11話

貴之くんが亡くなってから2,3日はあわただしく過ぎていった。
と、いうのも、貴之くんのご両親は最愛の息子を失ったショックゆえに抜け殻のようになってしまい、彼とつながりのあるものの中で一番有能な神崎と、
その親友だからということだけで(つまり、悪い言い方をすると巻き込まれる形で)身内ではない俺が葬式を仕切ることになってしまった。
基本的なことは業者が仕切ってくれるのだが、弔問者の対応 に関しては俺達がするしかなかったのだ・・・
貴之くんにしてみれば、大好きな人に送ってもらえて幸せなのかもしれないが、対応に追われていた俺たちとしては悲しむ暇もなかったのが現状で、それはとてもさびしい別れだった。
そして、粗方の事が済み、桐生の家から人がいなくなった後、神崎は部屋の中で独り佇んでいた。
彼の周りだけ時間と空間が切り離されている気がしたのは、決して俺の気のせいではないだろう。

「おまえは小さい頃から『あっちゃん』といって俺の後ろにくっついてきたな・・・。
本当はな、最初の頃は鬱陶しかったんだ。
年が近いからってだけで何かある度に呼び出され、俺の自由を奪ったお前がな・・・・」

俺に気付いているのかいないのかは判らないが、淡々とした口調で今は亡き想い人に語りかけていた。
それは昔を懐かしんでいるようだったけど、一方で『鬱陶しかった』と彼が貴之くんのことをそう思っていたことはこの俺でも初めて知った。
いつも貴之くんと一緒にいると楽しそうだったから。
神崎は今まで彼のために生きているといっても過言ではなかったから。

でも、ふと俺は思い出した。
あの時の貴之くんの言葉からすると、あながちそれも嘘ではなかったのかもしれない。
そして、そんな神崎の気持ちを貴之くんは敏感に感じとっていて、負い目があの子を一歩引かせることになったんじゃないだろうか?

「だけど、あの日、お前が俺の目の前で倒れたとき、
うなされながらも何度も俺の名前を呼んで俺を握り締めた手を離さなかったとき、
俺はずっとお前を守ってやるって決めたんだ。
そしたら、知らないうちにお前のことを好きになっていたんだ。
貴之、知ってたか?
お前が森川のことを楽しそうに、照れくさそうに話すときに、俺がどれだけ悔しかったか、哀しかったか・・・。
お前の一番になれないって知って、どれだけ泣きたかったか・・・」

神崎の内に隠されていた、悲痛な思いだった。

「でも、お前は俺に想いを告げる機会をくれずに逝ってしまったな・・・。寂しいか?今すぐお前の元へ行こうか?」

ここで彼は何も言えずにいた俺に気付いたようだが、振り返らずに言う。



「清原・・・ひとつ聞いてもいいか?もし俺が死ぬ事になったら、お前は俺を追いかけてくれるか?」




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