12話

もし自分が死んだら、追いかけてくれるかどうか・・・唐突に出たその質問だが、彼は彼なりにずっと考えていたのかもしれない。
そして、この場でこうやって俺に問うということは、自己完結しきれない感情があるのかもしれない。
だが、長い間彼とは親友をやっているものの、今回ばっかりはその発言の意図が分からなかった。
というか、この状況で考える余裕なんて俺にはない。
だから、思うままに言った。それしか神崎に対してできることはなかった。

「そうだな・・・もし、お前が死んだら、俺は絶対泣く。
でも・・・追いかけるはずがないだろう。
そうしたら、お前はきっと悲しむ。
お前の望みは俺が後を追うことじゃない。自分の分まで生きて欲しい、違うか?」

これが俺の気持ちだ。
彼が後を追ってほしいという性格ではないことが、俺が一番分かっている。
そんな彼が俺に答えを求めるということは・・・少しずつ彼の意図がはっきりとしてきたような気がした。

「その通りだよ。
だから俺はどんなに悲しくても、辛くても、生きていくしかないんだな・・・。
しここで俺が後を追っても、あいつは喜ばない・・・。
あいつは生きたくてもあれしか生きられなかったんだ・・・」

後ろから彼を見ているので、直接表情がわかるわけではない。
だけど、淡々と答えるように見えて、彼が震えているのを俺は見逃さない。

「お前・・・無理してないか?」

俺は神崎が今すぐにでも泣きたいのを無理矢理こらえているような気がした。
多分、何かしゃべっていないと自分自身が押しつぶされそうでやっていけないのだろう。
そして今すぐにでも心が折れそうな自分に『辛くても何とかして前に進まなければいけない』と言い聞かせたいのかもしれない。
後を追わないという俺の答えを予想して、俺の言葉で自身を縛り、彼は無理を重ねようとしているのだ。

「・・・無理しないとやっていけないさ。
ご両親は既にだめだし、森川も恋人を失ったショックでどうしようもなくなってる。
だから、俺がしっかりしないと・・・俺がしっかりしないと・・・」

昔からそうだった。神崎篤という男は、そうやって何でもかんでも独りで抱え込もうとするのだ。
周りから期待されている分、自分の振舞うべき行いを理解している。自分自身の気持ちは後回しにする。



でも・・・違うだろ?



「何でいつもお前だけ我慢するんだよ!
どんなときにもそうだ。悲しいくせに、辛いくせに何もなかったような顔をする!
だから皆お前が傷ついてないようにしか思わない。
誰もお前の気持ちをわかってやらない・・・だから、みんなお前の傷に気付かず、お前ばかり頼る。
お前の気持ちは分からないでもない。でも、最愛の人を亡くしたんだ。無理するんじゃねぇ、泣きやがれ・・・貴之くんのためにも!」

もう叫びに近かった。気丈にも泣くまいと耐えている神崎が痛々しくて、俺の方が泣きそうだった。

「ハンカチ貸してくれ・・・」

「そんなものはない。だから・・・俺で我慢しろ」

俺はそっと、だけど強く神崎を抱きしめてやった。
彼はしばらくこらえていたが、静かに涙を流す。そして・・・泣きじゃくる。
ずっと独りで耐えていたのだろう。腕に食い込む爪が痛々しい。
俺の腕の中にいたのは、完全無欠の生徒会長でも『貴之くんの優しい『おにーさん』』でもない。
ただの一人の恋する青年だった・・・。



「さようなら、貴之・・・」



彼が子供のように泣きじゃくったその日を、俺は生涯忘れることはないだろう。




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