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【 第3回 】

「はい、えー皆様お元気でしたでしょうか八重垣悟です。お送りしております座談会『ロンブル・ブランシュ』の、今日は3回めということでですね、当サイトとしてはかなり順調なペースをキープしているんですけれども、果たしてこのリズムがいつまで続くか、僕的にはちょっとね、不安がないこともないんですけれども…。はい。」
「いやいや心配するでない八重垣。一番不安がってるのは君ではなくこの私だ。の木村智子でございますこんにちは。何ですか今現在、牡牛座は全くツイてない時期だとかで、華やかなコトは何1つないドンヨリした日々だったりいたしますが、それもひょっとしたら直江毒のせいではないのかと、そんな風に思っておりますです。」

「直江毒ですか。爆発カラスでも効き目はありませんでしたか?」
「駄目だねー。あの吉野家のCMもいけないやねぇ。通勤途中の真正面にまぁ、クールビューティー助教授の全身がバーンと見える店があったりするんでねぇ。」
「ああ、それはよくないですね。でもまぁこうなったら仕方ないですから、徹底的にヤられちゃった方がいいんじゃないですか? 抵抗なんてしたって虚しいだけですよ。」
「あんたさぁ、そんなこと言ってホントは面白がってんでしょお八重垣。」
「え? いえいえそんなことありませんよ? さぁせっかくハイペースなんですから、この調子で話を進めましょう。ね。…えー、それではロンブル・ブランシュ第3回は、川原でたんぽぽを探していた倫子と直江の会話のシーンからです。どうぞ。」


■川原■

「けなげなたんぽぽを思わせる倫子の笑顔には、内心深く感じるものもあったくせに、表面はあくまでも素っ気ない直江。風邪ひくぞ、とか言って優しく気遣ってくれるのかと思いきや、それでなくても看護婦少ないんだなんて薄情ねぇ。」
「この回まではまだ、倫子は直江という男が理解しきれない状態ですよね。最初よりは少しずつ判ってきてはいるんでしょうけれども。」
「そうだねー。うらめしげな目で見送る彼女の視界の中、歩き去る直江の姿は美しいわぁ…。フルートでのテーマ曲が実に合っててねぇ。うっとりしちゃうよねぇ。」
「初めのシーンからうっとりしちゃったんですね。ほんと、幸せな人ですね。」


■石倉の病室■

「最高にご機嫌な石倉さん。たんぽぽを見る顔が嬉しそうだね。」
「そりゃあ嬉しいですよ。自分が好きだって言った花を、わざわざ探してきてくれたなんて最高じゃないですか。今の季節にたんぽぽなんて、そうそう咲いてる訳がないってことは、石倉もよく判ってるでしょうし。」
「だよねぇ。この植わってる鉢はさ、倫子んちにあった奴だろうね。ほら、倫子のお母さんって花育てるの趣味みたいじゃない。引っ越してきてすぐでさぁ、うちの中があんなにぐちゃぐちゃだったのに鉢植えには水やってたし。」
「ああ、そういえばそうでしたね。じゃあ倫子がこんなふうにたんぽぽを植えてあげようと思ったのは、あのお母さん譲りの考えなんでしょうか。」
「そうだろうね。もしかしたら植えるのも手伝ってもらったのかも知れないね。てゆーか全部やってもらってたりして(笑) それで石倉には私が植えたくらいのコトを言うというね。んまーっずるいわっ倫子!」
「いやそこまで設定しなくたっていいと思いますよ。」

「まぁたんぽぽはそんなもんでいいとしてもさ、ここで石倉の傷口を消毒してガーゼとりかえる直江先生、いいねぇ…。細長いガーゼを両手のピンセットでこう、ふぁさっと傷口にかぶせる仕草が、いいわぁ…。」
「そうですか?(笑) いいとなったら何にでも陶酔できるんですね。」
「できるできる。自慢じゃないけど陶酔上手だよあたし。」
「陶酔上手ね。面白い言葉ですね。」
「消毒してガーゼあてるまでは自分がやって、そのあとの処置は倫子にまかせてファイルに何か書き込むのもさ、さも『外科医!』って感じですごくいいよねー。書いてたのはドイツ語だよねあれね。」

「僕としてはですね、このシーンで、倫子の後ろに窓ガラス越しの青空が見えるのが好きですね。この人はたんぽぽみたいな女性なんだってことを表す演出なんでしょうね。」
「元気になったらまず最初に土手へ行きたいって言う石倉、切ないよねぇ。ここでの直江の横顔、感情を伝えていてすごくいいわ。」


■廊下■

「このワゴン、けっこうガラガラうるさくないですか(笑) まぁ実際これくらいの音はするんでしょうけれども、ずいぶん耳障りな音ですよね。」
「倫子の心情表現なのかなぁとも思ったけど、なんかそういう訳でもないみたいよね。でもこのシーンはさぁ、短いんだけどけっこう意味のある場面かもね。『これでいいんですよね』と聞く倫子に対して直江は最初、君は石倉さんのあの笑顔のために花を探したんだからそれでいい、とまたまた素っ気ない言い方をして、でも、青空の似合ういい位置においてあげた、と細やかなことを言ってくれる。微笑む倫子のアップに続いて青空の前のたんぽぽ。そしてオープニング・タイトルが映し出されると。」
「一連の映像の流れが、とても綺麗でしたね。」


■ナースセンター〜ロビー〜通路■

「さて物語は第1回、第2回と続いてきて、今回と次回は主に宇佐美繭子をめぐるトラブルの巻ですね。でも何ていうか、今になって振り返ると…このあたりは挿入話的というか、ドラマ全体とのリンクはあまり張られていないエピソードだったように思うんですけれども。」
「うんうん、それは言えた。あとはまぁ、あえていえば直江というキャラクターへの肉付けかな。謎めいていて強引で、色んな過去を秘めた男・直江庸介…。彼に四方八方からライトを当てて、その姿と内面とを視聴者の視野の中に立体的に浮かびあがらせていく回。」
「ああ、そういう要素もあるでしょうね。いい手法なんじゃないですか。登場人物の誰か1人が長々とセリフで説明するんじゃなくて、具体的なエピソードを通じて直江というキャラクターの輪郭を描いていくんですよ。」
「いいねぇいいねぇ。ファンとしてはその過程だけで2クール使って、じっくりと直江の正体を描き出してくれても構わないんだけどね。でもってこのシーンだけども、当直の小橋先生が仮眠を取ろうとしていた矢先、1本の電話が飛び込んでくる。いいよ、と言って出た小橋がピリッと表情を引きしめた時から、このエピソードは始まりを告げたんだね。」

「小橋の書く『腹部外傷』の4文字がいいですね。すごく緊迫感があります。電話の向こうで慌てふためいてる男は繭子のマネージャーで、運転しながら携帯か何かで掛けてるんでしょうね。」
「このあたりの小橋先生はカッコよかったねー。繭子を運び込む時の指示の出し方といい、名札を見て直江じゃないと気づいて止めるマネージャーに、『そんなことを言っている場合じゃないでしょう! どきなさい!』って言う強い口調といい。」

「しかし直江はこんな時間に、手術着を着て何をしてたんでしょう。今夜は直江先生はいない、ってさっき小橋は言ってましたよね。」
「うんうんそうなの。ここでの直江の登場の仕方は実に唐突ね。まぁ説明はいくらでもつくから、これはもうシーンづくりの都合上というか、『カッコいい直江先生』を演出するための力ワザだろうね。ここでの直江の、青い手術着の上に白衣といういでたち。これはもぉマシンガン級の悩殺光線放ってるもん。深めのV字に切れた衿元からのぞく、あの首まわりの線がねぇ。よぅ判ってるよなぁ監督は。」
「マシンガンなんですかあれは(笑) ははぁ…。」

「そうそう。悩殺マシンガンぶっ放し。でさ、ここまで必死に運んでくれた小橋先生の手から、自分の患者だって言って繭子を連れ去っちゃうあたり、言葉と態度と視線とで、直江は小橋をバシッとシャットアウトしてるじゃない。この威圧感ていうか有無を言わさない感じ、それをしてのけられる貫禄みたいなもんが、言葉だけじゃなく雰囲気として中居さんの全身から立ち昇ってたのが嬉しいなぁ。もしも本当にこうやって立ち塞がられたら、その先へは行けないだろうなっていう迫力があるんだ。うんうん。綺麗だクールだセクシーだだけじゃなく、もっともっと冷静に評価すべきだろうな、この『主演・中居正広』は。」
「一番冷静じゃない人が何を言ってるんですか。いいわぁ星人なのに(笑)」


■処置室■

「手袋をつけながら入ってくる直江。なんかこう、この第3回は直江をカッコよく見せるのが全ての目的じゃないかって思えるほど、これでもかって感じの演出になってるなぁ。繭子のセーターにハサミ入れてから引き裂くところとか、消毒液の蓋を歯であけるところとか。」
「でもあの歯で蓋をあけるのは、衛生上の問題としてどうなんでしょうかね。野戦病院じゃないんですから。」
「だからさぁ、もう直江がカッコよく見えれば少々のことはいいんだよ多分。もしかしたらこれでも押さえた方で、ほんとは強い酒を口に含んで消毒薬代わりにプーッと吹きかける、くらいのコトはやらせたかったんじゃないかしらん。でもまさかそこまではねぇ。これがアマゾンの奥地で毒蛇か何かに噛まれたっていうんなら、酒をプーッてやったあとで傷口に口つけて、毒を吸って吐き出すとかね、そういうのもアリだったんだろうけど。」
「全然違うドラマですよそれじゃ。レイダースじゃないんですから。」
「ま、見てみたかったけどねそういうのも。野戦病院での直江。多分総長も見たいっていうと思うよ。」


■ナースセンター■

「どうもお騒がせしました、って言い方が直江らしいよなぁ。すみませんでしたの一言は言えんのか、というね。」
「それに比べて小橋先生は、仮眠もとらずに待っていたんでしょうね。いい人ですねぇ。」
「そのいい人に対して、戸田次郎を即刻大部屋に戻せなどとこれまた無理を言う直江。最初は取り合わなかった小橋も、入院患者が人気女優と聞かされては状況を理解せざるを得ない。かくしてぐっすり眠っていたであろう次郎は叩き起こされ、居心地のよくないベッドに押し込まれるんだなー。そりゃあ直江を恨みもするか。」

「ここで僕が気になったのはですね、高木さんが点滴にマジックで書いた『ウサミマユコ様』ですね。これでてっきり繭子の入院が誰かにバレるのかと思ったら、全然関係ありませんでした。」
「いや、それも最初は伏線のつもりだったんじゃないの? だってそうでもなきゃさぁ、意味もなくわざわざ高木の手元をアップにしたりしないでしょう。」
「やっぱりそうですかね。演出の差し替え、間に合わなかったのかな。」
「時間のない撮影だったんだよ、多分。」


■川原■

「ここにどうしてこのシーンが入りましたかね。セリフもなくただ単に、直江の姿を映すだけの。」
「あ、これはねぇ、過去を回想してる直江なんだと思うよ。過去、というのは繭子との過去ね。あとで院長にも尋ねられてるけど、直江は繭子と男女関係にあるんだかあったんだか、ともかくも体は重ねてる訳っしょ? それがどういういきさつなのかは一切触れられてないけど、その時のことを直江は回想してるんじゃないの。」
「そう、直江と繭子の間に何があったのかは全く明かされないままなんですよね。でも僕はそれでよかったんじゃないかと思いますよ。小説と違ってドラマの場合は、あんまり語り過ぎるとうるさいですから。」
「そうだね。人気女優とまで関係しちゃってる謎の男・直江ってことで、とどめてあるのがむしろ効果的だったかも知れないね。」


■繭子の病室■

「この繭子役の女優さんてさ、深田恭子をもうちょっと歳とらせて、キツくした感じの雰囲気じゃない?」
「ああ、そんな感じしますね確かに。」
「気が強くて、すごく激しい女性って感じ。あたしが男だったらこういうタイプ好きだな。」
「いや、苦労しますよ。こういうタイプの彼女を持つと。」
「…あんら? 八重垣、なんか意味シ〜ン。さてはこういったタイプとは幾度かご経験がおありで?」
「いやそういう訳でもないんですけどね。はいはい次行きますよ。」


■院長室■

「人気女優が極秘入院することのメリットとデメリットを、経営者らしく損得のハカリにかける行田院長。いいねぇこういう正直な人。好きだなー私。でもこの場所で『パパ』と呼ぶ三樹子はちょい頂けないね。院長と呼びなさい院長と。仕事中だし部下が来てるんだから。ッとに、どうもお行儀の悪いドラマだよ全く。」
「とは言っても三樹子はいいところを突いてるんじゃないですか? 父親の性格が判っているというか。代議士も芸能人も金に糸目はつけない、病院にとってはいいお客様じゃないかと。」

「てゆーか三樹子ってさ、このあたりの回が一番、キャラクター的にブレちゃってるところだよね。育ちのいい我儘娘の無邪気さみたいなものがあまりに強調されてて、原さんの持ち味とは合ってない感じがするなー。倫子に対して嫉妬をぶつけるようになってからの方が、存在感のあるキャラになってきたと思う。」
「ああ、それは確かですね。後半の三樹子はなかなかよかったです。この回はちょっとねぇ、邪気がなさすぎるっていうか賑やかっていうか。」

「繭子の入院の許可を院長にもらって部屋を出ようとする直江にさ、次郎の話を振りながら、三樹子は何か書類を渡すじゃない。その時に直江の手をスルッと触ってるんだよね彼女。これがしたくなるのは判るなぁ。入院してくる相手は女優で、三樹子ってモデルじゃん。それなり対抗意識っていうか、あなたは私と関係してるんですからね、くらいのサインは送りたくなると思うよ。」
「そうか、三樹子ってモデルやってるんでしたね。じゃあライバル意識持っても不思議はないな。」
「ね。だけどそれにしちゃあさ、もっと先のシーンだけどもエレベータの中で直江と2人きりになった時の態度とかが、子供っぽすぎる気がするんだよな。なんかちょっと、ドラマの前半における三樹子の扱いはもったいない感じ。キャラクターとしての性格が統一しきれてないもん。」

「直江をとりまく女たちは多いですからね。でも連ドラって演出家が1人じゃないじゃないですか。脇のキャラの扱いにはバラつきが出ることもありますよね。」
「そうだね。その点行田院長は判りやすくていい。津川さんがベテランだってのももちろんあるけど、作りやすいキャラでもあるよね院長って。繭子の入院を直江には許可しながらも、こんなことで小橋先生のご機嫌をそこねたくない、な〜んて言ってる。直江と小橋という正反対のタイプの部下2人に対する、院長の意識っていうか本音がよく見えるセリフだよね。」
「院長の隠し玉はあくまでも小橋なんでしょうね。直江は汚れ役というか、いざとなったら切りすてる男…。」
「利用できるうちは直江の腕を大いに利用して、でも決して真の見方とは思わないんだろうね。ここでニコッと笑う三樹子もヘンなんだよな。優柔不断なお嬢になっちゃってる。」
「第1回めの院長室のシーンでは、窓の外を黙って見つめるなかなかいい表情がありましたからね。あのシーンでの三樹子に漂っていた大人の女の風情が、ちょっと薄まっちゃってるのは残念です。」


■エレベータ〜ナースセンター〜屋上■

「直江を探し回る倫子。全くこの忙しいのに、って感じがなかなかリアルでいいね。」
「僕ねぇ、思ったんですけど、この屋上で直江は初めて、1人の女性として倫子を可愛いと思ったんじゃないでしょうか。何をふくれた顔してるんだ、って言った時の倫子のあのほっぺたですよ(笑)」
「まぁ確かにアレは可愛いわなー。少しくらい待たせておけ、と言われて戻る時、自分のほっぺたをこうやってきゅってやってる姿は、あれは魅力的かも知んない。うん。この屋上の光景は全体的に明るいもんね。ジェット機の音がして、空も綺麗だし。最初に倫子が見つけた直江も、わりと無防備な姿勢でベンチに寝転がってたりしてさ。そしてほっぺた娘が行っちゃったあとも、煙草を吸いながら見上げた空は晴れ晴れとしてた感じがするな。」
「この屋上のシーンはつまり、直江の心象風景でもあった訳ですね。」
「そうだね。あとは直江の後ろ姿の肩は、実にセクシーであると強調する意味もあった。」
「はいはい。」


■ミーティング室(?)■

「ここがまた謎の部屋なんだよねー。病室でもなく医局でもなく。…でもってまた、ここでの三樹子が訳判んないんだコレが。行田病院の経理担当者として、支払いの不安な患者を呼び出したって感じなんだろうけども。」
「さっき院長室で次郎の具合について尋ねられた直江は、主治医は小橋だから自分は口を挟まないとちゃんと言っているのに、次郎本人が三樹子の口から聞かされるのは、直江は外来に通っても大丈夫だと言っていたって言葉になっちゃうんですね。」
「それでまた次郎は直江を恨んでいくと。こと次郎に関しては損な役回りだよなー直江も。」


■院長室■

「次郎の通院治療に反対する小橋は、院長に文句を言いにいくんですね。熱い男ですねぇ。」
「だけどここでの三樹子のお嬢ぶりもさ、またまた浮いてるんだよなー。八方美人っていうかね。その場にいる誰かに気に入ってもらえる発言ばっかりしてる感じ。って三樹子ばっかけなしてないで少し意味のあるハナシをするけどさ、この院長室のシーンと次の繭子の病室のシーンって、実は登場人物3人の性格を対比して際立たせる目的があったのかも知れないね。」
「え、際立たせるってどういうことですか?」
「つまりさ、自らが思う”あるべき医療の姿”を熱く語る小橋は理想家。理想もけっこうだが病院はビジネスだと言う行田院長は、世俗にたけた経営者、または俗人。前者は金銭を否定し、後者は強く肯定する。小橋が次郎の治療費を立て替えると言い出すのは、院長からしてみればずいぶんと甘い解決策だと思うよ。また小橋のね、こうやって知り合ったのも縁なんだから何とか次郎を助けてやりたいという気持ちは、確かに人間らしくて素晴らしいんだけどもさ、裏返してみれば自分自身の”べき論”を完結させるための自我充足行為でもあるからなー。そうそう諸手を上げて褒めるべきもんでもないと思うよ。」
「自分の考える理想論を自己完結させるために、小橋は”弱者”である次郎を守ろうとしている訳ですからね。考えようによってはそれも傲慢ですね。」
「うん。直江ってそういうのすごく嫌いそうな気がするよね。」


■繭子の病室■

「マネージャーに札束を渡される直江。額面としてはこれ、おそらく50万ってとこだろうね。100万はないな。」
「あの厚さならそうですね。袖の下としては順当な金額でしょう。」
「理想家でお金が嫌いな小橋と、経営者でお金大好きな院長。その両者に対して直江って、嫌いとか好きとかいうレベルじゃなく、お金ってものに特別な意味を求めてない男なんじゃないかしらん。特段興味がないっていうかね。金とは単に金であって、決してそれ以上のものではない、みたいな。そういう風に描かれている。」
「ああなるほど。渡された札束を直江は『何だこれ』っていう顔で見て、無表情に押しやって返してますもんね。」

「うん。前に次郎に、費用が払えないなら治療はできないって言ったのも、別に直江自身が金を手にしたいんじゃなく、世の中それが現実な訳だし、このシーンでマネージャーに金を返したのも、退院を許す許さない以前に、パーティーに行くのは無理だからそう言ってるだけなんだよね。金を否定するんじゃなく、意味を見いだそうとしない。つまり否定する価値すらないってことなんだ。それが直江庸介のクールさだと思うよ。まぁそれより何より、死期を悟った人間にとって金なんて何の意味もないだろうけどね。」
「確かにそれはそうですね。欲望は生命力に比例するっていいますし。何としてもパーティーに出るんだと言ってヒステリーを起こす繭子は、まさに生命力の塊ですよ。」
「それに対して鎮痛剤をカットしろっていう直江の指示もすごいよねぇ。さすがは医者というか。そもそも医者じゃなかったら思いつかない対策だよね。」
「痛みが強ければパーティーに行こうなんて考えなくなる。まさにおっしゃる通りですよ。」


■エスカレーター〜廊下■

「憧れの小橋先生が、院長令嬢と親しげに話しているのを不安そうに見つめる高木センパイ。いいねぇいいねぇ、味方になって励ましてあげたくなるねぇ。大丈夫よ、小橋先生は三樹子のことなんて何とも思ってないから!って。」
「繭子に対して対抗意識を持てる三樹子と違って、高木さんにすれば三樹子は、最初から太刀打ちできない相手でしょうからね。高木さんには黙って見ているしか方法がないのか。可哀相ですね。」
「志村さんのお友達だから…って口をすべらす三樹子については、さんざ言ったからもういいね(笑)」



■石倉の病室■

「倫子が入ってくるまでの石倉の表情、印象深いですねぇ…。手術してすぐの時には疑いもしなかった回復が、時間がたつにつれてどうも思わしくなくなっている。自分の体ですからね、誰に言われなくても気づくことはあるんでしょう。」
「そうだね。ムツゴロウさんのエッセイにあったもん。命っていうのは愛しいもので、消える時にそっと耳打ちしてくれるんだって。」
「ああ、そういうものなのかも知れませんねぇ…。漠然とした不安を石倉は、この時点でもう感じ始めているんでしょうね。」

「そこにやってくる倫子の明るい声。救いだよねぇこれはホントに。」
「石倉に『あんたに1つ聞きたいことがある』って言われた時には、視聴者も倫子もドキッとしましたよね。このシーンの最初で、石倉がああいう表情をしていただけに。」
「そうだねー。俺は本当に胃潰瘍だったのかって、てっきりそういうことを聞かれるんたと思ったら、『あんたアメ玉しゃぶってるって言われないかい』だもんねー! 一気に緊張解けたよね。ここでの倫子のバックも青空なんだけど、これがまたシーンによく合ってるよ。」


■医局?■

「謎の部屋パート2。直江がいる時とはうって変わって明るいけども、医局のこっちがわ半分だよね多分。」
「小橋がコーヒーか何か入れてますからね。多分そうなんじゃないですか?」
「ここでの次郎はいい子なんだけどね。小橋への感謝の気持ちも、決して嘘じゃあなかったんだろうに。」
「むしろ次郎は純粋すぎるというか、幼いだけなんでしょうね。」
「こういうタイプ、現代にはすごく多いのかも知れない。なんかそんな気がしたなーあたし。」


■廊下■

「すいません、これは言わせて下さい八重垣さん。…ああっ直江先生、お綺麗…! ガラスに映った状態で登場するのも、首っていうか顎っていうか頬っていうか、微妙な位置に指を置いてるあの姿勢も、たまんないですねホント。ええ、たまんないですマジ。」
「そうですか(笑) でもここでの直江の表情の微妙さは、なかなかよかったと思いますよ僕も。このあと時間あるのか、と言う時のちょっと決まり悪そうな感じ。あれはリアルですね。」
「夜勤あけの倫子は普通ならとっくに帰っていい時間なのに、繭子のせいで忙しくしちゃってる罪滅ぼしの意識もあり、また、ほっぺた娘を可愛いと思ってしまった心情の変化あり、またその変化をそれとして認めたくない気持ちも強くあり…。複雑な男心って奴ですかな。」
「ええ。それがなかなかよく出てたんじゃないかなと思いますね。」


■川の見えるレストラン■

「急に誘われたんだからしょうがないんだけど、あんまり似つかわしくない格好してるよね倫子。場慣れしてないっていうか、純な感じなのかな。椅子に座る前にまず窓に張りつくという子供みたいな動き。」
「こんなに近くに川が見えるのが嬉しいんでしょうね。もちろん直江もそのへんは判っていて、この店を選んだんでしょうけれど。」

「第1回めで話した”直江と倫子には共通点が多い”ってやつが、ここで決定的になったよね。倫子が『川とは友達なんです』って言った時、直江は驚いたみたく彼女の顔を見るじゃない。あれ、自分が思ってるのと同じこと言ったからだよね彼女が。まぁ『川は友達』ってセンテンスには、それはちょっと垢抜けないにもホドがあるんじゃないか?って気もしたけどね。みんなの歌じゃないんだからさ。」
「ああ、みんなの歌ね。判ります判ります。川は友達、っていう響きは言ってみれば、『手のひらを太陽に』とか『ふるさと』的な…まぁ、悪いという訳ではないんですけれども、どうにもならない古めかしさがあるんですよね。」
「そう、何とも古めかしいんだなー。ここはやっぱ『すいかの名産地』くらいの明るさが欲しかった。うん。」

「あの歌って智子さん知ってました? 僕、知らなかったんですよ実は。」
「あっあたしも知らなかった! 初めて聞いたよスマスマで。」
「謎ですよねあれね。何でも振りまであるんだそうですよ?」
「知らないなぁ…。柏踊りだったら4番まで知ってるんだけどな。こないだ新宿で歌ったらあんまりウケなかったんだけど。」
「いや柏踊りは知らないでしょう。八木節の方がまだ有名ですよ。」
「やっぱそうか。春夏秋冬それぞれの季節における、麗しき柏タウンを歌った名曲なんだけどねぇ。ハイ、柏踊りはヨ〜♪」
「まあまあそれはあとにしましょう。そこまで話をずらさないで下さい。柏踊りに飛ばれるんだったらまだ、直江先生を賛美してくれた方が進めやすいです。」

「あっそぉ! ふんじゃ遠慮なくいくけどっ! ここでの直江はもぉもぉもぉモーモー、牛になって草食って生きてたいほど素敵だったね。もとよりアタシは牡牛座だしさ、モーモー言ってて不思議はないんだ。うん。」
「はぁ(笑) コメントしにくいですね(笑)」
「いいよコメントなんかしないでも。ここでの2人の会話はさぁ、最初はあいも変わらずキャッチボールにならなくてプツンプツン途切れてたのが、ようやく直江が投げ返してくれた、その一言が『川が好きなのか』なんだよね。そのあとで直江は自分の学生時代の話をしてくれる。ボート部にいたんだ、なんて昔話を自分の方から聞かせてくれる。凍っていた時間が溶け出すみたいにね。
この2人は川原で出会い、川を介して心を近づけていき、やがて流れが交わるように想いと想いを重ねていく。流れてとどまらぬ川というものには人生のイメージがついてまわるし、流れ去ってしまう姿には、2人の恋の不安がかぶる。でも、その果てにあるのは大いなる海。人間の一生では計ることさえできない、大きなものの中に抱きとられていく…。そういう恋なんだと思うよ、この2人が紡ぎ始めたのは。」
「なるほどね。川を介して寄り添う心、ですか。」

「うん。それにつけてもここでの映像は美しい。テーブルで向かい合う2人をさ、カメラがこうね、ガラスに映る直江→直江の横顔→倫子の横顔→ガラスに映る倫子、っていうふうにスーッと横に流していくの。ドラマ作りに十分な時間はなかったんだろうと思いつつも、凝りたいところは徹底して凝ったカメラ割りしてるよね。」
「横顔とイルミネーションの組み合わせ。中でもこれが定番の演出ですね。ここぞという時には出てきますよね。絶対にはずさないキラー・ショットというか。」
「そうだね。直江を演じる中居さんって、カメラマンにとっても撮る手ごたえあるんじゃないかしらん。『自信を持てばいい』って言われた倫子がさ、ちょっと意外そうに、でも嬉しそうに『ありがとうございます』って言うじゃんか。そのあとで『うん』と応える代わりに、ちょいと眉をあげる直江の表情ね。もぉさぁぁぁ、いいよなぁあの目…。いいわぁいいわぁ、もぉ最高だわぁ。いいわぁ星で放牧されてる牛になっちゃうわぁマジ。」

「レストランの外のあの桟橋みたいなところ。船の汽笛が効いてましたね。特に最後のあの、ピュウッピュウッていう甲高い響きが。」
「そうだね。一種の”予感”を感じさせるっていうかね。川の真ん中で寝そべりたいと言う倫子に、ボートだったら同じように感じるんじゃないかと直江は言う。この時彼は別にさ、乗せてやろうって気持ちがあって言ったんじゃないと思うのよ。でも、乗せてくれるんですかと聞き返されればそうだなと思う。なんかこう直江の心が、それこそ川に漕ぎ出した舟みたく、どんどん光の中に引き出されていく感じね。」
「それへのとまどいみたいなものが、直江の中にはまだあるんでしょうね。笑いたいのに笑顔にならないような微妙な表情が、よく心情を表していたと思います。」

「ねー。細かいとこでさぁ、ほんっと”直江”になりきってるんだよね中居さんは。足りんな評価が、まだまだまだ。原作者の渡辺さんは打ち上げで褒めてくれたそうだけど。」
「でもそれって快挙だと思いますよ。渡辺先生なんていったら大御所なんですから、別にTV界になんか気を使わずに済むというか、中居正広主演が気に食わないなら気に食わないと公言して通せる人ですよね。それが、直江が中居くんでよかった、みたいな発言をしたっていうのは大きいですよ。原作者ってドラマに対する全知全能の神でしょう? その人が認めたっていうことは、つまり神様に認められたことなんですから。」
「だよねぇ。大きなハードルをまた1つ、見事に越えたよねぇ中居さんは。」


■志村宅■

「踏切の音っていうのはさ、庶民の日常生活を象徴する音なのかね。倫子んちのシーンになるとよく聞こえるんですけど、踏切。」
「うーん…。僕なんかにとっては庶民っていうより、哀愁をそそる音なんですけどね。」
「志村さんちに哀愁感じてどうすんだっつの。しかし倫子はなんでここで石鹸も使わずに手だけ洗って廊下に出てくの? 普通はお風呂入っちゃわないか? 何か中途半端だよなやることが。」
「いいじゃないですかそんなこと、別に(笑) 倫子の勝手ですよ。」


■直江の部屋■

「前のシーンで倫子の見あげてた夜空を、ブラインドを上げて直江も見上げるんだね。2つのシーンの綺麗なつながり方だわ。」
「そうですね。母親に怪しいとからかわれて倫子は直江を思い、また直江も『川は友達か…』と言って倫子を思い出している。何だか立派な恋人同士ですよねもう。」

「ここのさぁ、角度的にちょっと上の方から見下ろして撮った中居さんの上半身ねぇ。けっこう胸の厚み感じるんだよねぇ…。肩のへんとか、この…このへんのあたりとか。うん。」
「さぁどうでしょうね。そういうのは異性の目の方が確かだと思いますよ。」
「だーよーねー。そうだそうだその通り! はっはっはっはっはっ。どうだ参ったかぁナカイー!」
「何もそんな自慢することないでしょう。腰に手までとって。」

「でねぇでねぇでねぇ、八重垣。この直江の苦しむシーンで私が思い出したのがね、映画『アンタッチャブル』の1シーンよ。ショーン・コネリー扮するマローンが、アル・カポネの差し向けた殺し屋に撃たれるじゃん。いや刺されるんだったかな。まぁとにかく襲われて倒れるんだ。その時カポネ自身はオペラか何か見に行っててさ、その舞台の歌声と血まみれのマローンがかぶさるとこ。ゾクッときたもんねぇあれは。断末魔といっていい激痛にあえぎつつ床を這っていくマローン…。映像はそうなんだけどもBGMときたら、場違いなほど美しいアリアなのよ。このミスマッチ。アンバランス。不協和音の生み出す効果ねー。それを思い出したねここで。
全身をわななかせて薬に手をのばす直江にはさ、この美しいシンフォニーこそが似合う。変にサスペンスタッチの、おどろおどろしい曲持ってくるよりも凄みがあるよね。逆説的効果。」

「ああ、そういえばありましたねぇそういうシーン。確かカポネは舞台に感動して、拍手しながら涙を流すんですよね。」
「そうそう。あれは印象的だったなぁ。カポネの残虐性とマローンの悲劇が一層強調されて。それと同じ演出だよねここでの直江も。まさに手に汗握ってしまった。」
「ええ。耐えがたい激痛に悲鳴を上げる中居は、これは贔屓抜きで迫真の演技と言っていいでしょうね。」
「ねー! そうだよねぇ。それなのにこの直後のCMでさぁ。ビルの間をネットワークプリンタがぬーっとせり上がって来やがったのよ。やめんかぁボケェ!と思ったね私は。」
「以来何かと目障りなプリンタになっちゃったんですね。それも逆説的効果だな(笑)」


■大部屋〜特別室■

「スポーツ新聞を手にああこう言っている大部屋トリオ。その新聞を強引に持ってっちゃう次郎って、やっぱこうして見るとタチの悪いチンピラだよね。」
「いやチンピラってほどまではないですけど、多少図々しくはありますね。」
「図々しい彼に対して、ガツンとは言えない気の弱い3人。これは例の財布盗難事件で、次郎に濡れ衣を着せちゃった弱みがあるからだろうね。」

「でも今のこの状態ではまだ、繭子の入院を新聞にかぎつけられたのは行田病院側のせいじゃありませんよね。話が違うって倫子に食ってかかるマネージャーは、筋違いなんだよなこれ。」
「うん。考えると不思議だよねー。そもそもどこからかぎつけられたんだろう。火のないところに煙は立たず、って奴かしらん。」
「いるんじゃないですか繭子の周りにも。パパラッチみたいな奴が。」
「かもねー。病院関係者に八つ当たりしないで、そっちを恨めっつんだよなマネージャーも。」


■院長室■

「またここでの直江の綺麗なこと。惚れ惚れするねー。この角度から撮ると最高のビジュアルになる、ってカメラマンはとっくに判ってやってるんだろうなー。」
「まぁそれはそうでしょうけど、この場面で強調されたのは行田院長の鋭さっていうか、一筋縄ではいかない男だなってことじゃないですか? 繭子と直江の関係をいち早く察して、また自分は小夜子さんとそういう関係にあるという。」
「つまり自分がそうだからさ、直江のことも判るんだろうね。しかしこのドラマのストーリーは、いろんな場所に『勝手に入ってくるキャラ』で進行していくよなー。院長も小夜子に注意はしてるけどもさ、普通まともなOLだったらノックは習慣になってるでしょう。」
「ええ、なってると思いますね。ノックもなしに客先のドアをあける、っていうのはまずないですね。非常識です。」

「だよなー。だってここでいきなりドアあけたらさ、中で院長と直江が抱き合ってたらどうすんのよねぇ。」
「ありえませんって。全然違うドラマですよそれじゃ(笑)」
「だけどそしたら怒るだろうなー小夜子。院長も直江も、自分がちゃっかりタラしこんでるつもりの相手なのに、実はその2人が…なんてことになったら。」
「なりませんってば。だってこれ日曜劇場枠ですよ?」
「そっか。キバツすぎる設定はタブーか。」
「ええ。家族そろって見られるドラマじゃないと駄目です。」
「…あたしゃ家族と見たかぁないな、これ。親だろうときょうだいだろうと誰かがいたんじゃ、直江にへろへろ〜っとなってなんか見らんないじゃん。ヤだよそんなの。途中でツボはずれの感想なんか言われるとメッチャ腹立つもん。」
「ああ確かにそれはありますね。本当に見たい映画とかは、僕も一人で行きますよ。」
「だっしょー! うるさいんだよね自分以外の全てがね。まぁこれって最悪の我儘みたいな気もするけどさ。」

「まぁあんまり友達は増えないタイプですよね。…で、直江が出ていったあとの院長なんですけど、さもオヤジ〜!って感じのこの笑顔は判りやすかったです。あのあと小夜子と2人きりになって、何が起こったのかは容易に想像つきますし。」
「そのへんは直江も気を利かせて、すぐに場を外した感じじゃん。それはつまり直江が小夜子のことを何とも思っていない、利用するだけの女としか捉えてない証拠だよね。わずかでも心の向く相手なら、多少なりとも感情の動きがあるはずだからね。」


■ナースセンター■

「繭子にコキ使われまくる倫子と、それを目撃する小橋先生、のシーンですね。同僚に災難だと同情されるほどのコールを、特別室に受けてるのか倫子は。」
「確かに私でもキレるだろうね。睡眠薬でも飲ませて寝かしちゃうって訳にはいかないのかなぁ。」
「いや、あれだけの怪我だったら普通は、薬が効いて昼間でもうつらうつらしてますよ、多分。」
「そっか。繭子は神経が尖っちゃってるんだね。」


■エレベータ内■

「シーン自体は短いけど、最初の太陽の映像が印象的。雲の下に半分だけ見えてるの。燃やそうとして燃やしきれない三樹子の気持ちを象徴してるのかな。」
「つくづく素っ気ない男ですよね直江も。今夜当直なのは仕方ないにしても、『明日は都合が悪い』。三樹子が乗って来たことからして、うっとおしいんでしょうね。」
「でもねぇ、こうされると逆に女は離れられないんだよねー。求められていないのは直感的に判るんだけども、かといって徹底的な拒絶はされない。話し合えば何かしか、解決策がありそうな空気。これには女は狂うね。狂わされるね。だからとんでもなく残酷な男よ、直江っていうのは。」


■医局■

「直江の戻りを待ってる小橋。専門誌をバサっと閉じるその閉じ方がカッコよかったわ。さも『文句を言うために待っていた』って風情でね。」
「『画像診断』て雑誌でしたね。最先端の医療技術の専門誌なんでしょうか。」
「実際にある雑誌なのか、それとも美術さんが作ったのかな。裏表紙はスポンサーさんの広告になってたね。」
「医療機器の精密機械も作ってますからねスポンサーさんは。」

「でもってこのシーンでもさ、例によって”部屋に勝手に入ってくるキャラ”が大活躍なのね。ッたく自分ちじゃないんだからよぅ、入ってくんじゃねーよ次郎。てゆーか気づけよ小橋も。」
「いや小橋はちょっと興奮しちゃってましたから無理でしょう。背後に気を配ってる余裕はありませんよ。」
「熱い男だからねー。『誰もが君のように強いとは限らない』ってさぁ、いきなり直江を『君』呼ばわりかい!ってちょっとびっくりした(笑) まぁ熱血キャラの場合、相手を呼ぶ呼び方が『君』なのはもぉ定例だからな。」
「そういえばそうですね。」
「言われた直江はスッと目を閉じる。君のように強い、なんて言葉は的外れなんであって、直江は自分の弱さを誰より承知してるんだろうね。」
「でも背中を向けられているから小橋には直江の表情が見えない。すなわち本心も見えないということですか。」
「だろうね。直江の顔の横にちょうど夕日がきて、白い逆光になるのがよかったなー。」


■ロビー〜病院の外■

「こういう誰もいないロビーって不気味だよね。椅子とかがいっぱいあるとさ、誰かいそうな気もするし。」
「外の雪は本物でしょうねこれね。時期的にも降った頃じゃないですか?」
「寒そうだよねぇ。あんな薄着で出てって大丈夫か?次郎。」
「次郎が見上げる視線の先の窓は特別室、なんでしょうねぇ。でも特別室だったらもっと奥の方にありそうな気もしますけど。」
「たまたまこういう造りなんだよ、行田病院は。」


■医局■

「あー、またこのレントゲン写真〜! ナンか駄目なんだよね私。直視できなくて。聞いてみたら総長もそうだって言ってた。」
「え、直視できないんですか? 総長も?」
「いやハッキリ直視できないとは言ってなかったけど、平然とはしてられないって…。」
「じゃあ2人とも骨盤フェチってことでいいですね。」
「やだなーそれ。ほとんどヘンタイじゃんか。理科の実験室にぶら下がってる、模型の人骨見てぐねぐねしそう。」
「立派な変態ですよそれ(笑) ガイコツ前にぐねぐねされたら、僕、友達やめますからね。」
「大丈夫大丈夫。人骨模型なんてそうそう目にするもんじゃない。」
「ショッカーのあの蛍光シルバーの骨は大丈夫なんですか?」
「決まっとるがな! ショッカー見てぐねぐねしてどーするよ!」
「安心しました。…で、このシーンなんですけどね。」

「ああそうそう、これまた総長と盛り上がりメールの巻だったよここは。素足の足首を直江先生に触られたら、これはちょっとヤバいだろうと。」
「ああねぇ(笑) なるほどね(笑) …そのへんで止めといて下さいね。メールじゃないんですから。どこの誰が見ているか判らない、HPなんですから一応。」
「判ってるっちゅうの。しかしあの蛇口からポタポタたれてる水滴がさぁ。なんか使ったあとのシャワーみたいで、妙にキモチに残ってねぇ。どきどき。」
「それはちょっと深読みじゃないですか? あれは単に時間の経過を示しているだけでしょう。」
「だと思いつつ盛り上がったのよっ。オトナのオンナは深読みするのっ。」


■ロビー〜ナースセンター■

「記者につきまとわれて嬉しそうな柴田2号。現実はこうやってペラッとしゃべっちゃう関係者って多いんだろうねー。」
「でしょうねぇ。そのへんは記者も心得ていて、うまいもんなんですよきっと。」
「しゃべる方はさぁ。微々たる謝礼が欲しいっていうよりも、自分はスゴイこと知ってるんだぞっていう優越感を、さらにくすぐられたくてしゃべるんだろうね。自分しか知らないことをコッソリ教えたげると、へーっ!て驚くじゃんか相手が。その気分が味わいたくてしゃべるんだよね。」

「でもさすが婦長ですよ。きっぱりと出ていけと言ってますから。」
「おかげでマネージャーさんも記者たちに目撃されずにフロアを通れたってことねー。一方の倫子は花なんか用意して優しいったらないわ。高木さんも感心してるじゃん。」
「黄色いフリージアか。香りがいいんですよね。すごく爽やかな匂いですから、病院のお見舞いにフリージアっていいと思いますよ僕。」
「ほっほー、さすがは八重垣! 花の香りまで押さえてるかぃ!」
「いやフリージアくらい判るでしょう誰だって。花屋さんに行けば必ずある花じゃないですか。」
「うんにゃ判らない奴は判らない。グラジオラス知らない奴もいたからな。」


■繭子の病室■

「ここでの繭子は迫力あったねぇ。甲高い悲鳴よりもドスの聞いた声の方が、何ていうかなこぅ…必死感があるよなー。」
「鎮痛剤はカットされてるんですよね、この時。だったら相当痛いはずなのに服着て立ってるんだから、繭子も並みの精神力じゃありませんよね。」
「死に物狂いってやつだよね。でも倫子と争って大声出したせいで、傷がちょっと開いたのかな? それをまた壁ぎわに立ってじっと見ていた直江がすごい。」
「直江が来たのは途中からでしょうからね。争う声か何かが聞こえたんでしょうけれども、ここで倫子に持ってくるものを指示する表情は、これはもう完全に医者のものですね。」
「うんうんそうそう。”直江先生”の表情ね。『早く!』って言って顎をクイッとやるのがよかったわぁ。」


■石倉の病室■

「石倉さん系のシーンは、いっつも雰囲気いいよなぁ…。このドラマのメインを締めるエピソードになるだけのことはあるよね。」
「『何があったか知らないけど元気出しなよ』って言う石倉は、倫子が何も言わなくても、彼女の沈んだ様子に気がついたんでしょうね。」
「そうだね。そこが苦労人の特徴よ。人の心…特に悲しみに敏感になるんだ。」
「でも、『何があったんだ?』とは聞かないのが、石倉の優しさであり苦労人なところですよね。不用意に人の心に踏み込んではこないというか。」
「言えてるねー。石倉は知ってるんだよね。人間、苦労とか悲しみとかというものは、自分独りで背負うしかないんだってことを。誰かを助けるとか支えるとかって、言葉で言うのは立派で綺麗なんだけど、実際にはそんなの無理なことでしょお。そんな、誰かを助けようだなんておこがましい。それは神様にしかできないことなんだよね。」

「もう少し先に出てくるあの名台詞――直江先生は頑張れとは言わないんだ、っていうのもそうですね。頑張れだの助けてあげるだの力になるだのっていうのは、ある種の自己満足なのかも知れませんね。」
「だよねぇ。『何があったか知らないけど元気出しなよ』…こんな優しい言葉はないよ。あんたを助けてやることなんか俺にも誰にもできないけど、って響きが裏側にある。」
「最後に2人が交わす敬礼もいいですよね。患者とか看護婦とかを越えた、まぁ平凡な言い方ですけれども人間同士の心の会話って感じで。」


■川原■

「直江と倫子の心がさらに近づいていくさまを、この回のラストで描いたって感じですねここは。互いに悲しみとやるせなさを抱え、癒されるためにやってきた川原という場所で”出会う”…。これはやはり特別なことですからね。」
「近づいてくる足音を耳にして倫子が振り返るところ、映像が一瞬スローモーションになってるじゃん。あれはつまり物理的に会っただけじゃなく、川原という場所をいうなれば2人の”心”が訪れている? そんな意味を持たせたかったんじゃないのかな。」

「何もできない自分が悔しい、って泣く倫子に、直江は何も言わずにごろっと仰向けになってみせるじゃないですか。まるで『空を見てみろ』と言わんばかりに。倫子はちゃんとそれに気づいて、直江の視線を追いかけるように空を見る。青と金に彩られた大きな空が広がっていて、倫子もまた直江のそばにぱたんと仰向けになる。この距離がそのまま今の2人の距離なんですね。やっと、ここまで近づいたんだな。」
「綺麗な空だよね。油絵みたいでさ。BGMも透明感のあるストリングスで、そこにかぶさる川の音もいい。直江の表情は珍しく満ち足りた感じで、泣いていたはずの倫子も笑顔になってる。直江の心をこんな風に解き放ってくれるのは川だけだったのに、いつの間にか倫子が近くにきてるって訳ね。」

「この2人の位置関係、もう少しで腕枕っていう位置ですもんね。」
「そーなんだよなー。…チキショー、ムカつく(笑)」
「智子さんがムカついてどうするんです。意味ないじゃないですかそんな(笑)」
「うるせーわい。…とまぁなかなか心情描写も見事なこのシーンなんだけど、そのあと倫子が貧血で倒れるという実に昔の少女漫画な流れには、若干『うっ』となったのは否めない。うっわ、ありがちー!みたいな。」
「でもそこで、即、倫子の首に指を当てて脈をみる直江はやっぱり医者ですね。」
「ヒトの携帯に出てヒト宛ての用件聞いて、んでピッて切っちゃうというのはカナリ身勝手だけどな(笑) まぁディスプレイのところに『行田病院』て出てなきゃ無視したんだろうけど。つーかこれ、かけてきたのは高木さんだよね多分。倫子の携帯にかける前にさ、主治医の直江を呼べつーの。」
「川原に行く時は呼び出し切ってるんじゃないですか? 直江は。」
「ああね、そういう説明はつくわな。なるほど。」

「僕が気になったのはこのスクーターです。このあいだの転倒事故といい、けっこう置いていかれるスクーターですよね。」
「確かだねそれ(笑) まさかこれ、このあと直江がスクーター取りに来たとは思えないしね。これがもしウチのポルシェだったら、黙って土手なんぞに置いていかれはしないぞ。勝手についてくるかも知んない。」
「根性ありますからね智子さんのポルシェは。滅多なことをしたら噛みつかれそうな気がしますよ。」
「いや噛まない噛まない。後ろから突き飛ばすくらいはするかも知んないけど。」

「どういう自転車ですか(笑) ―――はい、えーとですね、最後はポルシェネタになってしまったんですけれども、第3回のシーンは以上ですね。今回はどちらかと言うとストーリーの方に動きがあって、さらっとした感じの回だったんじゃないかと思うんですけれども、次回は繭子の件の決着と、それ以降は石倉をめぐるエピソードがクローズアップされていって、ドラマはいよいよ佳境にさしかかりますね。」
「全10回ってさ。長いようでいて見てる時は短いじゃん。でもさ、こうやって全体の構成とかを眺めてみると、やっぱそれなりボリュームはあるもんなんだなと思うね。1クールを作り上げるのは、大変なことなんだよなぁ。」
「そうですね。ロンブル・ブランシュもあと7回で、まだまだ折り返し地点には至っていませんけれども、時間とともに飽きるというタイプのサイトにはなりたくありませんので、焦らず慌てず、でもダラダラとはせずに、進めていきたいと思いますね。はい。」

「…あのー、八重垣センセイ。ちょっとソレを言っちゃうと、たっしょージブンの首絞めるような気もすんだよなアタシ(笑) 『世にも奇妙〜』はどうしたんだ!って突っ込まれそうで。」
「いやそれは大丈夫ですよ。今はこのロンブル・ブランシュを優先させるだけで、何とか時間を作って完成させるって言質取ってありますから、僕。」
「そっか。言質取られてんだねアタシ。じゃあいいや、言っちゃおう。えー…ワタクシ木村智子、けっこう飽きっぽくは”ない”性格をしておりますので、少々時間を費やそうとも、このロンブル・ブランシュはきっちり語り尽くそうと思っております。気長におつきあい頂けたら幸いです。はっ。」
「あ、そうだ。そういえば忘れてました。」
「なに。まだ何かあるの?」
「…あのバレーボールってどうなったんですか?」
「う”っ! その傷に触れるかヤエガキっ! 卑怯者薄情者馬鹿者裏切者〜! それでは皆様次回までご機嫌よぉー! パーソナリティーは私、木村智子と、意地悪八重垣くんでしたぁー! バイバーイ!」

「―――ほんとに走って逃げていっちゃいましたよ(笑) ねぇ。ああいう人ですから、よく判んないんですけれども、『世にも奇妙な物語』の座談会についてはですね、僕が責任持って仕上げさせますので、えー、とりあえずはご期待下さい。はい。それでは改めてご挨拶。次回まで皆様お元気で、ご機嫌よう。第2秘書の、八重垣悟でした。」



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