●日朝平壌宣言を破棄し経済制裁を実施せよ

 

 一、「法の支配」がない日本

 

 日本には「法の支配」の思想がない。「法の支配」と「法治主義」は全く別物である。法と法律は異なっている。法とは、永遠の真理、正義のことであり、人が創るものではなく、発見するものである。人が制定する法律は、この法の下位にあり、法に反する法律は制定してはならない。法に反する法律は無効である。これが法の支配の思想である(中川八洋氏『保守主義の哲学』PHP研究所二00四年四月三0日刊を参照して頂きたい)。

 法の代表的なものとしては、財産権、契約の順守、政府の国民の生命、財産を守る義務、政府と国民の国防の義務といったものがある。最初の法は共産主義を否定し排除している。マルクス主義の「搾取理論」なるものは、財産権と労働契約を否定した詭弁でしかない。

 北朝鮮による拉致は、国家テロであり、日本の国家主権を侵害した侵略行動である。日本は北朝鮮の金正日独裁政権と戦い、同胞を救出しなくてはならない。戦争に訴えてでも救出しなくてはならない。犯人の引き渡しを要求し、賠償金も取らなくてはならない。これは法が命じていることである。日本国家の尊厳と名誉がかかっている。

 効果的な戦い方はある。経済制裁である。金の流れを止め、万景峰号他の入港を禁止するなど禁輸を実施し、北朝鮮を訪問する在日朝鮮人の再入国を禁止する。金と物をストップさせれば、経済がズタズタの北朝鮮であるから、金正日はいずれ音を上げ、拉致被害者と家族を返してくる。だが日本政府はこれまで、法に反して、経済制裁をしようとはしなかった。

 

 二、小泉首相の反国家外交

 

 日本国家の尊厳と名誉は完全に地に落ちてしまった。五月二十二日の小泉首相の屈服・朝貢外交のことである。あの惨めで屈辱的な首脳会談前後の映像と首相の記者会見内容が、それを鮮明に示した。「拉致被害者家族会」「救う会」の厳しい首相批判は、全く正当である。

 首相の外交は独裁者への屈服であるが、より悪質なのは、支持率アップと参院選勝利という自らの政権の利益のために、金正日の戦略に積極的に迎合し、乗っていったことである。もちろん、首相にもスタッフにも金正日の深遠な戦略を理解する能力はないが。小泉首相の外交は、私益のために、日本国家の尊厳と名誉と国益を踏みにじった反国家外交であり、法に違反した政治的大犯罪である。保守知識人は小泉首相の責任を追及し、総理大臣の職を辞すよう求めなくてはならない。自民党には小泉氏よりはるかに優れた政治家は何人もいる。最も優秀な人物が首相の職に就くべきである。

 今回のことは、金正日側からの働きかけに、前記思惑を持つ小泉首相が応えたことで実現した。金正日の狙いは、拉致被害者家族五人を帰すだけで、(1)困難を極める経済状況を乗り切っていくために、金正日を支える特権階級のための食糧と医薬品を身代金として獲得し、かつ(2)金正日独裁体制の息の根を止めることになりうる日本の経済制裁発動の動きを封じ込め、さらに(3)「国交」に向けた交渉を早期に再開させていくことである。

 国交交渉が開始されれば、金正日は日本を引き付けて、日米の対北同盟関係にクサビを打ち込めるし、日米離間さえ可能になりうる。国交が樹立されれば、二年前の日朝平壌宣言によって、厖大な金が長期に渡って北朝鮮に流れ込んでくるから、金正日は経済を立て直し、日本と米国を対象とする核、ミサイル軍拡をより一層強力に推進できるようになるのだ。

 小泉首相は、日朝国交を回復して、歴史に名を残したいとの野望を強く抱いている。それは、今見たように日本国家を存亡の危機に追いやることになることを、全く認識できていない。「日朝国交正常化」は、自由国家日本を滅ぼそうと戦っている左翼マスメディア、日本共産党、社民党、市民的左翼、「進歩的知識人」、新左翼が追求している政治課題である。日本政府と与党は、敵と同じことを求めている自分はおかしいのではないかという最低限の視点ぐらい持たなくてはならない。

 小泉首相は、横田めぐみさん達拉致被害者十人を見捨てた。拉致が濃厚の二十八名の同胞も見捨てた。横田さん達は生きている。もし本当に亡くなっているのであれば、強制収容所での殺害以外であれば、金正日がわざわざ操作した死亡情報を提出する理由はないからであり、かつ拉致目的から考えて彼女らが収容所送りにされることは考え難いからである。首相は法と平壌宣言にも違反して、独裁侵略国家に拉致された同胞を救出せず、見捨てたのである。

 首相は一ヶ月程前、イラクの日本人人質事件で、「テロリストの脅しには屈しない」と言った。しかしその時点でも首相は、北朝鮮の国家テロで、しかも日本領域に侵入してのテロで拉致された数十名の日本人を見捨て、五人の拉致被害者家族を身代金を払って帰国させて、「国交正常化交渉」を再開させるプランを進めていたわけである。首相の「テロリストに屈しない」との言葉は虚妄である。首相が、確固たる保守主義の哲学や政治思想と国益の観点に基づいて、政策を実行しているのではないことは明白であろう。法を否定して政権を私物化し、大衆迎合の「支持率政治」をやっているのである。

 念のために指摘しておこう。小泉首相はこれまで「被害者家族の即時無条件帰国」を強調していた。これも、いとも簡単に投げ捨てられてしまった。経済支援である。なんという言葉の軽さだろう。

 また日本は六ヵ国協議で、米国の「完全で検証可能かつ後戻り不可能な核廃棄がなければ一切の妥協はしない。見返りは与えない」との方針を共有して、金正日独裁政権に圧力をかけてきたのではなかったのか。それなのに首相は、金正日が核の完全廃棄などするはずもないのに、食糧と医薬品を差し上げると表明して、米国政府との約束を破った。

 首相は「北朝鮮が日朝平壌宣言を順守する限り、経済制裁措置は発動しない」と表明した。この意味は、今回五人の家族を帰してもらうことになったので、日本はもはや経済制裁を発動することはないということであり、「平壌宣言を順守する限り」は、単なる飾りのようなもので、強い意味を持つものではない。なぜならば、現在まで金正日は一貫して平壌宣言に違反しているにもかかわらず(核・化学兵器・ミサイル、拉致)、日本政府はその認識を持って経済制裁を実施しなかったし、逆に首相は、同宣言に違反して国交正常化前なのに「人道支援」を表明し、国交正常化交渉再開も表明したからである。日本政府自身が、金正日に屈服する方向で宣言を踏みにじっているのだから、何をか言わんやである。

 

 三、平壌宣言を破棄し経済制裁を断行せよ

 

 米国は現在、イラクで困難な戦いを進めていて、日本の協力を必要とするから、首相の再訪朝と首脳会談に対する批判を抑えているだけである。私たちはこれをちゃんと認識しておかなくてはならない。

 今回の小泉外交は法に違反していて無効である。日本はこれに拘束される必要は全くない。無視すればよい。独裁者・金正日との交渉では、信義など始めからないのだから、日本は金正日を騙してやればよい。食糧等の支援は反古にすればよいのである。理由は山程もある。

 首相は、平壌宣言が日朝関係の基礎であることをお互いに再確認したと言うが、この誤った立場は日本国家を深刻な危機に追いやるものだ。日本は早急に同宣言を破棄しなくてはならない。金正日は密かに核兵器を造りつつ同宣言を締結したし、その後、宣言に違反してNPTから脱退している。これらの事実によって、同宣言は既に無効なのである。もちろん法に反したものだ。独裁国家の北朝鮮と国交回復をめざすのは、正常な国家の自己否定である。

 日本は米国と連携して、金正日政権に対する経済制裁を断行していくのみだ。

                二00四年五月二六日記


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