●日米敗北の六カ国声明

 

 一、北朝鮮を利する六カ国共同声明

 

 九月十九日、六カ国協議で初めての共同声明が採択された。北朝鮮の要求が驚くほど一杯に盛り込まれた共同声明である。拒否して当然なのに調印してしまった日米は、北朝鮮・中国・露の三カ国同盟と親北・親中の左翼国家の韓国の四カ国に、外交的に敗北したのである。

 金正日の北朝鮮は、核兵器・核関連施設を全廃する意志など微塵も持っていない。なぜならば、攻撃しない、侵略しない等を謳う共同声明は、単なる書類であり、米国の政権が変わり、北朝鮮の動きによっては、いつ破棄されるか分からないと、金正日は考えるからだ。その時に核兵器が無かったならば、自らの独裁国家の存続は危うくなってしまう。核兵器が独裁国家の安全を保障する。金正日は、将来の「韓国の赤化併合」の戦いを、米国から守るのも核兵器だと考えている。

 九四年十月のジュネーブ合意で明らかなように、全体主義侵略国家にとっての共同声明等の国際取り極めは、相手(敵)を騙して調印させて拘束するための手段である。自らは順守する意志などまるでない。今回の共同声明には、「すべての核兵器および既存の核計画を放棄すること・・・を約束した」と謳われているが、単なる書類上の言葉であり、日米を騙すためのものである。同じく全体主義侵略国家の中国およびロシアも、そのことを理解している。もちろん、それを敵の日米に告げることはない。

 NPTに復帰し、IAEAと査察協定を結ぶことが、北朝鮮の核兵器、核計画の放棄の検証を実効性あるものにするであろうか。全く否だ。IAEAが以前に「核開発凍結」で監視した寧辺の原子炉、再処理施設等であれば、検証することが出来る。だが北朝鮮は、山奥の地下に隠された秘密の原子炉、核燃料棒成形加工工場、再処理施設、また高濃度ウラン生産工場、核ミサイル発射場を保有し、稼動させている。米国もその場所を把握できていない。従って、IAEAが一方的に指定して行なう特別査察も行なうことが出来ない。

 そもそも、確固たる証拠があれば別だが、そうでなければ、北朝鮮の同盟国の中露によって、IAEA理事会で特別査察は反対されてしまう。仮に特別査察を実施することになっても、北朝鮮に「ここは核関連施設ではない。軍事施設である」と拒否されれば、強制手段を持たないIAEAにはどうすることも出来ない。米国が安保理に付託して制裁を発動しようとしても、六カ国協議の当事者たる中露が拒否権を行使することになるのは必至である。

 共同声明には、米国は北朝鮮に対して核兵器や通常兵器による攻撃または侵略を行う意図を有しないことを確認し、北朝鮮の主権を尊重して平和裏に共存することを約束した、と謳われている。金正日が狙った第一は、今述べた自らの独裁国家の安全の保障である。こうした内容が、米朝二国間の共同声明としてではなくて、六カ国協議の共同声明として盛り込まれたことは、北朝鮮にとって極めて大きな力になる。

 金正日は最初から六カ国協議を望んでいた。しかし彼は、米国に本心を見透かされないために、逆に、米朝の二国間協議に執着しているように演技した。ディスインフォーメーションである。これに米国政府はひっかかってしまったわけである。北朝鮮の同盟国の中国とロシアそして友好国の韓国の四カ国と日米では、日米が不利に決まっている。ましてや中国を議長国にするとは、誤りの極みであった。

 米国は、共同声明の「約束対約束、行動対行動」の原則により、北朝鮮が約束を履行しなければ、自らの約束を順守する義務はない。だが、ひとたびこうした共同声明に調印してしまうと、北朝鮮がNPTとIAEAの保障措置に「早期に」帰復して、核兵器と核関連施設を放棄しない場合にも、米国が軍事攻撃することに反対するマスメディアやNGOの力が米国内で一段と大きくなってしまう。国際的にもそうなる。「早期」の解釈にも違いがある。

 また、北朝鮮は当然のことながら、「行動対行動」原則を利用して、NPT復帰に対する米国側の「行動」を要求してくることになる。たとえば、韓国内に核兵器が存在しないことを客観的に明らかにすることを要求する。こうなると、北朝鮮はNPTに復帰しなくてもよいことになってくるし、中露と韓国も六カ国協議でそれを支持する。米国も「行動対行動」原則に拘束されて、軍事行動等をとれなくなる。

 核兵器と既存の核計画の放棄につても、北朝鮮はそれに対応する米国側の「行動」を要求する。「軍事攻撃また侵略を行う意図を有しないことを確認した」と「平和裏に共存する約束」を、行動で具体的に証明することを求めてくる。こうなると、北朝鮮はそれを放棄しなくてもよいことになってくる。中露と韓国も支持する。六カ国共同声明はこのように、北朝鮮が米国に対応する相応の行動を要求すれば、北朝鮮は約束を履行しなくてもよいように出来ている。日米の敗北である。

 

 二、北朝鮮の戦術

 

 しかし北朝鮮は、前記したような消極的な戦術に留まらないはずである。北朝鮮は、相応の措置を要求して物事が何も進まなくなることを米国に思い知らせ、妥協の必要性を痛感させた上で、次の手を打っていくであろう。推測してみよう。

 北朝鮮は次のように主張する。「米国が、我が国に対して軍事力による攻撃または侵略を行う意図を有しないことを確認しても、その保証は何もない。だから我が国は、国の安全を守るために抑止力としての核兵器を放棄することは出来ない。当該『確認』の『行動』化が必要だ。それは保証になる措置でなくてはならない。米国が、我が国が核抑止力をしかるべき期間保有することを承認することが、それである。そうすれば我が国は、NPTとIAEAの保障措置に早期に復帰する。ただし、核関連施設を直ちに放棄することは出来ない。米国が約束を破って攻撃してくるかもしれないからだ。それらの施設はまず凍結することにする。その後の朝米関係を見て、米国が我が国を軍事攻撃や侵略しないことが信じられるようになった時に、放棄する。また全ての核兵器も放棄する」と。

 中露そして韓国はこれを支持することになる。北朝鮮は同時に、米国等に、右凍結を受けて、KEDOのエネルギー支援を開始すること、および軽水炉建設の再開を要求する。中露韓の三国はこれを支持する。米国と日本は、何も進展せず、さらには北朝鮮が六カ国協議から離脱してしまう事態になることを恐れて、北朝鮮・中国・ロシア・韓国連合の主張を受け容れてしまわないだろうか?

 金正日の北朝鮮は、米国には以前のように重油の提供をさせ、また軽水炉二基の建設を再開させ、日本には平壌宣言に従って国交を正常化して莫大な経済支援と経済協力をさせ、むろん韓国にもエネルギーと経済支援をさせて、経済を再建し軍事力を強化し、山奥の地下秘密施設で核兵器の開発と増産に一層励んでいくことを狙っているのである。

 また北朝鮮は、米国に北朝鮮と平和裏に共存する「行動」をとらせていく。すなわち、朝鮮戦争の休戦協定を廃止して平和条約を締結させ、在韓米軍を撤退させていくことを狙っているのである。北朝鮮は共同声明第四項をこのように具体化することを意図している。当然のごとく中露は双手を挙げて支持する。その頃には、親北韓国政府も支持するようになるだろう。在韓米軍がいなくなれば、北朝鮮が国家目標にしている韓国の「赤化併合」事業は容易になる。

 共同声明は、六カ国協議を「北東アジアにおける安全保障面の協力を促進するための方策について探求していく」機構と位置づけたが、今見たように北朝鮮、中国、ロシアという独裁侵略国家の安全保障を一方的に利し、拡大していくものになるのである。

 

 三、六カ国協議は直ちに廃止すべし

 

 自由主義国家は、北朝鮮や中国やロシアのような全体主義侵略国家とは、外交交渉を決してしてはならない。これをやれば、敗北が待っているだけだ。彼らは、始めから国際取り極めを守る意志など持っていない。敵を騙して拘束するためにのみ交渉をする。国内には、独裁政府をチェックして批判する自由な報道機関も、野党も、NGOも存在しないから、やりたい放題に嘘の言葉で交渉が出来る。

 一方の自由主義国家では、政府の行動は常にチェックされ批判に晒される。また独裁国家の指示を受けて、あるいは意を体して、運動する勢力が国内にいる。政府は交渉で嘘の主張をすることは出来ない。国家の非対称性があるのだ。この真理が認識されていない。

 小泉政権は、拉致問題を適当なところで〃解決〃したことにして、国交正常化を目指している。もし国交となれば、危険な存在となる横田めぐみさん達は、全員殺害されてしまうのだ。国交正常化は拉致被害者殺害の共犯である。絶対に阻止しなくてはならない。六カ国協議は、日本を狙うサリンなど化学弾頭搭載の二百基のノドンも無視している。

 日米は直ちに六カ国協議を廃止しなくてはならない。特に日本は、国家の安全保障がより一層脅やかされる事態になるのであるから、米国政府の尻を叩いても廃止させ、北朝鮮に対する経済制裁や自衛の軍事作戦を共同して断行していかなくてはならないのである。

               

               二00五年九月二十九日記


〔お詫び〕 私(古田)の生活が忙しくて、渡辺の原稿をHPに流すのが遅れてしまいました。お詫び致します。


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