4話

神崎がいつものように桐生の家に行くと、貴之と・・・少年―確か森川といったか―がいる。
なんか最近見かけるようになった余計な存在ではあるが、貴之の手前冷たくするわけにもいかない。

「あ、いらっしゃい」

「お邪魔してます」

神崎の家ではないのだから、そういう必要はないのだが、律儀な森川はそう挨拶した。
彼も彼で神崎と敵対するのは得策ではないと判断したか。
どうやら彼は他の『害虫』とは違う・・・これはこれで厄介だ。
今までは色々な手を売って駆除することができたが、さすがに今回は骨が折れるかもしれない。

「随分仲がいいんだな」

少し拗ねるようにして神崎は言う。
貴之が他人を家に連れたのは初めて見た。すると、貴之ははにかんだ。
『可愛い』と思うのと同時に、そういう顔をさせたのが神崎でなく、その少年であることを本能的に察知し、胸が痛む。

「えっと・・・その・・・僕達、付き合ってるんだ」

その表情から出たのは爆弾発言。

「ふむ」

重大発表の割にはずいぶんと間の抜けた相槌だったが、想像したくなかった言葉に神崎の理解が追い付かず、そのような言葉しか発することができなかった。
一体貴之は何を言いたいのだろう。

「あっちゃん・・・聞いてる?僕と森川は、その、恋人として・・・」

どうやら空耳でも夢でもなく、紛れもない現実であるようだ。
若干頬を染められ、嫌でも神崎は認識せざるを得なかった。
それなりにチェックはしていたはずだが、自分の知らない間にいつの間に・・・。
しかも、自分ではなくて後から来たどこの馬の骨だか分からない奴にとられたのだ。



なお且つ男。



何で森川なんだ。
女の子であればまだいい。神崎も反対するつもりはない・・・いや、できるはずがないが、諦めもつく。
でも、同じ男であるなら、ずっとそばにいた俺ではダメなのか・・・どれだけ怒りたかったことか。反対でもしてやろうかと思った。
しかし、必死に耐えた。貴之が選んだ奴だ。きっといい奴に違いない。
だから、必死に耐えた。ここで変に反対すれば貴之は神崎を嫌いになるだろう・・・そっちの方がはるかに嫌だったから、とにかく、耐えた。
すると、神崎の心情を理解していないのか、貴之は言った。

「あっちゃんさ、今までありがとね。でも、もういいよ。森川のこともなんか悪く思ってるみたいだし」

「別に今回は邪魔してないぞ」

その言葉は真実だった。普段だったらどうにかして貴之から引き剥がすが、貴之自身がなついている以上は神崎にはどうすることもできなかった。
神崎も貴之がまさか男と付き合うことになるとは思っていなかったので、『同じクラスのお友達』なら仕方がないと思っていたのだが、まさかそれが仇になろうとは。

「でも、あっちゃんが森川を見る目がキツいのは事実だよね?」

と反論され、神崎は黙り込んだ。
今までずっとそばにいたのに、恋人が出来たってだけで用済みなのか・・・ここで貴之ラブな神崎の中で何かが切れた。

「そうか・・・悪かったな!」

「悪かったって・・・何怒ってるの?」

「そんなに嫌がるなら、もう来ないよ。勝手にいちゃついてろ!」

そう言って勢いよくドアを閉めて帰ってしまった。





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「神崎さん、相当怒っていたようだけど、いいのか?」

おろおろとしながら森川が言う。
森川自身は神崎のことは嫌っていない。だから、二人の関係をこじらせたのが自分にあると思って責任を感じているのだ。
しかし、全然気にしないように貴之が言う。

「どうせ2、3日したらまた来るよ」

貴之自身も、いつものはずみで言ったのだが・・・その言葉が神崎を再起不能にしたことは知る由もない。




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