8話

命の灯が消えかかるということで、貴之くんは俺に神崎のことを託した。
ただ、彼の言葉に込められた気持ちは、単に『従兄のことをお願いする少年』というようには思えなかった。



「神崎が好きなんだな?」



そこから導き出された答えに、素直に頷く。
振り返ってみると、心当たりはある。
そういえば、貴之くんは神崎に対し盲目と言ってもいいほどの信頼を抱いていた。
神崎が彼のもとから去ろうとしたときは、原因が貴之くんにあるはずなのに、いつになく辛そうだった。
そして、どんな憎まれ口を叩いていても最終的に神崎が側にいることを許していた―実際には貴之くんの方が神崎の側にいたがっているようにも見えていた―が、
神崎への愛情が原因であれば、全て納得できることだ。
しかし、彼の話によると想いは伝えていないようである。

「好きなら何故黙ってる?何で好きだと言わないんだ?あいつなら喜んで付き合うと思うけどな」

もしそれが本当なら、それほど哀しいことはない。
神崎も貴之くんを愛しており、両想いなのだから。

「言える訳ないでしょう。
あっちゃんが僕に好意を持っているとしたら、それは病気の弟に対する好意なんです。
仮に他の兄弟が同じ状況だったら、きっとその人に同じ気持ちを抱くんです。
あの人の優しさってそういうやつなんです・・・」



「お前、神崎のこと、そんな風に・・・」



彼は致命的な勘違いをしている。
神崎が貴之くんのことをそんな軽い気持ちでは想っていない。
確かに、病気の家族に対する優しさもあるだろうが、それだけであそこまで執着するだろうか?
それは、相手が他ならぬ貴之くんだからだ。
『負担に思われたくない』と口止めされていたが、さすがに誤解を解いてやりたかった。
もっと真剣に・・・口を開こうとする前に、彼は続ける。

「それに、もし僕に対してそういう感情を抱いてくれていたとしても、僕じゃあの人の一番になれないんですよ。
一番になるには人生短すぎるんです。
本当は誰にもあっちゃんを渡したくない!
どんな形でも僕だけを見て欲しいんです。
僕だけのあっちゃんでいてほしい!
ホントはいつでもどこでもあの人に側にいてほしい!

でも、現実は違う。

いつもあっちゃんは色んな人に囲まれて、清原さんはずっとあの人のそばにいることができて、すごく羨ましいんです。
僕なんかあっちゃんに迷惑しかかけてないのに、清原さんはあの人にとってなくてはならない存在なんです。
清原さんには僕がどれだけ貴方のことを羨んでるのかわからないでしょうね・・・」




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