● 「ソ連崩壊」は大謀略である

 

 一、米国の国家安全保障戦略は誤っている

 

 米国をリーダーとする自由主義諸国は、我々はソ連を盟主とする共産主義陣営との戦いに完全に勝利した、二十一世紀の最大の脅威は、大量破壊兵器を持つテロリストや無法国家である、と考えている。米国の新国家安全保障戦略は次のように述べている。長くなるが引用しよう。

 「自由と全体主義の戦いという二0世紀の大いなる闘争は、自由国家勢力の圧倒的な勝利に終り、自由と民主主義と自由な企業活動が、国家の成功の唯一の持続可能なモデルとして残った。」「今日、米国は、軍事、経済、政治的影響力において並ぶもののない立場を享受している。」「われわれは、テロリストや独裁者と戦うことによって平和を守る。強大国間に良好な関係を築くことによって平和を維持する。どの大陸においても自由で開かれた社会を奨励することによって平和を広げる」。

 「米国を敵から守ることは、連邦政府の最重要かつ基本的な責務である。今日、その任務は大きな変革を遂げた。過去の敵は米国を危険にさらすために、大規模な軍隊と工業力を必要とした。しかし今や、個人の集団による陰のネットワークが、戦車一台の購入費用にも満たない資金で、わが国に多大な混乱と被害をもたらすことができる」。

 「今日、国際社会は、十七世紀に国民国家が出現して以降初めて、強大な国家が戦争に備える代わりに、平和の中で競争できる世界を構築するという最良の機会が与えられている。今日の大国は、テロの暴力と混乱という共通の危険に対して団結し、同じ側に立っている。米国は、こうした共通の利害を基盤として世界の安全保障を促進していく。共通の価値に基づく各国間の団結も強まっている。民主主義国家としての将来と、テロとの戦いにおけるパートナーを目指したロシアの歩みには希望が持てる。中国の指導層は、経済的自由が国富への唯一の手段であることに気付き始めている。中国は早晩、社会的・政治的自由が偉大な国家への唯一の道であることにも気付くはずである。米国は、この二つの国家における民主主義と経済開放を奨励する。それが国内の安定と国際秩序の最良の基盤となるからである」。

 「対ロシア関係の特徴が、対決から協調へと移行したことの利点は明らかである。両者を対立させていた恐怖の均衡は終了した。両国で過去に例を見ない核兵器の削減が行われた。また、テロ対策やミサイル防衛など、最近までは想像もできなかった分野での協力が実現した」。

 「ロシアに対しては、米国はすでに、米露はもはや戦略的敵対関係にないという二十一世紀の中心的現実に基づく、新たな戦略的関係を築きつつある。戦略核削減条約(モスクワ条約)は、この新たな現実を象徴するものであり、ロシア側の思考の極めて重要な変化を反映している。それは、欧州・大西洋地域および米国との生産的、長期的な関係につながることを約束する思考の変化である。ロシアの指導層は、自国が現在抱える弱点、およびそれらの弱点をなくすために必要な国内および対外政策について、現実的な認識を持っている。彼らは、冷戦時代のアプローチはロシアの国益に沿わないこと、そしてロシアと米国が多くの分野で戦略的利害を共にしていることを、さらに深く理解するようになっている」。

 「同時に、われわれはいまだに米国とロシアを分かつ相違について、また永続的な戦略パートナーシップの確立に要する時間と努力について、現実的に考えている。ロシアの主要エリート層に、米国の意図と政策に対する不信が残っていることが、米露関係の改善を遅らせている。自由市場民主主義の基本的価値に対するロシアの姿勢が一定せず、大量破壊兵器拡散との戦いにおけるロシアの実績にも疑問が残ることは、引き続き大きな不安材料となっている。ロシアの弱点が、協力の機会を制限している」。

 重要なので長々と引用したが、米国政府のこのようなロシア認識は西側諸国の共通認識になっている。日本においても、米国の安全保障戦略に対する批判を提起する保守マスメディアや保守言論人はほとんど皆無の状態である。米国も日本も他の西側諸国も、ロシアの大謀略に完全に騙されてしまっている。米国が誤ったままでこのまま時間が経過していくとすれば、他の国もそうだとすれば、ロシアは遠くない将来に戦略的絶対優位を確立して、大反攻に転じて、日本、欧州、中東等を侵略征服することになるだろう。ソ連=共産ロシアの〃崩壊〃とは、国家の偽装倒壊という大謀略なのである。

 

 二、一九九一年の「ソ連政変」は大謀略

 

 西側の共通認識とは次のようである。一九九一年の政変で、ソ連・共産ロシアは倒され、市場経済と民主主義を目指す新生ロシアが誕生した。しかしロシアは、その前後の混乱で経済はズタズタになり経済的弱小国に転落してしまった、と。だが西側は、ロシアに美事に騙されたのである。

 一九九一年八月、ソ連共産党保守派は軍事クーデターを起こし、改革を進めるソ連大統領・ソ連共産党書記長のゴルバチョフを監禁した。ロシア共和国大統領のエリツィンは軍事クーデターを非難して起ち上がり、モスクワ市民もエリツィンの下に結集した。その結果、クーデター軍は腰砕けとなり、内部分裂して、わずか三日間で降伏することになった。エリツィンはソ連共産党の活動を停止させる大統領令を布告した。ゴルバチョフもエリツィンに強要されて、ソ連共産党の解散を命じ、自らも書記長の職を辞した。わずか六日間で国家体制の実質的な転換(白色革命)がなされたのであった。西側はこのように信じてしまっている。

 だが軍事クーデターの首謀者は、ソ連共産党もソ連軍も内務省軍(治安部隊)も政府も国民も全てを監視しているKGBの議長クリュチコフであり、ソ連軍を率いるソ連国防相ヤゾフであり、内務省軍を率いるソ連内務相プーゴであり、他にソ連副大統領ヤナーエフ、ソ連首相パブロフ、ソ連最高会議議長ルチャノフ等であったから、負ける道理はないではないか。一方のロシア共和国大統領のエリツィンには動かせる一兵の軍もなかったのだ。人口一千万モスクワの大部分が、エリツィンの下に結集したのだろうか。否だ。わずか三万人であり、しかも非武装であった。それなのに、クーデター軍は三日間で分裂して降伏してしまったのである。死者もわずか三名であった。テレビの魔術である。西側はソ連の独裁者たちが仕組んだ大芝居に見事に騙されてしまったのである。

 この大謀略政変のシナリオライター兼演出家は、言うまでもなくソ連共産党書記長のゴルバチョフである。突如「八月政変」が勃発したのであれば、西側も疑いの目で検証していくから、謀略は成功しないであろう。だからゴルバチョフは、ソ連共産党の〃改革〃およびソ連の〃民主化〃の芝居を断行し、また一九八九年の「東欧解放」を演出して、西側にソ連も大きく変わりつつあるのだと思い込ませていったのだ。

 すなわち、一九九0年三月のソ連共産党の一党独裁の放棄と複数政党制の導入、大統領制(ソ連軍の最高司令官)導入の憲法改正であり、一九九0年六月のロシア共和国の主権宣言や他の共和国の主権宣言、同年七月のエリツィンのソ連共産党からの離党宣言、一九九一年六月のロシア共和国における複数政党制に基づく大統領選挙(エリツィンが大統領になる)の実施である。これらは全て芝居である。もちろん芝居であることを知らされている者は、一部のごく限られた者であるわけだが。

 これらの上になされた「八月政変」であったから、西側はものの美事に騙されてしまったのである。もうひとつ教訓化すべきことがある。法の支配があって、自由な報道がある西側では、このような大謀略は考えることすらできない。西側は、KGBが国家機関と国民の全てを監視し、かつ国家テロルの恐怖支配が貫かれている全体主義国家ソ連・ロシアの実態を十分認識できていなかった。だから自国のイメージで相手を理解してしまうという誤りを犯してしまったのである。

 謀略の証拠を更に述べておこう。大統領エリツィンが反共産主義で、自由主義・民主主義の新ロシアを目指したのであれば、エリツィンは東欧の新政権がそうであったように、自国民六千六百万人を虐殺したソ連共産党・KGBの大犯罪を裁判で裁かなくてはならないはずだ。だが、殺害された人々の遺族や被迫害者がソ連共産党・KGBを糾弾するデモをすることも無ければ、告訴・告発もなかった。もちろん七十四年間の大犯罪を裁く裁判も皆無であった。

 そればかりか、エリツィンの新ロシアは一九九三年二月、ソ連共産党をロシア共産党として復活させたのである。国家反逆罪で〃逮捕〃されていたクーデターの主謀者たちも、全員が恩赦で自由になった。KGBもそのまま存続させた。西側対策として、KGBの「総局」や「局」に独自の名称を名乗らせることで、言葉の上だけで六分割しただけであった。なによりもエリツィンは、KGBの幹部を次々と首相にしていった。プリマコフ、ステパシン、プーチンである。そしてプーチンを大統領代行に指名して辞任し、プーチンは次の〃選挙〃で大統領になった。ゴルバチョフが描き演出したシナリオだ。

 新ロシアの独裁支配者たちは、すべてソ連共産党=KGBメンバーである。旧西ドイツの首相や大統領等に、ナチスの幹部が就くことができるであろうか。就いた場合、西ドイツの国民は黙したままで抗議しないだろうか。答えは明白である。つまり、ソ連の八月政変とは国家の偽装倒壊であるということであり、ロシアには自由も民主主義も存在しないということだ。ロシアの支配者たちは、ロシアに自由と民主主義があるかのように上手に演出しているだけなのである。ロシア国民は、独裁国家の本質は何ら変わっていないことを肌で感じ取っているから、政府批判など口にせず、従順に支配されているわけである。

 二000年八月の原子力潜水艦クルスクの爆発沈没事件で、ロシア政府はクルスク乗員の家族への説明会を開いた。その様子はテレビで流された。一人の母親が激しく抗議したのであったが、彼女は直ちに数人の男女に取り囲まれ、背後から強力な薬を注射されて崩れ落ち、男たちによって連れ去られてしまった。ロシア政府はこの映像を流して、国民に新ロシア国家の本質を広く知らしめているわけである。改めて恐怖を植え付けている。

 その映像は衝撃的であった。彼女が抗議している間、他の家族は誰一人も同調して声をあげることもなかったし、彼女が連れ出されるときにも抗議はなかったのである。全員が顔をこわばらせ視線を下に落としたままであった。家族たちは夫や子供を失っても、政府を批判すれば、自分や家族の身の上に酷いことが起ることを知っているわけである。ロシアのマスメディアも、これを見ても批判することがなかったし、ロシア国民の抗議デモもなかった。

 すなわち「新生ロシア」は、ソ連時代の支配者が独裁支配している偽装国家なのである。   私たちがしっかりと認識すべきことがある。ソ連=ロシアは、敵である西側内部に手先を作り上げて、彼らを利用して情報心理戦、思想謀略戦を戦っていくということだ。「ソ連崩壊と市場経済と民主主義を志向する新生ロシアの誕生」という謀略も、ロシアだけが主張しても説得力に限界がある。西側内部でも大々的に主張されるから〃真実〃になるのである。ソ連=ロシアのKGB要員が、西側のマスメディア、ソ連・ロシア学者、評論家、官僚、政治家に情報提供して工作し利用するのである。

 

 三、「経済的弱小国家ロシア」は嘘

 

 次の問題に移ろう。ロシア政府は「政変」後一貫して、「ロシアは共産主義経済を否定して市場経済化を進めているが、大革命ゆえに政治的混乱と社会的混乱が重なって、経済は破綻してロシアのGDPはソ連時代の何十分の一になってしまった」という嘘を、マスメディアや経済学者を使って流し続けてきた。そして前述のように、ロシアKGB要員の働きかけで(各国のロシア大使館員もKGB要員である)、西側のロシア学者、マスメディア、評論家、官僚、政治家も同種の主張を展開してきたのである。その結果、「ロシアは経済弱小国家だ」との嘘は〃真実〃になってしまった。

 経済力は軍事力の基盤である。従って、経済的弱小国家に転落したロシアは、巨大な軍事力を維持することは不可能になった、となるわけである。これは、敵を一層油断させ驕慢にさせる強力な嘘情報である。

 日本でも、ロシアの二000年度の実質GDPは日本円に換算して十七・八兆円にすぎないとか、二000年度のロシアの国防費は米ドル換算で六0億ドルに過ぎず、米国の国防費の四十六分の一になってしまったということが、新聞やテレビや『軍事研究』といった専門誌でも繰り返し主張されたのであった。ルーブルの暴落という意図的な操作や偽りの国防費を用いたトリックなのであるが、「我々は冷戦に勝利した」と驕慢にさせられているために、西側は冷静に検証することができず、軽信してしまったのである。

 例えば一九八五年のプラザ合意時、円は一ドル二百五0円であったが、二年後には一ドル百二0円になって、円はドルに対して二倍になった。だが、日本のGDPや国家予算あるいは日本国民の生活水準が二倍になったわけではない。同様に、「ルーブルの暴落」によっても、ロシアのGDPや国家予算や国防費が何十分の一になってしまうわけではないのである。それらは購売力平価で評価されなくてはならない。

 二000年九月時点でのロシアの軍人は、作戦に従事する兵士が二百十三万六千人、文官が九十六万六千人の計三百十万二千人である。一方の米国は百四十万人だ。米国の四十六分の一の軍事費で、二・二倍の三百十万二千人の軍を維持できるのかと自問すれば、ロシア政府の嘘は明白である。こうした嘘をつくということは、ロシアが邪悪な野望を隠している何よりの証拠である。

 ソ連時代の「国防費」は、主として国防省の事務経費や兵隊の給与のみで、兵器の代金はまったく含まれてなかった。真の軍事費は国防費の十倍以上もあったのだ(中川八洋教授『ゴルバチョフの嘘』ネスコ一九八七年十一月刊、五十九頁、『大侵略』ネスコ一九九0年十二月刊、二百五十二頁参照)。ロシアも当然のことだが、真の軍事費隠しを続けている。

 ロシアは、経済的に弱小国家になってしまい、巨大な軍事力を維持することは不可能だとの嘘によって、後述するように、米国の戦略核戦力の絶対的劣位を確実にする「モスクワ条約」(戦略核削減条約。二00二年五月締結)を米国に結ばせることに成功するのである。ソ連=ロシアは、情報心理戦(謀略)と兵器による戦いを二大柱(前者が主)にしていることを、西側は認識しなくてはならない。情報心理戦は、別の意味の「冷戦」だ。

 

 四、「ソ連崩壊」の謀略を行なった理由

 

 ソ連=ロシアの独裁者たちは、何故このような謀略をしたのか。しなければならなかったのか。一番重要なところである。以前にも書いたが、再び繰り返しておこう。

 レーガン大統領は一九八一年一月に就任すると、「強いアメリカ」を掲げ、ソ連の核軍拡に対抗して、核軍拡競争を断固遂行することを宣言した。ソ連を攻勢的に封じ込めていく政策である。

 米国は八三年末から、西欧の同盟国に中距離核戦力(INF)のパーシング2と、地上発射巡航ミサイルのトマホークGLCMの配備を開始していったのである。配備完了は八八年とされた。これによって米国は、ソ連に対して、欧州に限定した戦域核戦争の遂行能力を獲得することになる。従って、ソ連は西欧へ侵略することができなくなってしまう。その理由は、前文で述べた中国に対する「東アジア戦域限定核戦争戦略」の意味を想起して頂きたい。ソ連は封じ込められてしまうわけである。

 さらにレーガン大統領は、八三年三月に「戦略防衛構想」(SDI)の研究開始を決定し、同年末から開始していったのである。もし米国のSDIが完成し配備されれば、ソ連が長年苦労を重ねて開発配備してきた弾道ミサイルが無効化されてしまう。そうなれば、たとえば「もし米国がソ連を核攻撃すれば、ソ連のICBMやSLBMが米国を襲うことになる」と米国を逆抑止して、日本を侵略することもできなくなってしまう。ソ連は一切の侵略が不可能となり、完全に封じ込められてしまうのだ。

 それだけでは済まない。レーガン大統領はソ連を「悪の帝国」と糾弾した。西欧には米国のINFが配備されていく。もし米国がSDIを完成配備した上で、「欧州戦域限定核戦争を開始するぞ!」と威嚇すれば、ソ連は戦わずして降伏するしかなくなってしまうのである。米国は西欧と米国を狙うソ連の弾道ミサイルはSDIで撃ち落とすことができるので、この戦争を挑むことができるようになるのである。

 すなわちソ連共産党とソ連は、国家存亡の危機に直面していたのである。だからこそゴルバチョフは、東欧解放を演出し、一九九一年の「八月政変」の大謀略を行なうしかなかったのである。米国のSDIをつぶし、また欧州戦域限定核戦争戦略と遂行能力をつぶしてしまうためだ。両方とも見事に成功した。米国はソ連=ロシアの謀略戦に完全に騙されてしまった。他の西側諸国も同様である。たしかに、ソ連=ロシアは大退却した。東欧諸国もバルト三国も解放された。だが、大退却は敗北ではない。大反攻するための大退却なのである。

 

 五、〃市場経済〃でソ連以上の強国になる

 

 先に引用した米国の国家安全保障戦略で分るように、米国をリーダーとする西側自由主義諸国は、共産主義陣営との戦いに完全に勝利したと思い込み、驕慢になり、油断しきっている。勝利の根拠は、一九九一年夏のソ連における「政変」である。ソ連=共産ロシアが〃倒され〃、〃市場経済〃と〃民主主義〃を目指す新生ロシアが誕生したことである。

 国家の偽装倒壊であることは既に述べた。自由と民主主義などまったくないことも述べた。しかしロシアが、共産主義経済を否定していることは事実である。括弧つきの〃市場経済〃を進めていることは事実である。だからこそ西側は、ロシアは根本的に変革されつつあるのだ、と信じ込んでしまうわけである。ここが核心的なところだ。

 結論から先に述べよう。ロシアが自ら進んで、共産主義経済を捨てて〃市場経済〃を目指すことにしたのは、ひとつは、米国ら西側を「東西冷戦に完全に勝利した」と騙して、危機を脱するためである。もうひとつは、〃市場経済〃によってロシアはソ連時代よりもはるかに強国になることができ、不変の国家目標である日本や欧州や中東等を征服支配することが可能になるからである。究極的には世界を征服する。

 レーニンらが共産主義ロシアを目指したのは、人間解放のためではなく、「共産主義がロシアを資本主義国よりもはるかに強い国家にしてくれる。それによって世界を征服支配することが可能になる」と信じ込んだからである。レーニンらは、共産主義は資本主義の次の段階としてくる経済制度であり、生産力を無限に発展させていき得る制度だと信じた。だから共産主義ロシアの経済力=軍事力は、資本主義国のそれをはるかに凌駕できることになる。また共産主義の政治と経済は、人間を完全に支配(奴隷化)できるから、共産党が思いのままに人民(奴隷)を動かせると考えた。このように考えたから、レーニンらは共産主義ロシアを目指したのである。世界を独裁支配するためである。中国の毛沢東らも同じ理由で、共産主義中国を目指したのである。

 私たちは、ロシアの国家目標は世界征服であることをまずしっかり認識しなくてはならない。レーニンらはそのための手段として、共産主義を採用したのだ。ところが、共産主義経済では資本主義の米国に技術的、経済的に勝てないことが明瞭になってしまったのである。とりわけ、前記した米国のSDI研究開始に対して、ソ連には同レベルの最先端技術力がなく、対抗しようにも不可能であった。ソ連のMDは核弾頭を爆発させて、相手国の核ミサイルを破壊するもので、自国に甚大な被害を及ぼすことになってしまうものであった。またSDIには二百兆円という厖大な資金が必要であり、ソ連には無理であった。

 だからゴルバチョフは、共産主義経済を放棄することにしたのである。最先端軍事技術と巨大な軍事力を保有し維持するには、ハイテクノロジーと経済力を強化することが必須であるからだ。共産主義経済の放棄と、〃市場経済化〃と〃民主化〃によって、米国ら西側に「共産主義陣営との戦いに完全に勝利した」と思い込ませて国家存亡の危機を脱するとともに、〃市場経済〃によって、西側を利用しつつロシアをソ連時代よりも軍事的・経済的にはるかに強い国家にしていくわけである。一石二鳥だ。

 ロシアは、強国化の手段を〃市場経済〃に転換したのだ。これによりロシアは、西側の資本と技術を受け入れて資源開発や経済強化に利用できるようになるし、最終的には収奪できる。また後記するように、無法国家に対処するMDを、米国欧州と共同研究することを可能にして、米国のMD(=SDI)技術を盗取することも夢ではなくなるのである。

 少し別のことになるが、重要なので述べよう。ソ連時代は、ソ連共産党・KGBが国家機関、軍、治安部隊、国営企業、社会の諸組織に党細胞を張り巡らして支配していた。新ロシアでは、〃自由〃や〃民主主義〃の演出をしているものの、ソ連時代の支配者がロシアを所有して支配していることは同じである。

 私は先に、エリツィンはソ連共産党をロシア共産党として復活させたと述べたが、もう少し説明が必要だろう。このロシア共産党は、ソ連共産党の末端党員が結集したものである。ソ連共産党の中央組織は、「八月政変」以降は当然にも方向転換して、ロシア共産党とは別組織となり、かつ陰の組織としてロシアを支配しているのである。エリツィンもプーチンもこの組織のメンバーである。トップはゴルバチョフだ。

 この組織(旧ソ連共産党)は、軍、FSB(ロシア連邦保安局)やSVR(対外情報局)などのKGB、治安部隊を支配し、政府を支配し、産業界を支配する。また与党「統一ロシア」や「祖国」などの政党幹部としてそれを支配する。ロシア共産党の幹部もこの陰の組織のメンバーである。もちろん、このようなことは決して語られることはないが、様々な状況証拠から論理的に考えて出てくる結論である。

 さて、このようにソ連時代の独裁者たちが所有し支配しているロシアが、〃市場経済〃を進めているわけである。だからそれらは、西側の国家や西側の市場経済とはまったく異質のものである。世界征服のためにロシアを強国化するためのものであり、西側を騙し利用するためのものである。従って、必要な時には国家が常に介入してロシアの利益を守るのだ。

 ロシア政府は先頃、ロシアは一九九九年から五年連続で高度成長を実現したが、今後六年間でGDPを倍増させる計画であると発表した。こう宣伝することで、西側の経済進出を促しているわけである。西側を利用することで、十数年後、〃市場経済〃のロシアは、ソ連時代よりもはるかに強い国家になっていく。それは侵略力の飛躍的な増大である。

 

 六、ロシアの大軍拡と対日核戦力

 

 中川八洋教授の著書がロシアの脅威を鮮明に描き出している。引用しよう。

 「日本におけるロシア専門の大学教員の九割は、ロシアの〃意識した(witting)情報工作員〃であるので、決して、一九九0年代以降のロシアの大軍拡を語ることがない。が、たとえば、ロシアの新型核兵器開発ペースは、ソ連時代と変わらず、日本の自衛隊に比すれば、巨大かつ加速的である。新型のICBMのSS‐27を一九九七年には配備開始したし、すでに数十基を生産した。航空機もSu‐35(スホーイ)など新型の開発に余念がないし、とくに巡航ミサイルには資源をかなり投入している。

 つまり、ロシアは日本に対する核攻撃態勢を重点的に充実してきている。ロシアが爆撃機バックファイアのほとんどを極東に移駐させたのは、それによる対日核攻撃をするためである。現在バックファイア一三七機を日本に向け発進できる。それぞれ三基の核巡航ミサイルAS‐4を搭載出来るので、これだけで四百ヶ以上の水爆を日本に投下できる。

 対日攻撃を任務とする太平洋艦隊のスラバ級巡洋艦一隻は、三五0キロトンの水爆をつけた核巡航ミサイルSS‐N‐12を一六基装備しているが、これだけでヒロシマ原爆の五百倍の破壊力で日本を襲うことになる。しかし、日本には、先の空中発射巡航ミサイルAS‐4や海上発射巡航ミサイルSS‐N‐12を撃墜出来る兵器は何一つとしてない。米国からMD(弾道ミサイル防御)−スタンダード・ミサイルやパトリオットPAC3など−の導入で北朝鮮のノドン弾道ミサイルには対処できても、MDはロシアの巡航ミサイルには全くの無力である。

 日本は英国のように、米国からの〃核の傘〃には依存し続けるが、これに加えて、独自の核をもつ必要がある。そうしない限り、日本の命運は危ういからである。ロシアは日本に対して現在、一千から三千発の核を投下する態勢にある」(『国民の憲法改正』一00、一0一頁。ビジネス社二00四年七月刊)。

 しかし日本政府の『防衛白書』は、ロシアの巨大な対日核戦力を徹底的に矮小化してしまうのである。また「近い将来わが国に対する大がかりな準備を伴う着上陸侵攻の可能性は低いと考えられる。もっぱら本格的な着上陸侵攻に備えた装備などの規模は縮小を検討する」と述べるのである。無残である。国防の放棄だ。ロシアを敵だと認識できない。

 日本はロシアに、北海道の一部の歯舞、色丹、南千島の国後、択捉、そして北千島全島を侵略され占領されたままなのである。日本はサンフランシスコ平和条約で、北千島を放棄したが、ソ連は同条約に調印しておらず、従って日露間では北千島も日本領土のままである。南千島は昔から日本固有の領土である。これらの日本領土を返還し賠償をしないばかりか、領土を餌にして、日本から金をまき上げ続けているのが「新生ロシア」だ。これによっても、その正体が判るというものではないか。

 

 七、「トロイの木馬」戦略

 

 西側はソ連=ロシアの支配者たちの大謀略がに敗北して、「我々は共産主義との戦いに完全に勝利した。ソ連は崩壊消滅した。ロシアは経済的に弱体化した。ロシアは市場経済国、民主主義国としての歩みを続けており、対ロシア関係は対決から協調へと移行した」と考えてしまっている。ロシアはこの謀略で、以下に述べることを実現してきている。

 (1)ロシアを封じ込めていた米国の欧州に配備されたINFのパーシング2、トマホークGLCMは、一九九一年五月末までに全廃されてしまった。今日ではその生産工場もなくなってしまった。しかしロシアは、INFから取り外した核弾頭を保管し、INF生産工場も維持している。二00一年までに検証期間は終了した。従って、ロシアは密かにINFを生産していくことが出来る。

 (2)米国には戦略核であれ非戦略核であれ、核弾頭の生産工場がもはやない。だがロシアは二カ所の生産工場が稼動している。

 (3)米露は二00二年五月、モスクワ条約(戦略核削減条約)を結んだ。ロシアは弱体化して財政的に戦略核弾頭を千五百発いや七百五0発を保有するのが精一杯だ、とのロシアの嘘に米国政府が騙されて結ばされた条約である。現在米国は、第一次戦略兵器削減条約に従って二00一年末までに戦略核弾頭数を六千発に削減している。だがロシアは財政難(嘘)を口実にして核弾頭を解体せず保管したままだ。その他にも隠匿したものがある。つまり現在でもロシアが最大の核大国である。

 米国はモスクワ条約を守って、二0一二年末には最大でも二千二百発までに削減する。そして現時点では、二千四百発を予備として保管する方針である。だがお人好しの米国政府は、ロシアから「千五百発しか保有できないロシアとの格差約三倍は、両国の戦略的関係、両国の信頼を脅やかすものだ」と批判されて、配備と保管の合計数を三千発位まで削減していくことであろう。一方のロシアは配備と保管で六千発、それに加えて隠匿してあるものが山程あることになる。

 またモスクワ条約は、重ICBMとMIRV・ICBMの全廃を命じた第二次戦略兵器削減条約は切り捨てた。だからロシアは、両ICBMを配備し続けるが、米国は既に重ICBMを廃棄してしまった。また米国は、MIRV弾頭を単弾頭用として使うことにした。ロシアのMIRV・ICBMは一基に十ヶの弾頭を装着できるから、弾頭数の絶対優位を直ちに戦力化できるのである。

 ロシアは将来、大反攻を開始する際には、モスクワ条約など破って戦略核弾頭を急増産していく。だから露米の格差は更に拡大する。米国には核弾頭生産工場がないのだ。

 またロシアは将来の大反攻に備えて、核弾頭の運搬手段たるICBM、SLBM、ALCM(長射程の空中発射巡航ミサイル)、戦略爆撃機、また中距離弾道ミサイル・巡航ミサイルの生産能力を維持・拡充していく。だからその時には急増産ができる。だが米国は、第一次戦略兵器削減条約の運搬手段数の上限千六百基(機)を順守するし、ロシアの将来の大侵略など考えもしないから、それらの生産能力は将来は現在よりも激的に縮小している。従って、対抗の急増産ができない。

 (4)ソ連と対決してきたNATOは、モスクワ条約の四日後になされた「ローマ宣言」によって、最終的に事実上解体してしまった。同宣言は「NATO・ロシア理事会」を設立した。ロシアはここで、NATOのある領域の意思決定に対等の立場で加わるのだ。その一ヶ月後に開催されたG8首脳会議では、ロシアをG8の正式メンバーにすること、二00六年のサミットはロシアで開催することが決った。

 イラク戦争をめぐっては、フランスとドイツはロシアと共同戦線を組んで、米英と対決したのであった。様変りである。

 (5)ソ連の弾道ミサイルを無効化するための米国のSDI、すなわち今日のMDは、無法国家とテロリストを対象とする小規模なものに矮小化されてしまった。将来、大反攻するとき、ロシアの大量のICBMは米国のMDを簡単に突破することができる。

 ロシアは、米国のMD技術の獲得を追求している。一九九二年には、エリツィンが父ブッシュ元大統領にSDIの共同開発を提案していた。プーチンも二000年、二00一年に、イラン、イラク、北朝鮮のミサイルに対する米欧露による共同ミサイル防御網の建設を提案していた。そしてモスクワ条約と一緒になされた「新たな戦略的関係」と題された「米露共同宣言」によって、念願の米国のMD技術の獲得が現実のものになろうとしているのである。共同宣言は、「早期警戒システムのデータ交換のための共同センターの設立をめざす。ミサイル防衛に関係した共同演習の拡大や、ミサイル防衛技術の開発のための共同研究の可能性についても、機密情報や知的所有権の保護の重要性を認識した上で検討する。NATO・ロシア理事会の枠組み内で欧州のミサイル防衛に関する実践的な協力の機会を探る」と謳っているのだ。

 ボルトン国務次官による「新戦略枠組み−二十一世紀の脅威への対応」(二00二年六月)は、次のようにはっきりと述べている。「二00二年五月にモスクワで行われた首脳会談で、『新戦略枠組み』と称する包括的な安全保障戦略について合意した。この新戦略枠組みには、戦略核兵器の削減、ミサイル防衛システムの確立、大量破壊兵器の拡散防止と拡散対策等の強化、およびテロとの戦いにおけるロシアとの協力、などが含まれる。この枠組みは、冷戦後の、より協力的な米露関係によって、軍備管理問題への新たなアプローチが可能になったとの確信から生まれたものである」。

 「米国は、アラスカ州フォートグリーリーに迎撃ミサイル用の地下サイロ六基を建設中であり、このほかにも、米国とその友好国・同盟国のために、限定的ミサイル攻撃に対する陸海空の多層的な防御体制の配備計画を進めている。米国は、ロシアや米国の同盟諸国と協力して、そうした防御システムの研究開発を進める予定である。無法国家のミサイルの脅威は、こうした国々の目前にも迫っているからである。」「米国とロシアのパートナーシップと協力は、ブッシュ政権の当初からの重要な目標であり、米国とロシアは、両国と文明社会全体を脅かす危険を排除するために協力していく」。

 (6)前記「米露共同宣言」には「経済協力」の項目がある。「米露は、ロシアのWTOの正式加盟を最優先事項とする。米国のジャクソン・バニク修正条項(旧共産圏諸国との貿易を規制するもの)からロシアを除外する重要性を強調。経済協力強化に対する障壁の排除に努力する。両国間の貿易・投資の拡大に加え、特にカスピ海地域での石油、天然ガス開発協力が強化されることを歓迎する」となっている。

 ロシアは米国、ドイツ、英国、フランス、オランダ、イタリア、日本など西側自由主義諸国の資金と技術を導入して、石油や天然ガス資源の開発、パイプライン敷設、積み出し施設と港湾の整備を進めていく。これは即、軍事力の強化である。また外貨の獲得になっていく。またロシアは、西側の資金と技術を利用して老朽化した工業を刷新していくことをめざす。経済力の強化は軍事力の強化である。〃市場経済〃国ロシアは、ソ連よりもはるかに強い国になっていく。

 以上(1)から(6)のように、ソ連(共産ロシア)が冷戦時代に必死に追求してきた軍事・政治・経済課題が、「ソ連崩壊」の大謀略によって、実現してきている。謀略戦略、トロイの木馬戦略こそ、最も恐ろしい戦略だ。

 ロシアは大退却しただけであり、大反攻の機会を窺っている。戦略環境を改善し、戦略的絶対優位を確立したとき、大征服は開始されていくのである。ロシアの独裁支配者たちは、米国のMD技術を獲得し、MDを配備したら、征服を開始するだろう。MDで対等となれば、攻撃核戦力で圧倒的に勝る方が、戦略的に絶対優位に立つのは明白であるからだ。

 現在の米国のMDは極めて小規模なもので、ロシアのICBMは容易に突破できる。だからロシアは今、やろうと思えば米国を逆抑止して日本を侵略征服することはできる。だがもしそうすれば、米国はMDを大規模化して、ロシアの弾道ミサイルを無力化していくことが可能だ。そうなれば、ロシアは米国の核戦争の恫喝に降伏を余儀なくされてしまうのである。だからこそ、ロシアは米国のMD技術を是非とも獲得しなくてはならないと考えているのである。

 

 八、対露「東アジア戦域限定核戦争戦略」を

 

 ソ連=ロシアは情報心理戦を主要な戦いとしている国だ。米国も日本も西欧も、対露戦略を誤ってしまっている。

 ロシアは直接、米国に核戦争を仕掛ける意思など持っていない。共倒れになるからだ。ロシアはまず米国を逆抑止して、ユーラシア大陸の周縁部、つまり日本や欧州や中東・北アフリカなどを征服することを狙っている。地政学には、「世界島(ユーラシア大陸とアフリカ大陸の総称)を支配する者は世界を支配する」とのテーゼがある。ロシアは世界島の支配をめざす。そうすれば、南北アメリカ諸国は経済封鎖されてロシアの軍門に降り、最後に残る米国も内部分裂して最終的にはロシアに敗北するだろう。

 日本の永続には、日米同盟が大前提だが、米日の世界戦略の誤りは、日本にとっては即、国の滅亡に直結する。ロシア(や中国)の謀略により、もはや米国の核の傘に頼っていれば、日本の安全と独立が守れる状況ではなくなっている。日本こそが国を挙げて、一九九一年のソ連の「政変」は大謀略でトロイの木馬戦略であることを米国に訴え説得していかなくてはならないのである。日本の存立と自由世界の存立を守れるか否かは、これにかかっている。

 日米は、ロシアに対する「東アジア戦域限定核戦争遂行能力」とMD配備を可能な限り早く実現していかなくてはならないのである。中距離核戦力だけでは、ロシアの中枢の欧州部を攻撃できないので、長射程弾道ミサイル(ICBM、SLBM)の日本配備も不可欠である。米国のICBM部隊(移動式)の日本配備とともに、日本も、米国からICBMとトライデントD‐5SLBM搭載の原子力潜水艦を購入して、配備していくのである。日本のこの両戦略核戦力は、米国との二重キーになるので、米国の懸念は解消される。この戦略は、中川八洋教授が二十年も前から提唱されているものである。ロシアは封じ込められてしまう。

 もちろん米国と欧州は、再びパーシング2と核トマホークGLCMを欧州に配備して、「欧州戦域限定核戦争戦略」の実行を可能にしていかなくてはならない。

 このようにしてロシアを完全に封じ込め、かつMDを完成させ配備すれば、ロシアは降伏を余儀なくされるのである。

 

 九、戦争の二十一世紀にしないために

 

 自由主義陣営と全体主義陣営との戦いは、前者の圧倒的勝利に終った、ロシアの民主主義国家としての将来には希望が持てる、中国も早晩、社会的・政治的自由が偉大な国家への唯一の道であることに気付くはずだ、との世界観を持つことは、自尊心を満たし、かつ安心感を与えてくれるものだろう。だが、これは幻想でしかない。ロシアや中国の謀略に騙された結果なのである。

 二年前の十月の「モスクワ劇場人質テロ事件」でのプーチンの制圧作戦は、多くの人質の命などはじめから全く配慮しない致死性毒ガスを使用したものであった。百二十九名の人質が死んだ。国民に、国家の恐怖を植え込むことも狙ったものであった。今回の九月の北オセチア共和国での「学校人質テロ事件」に対する突入命令も、計画的なものであって、人質の命など考慮されていない。最初の爆発も特殊部隊によるものと考えるのが合理的である。そして両事件でも、被害者とその遺族によるプーチン政権に対する説明を求めるささやかな行動すら起らなかったのである。モスクワでは、官制の三万人の反テロ集会が開かれた。自由や民主主義があれば、考えられないことだ。

 自由主義諸国は、国家テロルの恐怖で国民を支配する全体主義国家のことを、実体験として知らない。だから、ついつい鏡に写った自分の姿を見て、ロシアを判断してしまう「ミラー・イメージング」の誤りを犯してしまうのである。米国は「冷戦終結」後、新型ICBMの開発などしてないし、開発中のものも中止してしまった。一方のロシアは、二00四年二月にも、新型ICBM・SS‐27のMIRV化をにらんだ発射実験を成功させている。西側と同じ価値を志向するのならば、こんなことはするはずがない。

 西側が、情報心理戦に負けたままで時が過ぎていくならば、二十一世紀は西側諸国の存立を否定する戦争の世紀になってしまう。

 日本は全力を挙げて、ロシアの正体を米国に説得していかなくてはならない。ロシア政府やロシアの研究機関や学者やマスコミの文書を基に研究すれば、罠にはまるだけだ。

 日本は同時に、八章に述べた戦略を実現するために、早急に、憲法九条の誤っている解釈を是正する閣議決定を断行しなくてはならない。非核三原則も破棄し、武器輸出三原則も見直さなくてはならない。スパイ防止法も制定する。これらは、法が命じる責務であって、政権の政策選択の問題ではない。これらにことごとく反対して、日本を国防不能な国のままにしておくために戦うのが、左翼マスコミを中心とする国内の左翼である。左翼はロシア、中国の尖兵である。国防のためには、内なる敵である左翼との戦いが不可避である。

 自由な日本国家を保守して、子孫に相続していくことは、国家の統治層と国民の世襲の責務である。国防は、法が統治層と国民に命じている最大の責務である。法を否定して国防の責務を果さず、政府を私物化することは、最大の政治的犯罪である。これを批判するのが保守言論人の役割だ。統治する者も一般国民も、一人一人が法が命じることを実行していく勇気を持とう。今、弱小国家北朝鮮に対して、核トマホークを配備し、経済制裁を断行して、拉致被害者全員を奪還できないようでは、将来のロシア、中国の大侵略から祖国を守ることは不可能だ。

                二00四年九月十九日記


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