小泉内閣の経済構造改革は学問的に完全な誤りである


 一、供給側の経済学の誤りと二年以内の不良債権最終処理の誤り 


 小泉内閣は「四月のペイオフ解禁」と「二年以内の不良債権の最終処理」そして「財政再建」の「構造改革」を直ちに中止しなくてはならない。これらは日本経済をデフレスパイラルに追い込み恐慌に至らせる日本破壊政策である。小泉内閣は「供給側の経済学」という誤った学問に洗脳されてしまっている。

 小泉内閣が立脚している供給側の経済学は、供給すれば必ずそれと等価値の需要が生まれると考え、需要不足による不況とそれに起因する失業を認めないのである。学問的に誤っている。この経済学は景気変動は、供給側の要因でのみ起こるとする。すなわち生産能力や生産効率の増加や減少によって生じるとする。そして深刻な景気後退は、企業が将来の収益見通しを誤り過剰投資した為に経済全体の生産効率が低下したからだととらえて、誤った行動をした非効率企業を市場から退場させて経済全体を効率化すれば、景気は回復していくのだとする。これがこの経済学が言う「構造改革」の考え方である。小泉内閣は「経済構造改革なくして景気回復なし」と繰り返し主張している(小野善康著『景気と経済政策』三○頁他参照)。

 小泉内閣は「不良債権の最終処理」つまり不良債権化した非効率的な企業をつぶせれば、その生産資源はより効率的な企業で使われていくことになり、経済全体の効率が高まり経済は回復するのだと言う。またそれらの企業を倒産させないように銀行が追い貸ししているから、非効率企業に資金が停滞して健全な企業や成長産業に資金が回らない。だからつぶして成長分野に資金を回せば景気は回復するのだと言う。

 後者の点から批判しよう。真っ赤な嘘である。銀行にお金は有り余っているのである。九○年以降に地価と株価が千五百兆円も消えてしまったために、企業はバランスシートを修復するために借金返済にまい進しているのだ。企業は九○年には五○兆円を借りていたが、今日では逆に二○兆円を返金している。九○年に比べたら企業の資金需要は七○兆円も減ってしまっているのだ。不況になるはずである。「バランスシート不況」と言われるゆえんだ。借り手が少ないから銀行は大量に国債を購入しているのである(リチャード・クー著『日本経済 生か死かの選択』三二頁他参照)。

 デフレ不況の今日において不良債権化した企業をつぶせば、大量の失業者が増えるだけである。失業は所得の喪失だから需要は一層不足して不況は一段と深刻化する。それは資産価格をさらに下げる。銀行もつぶした企業の担保資産を売却するから資産価格は下落する。そうすれば、一○三兆円といわれる「一般要注意先債権」の多くが不良債権化することになり、また担保価値の下落にもより、処理した以上の不良債権が生まれることになるのだ。銀行はつぶした企業の巨大な損失処理を一気に行わねばならず、また新規の不良債権の貸し倒れ引当金を大量に積み増さなくてはならず、体力は益々弱体化する。銀行株は一層下落する。もちろん個人消費も一層低迷する。景気悪化は深刻度を増し恐慌へ突入していくだろう。

 平成不況の原因は需要不足である。不良債権が原因ではない。不良債権は不況の結果なのでる。

 需要不足による失業と不況を理論的に認めない供給側の経済学は、不況期には不適である。

 非効率企業のリストラや退場が経済全体としてもプラスになるのは、生産資源が不足する好況期の完全雇用状況下である。この時には供給側の改革で経済全体の効率を増すことが出来る。そして需給の逼迫を緩和しインフレを抑えて経済を持続的に成長さすことが出来るのである。なぜなら、この時にはリストラされた労働者や退場した企業の労働者は、すぐにより効率的な企業に雇用されていくから失業問題は生じないからだ。小泉内閣の経済政策は、九○年代のアメリカの好況期に喧伝された供給側の経済学を、デフレ的不況期の日本に適用しているのであり、根本が誤っているのである。 


 二、ペイオフ解禁は日本経済を崩壊させる

 
 小泉内閣は体力のない非効率な金融機関をつぶせば金融は活性化し景気は回復していくと考え、ペイオフ解禁を利用してそれをしようとしている。金融庁はペイオフを控え体力のない金融機関を整理するとして、昨年一年で九つの信金、三十七の信組、一つの第二地銀を破綻させた。その結果は融資先企業の倒産・連鎖倒産を含め失業者の増加と景気の一層の悪化である。

 ペイオフはどこの国でもやっていない。アメリカでも超例外的に行っているのみだ。その理由は最もコストがかかり、かつ金融システムを崩壊させる危険性が常にある制度だからである。とりわけ日本ではそうなる。現在日本の大手銀行の財務格付けは最低水準にある。Dが二行、残りは最低のEだ。それでも金融システムが崩壊しないのは預金が全額保護されているからである。こんな時にペイオフを解禁すれば、どこか一行がつぶれて大口預金者に損失が発生すれば、同水準の体力でしかない他行のすべての大口預金者も動揺して一斉に預金を引き揚げることになる。今はゼロ金利だからなおさらだ。そうすれば金融システムは一時間で崩壊してしまう(リチャード・クー著一八九頁以下参照)。金融恐慌であり、日本発の世界恐慌になっていく。

 ペイオフ解禁は国際公約などではない。即刻中止を表明すべきだ。世界中が支持する。 


 三、現在での財政再建は日本を恐慌へ導く


 バブルを一気につぶして平成の大不況をつくりだしたのは政府・日銀の経済政策の誤りが原因であるのだが、政府はその後、財政出動による何次にもわたる緊急経済対策を打ってきた。これに対して供給側の経済学に洗脳されている人々は、「日本では八○年代後半に企業は将来の収益見通しを誤り様々な過剰投資をした。これを早急に整理しなくてはならないのに、政府が財政出動してカンフル剤的に経済活動水準を維持しているから経済構造改革が進まない」「バブルはつぶすべきものである。それによって実体経済が本来の正しい姿に戻るからだ」(前掲小野善康著一七二頁、二九頁他参照)と批判してきた。小泉内閣もそうである。

 なんとも恐ろしい考え方だ。バブル崩壊後、商業地は八三%以上下落し土地と株合わせて一五○○兆円が失われた。何の景気対策も打たねば、巨大な需要不足から日本が恐慌へ突入するのは必至であった。それを防止してきたのが一四○兆円の財政出動であったのだ。その証拠に橋本内閣が財政再建路線をとると、経済は一気にマイナス成長に落ち込んだのである。

 供給側の経済学は完全雇用状態を前提にしており、需要不足による失業を理論的に認めない。そのために財政出動による公共事業は、効率の高い民間部門を圧迫して経済全体の効率を低下させ景気を悪化させると主張する。完全雇用状態であればこの主張は正しい。だから好況期の完全雇用状態では、民間部門をクラウディングアウトするような公共事業は止めるべきである。しかし需要不足で大量の失業者が存在する不況期ではまったく別になる。財政出動によって需要を創出し余剰資源を使って有用なものを作ることが出来るのである。さらにそれに付随して新たな需要をも生み出せる(小野著五一頁)。

 小泉内閣は財政再建路線をとり緊縮予算を組み増税方針を打ち出している。デフレ不況の現在、それは恐慌への道だ。私たちは小泉内閣を批判し、内閣をして「今は財政再建は行わない。財政赤字を顧みず大規模な景気対策を実施し需要を創出して景気を回復させていく」と政策転換させていかなくてはならない。

 日本は政府は赤字でも国全体では巨大な黒字である。だから国民から借金(国債)すればよい。それをしても国がつぶれることはないが、しなければ需要不足で恐慌へ至り国がつぶれる危険があるのだ。旧大蔵省・財務省は政府赤字と国の赤字を意図的に混同させて、財政再建の必要性を強調して国民をミスリードしているのである。国債は発行も償還も、お金が民間部門を右から左へと回るだけで民間全体として負担増は生じない(小野著九二頁参照)。そして国債の九八%は郵貯を含む金融機関が保有しており、それは預貯金している国民が間接的に保有しているということだ。

 もちろん財政政策だけでは自律的で持続的な経済成長には至らない。日本は「流動性の罠」に陥ってしまっている。ここから抜け出すにはインフレターゲットを掲げて、期待実質金利を下げてマイナスにするしかない。「十五年間にわたる四パーセントのインフレ」というインフレターゲット政策(ポール・クルーグマン)をメインにして補助的に財政政策を併用して、必要な需要を創出して景気を回復させていくのである。

 不況と失業は需要不足で起こる。これを認めない供給側の経済学に依って前述のような構造改革をすれば、更に失業と需要不足が増し日本は破壊されてしまう。「構造改革」は洗脳スローガンだ。

                二00二年一月十五日記


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