話はしないって言うし、じゃあケーキも来たことだしフレンドリィに、出身地だの昔の他愛ない思い出話だの、そういうので場をほぐそうとすれば、会話になるかな?と思った矢先にピシャッと窓を閉められる感じで、むぅ、とフォークくわえてミルクティー飲むのがさ、何ともリアルでいい芝居なんだよね。これはもう竹内さんの演技力なんだろうね。」

「ここで雪かきの話が出るじゃないですか。この話題にだけ直江は反応しますよね。あとになって七瀬先生が上京した時、直江も雪かきが得意だったってエピソードが出てくる。つまりこのシーンも伏線だったんですね。倫子と自分には共通点が多い…。こういうのってむしろ、直江みたいな理論万能タイプにこそ案外ファクターあったりするんですよね。興味のない顔して直江は、倫子の話す1つ1つを、自分でも腹立たしいほどちゃんと聞いているんでしょうね。」
「だろうねー。内心では必死に鉄仮面を装ってるんだよ。煙草吸う時灰皿を自分のところに引き寄せるのも、心を落ち着かせるためのポーズかも知れない。そんな気分を断ち切るためにか、とどめのつもりで発した一言が 『まだそこにいるから。』―――きっつぅー! なんかこう、狙い定めて放った言葉の矢だよね。無視よりも嘲笑よりも、エネルギーのいること。」

「今ねぇ、この話してて思い出したんですけど、憎しみと愛情って、発する方角が違うだけで消費するエネルギーは互角なんですってね。だから可愛さ余って憎さ百倍じゃないですけれども、その相手と接することによって自分の中に生まれる感情の嵐という意味では、この両者はイコールなのかも知れないですよね。」
「つまり倫子は直江の中に、そういうエネルギッシュな感情を呼び覚ませる相手であったということだよね。
直江に射られた言葉の矢に傷つけられた倫子は、黙るかと思ったら案の定逆襲してきた。看護婦をモノ扱いしていた前の病院とは違って、行田病院に自分は期待してたんだと。なのに先生のしてることはおかしいじゃないですかと青臭いことを言い出されて、直江は最初、居心地悪そうに手をこすったり衿を直したり、ふーっと溜息ついたりしてるんだけども、倫子が感情を昂ぶらせるのに引きずられるかのように、だんだんと顔が怒り始めるんだよね。本気の感情が表に出てくるの。全てにおいて斜に構えて、誠意だの熱意だの初心だの感謝だの、そういうもの一切に蓋をしてうそぶいてた直江にさ、かつては相当な熱血漢だったであろう自分を、思い出させていくんだろうね倫子は。」

「そしてそれを象徴するのが、第1回めのこのシーンなんでしょうね。倫子によって少しずつ、直江の心の表面を覆っていた氷が溶けていく…。厚い氷に打ち下ろされた最初の一撃が、ここでの彼女の涙ながらの抗議なんですよきっと。」
「それにしてもここまで泣かれたんじゃあ、店じゅうがシーンとしちゃうよねぇ。まぁ音声さんに届かないような声でボソボソやられてもドラマになんないから、そのへんは大いに誇張してあるだろうけど。
でもってここで幸か不幸か、直江のポケベルが鳴る。嫌なら辞めればいい、って言って直江は席を立つんだけども、この時自分が言った『後悔するくらいなら初めからやめとけ』ってセリフを、やがて彼はたんぽぽ畑の前で思い出し、究極の葛藤をすることになるんだろうね。
やめておけ、彼女の手を取れば2人とも苦しむことになる、やめておけ、その方が懸命、その方が自分が楽なんだ…。でもこの時の彼はまだそんなことには思い至りもせず、餞別だ、なんて捨てゼリフを残して出ていってしまうんだね。」
「うーん…。切ない物語ですねぇ…。」
「第1回めの演出って、さっき八重垣くんが言った通り、一番丁寧なのかも知れないね。」

■路上■

「しかし院長令嬢ともなるとすごい車に乗ってんね。ニコリともせず近づいていく直江は、ちっとも嬉しそうじゃない。楽しんでも怒ってもいない無表情。つまりはここんとこが、倫子の前にいる時の彼とは違うんだなー。」
「やっぱり人間、本当の顔で過ごせる相手が一番大切なんでしょうねぇ。会っていてもどこか気の張る関係なんていうのは、しょせんはいつか壊れるんだろうな。」
「それはホントそうだと思うよ。アタシも自慢じゃないけどいろんなオツキアイしましたがね、やっぱ前のダンナとつきあってた時の自分が、一番素直で自然だったもん。」
「恋人に無理はできても、配偶者に無理はききませんよね。恋愛は非日常ですけれども、結婚ていうのは日常な訳ですから。」
「おや若いクセにいいこと言うね八重垣。さすがは恋愛上級者。でまぁ話を戻すけど、三樹子が直江に、自分たちの関係をパパに言ってもいいのかって冗談っぽく言うじゃない。それに対する直江の答え、『好きにすればいい』って残酷だよねー。別に大したことじゃないって言われるのと同じだもん。まだ勘弁してくれよって言われた方が救われる。」
「まぁ多分最初から、遊びと割り切ってつきあってるんでしょうけれどねこの2人は。」

■歓迎会場■

「あんな大病院にしてはさ、集まった人数がいまいち少なくない? 病院の勤務体系ってよく判んないけど、ローテーションの関係とかで大人数が集まる訳にいかないのかな。」
「さぁどうなんでしょうね。同じ外科の中でも、派閥とかあるんじゃないですか?」
「ああ、そっちか。じゃあここにいるのは要するに、小橋シンパなのかなぁ。小橋先生自体はそういうの、おそらくは嫌いっぽいけどね。」
「直江は一匹狼。これは間違いないでしょう。」

■レストラン前の路上■

「直江がタクシー停める手の上げ方。好きだなー。えへ♪」
「要するに何でもいいんでしょう? 直江…いや中居のすることだったら。」
「まぁそんなもんだ。だけどひょっとして直江がここで病院に戻るのは、さっきの倫子とのやりとりが多少なりとも関係してるかも知れないね。ちょっと今夜はそんな気分になれなくなった、というか。」
「いや小夜子さんと約束があったんじゃないんですか? 次のシーンにそんなセリフがありますよ。」

■歓迎会場■

「すでに出来上がっちゃってる神崎先生。この人って可哀相なくらい影薄いよね。この第1回くらいにしかちゃんと出てないでしょう。」
「まぁ仕方ないですよ。片や直江、片や小橋。その間にはさまれて平凡至極な容貌は不利です。」
「そりゃそうだ。白鷺と隼に向かい合われたんじゃあ、ムクドリは引っ込んでるしかないね。でもって二ノ関さんは初めにチョロッと顔出しただけで、すぐに帰っちゃったのねー。やっぱり直江先生と約束があるからだと、確かに柴田2号たちが言ってますな。」
「柴田2号ですか(笑) でもほんとに似てますよねこの女優さん。」
「似てるねー。一方カウンターでは倫子と小橋が、あらあら何だか親密なご様子で。2人をじっと見ている高木さん、心配だろうなぁ。」
「これってあれですね。さっきも言いましたけど、最初の頃には倫子と小橋を、もう少し絡ませる予定だったのかも知れませんよね。」
「うんうんマジそう思う。このシーンはそのための伏線でもあったんだよ。結局は利用されずに埋め捨てられた伏線だけど。」
「直江と小橋の対立自体、結局そんなに重きは置かれなかったですね。」
「ほんとだね。むしろ小橋が直江を理解していく流れになってた。そういうのって視聴者の反響とかを見ながら、軌道修正していくんだろうね。」

■夜の病院■

「これまた細かい突っ込みどころで、静まり返った夜の病院で物音が異様に響くのはよく判るとしても、直江のいる医局のドアが少し開いてるってのはアリかぁ? 別に明かりが漏れてなくたって、ここかなぁと思ったらノックして入りゃいいじゃん。よっぽどノックが嫌いなのかしら、演出家さん。」
「別にそういう訳じゃないと思いますよ(笑) 机に伏せている直江は、これは発作がおさまりかけてるんでしょうね。駆けよった時に倫子は何かの瓶を蹴とばしてますから、あれが多分、空になったフロノスで…。」
「そうなんだろうけどさ。しかし何でまた直江はここで倫子にキスしたかね。口止めってコトもないだろうし…まぁ理由は幾つか考えられるけども。」
「薬の副作用じゃないかって意見もどこかにありましたよ。」
「なるほど。そういう薬もあるみたいだね。激痛を止められるだけの強い薬なら、打った直後は多少なりとも思考が混乱するかも知れないし。だけどアタシはここで、思わず画面に突っ込んだよ。キスする時はさぁ、もそっと唇ひらけって。そんなアナタ食いしばってなくたってよさそうなもんだが。嫌だの照れくさいの言ってんじゃないよキムスメじゃあるまいし。」
「ちょっ…。それは誰に何をどこまで、突っ込んでるんですかいったい。」

「そんな色気のないキスとは正反対に、このレントゲン写真、何かすごくドキッとしない? 『どーもとモード』にはkinkiの2人のレントゲンが載ってたって話だけど、それ聞いた時にアタシ、うわ、いいのかよって思った。だってオールヌードなんて目じゃないじゃん。体内まで見せちゃう訳やん! それと同じでこの骨の写真、ちょっと正視できないくらい色っぽく見えるんですけど私。骨盤なのがさらにイケマセンっ!」
「…そうですか? でも別にこれ、中居の体じゃないでしょう? どこかから借りてきたかせいぜいスタッフのものか、第一骨なんか見たって感じませんよ。」
「いやそりゃ中居さんの骨だなんて思っちゃいません。でもドラマ的には直江先生の体内写真でしょう? ちょっとカンベンしてよだなこれ。すごくイケナイもの見せられてる気がする。あんたは平気だって言うけどさ八重垣。例えばこれが女性のレントゲンだったらどう思う? あんた誰のワンフーなんだっけ。セイラさんだっけ? じゃあ例えばこのフィルムがさぁ、セイラさんの体の中を映したものだとしたら、どうよ。」
「…うわぁ〜………(笑) ちょっとちょっとちょっとタイムタイム(笑) 駄目ですやめて下さいっ!」
「ほーらみろ。恥ずかしいだろ理由もなく。」
「ええ(笑) ちょっと息上がっちゃいました。」

「スタッフ、平気だったのかねぇ。それともうちらが変わってんのかな。皆さんはどうなんだろう。ビジター様に伺ってみたい気もするね。」
「伺ってみればいいじゃないですか。直江のレントゲン写真に興奮したかしないか。少なくともする気持ちは判るかどうか。」
「でもそんなこと聞いてもなぁ。手フェチ背フェチ額フェチの次に、骨フェチとか言われても嫌だしなー…。」
「いいじゃないですか骨フェチ。または骨盤フェチ。」
「やめてっ! チョー変態っぽい! ああもう骨の話はここまでにして、倫子が部屋を出ていったあと、ドサッと椅子に座った直江のアップ。これが第1回めのお見事な締めくくりだねぇ。この目が見ているのはレントゲン写真じゃなく、その向こうに霞む『残された時間』なんだろうな。あとどれくらい生きられるのかが、外科医なだけに明確に計算できてしまう。死の足音がはっきりと聞こえる。並大抵の恐怖じゃないだろうね。」

「僕だったら多分、気が狂いますね。本当に命の削られる音が聞こえるんですから。」
「まるでさぁ、ギロチン台の上に仰向けに寝かされて、刃を吊ってる1本だけのロープが、ぴしっ、ぴしって切れてくみたいだよね。やだやだやだっ怖いっ! も、頼むからバサッとやっちまってくれー!って感じ。」
「同感です。先に舌噛むかも知れませんよ僕は。」
「そんな恐怖のただ中にいる直江は、確かに普通の精神状態であるはずがないよね。人と交わらないのも心からの笑顔をひとかけらも見せないのも、そう思えば当たり前のことか…。」

「けれど彼は倫子によって変わっていく。それがこのあとの9回分で描かれた訳ですけれども、この先のUPはどうなりますか智子さん。週に1本ペースでいけるんですか?」
「うん。一応はそのつもりでいる。毎週木曜日とか、そんくらいかなぁ。でもってこのロンブル・ブランシュが終わるまでは、他のレギュラー番組系の感想とかを、ちょっと短めにするかも知んない。多分皆様さぁ、いいともとコレだったらこっち優先しろっておっしゃると思うんだ。だから、他は書かないっていうんじゃなくね、費やす時間を少しずつ削らせて頂こうかなと。その分ロンブル・ブランシュをしこしこ書き進めますよ。1回分上がり次第、UPしていきます。」
「そうですね。あれも全開これも全開じゃあ、冗談ともかく倒れますよ智子さん。仕事だってちょうど決算にかかるんですし?」
「寄る年波には勝てんしね! だけどつくづく中居ってのはエネルギッシュなワークホリックだよね。ちょっと気を抜くと置いてかれそうだもん。体力いるよ、あの男とつきあうのは。」

■タイトルバック■

「これ見た人はみ〜んな言ってるね。ここまで技術が進歩したなら、エンドロールからテロップだけ消去するデッキはないのかと。ほんっっとに邪魔だもんなぁこのチマチマした文字ども!」
「この映像は綺麗ですよねぇ。…どこだったかなぁ、本当に遺体がそのまま保たれる湖があるんですってね。すごく深いんで底の方の水温はほぼ一定、常に0度なんだそうですよ。」
「ああ、それって聞いたことある。何かの推理小説に出てきたんだっけかな。ここの映像、モロそんな雰囲気だよね。画面には直江の他に、倫子も三樹子も小橋も院長も登場するんだけど、最後に独り横たわるのは直江。彼の手から飛び立つ一羽の白い鳥。未来へ向けて希望を羽ばたかせたあと、静かな世界で彼は永い眠りにつく。永遠に白い闇の中で…。
とまぁこんな感じで第1回は終了ですね。んじゃ八重垣くん、ラスト締めて。」

「判りました。―――はい、といった訳でですね、『L’ombre blanche』の第1回を終わりにしたいと思います。特番ラッシュの時期ではありますけれども、他はまた追い追い、遅れすぎないように語らせて頂くとして、とりあえずはこのコーナーを優先的にね、進めていければと思うんですけれども。はい。
えー、そして次回はですね、29日のUPを目標として頑張りたいと思いますので、どうか皆様お見捨てにならずに、おつきあい頂ければと思います。ね。…はい、では次回までごきげんよう。パーソナリティーは私、八重垣悟と、」

「花粉飛散量もピークを迎えマスクとロートZi:フラッシュを手放せず、フロノスと名づけた薬を手に、ぶひぶひハナをかんでいる木村智子でしたっ! ごきげんよぉ〜!」



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