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新しい世界
ワイズマンがナイツに倒されてからしばらく、
リアラは何の目的もなしに飛び回っていた。
ワイズマンはいない。ナイツも行方が知れない。
このナイトディメンションを支配できるとすれば、自分だけだ。
でも一体何をすれば良いというのだろう。
こんな広い世界で、自分一人で。
ナイツのように、あちこち飛び回ってみるものの、
それはリアラにはおもしろいとは思えなかった。
こんな事の何がそんなにいいんだろう。あいつの考える事はわからない。
でも他にすることも見当たらないので
やっぱり飛び続けるしかなかった。
ある日、リアラはナイトメアの片隅の岩場で休憩していた。
すると、数匹のサードレベル達が近寄ってきた。
というより、リアラのいる場所が彼等のねぐらだったというべきか・・
サードレベルなど、珍しくもないので、リアラはさほど気にしなかったのだが、
彼等は突然リアラに襲いかかってきた。
力の弱いサードレベルはリアラを恐れて逃げ出すのが普通だが、彼等は違っていた。
リアラも突然のことに驚き振払おうとしたが
彼等は必死に攻撃を続けた。しかし所詮、リアラの敵ではなく
あっというまにひねり潰されてしまった。
「なんなんだ・・?」
どうしてもわからない。
歴然とした力の差はわかりきっているはずなのになぜ?
リアラは岩場の小さな声に気付かずその場を後にした。
またある日、リアラはナイトピアを飛んでいた。
すると、ピアンの卵を見つけた。
リアラを見た親ピアンが卵を抱えたまま怯えていた。
踏みつぶしてやろうと近付くと誰かに石をぶつけられた。
王冠をかぶった、輝く羽を持つピアンが一生懸命リアラに石を投げている。
それを見た他のピアン達も一斉に石を投げはじめた。
「フン・・こんな下等な生物にも同族を守ろうとする意志はあるんだな」
あざけるように笑いを浮かべリアラはピアン達の目の前で
卵を踏みつぶそうとした・・・その瞬間、一斉にピアン達がリアラに飛びついた。
「!?」
ピアン達にもみくちゃにされながら・・・リアラはある事を思い出した。
リアラはピアン達を振払ってナイトメアへ引き返した。
そして、あの時の岩場へ戻ってきたリアラは理解した。
「子供を守っていたのか・・」
巣には、既に息絶えたサードレベルの幼体が横たわっていた。
あの時リアラが親を殺してしまったからだ。
リアラが殺したサードレベルのつがいは一組だけではなかったので
まだ巣があるはずだった。でも・・もうダメだろう・・
そう思った時、リアラは小さな声に気が付いた。そして・・
「何だこれは?見た事もない・・!」
それはリアラが今まで見た事のない姿をしていた。
おそらく突然変異で生まれたのであろうその命は、まだ、微かに
温もりを保っていたのである。
リアラは迷わず手に取り、連れ帰った。
「サードレベルが・・・新しい命を、新しい種族を生んだ。
・・・マスターが苦労してなし得たのと同じ事を、サードレベルが」
「これから俺はどうしたらいい?」
「俺はナイトメアの支配者だ」
「お前は俺の支配する世界に生を受けた」
「それなら・・・俺はお前を育てよう」
小さな命はこうして、生き延びるチャンスを手に入れた。
やがて・・・彼は逞しく成長した。
あの日以来、彼はリアラの側を片時も離れずにいた。
でもリアラは考えていた。
お前はここにいてはならない。
俺の元から離れなければならない。
また新しい命を生む事ができるはずだから。
でもリアラがどんなに威しても、振払っても、彼はリアラの側を
離れようとはしない。彼は信じていたのだ、リアラの事を。
リアラは彼を連れて、サードレベルの溜まり場にやってきた。
「お前の仲間だ。行け。・・・俺はここにいるから」
そう言ってリアラは座り込んだ。
彼は戸惑ってリアラの顔を覗き込んだりしたが、やがて
群れの中に混ざっていった。
「・・・」
リアラは彼が見えなくなると無言でその場を後にした。
「俺はここにいる。間違いなくお前の側にいる」
彼がその後どうなったのか、リアラは知らない。
リアラは再びナイトピアへやってきた。
ピアン達が怯えて逃げていくのをただ眺めていた。
彼のことを思い出しながら。彼と出会った日を思い出しながら。
そしてリアラはあの日のように、ピアンの卵を見つける・・・
あの日のように、卵を抱えたピアンが怯えながら、それでもしっかりとした
眼差しでリアラを見つめていた。
リアラはそのピアンを払い除けて卵に手を乗せた。
必死にリアラの手にしがみつくピアン。
「新しい生命、か・・・」
そして・・・
ナイトピアの優しい陽射しの中でまどろんでいたナイツは
目の前の光景に自分の目を疑った。
一匹のピアンが嬉しそうに追いかけているのは見覚えのある赤と黒のコントラスト。
「ど、どーなってんだありゃ!??」
ナイツは驚きながらもおかしさに耐えられなくて思わず吹き出した。
そんな事があってから、リアラは悪夢を創り出していない。
悪夢を創るまいという意志なのか、それとも創れなくなってしまったのか。
もともと、ワイズマンがファーストレベルを人間と同じ姿にしたのは
人間の心を理解し最も恐怖するものを見つけだすためだった。
ファーストレベルの二人はワイズマンすら計り知れない人間の心を持って生まれてきたのである。
ワイズマンのその考えは間違ってはいなかった。
実際に多くのビジターに恐ろしい悪夢を見せる事ができた。
しかし、誤算があった。
勇気――人間の心の奥底に眠っている無限の力。
それがどんな恐怖も克服してしまうことをワイズマンは知らなかった。
もちろんファーストレベルの二人にとっても同じ。
だからワイズマンは倒されてしまったのだ。
ナイツとビジターの勇気によって。
そしてリアラは、自分の中にあった人間の心を知る。
だからもう悪夢は創らない。
ワイズマンは自分で新たな秩序を築こうとしたが、それは間違いだった。
だからもう繰り返さない。繰り返させない。
自分は今までの自分ではないのだから。
ナイツの「自分の意志を貫く勇気」。
リアラの「自分の過ちを正す勇気」。
――ワイズマンはいない。ナイツも行方が知れない。
このナイトディメンションを支配できるとすれば、自分だけだ。
でも一体何をすれば良いというのだろう。
こんな広い世界で、自分一人で。――
今まで見えなかった、自分がするべき事が見える。
この世界は俺のものだ。
何をすればいい?簡単な事だった。
この世界を護ればいい。
自分が今いる、この世界を。
そんなわけでリアラは今日も
夢の世界を飛び回っている。
新しい世界に生きる、新しい生命を護って。
おしまい
いかがでしたでしょうか。
リアラさんいい人だったでしょう?(^^;
彼等が人間と同じ心を持ってるとしたら、
ほんの少しでも、温かい感情があるはずなんです。
ただ、メアンとして生きるためには邪魔になってしまう。
だからリアラはずっと押さえ込んできたんだろうなぁ。
自分が忘れてしまうくらい。
ナイツはメアンらしく生きようとは思ってないので
無理に隠そうとはしなくて、それでエリオット達もすぐ
打ち解けられたんじゃないかな〜。
稚拙な文章に付き合って下さった方、
ありがとうございましたm(_ _)m
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