7月21日:記入者 朝比奈和真

なぜだろう?どうも嫌な予感がする。
今朝の恭祐はどうもおかしかった。
あいつらしくなかった。いつも俺が遊びに行くのに、今日に限って恭祐がうちに来ると言い張った。
似たようなことは何度もあったけれど、気がつけばどちらかが折れる空気にはなっていた。
しかし、今日は何度俺が行くと言っても、頑として譲らなかった。

今までこういうことはなかった。

だから、胸騒ぎがした・・・。






待っても待っても恭祐は来なかった。適当に見えて、本人も何を考えているのかそう振舞っているけれど、あいつは時間に正確だ。
遅れるとこだったとかほざいているけれど、約束には一分たりとも遅れたことがない。
仮に遅れるとしても、その際は何かしら連絡する。
だから心配して電話したら、既に出たとのこと。途中で何かあったのだろうか。
それから二分程度は待っていたけれど、心配で心配でどうしようもなく、俺は震える心臓を押さえ、迎えに行った・・・。




途中には人だかりがあった。
よそ見している場合ではなかったけれども、人ごみを掻き分け、嫌な予感がしてそこに行くと・・・恭祐が血まみれになって倒れていた!
制止する手をどけて俺は恭祐を抱きかかえる。




「おい!大丈夫か!」



「ふふふ・・・賭けは・・・俺の負け・・・か・・・」





全身血まみれのあいつは、俺の中で冷たくなった・・・・・。





「恭祐――――!」





俺は自身を血で染めながら、彼を抱きしめ、泣いた・・・。





ふと、ポケットが震えた。メール着信が一件あった。





『裕也を・・・頼む』





俺の手から、彼に買わされた携帯が転げ落ちた。





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7月21日:記入者 樋口裕也

朝から兄の様子がおかしかった。
いつも朝から明るい彼が、どこか遠くを見つめていたし、ため息もついていた。
そして、ときどき切なそうな顔をしたかと思えば、何か決意したような顔もした。
そんな嫌な予感が確信に変わったのは、大好きな和真さんのところに出かけるときだった。






「裕也・・・兄ちゃん、和真のところに行ってくる・・・」





ただそれだけ。いつもとなんら変わらないはずだった。

だけど、胸騒ぎがした。

行かないでと言ってしまおうかと思った。
だけど、そんなことを言ったら恭祐兄に笑われる。
だから言える訳がなかった。




「行ってらっしゃい・・・」



「行ってらっしゃいのキスは?」



珍しくわがままを言ったので、ファーストキスだけど、してあげた。
何故かしなければいけない、そんな気がした。
彼はしばらく僕の意思を無視して、唇をむさぼった。
ただの遊びだとは思っていたけれど、それは想像以上に心地よく、そして、心に穴が開いた気分だった。
僕はぎゅっと彼にしがみついた。ずっとキスしてほしかった。






「ありがとう。ははは・・・俺は幸せ者だな・・・。じゃ、行ってくる。留守は・・・頼むよ・・・」





だけど、彼はゆっくりと離れた。その背中は小さく、僕にはそれが別れの言葉のように感じた。
何度も冗談だと言い聞かせた。それは僕の思い込みだ。だけど・・・それが現実のものとなった。



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