5話

「はは・・・自分じゃ気付かないものなんだな。
俺は愛の押し売りをしていたようだ」

全てを白状した後、寂しそうに神崎がつぶやいた。
失恋だけでなく、貴之くんに用済み扱いされたのが相当堪えたのだろう。
いつもの神崎とは思えない。いや・・・いつもと言うのも変か。これも神崎なのだ。
普段見せない神崎・・・俺は胸が締め付けられたのと同時に、貴之くんに殺意に似たものさえ感じた。
勿論、好きなら何をしていいと言うつもりはないし、もらった想いには答えるべきだともいわない。
あくまでもそれは神崎が勝手にしたことで、神崎にもやりすぎの面はあったかもしれない。
当然、貴之くんだって伊達や酔狂で森川と付き合っているのではないのだろう。彼だってちゃんと理由あって森川を選んだはずだ。
だけど、俺は神崎が貴之くんのことを真剣に愛し、人知れず苦しんできたことを知っている。
だからこそ、大事な親友を傷つけるなんて許せるはずがない。

「押し売りをしていたかどうかは・・・まぁ、ゴメン、全く否定はできないんだが・・・
辛いとだろうとは思うけど、もう貴之くんのところには行くな。早く子離れをしろ。
もう貴之くんはお前のものじゃない。お前の兄としての役割は終わったんだ」

もちろん、神崎の気持ちが『兄』で収まらないことくらいは知っている。だけど、あえてそう言ってやる。

「それに・・・あの子のことで傷つくお前は見ていたくない」

色々言ってやりたいことはあったけれど、それが俺の本音だったのだ・・・。





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それから数日、意外なことに神崎は表面上は復活した。
まだまだ多少の無理は見られるが、少しは吹っ切れた部分もあるみたいで、俺は嬉しかった。
やっぱり神崎は元気なほうがいい。
しかし、その一方で貴之くんのほうが元気がなくなっていく気がした。
だからといって声をかけるつもりはなかったが、むこうのほうが俺を見つけてきた。

「あっちゃん、最近来ないけど、元気ですか?」

『はぁ?』口を開いた俺でもびっくりするような悪意たっぷりの声が出た。
でも、俺はその事情を知っているので仕方のないことだろう。
貴之くんの身が竦んだような気がするが、俺の知ったことではない。
自分から来るなといっておいて、何で今更そんなことをいうのか。

「知るか。来るなといったのはお前だろ?」

親友の片想いの相手ではあるが、『神崎を傷つけた』という俺を腹立たせるには充分すぎる理由があるため、自然と口調も厳しくなる。
更に、適当に流しておけばいいんだろうが、年下相手にムキになっている自分もいやで、俺はとっとと会話を切り上げたかったのだ。
しかし、困ったことに彼は食い下がってきた。

「でも・・・本当に来ないとは思わなかったから・・・。いつもは2、3日すると来るのに・・・」

そうだな。確かに普段の神崎であれば、禁止令など全く気にしない。
だけど、今回は自分の想いも絡んでいるのだ。
あえて行かないようにして、自分自身の心を整理させている部分もあるのだろう。

「何言ってるんだか。神崎もそれほど堪えたんだろうよ・・・。
忘れがちだけど、あいつだって普通の人間だ。喜びもすれば、傷つきもする・・・。
お前くらいはわかってやれると思ったんだが・・・」

さすがに、神崎の気持ちを伝えることはできなかったが。
大抵の人々は、神崎を特別扱いする。俺もそのうちの一人だが、俺のは個人的な意味での特別なのであり、一般的評価では普通の人間だと思っている。
ただ容姿と頭がいいだけであり、人をいじめるのが大好きなだけである。
しかし、他の奴らはどうも変な意味で特別扱いしているようなのだ。
彼自身の魅力ゆえ仕方がないことは分かっているが、遠くにおいて崇拝している節があり、普通の人として接してはいないようなのだ。
神崎本人は気にしていないようなのだが、俺は見ていて切なくなってくる。
貴之くんは少なくとも俺より神崎と一緒にいるのが長いはずだから、わかってやれると思っていた。

だけど、だめだったのか・・・?

彼を見てみると、少しは反省しているようで、うなだれていた。そのため、俺の毒気も抜けてしまう。

「じゃぁ、僕はもうあっちゃんに笑いかけてもらえないのかな・・・」

いつもの『過保護にされてつい反発してしまう』ノリで言ってしまったんだろう・・・本気で凹んでいる少年を前にして、鬼になれるはずがない。

「あー・・・あいつは案外単純だからな。
ちょっと腕にしがみついて、ちょっと上目遣いで『僕を捨てないで』とでも泣き付けばすぐ機嫌がよくなるさ。
ただ、二度とあんなことはいうな。
もし同じことを言ったら・・・俺が許さないから」

彼も本気で来て欲しくないと思っているようだから、許してやることにした。だから、仲直りして欲しいものである。




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