●危機に瀕する西側自由主義諸国の安全保障


 一、ブッシュ政権の誤ったロシア認識と新国防戦略

 

 ブッシュ大統領は去る五月一日国防大学で演説し次のように述べた。東西冷戦後の現在における脅威は無責任国家が所有するミサイルによる攻撃である。これに対処するためにアメリカは地球規模でミサイル防衛システムを構築する。米ソ間で結ばれた「対弾道ミサイル(ABM)システム制限条約」は冷戦時代の遺物であり、米露は新しい枠組みで協力すべきである。アメリカは冷戦後の新たな現実に対応するために戦略核弾頭数を一方的に千五百発程度にまで削減する、と。そしてブッシュ大統領はロシア大統領プ−チンとの会談を翌日に控えた六月十五日、ポ−ランドのワルシャワ大学で次のように演説した。共産主義はつまづき鉄のカ−テンはもはや存在しない。NATOの東方拡大はもはや止められない。欧州のすべての民主主義国家がNATO加盟の対象である。「欧州」にはロシア、ウクライナ、バルカン諸国も含まれる。われわれはロシアを敵視していない。「われわれはロシアが(民主主義的)改革に成功する方に賭けをしており、ロシアの改革が完了する日を望んでいる」(すなわち将来におけるロシアのNATO加盟)。「ロシアには平和のパ−トナ−、つまり米国の同盟国になってほしい」(産経新聞六月十六日、十七日付)と。ブッシュ大統領は翌日のスロベニアでのプ−チンとの会談でも、ロシアを「(将来の)同盟国」と呼び、「両国は建設的相互尊重の精神に基づいた関係を確立する」と語ったのであった。

 ブッシュ政権の対ロシア認識また世界認識は以下のようなものだと考えられる。ソ連、共産主義ロシアを倒して誕生した新生ロシアは、様々な問題を抱えてはいるものの、民主主義国家を志向し、市場経済を目指している。すなわち、われわれと基本的価値を共有し得る国家だ。ただソ連から受け継いだあまりにも大量の核兵器の存在が、民主主義的改革の不十分さからくる現在のロシアが抱えるマイナス要素とあいまって西側の潜在的な脅威になってはきた。しかしロシアの長期にわたる社会混乱と経済的破綻によってその恐れも解消した。ロシアはもはや大量の核兵器を維持するだけの経済力を喪失したからだ。国防予算は激減し兵器のメンテナンスも出来ず、兵士の訓練もままならず、ロシアの軍事力は内部から崩壊してきている。その象徴が昨年八月の最新鋭巡航ミサイル原潜クルスクの爆沈事故である。プ−チンは昨年十一月ブレア英首相との会談で、ロシアは経済状況から戦略核の保有数は七五○発がせいぜいだと語ったではないか。従って今日のアメリカ・西側の潜在的脅威の第一は、なによりもまず政治的に言って共産党独裁を続ける中国である。そして近年中国の経済的=軍事的強化には目を見張るものがある。アメリカとしては対中戦略上、ロシアとも協力していくことが望ましい。ブッシュ政権は以上のように考えていると判断できる。

 ブッシュ大統領は就任早々国防戦略全般の見直しを国防長官に指示していた。そして去る六月二十一日ラムズフェルド国防長官は上院軍事委員会で証言し、米軍の「二正面戦略」を見直し中であることを公式に認めたのであった。米軍は「冷戦終結」後も欧州・中東方面と東アジア方面で同時に大規模な地域紛争が発生しても対処できる戦略をとってきた。それに基づいて米軍の規模・構成・配置を決めてきた。これが二正面戦略であるが、「新生ロシア」に対する認識からもはや欧州方面で大規模な紛争が起きる可能性はなくなったと判断して、東アジア方面(中国と北朝鮮の侵略が対象)における紛争により集中する方が現実的であると二正面戦略の見直しを求める考え方がアメリカで大勢を占めるようになってきたのである。

 ブッシュ政権のこのロシア認識が正しければ、自由世界の安全保障にとってこんなに好ましいことはない。だがもしアメリカが誤っていたらどうなるのだろう。この場合、アメリカおよび西側自由世界はロシアのパフォ−マンスを見てそのような認識を形成したのであるから、ロシアは芝居をしているということであり、アメリカ・西側は騙されていることになる。そしてこれまでにも何度も述べたが、これが真実なのだ。西側を騙すためにソ連共産党が偽装した国家がロシアなのである。

 現在、西側自由主義諸国の安全保障の危機は密かに深く進行している。われわれは一刻も早くこれに気付かなければならない。

 

 二、ロシアの正体=ソ連

 

 今世界は集団催眠にかかってしまっている。理性の目を持って真剣に考え抜いてもらいたい。ロシアの正体を明らかにしていこう。

 

 (1)一九八九年東欧で共産主義体制は打倒された。そして国家の新しい指導者たちには反体制派のリ−ダ−たちが就いた。ところがロシアではエリツィンもプ−チンもソ連共産党の幹部であった。プ−チンはKGB(ソ連国家保安委員会)の将校でもあった。そればかりでなく今日のロシアの政党、FSB(ロシア連邦保安局)をはじめとする国家機関、四軍、治安部隊、裁判所、ロシア科学アカデミ−の幹部にソ連時代の反体制派は一人でもいるのだろうか。否だ。すべてソ連共産党員である。革命とは国家の支配層が入れ替わることである。支配層が同じであれば革命はなされていないということである。つまり一九九一年の「ソ連八月革命」とは西側を欺くための芝居なのだ。国家の偽装倒壊・転換である。それを可能にできるほどの全体主義国家であるということなのである。FSBはKGBが名前を変えただけである。

 

 (2)ロシアと中国はアメリカの「国家ミサイル防衛構想(NMD)」、「戦域ミサイル防衛構想(TMD)」に激しく反対してきた。両者を一体化した新たなミサイル防衛構想(MD)にも当然のことながら反対している。しかし民主主義と市場経済という共通の価値(正確には自由主義という共通の価値)を持つ日本や英国など西側自由主義国家は、アメリカのミサイル防衛構想を歓迎しても反対することなどない。なぜならば他国を侵略する意思を微塵も有していないからだ。

 中国がアメリカのNMD、TMDまた新たなミサイル防衛構想に反対するのは、主権国家台湾や日本や東南アジア諸国を征服しようと狙っているからである。台湾を例にして述べれば、中国は台湾を侵略し征服することを国家目標にしているから、アメリカのTMDが台湾に配備されれば中国の弾道ミサイルが無効化され得ることになるから反対しているのである。

 中国が台湾へ侵略すれば、アメリカは通常戦力や核戦力をもって介入して台湾を防衛し中国を敗退させることになる。だから侵略、征服を成功させるためには、中国はアメリカの介入を逆抑止せねばならない。従って中国は「アメリカが介入するならばわれわれは戦略核をアメリカ本土に撃ち込むぞ」と威嚇して、逆抑止を狙うわけである。だがアメリカがNMDを配備すれば中国の戦略核(現在十数発程度だと言われているが新型ICBM、SLBMを鋭意開発中である)は無効化されてしまい、介入を逆抑止することは不可能となる。だから中国はNMDにあれほど執拗に反対しているのだ。

 アメリカのミサイル防衛構想は、全体主義国家の侵略から世界の平和と安定を守る正義の武器なのである。だから自由主義国家は同構想を心から支持し支援していくべきなのである。

 だが周知のとうりロシアはABM制限条約の改訂に強硬に反対し、NMDやミサイル防衛構想に反対してきたのだ。その理由は全ユーラシア大陸と周縁部の征服とそれに続く全世界の征服を目標にしているからである。同構想がそれに立ちはだかることになるからだ。またこの野望に西側が気付いた時、アメリカを先頭に西側が一致団結して、攻撃力と防御力(ミサイル防衛システム)を一体化してロシアを封じ込め、さらにロシアを解体にまで追い詰めてくることを恐れているからである。ミサイル防衛構想に反対し、また恐れる国家は、侵略国家であり国民を独裁支配している全体主義国家なのである。ロシアや中国はまさにそうなのだ。

 

 (3)昨年九月、在日ロシア大使館駐在武官のボガテンコフ海軍大佐がスパイ活動により国外退去させられた。彼の裏の顔はロシア軍参謀本部情報総局(GRU)に所属する諜報部員(情報将校)である。彼は「新生ロシア」になってから初めて駐在武官としてやってきたのではない。ソ連時代にも在日ソ連大使館の駐在武官として諜報活動をしていたのである。ソ連軍参謀本部諜報部(GRU)に所属していた。(1)で述べたように、GRUも名称をソ連軍からロシア軍に変えただけで組織の実体はまったく変わっていないのだ。同じ人間が諜報活動を行なっているのである。もし一九九一年の「ソ連八月革命」が芝居ではなく真正なものであるならば、ボガテンコフは解任されている。

 アメリカは今年二月十八日、勤続二十七年のベテランFBI要員ロバ−ト・ハンセンをソ連・ロシアのスパイとして逮捕した。彼は一九七九年から二十年間以上もソ連・ロシアのためにスパイ活動をしてきたのである。彼がソ連にもたらした情報によって、アメリカの二重スパイとなっていたソ連の工作員二名が処刑されてもいる。もし「ソ連八月革命」が真正なものであるならば、自由主義国家を志向する「新生ロシア」はロバ−ト・ハンセンの存在をアメリカに通報するはずではないか。

 アメリカは三月二十一日、ロシア外交官五十二人にスパイ活動や行き過ぎた情報収集活動を理由に国外退去を命じた。ソ連時代西側に駐在する外交官の半数はKGBの情報将校やGRUの情報将校であったが、上記の事実から現在もまったく変わっていないことが容易に想像できるだろう。ロシアはソ連の偽装国家なのだ。

 

 (4)ロシアは昨年の十二月上旬、ソ連国歌のメロディ−をロシア国歌のメロディーにすることを決めた。またソ連国旗の赤旗から鎚と鎌と麦と赤い星を除いた赤旗をロシア軍旗にすることも決めた。ロシアはソ連時代の同盟国、友好国等にシグナルを送り始めている。これでも西側は一度かかった集団催眠状態から目覚めないのだろうか。

 

(5)ロシアが「戦略的パ−トナ−シップ」や「善隣友好協力条約」や「国防省間協力」や「軍事・兵器技術支援協定」等を結んだ国はどこなのか。中国であり北朝鮮でありキュ−バでありベトナムでありイラクでありイランでありリビアでありインド等である。すなわちソ連時代の同盟国や友好国なのだ。

 プ−チンは昨年十二月十四日キュ−バのカストロ首相と会談し、「両国は旧社会主義国同盟としての友好関係に基づき、今後政治、経済の両面で関係を発展させていく」と表明した。そして同十七日に「軍事技術協力」を結んだ。プ−チンの上の発言に注目してほしい。「ロシアはソ連と変わっていませんよ」と言っているに等しい。他のソ連時代の同盟国、友好国にも同じことを言っているにちがいないのだ。

 

 (6)就任一周年を迎えた本年五月七日、プ−チンはクレムリンでゴルバチョフ元ソ連大統領から意見を聴いた。産経新聞五月八日付にその写真が載っている。考えてほしい。「悪の帝国ソ連を打倒して誕生した自由主義の新生ロシア」というものが真実であるならば、そもそもプ−チンが元ソ連大統領の意見など聴くはずはないではないか。昨年五月のプ−チンの大統領就任式にもゴルバチョフは「招待」されていた。すなわち「ソ連八月革命」は西側騙しの芝居なのだ。

 写真の中のゴルバチョフは椅子にふん反り返ってプ−チンに話しており、プ−チンは実に神妙な表情をして上目づかいにゴルバチョフを見つめて話に聴き入っているのである。上司が部下に話をしている構図だ。まさにそうなのである。つまりソ連共産党書記長・ソ連大統領のゴルバチョフが、部下のソ連共産党幹部のプ−チンに話をしているのである。ソ連が偽装した国家がロシアだ。従ってロシアの独裁支配者はソ連共産党の幹部たちである。彼らは姿を変えて(消して)ロシア国家を支配している。ロシアの最高権力者は言うまでもなくソ連共産党書記長のゴルバチョフである。

 ロシア=ソ連(縮小ソ連)の支配者たちはこういう写真を流して、ロシア国民に支配体制は変わっていない、引き続き物言わぬ奴隷であれと威圧を加えるとともに、ソ連時代の同盟国、友好国にもシグナルを送っているのである。

 

 (7)昨年八月十二日、最新鋭原子力潜水艦クルスクの爆発沈没事件が起こった。この事件は、アメリカをはじめ西側を一層油断させ驕慢にさせることを狙って仕組まれた事件だと判断して間違いない。ロシアとは、そのためにはクルスクと百十八名の人命を犠牲にすることをやる国家なのだ。それができる全体主義国家なのである。ロシアは「社会混乱・経済破綻による国防予算の大削減によりロシア軍はボロボロになり、またまともな救助能力もない状態にあること」(嘘)を西側に注入していったのである。マインドコントロールだ。だが今はそのことを論じることはしない。私がこの事件に関連して述べたいことは次のことである。

 ロシア政府は、昨年八月十八日クルスク乗員の家族への説明会を開いたが、会場で一人の母親が激しく抗議をしたのだ。するとすかさず数人の男女がその母親を取り囲み、一人が背後から彼女に鎮静剤の注射を打ったのである。彼女はすぐグッタリと崩れ落ち、男たちによって連れ去られてしまった。こうして抗議は封じられた。このやり口はまさしくソ連そのものである。彼らはFSB=KGB要員だ。この様子はロシアのテレビで流れたという。その映像を八月二十四日英国スカイテレビが放映し、英国タイムズ紙等も報じた。

 この映像はその他にも重大なことを示していた。すなわち、その母親が抗議をしている間、他の家族は誰一人同調して抗議の声を上げる者はいなかったのだ。一人彼女の憤怒の声が響いていただけであった。そればかりか、男女の集団が彼女を囲み注射を打って連れ出す場面でも、他の家族は誰もそれに抗議しないばかりか、顔をこわばらせて身動きもせず視線も逸したままであった。すなわち遺族たちは夫や子供を失っても、政府を批判、非難すれば自分たちが酷い弾圧を受けることになることを敏感に感じ取っているのである。国民は「ソ連八月革命」があろうと何も変わっていないことを肌で感じ取っているのだ。ソ連とは嘘、嘘、嘘の国であることを国民は知り抜いている。そしてKGB=FSBによる国家テロルの恐怖によって精神と肉体を支配されているのである。だから映像のようなことになるのである。これがロシア(=ソ連)の真の姿である。ロシアには自由などまったくない。西側は「民主主義国ロシア」の演技に騙されているのである。

 八月二十四日西側の新聞、テレビは「抗議の女性に注射」というタイトルの報道を組みロシア政府を批判した。だが翌日には西側の報道機関は一斉に「母親、投与したのは心臓病の薬だったことを明らかにする」という記事を流したのである。すなわち「わたしは心臓病の持病を持っており、わたしが興奮したので会場にいた夫がわたしの病気を心配して医師に頼んで注射を打ってもらったのです」という彼女の「発言」を載せたのである。彼女はKGBに恫喝されて無理矢理そのように言わされたわけである。すぐ信用できないと判るのに、それ以降この事件はまったく登場しなくなった。

 

 (8)各国の「ロシア専門家」によって「ロシアには報道の自由も言論の自由もあふれんばかりにある」と宣伝されてきた。「ロシア専門家」の九九・九%はロシアに騙されている。彼らはロシア側から「協力者」と位置づけられている人々である。クルスク事件でもロシアの「政府批判派メディア」の「セボードニャ」や「独立新聞」等々が批判を展開した。「遺族や住民に激しく詰め寄られた政府高官」といった記事もあった。だがそれはKGBの指示の下でなされた「やらせ」であり、外国向けの記事である。ロシア国民には政府批判の権利などないのだ。(7)のとうりである。

 「注射事件」はロシアのテレビに流れた。「政府批判派メディア」が本当であるならばなぜ彼らはこれを追及しないのか。どのメディアも追及しなかった。つまり「自由な報道」や「政府批判派メディア」なるものも虚構なのだ。ロシアのメディアもすべてソ連共産党・KGBが支配している。そして一部分に「政府批判派メディア」の演技をさせているだけなのである。西側に「民主国家ロシア」「自由主義国家ロシア」の虚構を与え続けるためである。

 

 (9)ロシアの政府、学者、マスメディア等が「ソ連崩壊」以降口を揃えて言ってきたことは、またそれを鵜呑みにした西側各国の「ロシア専門家」が大々的に言ってきたことは、「ロシアでは事実上国家が崩壊している。国民は権力に対する恐怖心を失い、法はあってもまったく守られず、守らす強力な国家機関もなく、勝手放題のできる無秩序社会と化している。市場経済化、自由主義経済化の名の下で経済は略奪経済化し(国有企業の民営化とは国有財産を私物化することであった)、ギャンブル経済化した。またマフィアが侵出して経済のマフィア化が起った。こうしてロシア経済は破綻しGDPは激減した。国家は徴税能力も喪失した。これらにより国家財政も破綻し、国防予算は大削減されてロシア軍はボロボロになっている。大削減するしかない」ということである。

 だが(7)(8)から、これが嘘であり、ディスインフォーメーションであり、演技であることが理解できるであろう。ロシアの国家権力は盤石である。以上のような明白な嘘を述べても、それを批判するものが一人も出てこない程、国家、社会は完璧に統制されているのだ。KGBによる国家テロルの恐怖が国民を支配しているのである。「ソ連八月革命」は超高等な謀略である。ロシアはソ連の偽装国家である。私は既にいくつかの文を書いてきた。「ソ連=新生ロシアの大謀略」(一九九九・八・二十)、「日本と自由主義諸国を滅ぼしてはならない−世界征服をめざすソ連=新生ロシアの謀略戦争−」(二○○○・二・十五)、「新生ロシアの正体」(二○○○・二・二三)、「新生ロシアはソ連の偽装である」(二○○○・五・十三)。これらの文も参照して頂きたい。

 

 三、社会主義国の定義は共産党が国家を所有支配すること−ロシア、中国に騙されている西側−

 

 西側は決定的な間違いを犯している。たとえば中国に対しても「中国は今も共産党の一党独裁支配であるが、経済的には社会主義計画経済を放棄して市場経済を推進しているから、中国はもはや社会主義国ではない。付き合っていける国だ」との見方、考え方をしてしまっていることである。そして西側は愚かにも中国政府や西側の親中国派の学者等のプロパガンダに騙されて、「中国を国際経済秩序に組み入れていけば、民主化を進展させていくことが出来るだろう」と考え、WTO加盟を狙う中国を援助してしまっている。敵に塩を送っているのだ。これも中国はもはや社会主義国ではなくわれわれの敵ではなくなった、と誤って考えてしまっていることが根本原因だ。社会主義国を理解できていないからこの誤りが生じる。社会主義国の定義を間違っているのだ。

 古典的な社会主義(共産主義)の定義は、( ア)経済的には生産手段の私的所有と市場経済(商品経済)の否定、だから生産手段の共同所有・国有化と社会主義計画経済であり、(イ)政治的には(ブルジョワジーに対するプロレタリアートの独裁を経て)階級と階級支配の廃絶、だから国家の死滅、自由で平等な共同社会の建設である。だがこれは机上の空論であり、同時に人々を欺く謀略論である。つまり実際にプロレタリアートの独裁によって生産手段の私的所有を否定して共同所有・国有化を実行すれば、必然的に共産党が、国有化された生産手段とともに国家を事実上所有することになり、国民を独裁支配することになるからである。(イ)は実現されることは絶対にないのだ。

 たしかに幻想を抱いて社会主義運動に飛び込んでいった者もいる。しかしロシアや中国のように専制君主による専制支配の歴史しか持っていない国の人間は、自由主義のエートスがなく、独裁に親和性を持っている。レーニンのロシア共産党や毛沢東の中国共産党などは初めから、自らが国家を所有して国民を独裁支配するために、また資本主義制度の外国に勝って世界を征服するために、社会主義に飛びついたのだ。そして自らが独裁支配者になるために、「自由・平等な共同社会の建設」という甘い幻想(嘘)を国民にプロパガンダして、人々の幻想と善意を十二分に利用して国家権力を奪取していったのである。謀略論としての社会主義である。

 さて、ソ連でも中国でも社会主義経済はまったく機能しなかった。すなわち私有と市場の否定だから、生産物を自らの物に出来ず自由に販売できないから労働意欲は湧かず、労働生産性は低下した。競争がないから「品質」の概念自体が生れず、民生品は低品質のものしか生産出来ない。中央で生産目標、生産手段の配分、生産物の価格、賃金もすべてを決定するから、そして市場を通した調整がないから、不可避的に生れる計画の誤りは極大化し、かつ固定化される。その結果は日常的に生産に必要な資材、機械が入手出来ないこととなり、それへの対処として各企業は過剰な在庫を貯め込むことになって機能しない経済となった。国民は品薄の生活必需品を求めて国営商店の前に長い行列を作ることになったのである。

 社会主義経済はまったく機能しないシステムなのだ。だから共産党は、私的所有と私的交換(市場)すなわち資本主義、市場経済を部分的に導入していくことにしたのである。

 ソ連ではコルホーズ員やソフホーズ労働者には「自留地」という名の私有地の所有が認められ、果樹・菜園、家畜・家禽などの個人の副業経営が認められた。この自家菜園は一世帯当たり0.五ヘクタールに制限されたから全耕地面積の約三%にすぎなかったものの、そこでのジャガイモ生産は全ジャガイモ生産の六0%近く、食肉、牛乳、卵の生産は全体の約三0%を占めていたのである(外務省外務報道官監修『ソ連という国』一九八八年、六十三頁参照)。つまり私的所有と私的交換すなわち資本主義経済、市場経済を不可欠な要素としなければソ連の農業は成り立っていかなかったのである。

 製造業等においても事情はまったく同じであった。製造業、商業において「闇経済」と呼ばれて容認されていたものこそはまさにこの資本主義経済、市場経済であったのだ。国営企業の労働者が副業としてそこの資材、機械を使って商品を作って「闇市場」で売っていたのである。これが広範囲に行なわれていた。それによって機能不全な経済を支えていたのである。「闇経済」=市場経済無しではソ連経済は成り立たなかった。中国でも同様だ。「自留地」を全面否定する「人民公社化」運動によって二千万の国民が餓死したのである。現実のソ連や中国の経済は資本主義経済、市場経済を不可欠な部分とする経済であり、純粋な社会主義経済ではなかったのだ。西側はこの点を大誤解している。

 ソ連共産党や中国共産党が社会主義経済を目指した理由は、社会主義の理論によればそれが資本主義経済を越える進んだ経済システム、すなわち生産力を無限に発展させていき得るシステムであるとされていたからである。世界制覇のために必要であったからだ。だが実行してみたら違った。となれば彼らが純粋な社会主義経済を捨て去り、市場経済を拡大していくようになるのは必然である。ただし西側自由主義諸国のような経済には断じてしない。そのようにすることは共産党の国家所有・支配を切り崩すことになるからだ。

 西側は社会主義国を理解していない。社会主義国の定義を誤ってとらえている。社会主義国また社会主義の定義は、共産党が国家を所有し国民を独裁支配することだ。市場経済であろうと共産党独裁である以上、社会主義国なのだ。

 西側とりわけ日本は市場経済を進める中国を見て警戒心を解いてしまっている。これは中国共産党の騙しに敗北しているということだ。中国は市場経済で国力=軍事力を強大化してアジア一帯(日本も含まれる)を侵略征服しようと、そのチャンスを虎視眈々と狙っているのである。
 私が新生ロシアはソ連の偽装国家だと言う時も、前記の社会主義国定義に立っている。ソ連共産党は中国共産党よりはるかに戦略的であり巧妙だ。ソ連共産党・ソ連の偽装解体を芝居しているからだ。さらにロシアの社会混乱・経済破綻の芝居もしているからである。新生ロシアでは共産党が国家権力から去り、民主主義と市場経済を目指しており、しかも社会混乱・経済破綻によって国力は衰退しているとなれば、西側は完全に騙されてしまう。

 だが冷戦は終結していない。ロシア(=ソ連)は謀略戦争としての冷戦を日々展開しているのである。中国もまたそうだ。西側は集団催眠から覚めなくてはならない。

 

 四、ロシア国営企業民営化の嘘、経済破綻・軍事力崩壊の嘘

 

 ロシア政府とロシアのマスコミは「新生ロシアになってソ連時代の国営企業の民営化がなされたが、略奪に等しいやり方で行なわれ、新興財閥が生れた」と言ってきた。しかしこれも嘘宣伝であり演技である。

 ソ連時代、ソ連共産党・KGBは国家機関、軍、治安部隊、国営企業、社会の各組織に党組織を張り巡らして支配してきた。「新生ロシアによる国営企業の民営化」とは、名前だけ形だけのものであり、姿を隠したソ連共産党とKGBが引き続きその企業を支配しているのであるから、実体は国営企業と何ら変わらないのである。ソ連共産党が所有支配する企業なのだ。だが西側はロシア発の偽情報を鵜呑みにして新興財閥だと考えてしまっている。ロシアの市場経済化の実体とはこのようなものである。西側はソ連共産党の超高度な謀略に完全に騙されてしまっている。

 一昨年十二月二日ロシア政府とロシアのマスコミは次のように述べた。「二○○○年度(一月〜十二月)のGDP見通しは五兆三千五百億ルーブルであり約二十一兆円である。インフレ率は十八%である」と。インフレ率を差し引くとロシアの二○○○年度の実質GDPは十七兆八千億円となる。日本は五百兆円を超えている。一九九○年頃のソ連のGDPはほぼ日本のGDP四百五十兆円位と等しいと言われていた。ロシア連邦一国のGDPをソ連の4分の3とすると約三三八兆円になる。すると二○○○年度のロシアのGDP十七.八兆円は当時の19分の1に縮小していることになる。ロシアがソ連の2分の1のGDPだとしても12.6分の1に縮小していることになる。

 今10分の1に縮小したとしよう。GDPがこのように激減したというのが真実ならばどうなるかを冷静に考えてもらいたい。日本に置き換えて考えればよい。単純化すれば各世帯の所得が10分の1になるということである。四人家族で年間所得七百万円の家庭では所得が七十万円になるということである。家族全員が餓死することになる。また政府の財政収入も無くなる。ロシア政府、マスコミが言っていることが本当ならば、ロシア全土で餓死者が出てロシアは消滅していなければならない。だが現実には餓死者などどこにもいないのだ。すなわち嘘プロパガンダなのである。昨年十二月二十六日にロシア政府は二○○一年度(一月〜十二月)のGDPの見通しを公表した。「七兆七千五百億ルーブルで約三十一兆円、インフレ率=十二%」である。

 冷静になって少し考えてみればすぐに判るこういう明白な嘘を、西側は単純に「ロシア政府が発表しロシアのマスコミも批判せず追認しているから嘘であるはずがない」との思い込みから盲信してしまっている。西側自由主義国では、政府とマスコミが一丸となって国民と外国に対して嘘プロパガンダすることは起りえない。西側はこういう自分自身のイメージでロシアをとらえてしまっているのである。「ミラー・イメージング」の誤りに陥っているのだ。だがロシアでは、姿を変えたソ連共産党とKGBが独裁支配者として国家テロルの恐怖で社会を隅々まで支配して、西側を騙すために前記のような嘘プロパガンダと演技を日常的に行なっているのである。

 ソ連共産党・KGBが国家・企業を所有支配している新生ロシアでは、為替レートを自由に操作することも可能だ。ルーブルの大暴落劇を演じることも可能だ。そして実際にやってきたのである。一九九○年頃一ドルは一ルーブルであったが、新生ロシアは九二年の「価格革命(自由化)」とハイパーインフレーションの芝居なども交えながらルーブルの大暴落を演じてきたのである。現在は一ドルは二十六ルーブル位である。つまりロシア国内におけるルーブルの購買力は大差ないのに、ドル換算すると26分の1になるのだ。ロシアのGDPも国防費もドル表示や円表示にすると26分の1になって(見えて)しまうのである。

 円の対ドルレートは一九八五年から数年の間に一ドル=二四0円から一二0円と二倍になった。だから日本人の所得をドル表示にすれば二倍になるが、しかし日本における日本人の所得は変わっていないのだ(もちろん経済成長率の分だけは上昇したが)。

 ロシア政府はこの為替レートのトリックを使って西側に、ロシアの経済力、軍事力がボロボロになってしまっていることを植え込んできたのである。たとえば「二○○○年度のロシアの国防費は六0億ドルでありアメリカの46分の1に過ぎない。兵器のメンテナンスも出来ず耐用年数のはるか前に兵器を退役させることになっている。ロシアは核戦力も通常戦力もさらに大削減しなくてはならない」と。国力、経済力=軍事力が破綻しボロボロになっていると、積極的に執拗に発表する国(ロシア)をわれわれは断じて信じてはならない。なぜならその行為は正常な国家の国益追求行為とは正反対であるからだ。つまり逆が真実だ。嘘プロパガンダなのである。そしてロシアでは軍事力削減の演技をすることも容易だ。こうしてロシアは敵である西側を騙して油断させ、西側を大軍縮させてしまい、それによってロシアの軍事的絶対優位を確立して西側を征服することを狙っているのである。

 今アメリカは先述のようなロシア認識に基づいて戦略核戦力の一方的な大削減を打ち出した。兵器を使って敵の戦力を破壊するのも戦争であり、(偽)情報によって敵の戦力を削減させてしまうのも戦争である。情報心理戦は戦争の基本的な一形態である。アメリカ・西側はロシア=ソ連の情報心理戦に敗北している。

 旧東欧諸国の経済は今どうなっているのか。共産主義時代の何分の一になってしまったのだろうか。否である。われわれは経済破綻・軍事力崩壊という騙しに気付かなければならない。

 

 五、アメリカのミサイル防衛構想とABM制限条約の見直しを巡るロシアの情報心理戦

 

 ロシアはアメリカのミサイル防衛(MD)構想を「世界の戦略的安定を破壊する」と批判しているが、今アメリカは本土ミサイル防衛(NMD)システムをまったく配備していない。だがロシアは既に本土ミサイル防衛(NMD)のABM(対弾道ミサイル)システムを配備しているのである。しかしそれを述べるマスメディアは無い。それは、西側のメディアのほとんどは反国家や反政府の左翼やリベラル左派が支配しており、そしてKGBが積極的に工作していることにもよるが、西側が情報心理戦でロシアに大きく遅れをとっているためである。

 ロシアはABMシステム制限条約の修正に反対している。だが当のソ連−ロシアはABM制限条約六条a号に違反して大量の地対空ミサイル(SAM)をABMに転用してきたし、同条約三条a号に違反してABMシステム用の戦略弾道ミサイルの探知・追跡用および早期警戒用レーダーをモスクワから遠く離れたクラスノヤルスクに建設し、かつ同条約六条b号に違反して外向きではなく内向きに設置してきたのである。つまりこのレーダーは地点防衛(モスクワ)ではなく領域防衛そのものを意図しており同条約一条の2に違反している(中川八洋筑波大学教授『核軍縮と平和』一九八六年刊、六十五頁以下参照)。しかしこれらの違反でロシアを批判する西側のマスメディアはまったく無い。西側の政府すら批判していない。

 また「ソ連は、レーザー光線を利用したBMD(・・・弾道ミサイル迎撃、もしくは弾道ミサイル防御)の研究開発にも長年厖大な投資を続けてきた。現在でも、ソ連は弾道ミサイル防御(SDI)の開発に不可欠だがその一つにすぎないレーザー兵器関連だけでも、一万人以上の研究者、六ヶ所の研究所、年間十億ドル(米国換算)を投入しており、その規模はSDIに精力的なレーガン政権下の米国予算の三倍にもな」ったのである(前掲書六十二頁)。ロシアはこれらを受け継いでいるのだ。だがそのことを指摘する西側のマスメディアは無い。西側政府からも言われない。西側は情報戦、外交戦でロシアに敗北している。

 七月二日クレムリンで行なわれた仏露首脳会談で、両国はABM制限条約の修正反対で共同歩調をとった。シラク大統領は愚かにも「欧州とロシアはパートナーにならなければならない」と発言したのであった。ロシアは仏独への働きかけを軸に欧米離間を画策し続けている。ロシアはNATOの実質的なさらなる解体を狙っている。

 ロシアは「アメリカがABM条約から離脱してミサイル防衛システムの配備を開始すれば、われわれはSTART1・2条約は無効化したと見て戦略核戦力を増強し、MIRV化(個別誘導複数目標弾頭)を進めて対抗する」と脅し、中国とも連携してABM条約の修正に反対してきた。そして前述の如くNATO諸国の多くを味方につけてしまった。また上院で多数派を占めるに至ったミサイル防衛構想に慎重な米民主党への工作を強化し、内外からブッシュ政権を包囲してABM条約から一方的に離脱することが出来ないようにしてしまったのである。

 とともにロシアは、一切の修正を拒否すればアメリカは離脱してフリーハンドを得ることになるからABM条約の修正には応じる腹積りであり、ロシアの世界戦略が支障をきたさない範囲内に修正を限定させ、しかも修正を認めた〃代償〃だとしてアメリカに戦略核弾頭を千発位にまで削減することを約束させ、また経済が破綻し戦略核戦力もボロボロになっているとしてロシアにはSTART2の特例としてMIRVのICBMを認めさせていくことを狙って、現在の情報・心理・思想戦を戦っているのである。
 さて、ブッシュ政権ははじめから「ミサイル防衛構想はロシアを対象にしたものではない」と言明しているのである。そして「限定的なミサイル攻撃に対処するものである」と言っているのだ。同構想は地上配備型システム、海上配備型システム、航空機搭載レーザーシステム、宇宙配備レーザーシステムから成るが、たとえば構想の一つの本土ミサイル防衛の「地上配備型システム」では、迎撃ミサイルの配備箇所は二ヶ所であり配備数は二五0基に過ぎないのである。飛来する弾頭一発に対して二発の迎撃ミサイルを撃つことになっているので一二五発の弾頭を迎撃する構想である。大量の戦略核を有するロシアなら容易にこれを突破できてしまう。ロシアのICBM一基は十個のMIRVを搭載できるのである。

 だからロシアが民主国家であればアメリカのMD構想を恐れ、反対を唱える理由がない。にもかかわらずロシアが、「アメリカのミサイル防衛構想とABM条約の修正は世界の戦略的安定を破壊する」と人心を惑わす巧みなスローガンで執拗に反対するのは、世界征服という戦略目標を持つ全体主義侵略国家であるからである。
 先の地上配備型システムでももし開発に成功し配備されれば、状況が大きく変化したときにはアメリカは迎撃ミサイルやレーダーを急増産していくことが可能となる。つまりロシアが野望実現のために正体を顕在化させていったときには、アメリカはシステムを急拡大して対処していくことが可能になり得るのである。すなわちロシアの戦略核のかなりの部分が無効化され得るのである。また同構想には「(限定的な)宇宙配備レーザーシステム」も含まれているが、レーザー・ビームで弾道ミサイルを迎撃するこのシステムについても地上配備型システムについて言えたことと同じことが言い得るのである。しかもこちらはミサイルをブースト段階(上昇段階)で破壊するので囮弾頭も意味を持たなくなってしまうのだ。以上の理由からロシアはアメリカのミサイル防衛構想とそのためのABM条約の修正に猛反対しているのである。

 ブッシュ政権は五月一日演説の冒頭で「ロシアはもはやわれわれの敵ではなく、民主的な大国になろうとしている」と述べたように、騙されて誤ったロシア認識を持ってしまっている。また同政権はロシアの情報(思想)戦によって作られたMD構想とABM条約見直しに対する誤った内外世論によっても包囲されている。だからもしこのまま六月の米露首脳会談で開始が決まった「新たな安全保障のための枠組協議」を続けていけば、アメリカはABM条約の修正問題でロシアの狙いどうりの内容で決着させられてしまう可能性が大きいのである。

 ロシアは一部の修正を認める場合にも、アメリカが将来当該システムを急拡大したいと欲しても製造設備と技術者不足のために不可能となるように、当該設備と技術者を規制する条項と査察条項を条約に盛り込むことを要求するはずである。そしてアメリカはロシアを敵と見ず、MD構想の対象にしないと明言している以上、この要求を拒否し難い。もしこのまま推移すれば、ロシアは首尾よく狙いどうりABM条約の限定的な修正と米国の戦略核弾頭の千発への削減とロシアのICBMのMIRV化の容認を勝ち取っていく可能性が高いのである。

 

 六、「冷戦終結」は謀略であり継続している

 

 もしもそのようになってしまったら西側自由主義諸国はどうなるのか。既に二○○○年三月六日論文で書いたように、レーガン政権時代の国務次官補を務めたキャスリーン・C・ベイリー博士によれば、アメリカの核兵器製造工場は環境問題等により閉鎖されており、政治的経済的理由から再開されていない。そのため核弾頭の心臓部であるピットを生産する能力は今のアメリカにはないのである。だがロシアは引き続き核兵器製造工場を維持し年間数百のピットを生産しているし、新核弾頭の開発にも邁進しているのである。

 アメリカが戦略核弾頭を千五百発に、さらには千発に削減したならば、ロシアは戦略核弾頭(MIRV)を急増産することにより、またそれまでに「国防費不足のためにメンテナンスが十分出来ずそのために早く退役・廃棄した」と偽って隠してきた現役で使える戦略核弾頭も加えて、アメリカに対して戦略核弾頭数で絶対優位を確立することが容易に出来るようになるのである。アメリカが千発から千五百発、ロシアが六千発としたら四倍から六倍の格差だ。ロシアはアメリカの核弾頭製造工場が廃棄も同然となるまで待ってから急増産を開始する。

 今年の五月三十一日で地上配備のINF(中距離核戦力)全廃条約の十三年間の査察期間が終了した。INF条約は無期限だからアメリカがINFを密かに製造することはあり得ないし出来ない。しかしロシアは密かに製造していくのだ。全体主義国家ロシアでは内部告発も暴露報道もあり得ないから可能なのである。ロシアにとって条約とは、敵国の戦力を削減・全廃するための〃武器〃であり、自らは秘密裡にあるいは公然と破っていくものとしてある。ロシアは当然にも通常戦力も急増産する。CFE(欧州通常戦力)条約も破っていく。

 ロシアは戦略核戦力、非戦略核戦力そして化学戦力においてアメリカ・西側に対して絶対優位に立ち、通常戦力においても西側を圧倒する。そしてアメリカ・西側にはミサイル防御力はほとんどない。となれば全欧州、中東、日本など全ユーラシア大陸とその周縁部はロシア(=ソ連)に征服されてしまうことになるのだ。

 一九八九年十二月ソ連共産党書記長ゴルバチョフがプロパガンダした「冷戦終結」は、二年後の「ソ連の消滅・自由主義国家をめざす新生ロシアの誕生」によって名実ともに達成されたのだと西側は頭から信じ込んで来た。だがこれはソ連共産党の超高等な謀略である。ヒトラーは「嘘は大きいほどよい」と言ったが、ソ連共産党がやっていることは人類史上最高の謀略である。ソ連共産党はロシアに偽装して冷戦を継続しているのである。われわれはロシアの正体を見破らなくてはならない。また中国の騙しにも気付かなけばならない。

 そしてアメリカは「ミサイル防衛構想」を定義し直し、すなわち全体主義侵略国家ロシア、中国、その他の「ならず者国家」を対象にする「大規模なミサイル防御システム」として開発配備していかなくてはならないのである。敵が嫌がることをするのが戦いの鉄則だ。言うまでもなくABM条約は直ちに離脱すべきものである。「相互確実破壊理論」とそれを条約化したABM条約(この条約を裏外交で締結した大統領補佐官キッシンジャーは「相互抑止理論」「相互確実破壊理論」の提唱者である)はソ連の国益に奉仕しアメリカと西側の国益を否定するものであるからだ。

 西側自由主義諸国はアメリカと共同してTMD(戦域ミサイル防御)システムを開発配備していくとともに、アメリカのNMD(本土ミサイル防御)システムの開発配備に最大限の財政的支援を惜しんではならないのである。なぜならばアメリカが本土のミサイル防御を完全に行えるようになれば、アメリカは、ロシアが全ユーラシア大陸と周縁部へ侵略した時には戦略核をロシア中枢部へ撃ち込めるようになるからだ。NMDシステムによってロシアからの報復核ミサイルを心配しなくてもよいからである。だからロシアは侵略を思いとどまらざるをえなくなる。すなわちアメリカの「核の傘」=「拡大核抑止力」が完全に機能することになるのである。つまり「世界の戦略的安定」が確実になるのである。

 ロシアや中国が言う「アメリカのミサイル防衛構想とABM条約の見直しは世界の戦略的安定を破壊する」は騙しであり「反対語」なのだ。左翼国家・左翼が使う用語はすべて特殊用語、階級用語であり、「反対語」「転倒語」(騙し言葉)なのである。彼らが使う「平和・安定」とは「自由主義諸国への侵略準備・侵略・征服」のことであり、彼らの言う「自由」とは「プロレタリア的自由すなわち(ブルジョワ的)自由の否定、自由主義国家解体」のことである。彼らの言う「民主主義」とは「プロレタリア的民主主義すなわち(ブルジョワ的)民主主義の否定、共産党の独裁支配」のことである。彼らが言う「人権」とは「反体制派の無制限の自由・権利と体制側の自由・権利の否定」のことであり「自由主義国家を解体する階級闘争」のことである。われわれは敵に関するこういう基本的な認識をしっかりと獲得しなくてはならない。

 世界から全体主義侵略国家が消えて無くなると考えることはナイーブ過ぎることであり誤りである。自由主義国家と全体主義侵略国家との戦いは永遠に続くと深く認識しておくべきである。外交は内政の延長である。だから国内で国民を〃侵略〃迫害している全体主義国家は必ず対外的にも侵略国家なのである。ソ連=ロシア、中国、北朝鮮、イラク等々を見れば明白である。
 敵(全体主義侵略国家)に対して、軍事理論・戦略においても攻撃力においても防御力においても圧倒的優位を確保することが国家安全保障の基本中の基本である。また同盟関係を強化することも基本中の基本である。われわれは個々の同盟関係を基礎にしてアメリカをリーダーとする西側同盟を強固に構築し、先に述べたミサイル防御システムを開発配備していくとともに、通常戦力と核戦力を増強していかなくてはならないのである。日本もである。アメリカはSTART条約やINF条約から脱退しなくてはならない。ロシアとは一切の条約を結んではならないのである。

 西側は軍事戦略においてもソ連=ロシアに完全に劣位に立っている。西側にとって「封じ込め戦略」か「解放戦略」(アメリカ人故バーナム氏、中川八洋氏が提唱。ソ連や中国等の全体主義国家体制を倒して迫害されている国民を解放すること)かという重大な問題がある。「解放戦略」こそ西側自由主義国陣営の真正な戦略である。われわれは敵との〃共存〃ではなく勝利しなくてはならない。中味は対極にあるがソ連=ロシアの世界戦略もまさにこれである。

 

 最後に。私はこれまで文を小冊子にして、日本の政府・国軍・保守系の政党・政治家・新聞社・雑誌社・言論人、在日アメリカ大使館・CIA・DIA・在日米軍またアメリカの保守言論人、在日イギリス大使館・国防省等へ送付してきた。百六0部位である。西側自由主義諸国の存立にかかわることである。主張を受けとめてもらいたい。そして日本政府、アメリカ政府・議会・シンクタンクに働きかけて頂きたい。私は独自な運動を創り出していく必要性も痛感している。インターネットで流すことにしたのもそのためである。もし私たちが不審な死に方をしたならば、ロシア政府・KGBが動いた(直接・間接)ことが考えられる。それは私の主張が正鵠を得ていることを意味する。

 

                 二00一年七月二十三日記 


 

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