短歌

公平に叱りしと思へどすねていし教え子たずね来ほっと息つく
                         1990年7月10日


天の底抜けて生徒ら避難する 濡れても帰るあいつは昔の僕
                         2001、秋季号
海ながめる君の横顔我は見る 音のない言葉だけが過ぎていく 
                          1994春季号

国営のデラックスホテルわきみればバリ島の漁民日の糧を漁る
                          1994冬季号

午前一時音消してみる深夜テレビ誰でもよし人の顔見たし
                          1993秋季号

机うち声は出すが手は出さぬ臭い演技にて生徒を叱る
                          1993秋季号

イラン人の変造テレカ買うフィリピーナ国際電話にかけ込みゆく
                          1993秋季号

東急の車窓より見ゆる玉川の小径の様を故郷と重ぬ
                          1993夏季号

悲しみを胸のうちより取り出して大空に自分ごと放り投げたし

梅を買い我為にと梅漬ける母の手元より梅干しのできゆく
                          1992秋季号

寒風に悲鳴あげる乙女らの語る言葉はピリピノ語
                           1992夏季号

命が私に戻る時 今日が長いあくびをし目をさます
                           1992春季号

酔いしれて母校の前を過ぎゆけば非常灯が遠くで笑う

曇天のプラットホームにうなだれて俺を見るのか凌霄花
                           1992冬季号

雪とりてとけゆく程のぬくもりを心にそっとしまいこむ

午前二時目いっぱいのボリュームでロック聞くヘッドホーンの中に俺がいる
                           1991夏季号

テレクラのビラ配りいる手元から失われゆくアジアの森林
                           1991春季号

教え子の一瞬の青春我は撮る緑にひびく球技大会

やめたいと言う生徒に手紙書き制服姿町に見る心落ち着く
                           1990秋季号


藤棚を切ろうとははそはの母が言う 母よあなたも消えるのですか
                           2001冬季号


   実は河野先生に添削されました。どうしても字余りになり、悩んだ末でした。

年の瀬に 古新聞をかたづける        

         一年をいくつもの束にくくりゆく


                           2002 春季号

グランドにめいっぱいのノックをし 

         生徒ら走らす五十の私

                           2002 夏季号

街路樹の 下に息づく雑草を

         見ている我は巨人となれり

                           2002 秋季号

母を連れ 次の施設にまた送る

          遠慮遠慮の年休とりて

                           2003 夏季号

ジーパンと ティーシャツ着替えて町歩く

              別人になりたる時が良い

                           2003 秋季号

寝ころびて 昔の我に再会す

その原におる無我の笑みの子

                           2003 冬季号

年休をとりて一日創作す

        今さらながら一日の大事

                           2004 春季号

板前になりし教え子訪ね行く

      巻物得意と握りて渡す

                           2004 夏季号


ありんこが ひびいりたるコンクリの

            中にうごめく斥候のごと

通勤に 白き帽子かぶりゆく

      やっとかぶれる父と同じに

                           2004 秋季号

実のならぬ 柿の木の下草群れて

      一鉢残る春蘭の葉

下車駅で ハンバーグ食べし二十代

           贅沢だったあのケチャップが

                           2004 冬季号

蚊と蝿と 咳き込む声が聞こえてる

            とても不思議な都心の冬よ

                           2005 春季号




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