2話

「あ、あっちゃん、それに清原さんもこんにちは」

うわさをしていたら本人がいた。俺の肩くらいの身長で、髪がさらさらしていてきれいな少年が貴之くんである。
物静かそうな外見どおり、おとなしい性格をしている。
彼は窓際で読書をしているのが似合いそうだ・・・と最初は勝手に決め付けていたが、実際にそうしていることが多い。
色々動きまわる神崎とは対照的だと言える。

「元気だったか〜貴之!おにーちゃんは心配だったぞ」

実際は従兄なのだが、彼は貴之くんの前では自分のことを『おにーちゃん』と呼ぶ。
兄弟のように近い間柄・・・ということもあるが、それ以上に従兄だと他人っぽくて嫌だそうで、
神崎も兄弟ではなく従兄弟という何とも言えない関係を結構気にしている。
なお、この場には貴之くんだけではなく、クラスメートと思しき少年も側にいたが、神崎の視界には入らなかったようだ。

「心配だったって・・・さっきも会ったばかりじゃないか・・・」

どうやらすぐ前にも会っていたらしい。

「だから何だ?俺はずっとお前の顔を見ていないと心配で夜も眠れない・・・いっそのこと、添い寝を・・・」

突然自分の世界に入ってしまった神崎。
このイベントはいつものことであるが、隣にいた少年はそれを見たのは初めてらしく、呆気にとられている。
それは当然の話かもしれない。神崎は貴之くんのこととなるとねじがアホみたいに外れるが、
基本的には責任感を持ち合わせている人間なので、いつもはそれなりにまじめな生徒会長をやっている。
だから、中身はともかく、生徒会長としての神崎を慕うものは多い。
そんでもって、神崎自身は自分の立場をわきまえており、普段そこまで頭がイカレるわけではないので、彼の暴走を知らない人間であれば、ギョッとしてもおかしくはない。

「あぁ・・・このバカのことは気にしないでくれ」

そんな俺の言葉に彼は一層仰天した。『生徒のあこがれの存在』をバカ呼ばわりするのは、俺くらいなものだろう。

「こいつ、いつもそうだから、いちいち気になんかしていたら胃痛を起こすだけだ。
あえて言うならただの兄馬鹿のようなものだから、放っておけばそのうち帰ってくる。それより、君は?」

ま、どこをどう見ても『兄』としての気持ちではないが、あえてこの場で言う必要はないだろう。

「あ、はじめまして。神崎先輩と清原先輩ですね?俺森川っていいます。貴之くんとは同じクラスで、友達です」

慌てて立ちあがってあいさつした。

「森川にはいつも何かと世話になってるんだ・・・。だからあっちゃんたちに紹介したくて」

俺はただ神崎にくっついて行っただけだから知らなかったが、彼の話からすると、今回は神崎が押し掛けたのではなく、貴之くんのほうが呼んだみたいだ。
つまり、神崎自身に用があるというよりは、俺たちに森川とかいう少年のことを紹介するのが目的だったわけで、それは神崎にとってものすごく衝撃的だったようだ。
あっちの世界から帰ってきて、引きつった笑いを浮かべた。

「あ・・・あぁ、貴之がいつも世話になってる。これからも仲良くしてやってくれ」

紳士的な振る舞いをしているが、顔には堂々と『お前なんてお呼びじゃないんだよ』と書いてある。
まったく正直なもので、嫉妬丸出しなのである。
貴之くんにつく虫は善悪関わらず、誰だって許さない・・・この態度を神崎は公然と取っている。
考えてみれば神崎も悪い虫に入るような気もするが、それを言ったら彼は再起不能になるので俺は言わないことにしている。
生徒会長をキレさせたくないためか、基本的に貴之くんと必要以上に親しくする人はいない。しかし、森川は違ったようだ。
正面から衝突をするつもりはないようだが、二人の話し方や表情を見ると、ただの友達ではないように感じる。
とはいえ、従弟の友達という微妙な距離なので、俺も神崎も彼とは関わることはないと思っていた。

しかし、この出会いが将来に大きく影響することになるのだが、その時は俺も神崎もそれに気付くわけがなかったのだ。




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