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【 第3回 】
「はい、えー皆様お元気でしたでしょうか八重垣悟です。今回はですね、皆様から頂きましたお便りの一部を、最初にご紹介させて頂きたいと思います。はい。
『八重垣くんこんにちは。いつも楽しい座談会をありがとうございます。』
いえいえこちらこそありがとうございます。
『この間、キャラ立ちが悪いなんて話をしていましたけどとんでもありません。私は八重垣くんの大ファンで、八重垣くんのことはよく知っています。綾戸智絵さんのピアノを聴いた時も、八重垣くんだったらどんな編曲で弾いてくれるのかなぁと思っていました。今度また是非、ピアノを聴かせて下さい。ジャズもいいけど、八重垣くんのショパンが聴いてみたいです。』
ありがとうございます。そう言って頂けるとすごく光栄です。ピアノはまぁ最近全然やってないんで、腕が落ちちゃってると思うんですけれども、一応学生時代はね、チャイコの1番はもたつきながらも弾けた僕ですんで、また練習すればそんなに…ねぇ。聴くに耐えない音ではないんじゃないかと自負しているんですけれども。はい。いつか皆さんにご披露できればと思います。
では次のお便りです。『大好きな八重垣くんへ―――』」
「こらこらこらこらっ! ちょっと待ったヤエガキっ! いつからこのコーナーはストップザ八重垣になったの!」
「なんだもう出て来たんですか? 昔のコントみたいな登場のしかたですね。見て下さいよほら、こんなにメールを頂いたんですよ。差し入れのお菓子やフルーツもほら。あっちは全部僕宛ての花束…」
「けーっ! なんでこんな高級洋菓子ナポレオンパイまで来てんのよ! すっげ美味しいんだよこれ! あとで茶菓子にするからねっ!」
「駄目ですよ僕がもらったんですから。智子さんはそっちの甘栗太郎でもほじってて下さい。ね。じゃあハガキはあとにして早速始めましょうか。今回は第3回、幾つか山場がありますからね。さくさくさくさくいかないと。」
「へっ。いいもんね。アタシは大人しく甘栗太郎ほじってるからよ。アンタ勝手に進めれば? ッとにこの薄皮がひっつくのがメンド臭いんだよな甘栗は…。ピーナッツにはこれがないのが楽でいい。千葉県名産は何かにつけて射程距離が長いよな。東京ディズニーランドつったってありゃ千葉県にあるんだからよ。」
「じゃあこの人は放っときましてですね、えー『L’ombre blanche』SP編第3回は、真琴と直江の語らいのシーンからです。どうぞ。」
「駄目だどうしてもむけない。…むいて、八重垣。」
「はいあとにして下さいあとに。もうVTR回ってますよ!」
■ 土手 〜 病室 ■
「直江が歩いている雪道の土手は、これって春は桜並木になるのかも知れないね。ちょうど熊谷市内の荒川の土手みたいに。満開になると綺麗なんだあそこ。」
「桜…かどうかは定かではありませんけれども、こういうシーンからインする意図は、時間の経過を強調するためなんでしょうね。手術の日からすでに10日がたっていて、真琴の体は衰弱が始まっているんですね。」
「バイオリンが奏でているのは、嘆きのメロディーとでも名付けたいあの旋律。今や直江はもうとにかく、費やせる限りの時間を費やして真琴に接してやるんだね。」
「病室には千羽鶴も見えますけれども、あれはきっとクラスメートかチームメイトがお見舞いに持ってきてくれたんでしょうね。いつかパス回ししていた女の子たちとは、同じ高校に進んだのかも知れませんよ。全員が高校1年ですから、まだ受験とも縁遠いはずです。」
「そうだね。クラブ活動なんかには一番熱中できる時期だ。なのに真琴は死を待つベッドの上。直江には話を聞いてやることしか出来なかったってことだね。で、手術前に真琴の言った内緒のお願いというのが何だったかが、ここで直江と視聴者に明かされる。頑張ったご褒美にキスしてだなんて、まんまなことを思ったもんだ真琴も。」
「あれ、まんまなんですか?(笑) 僕からすれば可愛いお願いですし、ちょっとドキっとしますけれども。」
「いやー女ならだいたい思うだろう平凡なお願いだね。つーかオトナの女の場合はだな…」
「シャラップ。その先は聞かなくても判ります。」
「おやそう貝? 勘違いや思い込みってこともありうるよ? 念のため聞きたくない?」
「いやいいです。この場合勘違いはあり得ません。総長もキタヒロのヅマヒトも江東区のヅマヒトも、神奈川支部長も同じ意見だろうと確信できます。」
「あっそ。じゃ多分それってことで、ここでのポイントはさ、真琴の視界にあって直江はいつも、位置的に逆光だったってことじゃないかな。光をしょった大天使じゃないけども、常に光の中にあって希望の象徴だったというか。」
「ああ、位置関係はそうなりますね。直江の背後は壁ではなくて窓でした。雪を透かす白いレースのカーテンがかかった…。」
「んね。そうだよね。この病室のシーンってさ、直江の表情は見えづらくなるギリギリくらいの影になってるんだけど、それはまぁ映像的な美の演出でもあると同時に、直江に光をしょわせたかったのかなーと思った。」
「本編の石倉さんのベッドは、頭を壁につけてこう横長に部屋の中央に置いてありましたからね。直江は窓側にも壁側にも立つことができたんですけれども、真琴のベッドは壁ぎわに寄せてありますから、窓側に座るしかない訳ですね。」
「ここで私ちょっと思い出したのがさ、直江のね、『キスはちゃんと好きな人のためにとっておきなさい』ってセリフとよく似た、ポルコ・ロッソのセリフね。」
「『紅の豚』ですか。好きですねー智子さん!」
「あの映画の中でも、ラストの別れのシーンにフィオはポルコにキスするんだけど、真琴は明らかに、好きな相手が直江だからこそキスしてって言いたかったのにね。やんわりと直江に否定されてふくれる真琴は可愛いや。」
「でもこれは直江にすれば、まぁ医者…というか大人の男としては、当然の答え方ですよね。まさかハイそうですかってキスする訳にいかないでしょう。」
「そらそーだよ、ウチの第1秘書じゃあるまいしな。てゆーか直江もでくの棒じゃあるまいし、真琴の気持ちは薄々感じとっている。でも、真琴のその気持ちは恋愛というよりは一時の感傷というか、主に”不安”のなせる技だと直江は理解したんだろうね。もちろん、一時の感傷だというのは事実かも知れないよ。これで真琴が本当に元気になって退院していけば、クラスメートや先輩や、身近な同世代の中に気になる異性を見つけてさ、その人と現実的な恋に落ちたかも知れないんだし。」
「そうですね。退院していればその可能性の方が高いんだと思います。直江への思いは初雪のように淡い、なつかしい思い出になっていったんじゃないでしょうか。」
「ところが真琴はもう退院なんてできない。その分、直江への思いも研ぎ澄まされていくんだね。やはり人間の考えや行動は、置かれた環境によって変わるもの。真実とは絶対的なもんじゃない。相対的なものなんだね。」
「この時点では真琴はまだ、自分は元気になれると信じている訳ですから、好きだという気持ちを判ってくれない直江の言葉にちょっとふくれはしても、『そうだね、あたし元気になるんだもんね』とすぐに同意しているんですね。」
「そうそう。直江先生は優しくしてくれるけど、あたしはただの妹みたいなもんなんだろうな、って納得したんだと思うよ。んで直江はここで、回診があるからと言って病室を出ていくんだけどさ、最初に椅子からスッと完全に立ち上がっておいて、それから歩き出してるでしょ。中居さんは”見せ方”を考えて、きっちり演技してるなぁと思った。普通一般の人間ってこんな綺麗な動きしないもんね。立つと同時に足も出るだろ。」
「そのへんは演劇のテクニックですからね。いくらリアリティを出しながらも、役者の動きは日常とは違うんです。」
「中居さんの動き、綺麗だよね。でも演技というならここでは直江も、まさに”演技”してる訳で、病室のドアを後ろ手に閉めたあと大きく溜息をつくのは、その演技を終えたとたん緊張を解かれ、罪悪感に縛られる直江の姿だよね。」
「そしてまたひとりになった真琴は胸の上のボールを投げようとして、左手が動かないことに気づきます。足と同じように、手までしびれてきたのかも知れませんね。」
「こういう時に人間は、悲しいほど正確に第六感が働くからね。おかしい、この症状は普通じゃない、と真琴が最初に気づいた瞬間だったんだね。」
■ 病院正面 ■
「ここは主として時間経過のシーンかな。それから真琴の今の病状を、鉄平・玲子・関の会話によって視聴者に知らせる意味もある。」
「そこに病室での真琴の様子がオーバーラップしますから、このあと真琴が起こす事件への、期待…といったら語弊がありますけれども、視聴者としてはやはり、こりゃあ何かありそうだなっていう気分にはなりますよね。効果的イントロダクションです。」
「真琴の病状はかなり厳しくて、解熱剤使っても熱が下がりにくくなってるのか。どんな病気も若ければ若いほど進行が早いだろうからね。…なんて話をしつつ飲みに行くこの3人。このあたりがプロの医者だな。」
「でも直江はやはり真琴の様子を見てから合流すると言ったんでしょうね。いや本当は飲みになんて行きたくなかったんじゃないですか? 逆に先輩たちが、少しは気分転換しろと直江を誘い出したのかも。」
「ああ、そうかも知んないねー。ベテラン勢から見れば、直江はもう責任感と使命感でガタガチになっちゃってるのかも知れない。そういうのが先輩たちには判るんだよね。経験から来る余裕ってやつ。また玲子は同性のカンみたいなもんで、真琴の気持ちもよく判ってるんだ。」
「3人が歩いていったあと、無人になった庭の雪がキラキラしているのが綺麗でしたね。」
■ 病室 〜 庭 ■
「さてここはまた山場というべき重要なシーン。衰弱した体で車椅子に這い上がろうとしていた真琴を、止めようとして止められずに直江は夜のコートに連れていってやる。『真琴は戦っていた』云々というここでのナレーションは、これは珍しく邪魔じゃなかったかな。直江自身の心情描写じゃないからだよね。ダブってないから。」
「ええ。これはナレーションというより、純粋な独白ですよ。あっていいと思います。」
「ぼやっとオレンジのライトを受けた雪の固まりからカメラが左へパンすると、向こうから車椅子がやってくる。2人を真上高くから見下ろすアングルに切り替わってクレーンダウン。2人の後ろをカメラは追い、直江の横顔がフレームイン。聳えるコートを直江は見上げ、そのまま見下ろしたところで真琴のボールが映る…。短いカットの連続だけど、いったいカメラ何台使って撮ってるんだろうと思うよね。気合入ったロケだよなぁ。」
「すごい人数のクルーなんでしょうね。照明さんに音響さんに、アシスタントもいる訳ですから。」
「熱気で雪も溶けそうなもんだけど、それをはるかに上回るドー国の寒さだったんだろうね。んでゴールに向かってボールを構えようとする真琴の手は、もう自由には動かなくなってるんだね。動かせるのは肘から先だけなのかな。肩は無理みたいだもんね。」
「手術前の同じ場面では、直江に手を添えてもらうだけで真琴はシュートが打てたんですけれども、今はとても届かない。そこで直江は真琴の体を、ゴール近くまで抱き上げてやる。真琴は唯一、まだ自由な力の出せる右手だけで、見事シュートを決めるんですね。」
「動かせるのは右手だけか。それでシュートが打てるんだから、真琴ってほんとにバスケ上手かったんだろうね。そういえば最初に入院した時に女の子たちが、真琴がいなかったら試合に勝てないって言ってたっけ。真琴はチームの要であり柱であり、エースだったんだろうな。県大会・全国大会、ヘタすりゃ全日本も夢じゃなかったのかも知れない…。そう考えるとこのシーンはいっそう切なさを増すね。」
「確かにそれもそうですけれども、このシュートは真琴の”心”によってゴールに届いたのかも知れませんよ。普通ならもはや、球技のボールの中では多分いちばん重いバスケットボールを、持ちあげることすら難しい病状なのかも知れないのに、真琴の気持ちに直江の祈りが加わって、この重たいボールを投げさせたのかも。」
「…なんかあたしよりあんたの方がロマンチックな解釈すんね。」
「智子さんはとことん現実派なんですよ。まぁこれも個性でしょう。」
「ちょっと前のコマーシャルで聞いたようなセリフだな。そういやクォーク君はあれからどうしたろう…なんて話に流れないように注意して、あたしゃ思ったんだけどねヤエガキ。」
「何ですか。」
「この時の直江は真琴に対して、真摯に、人間として本気で、向かい合っていたんだろうね。そりゃ直江の中にはさ、嘘をついているっていう拭えぬ意識はあるとしても、真琴が何を求め何を必死に掴もうとしているのかをちゃんと理解して、直江は全身全霊でそれを助けてやっている。こんなん倫子にもしなかったぜぇ? 倫子の意志や人間的な強さってものを、直江は認めていなかった。てゆーか直江が本当に向かい合える相手って、ひょっとしたら患者だけなのかも知れないね。恋人でも友人でも親でも姉弟でもなく、直江にとって第一義の存在は、患者なんだ。そうかぁ、案外このあたりが『白い影』の本質かなぁ? TVだから恋愛の要素を強めてあったけど、元来、恋愛ドラマじゃないんだよね。直江のことは恋愛ドラマの主人公として見ちゃいけないのかも知れない。」
「何だか、このシーンでずいぶん深いことに気づきましたね(笑)」
「ほんとだねー。大変だの重たいの眠いのってゆって、やっぱこの座談会をやることで一番実りがあるのは、書いてる私自身なんだろうなー。愚痴ってないで感謝しなきゃいけないねぇ。感謝感謝。」
「僕にですか?」
「いやアンタじゃない。ビジター様たちにだよ。なんであんたに感謝せなならんの。甘栗むけた?」
「どうしてそこまで話を巻き戻すんですか。甘栗はあとあと! えーっとそれで、確かにこのシーンでの直江と真琴は、男女の恋愛がどうのこうのとはまた違った意味あいで、人間的に愛し合っているという感じですね。」
「”エロス”のニュアンスの入らない、精神的共鳴の方だな。『あったかい…』ってゆって真琴が直江に抱きしめられるのも、男と女の意識が全くないとは言わないけど、もう少しこう…中性洗剤? 男女のラブシーンとはコンセプトが違うよね。」
「中性洗剤って(笑) どうして何かしら笑いを入れたがるんですか。」
「いやいや真面目で感動的なシーンだからこそ、一方で冷静さを失ってはいけないと思って。いやーしかし違った陶酔のしかたをすればだね、この真琴がしてもらっているいわゆる『お姫様抱っこ』というヤツは、これまた実際の話、格別の密着感があるからねー。特別なんだよなこれ、女にとっては。不思議と世界に2人きりみたいな気分になるの。あんたは経験ある? 八重垣。」
「え? そりゃまぁ…僕だって、ねぇ。してあげると女の子は喜びますから…」
「ちゃうちゃうちゃうちゃう、される方。お姫様抱っこ、された経験あるかって聞いてんの。子供の頃とかじゃないよ。ちゃんと声変わりしてから。」
「………んー… ありま…す、か、ねぇ。一応。」
「えっ!! 誰にっ! まさか第1秘書とかかっ!? そーちょー! そーちょぉー! 高見澤ー! これまたゆゆしき事態がぁー!」
「はい、その話はここではよしましょう。言っときますけど、あくまでもネタですからねネタ。で…このシーンについては他に何かありますか?」
「うーんとねぇ、このシーンの締めくくり方はすごくよかったと思うね。何とか落ち着きを取り戻した真琴を抱いて、直江は病室に戻っていく。『でも嘘をつかなければ…』という独白の部分から映像はスローモーションになって、最後は2人の輪郭だけが青く光り、暗転。じつにこのドラマらしい映像美だった。」
「凝った映像を撮るスタッフですからねぇ。映像だけで雄弁に心情を物語りますから。TVドラマゆえに70点を求めて、ナレーションなんか添えられちゃっていますけれども。」
「あとさー。これだけはどうしても言わずにいられないのが、雪の中に置きざられた車椅子のキモチね。不安だったろうなぁ、このまま自分は凍ってしまうんじゃなかろうかと。」
「またそれですか。本編の倫子のスクーターと同じ視点ですね。」
「ああそうともよ。大変だぜぇだって、こんなとこに夜っぴいて放っとかれたらぁ。ドー国の冬は炎も凍る。いわんや車椅子をや、だよ。」
「だったらあれなんじゃないですか。真琴を病室に連れていったあと、律義に直江が取りにきたんじゃないですか。」
「ああそうだねきっとね。そういうシーンを、カメラは映さなかったんだ。」
「まぁ映さないでしょうね。備品管理マニュアルのビデオじゃないんですから。」
■ 中庭 ■
「三日後の中庭。こんもり積もった雪の中であんな姿勢でボール探ししたんじゃあ、そりゃあ腰も痛くなるよ直江。織田っちだって『ホワイトアウト』のせいで腰を痛めたんだと、当時はもっぱらの噂だった。」
「腰痛は人類の宿命だといいますけれどね。それにしてもすごい雪ですね。バスケットボールが埋まっちゃうんですから。あのあと3日間降り続いたんでしょうか。」
「いやー3日降ったらもっと積もるだろ。そうじゃなく断続的に降り続いて、その間の真琴は薬のせいでうつらうつらしてたのかもよ。あと1週間もつかどうかだっていうんなら、もうそうなっててもおかしくない。」
「あと1週間ですか…。おそろしい時間ですね…。」
「ほんとだよねぇ。もし自分の寿命があと1週間だって言われたら、そん時はあんたどうする?」
「そうですねぇ…。友達とか、昔の先生とか、会いたい人全部に会いますかねぇ。智子さんはどうです?」
「あたしゃ多分、『三つの太陽』の第2部仕上げる(笑) いや冗談じゃなくてだよ。1週間くらいは有給あるから会社には行かなくていいだろうし、となれば1日20時間ばかりプロフィット握ってれば書き上がると思うんだ。ただ第3部はどうかなぁ…(笑) でもそういう時の人間ってさ、すごい名作書けるんだろうね。文字通り命削って書く訳じゃんか。そうなったら広(ひろむ)には、素晴らしいシギリージャ踊ってもらえると思うよ。」
「…あの、ちょっと待って下さい? それはまさか、あと1週間の命にならないと続きは書けないって意味じゃないですよね?」
「ちゃうわいバカ(笑) 当分死にたくねーよ。しかしここで直江が痛がるのは左腰なんだよね。今までは右だったんだがな。要するに反対側にも痛みが…つまり患部が広がったってことか。」
「そういうことだと思いますよ。最初よりは2度めが、そしてそれより今回が、痛みの強さも長さも増している訳じゃないですか。薬を飲もうと何をしようと、症状が全く改善されずにどんどん悪くなるのが悪性の病気の特徴だそうですから。」
「ああ、そうなんだってね。市販の薬で治まる程度の痛みじゃないんだっていうね。せいぜい風邪程度なら竹下景子さんに治してもらえるんだろうけど、インフルエンザは病院行かなきゃ無理だもんなーそういえば。」
「ちょっとMMに比較するには軽すぎる気もしますけれども…要はそういうことですね。」
「んで雪の中から直江が見つけたボールは、ちょっと前のビストロに出てきたデザートの器みたいだったね。ほらあの真ん丸い氷の器。」
「そういえばありましたね、そんなような器が。大きさも何だか近いような。」
「誰の回だっけかなぁ…。スマスマって感想レポやってないんで忘れるんだ(笑) HPには備忘録の意味もあるんだな。」
■ 病室 ■
「さぁそしてここが、直江と真琴、最後の語らいの場になる訳ですけれども、何か最初に言いたいことがあるんですか?」
「あるっ。このシーンではとにかくこれを言いたい。すなわーち! どーせ真琴にキスすんなら起きてる時にしてやれ直江!! 寝てる間にしてどーすんねん! オメーはどうしてそういう自己満足かつ自己完結の世界に生きとるんじゃあー! …とリアルタイムでオンエアを見た瞬間に、私は叫びましたね。だいたいどのシーンの感想もこの座談会に至るまでには若干整理されるもんなんだけど、この叫びだけは2003年1月2日以来変わってない。もしか私が直江のおネーちゃんだったら、ちょっと庸介そこ座んなさいって座らせて、コンコンと言って聞かせたい気分だったね。」
「言い聞かせるんですか(笑) コンコンと(笑)」
「そー! 真琴だろうと総長だろうとカトウさんチのヅマヒトだろうと、寝てる間に何されたって嬉しかないよ。喜ぶのはカメラさんくらいだよ。ちゃんと意識のある時にそれなりの段取りを踏んでだ。ねー? キスなり何なり、して頂きたいと。こう思う訳だよワレワレは! あんただってどうなの八重垣。もしかセイラさんにキスしてもらうとして、寝てる間の出来事だっちゃあ寂しくねーか?」
「そりゃまぁ、せっかくのことですからねぇ…(笑) できれば意識が鮮明な時に、最高の感度で感じさせてほしいと思いますけれども(笑)」
「なに赤くなってんだコイツ(笑) ほんとにセイラさん好きなんだぜぇ。アムロになりたい? それともシャア? このさい意表をついてカイ・シデンとか?」
「まぁ、やっぱり男性キャラならシャアですよね。」
「キャスバル兄さん!!ってか(笑) ふーん、そっち取るんだぁ。へっへー。ハロハロ、アムロ、ゲンキー?」
「ああもうガンダムネタはいいですよ。話をドラマに戻しましょう。こんな大事なシーンの最初から、違う話してどうするんですか。」
「んな、あんたがセイラさんの話で赤くなるからじゃんかぁー! 人のせいにすんなよー!」
「最初にセイラさんて言い出したの智子さんじゃないですか!」
「そうだっけ?(笑)」
「そうですよ。僕のせいにしないで下さいよ。…そんな、無言で 『なんでだろう』 やってもごまかされませんからね。」
「んじゃこっちだ。『GET’S!!』」
「はいもういい加減に本題に行きましょう。病室の真琴は酸素マスクをつけていて、動くのも指先だけになってしまったんですね。目の下の隈が痛々しいです。」
「直江は真琴の脈をとってやってるけど、2人の間にボールがあるのがなんかいいよね。思い出の共有みたいな感じ。この段階では真琴はもう、自分の死期は悟ってるんだろうね。」
「おそらくそうだと思いますよ。いや…死期がどうのというよりは、直江しか見ていないのかも知れませんね。嘘とか、恐怖とか、そういうごちゃごちゃしたものを真琴の心は突き抜けて、ただ一筋に直江を見ている。直江が真琴の全宇宙になっているんじゃないでしょうか。」
「なるほどねー。こと真琴の気持ちについては、あんたの解釈の方が綺麗かも知んないね。私が思い出したのはあれだもん。松尾芭蕉の最晩年の句。」
「どこまで話飛ばすんですか。最晩年というと、『旅に病んで夢は荒野をかけめぐる』ですか?」
「ちゃうのちゃうのそれじゃないの。『清滝や波に散り込む青松葉』。一般的に芭蕉は、世の中や句作に対して未練を残しながら死んだと思われてるんだけど、本当はもっと人生を達観した澄みきった心で、去っていったんだって説。」
「あのですねぇ。芭蕉って幾つで死んだんですか。おじいさんでしょう? 16歳の真琴とじいさんを同じレベルで考える人がどこにいるんですか。」
「そっか。そりゃそうだよね。じゃあ芭蕉翁には引っ込んで頂いて、真琴が直江に語る夢について。ここのカメラワークってねぇ、気がついたかな、ほとんど動きのない長回しの画面なんだけど、最初はベッドを軽く見下ろす位置にあったカメラがすーっと下に下りたあと、ゆっくりゆっくり2人に近づいて…っていうかアップにしていって、最後が画面いっぱいの直江の微笑みになるんだ。カメラ自身がじーっと息を詰めて2人を見守る視線になってるんだよ。直江は真琴の手のぬくもりを、大事なもののようにこう握ってさ。金色の冬の夕陽に染まったカーテンが綺麗でねぇ。」
「ああ、そうですね。冬の夕陽の色ですね。真っ赤な秋色ではなくて。」
「そうそう。『直江先生より好きな人、見つかるかな』っていう真琴の言葉は、いかに直江が好きかというのを改めて告白するのと同じだよね。
でさ。この次に入ってくる短いシーンあるでしょう。私ねぇ、このSP編丸々2時間のうちで、個人的にこのシーンがダントツ素晴らしい演出だと思う。山の端(は)が逆光になって、クラブ帰りらしい真琴と友達がこっちを振り返って大喜びするシーン。あれはさ、全快して退院できた真琴のところに、直江が尋ねていくっていう幻想でしょ? 望めない、あり得ない、美しすぎる未来幻想。あそこにいるのが過去の真琴でないことは、彼女の着ている制服で判るよね。病室にお見舞いに来てた中学生たちはセーラー服だったもんね。
退院した真琴はバスケを続けながら医大に行く勉強を始め、充実した高校生活を送る。直江は兄のようにまた恋人のように、時々真琴に会いに行く。真琴の友達は直江を見るとやっぱりキャアキャア騒いで、真琴は今しも直江のところへ、はじける笑顔とともに駆け寄って…来るだろうところで画面は病室に戻るというね。本編の第6回に匹敵する映像叙事詩だよ。なんかじ〜んとしたなぁ…。ナレーションはやっぱ邪魔だったけど。」
「その山の端の光というのは、映像が病室に戻ってから直江が廊下を歩いていくシーンを経たあと、すーっと消えていくんですよね。これも象徴的でしたねぇ。また真琴の死は一切具体的に映さずに、川と霧と、太陽を受けたゴールの映像だけにしたのも素晴らしかったと思います。」
「うん。真琴の臨終シーンはなくて正解だろうね。もうやること決まってるもん。定石のお涙頂戴シーンて感じでさぁ、平凡平凡。なくていい。判りやすさを追及するのは大事だけど、ありきたりのシーンを増やすことはないよね。」
「そうですね。あるとしたら母親の涙と友達の涙と、悲しみに耐える直江の映像でしょうからね。くどくなると思います。」
「山の端の映像の前にくるのが、直江の後ろ姿だったのもいいなぁ。虚無感の漂う白衣の背中。森田っちには歩くとき肩が動きすぎるって言われたとか何とかどこかで読んだけど、このシーンの揺れ方はよかったね。また衿にくるんと髪のひとふさがかかってるのがいいんさぁ。思い出すなぁ2000年5月のいいともを。私はあん時、中居さんの背中にヤラれちまったんだからよぅ。」
「その話はともかく、真琴はこうして16歳の命を、病に奪われていった訳ですね。山の端に消えていく冬の夕陽のように。」
「そしてそれが直江の心に、長い影を落とすんだね。おお、なんかうまい暗喩になった。」
■ 真琴のいない病室 ■
「無人のベッドを見下ろす直江。このシーンはバックに入ってくる七瀬先生がいいよね。こうなることは七瀬には判っていたんだ。直江が真琴の担当を続けさせてほしいと言って、それを許可した時からね。治療の甲斐なく患者が死んでいった時、医者がどれだけの無力感にさいなまれるかを、嫌ってほど七瀬は知ってるはずだし。」
「だからこそ、七瀬は直江に声もかけずに黙って行ってしまう訳ですね。直江にとって真琴の死は、耐えなければならない試練なんです。」
「映像的にはここもアップが多いよねぇ。いいわぁ星人としては確かに嬉しいし、ベッドを撫でていく手の映像はよかったけどさ。もうちょっと俯瞰とか鳥観映像とか、いろいろあってもよかった気がするなー。なぁんつって贅沢千万。アップが少なきゃ少ないで、もっとアップにしろー!とか騒いだんだぜうちら。」
「ま、判っていればいいと思います。そしてそんな傷心の直江の元へは、また新たな患者が運ばれてきます。三次外来というのは救急車でやってくる患者なんでしょうかね。直江にとってはショックな、しかし荒療治ともなる患者だったんですね。」
■ 廊下 ■
「救急車で運ばれてきたのは16歳の女子高校生・ツツイユウコ。大腿骨骨折、腹腔内出血か。漢字をこう並べただけでエライこっちゃって字面(じづら)だよね。」
「メインで対応するのは外科医の鉄平ですが、手伝おうとする直江に鉄平は『大丈夫か?』と聞いていますね。直江にとって真琴の死がよほどショックだったろうことは、十分判っている先輩なんですね。」
「んで一方の直江はというと、一度はハイと答えたものの、血まみれの患者が真琴に見えて立ち尽くすという、なかなかナイーブなことになっとるな。ストレッチャー上の真琴の制服は、あの幻想シーンと同じだったけども。」
「16歳ということは真琴と同い年ですからね。直江の動揺は無理もないんじゃないですか。しかし医者である以上、瀕死の患者を前にそんなセンチメンタリズムに浸っている間はありません。鉄平の平手打ちは、諭す気持ちと愛情のこもった強力な『喝』だったんでしょうね。」
「このSP編でさ、直江は2回ひっぱたかれてるんだよね。若者らしくてよろしいな。青春ドラマの匂いがするぜ。今までのドラマでは中居さん、殴られるシーンってけっこうあったと思うよ。」
「本編とは違った、直江の若さを強調したいんでしょうね。またSP編での直江には、叩いてくれる先輩がいたということです。ある意味幸せなことですよ。」
「それは言えてるね。人間、叱られてるうちが花なんだ。それとこのシーンでの先輩後輩の違いはさ、鉄平の白衣は前を止めてないから歩くと裾がパッて翻るのに、直江はぴっちり止めてるってあたりに表現されてるね。男のカッコよさは、『翻ること』が基本なんだってね。ライオンのたてがみとか、月光仮面のマントとか。」
「月光仮面はどうか判りませんけれども、確かにトレンチコートのカッコよさはあの裾の長さでしょうね。」
「ねー。女性のロングドレスとか、打ち掛けなんかもそうかな? 振り袖とかもそう。何かしらヒラヒラさせたいっていうのは、孔雀の尻尾に通じる本能なのかも知れないね。だってボタンインコとかはさ、鳥かごに敷いてある紙をクチバシで細く切って、自分の尾羽にさす習性があるんだよ。人間も大差ないかもね。」
「じゃあ要するにここでの直江は、まだ尾羽をヒラヒラさせる立場ではないということですね。」
「そういうことだね。群れの中のまだ若いオス。ハーレムを持てる立場じゃないんだな。」
■ 処置室 〜 手術室 ■
「鉄平が処置を始めていると、そこへ直江が入ってくる。さっき廊下で鉄平は、ツツイユウコを助ける気があるなら来いと言ったんだから、来た以上は直江もそのつもりでいるということ。また『すいませんでした』と言う直江の目つきに精気が戻っているのも認めて、鉄平はニヤッと笑ったんだね。」
「叱られるよりも叱る方が、人間、不安だったりしますからね。すっかり医者の顔に戻った直江は、しかし次の瞬間瀕死の患者から、思いがけない事実を告げられる。ここから先がサブタイトルにあった、『その物語のはじまりと”命の記憶”』なんでしょうね。」
「しかしなぁ…。私が正直このSPを、中居さんは抜きにして『すごくよかったよ!』と全面的に言えないのは、このツツイユウコのエピソードのせいなんだよなぁ…。まぁこれはもうね、完全に個人的な、私の我儘な嗜好によるもんだからどうしようもないと思うんだけど、私はどうしても、16歳の高校生が妊娠するっていう設定にはアレルギー起こすんだよなぁ…。親にも周囲にも内緒だよね多分。そういうの、なんかすごく嫌だ。」
「うーん…(笑) そりゃあもちろん、褒められた話ではないと思いますけれども、この場合はそこまで重きを置いて考えなくていいんじゃないんですか? ドラマのテーマが違うんですから。」
「そう。まさにその通り。だから悪いとは言わないし、1つのエピソードとして否定はしないけども、私はここで一瞬、視聴者として冷めちゃったんだよなぁ…。
子供ってさぁ。Sexの結論じゃないんだよ。ズッシリと現実に繋がった、何十年もの時間を費やす『人生』を背負った1個の意思でしょう? それを生み出して育てるのは、小説やゲームやドラマほど簡単なことじゃない。そんなさ、てめぇの面倒も見られない未熟な親がただSexの結果として子供を世に出して、そのあと本当に責任もって育てていけるのか? 16歳の女の子に本当にそれが判ってるのか?
…っていうことがさ! このドラマのストーリーとは全然関係のない個人的世界観の中で! シャンプーしてたら耳に入っちゃったお湯みたく、邪魔になって邪魔になってたまんないんだよぅ。ハマれねぇんだよ個人的に、こういう設定持ってこられるとぉ!」
「それは一種の愚痴ですね。自分で作ったドラマじゃないんだから、しょうがないんじゃないですか?」
「しょうがないよ。判ってるけどね。逆にまた自分はそう思ったという事実を、ここで完全に伏せたまんま座談会やるのもなんか違うだろ。自分はこう思ったんだというのを素直にオープンにした上で、それはそれとしてドラマを語っていけばいいんじゃないの。」
「なるほどね。だったら有意義なことだと思いますよ。無理に迎合する必要は決してないですから。」
「だよね。だからそう思ってさ、最初にザッとしゃべってみました。んで直江はどうしたかというと、ツツイユウコは内臓破裂による出血性ショックで危篤状態。院長七瀬先生まで登場しての、緊急大手術に加わるんだね。」
「この手術シーンもこれまたリアルでしたね。パッと飛び散った血が直江の手術着につくところなんて、苦手な人は苦手だったかも知れませんね。」
「スプラッタはダメだって人、けっこういるもんねぇ。視聴者ってホントに我儘だよなー。そういうの相手にドラマ作んなきゃならないんだから、その点はTV局さんもご苦労なことだ。」
「あとはこのシーンのナレーションですが、これについてはどうですか? 僕は、ここは微妙だったんじゃないかと思うんですけれども。」
「うーん…。ツツイユウコの怪我がどういうものかという説明は必要かも知れないけど、『我々は2つの命を救うため全精力を傾けた』ってヒトコトはいらないんじゃないかなぁ。だってそんなん見てりゃ判るべー! 誰が見たってこのお医者さんたちは、ツツイユウコと胎児を助けるために全精力を傾けてるんじゃんかぁ! わざわざナレーションで説明し直さなくてもいいよぉ。」
「まぁそうですね(笑) でも怪我の説明から繋がっての1文ですから、さほど気にならないといえばいえるかも知れません。」
「七瀬がさ、直江に赤ん坊を 『叩け!』 って言って、鉄平は横目でじっとそれを見つめ、玲子はゴクッと唾を飲むじゃない。緊迫感あふれるこのカットはすごくよかったね。赤ん坊が泣いた時の七瀬の笑い方も、医療と人生のベテランって感じで印象深いねぇ。こういう言い方もあれだけども、さすが山本さん!て思った。」
■ 廊下 ■
「風景映像の挿入による時間経過の表現は、相変わらずピタッとはまっていますね。ここでは雪に包まれた町の遠景でした。」
「そうだね。さりげなく凝った映像だよね。こういうのがスッ、スッと入ってくるってことは、ナレーションなんか入れるのは反対だったスタッフもきっといるんだろうなぁ(笑) どこかで折り合いつけたんだろうね。てゆーかそういうのって、最後はプロデューサー判断なのかな。いやそれともディレクターなの?」
「さぁ、業界のことはよく判りませんね。それよりここでの直江と七瀬ですよ。真琴の死を乗り越えて立派に胎児を取り上げた直江に、七瀬は医者として、最も重要なことを教えるんですね。」
「このシーンはさぁ。アップとロングのメリハリがすごくよかったと思うよ。七瀬は直江を 『つらいのによく頑張ったな』 とねぎらって、対して直江が 『先生がたのおかげです』 と言ったところで、画面はロングに変わるんさ。向かい合って立っている師弟の背後には消毒用の機器があって、ああこの2人は医者なんだよな…ということを、改めて視覚的に認識させられる。その上で七瀬先生の言う言葉が、ズッシリと重たい手ごたえなんだ。
『救えなかった命のことを忘れるな。そのかわり救った命のことも忘れるな。お前が取り上げた赤ん坊の、命の最初の重さを忘れるな。すべての命に救うべき心のあることを忘れるな。』
その言葉1つ1つにうなずく直江の、聡明さを絵に描いたようなまなざしもいいよねぇ。こういう、伝えたいことをまっすぐに受けとめてくれる教え子というものが、七瀬にとってもどれほどかけがえのない存在だったか…。」
「本当に、理想的な師弟関係ですよね。『よく頑張った、ゆっくり休め』 と直江の肩をポンと叩く七瀬は、一転して父親のように優しい顔になっていますし。」
「んで直江は頭を下げて七瀬を見送ったあと、精根尽きたようにふらふらと床に座り込む。多分、真琴が死んだ日から…っつってもそんな何日もたってないんだろうけど、直江はろくに寝てないだろうからね。」
「ベッドに入っても眠れなかったでしょうね。直江ならきっとそうでしょう。」
「しかしさぁ、もういささか言うのも疲れたけど、ここでのナレーションもやっぱ邪魔だよ。『真琴のことを思った』ってとこから先、全部。この座談会をやるに当たって何度もDVD見たけど、ここんとこでヘッドフォン外して映像だけ見てみたらね、これがアンタすっげーよかったね(笑) 中居さんの視線の動きと、手をぎゅっと握るしぐさ。これだけでもう全部、直江の心は語り尽くしてる。自分はこれからも医者として生きていこうと、決意する表情も素晴らしかったよ。
だからねぇ、この座談会を読んで下さっている皆様にもお勧めする。一度このシーン、映像だけで見てみて下さい。中居さんの直江、喝采もんですから。ぎゅっと握った拳が、真琴のいたベッドの窪みに押しつけられていた拳と自然に重なるから。真琴の命、今取り上げた赤ん坊の命。七瀬の言った、命の重さという言葉。それらをみんな直江はその手に、しっかりと掴み直したんだなぁ…って、ひしひしと伝わってきましたよ。ことさらでなく自然なのがすごくいいんだ。」
「うん。このシーンの中居は確かによかったですね。無言の演技にBGMだけ重ねておけば、それでもう十分だったと思いますけどねぇ。」
「多分さ、中居さんはナレーションより演技の方が上手いんだと思うよ。てゆーかズバリ言っちゃうと、演技に比べてナレーションが舌っ足らずなの。もともと決して滑舌のいい人ではないし、声のトーンで表現するっつうのはまた別のテクニックだしね。慣れてないかも知んないね。声の演技といったら吾郎がダントツ上手い。生来のエンジェルボイスは差っ引いても、『楽語びより』は吾郎の朗読だからいいんだと思う。
またこのシーンを音声なしで見るとね。陶酔ポイントも山積みだから楽しめるねー! 手フェチにはたまらん手の映像とかな。太くてごついのに長いあの指を、ヨダレ垂らして見てたいいわぁ星人は13ダースくらいいると思うよ。」
「13ダースってずいぶん中途半端な数字ですね。それくらいの人数なんですか?」
「まぁおおかたそんなもんだろうと思ってさ。あとはこの横顔アップの長い睫毛ねー! ブルーのバンダナみたいなやつで眉ギリギリまで覆うと、中居さんの目の大きさって逆に強調されるんだよね! 中居さんの秀でた額は大好きだけども、隠せば隠したで綺麗なんさぁ。」
「あの…最近よく群馬弁が出ますね。ブームですか?」
「いや語尾にメリハリつけようと思って。しかしこうやって考えてみるとだ。直江がMMなんぞにならずにずっと医者を続けていたら、さぞや素晴らしい名医になったろうねぇ。腕と度胸と心を持った外科医なんて、地球規模の人類にとっても必要な人材だぜ。ひとの命を救える人間として、称賛と尊敬と愛情に包まれた豊かな生涯をおくれたんだろうにね。ところがそうは問屋が卸さなかったと。」
「ここで直江を襲ったのは、今までとは比べ物にならない激痛だったんですね。徐々に痛みが増していたとはいえ、今まではすぐに治まっていた。ところが今回は一度引いたと見せかけて、立ち上がれないほどの痛みだった訳です。顔の筋肉が細かく震えていますからね。半端な痛みではなかったことが判ります。」
「直江の脳裏をよぎったのは、脂汗を浮かべていた寺岡さんの姿。まさか…と思った直感が不幸にも的中するんだね。」
「寺岡さんは1年間入院していて、主治医が直江だったということはですよ。直江はMMについての知識も症例も、新鮮に詳細に判っていたはずですよね。寺岡さんは全快しましたけれども、どこがどうなってしまったらこの病気は治らないのか、患者を手がけたばかりの直江には嫌というほど判っていたんですね。」
「かつて経験したことのない痛みに獣のような悲鳴をあげる直江だけど、これは場所がオペ室というかその前室というか、厳重に密閉された特殊な空間だったから大声も漏れなかったんだね。普通、廊下でこれだけ騒いだら誰か来るだろ。ねぇ。ラッキーだったんだかアンラッキーだったんだか。」
「…いいわぁいいわぁ陶酔しているかと思えば、現実的なこと考えながら見てるんですねぇ。」
「うん。陶酔とリアリティの間を行ったり来たりしてる(笑) これまさに冷静と情熱のあいだだね(笑)」
■ 診察室 ■
「自分のレントゲン写真によって絶望と向き合う直江。BGMのバイオリンは悲しみの旋律。シャウカステンに挟んだフィルムには、確かに腫瘍みたいなものが映ってるね。」
「前にも話に出ましたけど、この青白い光が効果的ですよね。不気味で冷たくて、残酷な感じです。」
「画面には歪んだ骨の映像があり、手の影が大写しになって、さらに直江の顔が透け見開いた目のアップになってから、ずるりっ、と滑り落ちた直江は椅子ごと後ろへ下がりベッドにガチャンとぶつかる。外の枝で雪がザッと落ちるのがいいねぇ。ビシッと緊張感のある、スキのない映像って感じがするよ。BGMはバイオリンていうより、…ビオラなのかなこれは。また音大出に聞いてみよう。」
「いろいろ聞ける相手ができてよかったですね。貴重な情報源でしょう。」
「ほんとほんと。小説書くやつはけっこう周りにいるんだけどね、音楽系は少なくて。青組には特に少ない。」
「成程(笑)」
「んで直江はうなだれて頭を抱えていたかと思うと、ワゴンを乱暴に引き寄せて慌ただしく採血する。その背後に白衣がダランと下がっているのは、ここでの直江はそれを着ていない…つまり医者ではないただの人間だってことを表現してるんだろうね。左袖をまくりあげておいて引き出しをあけ、チューブをくわえて腕を縛り、口でビニールを引きちぎる。金属の器具がぶつかりあう乾いた音も効果音になっててさ、まぁサービスカットといえばサービスカットっぽいシーンだけど、医者の業(ごう)…と言うとちょっと違うかな。自分の体がもう絶望的であることを自分でつきとめてしまう、悲劇性みたいなものも感じるね。」
「いや、まさに医者の業かも知れませんよ。だいいち普通の人間は、自分の手にこんなに深く針刺せないですよ。怖くて。僕なんて指のトゲ抜くだけで決死の覚悟ですよ、自分で言いたくないですけど。」
「あるあるそれはある。採血されるとこなんて、怖くって見てらんないもんアタシ。しかし直江は自分で血ィ抜いて痛そうにしてるけどさ、大丈夫かい先生。採血で痛いのはヘタクソなんだよ?」
「いやこれは痛いというより、精神的苦痛でしょう。むしろ恐怖に近いかも知れませんよ。」
「恐怖ねぇ。それはあるだろね。引き攣れるような直江の目元をアップにして、画面は暗転…。DVDだとそのまま翌日のシーンに移るんだけど、TV版はここでCMなんだ。しかもそのCMが『健康エコナ』ときたもんでねぇ。なーんだかなーと思ったね。まぁCMのドッチラケは今に始まったことじゃなく、民放の宿命ともいえる話なんだけど!
―――というところですまん八重垣、今回はひとまずまとめてくれぃ。」
「判りました。続きはまた来週ということですね。」
「ん〜んんん…。もしかしたらそれまでに1回、UPできたらいいなと思ってるんだけども! 確約はできないです。遅ければ来週! 次回は言ってみればいいわぁ星人狂喜乱舞の、ワルい男になっちゃう直江先生のシーンが雨アラレなんでね、そこはそこで1回で語っちゃおうかと思ってるんさ。…っつぅこの語尾が群馬弁なんだぃね〜。そんな訳で今回はひとまずここで。」
「はい、えーでは皆様そんな次第ですので、全4回の予定だった座談会が1回増えるかも知れないということで、今回はここまでにしたいと思います。でも7月の5日までには決着をつけてですね、ライブシーズンまで引きずらないよう、まとめていきたいと思います。」
「ホントにまったく時間がありませんで、申し訳ないですねー。続けざまにバーッと行けずにこっちも歯がゆいんですが、急いでブッ飛ばしてガケから落っこちるのだけは、みっともないからやめようと思っております。」
「そうですね。無理して結局続かなかったり、結果的に手抜きになったりするのが一番いけません。甘栗でもほじりながら、落ち着いてやっていきましょう。
はい、えー、それでは皆様、梅雨も本番ですけれども、下駄箱にカビなど生やさないよう清潔な暮らしを心がけて下さい。ではまた来週…じゃないや、次回までご機嫌よう。パーソナリティーは私、八重垣悟と、」
「最近セブンイレブンのあんみつにハマッている甘栗太郎でしたぁー! 続きは早めに頑張りまーすっ!」
「じゃあ次回は僕、イントロでピアノ弾きましょうか?」
「何だよ何だよ自分のコーナーにするつもりかよぅ! …いいんじゃないの? 曲は『クインテット』のサントラから、『ロゼの微笑(ほほえみ)』なんてどぉ?」
「ノクターン第1番ですか。じゃあ実家で練習しときます。」
「それより前にホレ、甘栗むかなぁ甘栗! 指が渋くなるけどお風呂入れば落ちるからさ、鍵盤は汚れないよ。ピアノの練習はそれからだねー。んね。」
「………。」
「そして黙って甘栗をむく八重垣くんなのであった(笑) ではホントにまた次回〜!」
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