6話

そこには幸せ絶頂の神崎がいた。

「ははは・・・やっと禁止令が解けたよ」

どうやら仲直りしたみたいだ。

「お前・・・行かないんじゃなかったのか?」

数日前貴之くんから家に来るなと言われ、ついこの間までは地獄を見たという顔をしていたのに、
今のいかにもルンルン♪とスキップでもしでかしそうな・・・この感情の落差は何だ?
確かに神崎のつらそうな顔は見たくない。
この状況は喜ぶべきことであるのだが、はしゃぎすぎてもそれはそれで呆れてしまう。

(ん・・・?)

今、何だかムカついた。
二人の仲直りは喜ばしいことであるはずなのに、俺も何だかんだでそれを望んでいたはずなのに、何故俺は・・・。

「解けたのだから、行かないわけがないだろう」

そう言って俺に抱きついてきたので、そんなモヤモヤした気持ちも消えた。
俺はあえてもがかない事にしている。
実をいうと、神崎に抱きつかれるのは嫌でない。
彼に抱きしめられると、どうもああいう意味で特別扱いされてるような気がして・・・なんていっている当たり、俺は末期なのだろうか。
余談だけど、彼は俺より若干上背があり、抱きつき方によっては、俺がすっぽり収まることもあったりする。

神崎自身は俺なんかより貴之くんのほうが圧倒的に優先度が高く、こうやって抱きつかれるのも久々だった。
実際は『抱きついてくるのは、自分のことを対象として意識していないから』ということで、彼なりのスキンシップでしかないことも分っている。
それでも久々ということでしばらくその感触を楽しんでいたんだけど、我に返ったのか、神崎は慌てて俺から離れやがった。

「悪い悪い。ついいつもの癖で。俺なんかに抱きつかれても嫌だろう」

『いつも』というほどやっていないだろうが。

「嫌だって言って欲しいのか?」

本当はもう少しぎゅーっとして欲しかったんだが、突然離れてしまったため、俺は自然と意地の悪い口調となる。
なんで我に返るのが早いんだ。もう少しボケてたっていいじゃないか。

「い・・・いや、その、うん・・・」

神崎は口ごもる。俺はそれが面白くて、ついいじめたくなってしまう・・・神崎のことを悪く言えたものではないな。

「・・・ひょっとしたら俺がじゃなくて、お前のほうがいやなんじゃないのか?
ま、俺は貴之くんみたく可愛いわけではないしな。
お前だって俺みたいな男抱きしめる趣味はないだろう?」

ちょっとすねた口調で言ってみると、神崎の顔から冷や汗が浮かんだ。
世界広しといえども、この神崎を虐げることが出来るのは俺くらいのものだろう。
そして、俺以外の人間が神崎を弄るのは許されるはずがない・・・って、趣味の悪さに関しては神崎のことを言えた義理ではない。
いや、神崎自身の趣味はそれなりにいいとは思うが、叶わぬ恋に身を焦がすのは・・・難しいところだ。

「い・・・嫌なわけないだろう。ただ、一応男同士だからな・・・ま、俺はバイだけど、お前は違うだろ?嬉しくないじゃないかと・・・」
神崎の完全降伏である。したがって、俺もこの辺で許してやることにした。

「そうだな・・・俺はお前と違って男が好きであるつもりはないけど、不思議と抱きしめられるのは別に嫌じゃない」

本当に不思議なのだが、神崎以外に抱きしめられたら・・・と思うと、ぞっとする。

「だけど、好きな奴がいるのに俺を抱きしめようとするのは感心しないな」

じゃぁ、好きな奴がいなければいいのか?と言ってて疑問に思ったのはヒミツの話だ。

「ま、付き合ってるわけじゃないから、問題ないだろ。それとも、こうすればいいのか?」

そして神崎は俺の唇にキスをする・・・。
さすがに今までそんなスキンシップをしたことはなく、これにはさすがの俺も固まってしまった。



「・・・!!」



「ははは、これで俺がお前に抱きついても些細な問題しかならないな。じゃ、俺はあいつに会ってくるよ」

上手くリアクションできなかった俺を置き、笑いながら神崎は去っていく。
しばらくして俺は復活したが・・・心臓の動機が止まらない。
おかしい。今までこんなことはなかったのに・・・。
俺は彼のぬくもりが残る唇に触れる。どうしてか熱い。
たかが遊び半分のはずなのに、あいつも俺にその気はないはずなのに、それが特別なような気がしてならない。
ひょっとして、これは恋なのか?俺は神崎のことを・・・とは思ってみたけど、もしそれが恋だったら不毛な片想いである・・・そっと俺はため息をつく。
彼の人生そのものといっても過言でもない存在の貴之くんに勝てるはずなどない。
ま、どうでもいいか、これも青春時代のいい思い出だ・・・と思うことにしようか。そう思わないと、やってられない。

なお、俺に芽生えたのかどうか分からない感情は、本来であればここから色々動いていくはずなのだが・・・
成長する前にいろいろと事情があって、それどころではなくなってしまうのだが、そんなことは預言者じゃない俺が知っているはずもない。




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